東京地方裁判所 平成11年(ワ)24858号 判決 2001年2月02日
原告
富士火災海上保険株式会社
ほか一名
原告(反訴被告)
熊谷輝雄
被告(反訴原告)
有限会社岩槻タクシー
主文
一 被告は原告富士火災海上保険株式会社に対し、八八万四〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告熊谷輝雄に対し、五万六〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年三月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 反訴被告は反訴原告に対して、二〇万八九四九円及びこれに対する平成一〇年三月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告ら及び反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用はこれを一〇分し、その八を被告の、その余を原告らの負担とする。
六 この判決は第一、二、三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴請求
1 被告は原告富士火災海上保険株式会社に対し、一一〇万五〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告熊谷輝雄に対し、七万円及びこれに対する平成一〇年三月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴請求
反訴被告は反訴原告に対して、一六〇万三五九六円及びこれに対する平成一〇年三月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、信号機による交通整理の行われていない交差点において、交差する道路を直進してきた自動車同士が、出合い頭に衝突した事故において、一方自動車の所有者が損害賠償請求を、その加入する保険会社が物損について保険金を支払ったとして損害賠償権を代位取得したとして求償請求した事案(本訴)と、これに対して、他方自動車の所有者(タクシー会社)が損害賠償請求をした事案(反訴)である。
なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。
二 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成一〇年三月二〇日午前八時二五分ころ
(二) 場所 埼玉県岩槻市府内二丁目一九番三号先交差点
(三) 事故車両
(1) 被告車 普通乗用自動車(大宮三三あ六五)
運転者 訴外木浦正(以下「訴外木浦」という。)
所有者 反訴原告・被告(以下「被告」という。)
(2) 原告車 普通乗用自動車(大宮七八ぬ二二六二)
運転者 原告・反訴原告熊谷輝雄(以下「原告熊谷」という。)
(四) 事故態様 被告車と原告車が本件事故現場において出合い頭に衝突したもの。
2 原告富士火災海上保険株式会社(以下「原告富士火災」という。)は、平成九年一二月一五日、原告熊谷との間で次のとおり自動車総合保険契約を締結した。
(一) 保険の目的 車種 普通乗用自動車
登録番号 大宮七八ぬ二二六二
(二) 保険金額 車両保険金 一二〇万円(免責金額七万円)
対人保険金 無制限
(三) 保険期間 平成九年一二月一五日から一年間
3 原告富士火災は、右保険契約(車両保険)に基づき、原告熊谷に対して平成一〇年六月一〇日に一一〇万五〇〇〇円を支払った。
三 当事者の損害についての主張
1 原告らの損害
原告車修理費 一一七万五〇〇〇円
2 被告の損害
(一) 被告車修理費 八四万〇三八〇円
(二) レッカー代金 二万八三五〇円
(三) 休車損害 七三万四八六六円
一日三万三四〇三円×二二日(修理期間)=七三万四八六六円
(四) 合計 一六〇万三五九六円
四 争点
示談の成否、本件事故の過失割合、両当事者の損害
第三裁判所の判断
一 示談の成否
被告は、本件においては反訴を提起しているが、当初、物損については原告熊谷との間で、両車の損害を互いに請求しないことで、示談によって解決したと主張していたので、この点について判断する。被告は、この証拠として、乙第一号証の示談書を提出するが、これは「示談内容」に記載されている内容からしても、人身損害についての示談であることは明白であり、他に、示談の成立を証明する証拠はなく、被告の示談の成立の主張は採用できない。
二 本件事故の過失割合
1 甲第八号証、第一一号証、乙第六号証によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場は、南北に走る中央線のある車道幅約五・四メートルの道路と、東西に走る中央線のない車道幅約三・八メートルの道路が交差する交差点である。中央線は五メートル程度の間隔を開けて五メートル程度のラインが引かれている。交差点においては、南から約五・五メートルの中央線が、交差点の開始する地点から交差点内のマンホールのところまで一・八メートル出ているが、中央線はそこで切れており、交差点北側には中央線はない。
(二) 本件事故は、南北に走る中央線のある道路を、原告車が本件交差点に向かって南から北へ走行してきたところへ、被告車が本件交差点に向かって東西に走る中央線のない道路を西から東へ走行してきて、原告車の左前方角と、被告車の右前方角が衝突した事故である。
(三) 両車の速度については、衝突後の状況を撮影した乙第六号証の写真によれば、双方同程度の速度で進行してきたと認められ、特に被告車のみが減速をしたとは認められない。
2 原告は、原告車が走行してきた道路は優先道路(道路交通法三六条二項)であると主張し、被告は優先道路とは解し得ないと主張している。1の(一)のとおり、中央線は交差点南側にしかなく、交差点内の中まで連続して設けられていると評価できず、優先道路と解することはできないというべきである。もっとも、本件交差点においては、南北に走る道路に中央線が存在することは、東西に走る道路を走行してきた車両において交差点入口において視認できると認められるのであり、東西の道路には中央線がないのであるから、南北に走る道路が広路であることが明確に認識できるというべきである。
3 以上によれば、原告車を運転していた原告熊谷と被告車を運転していた訴外木浦の過失割合は、原告熊谷対訴外木浦で二対八と解すべきである。
三 当事者の損害
1 原告らの損害
原告車修理費 一一七万五〇〇〇円
甲第三号証により認める。
2 被告の損害
(一) 被告車修理費 八四万〇三八〇円
乙第二号証により認める。
(二) レッカー代金 二万八三五〇円
乙第三号証により認める。
(三) 休車損害 一七万六〇〇〇円
休車損害については、原告主張の一日当たり八〇〇〇円を超える休車損を認めるに足る証拠はない。
一日八〇〇〇円×二二日=一七万六〇〇〇円
(四) 合計 一〇四万四七三〇円
四 右損害について過失割合に応じて、原告らが被告に請求できるのは、一一七万五〇〇〇円の八割である九四万円であり、被告が原告熊谷に請求できるのは、一〇四万四七三〇円の二割である二〇万八九四九円となる。
第四結語
よって原告富士火災の請求は八八万四〇〇〇円及びこれに対する保険金支払日の翌日である平成一〇年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、原告熊谷の請求は五万六〇〇〇円及びこれに対する本件事故日である平成一〇年三月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、被告の原告熊谷に対する請求は二〇万八九四九円及びこれに対する本件事故日である平成一〇年三月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるのでこれらを認容し、その余の請求はいずれも理由がないのでこれらを棄却し、訴訟費用について民訴法六四条、六一条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 馬場純夫)