大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)28113号 判決

原告 A

(送達場所)東京都練馬区光が丘二丁目四番一〇-七〇七号

被告 有限会社サンホーム

右代表者代表取締役 久保光夫

被告 久保光夫

右当事者間の損害賠償請求事件について、当裁判所は、平成一二年三月一七日に終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告有限会社サンホームは、原告に対し、金六万六九二〇円を支払え。

二  被告久保光夫は、原告に対し、金九二万九七六〇円を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告有限会社サンホーム(以下「被告会社」という。)の元従業員である原告が、被告会社から違法に解雇された、被告会社の代表取締役である被告久保光夫(以下「被告久保」という。)から性的嫌がらせを受けたとして、被告らに対し、損害の賠償を請求している事案である。

第三当事者の主張の骨子

一  原告

1  被告会社に対する請求

(一) 原告と被告会社は、平成一一年(以下も同じ。)一一月一八日、給料を一か月二五万円(毎月二五日締め末日払い)と定めて雇用契約を締結し、原告は、同月二二日から勤務を開始した。

(二) 被告会社は、一二月一日、原告を理由もなく違法に即時解雇した。

(三) よって、原告は、被告会社に対し、不法行為による損害賠償請求として、解雇日までの給料と同額の六万六九二〇円の支払を求める。

2  被告久保に対する請求

(一) 一一月二六日の不法行為

被告久保は、一一月二六日午後七時ころ、帰宅しようとした原告及びBにやたらビールを勧めて四〇分間もつきあわせ、「若い女性と飲むとおいしいね。」「今度お好み焼きを食べにいきましょう。」などと言った。これは違法なセクハラ行為である。

(二) 一二月一日の不法行為

一二月一日の昼間に原告が賃金の支払を求めたところ、被告久保は、同日午後一一時に原告宅を訪れ、原告が賃金の支払を求めた際の言い方が悪くてカチンときた、原告を解雇する旨言った。このような解雇は違法であるし、夜間女性宅を訪れることは違法なセクハラ行為である。

(三) 損害

原告は、被告久保の右各不法行為により精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料は九二万九七六〇円が相当である。

(四) よって、原告は、被告久保に対し、不法行為による損害賠償請求として、九二万九七六〇円の支払を求める。

二  被告ら

1  被告会社に対する請求について

(一) 一1(一)の事実、及び同(二)のうち、被告会社が一二月一日原告を即時解雇したことは認め、解雇が違法であることは争う。

(二) 原告は試用期間中であったものであるが、原告が給料日の一一月三〇日に欠勤し、一二月一日には被告久保が出かけていたために給料の支払ができずにいたところ、原告は、夕方五時ころ被告久保に電話をし、いきなり「皆に給料を支払って、私になぜ支払ってくれないのですか。」と一方的に言い、更に「なんで私だけ差別するのですか。」と言った。このような言葉を平気で言う人に会社にいてもらったら、会社が大変不利益になり、仲間ともうまくやっていけない。そこで原告を解雇することとしたものであり、違法な解雇ではない。

2  被告久保に対する請求について

(一) 一2(一)(一一月二六日の不法行為)のうち、被告久保が、一一月二六日午後七時ころ原告及びBにビールを勧めたこと、「若い女性と飲むとおいしいね。」「今度お好み焼きを食べにいきましょう。」と言ったことは認め、その余は否認する。これから仕事をしていく上で、お互いのコミュニケーションを図っていきたいと思ってしたことであり、セクハラ行為ではない。

(二) 同(二)(一二月一日の不法行為)のうち、一二月一日の昼間に原告が賃金の支払を求めたこと、被告久保が同日午後一一時に原告宅を訪れ、原告が賃金の支払を求めた際の言い方が悪くてカチンときた、原告を解雇する旨言ったことは認め、解雇が違法であること、セクハラ行為であることは争う。違法な解雇でないことは前記1(二)のとおりである。

第四当裁判所の判断

一  被告会社に対する請求について

1  前記第三の一1(一)の事実、及び同(二)のうち、被告会社が一二月一日原告を即時解雇した事実は当事者間に争いがなく、解雇が違法であるか否かが争点となっている。

2  争いのない事実、証拠(甲一の2、三、七、原告、被告久保)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、建築請負業、不動産の売買等を目的とし、リフォーム事業を主たる業務とする被告会社において営業を担当する予定で被告に採用された当初三か月間は試用期間であった。

(二) 原告は、一一月二二日から勤務を開始し、二五日までは事務所内で勤務し、二六日からチラシ配りを行うようになったが、給料日の三〇日は風邪をひいて欠勤した。

(三) 原告は、一二月一日に出勤したが、一一月二二日から締日である二五日までの三日間の給料が支払われなかった。なお、被告会社は従業員五名程度の会社であり、経理を担当していた従業員がまだ不慣れであったため、給料は代表取締役である被告久保が直接従業員に手渡していたところ、同被告は、一二月一日は外出していた。

(四) 原告は、同日午後五時ころ被告久保の出先に電話をし、「皆に給料を支払って、私になぜ支払ってくれないのですか。」と言った。これに対し、被告久保が「昨日あなたが休んだので支払わなかっただけです。来月まとめてでもいいですよ。」と答えたところ、原告は、更に強い口調で、「なんで私だけ差別するのですか。」と言った。

(五) 被告久保は、原告の発言を聞いて、このまま原告を雇用し続けても、営業職としてうまくやっていけず被告会社が不利益を被り、また、社内的にも他の者とうまくやっていけないと考え、一刻も早く原告に辞めてもらおうと考えた。

そこで、被告久保は、同日午後一一時ころ、原告の一二月一日までの給料として、七万円から源泉徴収所得税三〇八〇円を控除した後の六万六九二〇円を持参して原告宅を訪れ、これを原告に支払うとともに、原告を解雇する旨告げた。

3  一般に試用期間は、労働者を実際に職務に就かせ、この期間内に採用面接等では知ることのできなかった業務適格性等をより正確に判断し、本採用とするか否かを決定できるようにする目的で設けられるものであり、本件における試用期間がこれと異なる目的で設けられたものであるとは認められない。そして、この試用期間内における解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができないものであってはならないものの、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められるべきである。

これを本件についてみるに、原告が被告久保に支払日の経過した給料の支払を求めること自体は正当であるものの、前記2の状況下での原告の被告久保に対する発言にはやや適切さを欠くものがあり、特に原告が営業を担当する予定で被告会社に採用されたものであり、このような職種ではとりわけ対人的な折衝能力が求められること、被告会社のような少人数の会社では他の者との和が求められることからすると、被告久保が、原告の前記発言から、原告の営業職としての適格性や被告の従業員としての適性に疑問を感じ、原告の雇用を継続することが困難であると判断したことには、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認することができないではない。

4  よって、解雇が違法であるとはいえないから、原告の被告会社に対する請求は理由がない。

二  被告久保に対する請求について

1  一一月二六日の不法行為について

(一) 前記第三の一2(一)のうち、被告久保が、一一月二六日午後七時ころ原告及びBにビールを勧めた事実、及び「若い女性と飲むとおいしいね。」「今度お好み焼きを食べにいきましょう。」と言った事実は当事者間に争いがなく、その余の事実の存否及び被告久保の言動が違法なセクハラ行為に該当するか否かが争点となっている。

(二) 争いのない事実、証拠(甲八、原告、被告久保)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  従業員の一人の帰社が遅くなる予定であったことから、被告久保は、この従業員を待つこととし、原告にビールを買ってきてもらって、一一月二六日午後七時ころからビールを飲み始め、新たに採用した原告とB(女性従業員)とも懇親を図りたいと考えて、両名にもビールを勧めた。これに対し、Bは飲みたくないと言って断ったが、原告は誘いに応じて自らビールを取り出してきてコップに注いで飲んだ(被告久保が原告のコップにビールを注いで飲むよう求めたりしたことはない。)。

(2)  そして、原告と被告久保はビールを飲みながら、Bはビールを飲まずに雑談をし、その中で、被告久保は、「若い女性と飲むとおいしいね。」「今度お好み焼きを食べにいきましょう。」などと言った。

(3)  午後七時四〇分ころ、原告とBが帰ると言ったので、被告久保は、「もうちょっと飲んだら。」と言ったが、結局、原告とBは帰宅した。

(三) 職場におけるセクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることをいうものであるところ(男女雇用機会均等法二一条一項参照)、前記(二)の被告久保の言動は、その意図、勧誘の程度、発言内容等からみて、到底セクハラ行為といえるものではなく、不法行為を構成するとは認められない。

2  一二月一日の不法行為について

(一) 前記第三の一2(二)のうち、一二月一日の昼間に原告が賃金の支払を求めた事実、及び被告久保が同日午後一一時に原告宅を訪れ、原告が賃金の支払を求めた際の言い方が悪くてカチンときた、原告を解雇する旨言った事実は当事者間に争いがなく、解雇が違法であるか否か及び被告久保の行動が違法なセクハラ行為に該当するか否かが争点となっている。

(二) このうち、解雇に理由があることは前記一で判示したとおりであり、解雇の意思表示を深夜女性宅でしたことは、やや適切さに欠けるものの、解雇を違法とするほどのものであるとはいえない。

(三) また、セクハラの意味は前記1(三)で判示したとおりであるところ、前記(一)の争いのない事実中には被告久保の性的な言動は含まれていないのであって、違法なセクハラ行為があったと認めることはできない。

3  以上の次第であるから、原告の被告久保に対する請求は理由がない。

三  結語

よって、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯島健太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!