東京地方裁判所 平成11年(ワ)28204号 判決
原告 オリックス・クレジット株式会社
右代表者代表取締役 神田隆文
右訴訟代理人弁護士 木村裕
同 山宮慎一郎
同 小池和正
同 林彰久
同 稲田龍示
同 池袋恒明
被告 寺本寛
右訴訟代理人弁護士 米川長平
同 渕上玲子
同 加藤俊子
同 松江頼篤
同 津田和彦
同 松江仁美
同 塚田裕二
主文
一 被告は、原告に対し、金八七二万九一〇〇円及びこれに対する平成七年一二月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、割賦購入あっせんを業とする原告が、ゴルフ会員権クレジット契約に基づき、顧客である被告に対し、分割弁済金残額及び商事法定利率による遅延損害金の支払を請求したのに対し、被告は、原告との間で締結したクレジット契約によって取得したゴルフ会員権については、ゴルフ場が完成予定時期を大幅に過ぎているのに完成していないという事情があるから、クレジット契約に定められた支払停止事由が認められるとして争っている事案である。
一 争いのない事実等(証拠等により認定したものは、当該証拠番号等を末尾に掲記した。)
1 原告は、割賦購入あっせん業を目的とする会社である。
2 訴外株式会社真里谷(以下「真里谷」という。)は、千葉県君津市折木沢一九番地において「ゴルフ&カントリークラブグランマリヤ」(以下「本件ゴルフクラブ」といい、このゴルフクラブのゴルフ場を「本件ゴルフ場」という。)の建設を計画し、平成元年ころから、次の<1>ないし<4>の予定で、本件ゴルフクラブの正会員の募集を開始した。
<1>特別縁故会員は、募集期間平成元年一一月二〇日から同月三〇日まで、募集金額一六〇〇万円(入会金三〇〇万円、預託金一三〇〇万円)
<2>縁故会員は、募集期間平成元年一二月一日から平成二年一月三一日まで、募集金額二三〇〇万円(入会金四〇〇万円、預託金一九〇〇万円)
<3>第一次募集会員は、募集期間平成二年三月一日から同年八月三一日まで、募集金額三〇〇〇万円(入会金六〇〇万円、預託金二四〇〇万円)
<4>第二次募集会員は、募集期間平成二年九月一五日から平成三年一〇月三一日まで、募集金額三八〇〇万円(入会金八〇〇万円、預託金三〇〇〇万円)
3 原告は、平成二年二月二八日、被告との間で、概略次の内容のゴルフ会員権クレジット契約(以下「本件契約」という。)を締結した。(甲一号証、四号証の2、弁論の全趣旨)
(一) 被告は、原告に対し、本件ゴルフクラブの個人正会員権(特別縁故会員、以下「本件会員権」という。)を購入するに当たり、その代金一六〇九万円から申込金三〇九万円(うち九万円は消費税)を控除した残金一三〇〇万円についての真里谷に対する債務について、保証することを委託(実質は支払委託)し、原告はこれを受託する。
(二) 被告は、原告が右残金を代金決済日に、被告の保証人として真里谷に代位弁済することを承認する。
(三) 被告は、原告に対し、原告が前項により代位弁済した残金に分割払手数料六七七万三〇〇〇円を加算した一九七七万三〇〇〇円を、平成二年四月一〇日を第一回とし、以後毎月一〇日限り一二〇回に分割して一六万四七〇〇円宛(但し、第一回のみ一七万三七〇〇円)支払う。
(四) 被告が支払期日に分割払金の支払を遅滞し、原告から二〇日以上の相当期間を定めてその支払を書面で催告されたにもかかわらず、その期間内に支払わなかったときは期限の利益を喪失する。
(五) 購入者は、左記の事由が存するときは、その事由が解消されるまでの間、当該事由の存する商品について、支払を停止することができる(第一〇条(1) 、以下「本件特約」という。)。
記
(1) 商品の引渡しがなされないこと(以下「本件特約<1>」という。)
(2) 商品に破損、汚損、故障、その他の瑕疵があること(以下「本件特約<2>」という。)
(3) その他商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること(以下「本件特約<3>」という。)
4 原告は、平成二年三月九日、本件契約に従い、被告が購入した本件会員権の残代金一三〇〇万円を真里谷に代位弁済の形で立替払をし、被告はそのころ、真里谷との間でゴルフクラブ入会契約(以下「本件入会契約」という。)を成立させて、本件会員権(特別縁故会員)を取得した。
5 原告は、被告の平成七年一一月一〇日に支払うべき分割払金の履行期が経過したので、平成七年一一月二三日到達の書面で、被告に対し、二一日の期間を定めて、右履行を催告した。
6 二一日の期間である、平成七年一二月一四日が経過した。
7 平成七年一二月一四日時点の原告の被告に対する残分割払債権額は八七二万九一〇〇円である(甲二号証の1、2、弁論の全趣旨)。
8 真里谷は、平成二年三月、本件ゴルフ場の造成工事に着手したが、その後、被告らから集めた募集金額(入会金及び預託金)を本件ゴルフ場の建設資金に充てるのではなく、株式投資をはじめとする本来の目的外に流用するという杜撰な経営をした結果、事実上倒産し、平成六年一二月二日、東京地方裁判所で、会社更生開始決定を受けた。
9 真里谷は、約定期限である平成四年度完成予定を大幅に遅れてもなお本件ゴルフ場を建設しておらず、現在に至っても本件ゴルフ場建設の目処は立っていない(以下「ゴルフ場開場の著しい遅延」と略称する)。(乙二五号証、弁論の全趣旨)
二 争点
被告は、本件ゴルフ会員権の販売会社である真里谷のゴルフ場開場の著しい遅延を理由に、原告に対して、本件特約<1>ないし<3>に基づく支払停止の主張をすることができるか(抗弁)。
(被告の主張の要旨)
1 本件特約<1>ないし<3>の解釈について
本件特約<1>ないし<3>は、昭和五九年の割賦販売法の改正によって新設された同法三〇条の四の趣旨に沿って解釈しなければならない。
割賦販売法三〇条の四の立法趣旨は、割賦購入あっせん契約の抗弁権の接続は、自社割賦との対比において、消費者が不利な立場にならないために規定されたものであるから、クレジット契約における抗弁権の接続が認められるか否かは、もし自社割賦が行われていたとすればという仮定に基づき、販売会社に対し主張できる抗弁をあっせん業者等に対し主張できるかを検討すべきである。抗弁の接続が否定される場合があるとしても、ごく例外的に権利濫用あるいは公序良俗に反する場合に限られるべきである。
2 本件への適用
(一) 本件商品は、被告が真理谷に対して有する本件ゴルフ場の施設利用権及び金一三〇〇万円の預託金返還請求権、並びに真理谷に対して負担する年会費支払義務等が複合した法律上の地位であり、被告と真理谷との間の本件ゴルフクラブ入会契約に基づく債権契約上の地位に限らず、本件ゴルフ場の施設を利用させるといった役務提供も含むべきものである。したがって、本件商品は、本件ゴルフ会員権が未完成のゴルフ場に対するゴルフ会員権であることから、ゴルフ場が合理的な期間内に完成することを内容としている。
(二) 原告は、真理谷と、本件ゴルフ会員権を販売にするに当たり、「ゴルフ会員権クレジット取扱いに関する契約書(加盟店契約書)」(乙四)を取り交わすなど、加盟店契約、提携契約等による密接な取引関係が存在し、加盟店の審査を慎重に行うことによって、クレジット会社は購入者の契約目的に添った義務を果たすよう販売会社を指導管理することができ、かつその義務がある。
(三) 被告は、真理谷に対し、販売会社真里谷のゴルフ場開場の著しい遅延という債務不履行があるから、同時履行の抗弁権又は不安の抗弁権を有することになる。すなわち、被告の入会金、預託金(以下「預託金等」という。)の支払義務と真里谷の優先的施設利用提供義務とは双務関係に立つところ、ゴルフ場の完成予定時期が到来した場合、右期日以後に期限が到来する預託金等の割賦金支払義務については、同時履行の抗弁権を理由にして、支払停止の抗弁を主張できる。
仮に、預託金等の支払義務が優先的施設利用提供義務より先履行の関係にあったとしても、優先的施設利用提供義務が約定時期に至っても履行されていない場合には、会員側の主たる義務である入会金等の割賦支払義務に影響を及ぼし、右優先的施設利用提供義務が提供されるまでの間、履行を拒絶するという不安の抗弁を行使しうる。
3 原告への対抗
被告は、真里谷に対し、自社割賦であれば、真里谷のゴルフ場開場の著しい遅延により、ゴルフ場の完成予定時期以降の割賦金支払について前記2(三)のとおり支払を拒絶できるのであるから、抗弁権の接続規定のある以上、あっせん業者に主張できることになる。
真里谷のゴルフ場開場の著しい遅延という事由は、結局、本件特約<1>ないし<3>に該当する。
(原告の反論の要旨)
1 本件特約<1>ないし<3>の解釈について
割賦販売法三〇条の四は、本来購入者があっせん業者に主張できない、販売業者に対する売買契約上の事由を、例外的にあっせん業者に主張できるとしたものであり、その趣旨をそのまま準用して解釈したり、自社割賦との対比で捉えることはできない。
割賦販売法三〇条の四があっせん業者への抗弁対抗を認めた実質的根拠は、販売業者とあっせん業者との間に密接な関係があり、継続的関係を通じてあっせん業者が販売業者を指導監督できるのに対して、購入者が一時的関係であって損失負担能力が低いことにあるとされる。
本件特約<1>ないし<3>を解釈、適用するに当たっては、右実質的根拠の有無と指定商品の売買契約とゴルフクラブの入会契約の差異等から同法三〇条の四の議論を修正する必要がある。
2 本件への適用
(一) 本件で、購入者である被告と販売会社である真里谷との間で成立したのは、売買契約ではなく真里谷が建設を予定していた開場前のゴルフクラブへの入会契約であり、また、被告が割賦購入あっせん業者である原告から入会金及び預託金の一部の立替払を受けて取得した本件商品は、右ゴルフ場のゴルフ会員権という債権契約上の地位である。
(二) 割賦販売法三〇条の四があっせん業者への抗弁対抗を認めた実質的根拠については、本件では、以下のとおり問題がある。
(1) 分割金の支払拒絶を認めることは、ゴルフ場が開場しない危険をあっせん業者である原告に転嫁することであるが、原告は、立替払契約を締結したに過ぎない。他方、被告のクレジット利用目的は、本件ゴルフクラブ入会に際して、真理谷に対して支払うべき入会金及び預託金(一部)の立替払を委託することである。
被告は、本件会員権を取得したことにより原告と立替払契約を締結した目的を達成しており、それ以上に取得したゴルフ会員権に基づく権利をゴルフ場経営者である真里谷に代わって実現してもらうことまで期待しているとは考えられない。
また、被告は、本件ゴルフ場が開場する前に入会を申込み、原告の代位弁済という方法により、真理谷に入会金及び預託金(一部)の支払を済ませているが、完成前の入会金等は、完成後のそれに比して低廉であって、開場しない危険性を負担していると考えられる。
(2) クレジット会社である原告は、本件契約によっては、1資金調達コスト(立替払資金の借入金利等)、2契約管理コスト(契約書作成・保管、分割払金回収・管理事務費用等)、3分割払金の貸倒れ率及び4クレジット会社の営業利益等の諸要因を基礎に分割払手数料が算定されるが、経済的には、金銭消費貸借契約における利息相当分として料率設定される。真理谷の入会契約上の債務の履行を保証するものではない。
そして、ゴルフ会員権の募集段階で、真里谷の行う募集活動について指導監督を行うことは不可能ではないが、会員募集及び入会手続が完了した後に至っては、真里谷のゴルフ場経営を継続的に監督できる立場にはない。
3 原告への対抗不可
割賦購入あっせん業者である原告が、割賦購入あっせん取引上、被告の本件会員権取得のための入会金及び預託金の金融を行っているにすぎないことからすると、「本件会員権取得について」、販売会社である真里谷に対して生じている事由に限り、原告への対抗が認められるとすべきであり、具体的には、次のとおりである。
(一) 本件特約<1>の「商品の引渡しがなされない」とは、本件会員権が取得できなかったことを指すところ、被告は本件会員権を取得している以上、「商品の引渡し」はされている。
(二) 本件特約<2>の「商品に瑕疵がある」とは、被告が本件会員権を取得した時点で、被告の契約上の地位に瑕疵があることをさすところ、被告は本件ゴルフクラブの会員たる地位を取得しており、真里谷に対し本件ゴルフ場の施設利用を求めることができるから、被告の取得した「商品に瑕疵」はない。
(三) 本件特約<3>の「商品の販売について販売会社に生じている事由のあること」とは、本件会員権の取得について販売会社に生じている事由があることと解される。具体的には、真里谷が、被告が入会する時点で、当時の真里谷の状況から考えて、本件ゴルフ場がおよそ開場する状態にはないのに会員募集を行ったような場合がこれに当たる。本件では、被告が入会したときにはそのような事情が存在することは認められず、したがって、その後の真里谷のゴルフ場開場の著しい遅延行為をもって、割賦購入あっせん業者である原告に対抗することはできない。
第三争点に対する判断
一 本件会員権の性質等
1 預託金制のゴルフ場の会員権は、ゴルフ場及び附帯施設を優先的に利用することができる権利、約定の据置期間の経過後に預託金の返還を請求することができる権利、年会費を支払う義務等を内容とする債権債務関係の複合した契約上の地位であるが、本件ゴルフ場のように開場前のゴルフ場の会員にあっては、ゴルフ場会社に対し、開場予定の時期までに、又はその後社会通念上相当として是認される範囲内の時期までに、ゴルフ場及びその附帯施設を完成させ、これを優先的利用に供するように請求する権利をも有するものと解される。
もっとも、この権利は、会員が入会契約により取得した会員としての地位に基づいて有するものであって、この権利を行使するには、前記募集金額を支払った上、ゴルフ場会社の入会の承諾を得て、会員としての地位を取得することが必要である。そして、募集金額の支払は、入会契約上の債務ではなく、入会契約による入会の効力発生の条件であって、会員は、募集金額を払い込み、かつ、そのうちの預託金を無償で一定の期間ゴルフ場会社に利用させる利益を与えることを対価として、その地位を取得するものである。
2 本件のように開場前のゴルフ会員権の取得は、ゴルフ場が開場されて会員としてのプレー権を行使するのは先のことになる反面、会場後のゴルフ会員権よりも比較的低廉である。したがって、開場前のゴルフ会員権取得者は、ゴルフ場が開場するか否かというリスクも持ち合わせることになる。
二 本件特約の解釈の指針
1 本件特約、すなわち契約条項第一〇条(1) は、昭和五九年法律第四九号による改正後の割賦販売法第三〇条の四第一項の規定及び右改正法の施行に伴い同年一一月二六日付けで通商産業省産業政策局消費経済課長通達をもって社団法人日本クレジット産業協会ほかの団体に周知徹底が図られた割賦購入あっせん標準約款の第一一条一項にならって採用されたものである(甲一号証、弁論の全趣旨)。
すなわち、割賦購入あっせん取引における、購入者と販売業者間の売買契約と、購入者とあっせん業者間の立替払契約とは、それぞれが別個の法律関係であるため、本来購入者は、販売業者に対して生じた売買契約上の事由をあっせん業者に主張できないのが原則であるが、購入者を保護するため、例外的に販売会社との関係で生じた一定の事由に限ってこれをあっせん業者に主張して分割払金の支払を拒絶することができるとしたのが割賦販売法三〇条の四である。
したがって、被告は、真里谷との本件入会契約上生じている抗弁事由があれば、本件特約により、その事由をもって原告に対抗することができることになるが、その抗弁事由は、販売会社との売買契約について生じている事由で、直接販売会社に対して代金を支払うべきものとすれば、その支払を拒絶することを正当化するものがこれに当たるというべきである。
そして、支払を拒絶することを正当化するか否かを考えるに当たっては、本件取引の対象が、開場前のゴルフクラブへの入会契約であり、また、本件商品は、右ゴルフ場のゴルフ会員権という債権契約上の地位であるという特性を持つものであることにも留意すべきである。
2 なお、この点について、被告は、割賦販売法三〇条の四の立法趣旨は、割賦購入あっせん契約の抗弁権の接続は、自社割賦との対比において、消費者が不利な立場にならないために規定されたものであるから、現実には自社割賦は行われなかったが、もし行われたとしたらという仮定に基づいて販売会社に対し主張できる抗弁があるかどうかという点をまず考え、販売会社に対し主張できる抗弁は、クレジット会社にも主張できるとすべきであると主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、真里谷は、新規会員を募集して、入会金、預託金を集め、これを資金としてゴルフ場を造成することを予定しており、およそ、割賦による入会は予定していなかったし、実際にも割賦による入会は一件も認めていないことが認められる。そうだとすると、本件のような開場前のゴルフ会員権の取得については、一括支払が前提であり、そこには自社割賦はおよそ予定されていないのであるから、このことを仮定しての議論は、不適当であり、当裁判所の採るところではない。
三 本件特約<1>について
本件特約<1>は、「商品の引渡しがない」ことが支払拒絶事由になるとしている。前記のとおり商品が開場前のゴルフ会員権であることを考慮すると、この条項は、被告が真里谷から平成四年度に開場予定とされる本件ゴルフ場に関する本件会員権を取得できなかったことを指すと解するのが相当である。
本件では、前記第二、一、4記載のとおり、被告は平成二年三月ころ本件会員権を取得しているから、本件特約<1>に該当する事実は存在しないというべきである。
被告は、本件ゴルフ場の開場が著しく遅延し、会員の優先的利用権が具体化していないことをもって、「商品の引渡しがない」と主張している。しかし、被告は、未だ開場していない本件ゴルフ場に入会することを目的として本件入会契約を締結したのであり、被告が本件契約を利用することなく真里谷と入会契約を締結した場合に、本件ゴルフ場が開場していないという理由で真里谷に対する支払を拒絶する余地はなく、その後開場が遅延することになったとしても、本件販売会社の本件入会契約上の債務の履行が完了した後に生じた事由であって、本件入会契約による「商品の引渡し」がない場合には当たらないというべきである。
したがって、被告は、本件特約<1>によって原告に対する支払を停止することはできない。
四 本件特約<2>について
本件特約<2>は、「商品に破損、汚損、故障、その他の瑕疵があること」が支払拒絶の事由になるとしている。前記のとおり商品が開場前のゴルフ会員権であることを考慮すると、この条項は、被告が本件会員権を取得した時に、既に同会員権に質権が設定されていた場合などその権利行使を妨げる事由があることをいうものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、本件全証拠を検討するも、被告が、本件会員権取得時に、本件会員権にその権利行使を妨げる事由があったと認めるに足りる証拠は存在しない。
被告は、本件ゴルフ場が完成していないことが「商品の瑕疵」に当たると主張する。しかし、被告は、本件ゴルフ場が未だ開場していないことを承知で本件入会契約を締結したものであるから、その後の事情により本件ゴルフ場の開場が遅滞するに至ったとしても、そのことは、既に本件特約<1>のところで判示したとおり、真里谷の債務の履行が完了し、本件入会契約の目的が達成された後に生じた事由であって、本件入会契約につき真里谷に対して生じている事由ではないから、ここにいう「商品の瑕疵」には当たらないというべきである。
他方、本件全証拠を検討するも、本件入会契約の締結当時から既に本件ゴルフ揚が開場予定の時期までに開場に至らないことが確実である事情があったと認めるに足りる証拠は存在しない。
したがって、被告は、本件特約<2>により原告に対する支払を停止することはできないというべきである。
五 本件特約<3>について
1 本件特約<3>は、「その他商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること」が支払拒絶の事由になるとしている。前記のとおり商品が開場前のゴルフ会員権であることを考慮すると、この条項は、被告が本件会員権を取得した時、本件ゴルフ場がその資金計画、用地買収の状況、許可等の状況から合理的に観察する限り、相当な期間内に開場することができない状態であったことなど、入会に当たって真里谷に対して主張し得る事由があることをいうものと解するのが相当である。
このことは、次のとおり、文理上、実質上も根拠を有する。
(一) 本件特約<3>の文理解釈
文理上「販売について」とは、一般に、販売に際して又は販売の時点に近接してと解するのが素直である。また、本件特約<3>は、条項の構成からして、本件特約<1>、<2>を補完するものであるところ、前記三、四記載のとおり、本件特約<1>、<2>は、本件会員権取得時の事柄を問題にしているから、本件特約<3>も、本件会員権取得時のことを問題にしていると解するのが自然である。
(二) 本件特約<3>の実質面の考慮
(1) 被告の事情
弁論の全趣旨によれば、(1) 本件において、顧客である被告が本件契約を締結した目的は、本件ゴルフクラブ入会に際して、真里谷に対して支払うべき預託金の立替払を原告に委託するという点にあり、かつ、それに尽きることからすれば、本件会員権取得時の後に発生した事柄を支払拒絶の事由に加えることは適当ではない。
被告は、前記第二、一、4記載のとおり特別縁故会員権を取得したのであり、開場間近に入会する場合に比べ、はるかに低廉な金額で本件ゴルフクラブに入会することができたのであり、その反面、未開場の危険を負担していると解するのが公平である。
(2) 原告の事情
原告は、被告との間で本件契約を締結し、真里谷に募集金額を代位弁済することによって、被告から分割払手数料という経済的利益を受けるが、その利益は信用供与に対する対価としての意味を有するにすぎない(甲四、弁論の全趣旨)。このような原告に、一〇年にも及ぶ分割金の支払期間を通じて販売会社である真里谷の債務不履行の責任を負わせるのは相当ではない。
また、原告としては、会員募集及び入会手続が完了した後は、真里谷のゴルフ場経営を継続的に監督できる立場にはないから、割賦購入あっせん業者である原告が、販売会社である真里谷と同様の責任を負担する合理的根拠があるとすれば、会員募集当時、およそ真里谷がゴルフ場を開場させる可能性がないのに会員募集を行った場合において、原告がその客観的な状況を知り又は知りうべき立場にあったときに限られるというべきである。その後真里谷の経営及び経済状況の変化によって、相当な期間内の開場が困難になったとしても、原告が、真里谷と同じ責任を負わなければならないという根拠を見出すことは困難である。
(3) 以上のような原告、被告双方の事情を考慮すると、開場前のゴルフ場のゴルフクラブに入会した会員(被告)は、「本件会員権取得について」、販売会社である真里谷に対して生じている事由に限り、原告への対抗が認められると解するのが相当であるということになる。
2 そこで、本件をみると、弁論の全趣旨によれば、真里谷は、被告が本件ゴルフクラブに入会した平成二年三月当時、真里谷カントリークラブを開場させていたし、ザ・カントリー・クラブ・グレンモアについても建設工事を進めていたこと、本件ゴルフクラブが開場できなくなったのは、本件契約締結後の真里谷経営陣の杜撰な経営の結果によることが認められるから、本件特約<3>に該当する事実は存在しないということができる。
六 以上の検討からも明らかなとおり、本件会員権の販売会社である真里谷のゴルフ場開場の著しい遅延は、本件特約<1>ないし<3>のいずれにも該当せず、被告の支払拒絶は理由がない。
第四結論
以上のとおり、原告の請求は理由があるので、これを認容することにする。よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 足立正佳)