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東京地方裁判所 平成11年(ワ)27849号 判決

原告 破産者株式会社協栄産業破産管財人 河合敏男

被告株式会社大三洋行

右代表者代表取締役 加藤芳武

右訴訟代理人弁護士 田中紘三

同 田中みどり

同 田中みちよ

被告 シマエンタープライズ株式会社

右代表者代表取締役 鮫島一広

右訴訟代理人支配人 小林平司

被告 日本管財こと石関克美

被告 中島孝幸

被告 エステートプランニングこと小林秀二

主文

一  原告と被告株式会社大三洋行を除く被告らとの間において、原告が被告株式会社大三洋行に対して金二五五万三〇〇〇円の電気工事代金債権を有することを確認する。

二  被告株式会社大三洋行は、原告に対し、金二五五万三〇〇〇円及びこれに対する平成一二年一月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告株式会社大三洋行に対する確認の訴えを却下する。

四  訴訟費用は、被告らの負担とする。

五  この判決は、主文第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告と被告らとの間において、原告が被告株式会社大三洋行に対して金二五五万三〇〇〇円の電気工事代金債権を有することを確認する。

二  主文第二項と同旨

第二事案の概要

一  本件は、株式会社協栄産業(以下「破産会社」という。)の破産管財人である原告が、主位的に破産会社とその余の被告らとの間の各集合債権譲渡契約に係る破産会社の被告株式会社大三洋行(以下「被告大三洋行」という。)に対する債権についての各債権譲渡通知等が無効であると主張し、予備的に右各集合債権譲渡契約又は右各債権譲渡通知が破産法七二条又は七四条による否認の対象になると主張して、被告らに対して、破産会社の被告大三洋行に対する電気工事代金債権の存在の確認を求めるとともに、被告大三洋行に対して、電気工事代金及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成一二年一月六日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

二  争いのない事実等

1  次の事実のうち、(一)及び(四)は、原告と被告大三洋行及び被告シマエンタープライズ株式会社(以下「被告シマ」という。)との間で争いがなく、原告と右被告らを除く被告ら(以下「不出頭被告ら」という。)との間では、証拠(甲八ないし一〇、証人矢野健治)及び弁論の全趣旨により認めることができ、その余の事実は、証拠(甲一ないし四、七ないし一〇、乙一ないし三、証人矢野健治、同宮子一路)及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(一) 破産会社は、平成一〇年四月一四日不渡手形を出して支払を停止し、同年六月一日当庁において破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任された。

(二) 被告シマは、平成一〇年一月二七日、破産会社に対し、二五〇万円を利息年四〇・〇〇四パーセント、弁済期内金三〇万円については同年二月一二日、内金一二〇万円については同年二月一七日、内金一〇〇万円については弁済期を定めず毎月末に利息の支払をする、破産会社について、支払停止、手形の不渡処分、仮差押え、差押え、競売の申立て、破産の申立て等の事由が生じたときは当然に期限の利益を喪失するとの約定で貸し付けた。

(三) 被告シマと破産会社とは、平成一〇年一月二七日、被告シマが破産会社に対して有する右(二)記載の貸付金債権等を担保するため、右(二)記載の支払停止等による期限の喪失を停止条件として破産会社が被告大三洋行ほかの第三債務者に対して有する売掛金債権(右同日以降に支払期日が到来し、又は右同日以降に発生する売掛金債権で停止条件が成就した時点及び債権譲渡通知書が被告大三洋行ほかの第三債務者に送達された時点で支払済みでない売掛金債権)全額を譲渡する旨の停止条件付債権譲渡契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(四) 破産会社は、右支払停止の当時、被告大三洋行に対して東京郵政局電気設備改修工事に係る二五五万三〇〇〇円の未払電気工事代金債権を有していた。

(五) 破産会社の代表取締役であった矢野弘臣は、平成一〇年四月一四日に自殺により死亡した。

(六) 被告大三洋行を除く被告ら(以下「被告譲受人ら」という。)は、右支払停止後である平成一〇年四月一五日から一七日にかけて、破産会社代表取締役矢野弘臣(以下「矢野」という。)名義で、破産会社が被告大三洋行に対して有する売掛金債権全額をそれぞれ被告譲受人らに譲渡した旨の記載のある債権譲渡通知書を発送し、被告シマが発送した債権譲渡通知書(以下「本件債権譲渡通知書」という。)は、同月一七日、被告大三洋行に到達した(本件債権譲渡通知書によりされ被告大三洋行に対する債権譲渡通知を以下「本件債権譲渡通知」という。)。また、不出頭被告らが発送した債権譲渡通知書は、同月一五日ないし一七日ころ、被告大三洋行に到達した。

2  不出頭被告らは、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

三  争点

1  本件債権譲渡通知の効力

(原告の主張)

矢野は、右債権譲渡の通知の日に先立つ同年四月一四日に自殺により死亡しており、本件債権譲渡通知は、あらかじめ徴求してあった矢野名義の内容白紙の債権譲渡通知書を冒用してされたものであるから、無効である。

(被告シマの主張)

破産会社は、本件契約に基づき、被告シマが債権譲渡通知をすることを承諾していたものであるから、本件債権譲渡通知は、有効である。

2  本件契約による債権譲渡又は本件債権譲渡通知を破産法七二条により否認することができるかどうか。

(原告の主張)

本件契約は、<1>破産会社と被告シマとの間において平成一〇年一月二七日以降に継続的に発生する金銭消費貸借等によって生ずる債権を原因とするものであり、<2>限度額が二五〇万円と定められ、<3>清算条項が付され、<4>第三債務者が被告大三洋行ほか六社と具体的に特定されており、契約締結時において集合債権として特定されているものである。

したがって、本件契約は、条件未成就の間は期待権であるにすぎない単なる停止条件付債権譲渡ではなく、被告シマと破産会社との間における金銭消費貸借等により発生する一切の債権を担保することを目的とする担保権設定契約であり、その担保の内容としては、破産会社が不渡処分を受けたときなどに、特定の第三者に対する特定の期間における債務者の譲渡対象債権からあらかじめ定めておいた特定額二五〇万円の範囲内において、優先的に取り立て、自己の債権について弁済に充当する優先弁済権を付与するものである。

右のような本件契約の内容に照らし、原告は、破産法七二条一号若しくは二号の準用又は同条四号により、本件契約による債権譲渡行為を否認する。

(被告シマ)

本件契約は、破産会社の営業の継続を図るための緊急の借入れに際し、その担保とするためにされたものであり、借入金額と担保物件の価格との間に合理的な均衡が保たれているから、一般債権者の利益を害するものではなく、破産法七二条による否認権の行使の対象とはならない。

3  本件債権譲渡通知を破産法七四条により否認することができるかどうか。

(原告の主張)

右の準用による否認が認められないとすれば、本件契約時に停止条件付債権譲渡契約を内容とする担保権が現実に設定されたものであるから、原告は、本件契約時から一五日経過後にされた被告シマの対抗要件具備行為である平成一〇年四月一六日付け債権譲渡通知を否認する。

(被告シマの主張)

右原告の主張は、争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前記争いのない事実等に証拠(甲一、乙一ないし五、証人矢野健治、同宮子一路)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 破産会社は、平成一〇年一月二七日、本件契約の締結に際し、被告シマに対し、会社の代表取締役矢野名義の記名押印のある内容白地の債権譲渡通知書を交付した。

右債権譲渡通知書は、本件契約の当時、破産会社の代表取締役であった矢野の意思に基づいて作成され、破産会社において、将来破産会社が期限の利益を喪失するなどして、本件契約における停止条件が成就し、債権譲渡の効力が生じた場合に、被告シマにおいて宛て先、目的債権の内容等を補充して第三債務者に宛てて発送することを許諾して交付されたものである。

(二) 破産会社は、平成一〇年四月一四日、不渡手形を出して支払を停止したので、被告シマは、右債権譲渡通知書の白地部分を補充し、破産会社が被告大三洋行に対して有する売掛金債権全額を譲渡した旨の債権譲渡通知書(本件債権譲渡通知書)を完成させて内容証明郵便で被告大三洋行に宛てて発送し、前記のとおり、本件債権譲渡通知書が同月一七日に被告大三洋行に到達した。

2  右に認定した事実によれば、本件債権譲渡通知書は、破産会社の代表取締役であった矢野の意思に基づいて作成されたものであり、本件契約における債権譲渡の効力が生じた後に矢野の許諾の趣旨に沿った補充がされ、第三債務者である被告大三洋行に対して発送されたものであるから、本件債権譲渡通知は、破産会社の意思に基づく債権譲渡通知として有効であると認めるのが相当である。もっとも、右発送当時、すでに矢野は死亡しており、破産会社の代表取締役の地位になかったものであるが、矢野は、代表取締役に在任当時、その意思に基づいて内容白地の債権譲渡通知書を作成し、右の許諾をしたものであるから、右の事実は、右の認定判断を左右するものではない。

二  争点2について

1  前記争いのない事実等によれば、本件契約は、平成一〇年一月二七日に締結されたものであるが、本件契約の目的債権の譲渡の効力については、前記のような停止条件が付され、破産会社の支払停止等による期限の利益の喪失という条件が成就したときに初めて生ずることとされているものである。

ところで、本件契約のような集合債権譲渡担保契約においては、債権譲渡の効力の発生時期について特約のない限り、その効力は、目的債権のうち、契約締結時において既発生のものについては契約締結時に、未発生ものについては当該債権の発生時に生じるものである。

本件においては、債権譲渡の効力の発生時期について、債務者の支払停止等による期限の利益の喪失という条件が成就した時に生ずる旨の特約があるが、前記争いのない事実等及び右一において認定した本件債権譲渡通知書の作成、交付、発送の経緯等に照らすと、破産会社及び被告シマが本件契約において右の特約を結んだのは、支払停止後に権利変動の対抗要件具備行為をした場合であっても、右対抗要件具備の日が権利変動の効力が生じた日から一五日以内であれば破産法七四条により対抗要件の否認を受けることを免れることができることに着目し、支払停止等の事実が生じた時に目的債権の譲渡の効力を生じさせ、その直後に対抗要件を具備することにより、一般の破産債権者に優先して債権の回収を図ることができるようにすることを目的としたものであることが明らかである。また、破産会社の支払停止等の事実が生じた時に目的債権の譲渡の効力を生じさせるという本件契約の内容に照らすと、破産会社及び被告シマは、本件契約締結の時点において、本件契約による債権譲渡の効力が生じたときには、本件契約に基づく債権譲渡が破産会社の一般債権者を害することとなることを知っていたものというべきである。

2  以上によると、本件契約は、支払停止の前に締結された契約であるものの、その趣旨を全体として考察すれば、その実質において、破産法七二条二号(故意否認)又は一号による否認(危機否認)の対象となる債権譲渡契約と何ら変わるところがないのであって、破産法の否認の制度を潜脱することを目的とする契約であるといわなければならない。

そうすると、本件契約は、破産法の否認の制度の趣旨に照らし、破産法七二条一号又は二号の準用してこれを否認することができるものと解するのが相当である。

三  不出頭被告らに対する請求について

1  不出頭被告らが被告大三洋行に対して前記各債権譲渡通知を発送し、これが到達したことは前記争いのない事実等(六)に記載のとおりである。

右各債権譲渡通知は、右一で認定判断したのと同様の理由により有効であると認められる。

2  前記争いのない事実等、右一において認定した事実、証拠(甲二ないし四)に弁論の全趣旨を総合すれば、破産会社と不出頭被告らとの間において、それぞれ、本件契約と同様の内容の集合債権譲渡契約が締結されたものと推認することができる。

そうすると、右各集合債権譲渡契約は、右二において判示したのと同様の理由により、破産法の否認の制度の趣旨に照らし、破産法七二条一号又は二号の準用してこれを否認することができるものと解するのが相当である。

第四結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告大三洋行を除く被告らに対する電気工事代金債権の存在確認請求及び被告大三洋行に対する右債権についての支払請求は理由があるから、認容する(なお、被告大三洋行は、原告が正当な代金受領権限を回復すれば、代金全額を原告に支払うことを約しているとして、被告大三洋行に対する訴えについては、訴えの利益がないと主張するが、本件訴訟において被告大三洋行が右債権について給付義務があることを争っていることは明らかであるから、被告大三洋行の右主張は、採用することができない。)。原告の被告大三洋行に対する右債権の存在確認を求める訴えは、原告が右債権について給付を求めている以上、確認の利益を欠き、不適法であるから、却下する。

(裁判官 柳田幸三)

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