東京地方裁判所 平成11年(ワ)24318号 判決
原告 泰清商事株式会社
右代表者代表取締役 宮島勤
右訴訟代理人弁護士 木幡尊
同 小野薫
被告 柿沼千明
右訴訟代理人弁護士 秋山昭八
同 梁瀬洋
主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
二 被告は、原告に対し、平成一一年九月二二日から第一項の明渡済みまで一か月金五〇万円の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文と同じ。
第二事案の概要
一 本件は、東京都の公売手続により建物を買い受けた原告が、所有権に基づき、被告にその明渡し及び賃料相当損害金の支払いを求めたところ、被告が、公売手続により消滅した根抵当権に対抗できる賃借権を有するから、本件建物の占有権限があるとして、これを争った事案である。
なお、本件では建物の元所有者がどのような地方税を滞納して公売手続に至ったかは明らかでないが、地方税法六八条六項、七二条の六八の六項等の規定及び同法七三四条三項により、滞納処分については国税徴収法に規定する滞納処分の例によるとされており、国税徴収法一二四条一項では、民事執行法五九条一項と同趣旨の規定が存在する。ただ、同条二項の趣旨の規定は国税徴収法中に直接見当たらないところ、執行裁判所による競売手続と国ないし地方公共団体による公売手続とはその趣旨目的を同一にするので、公売手続においても、売却により消滅する最先順位の抵当権等に対抗できる賃借権は買受人の引受けとなるものと解すべきである(国税徴収法基本通達八九条関係9及び10参照)。したがって、本件においても不動産競売手続の場合と同様の争点により審理をした。
二 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
1 別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、もと株式会社サングレイト(以下「サングレイト」という。)の所有であり、平成二年一二月一二日売買を原因とする同日付けのサングレイトの所有権保存登記がされていたが、平成七年一月五日に千代田都税事務所による差押登記がされた。
本件建物に設定されていた第一順位の根抵当権は、平成二年一二月一二日設定を原因として、同日付けで設定登記手続がされた、サングレイトを債務者とする極度額八億二〇〇〇万円の根抵当権である(甲一)。
2 原告は、東京都による公売手続により、本件建物及びその敷地を買い受け、平成一一年九月二一日に代金を納付して、同月二九日に所有権移転登記手続をした(争いがない)。
3 被告は、現在、本件建物を占有している(争いがない)。
三 争点(被告の占有権限)に対する当事者の主張
1 被告の主張
本件建物には、平成二年一二月一二日付け売買によるサングレイトの所有権保存登記がされているが、実際の売買契約の日は、同月五日である。訴外高山富好こと高富好(以下「高山」という。)は、サングレイトが本件建物の所有権を取得した同日である平成二年一二月五日付けで、サングレイトとの間で本件建物の賃貸借契約を締結し、同日、敷金三〇〇万円及び保証金二〇〇万円を支払って本件建物の引渡しを受けた。右賃貸借契約は、平成五年一〇月一日に、期間三年、賃料月額五〇万円の約定で更新されていたところ、高山は、平成八年三月一日、賃貸人であるサングレイトの承諾を得て、内縁の妻である被告に賃借権を譲渡し、被告が新たにサングレイトとの間で賃貸借契約を締結するに至った。
したがって、被告の賃借権は、公売手続により消滅した本件建物の第一順位の根抵当権に対抗できる賃借権であるから、公売手続により所有権を取得した原告に対し、その占有権限を対抗できる。
2 原告の反論
被告の主張する平成二年一二月五日付けの本件建物の賃貸借契約は、本件建物の保存登記手続前の日付であること、本件建物の売買価格からすれば、約二〇万円の管理費込みであるにもかかわらず本件建物の賃料が月額五〇万円というのは不自然であること等に鑑み、原告に対抗できる占有権限を仮装すべく日付を遡らせた内容虚偽のものである。
第三争点に対する判断
一 被告の占有権限について
1 被告は、その占有権限を根拠付ける書証として、平成二年一二月五日付けの本件建物についての高山とサングレイトとの間の賃貸借契約書(乙三)、同日付けのサングレイトの高山宛ての敷金三〇〇万円の預り証及び保証金二〇〇万円の預り証(乙二の1、2)、平成五年一〇月一日付けの高山とサングレイトとの間の賃貸借契約書に平成八年三月一日付けサングレイトの被告に対する賃借人の地位の承継についての承諾書を添付したもの(乙五)を提出する。
確かに、被告の主張する貸借権が、本件建物の第一順位の根抵当権設定日である平成二年一二月一二日よりも先に発生し、かつ、対抗力を具備していれば、右根抵当権に優先する賃借権として、原告がこれを引き受けることになりそうである。しかし、証拠(甲五、六、七、九、乙一、三、五、証人高山)及び弁論の全趣旨によれば、<1>本件建物の売主東高ハウス株式会社(以下「東高ハウス」という。)と買主サングレイトとの間の売買契約の日付は、契約書上平成二年一二月五日と記載されているが、東高ハウスが取引で使用していた預金口座からの平成二年一二月三日から同月三一日までの間の出金は、最も早い日付でも一二月一二日の四億八八四四万円であること、<2>右売買契約書上の本件建物の売買代金は九億四八四三万円と記載されているのに対し、その賃料が月額五〇万円と設定され、しかも右金額は高山の証言によれば賃貸人であるサングレイトが高山に代わり管理会社に対して月額約一八万円から約二二万円の管理費等(補修積立金を含む)を支払うことを折り込んでの設定額とされていること、<3>本件建物の管理費等は値上げされてきているのに対し、これを折り込んで設定したはずの賃料は平成二年から今日まで契約書上月額五〇万円のままであること、<4>全く同じ平成二年一二月五日に作成されたとされる前記東高ハウスとサングレイトとの間の売買契約書と、前記サングレイトと高山との間の賃貸借契約書とを比較すると、押捺されているサングレイトの住所地及び会社名の記名判並びに社判につきそれぞれ異なるスタイルのものが使用されていること、<5>東京都の公売手続に際して被告から提出され公売財産明細書に添付された賃貸借契約書は、平成八年三月一日付けのサングレイトと被告との間の契約書のみであったこと、<6>本件訴訟手続においても、被告は、当初、被告の占有権限の根拠として、高山とサングレイトとの間の平成五年一〇月一日付け賃貸借契約を主張したが、原告から本件建物の第一順位の根抵当権に劣後する旨を指摘された後、平成二年一二月五日付け賃貸借契約の主張をするに至っていること、<7>平成二年、平成五年、平成八年の三通の賃貸借契約書全てに、期間満了後も引き続き契約を更新することを賃貸人が承認することのほか、造作模様替えは賃借人の任意とする等、およそ通常の賃貸借契約では定めないような賃貸人に不利な特約条項が記載されていること、<8>平成二年一二月五日付けの賃貸借契約書における契約期間は平成五年一二月四日までと記載されているのに対し、次の契約書は期間満了前の平成五年一〇月一日付けで作成されていること、<9>この点に関して、高山は、本件建物に居住させていた登坂正明が平成五年七月ころトラブルを起こす等して管理会社から苦情が来た旨を証言しているが、賃貸借契約書の条項は前記特約条項を含め何ら変わっていないこと、<10>本件建物においては平成二年から今日に至るまでガスの使用がなされていないこと、<11>本件建物における電気の供給契約の名義人は、平成元年一〇月二四日から平成六年三月三〇日まで「ペアシティミューゼタカナワ四〇二」、同月三一日から同年六月二七日まで「KKサングレート」、同月二八日から同年一二月五日まで「ワタナベ」、平成八年二月一四日から平成一〇年一二月一三日まで「KKサングレート」、同月一四日から現在まで被告となっていること等の事実が認められ、これらの事実に鑑みれば、高山とサングレイトとの間で本件建物の賃貸借契約が締結されたとしても、本件建物の第一順位の根抵当権設定の日である平成二年一二月一二日よりも以前に、実際に賃貸借契約が締結されたとまでは認めるに足りないというべきである。
したがって、本件においては、被告の主張に沿う書証は存在するものの、既に認定した事実を総合して検討すると、被告の主張する賃借権が、本件建物の公売手続により消滅した第一順位の根抵当権に対抗できると認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
二 よって、被告に本件建物の占有権限があると認めるに足りないから、本件建物の明渡しを求める原告の請求は理由がある。また、被告が本件建物の賃料を月額五〇万円と主張していること、原告が本件建物を平成一一年九月二一日に代金八三八〇万円で買い受けていること(甲二、三の1、2)、その他本件に顕れた諸般の事情を総合すると、本件建物の賃料相当損害金は月額五〇万円を下らないと認められるから、原告が本件建物の所有者となった後の平成一一年九月二二日から本件建物の明渡済みまで月額五〇万円の割合による金員の支払いを求める原告の請求も理由がある。
以上より、原告の請求は全て理由がある。
(裁判官 釜井裕子)
物件目録
(一棟の建物の表示)
所在 港区高輪二丁目弐四参番地五
建物の番号 東高ペアシティミューゼ高輪
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付六階建
床面積 一階 参参八・八八平方メートル
二階 四四五・五四平方メートル
三階 四四五・五四平方メートル
四階 四四五・五四平方メートル
五階 参〇五・九八平方メートル
六階 壱八参・八参平方メートル
地下一階 四七参・五〇平方メートル
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 高輪二丁目弐四参番五の四〇弐
建物の番号 四〇弐
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造一階建
床面積 四階部分 壱五六・九四平方メートル