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東京地方裁判所 平成11年(ワ)9847号 判決

原告 西塔真達

被告 東日本建設業保証株式会社

右代表者代表取締役 豊藏一

右訴訟代理人弁護士 樋口俊二

同 五百田俊治

被告 株式会社三和銀行

右代表者代表取締役 佐伯尚孝

右訴訟代理人弁護士 香川明久

主文

一  原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主位的請求

1  原告と被告らとの間において、別紙預金目録記載の普通預金口座に存する元利金の払戻請求権が原告に専属していることを確認する。

2  被告株式会社三和銀行は、原告に対し、金九一六万六一九三円及びこれに対する平成一一年一二月三〇日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員から金二三九八円を控除した金員を支払え。

二  予備的請求

原告と被告らとの間において、原告が別紙供託目録記載の供託の供託金還付請求権を有していることを確認する。

第二事案の概要

訴外調布市(以下「調布市」という。)は、富山建設株式会社(以下「富山建設」という。)との間の公共工事の請負契約に基づき、被告株式会社三和銀行(以下「被告銀行」という。)調布支店の富山建設名義の別口普通預金口座に、請負代金の前払金として一二〇〇万円を振込んだが、その後、富山建設が自己破産の申立を行い、工事は未完成のまま請負契約が解除され、富山建設の前払金返還債務を保証していた被告東日本建設業保証株式会社(以下「被告保証会社」という。)が調布市に対し前払金の一部を返還した。

本件は、右預金債権が富山建設の破産財団に帰属するものであるかをめぐって争われた事案であり、富山建設の破産管財人である原告は、右預金債権が破産財団に属することの確認と、被告銀行に対して右預金の支払等を請求している。これに対して、被告保証会社は、右預金債権は、公共工事を確実に達成する目的で調布市から富山建設に信託された信託財産であるから、調布市が破産法上の取戻権を有するところ、前記保証債務の履行により被告保証会社が右預金債権につき取戻権を代位取得したと主張している。

一  争いのない事実(証拠を掲記したところ以外は、当事者間に争いがない。)

1  当事者

原告は、東京地方裁判所八王子支部平成一〇年(フ)第一三〇九号破産申立事件において、平成一〇年一〇月三〇日午後四時三〇分に破産宣告決定がされた富山建設の破産管財人である。

被告保証会社は、公共工事に関する前払金の保証事業等を行うことを目的とした株式会社であり、被告銀行は、預金又は定期積金の受け入れ等の銀行業務を行うことを目的とした株式会社である。

2  本件請負契約の締結

富山建設は、平成一〇年六月五日、調布市から、調布市八雲台の配水小管改良工事(以下「本件工事」という。)を受注し、同日、調布市との間で、請負代金を三〇〇三万円とし、前払金として金一二〇〇万円を支払うとの約定で請負契約を締結した(甲第二号証。以下「本件請負契約」という。)。

3  本件保証契約の締結

富山建設と被告保証会社は、公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和二七年六月一二日法律第一八四号。以下「保証事業法」という。)及び東日本建設業保証株式会社前払金保証約款(甲第三号証、乙第一三号証。以下「本件約款」という。)に基づき、本件請負契約が富山建設の責に帰すべき事由によって解除された場合に富山建設が調布市に対して負担する前払金返還債務(前払金全額から工事の出来高金額を控除した額)について、同月一一日付で、被告保証会社が調布市に対して保証する旨の保証契約を締結した(甲第三号証、第五号証の七。以下「本件保証契約」という。)。調布市は、保証事業法一三条一項により、本件保証契約の利益を享受する旨の意思表示があったものとみなされた。

4  本件業務委託契約の締結

本件請負契約及び本件保証契約の締結に先立つ昭和五一年四月一日、被告保証会社と被告銀行は、公共工事請負契約の前払金の適正な払出に関する管理及び使途の監査についての業務委託契約を締結した(乙第九号証、丙第一一号証。以下「本件業務委託契約」という。)。

5  富山建設は、平成九年一一月一七日、調布市から公共工事を受注する際に支払われる前払金を保管するための専用口座として、被告銀行の調布支店に、別紙預金目録記載の別口普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)を開設した。富山建設は、本件預金口座を開設するに当たり、自己が出捐した一万円を入金した。その後同口座に調布市からの前払金が入金され、平成一〇年二月一三日に富山建設からの払出しにより残高が〇円となったが、被告銀行が同月一六日に八六六円の利息について入金処理をしたため、同口座は、同額を残高として存続していたものである(甲第一号証)。

6  調布市は、平成一〇年六月一九日、本件預金口座に本件請負契約の前払金として一二〇〇万円を振り込んだ。

7  同年七月一日、富山建設に対し、右預金のうち二八〇万円が払い戻され、同時点の本件預金口座の残高は、九二〇万〇八六六円となった(甲第一号証、丙第六号証)。

8  本件請負契約の解除等

富山建設は、同年七月六日、東京地方裁判所八王子支部に対し、自己破産の申立を行い、これを受けて、調布市は、同年七月一〇日付で本件請負契約を解除した(甲第二、第六号証)。

被告保証会社は、同月六日、被告銀行に対し、本件業務委託契約六条に基づき、本件預金の払戻しの中止を依頼した(丙第五号証)。

9  調布市は、同月一五日、本件工事の出来高を三一七万九四〇〇円と査定した。

被告保証会社は、同月三一日、調布市に対し、保証債務の履行として、本件工事の前払金一二〇〇万円から右出来高三一七万九四〇〇円を控除した金額である八八二万〇六〇〇円を弁済し、同日、その旨を富山建設に対して通知した。

10  被告保証会社は、富山建設の破産手続において、同年一一月一九日付で求償債権八八二万〇六〇〇円につき、一般破産債権として届出をした。右債権は、債権調査期日に異議が出されず、確定した(甲第一四、第一五号証)。

11  原告は、平成一一年五月一四日送達の本件訴状で、被告銀行に対し本件預金の支払を求めた。同日の本件預金の残高は、元金九二〇万五八〇〇円、利息一二一二円の合計九二〇万七〇一二円であり、右利息は同日元金に組み入れられている(丙第六号証)。

12  被告銀行は、平成一一年一二月二九日、同日における本件預金口座の残高合計九二〇万七九六〇円(丙第八号証)のうち、八八二万〇六〇〇円を除いた金額である三八万七三六〇円を原告に対して支払った。

また、被告銀行は、平成一二年四月一四日、本件預金口座の残高である合計八八二万二四一七円のうち、八八二万〇六〇〇円について、債権者の不確知を理由として東京法務局に別紙供託目録記載の供託(以下「本件供託」という。)をした上、残金二三九八円を、原告に対して支払った(丙第一三、一四号証)。

二  原告の請求

原告は、主位的請求として、<1> 原告と被告らとの間において、本件預金債権が破産財団に属することの確認、<2> 被告銀行に対し、本件預金残金九一六万六一九三円及びこれに対する平成一一年一二月三〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金から二三九八円を控除した金額(これは平成一一年五月一四日当時の本件預金残高九二〇万七〇一二円及び内金九二〇万五八〇〇円に対する平成一一年五月一六日から支払済みまで年六分の遅延損害金から、前記争いのない事実12記載の各弁済金を法定充当した残額である。)の支払を求め、本件預金口座が解約されて本件供託が有効にされたとしても、予備的請求として、原告と被告らとの間において、原告が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求める。

三  争点

1  本件預金債権は破産財団に帰属するか(本件預金債権は信託財産であるか否か。)。

(原告の主張)

本件預金口座は、富山建設名義で開設されており、被告銀行と原告との間はもちろん、被告銀行と富山建設との間にも、本件預金口座につき、一般の普通預金と取扱いを異にすべき何らの合意も存しない。よって、本件預金債権は破産財団に属しており、その管理処分権は、原告に専属している。

(被告保証会社の主張)

(一) 信託の成立

(1) 公共工事の請負契約における前払金の支出は、保証事業法による諸規制のもとで特別に支出が認められるものであり、私人間の工事請負契約における前渡金とは基本的に性質が異なる。

すなわち、本件前払金は、保証事業法に基づき、公共工事に関する特例として、保証会社と請負人との間に保証契約が締結されることを前提に、請負人がこれを当該工事の施工に要する諸費用に充当することを条件として発注者が支出したものである。そして、請負人による前払金の使用については、保証会社ないしその委託を受けた預託金融機関により、厳格な使途監査が行われることとされている。

また、本件約款によれば、請負人は、注文者から支出された前払金について、特定の金融機関に他の財産に混入しないよう、一般財産から独立した別口普通預金として分別管理されることを義務づけられている。

このような請負者による前払金の使途・払戻しの制限は、保証会社と請負人との間の単なる約定に留まらず、前払金が適正に使用されることを担保するため、保証事業法及びそれに基づいて定められた保証約款、請負契約書及び業務委託契約書によって、一つのシステムとして制度化されたものである。

(2) 本件においては、関係当事者はいずれも、右(1)のような本件前払金の払出しないし使途制限のシステムについて認識し、了承していた。

(3) このような状況を前提とすれば、本件預金債権は、本件前払金の原資である税金の無駄遣いを許さず、その使途を工事の必要経費に充てることのみに限定し、もって公共工事の確実な達成を期待する目的で、調布市から富山建設に管理を委託された信託財産であるといえる。

(4) そして、信託法上、信託の目的を達することができなくなった場合には信託が終了し、信託行為で財産の帰属者を特に定めていなかった場合には、信託財産は委託者に帰属するものとされている。本件においては、本件請負契約が解除された時点で信託が終了し、本件預金債権は、委託者たる調布市に帰属し、調布市は、信託法一六条により、本件預金債権について取戻権を取得した。

さらに、被告保証会社は、本件保証債務を履行したことにより、本件約款一六条一項に基づき、富山建設に対する求償権を取得し、同条二項に基づき、調布市が有する取戻権を代位取得した。

なお、信託法上、金銭・動産・一般の債権のような財産権については、当該財産が分別管理されている限り、信託の公示なしに、信託財産であることを善意の第三者にも対抗することができると解されているところ、本件預金債権は、別口普通預金として分別管理されていたのであるから、原告に対して取戻権を対抗することができる。

(二) 信託法の類推適用による取戻権の肯定

仮に、本件預金債権が信託財産そのものであると認められないとしても、信託法の類推適用が認められるべきである。すなわち、調布市は、公共工事の発注者として、工事の前払金である本件預金債権の取戻しに対して具体的実質的利益を有するのに対し、富山建設は、本件工事の出来高に相当する利益は得ているのであるから、本件預金債権を富山建設の一般債権者の担保の目的とする実質的根拠は認められない。

また、本件預金債権は、前記のとおり制度的にその使途・払出しが限定され、かつ、富山建設固有の財産と混同しないように分別管理された特殊の別口普通預金であり、保護の対象となる適格性を十分に備えている。

したがって、信託法一六条の類推適用により、調布市及び被告保証会社の取戻権の行使を認めるべきである。

(原告の反論)

本件前払金の使途・払出しが制限されているとしても、取引の性質が一般の私的契約と根本的に性質を異にするとはいえない。本件預金口座には、その名義において、何ら信託財産であることを示すような表示もされていない。

また、本件預金債権を信託財産と解すると、以下のような法律的な矛盾を生じることになる。

(一) 本件預金口座には、富山建設が本件預金口座を開設した際に預け入れた一万円や、富山建設の固有財産である三八万七三六〇円が含まれていたほか、本件預金から発生した利息は全額富山建設が取得しているところ、このように、一つの預金口座の中に信託財産とそうでない財産が混在している状態は、信託財産の独立性に反する。

(二) 本件預金債権が信託財産であり、調布市が取戻権を有していたとしたら、被告保証会社が前払金返還債務の保証をする意義はないことになる。

すなわち、請負契約に基づく前払金返還請求権が被保証債権であるとすると、本件前払金は、請負代金の一部として富山建設に弁済されたものと解さざるを得ず、本件前払金の振り込みをもって信託財産の委託と解することと矛盾するし、被保証債権を信託契約に基づく財産の返還請求権とすると、被告保証会社が代位弁済した金額が、前払金と出来高金額との差額に過ぎないことと矛盾する。

(三) 請負人が本件前払金を払い戻すために法律上及び契約上の制約を受けているということは、信託契約において受託者が有すべき管理権の排他性に反する。

したがって、本件預金債権が信託財産であるということはできない。

2  被告保証会社が、本件預金債権についての取戻権を主張することが、破産債権の確定力又は信義則、禁反言の原則ないし争点効に違反するか否か。

(原告の主張)

被告保証会社が富山建設の破産手続において届け出た破産債権は、被告保証会社が信託財産と主張する本件預金債権と同一の権利主張であるところ、破産債権の確定は、確定判決と同一の効力(既判力)を有するものとされている。

したがって、被告保証会社が、右破産債権と同一の訴訟物である本件預金債権の取戻権を主張することは、許されないというべきである。

そうでないとしても、被告保証会社は、本件訴訟前には、原告に対して求償権の行使ないし不当利得等に基づいて本件預金債権の返還を請求していたに過ぎず、信託の終了に基づく本件預金債権の返還請求は、本件訴訟において初めて主張されたものである。よって、被告保証会社が、原告に対し、本件訴訟において信託の終了による取戻権の主張をすることは、信義則、禁反言の原則ないし争点効に反し、許されない。

(被告保証会社の主張)

被告保証会社の主張する取戻権と、被告保証会社が富山建設の破産手続において届け出た破産債権とは訴訟物を異にし、かつ、取戻権は、別除権と同様に破産債権とは別個独立の権利であり、破産手続外でも行使が可能な権利であるから、破産債権の確定による拘束力は受けない。

また、被告保証会社は、本件訴訟前にも、事実関係の主張としては本件訴訟においてしている主張内容と同一の主張をしていた。本件預金債権が信託財産であるか否かは、法的評価の問題であるから、本件訴訟においてその旨の主張構成をしたとしても、何ら不当ではない。

3  被告銀行は、本件預金債権につき、原告に対し支払義務を負うか否か。

(被告銀行の主張)

(一) 被告保証会社と富山建設との間(本件約款一五条四項)及び被告保証会社と被告銀行との間(本件業務委託契約三条)には、いずれも、富山建設が預金を払い戻すためには、前払金の使途内訳明細書及びその証明資料を提出して、被告銀行の確認を受けなければならないこと、前払金が適正に使用されていないと認められるときは、被告保証会社は被告銀行に対して預金の払出しの中止を依頼することができることが定められており、富山建設はこれらの定めを前提として本件預金口座を開設した。

本件預金口座は、富山建設にその自由な処分が許されていないという意味において、富山建設、被告保証会社及び被告銀行の間の特殊な三面契約によって開設されたものといえる。

ところが、本件においては、本件預金債権の帰属について原告と被告保証会社間に争いがある上、被告銀行は、原告からは使途内訳及び証明資料を添えた上での払出請求は受けておらず、被告保証会社からは、払出し中止の指示を受けている。このような状況の下では、被告銀行に預金の払出義務はなく、遅延損害金の支払義務もないというべきである。

(二) なお、被告銀行は、争いがない事実12記載のとおり、本件預金口座のうち八八二万〇六〇〇円については供託し、その余は原告に支払っている。

(原告の主張)

(一) 仮に、被告保証会社と富山建設との間及び被告保証会社と被告銀行との間に被告銀行主張の預金払出しに関する定めがあったとしても、本件預金口座の開設者である富山建設と被告銀行の間には、そのような定めはなく、通常の普通預金契約にすぎない。したがって、原告が預金払出しに関する定めに拘束されるいわれはない。

本件預金債権は、富山建設に帰属しており、被告銀行には、原告の預金払戻請求を拒む理由は存しないから、被告銀行は、原告の請求があり次第、直ちに本件預金口座の元利金残高を原告に対し払戻す義務を負っているところ、原告は、平成一一年五月一四日送達の本件訴状をもって、被告銀行に対し、本件預金口座の解約及び同口座の元利金残高全額の払出しを請求したが、被告銀行は、これに応じない。

そして、被告銀行が原告に対し弁済した三八万七三六〇円は、平成一一年五月一五日から同年一二月二九日までの二二九日間についての年六分の割合による遅延損害金である三四万六五四一円に充当され、次に、平成一一年五月一四日現在の利息である一二一二円に充当され、その後、本件預金残元金へ充当されるから、同日における本件預金口座の残高は、九一六万六一九三円である。さらに被告銀行は、平成一二年四月一四日、金二三九八円を原告に弁済した。

(二) よって、被告銀行は、原告に対し、本件預金口座の残元金である九一六万六一九三円及びこれに対する平成一一年一二月三〇日から支払済みに至るまで年六分の割合による金額から金二三九八円を控除した金員の支払義務がある。

(三) なお、被告銀行が本件預金のうち八八二万〇六〇〇円について行った供託は、債権者不確知の要件がなく、無効である。

4  本件供託金還付請求権の帰属

(原告の主張)

前記1で主張したとおり、本件預金債権は破産財団に帰属するから、本件供託金還付請求権も破産財団に帰属する。

(被告保証会社の主張)

争う。前記1で主張したとおりである。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲第二、第三号証、第一一号証の一ないし三、乙第七、第九、第一二、第一三号証、丙二号証の一及び二、第一一号証)と弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) 公共工事の前払金保証事業

国又は地方公共団体等の発注する公共工事については、従前、法律・政令に定められたものを除いて、前払が認められていなかったが、それでは請負人の工事資金の調達が難渋するなどの問題があったことから、保証事業法が制定され、同法に基づいて設立された保証事業会社により請負人の前払金返還債務について保証がされた場合に限り、前払をすることができることとされた(会計法二二条、予算決算及び会計令臨時特例二条三号、地方自治法二三二条の五第二項、同法施行令附則七条)。

(二) 右の前払金保証に関して、保証事業法は、次のとおり規定している。

(1) 保証事業会社が請負人との間で保証契約を締結しようとするときは、あらかじめ建設大臣の承認を受けた前払金保証約款に基づかなければならない(保証事業法一二条一項)。

(2) 保証事業会社は、保証契約の締結を条件として、被保証者(発注者)が保証契約者に前払金を支払った場合においては、保証契約者が前払金を適正に当該公共工事に使用しているかどうかについて、厳正な監査を行わなければならない(同法二七条)。

(三) そして、被告保証会社が制定した前払保証約款(本件約款)には、前払金が支払われた場合における前払金の保管、使途及び監査等について、以下のように定められている。

なお、本件約款は、建設省建設経済局建設業課長から、各都道府県宛に通知され、各都道府県から各市区町村にも周知されている。

(1) 被告保証会社は、前払金の使途を監査するため、必要に応じ何時でも、請負契約に関する書類及び保証契約者(工事請負人)の事務所、工事現場その他の場所を調査し、これについて保証契約者又は被保証者に対し、報告・説明もしくは証明を求めることができるものとする(本件約款一五条一項)。

(2) 保証契約者は、前払金を保証申込書に記載した目的に従い、適正に使用する責めを負い、被告保証会社が要求する必要資料を提出しなければならない(同条二項)。

(3) 保証契約者は、前払金を受領したときは、遅滞なく、その前払金を被告保証会社があらかじめ本条四項ないし六項に規定する事項につき委託契約を締結した金融機関のうち保証契約者が選定する金融機関に、別口普通預金として預け入れなければならない(同条三項)。

(4) 保証契約者は、預託金融機関に前払金の適正な使途に関する資料を提出して確認を受けなければ、前払金の払出しができない(同条四項)。

(5) 前払金が適正に使用されていないと認められるときは、被告保証会社は、預託金融機関に対し、別口普通預金の払戻しの中止その他の処置を依頼できる(同条五項)。

(6) 預託金融機関は、被告保証会社の委託により本条第三項の預金の使途に関する監査を代行することができる(同条六項)。

(四) また、被告保証会社は、右(1)の本件約款の規定に基づき、被告銀行との間で、前払金(預託金)の適正な払出に関する管理及び使途の監査につき、定型書式に基づき、本件業務委託契約を締結している。

本件業務委託契約書には、次のように定められている。

(1) 被告保証会社は、保証契約者が被告銀行を預託金融機関として選定したときは、被告銀行に対し遅滞なく前払金の預託に関する取扱依頼書乃び前払金の使途内訳明細書の写を送付するものとする(本件業務委託契約一条)。

(2) 預託金の受入科目は、別口普通預金とする(同二条一項)。

(3) 被告銀行は、保証契約者から預託金の使途内訳及び証明資料を添えて預託金払出の請求を受けた場合、その内容が使途内訳明細書に符合するときは、保証契約者にその請求金額を払い出すものとする(同三条)。

(4) 被告保証会社は、保証契約者がその払い出された預託金を適正に使用していないと認めたときは、被告銀行に対し爾後の預託金の払出の中止その他必要な処置を依頼することができる(同六条)。

(5) 本件前払金は、右の制度により、調布市から富山建設に対して、保証事業法五条に定める登録保証事業会社である被告保証会社の本件保証契約を前提に支出されたうえ、被告銀行の本件預金口座に入金されたものであり、当事者間の契約の内容は次のとおりである。

まず、調布市と富山建設との間の平成一〇年六月五日付の本件請負契約書には、前払金について以下のように定められている(以下「本件前払合意」という。)。

(1) 調布市は、契約書で前払金の支払を約した場合において、富山建設が保証事業法に定める保証事業会社との間で同法所定の前払金の保証契約を締結したときは、請負人の書面に基づく請求により、契約金額の三〇パーセントの額を前払金として支払うものとする(二九条一項)。

(2) 富山建設は、前払金を工事に必要な経費以外の経費の支払に充ててはならない(三二条一項)。

(3) 富山建設は、前項の規定に違反した場合又は保証契約が解約された場合は、既に支払われた前払金を、直ちに発注者に返還しなければならない(同条二項)。

そして、被告保証会社は、平成一〇年六月一一日、富山建設と本件保証契約を締結したが、右契約の保証証書には、本件約款に基づき本件保証契約を締結した旨が明記されている。その際、被告保証会社は、富山建設に対し、保証申込みにあたっての必要書類(保証申込書、前払金使途内訳明細書、請負契約書等)、前払金の払出に当たっての必要書類(預託金払出依頼書、当該工事の経費の支払いであることが確認できる証明資料)や注意事項等を記載した「契約保証と前払金保証(手続のご案内)」と題したパンフレット(乙第一二号証)等を交付した。

2(一)  以上の事実関係によれば、富山建設と調布市との間の本件前払合意は、保証事業法による保証を前提とするものであるところ、保証事業法によれば、保証は保証約款に基づくことが規定され、かつ保証約款は、建設大臣の承認を要し、建設省からの通知等をもって各地方公共団体に周知されているのであるから、当事者である富山建設と調布市は、保証事業法及び本件約款の各規定(前払金の保管方法、使途制限、管理、監査の方法等の各規定)を容認し、これらを前提として前払合意をしたものというべきである。

そして、本件前払合意並びに保証事業法及び本件保証約款によれば、前払金は別口普通預金口座で別途管理すること、本件工事の必要経費以外に使用してはならないこと、払出についても適正な使途に関する資料を提出して確認を得なければならないこと、富山建設は前払金の使途について監査を受け、使途が適正でないときは払出中止の措置がとられることなどが定められている。

このように、その使途について厳格な制限を課し、分別の管理を行わせていることなどを考慮すると、本件前払合意による前払金は、未だ請負代金の支払とはいえず、その使途を本件工事の必要経費に限定して信託財産として移転したものにすぎないというべきである。

したがって、本件前払合意は、信託法一条にいう信託契約に該当するというべきである。

(二)  なお、右の信託契約においては、調布市は、前払金が工事代金の一部として支払われ、それ以外には使われないということについて利益を有する受益者であるとともに、富山建設も、本件工事を行えば、それに応じて支払を受けられるという意味において受益者となる。したがって、富山建設は、受託者兼受益者であるが、信託法九条は、受託者が単独受益者を兼ねることを禁止するものに過ぎないから、複数の受益者のうちの一人が受託者を兼ねたとしても、同条には反しない。

そして、この場合、前払金が本件預金口座に現実に振込まれた時点で信託が成立し、工事の進展に応じて、一定の手続に基づいて請負人に払い出されることによって、請負代金の支払となるものである。

(三)  これに対して、原告は、本件預金債権を信託財産とすると、本件預金債権には富山建設固有の財産が混在していたから、信託財産の独立性に反する旨主張する。

しかし、富山建設が本件預金口座を開設した際に預け入れた一万円は、受託者たる富山建設が信託財産の保管のために支出した経費ということができる。また、三八万七三六〇円については、工事の出来高として富山建設に支払われるべき金額ではあったものの、前記のとおり、富山建設が本件預金を払い出すためには、前払金の使途についての資料を提出するなど所定の手続に従わなければならないのである。それまでの間は、信託財産として本件預金口座に保管されているのであり、富山建設の固有財産であるとはいえない。さらに、預金から発生する利息については、信託行為によって受託者が取得するように定めることも可能と解されるから、この点についての原告の主張も失当である。

また、本件保証契約の被保証債務は、本件請負契約が解除された場合、交付された前払金と検査、確認された出来高の差額を返還する旨の富山建設と調布市との間の合意に基づく前払金の返還債務と解されるところ、富山建設の故意又は過失により、本件前払金が適切に工事の経費に使用されずに費消されてしまう場合(例えば、下請業者が倒産した場合等)もあり得るのであって、本件預金債権が信託財産であり、信託の終了により、調布市が取戻権を取得するとしても、前払金返還債務の保証をする意義がなくなるわけではない。

さらに、原告は、富山建設が本件前払金の使途・払戻しについて制約を受けていることが信託における受託者の管理権の排他性に反する旨主張するが、右は、受託者の信託財産の処分権限が制限されていることによるものであって、管理権の排他性に関する事柄ではない(請負契約が解除されるまでの間、所定の手続にしたがって預金の払戻しを受けることができるのは富山建設のみである。)。

(四)  以上によれば、本件預金債権は、信託財産であるということができる。

そして、信託がその目的を達することができなくなって終了した場合に、信託契約でその場合の信託財産の帰属を定めていないときには、信託財産は委託者に帰属するものと解されるから、本件においては、本件請負契約が解除された時点で、信託は終了し、本件預金債権は、委託者たる調布市に帰属したことになる。よって、信託財産は破産財産を構成せず、調布市は、取戻権を取得した。

さらに、被告保証会社は、本件前払金と工事の出来高との差額を調布市に支払ったことにより、富山建設に対し求償権を取得し、その行使のために、調布市の取戻権を代位取得したといえる。

なお、本件預金債権は、富山建設の一般財産から分別管理され、特定性をもって保管されているから、受託者の一般債権者は信託財産の差押等はできず、また、登記・登録が不可能な財産権であるから、分別管理されていることによって、第三者にも対抗することができると解される(信託法一六条)。したがって、調布市の取戻権が原告に対抗できるものであったことはもちろん、被告保証会社の取戻権の取得は、法定代位によるものであるから、債権譲渡の対抗要件を満たす必要はなく、当然に原告に対し対抗することができるというべきである。

以上によれば、本件預金債権は、信託財産であり、富山建設の破産財団には帰属しないというべきである。よって、争点1に関し、原告の主張は認めることができない。

二  争点2について

原告は、被告保証会社が本件預金債権について取戻権を主張することは、破産債権の確定効(既判力)に反すると主張する。

しかし、被告保証会社の主張する取戻権と、破産債権である求償権とは、訴訟物を異にするものであること、取戻権は、別除権と同様に、破産手続外でも行使が可能な権利であることを考慮すると、求償権が破産債権として確定したからといって、被告保証会社が破産手続外で取戻権を主張することが禁じられるいわれはなく、何ら確定効ないし既判力に反するものではない。

また、原告は、取戻権の主張が信義則違反ないし争点効に反する旨の主張もしているが、仮に、原告主張の事由があったとしても、信義則等に反するとまではいえない。

三  争点3について

1  前記のとおり、本件預金債権は破産財団に属するものではないから、原告は被告銀行に対して、その支払を求めることはできない。

2  もっとも、本件預金のうち八八二万〇六〇〇円を除くその余の部分については、原告は本件工事の出来高に相当する部分として、所定の手続に従ってその払出しを請求することができるが、前記争いのない事実12記載のとおり、被告銀行は、平成一一年一二月二九日、原告に対し、本件預金口座残高のうち八八二万〇六〇〇円を除くその余の全額三八万七三六〇円を支払済みである。

3  なお、原告は、右三八万七三六〇円について平成一一年五月一六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金を請求しているので、右遅延損害金請求について判断する。

前記認定事実によれば、被告保証会社と富山建設の間においては本件保証契約及び本件約款一五条四項により、被告保証会社と被告銀行との間においては、本件業務委託契約三条により、それぞれ富山建設は、本件預金の払出しを請求する場合は、被告銀行に適正な前払金の使途に関する資料を提出して、預託金の使途内訳明細書と符合するかについての確認を受けなければならない旨が合意されている。そして、富山建設と被告銀行は、これらの各合意を前提として本件預金口座を開設したのである。

これらの事実関係によれば、被告保証会社と被告銀行間、被告保証会社と富山建設間のみならず、被告銀行と富山建設との間においても、本件預金の払出しについては前記の手続によるとの合意が成立していると認められ、原告もその合意に拘束されるというべきである。

しかし、本件全証拠によるも、原告が、被告銀行に対し、前払金の使途内訳に関する資料等、何らかの資料を提出して預金の払出しを請求したと認めるに足りる証拠はない。したがって、被告銀行は、遅延損害金を支払う義務はないというべきである。

したがって、争点3に関する原告の主張も認められない。

四  争点4について

前記のとおり、本件預金債権は破産財団に属さず、原告は本件預金八八二万〇六〇〇円の支払請求権を有しないから、本件供託が有効か否かを判断するまでもなく、原告の供託金還付請求権確認請求は理由がないことが明らかである。

第四結論

以上によれば、本訴請求は主位的請求、予備的請求のいずれも理由がないから棄却することとし(なお、本件訴訟の係属中に被告銀行が本件預金債務につき弁済及び供託をしたため、本件預金債権は消滅したが、本件訴訟の当事者の主張関係及び右弁済等の経緯等に照らすと、右預金債権の帰属については、なお確認の利益があるというべきである。)、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧澤泉 裁判官 澤田正彦 裁判官 加本牧子)

(別紙)預金目録<省略>

(別紙)供託目録<省略>

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