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東京地方裁判所 平成11年(ワ)5184号 判決 2000年10月31日

原告

株式会社クリエイトフューチャーズ

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

小松哲

被告

株式会社アイン

右代表者代表取締役

【B】

被告

株式会社成幸社

右代表者代表取締役

【C】

右両名訴訟代理人弁護士

井手聰

被告

バイオ電子サービス株式会社

右代表者代表取締役

【D】

右訴訟代理人弁護士

浅古栄一

右訴訟復代理人弁護士

梅宮毅雄

被告

アルバこと【E】

右訴訟代理人弁護士

渡辺正之

主文

一  被告株式会社アインは、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年三月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社アインに対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告株式会社アインとの間においては、原告に生じた費用の七分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告とその余の被告らとの間においては、全部原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告らは、連帯して、原告に対し、七〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年三月二〇日(被告ら全員に対する訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  一項につき仮執行宣言

第二事案の概要

原告は、継続的供給契約に基づき健康食品の供給を受けていたが、1 売主である被告株式会社アイン(以下「被告アイン」という。)及び同バイオ電子サービス株式会社(以下「被告バイオ電子」という。)が正当な理由なく商品の供給を停止したことは債務不履行に当たる、2 直接の売主でないその余の被告らが原告を排除する目的で右債務不履行に加担したことは不法行為に当たる、3 被告らが右健康食品につき原告と同一の商品表示を用いる行為は不正競争行為に該当すると主張して、被告らに対し債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を求めている。

一  当事者間に争いのない事実等(証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。)

1  原告は、健康食品を訪問販売組織を用いて販売することを業とする会社であり、レンチラスサークという商品(以下「本件商品」という。)を扱っている。本件商品は、多糖類タンパク(AHCC)にラクリス菌(LBC)を加えた健康食品であり、原告会社はこれに「レンチラスサーク  LENTILAS SAHCC」の表示(以下「本件商品表示」という。)を付して販売している。

2  本件商品は、当初株式会社クリエイトジャパン(以下「クリエイトジャパン」という。)が扱っていたが、平成一〇年二月二八日以降は株式会社ロータリーコーポレーション(以下「ロータリー」という。)が扱うようになった。その後、当時ロータリーの代表者であった【A】(現在の原告会社代表者)は、クリエイトジャパンに相当する訪問販売組織の販社として、同年六月一一日原告会社を設立したが、その際原告会社の代表取締役に就任したのは、被告アインの代表取締役の【B】であった。

3  本件商品の供給ルートは、次のとおりであった。

株式会社アミノアップ化学(以下「アミノアップ化学」という。)は本件商品の原料を被告成幸社に供給し、同被告はその原料を用いて本件商品を製造し、被告アインに卸していた。被告アインはこれを更に被告バイオ電子に卸し、同被告はこれを更にクリエイトジャパンに卸していた。

4  被告アルバこと【E】は、原告会社の法人営業部長の肩書を有していたが、平成一〇年八月三日に開催された販社・販社代理店会議の席上で、原告会社の訪問販売組織からの脱退を宣言し、その後原告会社と同様の訪問販売組織を用いて本件商品を販売していた。(甲一〇、弁論の全趣旨。ただし、被告【E】が右肩書を有していたことは同被告との関係では争いがなく、原告主張の日に販社・販社代理店会議が開催されたことは被告バイオ電子及び同【E】の関係では争いがない。)

5  原告会社の株主でもあった【A】は、【B】が当時原告会社の代表者の地位にありながら取締役としての忠実義務に違反する行為をしていたとして、平成一〇年八月二〇日【B】を債務者として違法行為差止めの仮処分(以下「本件第一仮処分」という。)を東京地方裁判所に申し立てたが、同年九月四日訴訟外で原告会社、被告アイン、同バイオ電子及び同【E】の四者の間に、今後は被告アインが同バイオ電子を経由して原告会社、被告【E】の双方に本件商品を供給する旨の合意が成立したので(以下、この合意を「四者間合意」という。)、同月七日右仮処分の申立てを取り下げた。(本件第一仮処分の申立て、取下げの事実につき被告バイオ電子の関係で甲一四、原告代表者)

また、四者間合意の成立と同時に、【B】は原告会社の代表取締役を辞任し、【A】が原告会社の代表取締役に就任した。(被告アイン、同成幸社の関係で甲二三)

6  原告会社は、平成一〇年九月二三日、四者間合意を破棄する旨の申入書を発送し、右意思表示はそのころ右合意のその余の各当事者に到達した。(被告バイオ電子の関係で甲一六)

そして、原告は、同月二八日被告成幸社を除く本訴の被告らを債務者として不正競争防止法に基づく商品販売差止め等の仮処分(以下「本件第二仮処分」という。)を東京地方裁判所に申し立てたが、右事件は平成一一年二月一六日和解により終了した。(甲二二、証人【F】)

二  争点

1  原告と被告アイン、同バイオ電子との間にそれぞれ直接の契約関係が認められるか。

2  被告アインないし同バイオ電子は債務不履行責任を負うか。

3  右被告両名の少なくとも一方に債務不履行が認められる場合、被告らはこれに加担して原告に対する本件商品の供給を妨害したことを理由に不法行為責任を負うか。

4  被告らの行為が不正競争行為に該当するか。殊に、本件商品表示に周知性又は著名性が認められるか。

5  原告の損害額

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(原告と被告アイン、同バイオ電子間の契約関係)について

(原告の主張)

前述のとおりクリエイトジャパンは被告バイオ電子から本件商品を仕入れていたが、平成八年九月ころ同被告及び被告アインとの間でそれぞれ本件商品に関する継続的供給契約を締結した。その後、ロータリーがクリエイトジャパンの権利を承継した平成一〇年二月二八日の時点で、ロータリーは本件商品の約六〇パーセントに相当する量を直接被告アインから仕入れるようになった。

そして、同年六月一一日に原告会社が設立された時点で、原告会社はロータリーから右継続的供給契約の買主の地位を承継し、引き続き被告アインから約六〇パーセント、同バイオ電子から約四〇パーセントの割合で本件商品を仕入れることになった。

(被告【E】を除く被告らの主張)

被告アインと原告会社との間に本件商品の継続的供給契約が存在したこと、本件商品の供給の割合は、被告バイオ電子が約四〇パーセントであるのに対し、被告アインが約六〇パーセントであったことは否認する。

(被告【E】の主張)

原告会社が本件商品の約六〇パーセントを直接被告アインから仕入れていたことは知らない。

(被告バイオ電子の反論)

本件商品の販売ルートは、被告成幸社、被告アイン、被告バイオ電子、原告会社と順次つながるもの一つだけである。ただし、一時的に、被告バイオ電子を通さないで被告アインから原告会社ないしロータリーに本件商品が流れたことがあったが、その割合は約七パーセントである。

2  争点2(被告アイン、同バイオ電子の債務不履行責任)について

(原告の主張)

被告アイン及び同バイオ電子は、平成一〇年八月四日以降、正当な理由がないのに一方的に原告会社に対する本件商品の供給を停止した。これは右継続的商品供給契約に基づく商品供給義務の不履行に当たる。

(被告アインの反論)

被告アインは、四者間合意の成立後である平成一〇年九月一〇日、被告バイオ電子から本件商品一〇ケース(三六〇本)の注文を受けたが、その商品の納品を停止した事実はある。しかし、右商品供給の停止には以下のような正当な理由があり、被告アインは原告に対し債務不履行責任を負わない。

(一) ロータリーによる覚書の不提出(理由1)

【B】は平成一〇年六月一日原告会社代表者に就任したが、四者間合意の成立した同年九月四日には早くも退任することになった。その理由の一つは、ロータリーによる本件商品のクレジット販売を止めさせることができなかったということであった。そこで、【B】は、退任に当たり、原告会社及びロータリーに対して、薬事法や訪問販売法に違反するようなやり方で本件商品を販売しないこと、各販売者相互及び商品供給元に対し誹謗中傷などの営業妨害行為をしないことを内容とする別紙の内容の覚書(以下、単に「覚書」という。)の提出を求めた。

被告アインがロータリーに対しても覚書の提出を求めたのは、原告会社とロータリーはその販売実態が同じであり、ロータリーは従前クレジット契約を利用した販売を多数行い、アミノアップ化学が被告アインに対しクレジットによる本件商品の販売を中止させるように要請したという経緯もあったことから、ロータリーによる覚書の提出は被告アインにとって重要と考えたためである。

しかるに、原告会社は九月八日覚書に押印したものを提出したが、ロータリーは押印を拒否した。ロータリーが押印を拒否した理由は、【B】の再三の要請にもかかわらず、クレジットを利用した本件商品の販売を止めず、同月四日の段階でもなおクレジットを利用していたためと考えられる。本件商品は原告会社を通じてロータリーに供給され、ロータリーは実際に多数の販社に販売していたのであるから、原告会社がクレジットによる販売を行わなくても、ロータリーがクレジットによる販売を行えば、アミノアップ化学、被告成幸社及び同アインにとっては、本件商品ひいては同じくAHCCを原料とする商品に対する信用が毀損されることは同様である。以上の経緯で、被告アインは本件商品の供給を停止した。

(二) ロータリーによる商標権譲渡契約の不履行(理由2)

被告成幸社は、ロータリーの代表者である【A】に対し、平成一〇年八月二四日、本件商品表示と同一の表示からなる別紙商標目録記載の商標権(以下「本件商標権」という。)を譲渡するように求めた。その意図は、被告アインと原告会社との間の商品供給問題を仲介することにあり、この譲渡がされるならば、被告成幸社は被告アインに本件商品の原告会社への供給を要請するつもりであった。しかるに、【A】は右同日これを承諾したにもかかわらず、本件商標権の譲渡手続を行わなかった。そこで、被告成幸社は被告アインに対し本件商品の供給停止を要請した。

(三) 原告会社による味王食品株式会社(以下「味王食品」という。)に対する商品納入中止の要請(理由3)

被告アインは、味王食品との間で継続的商品供給契約を締結しており、平成一〇年八月一八日右契約に基づきクリエイトスーパーシャークという商品を三〇〇〇個注文したが、納期である同年九月初旬になっても納入されなかった。そこで事情を確認したところ、味王食品はロータリーから商品納入を止めてくれという要請があったため納入を止めている旨回答した。その後、被告アインは味王食品と協議を重ね同月一九日までに合計七六八個の納品を受けた。ロータリーと原告会社は代表者が同じ【A】であることからすれば、味王食品に対する商品納入停止の要請は、原告の被告アインに対する営業妨害に当たり、四者間合意に反する。

(被告バイオ電子の反論)

被告バイオ電子は、原告会社に対して自ら本件商品を供給しないという行動をとったことはない。もっとも、原告会社からはほんのわずかしか注文を受けなかったものの、この注文については被告アインに注文を行い、原告会社の要求に応じようとしたが、被告アインは原告会社らの行動に不審あるいは違法なものを感じてか、本件商品を供給しなかった。そのため、被告バイオ電子から原告への供給ができなかったものである。

そもそも、被告バイオ電子は、被告アインから本件商品の供給を受け、これを原告に流す役割を果たしていたにすぎない。被告バイオ電子の主な存在意義は、そのクレジットの口座名義をクリエイトジャパンやロータリーに使わせるというところにあった。

(原告の再反論)

被告アインが本件商品の供給停止についての正当な理由として主張する内容は、以下のとおりいずれも債務不履行の免責事由とはいえない。

(一) 覚書について

被告アイン覚書の提出を要求した真の意味は、被告アインが原告会社ないしロータリーに商品供給をしないための口実を得ること、すなわち「これらに違反した場合は、商品供給を止められても異議申立てをしない」という言質を原告会社ないしロータリーからとるという点にあり、本件商品の安定供給を図るという四者間合意の趣旨に全く反するものであった。覚書の内容自体も当然の事柄であり、これが極めて重要な事項であったとの被告アインの主張は言いがかりにすぎない。

(二) 商標権の譲渡について

【A】が、平成一〇年八月二四日、被告成幸社に対し本件商標権の譲渡を承諾したことは認める。【A】が商標権の譲渡を承諾した理由は、本件商品の安定供給につながるのであればという気持ちからであり、本件商品の安定供給が保障されることが右譲渡の条件となっていた。このことは、被告成幸社も十分了解しており、今になって本件商標権の譲渡の合意を持ち出すのは、本件商品の供給停止の単なる口実にすぎない。

(三) 味王食品の件について

【A】が、味王食品に対し「原告と被告アインとの関係が悪化しており、いろいろ問題があるので、商品の供給を一時停止してほしい」と申し入れた事実はある。しかし、四者間合意が締結されそうだという見込みがたった平成一〇年八月二五日には関係が正常に戻ったので、「従来どおり商品供給をしてほしい」旨味王食品に話しており、その結果、その後は問題なくクリエイトスーパーシャークの商品供給はされている。

3  争点3(被告らの不法行為責任)について

(原告の主張)

被告成幸社及び同【E】は、本件商品が原告会社を経由しないで直接【E】及びその傘下の販社等(以下「【E】グループ」という。)に供給されるようになれば、原告会社に多大な損害を与えることになることを知りつつ、原告会社を排除する旨の謀議を被告アイン代表者の【B】、被告バイオ電子代表者の【D】との間で重ね、前記販社・販社代理店会議において、被告【E】が原告会社の会員組織からの脱会を宣言した際にも、【B】はこれを制止せず、一方的に会議を終了させた。右会議終了後、【B】と【D】は、前もって予定されていた【E】グループの旗揚げの場に参加し、「原告会社には本件商品は供給されなくなる。【E】グループにつけば本件商品は供給される。」旨を公言し、現実にも被告アイン、同バイオ電子による本件商品の供給停止を実行した。

被告成幸社及び同【E】は、原告会社の有する本件商品の継続的供給を受ける権利を故意に妨害し、侵害したものといえるから、民法七〇九条、同七一九条に基づき不法行為責任を負う。

また、被告アイン、同バイオ電子は、共謀の上原告会社に対する本件商品の継続的な供給を一方的に停止しているところ、被告アインが同バイオ電子の債務不履行に、同バイオ電子が同アインの債務不履行にそれぞれ加担したことを法的に評価すれば、右被告らについても同様に不法行為責任が認められるというべきである。

(被告アイン、同成幸社の主張)

前記2の債務不履行責任についての被告アインの反論を、援用する。

(被告バイオ電子の主張)

原告は、被告らが本件商品の供給ルートから原告会社を排除することを企図したとか、それに故意に加担した旨主張するが、被告バイオ電子はそのようなことに一切関与していないし、関与できる立場にもなかった。

前記販社・販社代理店会議では、内輪もめがひどく行われていた。被告バイオ電子代表者の【D】は右会議の終わった後帰ろうとしたが、【E】グループに呼び止められ、ちょっと来てくれと言われたまでで、【E】グループが前もって会場を借りていたなどということは全く知らなかった。この一連の会議の席で、【D】は特別な発言はしていない。

(被告【E】の主張)

原告の主張は否認する。

4  争点4(不正競争行為の成否。殊に、本件商品表示の周知性・著名性)について

(原告の主張)

原告会社は、設立当初からロータリーの地位を引き継ぎ、原告会社の取り扱う本件商品を表すものとして本件商品表示を用いてきた。本件商品はクリエイトジャパンの会員組織を利用し、会員を販売主体とする訪問販売により販売されていたが、右会員六〇〇〇人及び会員により獲得された顧客の間では、本件商品表示は、平成八年九月ころから、原告会社の取り扱う本件商品を表す周知ないし著名な標章として広く認識されていた。

被告らは、共謀して原告への本件商品の供給を止めるとともに、原告が従来販売していた本件商品表示の付された本件商品の容器そのものを使用し、発売者の欄に被告【E】の商号である「アルバ」と記載したシールを上から貼って、本件商品表示の付された商品を販売した。これらの行為は不正競争防止法二条一項一号ないし二号所定の不正競争行為に該当する。

(被告らの主張)

本件商品表示が周知ないし著名であることは否認(被告バイオ電子を除く被告ら)ないし、不知(被告バイオ電子)である。

5  争点5(損害額)について

(原告の主張)

本件商品の供給が停止し、かつ傘下の販社及び販売代理店の半数以上を被告【E】に奪われた結果、原告会社の売上げは平成一〇年八月期には半減し、経常損失で一八五六万六三二七円の大幅な赤字を計上した。原告会社は、同年六月期には九三四万一七九九円の経常利益を計上しており、本来ならば八月期には少なくともその三倍の二八〇二万五三九七円の経常利益があってしかるべきところ、被告らの債務不履行ないし共同不法行為により逆に前記の経常損失を計上することになり、結果としてはわずかな期間で四六五九万〇七二四円の損害を発生させたことになる。

原告会社には、少なくとも年間予想利益に当たる一億一二〇八万円(九三四万の一二か月分)の損害が生じたことは明らかであり、その一部請求として、被告らに対し、連帯して七〇〇〇万円の支払を求める。

右と選択的に不正競争防止法違反については、本件第二仮処分の和解が成立した平成一一年二月までの間に、少なくとも九三二九万円の損害(同一〇年八月までの損害である四六五九万〇七二四円に、同年九月から平成一一年一月までの損害、すなわち九三四万の五か月分である四六七〇万円を加えたもの)が発生したことが明らかであるので、その一部請求として同額の七〇〇〇万円の支払を求める。

(被告らの主張)

損害に関する原告の主張は否認し、争う。

第三当裁判所の判断

一  前提となる事実関係について

前記「当事者間に争いのない事実等」に、証拠(甲一、二、一〇、一一、一七、二三、二七の2ないし10、二九、三〇の1、2、三九の1、2、丙一、二、丁一、証人【F】、原告代表者、被告成幸社代表者、同アイン代表者、同バイオ電子代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  本件商品販売の経緯

クリエイトジャパンは、平成六年一一月ころから、「レンチンガンマー」(大和薬品の製造にかかるAHCC入りの医薬品)を取り扱うようになった。右取引において、原料はアミノアップ化学が供給し、商品の流れは、大和薬品から被告アイン、同バイオ電子を順次経由してクリエイトジャパンに至るというものであった。

右商品の販売について、当初、クリエイトジャパンは現金で決済をしていたが、その後クレジットを使用するようになった。ただ、同社の代表者である【G】が以前にクレジットで問題を起こしたことがあり、同社のクレジットは使えなかったので、被告アインをクリエイトジャパンに紹介した被告バイオ電子のクレジットを使うことにした。具体的には、被告バイオ電子の口座を親番とし、クリエイトジャパンは子番として同被告の加盟店の口座を利用させることにした。また、そのころから被告バイオ電子代表者の【D】は、販売促進のための健康セミナーの講師をするなどの活動をするようになった。

平成八年五月ころ、アミノアップ化学と大和薬品の紛争から、原料が「AHCC」から「バイオプラン」に切り替えられ、その際、クリエイトジャパンは、同社独自のブランド商品「ニューレンチンガンマーサーク」という名称で商品の製作を被告アインに依頼し、その製造は大和薬品に依頼することとした。そして、同月二八日に、右バイオプランの商品説明会が行われたが、当日になって被告成幸社からAHCCが手に入るという情報が伝わったので、【G】と当時クリエイトジャパンの営業推進本部長であった【A】が話し合い、AHCCを引き続き販売することにした。そして、新しい商品名として、右「ニューレンチンガンマーサーク」を参考にして、「レンチラスサーク」という本件商品の商品名を【A】が考え、その製造を被告アインに依頼した。その結果、平成八年九月から、製造会社が大和薬品から被告成幸社に変わり、本件商品は同アイン、同バイオ電子経由でクリエイトジャパンに納入されるようになった。

その後、クリエイトジャパンの有する本件商品供給契約における買主の地位を平成一〇年二月二八日ロータリーが承継し、同月二三日には、ロータリーを出願人とする本件商標権の登録出願がされた。

2  原告会社が設立された経緯

クリエイトジャパンは、クリエイトクラブという本件商品の販売組織を作り、それぞれの販売成績に応じて、販社、代理店、特約店、特別会員、会員といった地位を設けていた。そして、右の地位に応じて、販売手数料が異なるという仕組みになっていた。

ロータリーは、【A】が代表取締役を務める会社であるが、クリエイトジャパンの販社の地位にあった。被告【E】は、ロータリーの販社であり、右販売組織において、【A】の指示・指導により本件商品を販売していた。

本件商品の原料であるAHCCを被告成幸社に卸しているアミノアップ化学代表者の【H】は、平成九年九月ころ、健康産業展の会場において、クレジット会社のアプラスの次長から「アミノアップ化学の商品につき、販売会社はクレジットを利用して商品を販売している。それも自分が消費する分量以上の商品を購入していることから、他者に販売する目的でクレジットを利用している。原料メーカーであるアミノアップ化学はこのことを知っているか。」と尋ねられた。

アミノアップ化学は、右クレジット利用の事実を聞き、このような販売方法により自社の商品のイメージが毀損されることを懸念し、被告アインに対し、即時クレジット販売を中止するように求めた。そこで、被告アインは、同バイオ電子、クリエイトジャパンにその旨を要請するとともに、クレジットの利用状況を調査したところ、未成年者に対する一〇〇万円以上の高額なクレジットによる販売、病人に対するクレジットを利用した販売等の事実が判明した。

平成一〇年初めになっても、クリエイトジャパンにおいては、書面交付義務の不履行、不実の告知などを理由に、クーリングオフ等による契約の解除及びクレジット立替金の返還の問題が多数生じていた。本件商品の供給者であるアミノアップ化学及び被告成幸社は、その当時の認識として、クリエイトジャパンの代表者である【G】の販売方法に問題があると考えていた。それゆえ、同年二月にロータリーがクリエイトジャパンの代わりに本件商品を販売することになったときは、アミノアップ化学は適正な販売方法に改善されることを期待した。

ロータリーがクリエイトジャパンの地位を承継した後の平成一〇年四月ころ(以下、平成一〇年については、年の記載を省略する。)、【G】はアミノアップ化学の【H】を訪ね、資料を示してクリエイトジャパンのクレジット利用の残額(ロータリーが承継したもの)が約一〇億円あること、バイオ電子代表者の【D】が、医師の資格もないのに、健康セミナーにおいて「ガンの患者には本件商品を何粒飲ませなさい」など医師でなければできないような相談をしていることを説明した。これを聞いた【H】は、依然としてクレジット販売の問題が解決されず、【D】の行為は薬事法違反の疑いがあるという認識から、五月二五日、被告アイン及び同成幸社に対し、ロータリーに本件商品を販売することをやめた方がよいのではないかと述べた。これに対して、被告アイン代表者の【B】は、「新たに会社を設立し、自分が社長になって管理・監督を行うので、もう一度チャンスを下さい。」と述べ、引き続き本件商品を供給してくれるように懇請した。アミノアップ化学と被告成幸社は、【B】の要請を容れ、その結果、六月一一日原告会社が設立された。原告会社の発行済株式の総数は八〇〇株であり、【A】は親族名義も含めてそのうちの四一八株を引き受けた。【B】は代表取締役に就任したが、株式は二株を引き受けたのみであった。

3  原告会社内部の紛争と八月三日の会議

右の経緯で設立された原告会社において、【A】は取締役営業本部長、被告【E】は法人営業部長の地位にあった。しかし、原告会社が購入した本件商品はロータリーに供給され、現実に販売を行うのはロータリー又は【E】グループなどであり、本件商品の販売における原告会社の役割はそれほど大きくなかった。そこで、【B】は、【A】に対し、ロータリーの行っている業務を原告会社に移管するように求めたが、【A】はこれに応じなかった。

また、ロータリーの販社の中には、被告【E】を中心に、ロータリーが販社に対し所定の販売手数料を支払ってくれないなど、【A】によるロータリーの運営に不満を持つ者があった。被告【E】は、【B】に対し、【A】が女性に対してセクハラ行為をした旨や同人の営業行為には販社から苦情が多く寄せられている旨を報告していた。

被告【E】は、七月二〇日ころ、【E】グループの販社である【I】からロータリーはクリエイトジャパンの時代には売上げの五パーセントであった手数料の額を八パーセントに増額しているという報告を受けて【A】を信用する気持ちを完全に失い、ロータリーの販社を辞め、傘下の販社とともに同社から分派独立することを決めた。被告【E】は、七月二三日、その旨を【B】に報告するとともに、今後は被告アインから直接本件商品を購入したい旨協力を要請したところ、【B】は前向きに検討する旨答えた。

同じころ、【D】の行う健康セミナーが薬事法や医師法に違反する疑いがあることが再び問題となり、【B】と【A】が話し合った結果、被告バイオ電子を経由する本件商品の供給ルートは八月末で打ち切ることになった。

【B】は、原告会社の実体はロータリーのダミー会社であり、【A】に対する業務の移管の指示は守られず、【A】の営業行為には問題があるという認識から、同人と一緒に原告会社を運営することはできないと判断し、七月二八日ころ、原告会社の代表者を辞任する旨【A】に申し出た。これに対し、【A】は、原告会社の代表者に就任して本件商品の販売組織を維持することに意欲を示し、引き続き本件商品の供給を確保するため被告アインの代表者としての【B】の支援を求めた。【A】は、それとともに、【B】が辞任すると原告会社は法定の取締役の員数を欠くという理由で辞任に反対し、後任の取締役が決まるまでは代表取締役の地位にとどまるよう要請した。

右のような状況の下で、八月三日、かんぽヘルスクラブ東京において原告会社の販社・販社代理店会議が行われた。この会議には、【B】、【A】、被告【E】のほか、当日の朝【B】に呼ばれた被告バイオ電子代表者の【D】も出席した。その席上、【B】は代表者を辞任することを報告し、続いて被告【E】が【A】によるロータリー及び原告会社の運営、特に経理には不明朗な部分があるとして、【A】を名指しで激しく批判した。【A】はこれに反論したが、両者の言い分は食い違ったままであった。右のやり取りの中で、【D】は、被告バイオ電子が被告アインから幾らで本件商品を購入し、幾らで原告会社に卸しているかを説明した。また、【B】は、原告会社の代表者を辞任した後は、本件商品を供給できるかどうか分からない、原告会社の事務所は被告アインの名義で借りているので、一一月以降は使えるかどうか分からないと発言した。その後も主に【A】と被告【E】の間で緊迫したやり取りがあったが、最終的には被告【E】が「俺は離れます。こんな人とは一緒にできない。」と発言して、散会となった。

右会議の終了後、あらかじめ予約していた同じ施設の別室で、【E】グループの事実上の旗揚げ式が行われた。この会合には、【B】と【D】も出席し、【B】は「原告会社には一粒たりとも本件商品を流さない。」と発言した。また、【D】も「【A】は社長の器ではない。」と発言して、【A】を批判した。

4  四者間合意と覚書について

【E】グループの分派独立により、【A】は、ロータリーの組織が弱体化するのを危惧し、【B】に対して本件商品を安定的に供給するよう求めた。しかし、【B】は、本件商品の注文にはほぼそのとおり応じていたが、将来にわたっての安定供給の確約はせず、逆に【A】に対して「【E】グループは【A】の回答書はでたらめだといっている。」と述べるなど、被告【E】を応援していると受けとられても仕方がないような言動を繰り返した。

そこで、【A】は、速やかに本件商品の安定供給を確保する必要から、八月二〇日、本件第一仮処分を申し立てた。右申立て後、原告会社からは【A】の相談役的な立場にあった【F】(現在は原告会社の監査役)、被告アインからは代表者の息子で専務取締役の【J】(以下「【J専務】」という。)が窓口になって、【E】グループの分派独立を認め、本件商品を原告会社と【E】グループの双方に平等に供給する方向で協議を行い、八月二五日には右両名により四者間合意の原案が作成された。その後、【F】が、【A】、【D】、【B】、被告成幸社代表者の【C】にそれぞれ会って、各人の意見を調整した結果、九月四日四者間合意が成立した。そして、同日の夕方、原告会社の臨時株主総会が開催されて、【B】の取締役辞任が決議され、【A】が代表取締役に就任することが決まった。

【F】は、九月八日、原告会社の代表者印と預金通帳の返還を受けるため、被告アインの事務所に【B】を訪ねたところ、覚書四通の用紙を渡され、押印するように言われた。【F】は、右四通の用紙に【A】から原告会社の代表者印を押捺してもらったが、ロータリーについては四者間合意の当事者でなく、被告アインや同バイオ電子から本件商品の供給を受けるわけではないことから、押印を受けなかった。【F】は、被告アインの【J専務】にロータリーが覚書に押印しなかった理由を説明したところ、【J専務】は「そうだね」と言って、このまま右用紙を受け取った。

5  四者間合意の破棄に至るまで

原告会社は、九月一〇日、四者間合意に基づき、被告バイオ電子に対し、本件商品一〇ケース三六〇本の注文をした。被告バイオ電子の【D】は、この注文を被告アインに取り次いだが、ロータリーが覚書に押印していないことを理由に被告アインは納品を拒んだ。被告アイン代表者の【B】は、九月一五日ころ、【F】に電話をし、覚書を郵送するのでロータリーにおいて押印した上で返送するよう求めた。右のやり取りの中、九月一六日、被告アインから原告会社とロータリーに対し、本件商品以外の商品について三〇万円まででかつ自己消費分であればクレジットの利用を認める旨の通知(甲二九)が発出された。【A】は、四者間合意ではクレジットによる販売は販売店のレベルでも行わないとされていたのに、わずか半月足らずで条件付きとはいえクレジット販売が認められたことに不審を抱き、【E】グループの動向を探ったところ、【E】グループでは「本件商品の販売についても、表面上は別の商品の名前を記入させることでクレジットの販売も可能である。」旨の指示が出ていることが判明した。これを知った【A】は、【E】グループだけが有利な条件でクレジットを利用できるのであれば、ロータリーと平等の条件で商品を販売するという四者間合意の前提は失われており、仮にロータリーが覚書に押印した場合には、被告アインの側で些細なことを取り上げて原告会社の違反行為とし、商品供給を止める口実にされ、なおかつ裁判に訴えることもできなくなると判断し、押印の上で保管していた覚書を返送することを止め、四者間合意を破棄することにした。

二  争点1(原告と被告アイン、同バイオ電子との間の契約関係)について

1  証拠(甲二三、二四、五一の1、2、原告代表者)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件商品の供給ルートは、二月末にロータリーがクリエイトジャパンの地位を承継した時点では、被告アインから同バイオ電子を経由してロータリーに至るというものであった。しかし、【D】が行っていた健康セミナーが薬事法に違反するのではないかということが問題となった五月に、【B】は【A】と話し合い、新たに被告アインから同バイオ電子を通さずに直接ロータリーに供給するルートを新たに設けることを提案した。【A】は、被告バイオ電子を通さない分だけ仕入れ値が安くなるので、右提案を受け入れた。

(二) 被告アインとロータリーの間の直接の取引は五月一九日ころから始まり、六月一一日に原告会社が設立された後は、そのまま原告会社に承継された。原告会社において、被告バイオ電子を経由する取引と被告アインからの直接の取引の割合はおおむね前者が四〇パーセント、後者が六〇パーセントとなっていたが、その選別は被告アインにより行われ、原告会社が注文のファックスを入れると、被告アインから個々の納品分につき伝票の送付先等の具体的な指示がされるようになっていた。右の取引は六月、七月の二か月間行われた。

(三) 八月に入ってからは、【B】と【A】との間で被告バイオ電子を本件商品の取引から排除する方向で話が進み、被告バイオ電子の在庫を被告アインが買い取るという約束もされた。そこで、原告会社は、直接被告アインに注文を出し、八月六日から同月一八日にかけて合計四一一九本が納品された(被告アインの倉庫にあった在庫二二八本の引取り分を含む。)。

(四) 原告会社は、九月四日に締結された四者間合意に被告バイオ電子との間で継続的な基本契約を締結する旨の約定があったため、同月一〇日、被告アインではなく同バイオ電子に注文を出した。しかし、前記一5記載の理由で納品を受けることができなかった。

2  右認定の事実によれば、遅くとも原告会社が設立された六月一一日ころからは、従来の被告バイオ電子を経由する本件商品の供給ルートのほかに、被告アインと原告との間の直接の取引が開始され、右内容の継続的供給契約が締結されていたと認めることができる。

なお、被告バイオ電子代表者の【D】は、被告アインと原告会社との間に本件商品を直接供給する旨の契約があったことは知らなかった旨供述するが、右の契約は、【B】と【A】が被告バイオ電子を排除するため、言わば秘密裏に締結したものと認められるから、【D】が右の事実を知らなかったとしても何ら不合理ではなく、右認定を左右するものではない。

三  争点2(被告アイン、同バイオ電子の債務不履行責任)について

原告は、被告アイン及び同バイオ電子が八月四日以降本件商品の供給を停止したことをもって、債務不履行であると主張するが、右認定のとおり、原告と両被告の間にはそれぞれ契約関係があり、しかも時期によって関与の形態が異なるから、具体的に検討する必要がある。

1  八月四日から九月四日まで

この時期は、原告会社と被告アインの間で被告バイオ電子を排除することが話し合われ、原告会社は被告アインにだけ注文をしていたこと、被告アインも原告会社の注文にほぼそのとおり応じていたことは前記認定のとおりであって、被告アインに本件商品供給義務の不履行を認めることはできない。

2  九月一〇日以降

(一) この時期においては、原告会社が直接被告アインに対して本件商品を注文した事実は認められないので、被告アインに本件商品の供給義務の不履行責任を問うことはできない。

(二) 原告会社は、九月一〇日、被告バイオ電子に対し、本件商品一〇ケース三六〇本の注文をしたこと、被告バイオ電子は、この注文を被告アインに取り次いだが、ロータリーが覚書に押印していないことを理由に被告アインが納品を拒んだため、被告バイオ電子は結果的に原告会社の注文に応じられなかったことは前記認定のとおりである。四者間合意では、被告バイオ電子を通して本件商品を供給することが規定されているが、それ以前から【A】と【B】の間では被告バイオ電子を排除することが話し合われ、被告バイオ電子を経由する取引と被告アインとの直接の取引をどのように振り分けるかは被告アインが決めていたという前記認定の事情に照らせば、被告バイオ電子は形式的には契約の当事者にとどまっているが、実質的には被告アインの支配下にあり、原告会社に対し、本件商品を供給するかどうかを自ら決定し得る権限を有していなかったものと評価できる。

したがって、被告バイオ電子が原告会社の注文に応じなかったことを理由に債務不履行責任を問うことはできないというべきである(なお、被告バイオ電子による本件商品の不供給については、被告アインに対しては後記のとおり不法行為責任の有無を検討することとし、商品供給を停止した正当な理由として主張する事実を違法性に関する事情として考慮する。)。

四  争点3(被告らの不法行為責任)について

1  被告アインの責任について

(一) 被告アインが商品供給を停止した正当な理由と主張する事情に関し、証拠(甲一八、二七の10、二八、三一、三八、四〇、四一、丙一、二、原告代表者、被告アイン代表者、同成幸社代表者)によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件商品の販売について、前記認定のとおりクレジットが利用されていたが、クリエイトジャパンが契約の当事者であった平成八年一二月から同一〇年二月までの三〇〇〇件の契約のうち、解約の件数は二〇四件であった。これを販社の別でみると、ロータリーが三一パーセント、【E】グループが六九パーセントを占めていた。ロータリーがクリエイトジャパンの地位を承継した三月一日以降、ロータリーはクレジットによる販売を行っていたが、解約された事例はなかった。そして、原告会社がロータリーの地位を承継した六月以降はクレジットは利用されていなかった。他方、【E】グループでは、少なくとも七月にはいくつかの販社においてクレジットが利用されていた。

(2) 四者間合意に向けての話合いの過程で、八月二四日、【A】は被告成幸社の事務所を訪ね、代表者の【C】と本件商品の安定供給の問題を協議した。その席で、【A】は被告アインを通さずに直接本件商品を供給できないかと尋ねたが、【C】はこの申し出を断った。また、【A】は、ロータリーが本件商標権を持っているので、これに基づき被告【E】、同成幸社に対し訴えを提起するかもしれないと述べた。【C】は、これを聞いて、本件商標権をめぐり争いが起きると本件商品の信用に傷がつくと考え、原告、【E】グループ、被告アイン間の紛争を円満に解決するための一つの方法として、権利行使をしないという条件で本件商標権を預からせてほしい旨要請したところ、【A】はこれを承諾した。

原告により四者間合意が破棄された後の九月二九日、【A】と【C】は再度話合いをして、【A】は本件商標権を譲渡するという話はなかったことにしたいと申し入れた。これに対して、【C】は「商標は構わない。」と述べて積極的に反対せず、その後も本件商標権の譲渡手続をするよう催促することはなかった。

(3) 被告アインは、味王食品からクリエイトスーパーシャークという商品を購入していた。これはもともと、ロータリーが独自に製造していた商品であったが、原告会社が設立されたのを機会に、味王食品から被告アインに納入させ、被告アインから原告会社に卸すという形態にした。

ところが、被告アインは、発売元を原告会社とする商品のパッケージを作成して、これに商品の中身を詰めさせ、被告【E】に卸していた。これに加えて、本件の紛争が生じていたこともあり、【A】は、更に紛争が拡大することを危惧して、九月初旬、味王食品に指示して約一週間被告アインに対する商品の納入を止めさせたことがあった。しかし、その後は被告アインと味王食品の協議により、商品の供給が再開された。

(二) 右認定の事実及び前記一認定の事実をもとに、被告アインが同バイオ電子に九月一〇日に注文のあった本件商品の供給を停止したことに正当な理由があったか否かにつき、判断する。

(1) 覚書について

被告アインは、ロータリーが覚書を提出しなかったのは、同社が九月四日の段階でもクレジットの利用を続けていたためであると主張する。

しかし、ロータリーがその時点でクレジットの利用をしていたことを認めるに足りる証拠はないから、右主張は前提を欠くものである。しかも、被告アインにとって、ロータリーが覚書に押印することが本件商品の供給に関わるほど重要な事項であるならば、【A】に覚書を交付した際又は【F】が原告会社印を押捺した覚書を持参した際に、四者間合意の当事者ではないロータリーにも覚書の押印を求める理由を説明することもできたと思われるのに、代表者の【B】らによりそのような説明はされていない。以上によれば、ロータリーが覚書に押印して提出しなかったことは、本件商品の供給停止の理由にならない。

(2) 本件商標権の譲渡について

本件商標権譲渡の合意がされた趣旨は、四者間合意の当事者において本件商品の安定供給を保障することにあったと認められるところ、四者間合意が破棄された後は右の前提が欠けることになるから、被告成幸社にとって、本件商標権は不要なものである。したがって、九月二九日、【C】が【A】に対して「商標は構わない。」と述べたことにより、本件商標権譲渡契約は合意解約されたものと認められる。そうすると、合意の当事者である被告成幸社が原告に対して本件商標権の譲渡を求めることができない以上、右合意の当事者でない被告アインが、原告に対して、本件商標権の譲渡がされなかったことを理由に本件商品の供給を停止することはできないというべきである。

(3) 味王食品に対する【A】の干渉について

前記(一)(3)記載の事実によれば、【A】が原告会社と被告アインとの間の紛争が未解決であることを理由に一時的に味王食品に対し商品供給の停止を指示したことはやむを得なかったものと評価でき、その後被告アインと味王食品との間で取引が再開されたことにかんがみれば、同被告にはほとんど損害は生じていないものと認められる。したがって、【A】が味王食品に対して商品供給の停止を指示したことを理由に本件商品の供給を停止することはできないというべきである。

(三) 以上によれば、被告アインが主張する事情は、いずれも本件商品の供給停止を正当化するものではなく、同被告は、被告バイオ電子への本件商品の供給を停止して同被告から原告会社への本件商品の供給をさせなかったことについて、原告に対し、不法行為責任を負うものというべきである。

2  被告バイオ電子の責任について

前記一及び四の1(一)認定の事実を前提に検討するに、まず、被告アインが原告会社との間の直接の契約に関し、本件商品の供給義務を履行しなかったとの事実は認められないから、被告バイオ電子がこれに加担したことを理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

被告バイオ電子が、原告会社を排除し、【E】グループを利する目的で原告会社に対する本件商品供給を停止し、【E】グループの旗揚げ式等で被告【E】を支援する言動をしたとの主張については、被告バイオ電子は本件商品の取引から早晩排除されることが予定されており、実際上も被告アインの意向によって本件商品の供給量を調節されていたものであって、そもそも本件商品の供給に関し固有の決定権限を有していなかったものと認められる。そして、被告バイオ電子代表者の【D】は、八月三日の【E】グループの事実上の旗揚げ式において【A】を批判する言動をしたことが認められるが、それ以上に被告【E】を支援する具体的な行動をしたことを認めるに足りる証拠はなく、それだけではせいぜい【E】グループを精神的に支援したに止まり、原告に対する不法行為責任を負わないというべきである。

3  被告成幸社の責任について

前記一及び四の1(一)認定の事実を前提に検討するに、本件全証拠によっても、被告成幸社代表者の【C】が本件商品の供給を妨害するなどの具体的な行為をしたとの事実は認められない。なお、【C】の供述によれば、【C】は【E】グループの会合に出席して「【E】グループにも本件商品を供給する」旨発言したことが認められるが、右発言は、原告会社から【E】グループには本件商品はいかないとの宣伝がされたことに対し、被告【E】から供給メーカーとして双方に本件商品を供給することを言明してほしいとの依頼を受けてされたものであるから(右【C】の供述により認められる。)、被告【E】を特に支援する趣旨でされたものではなく、これをもって原告に対する不法行為とみることはできない。

4  被告【E】の責任について

前記一及び四の1(一)認定の事実を前提に検討するに、被告【E】は八月三日より前に【B】にロータリーからの分派独立を相談していたこと、【B】は【E】グループの旗揚げ式で「原告会社には本件商品を流さない。」旨発言していること、被告【E】は現在アルバ株式会社を設立の上で被告アインから直接AHCC入りの商品(商品名アルバークス)を購入し、平成一一年二月からはこの商品につきクレジットの利用を許されていること(被告【E】の供述により認められる。)からみて、被告【E】と同アインの結びつきは密接であり、被告アインの援助がなければ被告【E】の分派独立はできなかったというべきである。しかし、前記の事実経過を総合すれば、被告【E】としては分派独立の結果原告会社ないしロータリーの組織が弱体化することは認識していたと思われるものの、被告アインや同成幸社に働きかけて原告に対する商品供給を妨害したとの事実までは証拠上認めることができず、本件商品の供給停止に対する具体的な寄与があったとまではいうことができない。加えて、原告会社ないしロータリーの側でも分派独立の後に【E】グループから販社、代理店等を取り戻そうと盛んに切り崩しを図っていたこと(【A】の供述により認められる。)、被告【E】が原告会社に対し競業避止義務を負っていたことを認めるに足りる証拠はないことからすれば、被告【E】の行為が原告に対する不法行為に当たるとまではいうことができない。

五  争点4(本件商品表示の周知性、著名性について)

1  不正競争防止法二条一項一号について

前記一において認定の事実に証拠(甲三二ないし三四、三八、原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件商品は、当初から会員組織を用いて販売されており、テレビ、新聞、雑誌等を用いての一般消費者を対象とした広告宣伝は行われていないものであり、原告会社の販売組織の会員や原告会社主催の健康セミナーの出席者の間で本件商品表示が知られているにしても、右の程度をもってはいまだ本件商品表示が原告会社の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めるには足りない。

2  不正競争防止法二条一項二号について

同号にいう著名性は一号の周知性に比べ知名度が高いことを要することからすれば、本件商品表示が原告会社の著名な商品等表示に当たらないことは明らかである。

3  以上によれば、不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がない。

六  争点5(損害額)について

1  以上判示したところによれば、被告アインが被告バイオ電子への本件商品の供給を停止して同被告から原告会社への本件商品の供給を停止させたことにより、原告会社が営業上の利益を侵害されたことは明らかであり、右不法行為につき、被告アインには故意があると認められる。したがって、原告は、民法七〇九条に基づき、被告アインに対し損害賠償を求めることができるところ、その損害の額について検討する。

2  証拠(甲八、二五、二六、原告代表者)によれば、原告会社は、六月一一日から同月三〇日までの期間に九三四万一七九九円、七月一日から同月三一日までの期間に三三五万〇〇二三円の利益をそれぞれ計上しているが、八月一日から同月三一日までの期間には逆に三一二五万八一四九円の損失を計上していることが認められる。

原告は、右六月三〇日期の利益をもとに、少なくともその一二か月分の利益(年間予想利益)に相当する額の損害を被った旨主張するが、六月一一日から同月三〇日までの期間に上げた利益は、七月の利益額に比べて著しく多く、原告会社が新たに設立されたことに伴う一時的なものと認められるから、右期間の利益に基づき損害額を算定するのは相当でない。また、八月における損失については、被告アインの不法行為以外の要因も存在したとみる余地があること、証拠(甲九)によれば本件商品の販売数量には月により最大六倍程度の格差がみられることからすれば、民訴法二四八条を適用し、損害額の認定に当たっては七月一日から七月三一日までの期間の利益額である三三五万〇〇二三円の五〇パーセントを基礎とし、その約六か月分に相当する一〇〇〇万円を原告の損害として認めるのが相当である。

七  まとめ

以上によれば、原告の請求のうち、被告アインを除くその余の被告らに対する請求は理由がないが、被告アインに対する請求は一〇〇〇万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 和久田道雄 裁判官 田中孝一)

<以下省略>

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