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東京地方裁判所 平成11年(ワ)4827号 判決

原告 株式会社会澤工務店

右代表者代表取締役 会澤保

右訴訟代理人弁護士 横松昌典

同 坂勇一郎

被告 岡崎文男

右訴訟代理人弁護士 園部洋士

主文

一  被告は、原告に対し、金四二〇万円及びこれに対する平成一〇年五月八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  請求

主文と同旨

二  事案の概要

本件は、建物の建築業者である原告が被告に対し、マンションの建築計画が頓挫したことにより、建築のための準備行為に関する報酬や要した費用につきこれを商法五一二条(商人の報酬請求権)の規定に基づいて請求した事案である。

(前提となる事実)

1  原告は建築工事の請負業を目的とする会社であり、被告は肩書住所地において酒屋、電気店等を経営している(争いがない)。

2  平成九年四月二二日、原告と被告との間で、仮称「岡崎マンション」(以下「本件建物」という。)として建設工事請負契約書(以下「本件契約書」という。)が工事内容や請負代金等の未確定のまま取り交わされたが、その後、契約金の支払も建築工事の着工もされることなく、今日に至っている(争いがない、甲五)。

3  原告は、平成一〇年五月七日、被告に対し、報酬等として四二〇万円(消費税を含む。)の支払を請求した(争いがない、甲二、三)。

なお、被告は、平成八年五月に多発性脳梗塞などの診断を受けて、同月から通院加療をしていた(乙二の1・2、五)。

(判断すべき事項)

1  原告の主張

(一)被告は、平成九年四月二二日に本件契約書が取り交わされた際、原告に対し、本件建物の建築工事に必要な<1>設計と構造計算、<2>確認申請、<3>開発許可と事前協議及び<4>地質調査について、これらの事務処理(以下「本件準備」という。)を明示に又は少なくとも黙示に委託(以下「本件委託」という。)した。

その後、原告は本件準備を行い、これに相当する報酬額と実費分の合計は四二〇万円(消費税を含む。)を下らない。

(二)仮に、本件委託が認められなくとも、原告は義務なくして他人である被告のために本件準備を行ったのであって、これは事務管理にあたる。

(三)よって、原告は、被告に対し、商法五一二条に基づき、本件準備の報酬と実費の合計金として四二〇万円及びこれに対する支払催告日の翌日である平成一〇年五月八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告の主張

(一)平成九年四月二二日に本件契約書が取り交わされた際、原告と被告との間で、本件建物の建築工事につき正式な合意は何らされず、いわゆる仮契約をしたにすぎないのであって、被告から原告に対して本件委託もしていない。

その後、被告は、平成九年七月七日、原告に対し、本件建物の建築工事につき正式な契約をしない旨申し入れた。

(二)本件準備は、原告自身の事務であり、仮に、被告の事務にあたるとしても、被告の利益のためにされたものでなく、原告の自己の利益のためにされたものであって、事務管理にあたらない。

三  当裁判所の判断

1  前記二(前提となる事実)に加え、証拠(甲五~一三、一五、乙一~二の2、四の1~5、六、証人山口浩生、被告、調査嘱託)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる(なお、証人山口浩生の証言によれば、甲第七及び第一〇号証中の各被告作成名義部分について、その真正な成立が認められ、また、同第五号証〔本件契約書〕について、不動文字以外は白地の契約書に被告が署名押印したものとは認められない。)。

(一)被告は、電子部品の製造等を目的とする岡崎電子有限会社を経営し、被告肩書住所地の自宅兼店舗で酒屋を個人で営んでいる。原告の営業担当社員であった山口浩生(以下「山口」という。)は、叔父が酒問屋をしていた関係で被告と面識があり、平成九年三月ころ、被告に対して自宅の建替えを勧めたが、被告にその意思がなく、自宅建替えの件は立ち消えた。しかし、被告が茨城県常陸太田市に所有する土地(同市西三町字西道六三二番一畑〔二一三平方メートル〕、以下「本件土地」という。)について、従前からタクシー会社の駐車場として賃貸されており、本件土地の有効活用という観点から、山口が賃貸マンションの建築を勧めたところ、被告も興味を示したため、その後、原告と被告の間で、本件建物の建築の構想が進展した。

(二)平成九年四月一四日ころ、山口と被告の間でされた協議では、本件建物を三階建てにして駐車場のスペースを確保する計画であり、建築のための資金を全額銀行借入れとして、総戸数八戸(2LDK)の場合と九戸(2DK)の場合で、それぞれ工事費用、返済額、賃料収入等の収支を記した試算表などをもとに、山口から被告に対して、前者の場合、工事費関係が一億一一四〇万円余、銀行から一億一二〇〇万円を金利二・五パーセントで借りて月額四四万三〇〇〇円の三〇年間返済で、賃料等の収入が月額五二万八〇〇〇円(一戸あたり六万六〇〇〇円)とみて年額一〇二万円の収益となり、後者の場合は、工事費関係が八八二七万円、銀行から右同額を金利二・五パーセントで借りて月額三四万九〇〇〇円の三〇年間返済で、賃料等の収入が月額五四万九〇〇〇円(一戸あたり六万一〇〇〇円)とみて年額二四〇万円の収益となる旨の説明がされた。

その結果、被告は後者を選択し、本件建物について、2DKの仕様で九戸の三階建てとする方向で計画が進められた。

(三)平成九年四月二二日、原告の那珂営業所に被告、山口、原告の熊谷和平支店長ら関係者が集まった。被告は、あらかじめ指示されたとおり、収入印紙と実印を持参しており、従前の協議のとおり、本件土地上に鉄筋コンクリート三階建ての本件建物を建築し、着工予定同年九月初日、完成予定平成一〇年一月末日、請負代金八八二七万円に消費税四四一万三五〇〇円で合計九二六八万三五〇〇円(契約金二七八〇万五〇五〇円、中間金三七〇七万三四〇〇円、最終金二七八〇万五〇五〇円)、但し、「※当契約書については、本図面等が正式決定後再見積りの上、金額を取り決めするものとする。」との内容が確認され、注文者の被告が署名押印し、請負者の原告が記名部分に押印して、本件契約書が取り交わされた。

その際、熊谷支店長や山口は、被告に対し、今後、各種書類の作成やボーリング調査などが必要になる旨を説明し、被告もこれを了解した。

(四)平成九年五月六日、原告の依頼を受けた協栄調査工事株式会社により、本件土地のボーリング調査が行われた。

その後、被告が採算の問題から本件建物を四階建ての一二戸に変更する意向を示し、山口から四階建てでは全戸分の駐車場の確保ができない旨説明された結果、近所に駐車場を確保するよう指示し、山口が近所の地主と交渉して駐車場を借りる約束を取りつけた。

山口は、被告に対し、本件土地上の駐車場は二台のみで、工事費関係が一億二四〇四万円、銀行から右同額を金利三・〇パーセントで借りて月額五二万三〇〇〇円の三〇年間返済で、賃料等の収入が月額七五万四〇〇〇円とみて年額二七七万二〇〇〇円、金利が五パーセントでは、返済月額が六六万六〇〇〇円で年額一一二万八〇〇〇円の各収益となる旨説明を加えた。

そして、そのころ、原告は、本件契約書のコピーを用いて、銀行融資の申込資料とするため、鉄筋コンクリート造四階建て、請負代金一億一六五二万円に消費税五八二万六〇〇〇円で合計一億二二三四万六〇〇〇円(契約金三六七〇万三八〇〇円、中間金四八九三万八四〇〇円、最終金三六七〇万三八〇〇円)などとする内容の書面〔甲第一号証〕を作成した。

(五)その後、本件建物(四階建て)について、平成九年六月三〇日に原告の依頼を受けたマスプロ電工株式会社によりテレビ電波障害の事前調査がされ、同年七月中に構造計算やアイ・建築設計による設計がされて、同月二八日、常陸太田市役所都市計画課に確認申請書が受理され、そうして、建築主事から同年九月二日に確認通知がされた。また、同月一二日、山口と被告の間で、新たに本件土地の測量図を作成する件、地鎮祭の件、本件土地に設定された抵当権の件(残債務の確認)のほか、本件土地と国道や花壇、電話ボックスのある部分との境界の件などの打合せがされた。

この間、原告は、被告の意向を受けて被告に代わり、株式会社常陽銀行太田支店に対し、本件契約書のコピーを用いて新たに作成した前記の書面などをもとに、本件建物の建築工事の融資の相談をしたところ、銀行が本件土地に設定された先行する抵当権の抹消ができるかを問い合わせたため、山口がこれを被告に確認している。

(六)被告は、当時、多発性脳梗塞、変形性頸椎症、小脳梗塞、三叉神経領域過敏症の診断を受けていたが、平成八年五月に二日、同年六月に四日、同年七月に二日、同年八月に一日、同年九月に一日、同年一〇月に二日、同年一一月に一日、同年一二月に二日、平成九年一月に二日、同年二月に一日、同年三月に一日、同年四月に一日、同年五月に一日、同年六月に一日、同年七月に四日、同年八月に一日、同年九月に一日、同年一〇月に一日、それぞれ自宅から一〇キロメートル以上離れた水戸市内の病院まで、自ら自動車を運転して通院していた。

なお、右認定事実に関して、被告本人尋問の結果や乙第六号証〔被告の陳述書〕中には、平成九年七月七日に被告が原告の従業員林広恵を通じて本件建物の建築工事につき正式契約をしない旨申し入れたとか、これより前の同年六月中にも山口に対して断ったことがあるとか、同年七月の申入れをした後、原告からしばらく連絡がなく、山口が同年九月にまた契約の再考を求めて自宅を訪問したが、同年秋ころに山口や熊谷支店長に対して従前と同様に断りの申入れをしたなどと供述する部分があるが、同年九月一二日に本件建物の工事を前提とした打合せがされていることが明らかであることからして、右の各供述部分はたやすくこれを措信することができず、少なくとも、同年九月の右時点までは、結局のところ、被告においても、本件建物の建築工事を行う意向であったものと認めるのが相当である。

2  前記二(前提となる事実)及び右認定事実を踏まえてみれば、原告と被告との間で、平成九年四月二二日に本件契約書が取り交わされた際、被告が原告に対して本件準備(本件建物の建築工事に必要な<1>設計と構造計算、<2>確認申請、<3>開発許可と事前協議及び<4>地質調査についての事務処理)を委託(本件委託)したものと認めることができる。

そして、証拠(甲二、一一、一六~一八、乙四の1・5)及び弁論の全趣旨によれば、本件準備にかかる報酬ないし実費として、<1>設計と構造計算を三〇〇万円、<2>確認申請を三〇万円、<3>開発許可と事前協議を五〇万円、<4>地質調査を二〇万円とみて合計四〇〇万円に消費税二〇万円を加算した四二〇万円を下ることはない(殊に、社団法人東京都建築士事務所協会作成の「建築士事務所の業務報酬算定指針1997」〔甲第一六号証〕によれば、本件建物(四階建て)の場合、建築士業務の報酬標準額は、最低でも六九六万円は下らないものと認められる。)ものと認める。

3  したがって、以上のとおり、原告は、商人として、本件委託により、その営業の範囲内において、他人である被告のために本件準備を行ったものであり、商法五一二条の適用があることになるから、原告の請求は理由があるものと判断する。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 平田直人)

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