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東京地方裁判所 平成11年(特わ)766号 判決 2000年3月28日

主文

被告人甲山一郎を懲役一二年及び罰金五〇〇万円に、被告人乙川太郎を懲役九年及び罰金二〇〇万円に、被告人丙谷二郎を懲役七年及び罰金一五〇万円に処する。

被告人三名に対し、未決勾留日数中各四〇〇日をそれぞれその懲役刑に算入する。

被告人三名においてその罰金を完納することができないときは、それぞれ金二万円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

被告人三名から、警視庁本部で保管中の覚せい剤六八袋(平成一一年東地庁外領第四三一号の一から七まで、九から一三まで、五四から六一まで及び六三から一〇四まで)及び石川島播磨重工業株式会社船舶海洋事業本部東京第一工場構内で保管中の漁船「○○」一隻(平成一〇年東地庁外領第六五〇五号の一)を没収する。

被告人乙川太郎から、東京地方検察庁で保管中の現金四二万円(平成一〇年東地領第五六三七号の一)を没収する。

被告人三名から金一四億六四七万五五四七円を追徴する。

被告人甲山一郎から金一三五二万八四〇四円を、被告人乙川太郎から金一三八万円を追徴する。

理由

(犯罪事実)

被告人三名は、丁野三郎、戊山四郎、甲川五郎らと共謀の上、

第一  営利の目的で、みだりに、外国船籍の船舶と洋上取引をして入手した覚せい剤を本邦に輸入しようと企て、被告人三人及び甲川が、平成一〇年八月一二日午後四時三〇分ころ、北緯三〇度、東経一二五度三〇分の東シナ海公海上において、乗船する漁船「○○」(平成一〇年東地庁外領第六五〇五号の一)を外国船籍の船舶「△△」に接舷させ、同船の乗組員から覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩酸塩の結晶合計290.48453キログラム(平成一一年東地庁外領第四三一号の一から七まで、九から一三まで、五四から六一まで及び六三ないし一〇四までは、その一部である六八袋で、いずれも鑑定後の残量)を受領して右漁船「○○」に積載した上、同船を本邦に向けて航行させ、同月一三日午後一一時ころ、北緯三一度、東経一二九度一二分の鹿児島県宇治群島南西方約一四海里にあたる本邦領海内に同船を到達させて右覚せい剤を本邦領海内に搬入し、もって、覚せい剤の営利目的輸入罪を犯す目的でその予備をし、

第二  前記犯行により入手して本邦に到着させた関税定率法上の輸入禁制品である前記覚せい剤290.48453キログラムを保税地域を経由しないで本邦に引き取ろうと企て、同月一四日、これを積載した前記漁船「○○」を鹿児島県佐多岬沖及び宮崎県沖を経由して航行させながら、被告人甲山が、所携の携帯電話機を用いて、あらかじめ陸送担当者と右覚せい剤の陸揚げに関する連絡を取り合い、搬送用自動車の手配を依頼するなどして、右覚せい剤の陸揚げ地を不開港である高知県土佐清水市所在の土佐清水港に決定し、同日午後九時五〇分ころ、右漁船「○○」を同市市場町<番地略>所在の同港清水漁業協同組合購買センター東側岸壁に接岸させ、ほどなく被告人甲山、丙谷及び甲川が上陸するなどして、輸入禁制品である右覚せい剤を陸揚げして輸入しようとしたが、私服の警察官らが同岸壁付近で警戒に当たっていたため、その目的を遂げず、

第三  営利の目的で、みだりに、同月一五日ころ、高知県高岡郡窪川町興津埼沖付近海上を航行中の前記漁船「○○」において、前記覚せい剤290.48453キログラムを同船に積載して所持し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(検察官及び弁護人の主張に対する判断等)

第一  二重起訴の主張について

一  被告人甲山の弁護人は、検察官の起訴に係る禁制品輸入未遂罪と覚せい剤の営利目的輸入罪とは観念的競合の関係にあるので、検察官の禁制品輸入未遂罪の公訴は、覚せい剤の営利目的輸入罪の公訴との関係において二重起訴に当たるものであり、刑事訴訟法三三八条三号により公訴棄却の判決がされるべきである旨主張する。

二  しかしながら、検察官の禁制品輸入未遂罪の公訴と覚せい剤の営利目的輸入罪の公訴は、その各公訴の内容を前提にすれば、犯行の日時、場所、態様等を異にし、行為者の動態が、法的評価を離れて構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で、社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合ではないので、両罪は、観念的競合の関係にはなく、併合罪の関係に立つというべきである。したがって、弁護人の右主張は、その前提を欠くものであり、検察官の禁制品輸入未遂罪の公訴が刑事訴訟法三三八条三号に規定する二重起訴に該当しないことは明らかであるから、弁護人の右主張は理由がない。

第二  覚せい剤の分量について

一  検察官は、漁船「○○」に積載された本件覚せい剤の分量が約三〇〇キログラムであった旨主張するが、当裁判所は、その分量が少なくとも290.48453キログラムであったという限度で認定したので、その理由を補足して説明する。

二  確かに、検察官の主張するように、被告人三名並びに共犯者の甲川五郎及び戊山四郎は、いずれも約二〇キログラムの覚せい剤一五袋を漁船「○○」に積載したという趣旨の供述をしており、その内容は互いに一致している。また、関係各証拠によれば、発見されて押収された覚せい剤の袋は、いずれもいったん海中に投げ入れられた後に回収されたものであり、その覚せい剤の分量も、一九キログラム台のものが三袋、一八キログラム台のものが二袋、一六キログラム台のものが一袋などと区々になっており(押収覚せい剤鑑定結果報告書(謄本。甲二九四)参照)、覚せい剤が水溶液混じりの状態になっているものや内袋が空袋になっているものも少なくない、海水が袋の中に流入したことやそれに伴って覚せい剤が海水に溶解して袋の外に流出したことが認められる。さらに、例えば、平成一一年東地庁外領第四三一号の一の覚せい剤一袋(覚せい剤の分量は18.500キログラム。「覚せい剤の鑑定について(回答)」と題する書面(謄本。甲六)参照)のように、その覚せい剤の分量や状態等から、一部の覚せい剤が海水に溶解して流出する前の一袋の覚せい剤の分量が二〇キログラムを上回っていた可能性が窺われる袋も存在する。これらの事情に照らすと、漁船「○○」に積載された本件覚せい剤の分量が三〇〇キログラム以上あったことも窺われないではない。

三  しかしながら、被告人らは、漁船「○○」に積載した覚せい剤の分量を計量器等を用いて計量することはしていないこと、押収された覚せい剤の袋の中には、実際に二〇キログラム以上の分量の覚せい剤が入っていたものは存在しないこと、海中に溶解して流出した覚せい剤の分量を確定することはできないことなどに照らすと、次のとおり、漁船「○○」に積載された本件覚せい剤の分量は、三〇〇キログラムに達するものであったと認定することはできず、少なくとも290.48453キログラムであったという限度において認定するのが相当である。すなわち、押収された覚せい剤の袋のうち、覚せい剤の流出量が比較的少なく、梱包時の状態をほぼ保っていると認められる三袋の覚せい剤の分量は、19.36053キログラム(平成一一年東地庁外領第四三一号の三。「覚せい剤の鑑定について(回答)」と題する書面(謄本。甲一六)参照)、19.334キログラム(同号の五九。「覚せい剤の鑑定について(回答)」と題する書面(謄本。甲九九)参照)及び19.782キログラム(同号の六〇。「覚せい剤の鑑定について(回答)」と題する書面(謄本。甲一〇三)参照)であるので、他の一二袋も、梱包時にはこれらと同程度の分量の覚せい剤が存在していたと推認することができる。そして、右三袋のうち、覚せい剤の分量が最も少ない19.334キログラムの袋は、一部に比較的湿った状態の覚せい剤が入った内袋はあるものの、水溶液混じりの状態になった覚せい剤が入った内袋はなく、梱包時の状態が特に良く保たれているものであるから、他の一二袋についても、少なくともこれと同量の覚せい剤が存在していたものと推認することは、十分に合理性がある。そこで、本件覚せい剤の分量は、少なくとも、前記三袋の覚せい剤の合計58.47653キログラムと、残りの一二袋分の覚せい剤として19.334キログラムに一二を乗じて産出した232.008キログラムを合算した290.48453キログラムであったと認定することにした。

第三 覚せい剤の営利目的輸入罪の成否等について

一1 検察官は、判示第一の事実につき、公訴事実として、「被告人三名は、丁野三郎、戊山四郎及び甲川五郎らと共謀の上、営利の目的で、みだりに、外国籍の船舶と洋上取引をする方法により覚せい剤を本邦に輸入しようと企て、被告人三名及び右甲川が、平成一〇年八月一〇日午後一一時ころ、漁船○○に乗船して鹿児島県枕崎市字上釜<番地略>所在の枕崎漁港を出港し、同月一二日午後四時三〇分ころ、北緯三〇度、東経一二五度三〇分の東シナ海公海上において、朝鮮民主主義人民共和国籍の船舶△△と接舷し、同船乗組員から覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の結晶約二〇キログラム一五袋(合計約三〇〇キログラム)を受領して右漁船○○に積載した上、同船を本邦に向けて航行させ、同月一三日午後一一時ころ、北緯三一度、東経一二九度一二分の鹿児島県宇治群島南西方約一四海里にあたる本邦領海内に到達させて同覚せい剤を本邦内に搬入し、もって、覚せい剤を本邦に輸入したものである。」という事実を掲げ、被告人三名を覚せい剤の営利目的輸入罪により処罰することを求めている。そして、検察官は、その理由として、本件のように、日本人である犯人が、その支配している日本船籍の船舶を用いて公海上で覚せい剤を受け取り、その後、引き続き覚せい剤を本邦に陸揚げすべく同船を本邦に向けて航行させた上、本邦の領海内に入り、陸上の者と頻繁に連絡を取り合い、GPS(汎地球測位システム。Global Positioning System)を作動させ、いつでもどこの港にも覚せい剤を陸揚げすることが容易な態様で実行される瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案においては、小型船舶の現在における普及状況と著しい高速化、人工衛星を利用したGPSの普及、携帯無線機や携帯電話等の情報通信システムの高性能化と著しい普及状況等にかんがみ、犯人が公海上で覚せい剤を受け取った後、これを本邦の領海内に持ち込んだ時点で、覚せい剤の営利目的輸入罪は既遂に達すると解すべきである旨主張している。

2 これに対し、被告人甲山の弁護人は、判示第一の事実につき、覚せい剤を本邦の領土内に陸揚げした時点で覚せい剤の営利目的輸入罪が既遂に達するものであり、覚せい剤を本邦の領海内に持ち込んだだけでは覚せい剤の営利目的輸入予備罪が成立するに過ぎず、また、覚せい剤の営利目的輸入既遂罪と営利目的輸入予備罪は構成要件や行為の意味を異にしており、訴因変更の手続を経ることなく覚せい剤の営利目的輸入予備罪を認定することはできないので、同被告人は無罪である旨主張する。

二1 そこで、検討すると、覚せい剤取締法は、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するために必要な取締りを行うことを目的とするものであり(同法一条)、覚せい剤輸入罪の既遂時期の解釈に当たっては、右危害発生の危険性の有無及び程度、覚せい剤取締法の各処罰規定の中における覚せい剤輸入罪の位置付け等をも踏まえて判断すべき事柄である。そして、覚せい剤を本邦外の地域から船舶により本邦の領海内に、又は航空機により本邦の領空内に搬入した時点では、覚せい剤の拡散及び濫用による危害発生の危険性は、本邦の領海外又は領空外にあった場合に比べて高くなっているということはできるものの、覚せい剤を本邦の領土内に陸揚げし、又は取り降ろした場合に比べると、未だ抽象的かつ限定的なものにとどまっているといわざるを得ない。これに対し、覚せい剤が、一たび船舶から本邦の領土内に陸揚げされ、又は航空機から本邦の領土内に取り降ろされれば、覚せい剤の拡散及び濫用の事態が生じるおそれは一挙に顕在化し、明確化するのである。このように、覚せい剤を領海内又は領空内に搬入した時点と、覚せい剤を領土内に陸揚げし、又は取り降ろした時点とでは、覚せい剤の濫用による公衆衛生上の危害発生の危険性の程度において、質的に格段の相違があるといわなければならない。また、覚せい剤輸入罪は、覚せい剤の所持罪、譲渡罪及び譲受罪よりも重い法定刑が定められており、とりわけ、覚せい剤の営利目的輸入罪については、無期懲役刑が法定刑に含まれていることにかんがみると、覚せい剤取締法は、そのような重罰にも処し得ることが相当といえる程度の高度な保健衛生上の危害発生の危険性を生じさせた行為を覚せい剤の輸入既遂罪として処罰することを予定しているものと解すべきである。してみると、本邦外の地域から船舶又は航空機により本邦内に覚せい剤を持ち込む場合、覚せい剤輸入罪は、船舶による場合には船舶から覚せい剤を陸揚げした時点で、航空機による場合は航空機から覚せい剤を取り降ろした時点で、それぞれ既遂に達すると解するのが相当である。   2  このような解釈(いわゆる「陸揚げ説」)は、従来の実務の取扱いであり、最高裁判所昭和五八年九月二九日第一小法廷判決(刑集三七巻七号一一一〇頁)においても採用されているところである。そして、右解釈は、①覚せい剤取締法が、輸入未遂罪を処罰する規定を設けていながら、平成三年法律第九三号による改正が行われるまでは、輸入未遂罪の国外犯を処罰する規定を置いておらず、輸入未遂罪は、国内犯として成立することを前提としていたこと、②覚せい剤原料輸入業者が、厚生大臣の許可を受けてその業務のために覚せい剤原料を適法に輸入する場合、右輸入の許可は、通常、覚せい剤原料を我が国の港まで運搬して領土内に陸揚げする前にこれを受ければ足りるとされていること、③覚せい剤輸出罪は、外国に仕向けられた船舶又は航空機に覚せい剤を搬入した時点で既遂となり、領海外又は領空外に覚せい剤を搬出することを要しないと解されていることなどによっても、その合理性が理由付けられている。

三1 これに対し、検察官は、本件と前記最高裁判決とは事案を異にしており、本件のように、日本人である犯人が覚せい剤を公海上で相手船から受け取り、運行支配を有している日本船籍の瀬取り船に積載して本邦に向けて航行し、本邦の領海内にこれを持ち込んだという瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案においては、同判決の射程距離の範囲外にあるものであって、覚せい剤が本邦の領海内に持ち込まれた時点で、覚せい剤輸入罪は既遂に達するという解釈(いわゆる「領海説」)を採用すべきである旨主張している。そして、検察官は、その理由として幾つかの点を挙げているので、以下、検察官が理由とするところについて順次検討を加え、その主張の当否を判断することにする。

2(一) 検察官は、近時の通信技術等の急速な発展により、日本人が日本船籍の船舶を利用して行う瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案においては、覚せい剤を積載した船が本邦の領海内に到達した時点で、覚せい剤の陸揚げに至っていなくても、それが陸揚げされたとの同様に、前記最高裁判決が判示した覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害発生の危険性が明確かつ具体的に発生していると評価することができる旨主張している。すなわち、携帯電話やGPSの高性能化とその普及、船舶用高性能エンジンの開発等により、本件のように、日本人である犯人が、高性能のGPSを装備し、携帯電話、携帯無線機等の最新通信装置を携行するとともに、完全な運行支配を有する日本船籍の船舶を使用して公海上に乗り出し、瀬取りにより相手船から覚せい剤を受け取って本邦の領海内に入った場合には、自己の船舶を自由に操り、陸上の共犯者と随時かつ頻繁に連絡を取り合いながら取締機関の動きを把握し、その警戒網をかいくぐって、いずれかの最も安全な港に入港し、又は港以外の入り江若しくは砂浜に接岸させるなどして、積載している覚せい剤を陸揚げすることが容易になっているのみならず、陸揚げに伴う危険を回避するために、陸揚げすることなく、領海内である我が国の沿岸海域において、他の日本船籍の船舶と接触し、その乗組員に覚せい剤を売り捌くことさえ可能となっているのであるから、領海内に覚せい剤が持ち込まれた時点で、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害発生の危険性が顕在化ないし現実化したと認められるというのである。

しかしながら、検察官の右主張のうち、瀬取り方式による密輸入事案の場合には、近時の通信技術等の急速な発展により、取締機関の警戒網をかいくぐって覚せい剤を陸揚げすることが容易であるので、領海内に覚せい剤が持ち込まれた時点で、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害発生の危険性が顕在化ないし現実化しているという点については、瀬取り方式による密輸入事案の場合以上に、領海内又は領空内に持ち込まれた覚せい剤の陸揚げ又は取り降ろしの蓋然性が高い場合が、他にも存するのである。すなわち、船便又は航空便や船舶貨物又は航空貨物により覚せい剤を密輸入する場合のほか、船舶の客室への持込み手荷物内や航空機の機内預け又は機内持込みの手荷物の中に隠匿して覚せい剤を密輸入する場合などにおいては、税関を通過できるかどうかは別として、船舶からの陸揚げや航空機からの取り降ろしが行われること自体の蓋然性は極めて高いものであるということができる。これに対し、瀬取り方式による密輸入事案の場合には、犯人が瀬取り船の運行を支配しているのであるから、本件がそうであったように、領海内に入った後、覚せい剤の陸揚げをする前に、取締機関等による検挙をおそれて、陸揚げを断念したり差し控えたりすることもあり得るのであって、領海内に入っただけで直ちに陸揚げの蓋然性が高いということはできない。また、検察官の右主張のうち、瀬取り方式による密輸入事案の場合には、沿岸海域において、陸揚げ前に他の日本船籍の船舶の乗組員に覚せい剤を売り捌くことが可能であるという点についても、例えば、大型客船や大型旅客機の搭乗者が、外国からの覚せい剤を携帯して領海内又は領空内に持ち込み、客船内や旅客機内で他の者に売り捌くことも可能なように、陸揚げ前の覚せい剤の拡散の危険性が存在し得るという事情は、瀬取り方式による密輸入事案のみに限られたものではない。さらに、覚せい剤を領海内又は領空内に搬入した時点と、覚せい剤を領土内に陸揚げし、又は取り降ろした時点とでは、覚せい剤の濫用による公衆衛生上の危害発生の危険性の程度において、質的に格段の相違があり、前者の時点における危険性は、後者の時点における危険性に比べて、未だ抽象的かつ限定的なものにとどまっているといわざるを得ないことは、前記二の1で説示したとおりであって、この点は、瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案においても異なるところはないというべきである。したがって、本件のような瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案の場合に限って、領海内に覚せい剤が持ち込まれた時点で、前記最高裁判決が判示した覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害発生の危険性が明確かつ具体的に発生していると評価することができるという検察官の主張は、合理性を有するものではないといわなければならない。

(二) 検察官は、前記最高裁判決が本件とは事案を異にするものであり、また、同判決においては、通関線の突破前であっても、税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取り降ろした時点で、覚せい剤に対する犯人の支配が生じていることから、輸入罪の既遂の成立を肯定したものと解されるから、本件のように、覚せい剤を本邦の領海内に持ち込んだ時点で、犯人の覚せい剤に対する支配が及んでいる輸入事案に同判決の判示をそのまま当てはめることは相当ではなく、日本人が日本船籍の船舶を使用して行う瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案においては、同判決の射程距離が及ばないのであって、覚せい剤を本邦の領海内に持ち込んだ時点で、覚せい剤輸入罪は既遂に達すると解すべきである旨主張している。すなわち、覚せい剤取締法にいう「輸入」とは、同法による取締りを行うことができない本邦外の領域から、その取締りを行うことができる本邦の領域内に覚せい剤を搬入し、濫用による保健衛生上の危害をもたらす危険のある状態を作出することをいうと解すべきであり、本体のような瀬取り船による覚せい剤の輸入のうち、日本人である犯人が、その航行を支配し、GPS装置による正確な航行と携帯電話等による共犯者間での随時の連絡を確保するなどして領海内に入り、いつでもどこの洋上でも取引ができるような事案においては、領海に入った時点で既遂と評価することが、前記最高裁判決の趣旨にも合致するというのである。

確かに、前記最高裁判決は、犯人が、航空機に搭乗して、外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に外国から覚せい剤を持ち込み、これを携帯して通関線を突破しようとした事案であるから、本件と重要な点において事実関係を異にしていることは明らかである(もっとも、検察官は、前記最高裁判決について、犯人が覚せい剤を航空機から取り降ろした時点で犯人の覚せい剤に対する支配が生じたことから、輸入罪の既遂の成立を肯定したものと解されるとして、犯人が覚せい剤を本邦の領海内に持ち込んだ時点で犯人の覚せい剤に対する支配が及んでいる本件とは事案を異にするとも主張しているが、前記最高裁判決の事案は、犯人が、覚せい剤をキャリーバッグの底に隠匿携帯して搭乗し、その携帯に係る覚せい剤を航空機から機外に持ち出したというものであって、犯人は、搭乗から取り降ろしに至るまでの間、覚せい剤に対する支配を有していたのであるから、検察官の右主張には疑問がある。)。しかしながら、前記最高裁判決は、船舶から覚せい剤を陸揚げし、航空機から覚せい剤を取り降ろすことによって、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害発生の危険性が生じるとして、その時点で覚せい剤輸入罪が既遂に達すると判示しているのであって、その趣旨からするならば、本件のように瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案については、これと取扱いを異にして既遂時期につき直ちに領海説を採用すべきことを想定しているとは考え難い。検察官は、前記最高裁判決の趣旨を敷衍するものであるとして、覚せい剤取締法にいう「輸入」について前記のような抽象的な定義付けを行った上、本件のように、日本人である犯人が、覚せい剤を公海上で相手船から受け取り、運行支配を有している日本船籍の瀬取り船に積載して本邦に向けて航行し、本邦の領海内にこれを持ち込んだという瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案においては、覚せい剤を本邦の領海内に持ち込んだ時点で、覚せい剤輸入罪は既遂に達すると解すべき旨主張しているのであるが、例えば、犯人が外国人であった場合のほか、犯人が運行支配を有している船舶が外国船籍であった場合や、覚せい剤を相手船から受け取った場所が本邦の領海内であった場合など、検察官が本件を特徴付ける構成要素として挙げている具体的な事実関係が変わったときに、覚せい剤の既遂時期がどうなるのかという疑問が直ちに生じることになる。検察官の主張やその提案する覚せい剤輸入罪の抽象的な定義は、結局のところ、覚せい剤輸入事案の具体的な態様によってそれぞれその既遂時期やひいては実行行為が異なることになるというものであるが、日本人が日本船籍の船舶を用いた場合のみについて他と異なる取扱いをするというのであれば、その合理性には疑問がある上、個々の事案の具体的な態様によって覚せい剤輸入罪の既遂時期や実行行為が異なるという解釈は、覚せい剤輸入罪の既遂時期等が不明確なものになり、覚せい剤取締法の行為規範としての法的明確性や予測可能性を損ない、覚せい剤輸入行為の取締りや刑事実務にもかえって混乱をもたらすおそれがあるといわなければならない。

(三) 検察官は、平成八年法律第七三号により、「領海法」の題名が「領海及び接続水域に関する法律」に改正され、領海の外に一二海里の幅で、「我が国の領域における通関、財政、出入国管理及び衛生に関する法令に違反する行為の防止及び処罰のために必要な措置を執る水域として」、公権力の行使を認めた「接続水域」が設けられ、薬物の密輸入事犯等に対する取締りの強化が図られているが、同法は、覚せい剤等の薬物が本邦の領海内に搬入された時点において、その薬物の濫用により保健衛生上の危害発生の危険性が生じることを当然の前提としているものと理解される旨主張している。

しかしながら、右法改正により、接続水域が新設され、同水域において必要な措置を執ることが認められ、薬物の密輸入事犯等に対する取締りの強化が図られたことは、薬物の濫用による保健衛生上の危害発生の危険性がいつの時点で顕在化するかということとは問題の次元を異にするものであり、右法改正は、覚せい剤輸入罪の既遂時期に直接的な影響を及ぼすものではないというべきである。ちなみに、領海及び接続水域に関する法律四条一項は、我が国の領土内における手続を前提とする「通関」に関する法令に違反する行為の防止及び処罰のためにも必要な措置を執る水域として接続水域を設ける旨を定めており、また、右法改正の基になった海洋法に関する国際連合条約三三条一項は、接続水域において、「自国の領土又は領海内」における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反を防止し、処罰することに必要な規制を行うことができる旨を定めているのであって、領海及び接続水域に関する法律が、覚せい剤等の薬物が本邦の領海内に搬入された時点において、その薬物の濫用により保健衛生上の危害発生の危険性が生じることを当然の前提としているということはできない。さらに、平成三年に覚せい剤取締法を改正して国外犯処罰規定を新設した際にも、国会での審議において、前記最高裁判決の採用した覚せい剤輸入罪の既遂時期に関する陸揚げ説を立法的に変更しようという趣旨の議論は、特に行われていないのである。

四  検察官は、覚せい剤の製造に必要な覚せい剤原料や機器類、薬品類等を船舶に積載して、本邦の領海内ぎりぎりの洋上で覚せい剤を製造した場合と、瀬取りされた覚せい剤が本邦の領海外から領海内に持ち込まれた場合とでは、我が国にそれまで存在しなかった覚せい剤が新たに生じたという点で、何ら異なるものではないので、前者の場合に覚せい剤製造罪の既遂が認められる以上、その対比からして、後者の場合に覚せい剤輸入罪の既遂が認められることは当然である旨主張している。

しかしながら、覚せい剤の製造は、類型的に見れば、領土内において行われ、領土内に覚せい剤の拡散及び濫用による保健衛生上の危害発生の危険性をもたらすというのが通常であり、領海内において行われることも理論的にはあり得るからといって、そのような例外的な事例との均衡を図るために、覚せい剤輸入罪について、領海搬入時に既遂時期を認めることが合理性のある解釈とは考え難い。また、覚せい剤製造罪との対比から、覚せい剤輸入罪一般についてではなく、本件のような瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案についてのみ領海説を採用することは、その合理的な説明を見出すことが困難である。

(五) 検察官は、最高裁判所昭和四一年七月一三日大法廷判決(刑集二〇巻六号六五六頁)が、麻薬取締法にいう「輸入」の意義について、「麻薬が、同法による行政的取締りをすることができない地域から、その取締りをすることができる地域へ搬入されることを輸入として規整する必要がある」と判示しているが、本件のような瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案において領海説を採用することは、この最高裁判決の趣旨にも合致するものである旨主張している。

しかしながら、右最高裁判決は、我が国の領土ではあるが、我が国の施政権が現実に行使されていない地域から、我が国の施政権が行使されている地域に麻薬を搬入する行為が麻薬取締法に定める輸入に当たるかどうかという争点について判示したものであり、麻薬輸入罪の既遂時期について判示したものではなく、また、阿片煙輸入罪に関する大審院昭和八年七月六日判決(大刑集一二巻一三号一一二五頁)などそれ以前の判例で採用されている輸入罪の既遂時期に関する陸揚げ説の考え方を変更しようとしたものではないのである。すなわち、右最高裁判決は、沖縄に我が国の施政権が及ばなかった当時において、被告人が、麻薬を身辺に隠匿し、沖縄から船舶で鹿児島港に入って上陸した事案について、施政権の及ばない沖縄から施政権の及ぶ鹿児島県に上陸して我が国の領土内に麻薬を搬入した行為をもって麻薬の輸入として規制するという解釈を採った事案として理解されているものであり、沖縄から持ち込んだ麻薬を実際に陸揚げしている点において本件とはその事案を異にしており、本件で領海説を採用することの根拠になるものではない。

(六) 検察官は、薬物犯罪を含めて、犯罪のグローバル化、ボーダーレス化が指摘されている現代の犯罪情勢の下において、本件のような瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案について、覚せい剤輸入罪の既遂時期として領海説を採用することは、通信技術等の急速な発展や瀬取り方式による密輸入事犯の激増という近時の実情等に照らし、妥当な解釈というべきである旨主張している。換言すれば、各種技術(革新等に伴ない、海上で瀬取り方式により覚せい剤の取引を行い、取締機関の警戒網をかいくぐってこれを陸揚げすることが容易になっており、本件のような瀬取り方式による覚せい剤の密輸入事案においては、覚せい剤の陸揚げを待たなければ覚せい剤輸入罪の既遂にならないというのでは、取締りに支障が生じるということであって、結局のところ、このような取締上の必要性が、本件において領海説を採用すべきであるという検察官の主張の最も中心的かつ実質的な理由であると考えられるのである。

確かに、検察官の主張するように、携帯無線機や携帯電話機等の情報通信システムの高性能化と著しい普及、人工衛星を利用したGPSの普及、小型船舶の著しい高速化と普及等により、覚せい剤の密輸入事案が増大し、その手口も巧妙化や悪質化してきており、その取締りの必要性が一段と高まってきていることは認めることができる。しかしながら、本邦の領海外で覚せい剤を積載した瀬取り船が、それを本邦の領海内に持ち込んだ時点では、その乗組員に覚せい剤所持罪等が成立しているのであり、同罪等によって、右瀬取り船に対する取締りを実施することが可能なのであるから、検察官の主張する解釈を採用しなくても、直ちに取締りが困難になるというものではない(なお、覚せい剤所持罪等は、覚せい剤輸入罪に比べて法定刑が軽いので、事案の悪質性に応じた十分な処罰ができないというのであれば、同罪等の法定刑の引上げを行ったり、新たな構成要件の処罰規定を設けるなどの立法的な解決を図ることも一方途であろう。)。逆に、検察官の主張する解釈を採用した場合、船舶が本邦の領海内に到達した時点で覚せい剤輸入罪が既遂に達しているのであるから、本邦の領海内で更に別の船舶に積み替え、後者の船舶の乗組員が覚せい剤を陸揚げしたような事案においては、領海内への搬入よりもはるかに保健衛生上の危害発生の危険性の高い行為をした後者の船舶の乗組員について、領海内への搬入に関する共犯関係が認められない限り、覚せい剤輸入罪により処罰することができないことになるが、そのような結果が相当でないことは多言を要しないであろう。

3 以上検討したところを総合すると、本件において、覚せい剤を本邦の領海内に持ち込んだ時点で覚せい剤の営利目的輸入罪が既遂に達するという検察官の主張は、合理的な理由が認められないのみならず、法解釈論としては難点も多いものであって、これを採用することはできない。そして、本件においても、覚せい剤の営利目的輸入罪の既遂時期については陸揚げ説を採用すべきものと解されるところ、被告人らは、漁船「○○」から覚せい剤を陸揚げしていないのであるから、被告人らに覚せい剤の営利目的輸入罪が成立しないことは明らかである。

四1  覚せい剤の営利目的輸入罪の既遂時期について、前記二記載のように陸揚げ説を採用すると、その実行の着手時期については、船舶に積載して本邦に持ち込んだ覚せい剤を陸揚げして輸入しようとする場合には、その陸揚げに取り掛かったり、又はこれに密接する行為を行ったときに、その実行の着手があったものと解するのが相当である。そして、本件は、被告人らが覚せい剤を積載した漁船「○○」が、本邦の領海内に入った直後に摘発された事案ではなく、被告人らが、その後も同船で航行を続け、陸送担当者と頻繁に覚せい剤の陸揚げに関する連絡を取り合いながら土佐清水港に入港し、同船を同港岸壁に接岸させて上陸するなどしている事案であるので、仮に訴因として被告人らの土佐清水港における行動までの事実が掲げられていれば、覚せい剤の陸揚げに密接する行為を行ったので、覚せい剤輸入の実行の着手があったとして、覚せい剤の営利目的輸入未遂罪の成立を認めることが可能であるというべきである。

2  そこで、当裁判所は、検察官に対し、第八回及び第一一回の各公判期日において、本件について、陸揚げ説に立って、被告人らの土佐清水港における行動までの事実を訴因に構成し、検察官の主張は本位的訴因として維持しつつ、予備的訴因として被告人らの土佐清水港における行動までの事実を訴因に構成したものを追加するように勧告を行った。すなわち、当裁判所は、検察官に対し、予備的訴因として、「被告人三名は、丁野三郎、戊山四郎、甲川五郎らと共謀の上、営利の目的で、みだりに、外国籍の船舶と洋上取引をして入手した覚せい剤を本邦に輸入しようと企て、平成一〇年八月一二日午後四時三〇分ころ、北緯三〇度、東経一二五度三〇分の東シナ海公海上において、被告人三名及び右甲川が、乗船する漁船○○を朝鮮民主主義人民共和国籍の船舶△△に接舷させ、同船乗組員から覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の結晶約二〇キログラム一五袋(合計約三〇〇キログラム)を受領して右漁船○○に積載した上、同月一三日午後一一時ころ、北緯三一度、東経一二九度一二分の鹿児島県宇治群島南西方約一四海里にあたる本邦領海内に搬入し、同月一四日、同県佐多岬、宮崎県沖を経由して航行しながら、被告人甲山が、所携の携帯電話機を用いてあらかじめ陸送担当者と陸揚げの連絡を取り合い、搬送用自動車の手配を依頼するなどし、右覚せい剤の陸揚げ地を高和県土佐清水港に決定して、同日午後九時五〇分ころ、同漁船を同県土佐清水市市場町<番地略>所在の同港内清水漁業協同組合購売センター東側岸壁に接岸させ、ほどなく被告人甲山、同丙谷及び甲川が上陸するなどして、右覚せい剤を陸揚げしようとしたが、同岸壁付近で私服の警察官らが警戒に当たっていたため、その目的を遂げなかったものである。」という覚せい剤の営利目的輸入未遂の事実を、予備的罰条として、「覚せい剤取締法四一条三項、二項、一項、刑法六〇条」をそれぞれ追加するように強く勧告したのである。

3  しかしながら、検察官は、本件においては、覚せい剤を本邦の領海内に搬入した時点で覚せい剤の営利目的輸入既遂罪が成立するというのが唯一の正しい解釈であると考えるので、予備的な訴因及び罰条を追加する考えはなく、現在の訴因のままで裁判所の判断を求めるものであるとして、右勧告に応じることを拒絶した。その結果、検察官の設定する訴因の範囲内で審判しなければならない裁判所としては、審判の対象は、被告人らが、覚せい剤を本邦の領海外で漁船「○○」に積載し、本邦の領海内に搬入した時点までの事実に限られることになったのである。

4  そこで、右限定された事実の範囲内において、覚せい剤の営利目的輸入未遂罪が成立するかどうかを検討する。一般的に、①領海線は、本邦の領土の基線から一二海里離れているのであって、本邦の領土とは場所的にかなりの隔たりがあり、領土に至るまでにかなりの時間も要すること、②本邦の領海内に入っただけでは、実行行為者の輸入意思が外部的に必ずしも明確ではない上、計画していた陸揚げを断念したり、別の機会を窺うために陸揚げを見合わせたりすることも容易であること、また、実際にも、③被告人らは、当初は三重県尾鷲市所在の尾鷲港に覚せい剤を陸揚げする予定であったが、エンジンが故障続きであったことなどから、陸送担当者と頻繁に連絡を取り合いながら陸揚げ港を次々に変更し、最終的には、領海内に入った約二三時間後に高知県土佐清水市所在の土佐清水港に覚せい剤を陸揚げしようとしたのであって、領海内に入った時点では、陸揚げ港等が必ずしも確定的に定まっていたわけではなかったことなどにかんがみると、覚せい剤を本邦の領海内に搬入しただけでは、覚せい剤の陸揚げに密接した行為が行われ、その現実的な危険性が顕在化したと評価することはできないというべきである。したがって、本件において、覚せい剤を領海内に搬入する行為をもって、覚せい剤輸入の実行の着手があったと認めることはできず、覚せい剤の営利目的輸入未遂罪は成立しないといわざるを得ない。

5  結局、本件の審判の対象とされた前記訴因の範囲内においては、覚せい剤の営利目的輸入予備罪を認定するほかはないというべきである。

五1  なお、被告人甲山の弁護人は、前記一の2記載のとおり、覚せい剤の営利目的輸入既遂罪と営利目的輸入予備罪は構成要件や行為の意味を異にしており、訴因変更の手続を経ることなく覚せい剤の営利目的輸入予備罪を認定することはできないので、同被告人は無罪である旨主張している。

2  しかしながら、本件において、検察官の覚せい剤の営利目的輸入既遂罪の訴因に対し、覚せい剤の営利目的輸入予備罪の事実を認定することは、縮小された事実を認定するものであり、また、被告人らの防御権に実質的な不利益を生じさせることもないので、訴因変更の手続を要しないことは明らかであり、弁護人の右主張は理由がない。

第四  禁制品輸入未遂罪の成否について

一  被告人甲山の弁護人は、判示第二の事実につき、同被告人らが、土佐清水港に入港したのは偶然のことであり、同港において、本件覚せい剤を陸揚げするための何らの準備行為にも着手していないのであるから、禁制品輸入の実行の着手はなく、同被告人は禁制品輸入未遂罪について無罪である旨主張する。

二  そこで、検討すると、関係各証拠によれば、次のような事実が認められる。

すなわち、

(1) 被告人三名及び甲川五郎は、平成一〇年八月一四日、本件覚せい剤を積載した漁船「○○」を鹿児島県佐多岬沖及び宮崎県沖を経由して航行させながら、被告人甲山が、所携の携帯電話機を用いて、あらかじめ陸送担当者と本件覚せい剤の陸揚げに関する連絡を取り合い、搬送用自動車の手配を依頼するなどして、本件覚せい剤の陸揚げ地を不開港である高知県土佐清水市所在の土佐清水港に決定したこと

(2) 被告人らは、同日午後九時五〇分ころ、漁船「○○」を土佐清水港に入港させ、同港内清水漁業協同組合購売センター東側岸壁に接岸させたこと、そのころ、陸送担当者は、搬送用自動車を準備して同港に向かい、土佐清水市付近まで来ていたこと

(3) 被告人らは、その港が土佐清水港であるとは必ずしも知らずに給油等の目的で入港したのであるが、被告人甲山、同丙谷及び甲川が、入港後ほどなく上陸して、その港が土佐清水港であることを認識し、上陸しなかった被告人乙川も、岸壁にいた釣り人から聞いてその港が土佐清水港であることを知ったこと

(4) 甲川は、土佐清水港に上陸した際、覚せい剤の陸揚げ後は搬送用自動車に乗って陸送担当者に同行する意思で、着替えを済ませていたこと

(5) 被告人甲山は、土佐清水港の岸壁付近の公衆電話において、陸送担当者に連絡を取ったこと

(6) 被告人らは、土佐清水港の岸壁付近に私服の警察官らしき人物が多数いることに気付き、同港での陸揚げを断念し、同日午後一〇時五五分ころ、漁船「○○」を同港から出港させたこと

などの事実が認められる。

三  ところで、関税法上の輸入は、外国から本邦に到着した貨物を本邦に引き取ることをいうと定義されており(同法二条一項一号)、船舶に積載して本邦に持ち込んだ輸入禁制品である貨物を保税地域を経由しないで本邦に引き取る場合には、その陸揚げに取り掛かったり、又はこれに密接する行為を行ったときに、その実行の着手があったものと解するのが相当である。そして、右二認定の各事実によれば、被告人らは、私服の警察官らしき人物が多数いることに気付いて最終的には土佐清水港での覚せい剤の陸揚げを断念しているのであるが、それ以前の段階において、覚せい剤の陸揚げに密接する行為を行って覚せい剤の陸揚げの現実的な危険性を発生させているということができるのである。したがって、被告人らには、禁制品輸入の実行の着手が認められ、禁制品輸入未遂罪が成立することは明らかであり、弁護人の前記主張は理由がない。

(累犯前科)

被告人丙谷は、平成六年二月一六日に岐阜地方裁判所で窃盗罪により懲役一年八月に処せられ、平成七年九月一八日に右刑の執行を受け終わったものであって、右事実は、前科調書(乙一四)及び判決書謄本(乙四一)によってこれを認める。

(法令の適用)略

(追徴に関する補足説明)

第一  被告人三名からの覚せい剤の没収不能額の追徴について

判示第二の禁制品輸入未遂罪に係る貨物である覚せい剤290.48453キログラムのうち123.375048キログラムは、関税法一一八条一項本文により没収すべき犯罪貨物等であるが、発見されなかったために没収することができないので、同条二項によりその犯罪が行われた時の価格に相当する金額を追徴すべきものである。そして、右覚せい剤は、その成分が日本薬局方所定の純度基準に達しているものであるから(鑑定書(謄本。甲四三一)、捜査報告書(甲四三三)参照)、右未発見の覚せい剤の分量に、大日本製薬株式会社が判示第二の犯行当時に覚せい剤施用機関等に覚せい剤を直接販売していた価格(一グラム当たり金一万一四〇〇円。書類入手報告書(謄本。甲三五五)、電話聴取書(謄本。甲四三二)参照)を乗じて算出した金額である金一四億六四七万五五四七円(一円未満切捨て)をもって、同項に規定する「犯罪が行われた時の価格に相当する金額」とするのが相当であると認められるので、これを犯人である被告人三名から追徴することにした。

第二  被告人甲山からの不法収益の追徴について

一  被告人甲山の判示第三の犯行に関する金員の受領等について、被告人乙川太郎及び同甲山一郎の当公判廷における各供述、被告人乙川太郎の検察官に対する供述調書二通(乙二、二四)、被告人甲山一郎の検察官(乙六、七、三一)及び司法警察員(乙二五、二六、三〇、四四)に対する各供述調書、証人丁野三郎の当公判廷における供述(甲四二)、戊山四郎の検察官(甲二六七)及び司法警察員(甲三六五、三六六、三六八)に対する各供述調書(いずれも謄本)、捜査報告書(甲二六六)、「丁野三郎に係る覚せい剤密輸入事件における資料の入手について」と題する書面(甲三九四)、「捜査関係事項照会書について(回答)」と題する書面(甲四一六)など関係各証拠によれば、次のような事実が認められる。すなわち、

(1) 共犯者の丁野三郎は、平成九年一〇月から平成一〇年八月にかけて、被告人甲山からの請求に基づき、同被告人に対し、直接又は共犯者の戊山四郎を介するなどして、判示第三の覚せい剤の営利目的所持の犯罪行為に関し、①船舶の購入費用の名目で合計一三〇〇万円、②手間賃(足代)の名目で五〇万円、③船長への報酬前渡金の名目で三〇〇万円、④救命ボート等の購入費用の名目で一四〇万円、⑤漁船「○○」の修理費用の名目で五〇万円(Aの司法警察員に対する供述調書(甲一六二)参照)の合計一八四〇万円を交付したこと

(2) 被告人甲山は、右合計一八四〇万円の中から、右①に対応する漁船「○○」の購入費用に三〇〇万円(Bの検察官に対する供述調書(甲一二五)参照)、右③に対応する被告人乙川への報酬に一八〇万円(「覚せい剤取締法違反被疑事件(所持)被疑者乙川太郎に対する船頭報酬金に係る裏付捜査結果について」と題する書面(甲一五七)参照)、右④に対応するゴムボート及び救命胴衣の購入費用に六万五九六円(Cの司法警察員に対する供述調書(甲三九六)参照)、右⑤に対応する鹿児島県枕崎市における漁船「○○」の修理代金に一万一〇〇〇円(Dの検察官に対する供述調書(甲一六九)参照)の合計四八七万一五九六円を支出していること

(3) 被告人甲山は、丁野に対し、購入した物品やその費用の詳細等を報告せず、右(1)以外に費用が掛かるという話やそのための金員の支給を求めることはしなかったこと

(4) 丁野は、被告人甲山に対し、購入した物品及びその費用についての報告や剰余金の清算を求めることはせず、同被告人の手を煩わせる以上、剰余金が出れば、同被告人がそれを私的な用途等に自由に費消することも容認していたこと

(5) 被告人甲山は、右(1)及び(2)認定のとおり、丁野に対し、必要となる費用の金額に大幅に上乗せした金額を意図的に請求し、その結果、右(1)と(2)の差額の一三五二万八四〇四円という多額の剰余金が生じ、その大半を自らの借金の返済や生活費等に費消していること、丁野は、被告人甲山の言辞を信用していたため、そのような多額の剰余金が生じていたことは知らなかったことなどの事実が認められる。

二  右認定の各事実によれば、丁野は、被告人甲山に欺罔されたため、交付した金員に多額の剰余金が生じることを知らなかったという事情はあるものの、生じた剰余金については、同被告人が私的な用途等に自由に費消することを容認した上で、右一の(1)認定の金員を同被告人に交付しており、また、同被告人も、その趣旨でこれを受領していることは明らかである。このような事情に照らせば、被告人甲山が丁野から受領した金員のうち、その受領名目に明確に符合した用途に費消したもの以外の金員は、被告人甲山が私的な用途等に費消するなど自由に処分することを許された金員であり、そのような性質のものとして受領した金員については、同被告人が判示第三の犯罪行為の報酬として得た財産であると認めるのが相当である。したがって、被告人甲山が丁野から受領した右一の(1)認定の合計一八四〇万円から、その受領名目に明確に符合した用途に費消した右一の(2)認定の合計四八七万一五九六円を控除した一三五二万八四〇四円については、被告人甲山が判示第三の犯行により得た改正前の麻薬特例法一四条一項一号の不法収益に該当するものというべきであり、既に費消して没収することができないので、同法一七条一項前段によりその価額を犯人である同被告人から追徴することにした。

(量刑の理由)

一  本件は、被告人三名が、暴力団関係者らと共謀して、①営利の目的で、覚せい剤を輸入しようと企て、公海上で外国籍の船舶から覚せい剤を受領して自分らの漁船に積載し、これを本邦の領海内に搬入したという覚せい剤の営利目的輸入予備の事案、②輸入禁制品である右覚せい剤を高知県内の港に陸揚げして輸入しようとしたが、私服の警察官らが警戒に当たっていたため未遂に終わったという禁制品輸入未遂の事案、③営利の目的で、高知県沖において、右覚せい剤を右漁船に積載して所持したという覚せい剤の営利目的所持の事案である。

二  被告人らが輸入しようとし、また、所持していた覚せい剤は、合計二九〇キログラム余りという膨大な分量であり、これらが我が国の社会内に拡散されていたならば、多数の覚せい剤濫用者を出現させるなど、その害悪は計り知れないほど大きくかつ深刻なものがあったというべきである。被告人らは、あらかじめ覚せい剤搬送用の漁船を購入し、同船にGPSを取り付けるなどしてその航行性能を高める一方で、海外の薬物仕入先関係者と覚せい剤の引渡方法等の打合せをし、一名が右仕入先関係者のいる国に赴いて覚せい剤の梱包作業に立ち会うなどしている。そして、被告人らは、GPSを用いるなどして公海上の指定場所に右漁船を到着させ、事前の打合せどおりに、所携の携帯無線機を用いて暗号の交信をしたり、目印の旗を立てるなどして相手方の外国籍の船舶と落ち合い、同船から覚せい剤を受領して右漁船に積載し、これを本邦の領海内に搬送している。さらに、被告人らは、所携の携帯電話機を用いて陸送担当者と頻繁に連絡を取り合いながら、陸揚げ地を最終的には高知県下の不開港に決定し、陸送担当者を同港に向かわせるとともに、自分らも右漁船を同港岸壁に接岸させて上陸するなどし、右覚せい剤を陸揚げしようとしたが、私服の警察官らしき人物が多数いることに気付き、これを断念して同港を出港している。その後、被告人らは、高知県沖の海上において、右覚せい剤を右漁船に積載して所持していたが、海上保安庁等による摘発や検挙をおそれ、後に回収する意図で右覚せい剤にフロートを結び付けるなどして海上に投げ入れ、実際にも、後日、その回収を試みるために右海上付近に赴いたりしている。しかも、本件各犯行は、暴力団組長が中心となって計画されたものであり、右覚せい剤が陸揚げされていたならば、多額の不法な利益が暴力団組織に流入していたことが予想される。このように、本件は、用意周到に計画され、日本国内にいる被告人ら相互間ではもちろんのこと、海外の関係者とも互いに緊密に連絡を取り合いながら敢行された巧妙かつ大掛かりなものであって、極めて悪質な犯行であるといわなければならない。近時、我が国のみならず、国際的にも覚せい剤等の害悪が強く認識され、国際条約によってこの種事犯に対する厳しい取締まりが求められ、我が国でも必要な法整備を図るなどして、その取締りを強化しているところである。被告人らは、このような事情や、覚せい剤の拡散によりその濫用者を出現させ、その収益が暴力団組織の資金源になることを十分に知りながら、これらを全く意に介することもなく、自分らの利益を得るために、安易に本件犯行に及んでいるのであって、被告人らが厳しい非難を受けるのは当然である。なお、被告人らが本件各犯行の際に追跡捜査を受けていたからといって、違法なおとり捜査が行われていたものでないことはいうまでもなく、また、覚せい剤の密輸入が実質的に不可能であったわけでもないのであって、被告人らの責任が軽減されるものではない。さらに、本件の背後には国際的な覚せい剤密売組織の存在も窺われるのであって、この種の事案に対しては、一般予防の観点も考慮する必要がある。

三  次に、被告人らの個別情状を見ていくことにする。

1  被告人甲山は、暴力団※※組※※会※※組内※※組の組員であった者であるが、暴力団**会**一家****組内丁野組の組長の地位にあった丁野三郎から、暴力団関係者である戊山四郎を介して船舶を購入するように指示され、右漁船を購入してこれにGPSを取り付けるなどし、同船の船長として被告人乙川を、同船の乗組員として被告人丙谷をそれぞれ仲間に誘い入れている。そして、被告人甲山は、丁野の指示で海外に渡航して仕入先関係者と接触を図るなどし、丁野から相手方船舶と公海上で落ち合う日時、場所及び方法についての指示を受けて右漁船に乗船した上、相手方船舶と所携の携帯無線機を用いて交信し、同船から覚せい剤の引渡しを受けている。また、被告人甲山は、右漁船が本邦の領海内に入ってから、所携の携帯電話機を用いて戊山や陸送担当者と頻繁に連絡を取り合って陸揚げ港を決定し、陸送担当者を同港に向かわせている。さらに、被告人甲山は、本件各犯行後も、高知県沖の海上に赴き、同所に投げ入れた覚せい剤の回収を試みる作業に加わっている。このように、被告人甲山は、本件各犯行において、その準備段階から深く関与し、丁野組組長代行補佐の甲川五郎とともに右漁船に乗船して同船における責任者の役割を担っており、被告人甲山が本件で果たした役割は極めて重要なものであって、同被告人が幇助犯的な立場であったなどとは到底いうことができない。加えて、被告人甲山は、本件覚せい剤の輸入が成功した場合には、丁野から多額の報酬を受け取ることになっていたところ、本件各犯行の前にも、言葉巧みに同人から多額の実質的な報酬を得て、これを自己の借金の返済や所属する暴力団組織への上納金等に充てているのである。

したがって、以上の諸点に照らすと、被告人甲山の犯情は極めて悪く、同被告人の負うべき刑事責任は誠に重大である。

2  被告人乙川は、三重県尾鷲市内で漁業を営んでいた者であるが、被告人甲山から、右漁船で物を運ぶのでその船長をしてほしいなどと言われ、同船で何らかの違法な物を運ぶことを認識しながら、同被告人から多額の報酬の支払を約束されたことから、船長として同船に乗り込み、積荷が覚せい剤であることを認識してからも、同被告人らと互いに協力して同船を運航し、本件各犯行に及んでいる。また、被告人乙川は、漁業協同組合の組合員であったことから、同船の購入名義人にもなっている。このように、被告人乙川は、同船の購入名義人や船長という本件各犯行に不可欠な役割を果たしているのである。さらに、被告人乙川は、被告人甲山から一八〇万円の報酬を事前に受け取り、その一部を自己の借金の返済等に充てている。

したがって、以上の諸点に照らすと、被告人乙川の犯情は悪く、同被告人の負うべき刑事責任は重大である。

3  被告人丙谷は、三重県尾鷲古内で林業の手伝いをしていた者であるが、被告人甲山から、五〇万円の報酬の支払を約束されて右漁船に乗り込み、積荷が覚せい剤であることを認識してからも、同被告人らと互いに協力しながら同船の運航等に関与し、本件各犯行に及んでいる。また、被告人丙谷は、後日、高知県沖の海上に赴き、同所に投げ入れた覚せい剤の回収を計みる作業にも加わっている。このように、被告人丙谷の本件への関与には積極的なものがあり、同被告人が果たした役割は大きいといわなければならない。さらに、被告人丙谷は、平成六年に窃盗罪により懲役一年八月に処せられた前科があり、その刑の執行を受け終わってから三年も経過しないうちに本件各犯行に及んでいるのである。

したがって、以上の諸点に照らすと、被告人丙谷の犯情は良くなく、同被告人の負うべき刑事責任は重い。

四  しかしながら、他方、被告人三名のために酌むべき事情も存在する。

1  被告人三名は、現在では本件各犯行に及んだことを反省し、事実関係を素直に認めて事案の解明に協力している。被告人らが海上に投げ入れか本件覚せい剤二九〇キログラム余りのうち、一六七キログラム余りは、高如県下、三重県下及び愛知県下でそれぞれ発見されて押収されており、残りの一二三キログラム余りについてもそれが回収されて陸揚げされたという事情は窺われず、覚せい剤の害悪の拡散が現実のものとなるまでには至っていない。

2  被告人甲山は、本件各犯行において、積極的かつ重要な役割を果たしているものの、本件犯行を計画し、共犯者に指示するなどの中心的な役割を果たしていたのは丁野であり、被告人甲山も、丁野の指示に従って行動していたのであって、その役割には従属的な側面も認められる。被告人甲山には前科はない。その他、被告人甲山の弁護人が指摘するような同被告人のために有利に斟酌することのできる事情も認められる。

3  被告人乙川は、被告人甲山から誘われて本件各犯行に加わるに至ったものであり、右漁船の船長という重要な役割を果たしているが、犯行計画の詳細は知らされておらず、同被告人らに比べて従属的な立場にあったことは否めない。被告人乙川には前科がない。その他、被告人乙川の弁護人が指摘するような同被告人のために有利に斟酌することのできる事情も認められる。

4  被告人丙谷は、被告人甲山から誘われて本件各犯行に加わるに至ったものであるが、犯行計画の詳細は知らされておらず、あくまでも従属的な立場にとどまっていたのであって、その果たした役割は他の者ほど重いものではない。また、被告人丙谷は、本件各犯行に関して全く報酬を受け取っていない。その他、被告人丙谷の弁護人が指摘するような同被告人のために有利に斟酌することのできる事情も認められる。

五  そこで、以上のようや被告人三名に有利不利な一切の事情を総合考慮した上、被告人三名に対し、前示のとおりそれぞれ刑を量定した次第である。

(求刑 被告人甲山につき懲役一五年及び罰金八〇〇万円、被告人乙川につき懲役一二年及び罰金三〇〇万円、被告人丙谷につき懲役一〇年及び罰金二〇〇万円、被告人三名から覚せい剤及び漁船「○○」の没収、被告人乙川から現金四二万円の没収、被告人三名から金一五億一四九五万一九〇五円の追徴、被告人甲山から金一三五二万八四〇四円の追徴、被告人乙川から金一三八万円の追徴)

(裁判長裁判官・服部悟 裁判官・村川浩史及び同・佐々木健二は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官・服部悟)

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