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東京地方裁判所 平成11年(ワ)2929号 判決 2000年4月28日

原告

野尻秀晃

右訴訟代理人弁護士

鈴木幸子

堀哲郎

被告

ユナイテッド・エアー・ラインズ・インク

日本における代表者

ジェームス・シー・ブレナン

右訴訟代理人弁護士

角山一俊

古田啓昌

古賀貴泰

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が、被告との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、平成九年八月から毎月末日限り、月額一八九一・五〇米ドルを支払え。

第二事案の概要

本件は、被告に雇用され、試用期間中の原告が、被告に退職届の作成を強要されたのは、実質的な本採用拒否であるとしてその効力を争い、被告に対し、従業員としての地位確認及び賃金の支払を求める事案である。

一  当事者間に争いのない事実等

1  被告は、米国デラウェア州法に準拠して設立され、世界のあらゆる地域において、航空及び他のあらゆる輸送手段により、旅客、貨物、郵便物等の輸送業務等を主たる目的とする株式会社である。

2  原告は、慶応大学商学部を卒業し、平成六年一一月一日、被告に採用され(<証拠略>)、旅客サービス職員(地上職)として新東京国際空港(成田)ないし関西国際空港(伊丹)で勤務していたところ、平成八年九月六日、被告のシカゴ本社が行っていた客室乗務員の訓練に応募し(<証拠略>)、同年一二月一一日、日本での勤務を休職し(<証拠略>)、シカゴ本社における八週間の客室乗務員の訓練に参加し、平成九年二月七日、訓練修了証を授与された(<証拠略>)。そして、原告は、同月一六日、日本における被告との雇用契約を終了させ、被告から退職し(<証拠略>)、同日、新たに被告シカゴ本社との間で事前雇用契約を締結し(<証拠略>、以下「本件雇用契約」という。)、平成九年二月一七日、シカゴ本社採用の客室乗務員(試用期間一八〇日間)として採用された。

3  原告は、平成九年八月六日、退職届を作成して被告に提出した(<証拠略>)。

4  本件雇用契約には、次のような条項がある(<証拠略>)。

第二項 貴殿は、ユナイテッドの客室乗務員として、米国イリノイ州シカゴに存するユナイテッドの客室乗務員部のために勤務し、そこから給与の支払を受け、そこに管理される。貴殿は、ユナイテッド・エアラインズの日本支店に雇用されたのではなく、かかる支店の監督、指示又は支配を受けず、ただシカゴの客室乗務員部のみから監督、指示又は支配を受ける。(中略)さらに貴殿は寄留地として成田に配置されるが、ユナイテッドは貴殿に対し日本に居住することを要求せず、貴殿は他の都市から成田に通勤することを選択できる。成田勤務となることの主な重要性は、貴殿の職務履行にかかる航空便が成田に発着するということにある。

第三項 貴殿はユナイテッドの客室乗務員として、ユナイテッドの客室乗務員を唯一代表するものとして合衆国法上公認されている労働者団体である客室乗務員組合(Association of Flight Attend-ants)(「AFA」)によって代表される全従業員組織の一員となる。貴殿の給与、給付金及び就業規則を含む雇用条件は、当社とAFAとの間の労働協約(「AFA協定」)によって規定・支配される。AFAへの入会に関するAFA協定第三〇条(入会金及び会費の支払を含む)に従うことが雇用の条件である。(以下省略)

第五項 貴殿の雇用条件は、鉄道労働法(Railway Labor Act)及びAFA協定を含む合衆国法のみの適用を受けるものとする。(以下省略)

第六項 貴殿の雇用条件に何らかの意味で関連する全ての請求、不服、訴因、紛争及び訴訟は、AFA・ユナイテッドの不服手続及び客室乗務員調停委員会の管轄(この管轄は鉄道労働法及びAFA協定が規定する義務的管轄である)、又は鉄道労働法及びAFA協定によって許容される場合には、米国及びイリノイ州の権限ある裁判所の管轄に専属的に帰属する。AFA不服手続に関する詳細についてはAFA協定第二六条から第二七条を参考されたい。

第七項 貴殿の給与は、AFA協定第五条A及び第四条Jに基づいて、米ドルで算定され、イリノイ州シカゴに所在するユナイテッドの給与事務所から支給される。

なお、AFA協定一七条には「客室乗務員の試用期間の後半九〇日間に、当社が試用期間中の客室乗務員に関して何らかの措置をとる場合には、AFAが提出する書面による勧告を考慮に入れなければならない。(中略)客室乗務員としての勤務は、試用期間中は審問(ヒアリング)を経ることなく、随時終了させることができる。」との規定があり、懲戒停職、解雇及びその他懲戒に関する不服申立手続は試用期間中の客室乗務員には適用されない旨の規定がある(二六条)(<証拠略>)。

二  主たる争点

1  裁判管轄及び準拠法

(一) 原告の主張

(1) 専属的裁判管轄の合意の不成立

本件雇用契約書には、雇用関係に関する訴訟についての専属的裁判管轄として、米国連邦裁判所あるいはイリノイ州裁判所が指定されているが、本件雇用契約締結に先立って、原告は、本件雇用契約の内容について十分な説明を受けておらず、本件雇用契約締結までに、原告が本件雇用契約書の内容を検討する十分な時間もなく、さらに原告は十分な法律的知識もなかったために、専属的裁判管轄については雇用契約の継続している間の規定であると考えて、被告にいわれるままに本件雇用契約書に署名したにすぎないのであって、そもそも、専属的裁判管轄についての合意は成立していない。

(2) 専属的裁判管轄の合意の無効

仮に専属的裁判管轄について合意が成立しているとしても、このような合意は、以下に述べるとおり、はなはだしく不合理で公序法に違反するから無効である。

すなわち、雇用契約において、原告と被告とは形式的には対等当事者であるが、実際には、被告が圧倒的に優位な立場にあり、原告が被告における客室乗務員として採用されることを希望する限り、本件雇用契約書への署名を拒否する自由はなかったのである。しかも、被告は、本件雇用契約締結の際、原告に対し、十分な説明もしていない。

また、被告は、日本人乗客獲得のために成田ベースを開設し、日本人乗務員を採用することにして、日本の新聞紙上で乗務員の募集を行い、適性検査及び身体検査等も東京都内ないし成田で実施した。そして、原告を含む成田ベース所属の客室乗務員の勤務は、成田発着便への乗務であり、着陸後の業務、離陸準備等も成田で行われ、被告成田事務所には、原告の上司が常駐して成田ベース所属の客室乗務員の人事管理を行っていたほか、業務上の指示も、成田に設置されたメールボックスにメールを入れたり、あるいは口頭により成田で行い、成田ベース所属の客室乗務員のデータも被告成田事務所に保管されていた。このようなことからすれば、原告の仕事の本拠は日本国内にあったというべきである。

さらに、原告の住所は日本国内にあり、原告は客室乗務を行う以外は、住所地で日常生活を行っており、納税も日本の税制に従い日本で行っている。原告の給与は、いったんシティバンク・ニューヨーク支店にある海外従業員用の口座に振り込まれるが、原告は右ニューヨーク支店に対し、シティバンク大手町支店に設定した原告名義の普通預金口座へ全額振り込み依頼し、事実上大手町支店で給与を受領していた。右大手町支店での口座開設も被告の指示によるものであり、口座開設手続も被告が代行したのであり、給与支払の事実上の履行地は日本国内であった。このように原告の生活の本拠も日本国内にあった。

加えて、試用期間中の従業員に関しては、AFA協定二六条、二七条に定める紛争処理手続の適用はなく、AFAによる保護も十分でないことから、原告としては訴訟を提起せざるを得ない。しかし、日本に居住し、資力において被告に著しく劣り、訴訟遂行に十分な英語能力もない原告にとって、米国内で訴訟を提起・遂行するのは著しく困難である一方、被告は、世界的な大企業であり、国際的に営業を展開しているのであって、日本国内における訴訟遂行も容易である。

これらの事情からすれば、本件の専属的裁判管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反することは明らかである。

そして、専属的裁判管轄の合意が無効であるとすれば、裁判管轄は、当事者間の公平、裁判の適正、迅速を期するという理念により条理に従って決定すべきことになるが、すでに述べてきた事情によれば、日本国内であるというべきであり、被告は東京都千代田区に東京事務所を設置していること、原告の賃金の支払場所は東京都内のシティバンク大手町支店であることから、本件の管轄裁判所は東京地方裁判所であると解するべきである。

(3) 準拠法

本件雇用契約書には、イリノイ州法ないし米国連邦法を準拠法とすることが記載されているが、イリノイ州法ないし米国連邦法を準拠法とすることには何ら実質的合理性はない。そもそも、準拠法については、契約に関し、法例七条一項が、法律行為の成立及び効力については当事者の意思に従いそのいずれの国の法律によるべきかを定める旨規定している。右規定は、労働契約に関しては、法的知識においても、経済的にも使用者が圧倒的に優位な立場にあることを考慮し、労働者保護の観点から解釈されるべきであり、本件雇用契約書に記載があるとしても、黙示の意思を探求して決すべきである。本件においては、原告は、日本人で、日本国内に居住し、労務の給付も日本で行っているところ、十分な説明も受けないまま、米国法ないしイリノイ州法の内容を認識・理解した上で、雇用契約を締結することなど考えられない。一方、被告は、国際的に展開する大企業であって、使用者として、その営業活動に関係する国の法律を調査し熟知することは当然である。また、米国法及びイリノイ州法には本採用拒否に関して何ら規制がないのに対し、日本においては、試用期間中の者の本採用拒否についても解雇法理の適用を認める判例が確立されており、試用期間中の者に対しても解雇法理を適用することは、日本の労働法秩序の根幹をなすものである。したがって、米国法及びイリノイ州法に準拠して、無条件に本採用拒否が許されるとすれば、普遍的立場から考慮しても、わが国の労働法秩序が破壊されることになる。このような場合、法例三三条により、米国法及びイリノイ州法の適用は排除され、原告の国籍、住所、労務の給付場所等を重視して、準拠法は日本法であると解するべきである。

(二) 被告の主張

(1) 専属的裁判管轄の合意の成立

被告は、平成八年一一月一二日付けで本件雇用契約書を原告に対し送付し、原告は同年一二月一六日に本件雇用契約書に署名したのであって、検討の期間は十分であったし、同月一三日、原告は、本件雇用契約の内容について説明を受けている。なお、本件雇用契約書は英語で書かれているが、原告はその内容を理解するのに困難はなかった。また、裁判管轄に関する本件雇用契約六項に解職、退職に関する紛争は含まれないとの理解は、その文言からして極めて非常識かつ不合理であって、原告が右のような誤解をしていたとは考えられない。仮に原告が右のような誤解をしていたとしても、被告はそれを知らなかったのであるから、その効力は否定し得ない(民法九三条本文)。さらに、仮に原告の右誤解が要素の錯誤に該当するとしても(なお、本件では、原告は右誤解がなかったとしたら、本件雇用契約の締結を躊躇したと述べるにとどまるので、そもそも錯誤に該当しない。)、右誤解をしたことについて原告には重大な過失があるから、専属的裁判管轄の合意は無効とならない(民法九五条但書)。

これらのことからすれば、専属的裁判管轄の合意が成立していることは明らかである。

(2) 専属的裁判管轄の合意の有効性

そもそも国際的専属的裁判管轄の合意は、当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものでないこと、指定された外国の裁判所がその外国法上当該事件につき管轄権を有することの二つの要件を満たす限り、わが国の国際民訴法上、原則として有効であると解されている。これを本件についてみると、わが国の裁判所が本件訴訟について専属的な管轄権を有する理由はなく、被告の本部所在地を管轄する米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所が本件について管轄を有することも明らかであり、本件の専属的裁判管轄の合意が有効であることに疑問の余地はない。

また、専属的裁判管轄の合意は、以下に述べるとおり、実質的にみても極めて合理的であって決して公序法に反するものではなく有効である。

すなわち、AFA協定は、被告の全ての客室乗務員のために、被告と団体交渉を行って労働協約を締結する権限を有する労働組合であるAFAが被告と対等な立場で団体交渉を行った結果、締結した協定であって、同協定二六条、二七条に定める紛争処理手続は、被告の一方的利益を図るものではなく、労使双方の利害を合理的に調整した公正な手続である。AFA協定において、試用期間中の客室乗務員について、紛争処理手続の適用がないとされたのは、事前雇用契約において試用期間中の客室乗務員は随意に事前雇用契約を解消できるものとされていることから実益が乏しいと判断されたためであるが、試用期間中の客室乗務員もAFAによる一定の保護を受けることはできる。そして、AFA協定及び鉄道労働法が許容する一定の場合は、米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所に訴訟を提起しなければならないとされているが、事前雇用契約及びAFA協定による専属的裁判管轄の合意は、被告とAFAとの実質的かつ対等な交渉の結果合意されたものである。しかも、原告は、本件雇用契約締結以前、被告の成田ないし伊丹の旅客サービス職員(地上職)として勤務していたが、その当時の雇用契約には裁判管轄や準拠法に関し何ら合意はなかったのであるから、原告が本件雇用契約の内容に不満があれば、その締結を拒否し、引き続き被告の地上職として勤務することができたのに、原告は自ら客室乗務員を希望して本件雇用契約を締結したのであり、使用者である被告が経済的に圧倒的優位な立場を背景に労働条件を一方的に定めたこともなければ、労働者たる原告がこれに従わざるを得ない状況にもなかった。

また、原告は、被告の日本支店ではなく、米国イリノイ州シカゴ本社が行った客室乗務員の募集に応募し、シカゴで本件雇用契約書に署名し、米国イリノイ州シカゴ本社に雇用されたのである。そして、客室乗務員としての訓練・適性検査等はすべてシカゴで行われ、原告の客室乗務員としての給与の支払場所は米国ニューヨークであり、シティバンク・ニューヨーク支店の原告口座から同大手町支店に送金の上、原告が給与を受領していたとしても、それは原告の都合による送金であり、被告の関知するところではない。成田における客室乗務員の管理・監督・連絡業務等に関しても、被告の日本支店は行っておらず、米国における法規制(AFA協定を含む。)及び被告の高度の経営判断に基づき、米国デラウェア州法人であるドミサイル・マネージメント・サービセス・インクが被告のシカゴ本社から直接委託されて行っている。

さらに、原告が米国で訴訟を提起するのも困難とはいえない。米国においては、訴訟提起のための手数料はわが国に比較して非常に低額であり、弁護士に依頼する場合も成功報酬が広く普及しているから、勝訴判決を得るまで弁護士に報酬を支払う必要はないのである。

このように、専属的裁判管轄の合意は実質的にみても合理的であり、公序法に反するところはない。

(3) 準拠法

準拠法についても本件雇用契約書記載のとおりであり、その適用を排除する理由はなく、原告の主張は争う。

本件において、原告は、被告に退職届を提出しているのであって、理論的にその意思表示の効力が問題になる余地があったとしても、それは意思表示一般に関する問題であって、労働法とは関係がなく、米国法と日本法で大きな違いもない。また、解雇の問題としても、米国においても、現在は、一般に公序に反する解雇は許されないとされ、さらに黙示的な誠実・公正義務による制限が課されるようになっており、米国法を適用したからといって、わが国の労働法秩序の根幹をなす解雇法理と相容れないということもない。

右のとおり、実質的にみても、原告の主張するような不合理はない。

2  退職の意思表示の効力

(一) 原告の主張

(1) 退職の意思表示は無効

原告は、形式的には退職届を作成して被告に提出しているが、原告がこのような退職届を作成したのは、本来原告に対する懲戒解雇事由などないにもかかわらず、被告が原告に対し、懲戒解雇処分をなし得ることを告知し、一方的に優位な力関係のもとで、予定されていた乗務を取り消させ、窓もない密室に原告を閉じこめた上、三人で原告を取り囲むようにして、弁明の機会も熟慮の時間も与えずに、執拗に退職を強要し、原告が完全に意思の自由を失った結果であり、原告が退職届を作成したとしても、それはそもそも有効な意思表示ではなく、実質的には本採用拒否にほかならない。

(2) 要素の錯誤による無効

原告は、右(1)のとおり、本来懲戒解雇事由がないにもかかわらず、被告の言動から懲戒解雇処分に付されるものと誤信して退職届を提出したものであり、要素の錯誤にあたり無効である(民法九五条本文)。

(3) 強迫による取消

仮に退職の意思表示が有効であるとしても、前記(1)の被告の退職強要行為は、原告を畏怖させるに足る強迫にあたるから、原告は、本件訴訟において、有意思表示を取り消す(民法九六条一項)。

(二) 被告の主張

原告は、客室乗務員訓練期間中、協調性の欠如から同室となった訓練生二名との間で諍いを起こしたことがあった。また、原告は、本件雇用契約締結後の試用期間中も、その勤務態度にはチームワークに欠けるところがあることが指摘されていた。被告の客室乗務員は、試用期間中に、最低でも月一回のペースで合計五回以上スーパーバイザーとの新規採用客室乗務員面接を受けなければならないところ、原告は、平成九年三月九日、同年四月二二日の二回面接を受けただけで、同年五月以降面接を受けなかった。この間、スーパーバイザーのブライアン・マッカーシー(以下「ブライアン」という。)が、平成九年五月三〇日に原告に面談し、チームワーク上の問題点を指摘し、さらに、同年八月五日にも原告に面談して、面接を受ける必要があることを指摘した。

そして、同月六日、マネージャーのランディ・ロトンド(以下「ランディ」という。)が原告と面談した。面談が行われたのは昼間の時間帯であり、場所は八人程度が着席して会議を行うことができる程度の広さの会議室であり、所要時間は約一時間であった。面談の席上、ランディは、原告に対し、その勤務態度及び英語力には問題が多いことを指摘するとともに、安全管理に関するいくつかの質問をしたが、原告はこれらの質問に満足に答えることができなかった。そこで、ランディは、原告が被告の客室乗務員として適性が欠けており、このままでは試用期間終了後本採用できないと判断し、自主的に退職すれば、別の航空会社で雇用される機会もあるだろうと述べて自主退職を勧めたところ、原告が退職届を作成したのであって、被告が懲戒解雇処分に付すことができるなどと述べたことはないし、ランディの口調も穏やかなものであって、強迫にあたるような言動はなく、原告が錯誤に陥るような状況もなく、原告は自らの自由意思に基づいて被告に対し退職届を提出したのである。したがって、仮に東京地方裁判所に裁判管轄があり、日本法が適用されるとしても、原告の退職の意思表示は有効である。

3  本採用拒否の効力

(一) 原告の主張

前記2(一)(1)のとおり、原告は形式的に退職届を提出しているが、実質的には被告の本採用拒否にほかならないところ、原告には本採用を拒否されるような理由はない。被告が原告に客室乗務員として適格性が欠如しているとして主張する事由は、事実無根であるか著しく事実を歪曲したものであり、いずれにしろ原告に客室乗務員としての適性が欠如していることを根拠付けるものではない。また、試用期間中のスーパーバイザーとの面接について、当初上司であるハツミ・ガーバー(以下「ハツミ」という。)からは二回受けるように指示されたにとどまり、後に五回受けるようにと指示されたようであるが、右指示は徹底されておらず、五回の面接を受けていない客室乗務員は、当時多数に上っており、被告はその社内報で注意を喚起するに至り、原告も右社内報を見てようやく五回の面接が義務づけられているのを知ったもので、この点に関し一人原告のみが非難される理由はない。

(二) 被告の主張

原告は、自主的に被告を退職したのであり、被告が原告の本採用の拒否をしたことはない。しかし、仮に、原告の退職の意思表示の効力が認められないとしても、前記2(二)のとおり、原告に客室乗務員としての適格性が欠如していることは明らかであるから、被告は本件訴訟において本採用を拒否する。

4  被告のその他の主張

(一) 本件雇用契約の錯誤による取消(第二次契約リステイトメント一五二条)

(二) 試用期間満了による本件雇用契約の終了

第三当裁判所の判断

一  後掲各証拠によれば、次の事実が認められ(当事者間に争いのない事実を含む。)、右証拠中これに反する部分は採用しない。

1  原告は、平成六年一一月一日、被告に雇用され、旅客サービス職員(地上職)として新東京国際空港(成田)ないし関西国際空港(伊丹)で勤務していたところ、ジャパンタイムズ紙上(<証拠略>)に被告が掲載した成田発着路線に乗務する客室乗務員の求人広告を見て、平成八年九月六日付けでこれに応募した。原告は、日本国内での面接及び筆記試験、身体検査を含む適性検査等を経て、被告シカゴ本社で実施される選抜試験を含む客室乗務員訓練に参加することになり、平成八年一二月一一日から日本での勤務を休職して渡米した。被告シカゴ本社における客室乗務員訓練は、平成八年一二月一二日から平成九年二月七日か(ママ)けての八週間にわたり行われたが、その間、被告シカゴ本社は原告に対し給与等の支給はしていない。客室乗務員訓練開始後の平成八年一二月一六日、原告は、被告シカゴ本社との間で、客室乗務員訓練終了後に正式に被告シカゴ本社に採用される旨の本件雇用契約を締結し、本件雇用契約書(<証拠略>)に署名した。

(<証拠略>、原告本人)

2  本件雇用契約書(<証拠略>)については、平成八年一一月一二日付けで、原告に対し、その写しと契約内容に疑問があれば質問を受け付ける旨記載した書面(<証拠略>)が送付され、客室乗務員訓練開始後の平成八年一二月一三日午前、被告の機内労働関係ディレクターのフランク・コロッシが本件雇用契約の内容について説明した。本件雇用契約書には、原告は、本件雇用契約と同時にAFAに加入し、労働条件はAFA協定に従う旨等、AFA及びAFA協定について言及された条項の記載があるが、AFA協定自体は事前に配付されてはおらず、AFA協定に関する講義の直前に配付された。

なお、AFAは、被告の客室乗務員で構成される米国法で認められた労働組合であり、ユニオンショップ制を採っている。AFAは、被告の客室乗務員の唯一の代表として、労働条件に関し、対等な立場で、被告と団体交渉を行い、労働協約を締結する権限を有しており、鉄道労働法に基づいて、被告と労働協約(AFA協定)を締結している。鉄道労働法とは、鉄道会社とその従業員との紛争を解決するために米国連邦議会によって制定された法律であり、鉄道のみならず航空会社にも適用されるものである。また、AFA協定は、雇用条件に関連する被告との紛争処理手続について規定し(<証拠略>、二六条、二七条)、客室乗務員の権利保護を実現しようとしているが、試用期間中の客室乗務員については、被告は随時雇用契約を終了させることができ、AFA協定二六条、二七条の適用は受けられない。ただ、試用期間の後半九〇日間の被告の客室乗務員に対する措置については、被告は、AFAの書面による勧告を考慮しなければならないと規定されている(<証拠略>、一七条)。

また、本件雇用契約書には、本件雇用契約が原告と被告シカゴ本社との直接的な雇用契約で、原告は被告シカゴ本社の客室乗務員部の指揮監督に服し、被告シカゴ本社から給与の支給を米ドルで受けることが明記され(<証拠略>、二項、七項)、雇用条件に関し、鉄道労働法及びAFA協定を含む米国法のみの適用を受けることとされ(<証拠略>、五項)、雇用条件に関連する訴訟に関しては、米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所を専属的管轄裁判所とすることが記載されている(<証拠略>、六項)。

なお、本件雇用契約書は英語で作成されており、客室乗務員訓練も英語で実施された。

(<証拠略>、原告本人)

3  原告は、平成九年二月七日、客室乗務員訓練を終了して修了証(<証拠略>)を授与され、同月一六日、日本における被告との雇用契約を終了させ、被告を退職した上、同月一七日付けで被告シカゴ本社採用の客室乗務員(試用期間一八〇日間)として正式に採用された。それ以後、原告の給与はシティバンク・ニューヨーク支店の原告名義の銀行口座に振り込まれるようになったが、さらに原告は、シティバンク大手町支店に原告名義の銀行口座を開設し、給与を同ニューヨーク支店から送金させて同大手町支店で給与を受領していた。原告が同大手町支店に原告名義の口座を開設したのはスーパーバイザーであるハツミの指示によるもので、口座開設の手続もハツミが代行した。

(<証拠略>、原告本人)

4  本件雇用契約書(<証拠略>)によれば、原告は、主として被告の成田発着便に乗務する客室乗務員として勤務することになっており(<証拠略>、三項)、実際にも被告が開設した成田ベースに所属し、成田発着便に乗務しており、業務に関する指示、連絡等も成田ベースで受けていた。これら成田ベースに所属する客室乗務員の人事管理を行っていたのは、被告シカゴ本社から直接委託された米国デラウェア州法人であるドミサイル・マネージメント・サービセス・インクであり、実際にその業務を担当していたのは、日本国内に居住するマネージャーのランディであり、また、原告の直属の上司である被告のスーパーバイザーであるブライン(ママ)、ハツミも成田ベースに常駐していた。したがって、原告は、被告シカゴ本社に採用された後も日本国内に居住し、納税も日本の税制に従って日本で行っている。

(<証拠略>、原告本人)

5  被告シカゴ本社採用の客室乗務員は、一八〇日間の試用期間中に、スーパーバイザーとの新規採用客室乗務員面接を、月一回、合計五回以上受けることが義務づけられていたが、原告は、平成九年三月九日、同年四月二二日と二回面接を受けたものの、同年五月は面接を受けず、同年八月二日、第三回、第四回の面接の申込みをしたが、結局、面接は行われず、同年八月五日、ブライアンが新東京国際空港(成田)内の事務所で原告と面談した。その際、ブライアンは、原告に対し、面接を受けていないこと、その業務に関し同僚とのチームワークに問題があることなどを指摘した。さらに、同月六日、右事務所内の会議室で、ランディ、ブライアン及び平成九年三月にスーパーバイザーとなった高橋真子(以下「高橋」という。)が原告と面談した。ランディは、面談の席上、原告の勤務態度及び英語力に問題があることを指摘し、また、安全管理に関する質問を行ったが、原告の受け答えに満足できなかったために、ブライアン及び高橋とともに隣室に移動して協議し、原告に自主退職を勧めることにした。そして、ランディは、原告に対し、自主退職を勧めた結果、原告は、退職届(<証拠略>)を作成して被告に提出した。

(<証拠略>、証人高橋、原告本人)

6  しかし、原告は、被告に退職を強要されたものと考え、退職に納得できなかったために、その後AFAに救済を求めることにして、平成九年八月八日、AFA成田地方執行委員会執行委員長ロンに連絡したが、ロンから、マネージャーと面談したが、職場復帰は拒否された旨の回答を受けたので、同年八月七日から同年一〇月ころにかけて、AFA成田地方執行委員会副執行委員長のアンドルー・チャンに交渉を依頼したが、同人から、マネージャーと交渉したが、マネージャーは翻意せず、訴訟しか手段はないとの回答を受けた。そこで、原告が、さらにAFA本部執行委員長のパトリシア・フレンドに相談したところ、同人から、中央執行委員会議長が、ロンを通じて、客室乗務員に復帰させること、それが無理なら旅客サービス職員(地上職)に復帰させることをマネージャーと交渉したが、原告が退職届を作成しているために、交渉はうまくいかなかった旨の回答を受けた。

また、原告は、平成九年八月、私用で渡米した際にカリフォルニア州のサム・ペイク弁護士に相談したが、退職届の署名をなるべく早く取り消すようにとの助言を受けた。

その後、原告は、日本で弁護士に相談して本件訴訟に至った。

(<証拠略>、原告本人、弁論の全趣旨)

二  専属的裁判管轄の合意の成否について

英文で作成された本件雇用契約書(<証拠略>)に原告の署名があることは当事者間に争いがない。そして、本件雇用契約書の写しが、原告が署名した平成九年一二月一六日の約一か月前である平成九年一一月一二日付けで原告に送付されており、その際内容に質問があれば受け付ける旨の文書も併せて送付されている(前記一2)。原告は、送付されてきた本件雇用契約書の写しを読んで理解し(原告本人)、さらに平成九年一二月一三日午前、AFA協定の配付はされていなかったものの、本件雇用契約書の内容の説明が行われている(前記一2、この点、原告は説明を受けたことはないと主張するが、<証拠略>に照らし採用できない。)。さらに、平成九年一二月一六日、本件雇用契約書に客室乗務員訓練生が署名する際にも、質疑応答を中心として約一時間の説明が行われている(原告本人)。しかも、原告は、英検準一級で、TOEICのスコアが八五〇点であり、米国の大学への留学可能なレベル七三〇点、被告が客室乗務員に要求するTOEFL五〇〇点(TOEIC七三〇点がTOEFL約五五〇点に相当する。)をかなり上回っており、英語の能力も十分であった(<証拠略>、原告本人)。これらのことからすると、本件雇用契約書の内容を検討吟味する時間がなかった、説明が不十分であった、原告は内容を理解することができなかった旨の原告の主張はいずれも採用できず、本件雇用契約は双方の合意に基づいて有効に成立したというべきであり、したがって、専属的裁判管轄の合意も成立したものというほかない。

なお、原告は、法律的に十分な知識がなく、専属的裁判管轄は、雇用関係の継続中のみの定めであると理解していたと主張し、本人尋問においても同趣旨の供述をする。しかし、右解釈自体不自然であるし、原告は、退職届を作成して被告に提出した後、AFAに救済を求め、それと並行して最初に米国カリフォルニア州の弁護士に相談するなど(前記一6)、まさに本件雇用契約に沿った行動をとっていることからして、採用できない。

三  専属的裁判管轄の合意の効力について

1  外国の裁判所を専属的管轄裁判所と指定する国際的専属的裁判管轄の合意は、当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、かつ、その外国の裁判所が当該外国法上その事件につき管轄権を有する場合には、原則として有効であり、国際的裁判管轄の合意は、少なくとも当事者の一方が作成した特定国の裁判所が明示され、合意の存在と内容が明白であれば足りるとするのが確立した判例である(最高裁判所第三小法廷昭和五〇年一一月二八日判決民集二九巻一〇号一五五四頁)。

これを本件についてみると、わが国の裁判所が本件訴訟について専属的な管轄を有する理由はなく、被告の本社所在地を管轄する米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所が本件訴訟について管轄を有することも明らかであり、しかも、専属的裁判管轄の合意は、本件雇用契約書に明確に記載され、原告はこれに署名しており、すでに認定したとおり合意が成立している。したがって、本件雇用契約に関する専属的裁判管轄の合意は原則として有効であるということができる。

2  ただ、このような専属的裁判管轄の合意もはなはだしく不合理で公序法に違反するときは無効となる余地があることは原告の主張のとおりであり、以下この点について検討する。

(一) まず、本件雇用契約において、本件雇用契約に関する訴訟の専属的裁判管轄として米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所が指定されていることは、被告の営業の性質上、客室乗務員が米国以外の多数の外国人を含んでいることに鑑み、被告にとって、雇用関係に関する紛争を統一的に処理できるという利益をもたらすものではある。しかし、専属的裁判管轄の合意が被告に利益をもたらすものであったとしても、そのことから直ちに労働者に一方的な不利益を強いるものとはいえず、特に本件雇用契約においては、AFA協定との関係を踏まえて検討する必要がある。

AFA協定は、被告の客室乗務員によって構成される労働組合であるAFA(ユニオンショップ制を採っている)との間で、鉄道労働法に基づいて団体交渉の結果締結された労働協約であり(前記一2)、それ自体労働者に一方的に不利益を課すものではなく、対等当事者間が交渉を通じて双方の利害を調整した結果であるということができる。それは、具体的には、被告とその客室乗務員との間に紛争が生じた場合、当該客室乗務員はAFA協定に基づく紛争処理手続による保護を受けることができる旨本件雇用契約に定められている(<証拠略>、六項)ように、労働者の権利保護にも配慮されている。しかし、一方、客室乗務員の雇用条件はAFA協定の拘束を受けることも明記されている(<証拠略>、三項及び五項)。これらのことからすると、本件雇用契約は、AFA協定に反することができず、その拘束を受けていると解せざるお(ママ)えない。そして、客室乗務員の雇用条件がAFA協定の拘束を受けること、AFA協定に紛争処理手続が規定され、客室乗務員がその保護を受けられることと関連して、専属的裁判管轄の合意及び準拠法の合意もAFA協定が前提としているものであったこと(<証拠略>)からすると、本件雇用契約に専属的裁判管轄の合意を規定することは、AFA協定を踏まえた結果であって、すなわち、労働者に一方的に不利益を強いる、あるいは被告の利益のみを図るものではないということができる。

この点に関し、原告は、AFA協定に基づく紛争処理手続が試用期間中の客室乗務員には適用されないことをもって、AFA協定による保護は形骸化していると主張する。しかし、試用期間中の客室乗務員であっても、試用期間の後半九〇日間であれば、被告は、AFAが提出する書面による勧告を考慮しなければならないとされており(<証拠略>、一七条)、一定の範囲で保護され、AFA協定二六条、二七条の紛争処理手続に比較すれば、その保護の程度は厚くないことは否定できないが、試用期間中の客室乗務員に著しい不利益を課すものであるということもできない。実際に本件の場合、原告の処遇をめぐり、AFA成田地方執行委員会のみならず、その中央執行委員会も事実上被告と交渉している(前記一6)。結局、AFAは、原告の希望に沿うことはできなかったが、それは、前記一6によれば、AFA協定が試用期間中の従業員の保護に不十分であるからというよりも、原告が退職届を被告に提出したことが大きな障害となったというべきであって、AFA協定による保護が形骸化しているということはできない。

(二) ところで、原告は、本件雇用契約締結の際の被告の説明は十分ではなく、被告としては日本語の翻訳を添付するなどすべきであったと主張するが、原告は、被告シカゴ本社と直接雇用契約を締結したのであり(前記一2)、その業務も被告の航空機内で行われるもので、原告の業務には英語力が必須であるところ、前記二のとおり、原告は、相当程度の英語力を有していることからすれば、被告に日本語の翻訳を添付する義務があるとは到底いえないし、前記二のとおり、原告には本件雇用契約締結までに十分な検討期間があり、被告に対し、内容についての問い合わせをすることもできたのであるし、ひととおりの説明も受けていることからすれば、説明が不十分であったということはできない。

また、原告は、被告が圧倒的に優位な立場を利用して、原告に本件雇用契約を締結させたと主張する。確かに、原告としては、被告の客室乗務員として採用されることを希望する限り、本件雇用契約を締結しなければならなかったという面がないとはいえない。しかし、すでに述べたように、本件雇用契約自体が労使双方の利害調整の結果であるAFA協定に拘束され、被告としてもそれに反することができないことや、本件雇用契約の内容がAFA協定による保護とあいまって必ずしも労働者に一方的に不利益を課すものとはいえないこと、専属的裁判管轄の合意がAFA協定の前提となっていたことからすると、著しく不合理ということはできない。

さらに、前記一4によれば、原告の住所は日本国内にあり、納税も日本の税制に従って日本で行うなどしており、原告の生活の本拠が日本であるということはできる。そのことからすれば、原告が米国で訴訟を遂行することは、訴訟手続が英語で行われること、原告が裁判所に出頭するためには渡米しなければならないことなど、日本で訴訟を遂行する場合と比較して、原告に不利益な面があることは否定できない。しかし、訴訟提起のための手数料は、米国は日本に比較して低額であり、弁護士費用も成功報酬制の普及によって直ちに支払わなければならないものではなく(弁論の全趣旨)、また、原告は、相当程度の英語力を有しており、弁護士を通じて訴訟を遂行することに困難があるとはいえず、専属的裁判管轄の合意は原告の訴訟提起・遂行を著しく困難にするものともいえない。

(三) これらのことからすると、専属的裁判管轄の合意は、はなはだしく不合理で公序法に反するとまではいえない。

なお、原告は、労務の給付地及び給与の支給場所が日本であることも専属的裁判管轄の合意がはなはだしく不合理であることの根拠として主張する。原告が乗務するのは主として成田発着便であること(前記一4)からすれば、日本においても労務を給付していたことは明らかであるが、原告の業務は、客室乗務員として、被告の航空機に乗務して行うことが主であり、原告は、成田発着の国際便に乗務し、成田・ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ間の乗務などを行っており、一か月に一泊三日で一二日間、二泊四日で一二日ないし一五日間というローテーションで行っており(<証拠略>、弁論の全趣旨)、このことからすると、労務の給付地は日本だけではなく、直ちに日本が仕事の本拠とはいえない面があるし、前記一3によれば、給与の支給場所は米国であり、原告は、自己の都合で事実上日本で受領しているというほかないのであって、これらのことからすると、労務の給付地及び給与の支給場所を根拠に専属的裁判管轄の合意の効力を覆すことはできないというべきである。

四  以上の次第で、原告の訴えは、管轄権を有しない裁判所に提起されたことになり、不適法であるから、却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

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