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東京地方裁判所 平成11年(ワ)4041号 判決 2000年7月28日

原告

コスモヘルス株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

増渕博史

松田政行

山崎卓也

松葉栄治

早稲田祐美子

齋藤浩貴

谷田哲哉

早川篤志

右訴訟復代理人弁護士

糸井千晴

被告

株式会社シェンペクス

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

正野建樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、別紙被告物件目録記載の商品の製造及び販売をしてはならない。

二  被告は、原告に対し、別紙被告物件目録記載の商品の製造に用いるプラスチック成型用金型を引き渡せ。

三  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年三月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告及び被告は、いずれも医療用機械器具の製造販売を業とする会社であり、株式会社シェンペクスヒーロウズ(以下「シェンペクスヒーロウズ」という。)は、被告と所在地や役員の構成等を同じくする被告の関連会社である(甲一〇)。

2  原告とシェンペクスヒーロウズは、平成六年一二月一五日、左記の条項を含む、別紙原告物件目録記載の商品(以下「原告商品」という。)に関する基本契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲一)。

第一条 シェンペクスヒーロウズは、厚生省認可番号〇六B第〇八四四号の商品を原告のブランド商品として製造し原告に供給する。右商品は、原告の専売品であり、シェンペクスヒーロウズは同機能の商品を原告以外に売り渡し販売させることはしない(以下、本条の後段部分を「本件販売制限の合意」という。)。

第三条 前記商品の本体及び部品の製造に必要な全ての金型一式は、右商品のみの製造に使用されるものであり、原告は、シェンペクスヒーロウズに対し、本件契約締結時に、専用金型使用料として金六七〇〇万円を支払う。

第七条 本件契約の契約期間は、平成六年一二月一五日から平成七年一二月一四日までの一か年とし、原告とシェンペクスヒーロウズのいずれからも申出がない場合、本件契約は自動的に一か年更新される。

3  被告は、右契約締結に先立ち、右商品を製造するための金型(以下「本件金型」という。)の製作を、金型業者数社に発注し、右各業者に合計六七〇九万八〇〇〇円を支払って、本件金型の引渡しを受けた(弁論の全趣旨)。

4  原告は、シェンペクスヒーロウズに対し、同月一六日、六七〇〇万円を支払った。

5  シェンペクスヒーロウズは、右契約に基づき、継続的に、右商品を原告に販売し、原告は、平成七年四月ころから、右商品を、「コスモドクターV九〇〇〇」との商品名で販売した(弁論の全趣旨)。

6  被告は、平成九年初めころ、シェンペクスヒーロウズから、本件契約の契約上の地位を譲り受け、原告はこれを承認した(甲一〇、弁論の全趣旨)。

7  原告と被告は、平成九年四月二四日、本件契約を同年六月三〇日の納品をもって終了するとの合意をした。

8  被告は、平成一〇年七月ないし八月ころから、別紙被告物件目録記載の商品(以下「被告商品」という。)を製造販売している(弁論の全趣旨)。

二  本件は、原告が、本件販売制限の合意が本件契約終了後も効力を有すると主張して、主位的に本件販売制限の合意に基づき、予備的に不正競争防止法に基づき、被告商品の製造販売の差止めを求めるとともに、右製造販売による損害の賠償を求め、さらに、本件金型を被告から譲り受けたが、被告は、本件金型を使用して被告商品を製造していると主張し、所有権に基づき、右金型の引渡しを求める事案である。

第三争点及びこれに関する当事者の主張

一  争点

1  本件販売制限の合意が、本件契約終了後も効力を有するか。

2  被告の被告商品の製造販売が、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に当たるか。

3  原告が本件金型の所有権を取得したか。

4  損害の発生及び額

二  争点に対する当事者の主張

1  争点1について

(原告の主張)

本件契約は、第一条の「乙のブランドとして供給し」及び「乙の専売品であり」との文言のとおり、シェンペクスヒーロウズが原告商品を製造し、原告が自社ブランドとして販売することを合意するものであり、いわゆるOEM契約である。

OEM契約は、発注者の社名、発注者が定めた商品名、発注者用のデザインによって特定される商品を発注者のみが使用し得ることを、製造請負人が承認する合意を含む。本件契約も、原告商品のデザインが、原告の専用のデザインであることをシェンペクスヒーロウズが承認する合意を内在するというべきである。

本件販売制限の合意は、右のように請負人が発注者の商品を固有のものとして他の商品と識別することを承認したことに由来するのであるから、特段の事情がない限り、OEM契約の終了によって消滅するものではない。

OEM契約において、請負人が発注者の業務に関わる商品を契約終了後自由に製造販売し得るとすると、請負人は投下資本を要しないから、低価格により販売を行うことができ、多大な利益を取得し得ることになる一方、発注者は、同一商品を請負人が供給することで、低価格の同一商品が市場に置かれ、従前の顧客等からの信頼を失うことになる。

したがって、本件販売制限の合意は、OEM契約が終了した後も効力を有し、契約の終了後も被告を拘束する。

(被告の主張)

本件販売制限の合意は、本件契約の存続中にシェンペクスヒーロウズが原告商品を原告以外へ販売することを禁止するものであり、本件契約に、契約終了後も右禁止が存続することを伺わせる条項は存在しない。

また、原告商品は、被告が従来から製造販売してきた家庭用電位治療器を全面的に改善、改良した最上位製品であり、本来被告が自社製品として企画し、その原型のみならず、商品自体も被告が開発経費を投じて設計開発し、厚生省から製造の認可を受けたものであるが、原告の申入れを受けて、本件契約を締結し、一時的に、原告ブランドで販売することになったものである。

このように、原告商品は、被告が電位治療器の専門メーカーとして永年にわたる研究、開発により蓄積した技術力、ノウハウの成果であって、被告がそれ相当の資本、日数をかけて独自に開発したものであるのに対して、原告は原告商品の開発に一切関与していないのであるから、被告が、原告商品の製造、販売が永久にできなくなるような約定に合意するはずがない。

2  争点2について

(原告の主張)

(一) 特定の商品形態が、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用された場合において、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需要者の間で周知になったときは、右商品形態がその技術的機能に由来する必然的なものでない限り、不正競争防止法二条一項一号の「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」に該当する。

(二) 原告商品の形態は、全体としては直方体状であるが、ほとんどの辺の部分は直線ではなく丸みを帯びているため、全体として丸みを帯びた印象を有する。また、本体が、丸みを帯びた台座にはめ込まれている。

原告商品の外形寸法は、幅二一センチメートル、奥行三四センチメートル、高さ四七・三センチメートルである。

原告商品の前面の上部から中央部にかけては緩やかな楕円形を描き、下部よりも若干盛り上がった形になっている。前面上部には通電経過時間等を表示するディスプレイ画面があり、中央部左にはスイッチの中でもっとも大きく、唯一横長の主電源スイッチ、右にはブザースイッチ、表示画面の明るさ表示スイッチが上下に並んでおり、下部の右には負荷切替スイッチがある。そのさらに下には前面に突出した部分があり、そこに二つの出力口が左右に並んでいる。また、左右の側面上部には、一様にくぼんだ溝のような部分が存する。

(三) 被告商品の販売開始時期である平成一○年七月ないし八月ころまでの間に、原告と同様の形態的特徴(特に全体的な丸み)を有する他の商品は存在しなかったから、右のような原告商品の形態は、平成一○年七月ないし八月ころの時点において、他の業者の同種商品には見られない独自の形態であったというべきである。

原告商品は、原告が一億円以上の宣伝費をかけて、全国放送の人気テレビ番組のコマーシャルや全国販売の健康月刊誌等で宣伝したこと、平成七年の販売開始以来、被告商品の販売開始までに、総計一万七八二五台、年間平均約七〇〇〇台を売り上げ、同種機器の中で約二五パーセントと全国二位のシェアを占めていたこと、全国に二二三カ所ある原告の販売拠点で販売されていたことの各事実により、遅くとも平成一〇年七月までには、その形態が、原告の商品であることを示す商品表示として、健康器具の需用者の間に広く認識されるようになった。

原告商品の形態は、電力を利用した健康機械の技術的機能に由来する必然的なものではない。例えば、全体的な丸みは外観上の美点以外に意味はないし、デイスプレイ画面の大きさ並びにスイッチの形、大きさ及び位置も原告商品と異なっても機能に何ら影響はない。左右側面の溝も、持ち運びの際手が掛けられる程度の長さがあれば足りるのであって、原告商品ほどの長さは必要ない。

したがって、原告商品の形態は、不正競争防止法二条一項一号の「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」に該当する。

(四) 被告商品は、その全体的外形から細部の形状に至るまで原告商品そのものであり、特に、全体に丸みを帯びている点、外形寸法、表示装置の位置と表示内容、各種スイッチの形・大きさ・位置、出力口の位置など、原告商品と同一である。

(五) 被告商品は、右のとおり原告商品の完全なデッドコピーであるうえ、付属部品も同一で、商品名も原告の「Vー9000」に対し、被告は「FAー9000」という名称を用いており、被告商品の取扱説明書は、原告商品の取扱説明書と酷似しているから、消費者に商品主体についての混同を生じさせる。

(六) なお、原告商品は、平成九年末ころに販売が終了したが、不正競争防止法の保護は、このように近接した過去において使用されていた商品表示にも及ぶというべきである。

(被告の主張)

原告の右主張は否認ないし争う。

3  争点3について

(原告の主張)

(一) 原告は、被告との間で、平成六年一二月ころ、本件契約の附随契約として、本件金型の製造を被告が六七〇〇万円で請け負う契約を締結した。

(二) 原告が、被告に対し、同月一六日、右六七〇〇万円を支払ったことにより、本件金型の所有権は、原告に移転した。

(三) 原告の被告に対する支払は、六七〇〇万円という巨額なものであること、原告は、本件契約を合意解約する際、被告に本件金型の返還を請求したこと、原告が本件金型について被告の指示に従って所有権を有することを前提とした減価償却しているのに対し、被告は、本件金型につき所有権を有することを前提とした減価償却をしていないことからも、本件金型の所有権を原告が有していることが裏付けられるというべきである。

(被告の主張)

(一) 本件契約の第三条は、六七〇〇万円を本件金型の使用料と明確に規定している。

(二) 原告商品は、本来被告が自社製品として製造販売するために開発されたものであるが、本件契約の存続中は、本件金型は、原告のための商品の製造のみに使用されることになる。被告は、本件金型の所有者であるにもかかわらず、このような拘束を受けるようになることから、その補償の意味も含めて、原告から、本件金型の使用料として六七〇〇万円の支払を受けたものである。被告は、原告商品を大幅に安い価格で原告に供給していたから、原告は、右使用料を支払っても、十分に利益を得ることができた。

4  争点4について

(原告の主張)

(一) (1) 原告は、原告商品を年間平均七〇〇〇台売り上げていたが、被告が被告商品を販売したことにより、平成一〇年は原告の電位治療器の売上げは年間六〇〇〇台以下になった。

原告の電位治療器の一個あたりの利益額は少なくとも数万円であるから、右売上げの減少数に右利益額を乗じた額が原告の逸失利益の額になる。

(2) 被告が被告商品の販売により得た利益の額は、被告商品一個当たりの利益額が数万円、売上高は一〇〇〇台に達していることから、少なくとも一〇〇〇万円を下らない。

(二) 被告が被告商品を廉価で販売したことにより、原告商品の購入者が原告商品と被告商品との価格差に憤慨し、原告の信用が著しく毀損される結果となった。右信用毀損により原告に生じた損害は五〇〇万円である。

(三) 原告は、(一)及び(二)の損害額のうち一〇〇〇万円の賠償を求める。

(被告の認否)

損害の発生及び額については争う。

第四当裁判所の判断

一  争点1について

1  前記第二の一の事実に証拠(甲一、三、九、一〇、一四、二四、乙二、三、五)と弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、一〇数年にわたり、高圧電位治療器を開発し、製造販売してきたものであるが、平成四年ころ、被告の既存の製品の最上位機種の開発に着手し、平成六年八月二六日、右機種につき、商品名「シェンペクスFA九〇〇〇」との被告の会社名を冠した名称で、厚生大臣による医療用具製造承認を受けた。

(二) 原告は、平成六年ころ、OEM方式による自社ブランドの製品を販売していたが、製造先との間で軋轢が生じ、主力製品の変更を迫られていたところ、製造承認を受けている被告の右製品であれば、短期間に商品化できることから、同年一〇月ころ、被告との間で、被告が右製品を原告のブランド名で製造して供給することについての交渉を開始した。

右交渉において、被告は、製品のデザインを原告代表者らの意見を聞いて確定させるとともに、電圧や付属部品、製品の色についても、原告代表者らの意見を取り入れて決定した。しかし、右交渉の過程で、右製品の構成や機能が大きく変化したことはなかった。また、右製品の開発に関する費用を原告が直接支払うことはなかった。

(三) 右交渉に基づいて、原告は、被告の関連会社であるシェンペクスヒーロウズとの間で、同年一二月一五日、本件契約を締結したが、その契約には、本件販売制限の合意の効力が本件契約終了後も存続する旨の条項はなかった。また、右契約には、原告はシェンペクスヒーロウズに対して金型使用料として六七〇〇万円を支払う旨の条項があり、原告は、シェンペクスヒーロウズに対して六七〇〇万円を支払った。これは、本件金型の製作代金にほぼ匹敵する金額であるところ、原告は、これ以外に被告又はシェンペクスヒーロウズに対して原告商品の開発経費を支払ったことはない。

(四) 被告は、同年一二月二六日、厚生大臣に対し、前記医療用具製造承認について、「販売先により販売名が異なる為」との理由を付して、商品の販売名として「コスモV九〇〇〇」及び「コスモドクターV九〇〇〇」を追加することの一部変更承認申請を行い、平成七年四月三日、右申請が承認された。

(五) 本件契約において、原告商品の取扱台数は年間に一万ないし二万台程度が予定され、また、シェンペクスヒーロウズの原告に対する原告商品の仕切価格は初年度が一台九万八〇〇〇円、第二年度が一台九万二〇〇〇円、第三年度が一台八万八〇〇〇円であったところ、原告は原告商品を一台四八万五〇〇〇円で販売し、本件契約終了までに一万七八二五台(内訳は後記二2(一)認定のとおり)を売り上げた。

(六) 原告と被告は、本件契約を終了する合意をした際、契約終了後の法律関係を明確にするために、合意書を作成したが、右合意書において、本件契約終了後被告が原告商品又はそれと同機能を有する商品を製造販売することを禁止する条項はなかった。

2  右1認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告商品は、被告が自社製品の最上位機種として販売するために開発し、医療用具製造承認を受けた製品を、原告の商品とするために、原告代表者らの意見を容れて変更を加えたものであること、原告は、金型使用料として六七〇〇万円を負担したものの、それは、本件金型の製作代金にほぼ匹敵する金額にすぎず、原告は、その余の開発費用は負担していないこと、原告商品は、シェンペクスヒーロウズの原告に対する仕切価格と原告の販売価格の差が大きいため、本件契約で予定されていた販売台数からすると、原告は右使用料を大幅に上回る利益を得ることが見込まれていたこと(原告が原告商品の販売によって現実に得た粗利益の額は、約七〇億円と推認される)、以上の事実が認められる。このように、原告商品は、もともと被告が開発したものであって、原告が負担した費用も、全体の費用の一部にすぎず、しかも、その金額は、本件契約における原告の利益額からすると、決して高額とはいえないのであるから、本件販売制限の合意の効力が、本件契約終了後も存続しなければならないというべき事情は認められない。そして、このことに、本件契約の契約書や1(六)認定の合意書に本件契約終了後も本件販売制限の合意が効力を有する旨の条項が存しないことを総合すると、本件販売制限の合意の効力が本件契約終了後も存続するとは認められない。

3  原告が主張するように、本件契約に、原告商品のデザインが原告の専用のデザインであることをシェンペクスヒーロウズが承認する合意が含まれる(第三の二1原告の主張)としても、右2で述べたところからすると、そのような合意の効力は、本件契約の存続期間中に限られるというべきである。また、原告が主張するように、請負人が発注者の業務に関わる商品を契約終了後自由に製造販売し得るとすると、発注者が不利益を被ることがある(第三の二1原告の主張)としても、右2で述べたところからすると、本件契約においては、やむを得ないというべきである(殊に、契約終了後に発注者が不利益を被るおそれがあるのであれば、それを避けるために、契約中で契約終了後の法律関係について定めておくことが考えられるが、本件契約には、そのような定めはないから、やむを得ないというべきである)。

4  以上のとおり、本件販売制限の合意の効力が、本件契約終了後も存続するとは認められない。

二  争点2について

1  商品の形態は、本来商品の出所表示を目的とするものではないが、特定の商品の形態が他の業者の同種商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が、商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示として需要者の間で広く認識される場合があるというべきである。

2  前記第二の一の事実に以下の証拠を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 原告商品は、平成七年三月ころから、販売が開始されたところ、原告商品の売上げは、平成七年度に七五二一台、平成八年度に七二三九台、平成九年度には三〇六五台であった(甲一九の一ないし一二)。

原告商品は、全国にある原告の二〇数か所の営業所及び二二〇ないし二三〇か所の販売店舗で販売され、また、各営業所で、原告商品の展示即売会が行われた(甲一〇、甲一八の一ないし三、甲二四)。

(二) 原告は、タレントの【C】を起用して原告商品のテレビコマーシャルを製作し、右コマーシャルは、平成七年一〇月から平成八年三月までの間、全国放送であるテレビ朝日の番組「スーパーモーニング」及び地方局であるテレビ岩手の番組「思いっきりテレビ」において、平日に、毎日、放送された(甲七、一〇、二三、弁論の全趣旨)。また、原告は、平成八年五月から、雑誌「NHKきょうの健康」及び「壮快」において、原告商品の広告を、合わせて五回掲載した(甲七、一〇、二六)。

(三) 原告は、平成九年末ころまでには、原告商品の販売を終了し、それ以後は、原告商品を販売していない(弁論の全趣旨)。

以上の事実によると、原告商品は、平成七年三月ころから平成九年末ころまで販売されたにすぎないから、原告商品の形態が原告によって長期間に渡り継続的かつ独占的に使用されたとはいえず、また、原告商品の宣伝広告の程度からは、原告商品につき、その形態を周知たらしめるほど強力な宣伝が短期間にされたとも認められない。そのうえ、被告商品の販売が開始された平成一〇年七月ないし八月当時には、原告商品は販売を終了してから半年以上が経過しており、右(二)認定に係るテレビコマーシャルが終了してからは二年以上を経過している。そうすると、被告商品の販売が開始された平成一〇年七月ないし八月以降の時点において、原告商品の形態が、商品表示として周知であったとは認められない。

3  以上によると、その余の点を判断するまでもなく、被告による被告商品の製造販売は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に当たるとは認められない。

三  争点3について

1  原告は、被告との間で、平成六年一二月ころ、本件契約の附随契約として、本件金型の製造を被告が六七〇〇万円で請け負う契約を締結し、代金を支払ったので、原告が本件金型の所有権を有すると主張する。

しかしながら、原被告間で右契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。また、証拠(甲一)によると、本件契約の第三条に、原告がシェンペンクスヒーロウズに本件金型の使用料として六七〇〇万円を支払うこと、原告製品のモデルチェンジなどに伴う新たな金型の使用料については、金型製作費の半額とすること、本件金型の保守、修理、改良等はシェンペンクスヒーロウズの責任と費用で行うことが規定されていることが認められるが、この規定は、被告又はシェンペンクスヒーロウズが本件金型を所有していることを前提としているものというほかないうえ、証拠(甲三、乙五)によると、原告と被告は、本件契約終了時に、契約終了後の法律関係を明確にするための合意書を作成したが、右合意書において、当時被告が占有していた本件金型を原告に返還するなどの本件金型についての条項がなかったことが認められるから、これらの事実に照らしても、原告の右主張は認められない。

なお、前記一1認定のとおり、原告が被告に支払った六七〇〇万円は、本件金型の製作代金にほぼ匹敵する金額であるが、本件契約では、この金員について、金型使用料と明記されているうえ、前記一1認定のとおり、原告は右金員を大幅に上回る利益を得ることが見込まれていたのであるから、六七〇〇万円を支払ったにもかかわらず金型の所有権を取得できないとしても、必ずしも原告にとって不利益であるとはいえない。したがって、右金員が、本件金型の請負代金であるとは認められない。

また、証拠(甲八の四、甲一一)によると、原告は、本件金型について、その償却期間を被告に確認したうえ、減価償却をしたことが認められるが、右償却は、原告における会計処理をそのようにしたというにすぎず、そのことから直ちに原告主張に係る右契約の成立を認めることはできない。

2  以上によると、原告主張に係る右契約の成立を認めることはできず、原告が本件金型の所有権を取得したとは認められない。

四  以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 岡口基一 裁判官 男澤聡子)

<以下省略>

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