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東京地方裁判所 平成11年(ワ)29153号 判決

原告 下部町ヤマメの里生産組合こと

松永トキ

右訴訟代理人弁護士 赤尾時子

被告 株式会社サミット

右代表者代表取締役 須賀義造

被告 須賀義造

右両名訴訟代理人弁護士 中島敬行

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して一六九万円を支払え。

二  被告株式会社サミットは、原告に対し、一六一万〇四三八円に対する平成一一年一〇月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告須賀義造は、原告に対し、一六一万〇四三八円に対する平成一二年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、被告らの負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して原告に対し、一六九万円及び内金一六一万〇四三八円に対する平成一一年一〇月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告株式会社サミット(以下「被告会社」という。)を名乗る者に対して商品を発送したが代金が支払われないとして、被告会社に対し、売買契約、名義貸与(名板貸、商法二三条)、名義使用者の使用者責任(民法七一五条)、被告会社自体の不法行為(七〇九条)を理由として、売買代金あるいはその相当額を請求し、被告会社代表取締役である被告須賀義造(以下「被告須賀」という。)に対し、被告会社との共同不法行為(七一九条)あるいは取締役の第三者責任(商法二六六条の三)を理由として、損害賠償を求めている事案である。

一  当事者間に争いのない事実関係等

当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は以下のとおりである(証拠等により認定した事実は、証拠番号等を掲げた。)。

1  当事者

(一) 原告は、下部町ヤマメの里生産組合の名称で、山梨県西八代郡下の下部渓谷に生息するヤマメの甘露煮、燻製の製造販売を業とするものである。(甲五、六、七、一三、証人磯野一喜の証言)

(二) 被告会社は、建築資材の販売、非鉄金属材料及び加工製品等を目的とする会社である。

(三) 被告須賀は、被告会社の代表取締役である。

2  被告会社名義の発注等

(一) 原告は、平成一一年六月二四日、被告会社の商号「株式会社サミット」を名乗る訴外坂野貞文(以下「坂野」という。)から、電話で、原告の取り扱う商品に関して、パンフレットと見積書とサンプルを送ってもらいたい旨の連絡を受け、被告会社名義で、会社概要、会社略図等のファックス(甲三)を受けたことから、商品サンプルを送付した。(甲七、一三、証人磯野一喜の証言)

(二) 同月三〇日にも、被告会社名義で、月末締翌月末現金払の決済方法による商品の発注を、注文書(甲一一の1)をファックスで受信するなどして受けたため、原告は、これに対し、同日、右注文書どおりの商品を発送した。(甲七、一三、証人磯野一喜の証言)

(三) 原告はその後も、被告会社を名乗る坂野及び工藤某(以下「工藤」という。)から注文を受け、別紙一覧表のとおり、同年七月六日、一五日、一九日、二五日、二八日、三〇日(甲一の1ないし6)、八月一六、一八日、二六日、二八日(甲一の9ないし13)に、商品を発送した(以下、右(二)と併せ、「本件取引」という。」)。(甲一一の1ないし12、一三、証人磯野一喜の証言)

3  代金支払等

(一) 坂野及び工藤は、原告に対し、第一回の支払日である平成一〇年七月三一日に六月分販売代金四万〇四三五円を支払った他は、七月分販売代金六五万六四六五円及び八月分販売代金一〇四万五二五七円を、各々約定の支払日である八月三一日と九月三〇日に支払わず、平成一一年一〇月一五日に、一万一七二二円を支払った他は、現在に至るまで支払がない。(甲七、一三、証人磯野一喜の証言)

(二) 原告は、平成一二年三月ころ、被告須賀及び被告会社総務部長権瓶征(以下「権瓶」という。)名義で、被告会社の閉鎖を通知する書面を受領した。(甲八の1、一三、証人磯野一喜の証言)

二  争点

1  本件取引の相手方は誰か。被告会社か、権瓶か。

2  被告会社が当事者でないとすれば、本件取引に関して責任があるか。

3  被告須賀は、本件取引に関して責任があるか。

三  争点に対する主張

1  争点1(契約当事者)について

(原告の主張)

本件取引の相手方は、被告会社である。

(被告会社の主張)

被告会社は本件取引に全く関与していない。契約当事者は、権瓶とその指揮下の者である。

2  争点2(被告会社の責任)について

(原告の主張)

(一) 被告会社は、権瓶らとともに、いわゆる取込詐欺を行っていた。

(二) 被告会社は、いわゆる取込詐欺を行っていた権瓶を雇用しており、その使用者として責任がある。

(三) 被告会社は、権瓶に対し、その名義を貸与していたのであるから、その責任(商法二三条)がある。

(被告会社の主張)

(一) 被告会社は、権瓶らが取込詐欺を行うとは予想もしておらず、これに関与もしていない。

(二) 被告会社は、権瓶らと雇用関係にはない。

(三) 被告須賀は、権瓶らが取込詐欺を行うとは予想もしておらず、正常な商取引を行うものとしてサミットの名を使うことを認めたものである。

3  争点3(被告須賀の責任)について

(原告の主張)

(一) 被告須賀は、被告会社による取込詐欺行為の首謀者である

(二) 被告須賀は被告会社の食品部門の取引に対して、何らの指揮・監督も行わず、権瓶らが原告に損害を与えることを放置した。

(被告須賀の主張)

(一) 被告会社は、権瓶の不法行為に関与しておらず、被告須賀も、権瓶の取込詐欺行為を知らなかった。

(二) 被告須賀は、権瓶の不法行為を知らなかったし、知ることもできなかった。

第三争点に対する判断

一  争点1(売買契約の当事者)について

1  証拠(甲一、三、七、一一、一三、乙七、証人磯野一喜の証言、被告須賀の供述)によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告須賀は、平成五年六月ころ、被告会社を設立し、従業員四、五名で非鉄金属加工、販売等を行い、平成七年ころには被告会社で二億円に達する売上げをあげていたが、平成一〇年ころには、被告須賀のみがその自宅で営業を行う程度の規模に縮小していた。

(二) 平成一〇年秋ころ、かねて顔を見知っていた権瓶から、利益の一割を支払うから、被告会社で食料品を扱わせて欲しいとの誘いをうけ、商号の使用を許諾した。

この際、権瓶から、被告会社の代表者印を欲しい旨求められ、一旦は必要な都度確認するからといってこれを断ったが、取引に必要であり、契約書を交わすときは立ち会ってもらうからと度々懇請されたため、使用することはできるだけ避けて欲しいとの要望を伝えた上で、以前には使用していたが当時登録されていなかった丸形の代表者印を交付した。

(三) 権瓶は、訴外永塚辰五郎、坂野、工藤及び岩立某を、社員として雇い、以前の会社で使用していたという東京都中央区東日本橋所在の事務所を利用して、平成一一年初めころから、被告会社の商号「株式会社サミット」の名を用いて取引を始めた。

(四) 被告須賀は、平成一一年四月ころから、週数回程度事務所に赴くものの、権瓶らが行っている食料品関連の事業には関与せず、売上げがどの程度かを聞く程度であった。

他方、同年四月ころから一一月ころまでの間、事務所に赴いたときには、利益の一割を支払うとの当初の約束のとおり、当日の売上げなどとして一、二万円程度を経理担当者から受け取り、月額四〇万円から六〇万円を得ていた。

(五) 原告は、平成一二年三月ころ、「株式会社サミット代表取締役須賀義造総務部長権瓶征」名義で、株式会社サミットが閉鎖すること、食料品及び雑貨等の流通部門については総務部長権瓶が新会社に移行して引き継ぐ旨の書面を受け取った。

さらに、同年五月ころには、原告との取引関係を引き継ぐ旨の、株式会社アドバンス代表取締役権瓶征名義の書面を受領した。

(六) 他方、被告須賀は、平成一二年三月ころ、権瓶から、非鉄金属以外の食料品、雑貨等の取引は全て自分が責任者となって行った取引であり、この点に関しては一切迷惑をかけない旨の念書を受け取った。

2  右認定事実及び当事者間に争いのない事実等(第二の一)によれば、本件取引は、被告会社の代表取締役である被告須賀の了解なく行われたもので、被告会社を契約当事者ということはできない。

すなわち、権瓶は、被告須賀の決済による被告会社からの給料を得ていないこと、かえって被告須賀に売上げの一部を交付していたこと、食料品等の販売等に関し被告須賀に被告会社の名義使用を求めたこと、被告須賀は売上げの一割を受けることを条件にこれに応じたこと、権瓶は、その責任の下に複数の社員を雇い入れ、その者らを指揮して本件取引を含む食料品等の取引を行っていたことが認められるから、被告会社と権瓶の間に雇用関係はなく、右権瓶らの活動は、被告会社の営業行為とはいえないし、また代表権あるいは契約締結権限を付与されて行われたものということもできない。

二  争点2(被告会社の責任)について

1  当事者間に争いのない事実等(第二の一)及び争点1(第三の一)で認定した事実を併せ考えると、権瓶は、原告との本件取引に関し、少なくとも、売買代金を支払うことができなくなるおそれがあるものと認識しながら、原告に本件取引を申し込み、商品を受領したものと認めることができる。

すなわち、権瓶は、一方的に代金決済方法を指定し、第一期目(平成一一年六月)の少額な取引ののち、第二回目の決済日がくるまでの間、第二期目(七月)以降の取引高を増やし、第二期目は六五万余円、第三期(八月)は一〇〇万円を超える取引を行って、第二期目(七月)の決済日である同年八月末日の支払を滞らせているのであるから、売買代金を支払うことができなくなるおそれがあるものと十分認識しながら、本件取引を行っていたものと認めるのが相当である。

2  また、争点1(第三の一)で認定したとおり、被告須賀は、本件取引に先立ち、権瓶に被告会社の名義を使用して食料品等の販売等を行うことを許諾したことが認められるから、被告会社としては、名義貸与者の責任(商法二三条)を負うことにもなる。

3  しかしながら、権瓶の行った取込詐欺行為が被告会社ぐるみのものであるとの不法行為の主張は採用できない。

すなわち、右認定のとおり、権瓶は、被告会社の名義の使用許諾を求め、これを得たのちは被告須賀とは別途活動しており、被告須賀もこれに関与していないこと、本件取引を含む取引の代金未払が発覚後は、被告須賀に本件取引を含む食料品等の販売行為の責任をとる旨表明していることが認められるから、これらからすれば、被告会社ぐるみで、不法行為を行っていたものとは認めることはできない。

三  争点3(被告須賀の責任)について

1  これまでに、認定、判断したことからすれば、被告須賀は、権瓶に商号使用を許諾しているが、証拠(被告須賀の供述)によれば、権瓶の人となりを十分理解していたわけではないこと、代表取締役の丸印を与えたこと、週に一、二回は事務所に足を運び、売上げの一部を受け取っていたこと、その際権瓶あるいはその従業員の仕事ぶりを見ることができたこと、食料品の取引等に関して支払い催促の電話が来たり、請求があったりしたことを認識していたことが認められる。

名義を貸与するに当たっては、貸与することにより利益を挙げうるのか、損失を被ることはないのかなどの経営上の判断が必要となることはもちろんであるが、名義借用者がどのような活動をしているのか、監督が可能であるか、どのような方法で行うかなどの点を考慮することが求められるというべきである。

そうすると、被告須賀は、取締役が、名義を貸与するという業務執行行為に当たって行うべき調査あるいは監督方法やその実現のための方策を採ることなく、安易に権瓶の活動を放置し、売上げの一割といわれた報酬を日割単位で得たり、権瓶の活動拠点となる事務所賃貸借契約の締結に同行するなどしていたことが認められる。そして、権瓶の活動は、争点2において判断したとおり、不法行為を構成するものであるから、被告須賀の右行為は、取締役の業務執行行為としては、極めて安易なものであって、重大な過失があるものといわなければならない。

その結果、権瓶は、本件取引による責任をとるとはいうものの、その具体的な支払方法や確実性は不明であって、現時点では代金回収は困難というほかなく、原告には売買代金相当額の損害が生じているということができる。そして、被告須賀の重大な過失行為により右損害が発生したものということができるから、被告須賀は、右損害につき、取締役の第三者に対する責任を負うことになる。

2  被告須賀は、権瓶らが取込詐欺を行うとは予想しておらず、正常な商取引を行うものとして被告会社の商号使用を許諾したものと主張するが、権瓶の信用状況の知識も十分でないままに利益が得られることから、業務内容や経営手腕、経済事情、監督方法などを確認するまもなく、安易に名義貸与を許しているから、右の点は、被告須賀の行為に取締役の業務執行行為として重大な過失があることの評価に何ら影響を与えるものではない。

3  原告は、被告須賀が権瓶の取込詐欺行為に共謀あるいは荷担しており、共同不法行為の責任を負うと主張するが、右一1で認定した事実関係によれば、権瓶は、被告須賀を被告会社代表者として尊重しているわけではないことが明らかであり、独自に本件取引を行っていたものといえるから、共同性があるとはいえない。

四  付随する判断

原告は、争点3のうち、取締役の第三者に対する損害賠償債務に関し、遅延損害金を、売買契約の最終支払時期から起算し商事法定利率により算定しているが、取締役の第三者に対する損害賠償債務に関しては、法が特に認めたものであるから、履行の請求を受けたときから遅滞となり、遅延損害金の利率は、民法所定の年五分の割合によるものであるから、原告が被告須賀に対して右責任を求めた平成一二年四月一八日(第二回弁論準備期日)以降に遅延損害金が発生することになる。

第三結論

以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告会社に対する請求は全部理由があるが、被告須賀に対する請求は、右のとおり、付帯請求の一部部分は理由がなくその余の部分は理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 足立正佳)

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