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東京地方裁判所 平成11年(ワ)25571号 判決

原告 柴崎和子

右訴訟代理人弁護士 森健市

被告 岡三証券株式会杜

右代表者代表取締役 加藤哲夫

被告 綿川昌明

右両名訴訟代理人弁護士 大江忠

同 大山政之

主文

一  原告の訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金八〇八万四八六九円及びこれに対する平成一二年三月三一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告岡三証券株式会社(以下「被告岡三証券」という。)は、有価証券の売買等の証券業を営む株式会社であり、被告綿川昌明(以下「被告綿川」という。)は、被告岡三証券の池袋支店に勤務し、原告の担当者として、その有価証券取引を取り扱っていた者である。

2(一)  被告綿川は、平成元年一二月五日から平成三年七月二日までの間、被告岡三証券池袋支店の担当者として、原告の名義と出捐で、別紙売買明細表(以下「別表」という。)記載の各有価証券取引を行ったが、別表中の銘柄「シード」に関する取引(同表第一行目)を除く取引(以下「本件全取引」という。)は、全て原告に無断でなされたものであった。

(二)  原告は、被告綿川が原告に無断で本件全取引を行ったことにより、以下のとおり、合計一一九六万三〇四〇円の損害を被った。

<1> 別表記載の処分済みの取引にかかる差引損金合計一六〇万六〇四〇円

<2> 別表記載の平成五年一二月現在の未処分有価証券にかかる評価損合計九六二万七〇〇〇円

<3> 本訴における弁護士費用七三万円

3  よって、原告は、被告らに対し、民法七〇九条、 七一五条の不法行為による損害賠償として、前項(二)記載の損害から日本火災海上株式会社のワラント債取引(別表第二一行目の取引。以下「前訴請求取引」という。)による損害三八七万八一七一円を控除した残金八〇八万四八六九円及びこれに対する訴状送達の日(平成一二年三月三〇日午前零時零分)の翌日である同月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の本案前の主張

1  原告は、被告綿川が同岡三証券の従業員として前訴請求取引をなすにあたり、原告に対してワラント債取引の危険性を説明しなかったとして、平成六年一二月九日、被告らに対して前訴請求取引によって生じた損害の賠償を求める訴えを提起したが、同請求には理由がないとして棄却されたため、同判決を不服として控訴し、同控訴審において、右説明義務違反に加えて、同取引が原告に無断で行われた旨を追加して主張したが、原告の控訴は棄却され、これに対する上告も棄却された(以下、右訴訟手続を「前訴」と総称する。)。

2  前訴では、前訴請求取引についての被告綿川の説明義務違反、原告による注文の有無のみならず、本件全取引について、これが無断売買であったか否かが事実上の争点となっていたものであり、この点についての証拠調べを遂げた上、被告綿川には説明義務違反は認められないと判断されるとともに、前訴請求取引が無断売買である旨の原告の主張も排斥された。

3  原告は、前訴において、本件全取引が無断売買であると主張しながら、このうちの前訴請求取引の結果生じた損害の賠償のみを求める一方、前訴の敗訴判決が確定するや、本訴を提起し、前訴と同一の事実関係を前提として、本件全取引から前訴請求取引を除いた取引(以下「本訴請求取引」という。)によって生じた損害の賠償を求めるものである。

このように、前訴と本訴は、その実質的な争点を全く共通にするものであって、本訴は、まさに紛争の蒸し返しというべきものであり、また、原告は、本訴と同一の訴訟代理人を選任して前訴を追行していたものであって、前訴において、前訴請求取引に加えて、本訴請求取引に関する損害賠償請求をなすにあたり、何らの支障もなかった。

4  以上によれば、原告が本訴を提起することは信義則に反するものであり、本件訴えはいずれも却下されるべきである。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

本訴請求取引は、前訴請求取引とその取引の日時、銘柄、損害額等の発生原因たる事実関係も、訴訟物も全く異にするものであり、本訴の提起は信義則に反するものではない。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)のうち、被告綿川が同岡三証券の原告担当者として、別表記載の各有価証券取引を行った事実、右取引のうち、銘柄「シード」に関する取引が原告の注文に基づいて行われた事実は認め、その余の事実は否認する。

3  同2(二)の事実は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  前記当事者間に争いのない事実、証拠(乙1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、被告岡三証券池袋支店の担当者である被告綿川に委託して、平成元年一二月五日にシード株の買付を行い、以降、平成三年七月二日までの間に、被告綿川は原告名義と出捐で本件全取引を行った。

2  平成六年一二月九日、原告は被告岡三証券及び被告綿川を被告として、ワラント商品が極めてリスクが高いにもかかわらず、その旨の説明をせず、かえって「絶対安全な商品であって、決して損はさせない。」等と虚偽あるいは断定的情報を提供するなどして、前訴請求取引についての違法な投資勧誘をしたとして、同取引による損害及び弁護士費用の支払を求めて前訴を提起した(当庁平成六年(ワ)第二四一三八号損害賠償請求事件)。

3  前訴の第一審における平成七年九月一三日の第七回口頭弁論期日において原告本人尋問が実施され、その中で、原告は、被告岡三証券との間の一連の有価証券取引について言及し、原告が注文したことを自認しているシード株以外の取引について、被告綿川は原告に対して説明をしなかった、原告は取引の内容も分からなかった、あるいは、その取引自体、被告綿川が原告に聞かずに勝手にやったものであるなどと主張し、右尋問中で、具体的な取引として、前訴請求取引、平成三年七月取引の北沢産業の株式、平成二年三月二六日取引のダイキン工業のワラント、平成二年六月二一日取引の三洋化成工業のワラント、ソニーの転換社債、東京建物の転換社債、サッポロビールのワラントなどの取引についての供述をしていた。

また、同期日において、被告綿川に対する被告本人尋問も実施され、その中で、同被告は、原告に対してワラント取引の危険性は告知しており、また、原告の各取引は、それぞれ、原告から具体的に委託を受けて成立させたものである旨主張し、具体的な取引として、前訴請求取引のほか、シードの株式、日本シーエムケー、理研ビニル、ダイキン工業、三洋化成、第一住宅金融、ソニー、東京建物、サッポロビール、帝都ゴルフ、北沢産業、THKの各有価証券取引についての供述をしていた。

4  平成七年一二月二七日東京地方裁判所は、右原告及び被告綿川に対する当事者本人尋問等の証拠調べを経た上で、平成元年一一月ころ、原告が知人の紹介で被告岡三証券池袋支店において開催された株式講演会に参加し、その際、被告綿川から取引の勧誘を受け、同年一二月五日にシード株一〇〇〇株の買付を行った事実、原告は同月二八日には右株式を売却して利益を得ていた事実、原告は同年一二月から平成二年一月にかけて株式投資を行い、同年三月二六日に買い付けたダイキン工業のワラント債を同年五月一八日には売却して利益を得ていた事実、同年五月一八日には右売却代金で三洋化成工業のワラント債を買い付けるなどした事実、同年三月二三日に第一住宅金融の株式を買い付けて、同年五月二三日に売却して損失を計上するとともに、同日、ソニー及び東京建物の転換社債を買い付け、同年六月二六日にはこれらを売却し、その代金で前訴請求取引を行った事実、平成三年四月一二日にはサッポロビールのワラント債を買い付けるなどしていた事実を認定した上で、被告綿川は前訴請求取引にあたり、原告に対してワラント取引の危険性等の情報を提供しなかったものとはいえないとして、原告の請求を棄却する判決を言渡した。

5  原告は、右判決を不服として控訴し(東京高等裁判所平成八年(ネ)第七三号)、同控訴審において、再度原告本人尋問が行われ、原告は、シード株、ダイナミックポート(別表第二行目)及び平成元年一二月の北沢産業の株式取引以降の取引は原告に無断で行われたものである旨の供述をしたほか、被告らの責任原因について、第一審における説明義務違反の主張に追加して、被告綿川による無断売買も主張した。

6  平成九年六月二三日、前訴控訴審は、前訴請求取引は被告綿川の勧誘を受けて原告が注文したものであり、原告本人尋問の結果は信用することができないとして、原告の控訴を棄却する旨の判決を言渡した。

7  原告は、右控訴審判決を不服として上告したが(平成九年(オ)第二二四〇号)、平成一〇年二月二四日、最高裁判所は右上告を棄却した。

8  平成一一年一一月一五日、原告は、前訴と同じく被告岡三証券と同綿川を被告とし、本件全取引から前訴請求取引を除く本訴請求取引が原告に無断で行われたものであるとして、その損害の賠償を求める本訴を提起した。

二  そこで右認定事実によれば、原告は、前訴において、前訴請求取引が原告に無断で行われたものであり、仮にそうでないとしても、同取引について、被告綿川には説明義務違反があるとして、同取引による損害の賠償を求めていたものであるが、その判断の前提として、前訴請求取引のみならず、本件取引全体が原告に無断で行われたものであるか否かが現実の争点となって、原告及び被告らの間で主張が交わされるとともに、その間の原告と被告綿川のやり取りや取引の報告方法等について、当事者尋問等の証拠調べが実施され、その上で終局的な判断が行われていたものと認められる。

そして、原告は、前訴における原告本人尋問において、本訴請求取引のうち、前訴で有効に注文していたことを自認していた平成元年一二月二八日の北沢産業の株式買付以降の取引が原告に無断でなされた旨の供述を現にしていたものであり、被告らの訴訟代理人も、この点について反対尋問を行うなどして、防御活動を行っていたものと認められる。

三  以上のとおり、本訴請求取引を含む本件全取引の有効性は、既に前訴において事実上の重要な争点となっていて、原告及び被告らはこの点を巡って主張立証を尽くしていたものであり、仮に、前訴の請求と本訴の請求とは訴訟物を異にするものであって、前訴判決の既判力が本訴の訴訟物に及ばないものであったとしても、前訴において原告が請求を拡張し、本件全取引について、これが無断売買であると主張してその損害の賠償を求めていれば、さらに特段の証拠調べ等を経ることなく、右取引全体について判断をなすことが可能であったと考えられる。

加えて、原告は、前訴において本訴請求取引が無断売買であることに基づく損害賠償を求めなかったのは、単に、これについては和解による解決を希望していたためであるなどと主張するが、かかる事情をもって、原告が前訴において本訴請求取引についての損害賠償請求をなし得なかったことを正当化するに足りるものということもできない。

そうすると、本訴請求は、まさに前訴において敗訴した原告による実質的に同一の紛争の蒸し返しというほかなく、仮に、前訴と本訴の訴訟物が異なるという点のみをもって、本訴の提起を許すとすれば、被告らは、原告の恣意のままに、その攻撃防御方法をほぼ同じくする訴訟を一度ならず提起され、その都度、被告の立場に立たされて、応訴の負担に晒される危険を負うことにもなりかねないのであり、他方において、本件事実関係を前提とした場合、原告に対し、前訴において、本件請求取引による損害も含めて一括してその賠償請求をすることを求めたとしても、原告にとって特段不利益となる点は認め難い。

四  そこで、当裁判所は、以上の諸点に鑑み、同一の紛争の蒸し返しというべき原告の本訴請求は信義則に反するものであって、不適法なものであると解する。

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の訴えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高宮健二)

別紙文書日録<1>~<4><省略>

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