東京地方裁判所 平成11年(ワ)7643号 判決
原告 株式会社エス・エヌ・エー
右代表者代表取締役 櫻庭一男
右訴訟代理人弁護士 栗林信介
同 飯田丘
被告 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
(変更前の商号 エヌ・ティ・ティ・移動通信網株式会社)
右代表者代表取締役 立川敬二
右訴訟代理人弁護士 北沢豪
被告 日本無線株式会社
右代表者代表取締役 横溝弘史
右訴訟代理人弁護士 光石忠敬
同 光石俊郎
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
被告らは、原告に対し、連帯して一億円及びこれに対する平成一一年四月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告は、携帯電話の販売等を営む会社である。被告株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下「被告NTTドコモ」という。)は電気通信事業法に定める電気通信事業等を営む会社であり、被告日本無線株式会社(以下「被告日本無線」という。)は電気通信機械の製造等を営む会社である。
2 被告NTTドコモは、被告日本無線との間で、被告NTTドコモの携帯電話の販売等の業務につき代理店契約を締結している。
3 原告は、平成五年一一月一六日、被告日本無線との間で、被告NTTドコモの携帯電話の販売等の業務を受託する旨の扱い店契約(以下「本件契約」という。)を締結した。販売した携帯電話が使用可能となるためには、販売店の代理店コードが被告NTTドコモに登録されている必要があるので、原告は、被告日本無線を通じて、被告NTTドコモに原告の代理店コードを登録した。そして、原告は、携帯電話の販売を行ってきた。
4 被告日本無線は、平成一〇年九月一八日及び同年一〇月一三日、原告に預けていた携帯電話等の商品を引き上げた。被告NTTドコモは、平成一〇年一〇月二二日、原告の代理店コードを抹消した。
二 本件は、原告が、被告日本無線は本件契約に基づき原告に預けていた携帯電話等の商品を原告の意思を無視して引き上げ、被告NTTドコモは何らの理由なく一方的に原告の代理店コードを抹消したため、携帯電話の販売業務が全くできなくなり、得べかりし利益相当額(一億円を下らない。)の損害を受けたと主張して、被告日本無線の債務不履行及び被告NTTドコモの不法行為による損害賠償の支払を求めた事案である。
三 争点(本件契約の終了の有無)に関する当事者の主張
1 被告ら
(一) 本件契約の合意解約
(1) 被告NTTドコモは、平成九年三月ころから、各代理店に対し、ユーザー保護のため、携帯電話の販売に際して、六か月内の解約を制限したり、その期間内に解約した場合に違約金を課すなどの条件を付けないように指導した。被告日本無線も、平成一〇年一月二九日、原告に対し、文書でその旨通知した。
(2) 原告は、平成一〇年九月一一日、「六か月以上新番号でご使用いただける方」を応募条件として携帯電話を販売する旨の広告(以下「本件広告」という。)を読売新聞に掲載した。
(3) 被告日本無線は、平成一〇年九月一四日、原告に訂正広告を出すよう求めたが、原告は、拒否した。被告日本無線は、同月一六日、再度原告に訂正広告を求めたが拒否され、協議した結果、取引を停止する旨合意して、本件契約を合意解約した。被告日本無線は、本件契約が合意解約されたので、原告から携帯電話等を引き取ったものである。
(4) 被告NTTドコモは、被告日本無線から原告に関する販売店廃止申請を受けたので、原告の代理店コードを抹消したもので、何ら違法性はない。
(二) 本件契約の解約(予備的主張1)
被告日本無線は、六か月間の使用継続を条件として携帯電話の販売を行ってはならない旨の再三にわたる警告に反して原告が本件広告を出したことを理由に、平成一〇年九月一六日、原告に対し、本件契約を解約する旨の意思表示をした。
(三) 本件契約の期間満了による終了(予備的主張2)
平成五年一一月一六日に締結した本件契約は、契約期間を一年間とし、いずれの当事者からも解約の通知がないときは、さらに一年間継続される旨定めている。被告日本無線は、平成一〇年九月一六日、本件契約を解約する旨の意思表示をしたが、これには本件契約を更新せず終了させる旨の意思表示も含まれていた。したがって、本件契約は、平成一〇年一一月一五日、期間満了により終了した。
2 原告
(一) 本件契約の合意解約について
(1) 本件契約を合意解約したことは、否認する。原告は、携帯電話の販売を社業としており、会社の倒産につながる本件契約の合意解約などするはずがない。
(2) 原告が本件広告を掲載したことは認めるが、これは、携帯電話の販売広告ではなく、抽選による携帯電話の無料プレゼントの広告である。また、六か月以上という使用期間は、携帯電話契約の解約禁止期間を設定したものではなく、原告の希望を記載したにすぎないものである。
(3) 販売店が例えば携帯電話「D206」を販売した場合、被告日本無線から一台当たり二万七〇〇〇円の販売手数料が支払われる。しかし、ユーザーが六か月以内に携帯電話契約を解約すると、販売手数料は一万八〇〇〇円ほど減額され、その結果、被告日本無線からの仕入代金額、ユーザーへの販売代金額などを考慮すると、販売店は、赤字となる。そのため、多くの販売店は、六か月以上の使用を条件とする旨の広告を出しているが、これは、被告らの右方針に原因がある。
被告らは、右のような方針を採りながら、販売店に対してはユーザーに解約制限を課すことを禁じている。本件の紛争は、このような被告らの不合理な対応にもともとの原因がある。
(二) 本件契約の解約について
被告日本無線が本件契約を解約する旨の意思表示をしたことは、否認する。
原告には、解約されるような理由はない。被告NTTドコモ自身も、ユーザーに対し、一年未満に解約した場合には解約金というペナルティを課している。したがって、本件広告は、本件契約の解消及び代理店コードの抹消という重大な結果の理由とはなり得ない。
(三) 本件契約の期間満了について
被告日本無線が本件契約を期間満了により終了させる旨の意思表示をしたことは、否認する。被告日本無線は、その主張の期間満了日の前に原告から携帯電話等を引き上げているから、期間満了により本件契約を終了させる意思はなかったことが明らかである。
また、本件契約は、継続的取引であり、これを終了させるには「やむを得ないと認められる事情」が必要であるが、本件の場合、本件広告の趣旨は右(一)(2) のとおりであり、そのような事情はない。
第三当裁判所の判断
一 事実経過
争いのない事実等と証拠(甲五の1から6まで、六、七の1から6まで、甲九(後記採用しない部分を除く。)、乙一から六まで、証人新谷清巳、証人川村敦男、原告代表者(後記採用しない部分を除く。))によれば、次の事実が認められる。
1 被告NTTドコモの携帯電話の販売代理店である被告日本無線は、平成五年一一月一六日、原告に対し、携帯電話の販売等の業務を再委託する旨の本件契約を締結した。原告は、主として通信販売により携帯電話を販売してきた。
2 原告のような販売店が携帯電話を販売すると、被告日本無線から販売手数料が支払われるが、被告NTTドコモの方針により、ユーザーが六か月以内の短期間に携帯電話契約を解約すると販売店に払われる販売手数料が相当程度減額されることになっていた。このような事情もあって、販売店の中には、販売に際し六か月以上使用するとの条件を付けたり、その旨の誓約書をユーザーに提出させたりする者が少なからず見受けられた。
3 さらに、移動体電気通信事業者の新規参入が相次ぐに伴い、一部代理店等が携帯電話契約の一定期間の解約を制限するなど行き過ぎた営業活動が見受けられた。そこで、郵政省は、平成八年一一月一二日付け文書により、業界団体に対し、電気通信事業の健全な発展と国民の利便確保のため、代理店及び再委託先代理店が、加入者(ユーザー)に対し、一定期間内の解約等を制限したり、その期間中に解約等した場合に違約金を徴収するなど不当な契約を行わないよう指導を徹底するように通知した。
4 被告NTTドコモは、平成九年三月ころから、被告日本無線やその他の代理店に対し、ユーザー保護等の見地から、携帯電話の販売に当たって六か月以上の使用を条件とすること等を禁止する旨の指導を始めた。被告日本無線は、平成一〇年一月二九日付け文書で、原告を含む各販売店に対し、絶対にユーザーが解約することを制限してはならない、違反した場合には代理店コードを抹消するとの被告NTTドコモの方針を伝えると共に、被告日本無線としても同様の方針を採る旨伝え、注意を促した。
5 原告は、被告日本無線から、やや旧型となりつつあった携帯電話「R206」の在庫が多いので、多額の販売手数料を払うから販売してほしいと頼まれた。原告は、これを受けて、平成一〇年九月一一日、読売新聞に「R206」に関する本件広告を掲載した。本件広告(乙二)には、「六か月以上新番号でご使用いただける方」を応募条件として、抽選で三〇〇名に「R206」をプレゼント、本体は無料、契約手数料三〇〇〇円は当選者負担、と記載されている。
6 被告NTTドコモは、本件広告が解約制限禁止に違反すると判断し、被告日本無線に善処方を指示した。被告日本無線のNTT営業部販売推進室長(当時)川村敦男(以下「川村」という。)は、平成一〇年九月一四日、被告NTTドコモと連絡を取りながら、原告の櫻庭一男(以下「櫻庭」という。)社長に対し、本件広告の訂正広告を出すよう求めたが、櫻庭は、拒否した。被告NTTドコモも、原告が訂正広告を出すのであれば、取引を継続する意向であった。被告日本無線の通信機器事業部NTT営業部長(当時)新谷清巳(以下「新谷」という。)は、平成一〇年九月一六日、川村と共に、櫻庭に対し、訂正広告を出さなければ代理店コードを抹消し、在庫商品を引き上げることになる旨説明して、再度訂正広告を出すことを要求した。櫻庭は、通信販売業者にとって訂正広告を出すことは致命傷である旨述べて拒否したので、新谷は、訂正広告を出さない以上、取引を停止し代理店コードを抹消せざるを得ない旨述べたところ、櫻庭は、残念だがしかたないと応じた。
7 被告日本無線は、平成一〇年九月一七日、櫻庭立会いの上原告の在庫商品を確認し、同月一八日及び翌一〇月一三日、原告から在庫商品を引き取った。その際、原告は、何らの異議も述べなかった。また、被告日本無線は、平成一〇年九月一八日、被告NTTドコモに対し、原告との取引解消を伝えて代理店コード抹消の手続を採った。被告NTTドコモは、同年一〇月二二日、原告の代理店コードを抹消した。
二 本件契約の合意解約の成否
一の認定事実によれば、被告日本無線の新谷は、平成一〇年九月一六日、原告代表者である櫻庭に対し、本件広告の訂正広告を出さなければ取引を解消せざるを得ない旨述べて、訂正広告を出すことを求めたが、櫻庭はしかたないと述べてこれを拒否したのであるから、櫻庭は、訂正広告を出して取引を継続するか訂正広告を拒否して取引を解消するかの選択を迫られて、後者を選択したものと認められる。したがって、被告日本無線と原告とは、平成一〇年九月一六日、本件契約を解約する旨合意したものと認めるのが相当である。
櫻庭は、その陳述書(甲九)と供述において、本件契約の解約に合意してはいない、訂正広告を拒否しても取引が解消されるとは考えていなかった旨述べている。
しかし、平成一〇年九月一六日の面談において、新谷らから代理店コード抹消、在庫商品引上げの話が出たことは、櫻庭も自認しているところである。また、一3及び4の認定事実によれば、新谷らは、原告が訂正広告を出さなければ代理店コード抹消及び在庫商品引上げは不可避であると判断していたものと考えられるから、櫻庭に対してその旨説明しなかったとは考え難い。そうすると、櫻庭は、訂正広告を拒否すれば取引解消という事態に立ち至るであろうと認識しながら、訂正広告を拒否したということになる。このことは、被告日本無線が平成一〇年九月一八日及び翌一〇月一三日に原告から在庫商品を引き取った際に、原告が何らの異議も述べていないことからも裏付けられるところである。したがって、原告の主張に沿う右証拠は、採用することができない。
三 原告のその余の主張について
なお、原告のその余の主張は、本件契約の合意解約の成否に影響するものではないが、これらの主張に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
1 原告は、本件広告は販売広告ではなくプレゼント広告である旨主張する。
しかし、前記一の認定事実によれば、原告は、被告日本無線から多量の「R206」の販売を依頼されたため、これに応えるために本体無料との形態を採ったものと考えられる。また、申込者は、原告に対し契約手数料として三〇〇〇円を支払わなければならなかった。しかも、原告は被告日本無線から通常よりも高額の販売手数料を払ってもらう約束になっていたから、原告は、本件広告に応じて申し込んだ者に「R206」を引き渡せば、相応の利益が得られることになっていた。
これらの事情を考えると、申込者は通常の価格よりもかなり安く「R206」を入手することができるが、これを原告の負担によるプレゼントとみることはできない。本件広告は、「R206」の販売広告というべきである。
そして、申込者を「六か月以上新番号でご使用いただける方」に限定したことは、ユーザーの解約の自由を保障すること等を目的とした解約制限禁止に反するものである。このことは、ユーザーが六か月以内に解約しても法的な不利益を受けないとしても変わりはない。解約制限禁止は、法的不利益の有無を問わず、携帯電話の販売に当たり解約制限という条件を付すこと自体を禁止するものだからである。
2 原告は、ユーザーが六か月以内に携帯電話契約を解約すると被告日本無線からの販売手数料が大幅に減額されるのに、ユーザーに解約制限を課すことを禁止することは不合理である旨主張する。
ユーザーが短期間で解約する(原告はこのことを止めることはできない。)と、原告の収入となる販売手数料が減額されるとの取扱いは、本来の販売手数料額を前提にユーザーへの販売価格を設定していた原告にとって、納得し難い面があることは、否定することができない。
しかし、このような取扱いがいかなる目的によるものであるかはともかく、販売手数料が減額されるからといって、ユーザーの解約自由の保障を目的とした業界のルールである解約制限禁止に違反することを正当化することはできない。なお、このような取扱いの存在が二で認定した本件契約の合意解約の成立を左右するものでないことは、いうまでもない。
四 したがって、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判官 菊池洋一)