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東京地方裁判所 平成11年(ワ)404号 判決 2000年10月31日

原告

早坂清吉

ほか一名

被告

東都自動車交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告早坂清吉に対し金七三一万二三四五円、原告早坂洋子に対し金七六七万六九九三円及び右各金員に対する平成一〇年四月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを九分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告早坂清吉に対し金六六四七万〇七七〇円、原告早坂洋子に対し金六一二五万八二七〇円及び右各金員に対する平成一〇年四月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告ら負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  争いのない事実及び容易に認定することができる事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成一〇年四月二八日午後二時四〇分ころ

(二) 場所 東京都港区東麻布二丁目三五番一号先交差点(以下「本件交差点」という。)内

(三) 被告車 被告永田日子一(以下「被告永田」という。)が運転する、被告東都自動車交通株式会社(以下「被告会社」という。)の保有する事業用普通乗用自動車

(四) 早坂車 早坂淳司(昭和四八年六月八日生、二四歳。甲七。以下「淳司」という。)が運転する事業用自動二輪車

(五) 事故態様 早坂車が、赤羽橋方面と新一之橋方面とを結ぶ道路(以下「本件道路」という。)と、本件道路から三田一丁目方面に分岐する道路(以下「本件交差道路」という。)とが交わる本件交差点を、赤羽橋方面から新一之橋方面に向かって直進して進行しようとしたところ、本件交差道路から本件交差点に進入して赤羽橋方面に右折進行しようとした被告車と衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故の結果

本件事故により淳司は死亡した。

3  被告らの責任

被告永田は、本件交差点に進入して右折進行するに当たり、右方に対する注視義務を十分に尽くさなかったこと、被告会社は、被告車の運行供用者であることから、本件事故による損害について、連帯して賠償する責任を負う。

4  原告らの相続

原告早坂清吉(以下「原告清吉」という。)及び原告早坂洋子(以下「原告洋子」という。)は淳司の両親である。

5  淳司の治療費及び被告らの既払金

淳司の治療のために要した金額は一三二万七七九〇円である(乙一、弁論の全趣旨)。

また、被告らの既払金は、合計三一六九万三三五九円である(自賠責保険金二八八七万五九二一円、治療費一三二万七七九〇円、通夜・葬儀関係費一四八万九六四八円の各名目で支払われた。乙一から四、五の1から4、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件事故の態様と淳司及び被告永田の過失割合

(一) 被告らの主張

淳司には、本件交差点に進入する際、減速することなく、時速約七〇キロから八〇キロの速度で、前方を注視することなく走行した点で過失があり、相当程度の過失相殺をすべきである。

(二) 原告らの主張

早坂車の走行速度は時速五五キロ程度である。

本件事故の主たる原因は、被告永田が、本件交差点を右折する際、右方からの車両の有無を十分に確認すべき基本的な注意義務を怠ったことにある。

2  損害額の算定

治療費を除く損害に係る原告らの主張は以下のとおりである。

(一) 文書費(請求額 一六〇〇円)

(二) 入院雑費(請求額 一一〇〇円)

(三) 被害車両の写真代(請求額 二八四〇円)

(四) 逸失利益(請求額 四一三九万二四六二円)

淳司の収入(売上)は年間五二四万二四三六円、経費(ガソリン代、修理代、備品その他(電話代)、任意保険料、強制保険料)は年間その一割の五二万四二四三円である。

したがって、淳司の逸失利益は以下のとおりとなる。

(五二四万二四三六円-五二万四二四三円)×(一-〇・五)×一七・五四五九=四一三九万二四六二円

(五) 慰謝料(請求額 五〇〇〇万円)

(六) 仮通夜及び葬儀関係費用(請求額 六三三万六五七九円。原告清吉分)

(七) 固有の慰謝料(請求額 原告らにつき各二五〇〇万円)

(八) 弁護士費用(請求額 原告らにつき各五〇〇万円)

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故の態様と淳司及び被告永田の過失割合)

1  本件事故の態様について

甲二の1から6、三の1から3、一八、一九、乙一三の1から3、一四の10から80、94から96、一六の1から7、二三の1、2、二四の1、被告永田本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件道路は、別紙図面のとおり、本件交差道路及び麻布台方面から合流する道路と本件交差点で交差する幹線道路(環状三号線)であり、時速五〇キロの速度規制がなされている。

本件道路は、片側二車線で両側には歩道が、中央部には中央分離帯がそれぞれ設置されており、車道部分のみでも幅員一八・三メートルもあるのに対し、本件交差道路の幅員は、西側に工事のためのフェンスが設置されていることもあり、四メートルにも満たないものである。

本件交差点には、本件道路を走行する車両用の信号と本件道路上に設置された横断歩道のための歩行者用信号が設置されている。これに対し、本件交差道路から本件交差点に進入しようとする車両を規制する信号機はなく、一時停止規制がなされているのみである。

(二) 本件事故当時、本件道路の新一之橋方面の第一車線上の本件交差点手前には、二台の駐車車両があったため、本件交差道路から本件交差点に進入しようとする車両の運転者にとって、右方の視界は極めて不良な状況であった。

また、本件事故当時の本件道路は交通頻繁であり、赤羽橋方面に向かう車両の流れも多く、新一之橋方面の車線も本件交差点から同方面寄りは車両が渋滞している状況であった。

(三) 被告永田は、本件事故当時、本件交差道路から本件交差点に進入し、赤羽橋方面に向かって右折進行するため、別紙図面のとおり、本件交差点手前の一時停止線手前の<1>地点で一旦停止し、左から右に通過する自転車をやり過ごしてから<2>地点まで前進した。

被告永田は、<2>地点で右方を見たが、前示駐車車両によってなおも視界が遮られた状態であったので(乙一六の3)、更に<3>地点まで前進した。被告永田は、右方を確認したところ車両が来なかったので安心し(乙一六の5)、次に、右折して進入する赤羽橋方面に向かう車線の交通状況を確認しようと左方を視認した。しかし、赤羽橋方面の車線は混んでおり、被告車が入り込むことは容易ではなく、同車線を走行する三台の車両の通過を待った。待機時間は五秒から一〇秒程度であったが、この間、被告永田は<3>地点で完全に停車することなくブレーキを緩めて前進を続けていた。そして、新一之橋方面の第一車線を超えてほぼ第二車線の相当部分を遮る位置にまで至ったとき(路面のタイヤ痕や擦過痕の位置、被告車の凹損部位、被告車が右折しようと右に傾いていたと考えられることからすると、衝突時点での被告車の位置は、別紙<4>地点よりも更に前であったと考えられる。)、右方から走行してきた早坂車と衝突するに至った。

被告永田は、早坂車について、制限速度を遵守していれば被告車との衝突を回避できた旨、時速約七〇キロから八〇キロは出していたと思う旨供述するが、前示のとおり、被告永田は走行する早坂車を現認しておらず、右供述は推測の域を出ないため採用できない。

(四) 淳司は、本件事故当時、バイクによる配送業務を遂行するために本件道路を赤羽橋方面から新一之橋方面に向けて早坂車を運転走行し、青色の対面信号に従って、本件交差点を直進進行しようとしたところ、進行方向左の前示駐車車両の陰から被告車が緩やかに早坂車の進路を妨げるように本件交差点内に進入してきたために、淳司は、とっさに急制動措置を取ったものの、転倒し、滑走した状態で被告車に衝突した。

早坂車は、本件交差点に進入する前に、新一之橋方面の第二車線内の第一車線寄りの路面に停止線を挾んで長さ約一四・八メートルのタイヤ痕を残し、更に横倒しになった状態で長さ〇・六五メートルの擦過痕を残して滑走し、被告車と衝突したことになる。

急制動措置を講ずる前の早坂車の速度は、前示の急制動による路面上のタイヤ痕及び擦過痕の状況、双方の車両の損傷状況並びに弁論の全趣旨によれば、時速五〇キロの速度制限を超過する速度であったことは推認できるが、速度数値を明確に特定するに足りる証拠はない。もっとも、新一之橋方面に向かう車両の前示の渋滞状況に照らすと、同方向に向かう早坂車の速度は、被告らの主張するような速度規制を大幅に超過する速度とは考え難く、右時速五〇キロを若干超過する程度にとどまるものと考えるのが合理的である。

2  被告永田と淳司の過失割合

被告永田は、一時停止義務を尽くし、右方を視認したものの、右方の車両がないことに安心し、それ以降は専ら自らが右折進入しようとする赤羽橋方面の車線の交通状況にのみ注意を払い、その結果、右方の交通状況を全く視認しないまま被告車を前進させて早坂車の進路を妨害する状態を作り出したものであり、本件事故は、被告永田の右方確認を十全に尽くさなかった不注意に主として起因しているものといわざるを得ない。他方、淳司も、対面信号が青色であったとはいえ、本件交差点には本件交差道路を規制する信号機が設置されていない以上、本件交差点を通過するに当たっては本件交差道路を含む周囲の交通状況を十分に注視する必要があり、それによって把握した交通状況に則した運転行動を的確かつ速やかに取るために、速度制限を遵守することはもとより相当程度の減速措置を講ずべきであった。これは、二輪車が急制動措置を取ったり、左右に力が加わったりすることによって簡単にバランスを崩し、転倒する危険性の高いこと、本件では前示駐車車両によって早坂車からの視界が妨げられていたために前方の交通状況を把握するのが遅れ、的確な運転操作をとるための時間的余裕が十分に与えられない危険性があったことに照らすと、その必要性は高かったということができる。しかるに、淳司は、減速はおろか速度制限すら遵守しないまま本件交差点に至ったものであり、衝突の衝撃が主として早坂車の速度によるものであったことも考慮すると、淳司も本件事故の発生に対して相当程度の過失があったといわざるを得ないのである。

そして、前示認定事実を総合的に考慮し、本件事故に対する過失割合は、被告永田が七五、淳司が二五とするのが相当である。

二  争点2(損害額の算定)

〔淳司の損害〕

1 治療費 一三二万七七九〇円

前示のとおりである。

2 文書費(診断書代) 一六〇〇円

本件に必要な文書であり、費用も相当である。

3 入院雑費 一一〇〇円

淳司の治療に伴う相当額の雑費と認められる。

4 被害車両の写真代 認めない

後述する弁護士費用の一部として評価されるものである。

5 逸失利益 三五五四万六四四一円

(一) 基礎収入

(1) 甲一四、一六の1、2、一七、二二の1から6、二三の1から6、弁論の全趣旨によれば、淳司が、平成九年五月から平成一〇年五月までの一年間に自動二輪車を用いた配送業による売上金として四八〇万三八一八円を得ていたことは認められる。しかし、売上金から控除すべき経費については、原告らは、右売上金の一割と主張し、甲二五(陳述書)を提出するのみであり、これを客観的で合理的かつ具体的に検証するために必要である帳簿類(金銭出納帳等)や伝票類などの証明文書(金員の出入りと費目等が明確に記載され、かつ、事後的に改ざんされるおそれが少ない。)を提出しない以上、原告らが計上する費目以外にもヘルメット等の被服代、駐車代、二輪車再調達費用等の費目の経費の有無や金額が不明であるのみならず、原告らが計上したガソリン代についても、例えば個々の売上のためにどの程度のガソリン代を消費したのか、それ以上の購入はあり得ないのかも不明である。したがって、原告らが主張する淳司の現実の所得を認定するに足りる証拠はないといわざるを得ないのである。

(2) しかし、淳司が、本件事故時間もなく二五歳となろうとしていた若年者であり、税務申告をしていなかったにせよ前示配送業務に真面目に従事していたことを考慮すると、たとえ、淳司の現実の所得が不明であり、また、右業務が稼働可能期間全般にわたって遂行可能な職種とは必ずしもいい難いとしても、淳司の将来にわたる逸失利益の基礎収入としては、平成一〇年の高卒男子の同年代(二五歳から二九歳)の平均年収である四〇五万一八〇〇円とするのが相当であると考える。

(二) 計算式

四〇五万一八〇〇円×(一-〇・五)×一七・五四六=三五五四万六四四一円

6 慰謝料 二〇〇〇万円

淳司が二四歳の若さでその人生を終えなくてはならなかった悲しみや両親を残して先立たなければならなかった無念さ等を考慮した。

7 小計 五六八七万六九三一円

8 過失相殺後の金額 四二六五万七六九八円

9 既払金(自賠責保険金と治療費合計額) 三〇二〇万三七一一円

10 既払金控除後の金額 一二四五万三九八七円

11 各原告の相続する損害金額 六二二万六九九三円

〔原告ら固有の損害額〕

12 葬儀関連費用等(原告清吉分) 一五〇万円

淳司の葬儀(仮通夜関係費を含む)のための相当な費用として、右金額を認める。

13 原告ら固有の慰謝料 各一〇〇万円

若年の長男を失い、深い悲しみを負った両親の固有の慰謝料として、淳司の慰謝料とは別途右金額をもって相当と認める。

14 原告清吉固有の過失相殺後の損害額 一八七万五〇〇〇円

(一五〇万円+一〇〇万円)×〇・七五=一八七万五〇〇〇円

15 原告清吉に対する既払金 一四八万九六四八円

16 右既払金控除後の金額 三八万五三五二円

17 原告洋子固有の過失相殺後の損害額 七五万円

一〇〇万円×〇・七五=七五万円

18 原告らの総損害額

(一) 前示11の六二二万六九九三円に、前示16の金額を加算した六六一万二三四五円が原告清吉の損害額、前示17の金額を加算した六九七万六九九三円が原告洋子の損害額となる。

(二) 原告らに対して認めるべき弁護士費用としては、それぞれ七〇万円をもって相当と認める。

19 結論

原告清吉の損害額は七三一万二三四五円、原告洋子のそれは七六七万六九九三円となる。

三  結論

よって、原告らの請求は、被告らに対し、連帯して、原告清吉につき金七三一万二三四五円、原告洋子につき金七六七万六九九三円及び右各金員に対する平成一〇年四月二八日(本件事故日)から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 渡邊和義)

現場見取図

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