東京地方裁判所 平成11年(行ウ)108号 判決 2002年10月25日
原告
甲
被告
世田谷税務署長 平澤勝男
当事者の訴訟代理人・指定代理人は別紙のとおり
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が平成7年8月8日付けでした原告の平成3年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1166万8993円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は、原告が、平成3年分の所得税について、期限後申告及び修正申告をしたところ、被告が、反面調査等により実額で把握した原告の期首及び期末における資産及び負債の額の増減状況を基に、純資産増減法により、原告の雑所得の金額を推計し、更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、原告が、上記の各処分には、第三者からの預り金を原告の雑所得と認定するなどの誤りがあると主張して、上記更正処分のうち修正申告額を超える部分及び上記賦課決定処分の取消しを求めている事案である。
1 前提となる事実(各項末尾に掲記の証拠等により認められる。)
(1)ア 原告は、平成5年ころまで、A株式会社(以下「A」という。)の取締役東京営業所長の地位にあった者である。(争いのない事実)
イ 原告は、平成2年ころから平成5年ころにかけて、Aの取引先である総合建設業者数社(以下「本件ゼネコン」という。)から多額の裏金を要求され、この裏金を捻出する目的で、本件ゼネコンが商社を通じてAに発注していた正規の工事の名称を利用し、本件ゼネコンから商社及びB株式会社を経由して株式会社C(以下「C」という。)に、上記の正規の工事に係る架空の追加工事(以下「本件架空工事」という。)を発注するという取引を行わせ、これにより、Cに本件架空工事の代金を受領させた上、Cの乙専務(以下「乙専務」という。)からその代金の一部(以下「本件裏資金」という。)を受け取っていた。(争いのない事実)
ウ そして、原告は、本件裏資金について、一部を本件ゼネコンの工事部長、現場監督等(以下「ゼネコン関係者」という。)に渡し、一部を自己で費消し、一部をD銀行神田支店(以下「D銀行」という。)の原告名義の普通預金口座(以下「本件普通預金口座」という。)及びE銀行京浜富岡支店(以下「E銀行」という。)の原告名義の普通預金口座並びにF証券虎の門支店(以下「F証券」という。)の原告名義の取引口座(以下「本件取引口座」という。)に入金していた。(争いのない事実)
(2) 原告は、平成5年3月10日、原告の当時の住所地を管轄していた緑税務署長に対し、平成3年分の所得税について、総所得金額572万2873円、還付金の額に相当する税額158万6634円と記載し、雑所得の金額を記載していない確定申告書(以下「本件期限後申告書」という。)を提出し、期限後申告を行った。(争いのない事実)
(3) 原告は、平成5年9月4日及び同月10日、Aに対する税務調査により本件架空工事の存在を把握していた広島西税務署長に対し、原告が本件裏資金を捻出する目的で本件架空工事に係る取引を作出したこと及び本件裏資金の一部を使用したことを認める旨の上申書(以下「本件上申書」という。)を提出した。
また、原告は、同月4日、Aの専務取締役丙に対し、同旨の「事件に関する報告」と題する書面(以下「本件報告書」という。)を提出した。(争いのない事実)
(4) 原告は、平成6年2月21日、緑税務署長に対し、Cから得た雑所得が申告漏れであったとして、平成3年分の所得税について、総所得金額1166万8993円、雑所得の金額594万6120円、還付金の額に相当する税額7万6200円と記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。(争いのない事実)
(5) その後、原告は、東京都世田谷区内に転居した。(甲1)
(6) 被告は、平成7年8月8日、原告に対し、原告の取引先等に対する反面調査等によって把握した原告の平成3年1月1日(以下「年初」という。)及び同年12月31日(以下「年末」という。)における資産及び負債の額の増減状況を基に、原告の雑所得の金額を推計で算出した上、総所得金額9205万6842円、雑所得の金額8633万3969円、納付すべき税額3896万0600円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の額を1366万0500円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った(以下、本件更正処分と本件賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)。(争いのない事実)
(7)ア 原告は、平成7年9月22日、被告に対し、本件各処分に不服があるとして、異議申立てをした。
これに対し、被告は、同年12月22日付けで、上記の異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
イ 原告は、平成8年1月18日、国税不服審判所長に対し、上記の異議決定を経た後の本件各処分に不服があるとして、審査請求をした。
これに対し、国税不服審判所長は、平成11年2月10日付けで、上記の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、この裁決書の謄本は、同月16日、原告に送達された。(争いのない事実)
(8) なお、原告の平成3年分の所得税についての申告、本件各処分及びこれに対する不服申立ての経緯は、別紙「本件更正処分等の経緯」記載のとおりである。
2 当事者双方の主張
(被告の主張)
(1) 本件更正処分の根拠について
ア 原告が雑所得を得ていたこと
原告は、前記「前提となる事実」のとおり、ゼネコン関係者に支払う裏金を捻出する目的で、本件架空工事に係る取引を行わせ、本件裏資金を受け取っていた。しかし、原告が、本件裏資金の全部をゼネコン関係者に渡したことを裏付ける資料は見当たらず、かえって、原告は、本件裏資金の一部を、自己で費消したり、D銀行における原告名義の定期預金口座(以下、併せて「本件定期預金口座」という。)の設定、本件取引口座における株式の売買等の資金に充てるなどしたものである。
原告も、本件上申書、本件報告書及び本件修正申告書において、本件架空工事に係る取引を作出し、本件裏資金の一部を得ていたことを自認している。
そうすると、原告が本件裏資金の一部を得ていたことは明らかである。
そして、これは、所得税法23条ないし34条に規定する利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、同法35条1項に規定する雑所得に該当する。
イ 推計の必要性
a 原告は、乙専務から受け取った本件裏資金の金額、ゼネコン関係者に渡した裏金の金額、裏金を受領した者の氏名、その受渡日等、本件裏資金に係る取引の内容を原告の手帳(以下「本件手帳」という。)に記載していたが、平成4年10月、本件手帳の存在によって本件ゼネコンの不正が発覚することを危惧し、これを破棄した。
そして、原告は、本件裏資金に係る取引に関して、本件手帳以外に、帳簿書類、請求書、領収書等、その収支を明らかにする資料を作成していなかった。
そのため、被告は、原告が乙専務から受け取った本件裏資金の金額、ゼネコン関係者に渡した裏金の金額、原告名義の預金口座等から払い戻された本件裏資金の使途等、本件裏資金に係る取引の具体的金額を把握することができず、原告の雑所得の金額を実額で算出することができなかったので、やむを得ず、所得税法156条に基づき、原告の雑所得の金額を推計して、本件更正処分を行った。
したがって、本件について、推計の必要性が存在したことは明らかである。
b 原告は、本件裏資金のうち原告が費消した金額は、ワンルームマンションの購入代金の支払に充てた金額のみであり、これは、本件修正申告書において、雑所得として申告済であるから、本件においては、原告の雑所得の金額は明らかであり、推計課税をする必要はなかったと主張する。
しかし、原告が、本件裏資金について、一部を本件普通預金口座に入金し、これを原資として、本件定期預金口座を新規に設定したり、一部を本件取引口座に入金し、株式の売買を行っていたことは証拠上明らかであり、これは本件裏資金を自己の資金として費消ないし運用していたものにほかならないから、上記の原告の主張は失当である。
なお、原告は、本件定期預金口座を設定したり、本件取引口座において株式の売買を行ったのは、銀行員や知人の勧誘により、本件裏資金の保全を図ったものにすぎず、その資金の実態は預り金であるなどと主張しているが、高利率の定期預金を設定したり、株式の売買により売買差益を得ようとすることは、自己資金の運用にほかならず、この資金が預り金であるとの主張は信用し難い。
また、原告は、実際に、本件裏資金のほとんどを預り金としてゼネコン関係者に渡しており、平成3年中においては、合計1億7365万4186円をゼネコン関係者に渡したと主張し、別紙「一覧表」を提出しているが、別紙「一覧表」は、支払の相手方の氏名及びその相手方に対する当該年分ごとの支払総額を記載したものにすぎず、相手方の氏名についてはほとんど名字しか記載していないものであるから、これによっては、支払の授受を確認するに十分な相手方の特定はできず、個々の支払の金額や支払日等の特定もできないのであり、別紙「一覧表」はそれ自体信用性に乏しい。加えて、別紙「一覧表」の記載内容を裏付ける資料も何ら提出されていないことに照らせば、原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告の平成3年分の総所得金額及びその計算根拠(「△」は欠損金額を示す。)
a 総所得金額 1億1300万4630円
この金額は、次のbないしdの不動産所得、給与所得及び雑所得の各金額の合計額である。
b 不動産所得の金額 △654万9277円
この金額は、原告が本件修正申告書に記載した不動産所得の金額である。
c 給与所得の金額 1227万2150円
この金額は、原告が本件修正申告書に記載した給与所得の金額である。
d 雑所得の金額 1億0728万1757円
この金額は、被告が原告の取引先等に対する反面調査等によって把握した年初及び年末における原告の資産及び負債の額の増減状況等を基に、純資産増減法により、次の算式にそって、別表1のとおり、算出した雑所得の金額である。
(年末の資産額-年初の資産額)-(年末の負債額-年初の負債額)+調整項目加算額-調整項目減算額=雑所得の金額
上記算式中、調整項目加算額とは、生活費、家事関連費等、所得を処分した金額であり、調整項目減算額とは、雑所得以外の所得に係る収入金額である。
原告の平成3年分の雑所得の金額の推計の基礎となった資産及び負債の各科目の年初及び年末の各金額、調整項目加算額及び調整項目減算額に係る各項目の金額の内訳は次のとおりである。
(a) 資産科目
Ⅰ 預金科目に係る額
預金科目に係る金額の内訳は、別表2記載のとおりである。
Ⅱ ゴルフ会員権科目に係る額
ゴルフ会員権科目に係る金額の内訳は、別表3記載のとおりである。
Ⅲ 有価証券科目に係る額
有価証券科目に係る金額の内訳は、別表4記載のとおりである。
Ⅳ 前渡金科目に係る額
前渡金科目に係る金額の明細は、別表5記載のとおりである。
Ⅴ 建物等(建物、付属設備及び備品をいう。以下、同じ。)科目に係る額
建物等科目に係る金額の内訳は、別表6記載のとおりである。
なお、各建物等の額は、いずれもマンションの購入価額を土地と按分したものである。
Ⅵ 土地科目に係る額
土地科目に係る金額の内訳は、別表7記載のとおりである。
なお、茂原市千沢字南新田所在の土地を除く各土地の額は、いずれもマンションの購入価額を建物等と按分したものである。
(b) 負債科目(借入金科目)
借入金科目に係る金額の内訳は、別表8記載のとおりである。
(c) 調整項目加算額
Ⅰ 生活費科目に係る額
生活費科目に係る額は、総務庁統計局発行の「家計調査年報平成3年」第7表「世帯人員別・世帯主の年齢階級別1世帯当たりの年平均1か月の収入と支出(全世帯)」に記載されている金額のうち、世帯人員別1世帯当たりの年平均1か月間の消費支出金額を基に、次のとおり算定したものである。
世帯人員 4名
消費支出金額 35万2315円
月数 12月
生活費の額 422万7780円
なお、上記の世帯人員は、原告が本件期限後申告書の配偶者控除及び扶養控除の各欄に記載した人員に1名(原告)を加算したものである。
Ⅱ 所得税及び住民税科目に係る額
所得税及び住民税科目に係る額は、原告が支払った所得税及び住民税の額であり、その内訳は別表9記載のとおりである。
Ⅲ 固定資産税科目に係る額
固定資産税科目に係る額は、原告が支払った固定資産税の額であり、その内訳は別表10記載のとおりである。
Ⅳ 社会保険料科目に係る額
社会保険料科目に係る額は、原告が本件修正申告書に記載した金額である。
Ⅴ 生命保険料科目に係る額
生命保険料科目に係る額は、原告が支払った生命保険料の額であり、その内訳は別表11記載のとおりである。
Ⅵ 不動産経費科目に係る額
不動産経費科目に係る額は、原告が支払った不動産所得に係る経費の額であり、その内訳は別表12記載のとおりであり、いずれも原告が「平成3年分収支内訳書(不動産所得用)」に記載した金額である。
Ⅶ 有価証券売却損科目に係る額
有価証券売却損科目に係る金額の内訳は、別表13記載のとおりである。
Ⅷ 借入金利息科目に係る額
借入金利息科目に係る金額の内訳は、別表14記載のとおりである。
(d) 調整項目減算額
Ⅰ 給与収入科目に係る額
給与収入科目に係る額は、原告が本件修正申告書に記載した金額である。
Ⅱ 不動産賃貸収入科目に係る額
不動産賃貸収入科目に係る額は、原告が本件修正申告書に記載した金額であり、その内訳は別表15記載のとおりである。
Ⅲ 受取利息科目に係る額
受取利息科目に係る額は、原告の預金に係る受取利息の額であり、その内訳は別表16記載のとおりである。
エ 推計の合理性
a 被告は、原告の雑所得の金額について、原告の年末の資産額と年初の資産額との差額(平成3年の資産の増加額)から年末の負債額と年初の負債額との差額(同年の負債の増加額)を控除して得られた金額(同年の純資産の増加額)に、調整項目加算額として生活費、支払保険料等の所得の処分に相当する事由に係る金額を加え、調整項目減算額として給与等の雑所得以外の所得に係る金額を差し引く推計方法、すなわち純資産増減法により推計した。
純資産増減法は、所得税法156条に規定されている推計課税の一方法として許容されているものである。資産等の増減は、収入、支出、損失等を集約的に反映したものであるから、純資産増減法によって推計された所得金額は、実額によって計算した真実の所得金額に近似する蓋然性が極めて高い合理的なものである。
したがって、被告が、推計の方法として、純資産増減法を採用し、これによって求められた金額を原告の雑所得と認定したことは、合理的である。
b 原告は、本件裏資金のうち、ワンルームマンションの購入代金の支払に費消した金額以外のその余の金額は、ゼネコン関係者からの預り金であると主張する。
しかし、前記のとおり、原告が、本件裏資金の一部を本件定期預金口座の設定及び本件取引口座における株式の売買に係る原資に充てていたことは明らかであり、原告は本件裏資金を自己の資金として費消ないし運用していたものというほかないから、上記の原告の主張は信用できない。
c また、原告は、本件裏資金について、Aと原告の両方に対して課税が行われており、二重課税になっていると主張する。
しかしながら、本件の争点は、原告自身の雑所得の存在及びその金額であるから、原告は、これを争うのであれば、原告の雑所得を実額で算定するための資料を提示し、それに基づいて本件裏資金に係る取引の具体的金額を明らかにしなければならないのであって、広島西税務署長のAに対する更正処分や再更正処分の内容は、本件更正処分とは、関係がない。
しかも、原告は、広島西税務署長のAに対する更正処分が取り消されたことを聞いているのであるから、本件裏資金に対する課税が二重課税になっていないことを認識しているはずである。
したがって、いずれにせよ、原告の上記主張は失当である。
(2) 本件更正処分の適法性について
本件更正処分に係る原告の平成3年分の総所得金額は9205万6842円であり、被告が前記のとおり主張する総所得金額1億1300万4630円の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。
(3) 本件賦課決定処分の根拠及び適法性について
ア 原告は、ゼネコン関係者等と結託した上、本件架空工事に係る取引の主宰者として、その取引があたかも真実の取引であるかのように仮装し、これにより、本件裏資金を捻出するとともに、平成3年には1億円を上回る雑所得を得たにもかかわらず、平成3年分の所得税の確定申告書を、その法定申告期限までに、提出しなかった。
また、原告は、本件裏資金に係る取引について、帳簿書類、請求書、領収書等、雑所得の金額を実額によって算定するための資料を一切作成しなかった上、東京国税局調査部のG工務店に対する税務調査に伴う反面調査が行われた直後の平成4年10月、本件ゼネコンの不正が発覚することを防ぐ目的で、本件裏資金に係る取引の内容を記載した本件手帳を破棄し、その取引の隠ぺいを図った。
そして、原告は、平成5年3月10日、緑税務署長に対し、雑所得の金額を記載せず、還付される税額158万6634円と記載した本件期限後申告書を提出した。
その後、広島西税務署のAに対する税務調査によって本件架空工事と本件裏資金の存在が発覚すると、原告は、広島西税務署長に対し、原告が本件架空工事に係る取引を主宰し、本件裏資金を捻出するとともに、その一部を自己で費消した事実を認める旨の本件上申書を提出し、Aの丙専務に対しても、同旨の本件報告書を提出した。
にもかかわらず、原告は、平成6年2月21日、緑税務署長に対し、雑所得の金額594万6120円と記載して、原告が得た真実の雑所得に比して著しく少額の雑所得のみを記載した本件修正申告書を提出し、その余の多額の雑所得の隠ぺいを図った。
イ 以上のとおり、原告は、本件架空工事に係る取引を主宰し、これによって捻出した本件裏資金の一部を自己で費消するなどしており、本来存在しない取引をあたかも存在するかのごとく仮装し、もって、事実を仮装したものである。
また、原告は、本件裏資金から1億円を上回る雑所得を得たにもかかわらず、本件裏資金に係る取引の内容を記載した本件手帳を破棄してその取引の証拠を隠滅し、もって、課税要件に該当する事実を隠ぺいしたものである。
そして、原告は、本件架空工事に係る取引によって本件裏資金を捻出し、多額の雑所得を得ながら、法定申告期限までに納税申告書を提出せず、また、本件手帳を破棄した上で、雑所得の金額を記載していない本件期限後申告書を提出し、さらに、原告が得た真実の雑所得に比して著しく少額の雑所得のみを記載した本件修正申告書を提出したものである。
以上の原告の行為は、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定して、所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の本件期限後申告書及び本件修正申告書を提出したものというべきであり、国税通則法68条2項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたとき」に該当する。
ウ したがって、本件更正処分により納付すべき所得税に係る重加算税は、本件更正処分により増加した所得税額に100分の40の割合を乗じて算出した1561万2000円となり、この金額の範囲内で行われた本件賦課決定処分は適法である。
(原告の主張)
(1) 推計の必要性について
本件裏資金のうち、原告がワンルームマンションの購入代金の支払のため自己で費消し、本件修正申告書により雑所得として申告した594万6120円を除いたその余の金額は、すべて、原告の雑所得ではなく、ゼネコン関係者からの預り金であった。
現に、原告は、別紙「一覧表」記載のとおり、平成3年中において、本件裏資金のうち、1億5800万円をゼネコン関係者に渡すなど、合計1億7365万4186円をゼネコン関係者のために使用した。
また、広島西税務署長が平成7年6月23日付けでAに対して行った再更正処分においても、Aが本件ゼネコンから受注先に支払われた施工を件わない工事の代金の回収の仲介を行ったとされており、本件裏資金はすべて本件ゼネコンに回収されたと判断されている。
なお、原告は、本件定期預金口座を新規に設定したり、本件取引口座において原告名義で株式の売買を行ったことがあるが、これらは、あくまで預り金の保全を目的として、銀行員又は知人の勧誘により行ったものであって、これらが預り金の保全を目的とした行為であることは、原告が実名で口座を開設していることからも窺われる。
また、本件上申書は、広島西税務署の調査担当者から「Aに迷惑をかけないために作成する」との説明を受けて、事実に反する記載をしたものであり、本件報告書も、本件上申書を踏まえて作成したものであって、これらの内容は事実に反している。
このように、原告は、本件裏資金から得た雑所得のすべてを本件修正申告書により申告したものであり、原告の平成3年分の雑所得の金額は本件修正申告書により明らかであるから、本件においては、推計の必要性は認められない。
(2) 推計の合理性について
ア 前記のとおり、本件裏資金のうち、原告が本件修正申告書により申告した594万6120円を除いたその余の金額は、すべてゼネコン関係者からの預り金であって、原告の預金等の残高は、原告が、本件裏資金のうち、乙専務から受け取った当日にゼネコン関係者に渡したもの以外について、ゼネコン関係者に渡す予定の日時まで、これを保全するため、本件普通預金口座又は本件取引口座に入金して管理していた預り金にすぎない。
そのため、被告が原告の資産として計算した預金等の残高は、すべてゼネコン関係者からの預り金、すなわち、原告の負債として計算すべきものであるにもかかわらず、被告は、原告の純資産を算出するに当たり、預金等の残高を負債として計算していないから、被告の推計には、負債の脱落が存在し、合理性が認められない。
イ 広島西税務署長は、平成5年12月27日付けで、Aに対し、本件普通預金口座、E銀行及びH銀行鴨居出張所の原告名義の普通預金口座並びに本件取引口座に関する調査に基づいて、本件裏資金はAの完成工事高除外額に該当するとして、更正処分を行った。
その後、広島西税務署長は、平成7年6月23日付けで、Aに対し、再更正処分を行ったものの、Aは、これらの更正処分及び再更正処分によって確定した税額を支払ったものである。
ところが、被告は、平成7年8月8日、原告に対し、本件裏資金は原告の雑所得に該当するとして、本件更正処分を行った。
そうすると、本件裏資金については、原告とAの両方に対して課税が行われており、いわば二重課税となっているものである。
(3) 仮装隠ぺい行為について
原告は、そもそも、本件裏資金に係る取引の内容を記載した本件手帳というものを作成しておらず、これを破棄したこともない。
また、本件架空工事に係る取引は、ゼネコン関係者の指示、依頼によって行ったものであり、原告は、仮装・隠ぺいの意図を有していなかった。
したがって、原告は、国税通則法68条2項に規定する、仮装隠ぺい行為を行っていない。
3 争点
以上によれば、本件の争点は、次の各点である。
(1) 被告が行った本件各処分に係る原告の平成3年分の雑所得の金額に関する推計課税について、推計の必要性及び推計の合理性が認められるか否か。(争点1)
(2) 原告が、平成3年分の雑所得の発生について、国税通則法68条2項に規定する、仮装隠ぺい行為を行ったか否か。(争点2)
第3当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 推計の必要性について
アa 前記「争いのない事実」、証拠(乙5、同6、同32ないし同34、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
(a) 原告は、平成元年ころ、ゼネコン関係者から、Aに工事を発注することの見返りとして、多額の裏金を支払うよう要求されたことから、そのための資金を捻出するために、Aが本件ゼネコンから受注していた正規の工事の名称を利用し、本件ゼネコンからA以外の会社に、上記の正規の工事の追加工事として、実体を伴わない架空工事を発注させ、原告がその発注先の会社から架空工事の代金の一部を受け取ることによって、裏金を捻出する方法を発案した。
(b) そして、原告は、ゼネコン関係者から紹介されたCの乙専務と相談した上、Cに上記の架空工事を受注させ、原告がCから架空工事の代金の約50パーセントを受け取ることとした。
なお、本件ゼネコンからの発注は商社等を通して行う必要があったため、原告は、商社及びB株式会社に対しても、本件ゼネコンから工事を受注した場合には、その工事をCに発注するように依頼した。
(c) このようにして、原告は、本件ゼネコンから、商社及びB株式会社を経由してCに本件架空工事を発注させ、原告がCから本件架空工事の代金の一部を受け取るという取引を作出し、平成2年ころから平成5年ころにかけて、この取引を実行した。
(d) この取引においては、本件架空工事の代金がCに振り込まれると、原告が、乙専務から、その代金の一部である本件裏資金を受け取ることになっており、原告は、受け取った本件裏資金の一部をゼネコン関係者に現金で渡すとともに、その一部を本件普通預金口座及び本件取引口座に入金して管理し、さらにその一部を自己のマンションの購入代金の支払等のために費消した。
(e) そして、原告は、平成3年中においても、同年3月20日、F証券において、本件取引口座を開設し、1000万円を入金し、同口座において、同日、Iの株式2000株を303万0385円で取得し、同年5月30日、この株式を224万6204円で売却した。
また、原告は、同年3月20日には、Jの株式8000株を682万1614円で取得し、同月22日には、同社の株式1000株を84万9949円で取得し、同年4月1日、この株式のうち7000株を578万2583円で売却し、同月16日、この株式のうち2000株を165万1745円で売却している。
このようにして、原告は、平成3年中に、本件取引口座において、別表13「買付」欄記載の買付及び「売付」欄記載の売付等の取引を行った。その結果、原告は、同表記載の取引については、同表「差引金額」欄記載の金額の有価証券売却損を被った。
(f) 原告は、平成3年9月25日、本件普通預金口座から300万円を出金し、本件定期預金口座を新規に設定して、300万円を入金した。
また、原告は、同年11月19日、本件普通預金口座から1000万円を出金し、本件定期預金口座を新規に設定して、1000万円を入金した。
(g) 原告は、上記のとおり、本件裏資金の一部を原資として、本件定期預金口座を設定すること、本件取引口座において株式の売買を行うことについては、事前にゼネコン関係者に報告していなかった。
b(a) この点について、原告は、本件裏資金のうち、原告が私的に費消したのはワンルームマンションの購入代金の支払のために費消した594万6120円のみであり、その余の部分はすべてゼネコン関係者からの預り金であって、原告が行った本件定期預金口座の設定及び株式の売買は、預り金である本件裏資金を保全するために行った行為にすぎないと主張し、その本人尋問において上記の主張に沿った供述をする。
しかし、単に資金を保全するためであれば、わざわざ資金の利用に制約を伴う定期預金を設定する必要はなく、また、株価の下落状況によっては多額の損失を被る危険を伴う株式の売買を行うとは考え難い。
むしろ、本件定期預金口座及び本件取引口座は原告個人の名義であること、定期預金は、出金等の資金の利用に際して、普通預金に比べて厳格な制約を伴う性質の預金であること、株式の売買は、株価の下落によって多額の損失を被る危険を伴う資金運用方法であり、現に、原告は、平成3年中に119万8853円の有価証券売却損を被っていること、定期預金及び株式の売買が、このような制約ないし危険を伴うものであるにもかかわらず、原告は、本件裏資金の一部を原資として、これらの取引を行うことについて、ゼネコン関係者に事前の報告をしていなかったことからすれば、原告は、本件裏資金のうち、少なくとも、本件定期預金口座の設定及び本件取引口座における株式の売買に係る原資になった部分については、原告自身の責任と計算の下に私的に費消していたと認めるのが相当である。
(b) また、原告は、実際に、本件裏資金を預り金としてゼネコン関係者に渡しており、平成3年中においては、合計1億7365万4186円をゼネコン関係者のために使用したのであって、広島西税務署長が平成7年6月23日付けで行った再更正処分においても、Aが本件ゼネコンから受注先に支払われた施工を伴わない工事の代金の回収の仲介を行ったとされており、本件裏資金はすべて本件ゼネコンに回収されたと判断されていると主張し、この点につき、別紙「一覧表」が提出されているほか、上記再更正処分に係る「法人税額等の更正通知書及び加算税の変更決定通知書」(甲6の1ないし4)には、Aが本件ゼネコンから受注先に支払われた施工を伴わない工事の代金の回収の仲介を行った旨の記載がある。
しかし、上記の記載及び別紙「一覧表」の記載のみをもって、本件裏資金のうち、原告が本件修正申告書に雑所得として記載した594万6120円を除いたその余の金額が、すべて本件ゼネコンに回収されたという事実を認めることは困難であり、ほかにこの事実を認めるに足る証拠はない。
c 以上によれば、原告は、平成3年中において、本件裏資金の一部をもって自己の所得を得ていた事実が認められるというべきところ、上記の所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得であるから、雑所得に該当するものと解するのが相当である。
イa そこで、本件各処分の時点で、原告が平成3年に得た上記雑所得の金額を実額で把握することが可能であったか否かについて検討するに、証拠(乙32ないし同34)によれば、原告は、本件裏資金に係る取引の一部について、日時、金額等を本件手帳に記載していたが、平成4年10月、これを破棄してしまったこと、原告は、平成6年ころ、東京国税局の調査に際して、本件裏資金に係る取引の内容をまとめたメモを作成したが、これは、原告の記憶に基づいて作成されたものであり、原告が乙専務から受領したとする金額とその使途に係る金額が食い違っていたり、その使途を失念したりしている部分がみられるなど、本件裏資金に係る取引の具体的金額を明らかにするには不十分なものであったこと、また、そのほかには、本件裏資金に係る取引の具体的金額をすべて記載した資料は存在しなかったことが、それぞれ認められる。
これに対し、原告は、そもそも本件手帳を作成したことはないから、これを破棄したこともないと主張し、原告本人尋問において同旨の供述をするが、証拠(乙32ないし同34)によれば、原告が、平成6年ころに行われた東京国税局査察部の調査において、東京国税局査察部査察第22部門国税査察官(当時)丁及び同(当時)戊に対し、本件裏資金に係る取引の内容を本件手帳に記載していたが、平成4年10月に本件手帳を破棄した旨の供述をした事実が認められるところ、上記供述が虚偽であることを窺わせる事情は何ら認められないことに照らせば、原告の丁、戊両査察官に対する供述は信用することができ、これに反する原告の上記主張及び供述は採用できない。
b そうすると、本件各処分の時点においては、本件裏資金に係る取引の具体的な金額を認めるに足る資料は存在しなかったものであるから、被告が、原告の平成3年の雑所得の金額を実額で算出することは不可能であったというべきである。
ウ したがって、被告としては、原告の平成3年分の上記の雑所得の金額を算出するに当たっては推計によらざるを得なかったものと認めることができ、被告が行った本件各処分に係る推計課税については、推計の必要性が存在することが肯認できるというべきである。
(2) 推計の合理性について
ア 推計の方法について
被告は、原告の平成3年分の雑所得の金額を推計するに当たり、原告の年末の資産額と年初の資産額の差額(平成3年の資産の増加額)から、年末の負債額と年初の負債額の差額(同年の負債の増加額)を控除して得られた金額(同年の純資産の増加額)に、調整項目加算額として、生活費、支払税額、支払保険料等の所得の処分に相当する事由に係る金額を加え、調整項目減算額として、給与収入等の雑所得以外の所得に係る金額を差し引く方法、すなわち純資産増減法を用いてこれを算出したものである。
純資産増減法は、納税者の当該年の純資産の増減額は、納税者の当該年の総収入から所得の処分に相当する総支出及び損失を控除したものと一致するという考え方を基礎とし、総収入の中に推計の対象とする当該所得以外の所得が含まれていればその金額を総収入から差し引くという修正を施すことによって、納税者の当該所得を算出するというものであり、それ自体合理的な考えに基づくものであって、当該年の期首及び期末の資産及び負債中の各科目並びに調整項目加算額及び調整項目減算額中の各項目の金額が正確に把握されている限り、合理性を有するものであるということができる。
イ 資産、負債等の額
そこで、以下、年初及び年末の資産及び負債中の各科目並びに調整項目加算額及び調整項目減算額中の各項目の金額について検討する。
a 資産科目
(a) 預金科目
証拠(乙5、同7ないし同11)によれば、別表2記載の各預金が原告に帰属していたこと、各預金の年初及び年末の預金残高は別表2記載のとおりであることが認められる。
(b) ゴルフ会員権科目
証拠(乙12、同13)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、年初及び年末において、別表3記載のゴルフ会員権を所有していたことが認められる。
(c) 有価証券科目
証拠(乙6)によれば、原告が、年初において、有価証券を所有していなかったこと、年末において、別表4記載の有価証券を所有していたことが認められる。
(d) 前渡金科目
証拠(乙14)によれば、原告は、別表5「支払先」欄記載の支払先に対し、同表「支払年月日」欄記載の支払年月日に、同表「年末残高」欄記載の金額の前渡金を支払ったことが認められる。
(e) 建物等科目
証拠(乙15ないし同18)によれば、原告は、別表6「所在地」欄記載の所在地に存する建物を、同表「取得年月目」欄記載の年月日に、同表「年初残高」及び「年末残高」欄記載の金額の取得価額で取得したこと、原告が年初及び年末においてこれらの建物を所有していたことが認められる。
(f) 土地科目
証拠(乙15ないし同21)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、別表7「所在地」欄記載の所在地に存する土地を、同表「取得年月日」欄記載の年月日に、同表「年初残高」及び「年末残高」欄記載の金額の取得価額で取得したこと、原告が年初及び年末においてこれらの土地を所有していたことが認められる。
b 負債科目(借入金科目)
証拠(乙5、同7、同11、同17、同22ないし同25)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、年初及び年末において、別表8記載の借入金債務を負担していたことが認められる。
c 調整項目加算額
(a) 生活費科目
被告は、調整項目加算額中の生活費科目の金額について、総務庁統計局発行の家計調査年報平成3年の第7表「世帯人員別・世帯主の年齢階級別1世帯当たりの年平均1か月間の収入と支出(全世帯)」のうち、世帯人員別1世帯当たりの年平均1か月間の消費支出金額として記載されている金額を基に、本件期限後申告書の配偶者控除及び扶養控除の各欄に記載されている人員に原告を加えた4人を世帯人員として、1か月当たりの消費支出金額を35万2315円とし、これに当該年に属する月数12月を乗じるという推計を用いて、これを422万7780円と算出したものである。
ところで、証拠(乙31)によれば、上記の家計調査年報平成3年は、総務庁統計局が発行した公的な統計資料であり、その中の世帯人員4人の1世帯当たりの年平均1か月間の消費支出金額の欄の記載は、全国の2340世帯から集計した結果を分析したものであって、その内容は相当の信頼性を有するものであると認められる。
そして、証拠(乙3ないし同25)によれば、原告が、平成3年中に、Aから給与及び賞与として1459万7000円の支払を受けたほか、預金、ゴルフ会員権、有価証券、土地、建物等の資産を有していたことが認められることからすれば、一方で、原告が相当額の借入金を負担していたことが認められることを勘案しても、原告は、平成3年当時、標準的ないしそれ以上の生活を営んでいたものと推認される。
そうすると、被告が、原告の平成3年の生活費科目の金額について、上記の家計調査年報平成3年の記載を用いた推計によって、これを422万7780円と算出したことには合理性が認められる。
(b) 所得税及び住民税科目
証拠(乙3、同26、同27)によれば、原告は、平成3年中に、別表9記載の所得税及び市・県民税を支払ったことが認められる。
(c) 固定資産税科目
証拠(乙27、同28)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成3年中に、別表10記載の固定資産税を支払ったことが認められる。
(d) 社会保険料科目
証拠(乙3、同4)によれば、原告は、平成3年中に、社会保険料として、90万4043円を支払ったことが認められる。
(e) 生命保険料科目
証拠(乙29、同30)によれば、原告は、平成3年中に、別表11記載の生命保険料を支払ったことが認められる。
(f) 不動産経費科目
証拠(乙16ないし同18)によれば、原告は、平成3年中に、不動産所得に係る経費として、別表12記載の修繕費を支払ったことが認められる。
(g) 有価証券売却損科目
証拠(乙6)によれば、原告は、平成3年中に、別表13「買付」欄記載の買付を行い、同表「売付」欄記載の売付を行った結果、同表「差引金額」欄記載の金額の有価証券売却損を被ったことが認められる。
(h) 借入金利息科目
証拠(乙5、同7、同11、同17、同22ないし同25)によれば、原告は、平成3年中に、別表14記載の借入金利息を支払ったことが認められる。
d 調整項目減算額
(a) 給与収入科目
証拠(乙3)によれば、原告は、平成3年中に、Aから、給与及び賞与として、1459万7000円の支払を受けたことが認められる。
(b) 不動産賃貸収入科目
証拠(乙3、同16ないし同18)によれば、原告は、平成3年中に、別表15「賃借人」欄記載の賃借人から、同表「金額」欄記載の金額の不動産賃貸収入を受け取ったことが認められる。
(c) 受取利息科目
証拠(乙5、同7ないし同11)によれば、原告は、平成3年中に、別表16「取引銀行」欄記載の銀行から、同表「受取金額」欄記載の金額の利息を受け取ったことが認められる。
ウ 推計の合理性に係る原告の主張について
a 原告は、原告名義の預金等の残高は、すべてゼネコン関係者からの預り金であって、原告の負債として計算すべきものであるにもかかわらず、被告は、原告の純資産の算出に当たり、この負債の金額を説落したと主張する。
しかし、原告は、本件裏資金について、一部を本件普通預金口座に入金し、これを原資として、本件定期預金口座を新規に設定したり、一部を本件取引口座に入金し、これを原資として、多数の株式の売買を行うなどしていたこと、これらの取引を行うことについてゼネコン関係者に事前の報告をしていなかったことなどの事実に照らすと、原告はこれらの口座に預金された金員を自己の責任と計算の下に私的に費消していたものと認めるのが相当であり、原告名義の預金等の残高は、すべてゼネコン関係者からの預り金であるとする原告の主張は採用できないことは、前記認定のとおりである。
b また、原告は、本件裏資金については、広島西税務署長がAに対して更正処分を行ったにもかかわらず、さらに、被告が原告に対して本件更正処分を行ったことから、二重課税が行われていると主張し、広島西税務署長の平成5年12月27日付け「法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」(甲4の1ないし4)には、広島西税務署長が、本件普通預金口座、E銀行及びH銀行鴨居出張所の原告名義の普通預金口座並びに本件取引口座に関する調査に基づいて、Aに合計8億7786万4314円の完成工事高の除外が存在すると判断し、Aに対し、この金額を同社の当期利益に加算するなどして、更正処分を行った旨の記載がある。
しかし、証拠(甲6の1ないし4)によれば、広島西税務署長の上記更正処分によってAの当期利益に加算された金額については、広島西税務署長が平成7年6月23日付けで行った再更正処分において、Aの完成工事高とは認められないため、全額を当期利益から減算するという処理が行われたことが認められるのであり、この事実に照らすと、上記平成5年12月27日付け「法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」の記載のみをもって、本件裏資金について、Aに対する課税が行われたと認めることはできない。
そして、そのほかに、本件裏資金について二重課税が行われたと認めるに足る証拠はないから、この点の原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく、採用できない。
エ 前記のとおり認定した原告の年初及び年末の資産及び負債中の各科目並びに調整項目加算額及び調整項目減算額中の各項目の金額を基に、純資産増減法を用いて、原告の平成3年分の雑所得の金額を推計で算出した過程及び結果は、別表1記載のとおりであり、その金額は1億0728万1757円となるが、以上のような推計には合理性があるということができる。
そして、本件更正処分において、計算の基礎とした原告の平成3年分の雑所得の金額8633万3969円は、上記の推計による金額を下回っている。
(3) 以上のとおり推計により算出した原告の平成3年分の雑所得の金額に、給与所得の金額及び不動産所得の金額を加算すると、原告の平成3年分の総所得金額は1億1300万4630円となり、本件更正処分に係る総所得金額9205万6842円は、上記の算出額を超えないものであるから、本件更正処分は適法というべきである。
2 争点2について
(1) 前記「争いのない事実」、証拠(乙32ないし同34)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、工事の実体を伴わない本件架空工事に係る取引を主体的に発案、実行し、この取引を仮装することによって、平成3年中に、推計で1億円を超える多額の雑所得を得たこと、原告は、本件裏資金に係る取引を行っていた間、本件手帳以外には、その取引に関する資料を作成していなかったこと、原告は、東京国税局調査部のG工務店に対する税務調査に関係してその反面調査を受けた直後の平成4年10月、本件手帳の存在から、本件架空工事の存在が明るみになり、本件ゼネコンの不正が発覚することを恐れ、これを隠ぺいする目的で、本件裏資金に係る取引の内容を記載した本件手帳を破棄したこと、原告は、これらの行為を行った上で、平成3年分の所得税の法定申告期限が徒過した後の平成5年3月10日に、雑所得の金額を記載していない本件期限後申告書を提出したことを認めることができる。
そうすると、これらの原告の一連の行為は、国税通則法68条2項に規定する、「課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、法定申告期限後に納税申告書を提出したとき」に該当するというべきである。
(2) なお、原告は、そもそも本件手帳を作成したことはないから、これを破棄したこともないと主張し、原告本人尋問において同旨の供述をするが、この点の原告の主張及び供述が採用できないことは前記のとおりである。
また、原告は、本件裏資金に係る取引は、ゼネコン関係者の指示により行ったものであって、原告は仮装隠ぺいの意図を有しなかったとも主張するが、原告が、ゼネコン関係者から本件架空工事に係る取引を行うように強制されたなどの事情を窺わせる証拠は存在せず、むしろ、原告が、主体的に、本件架空工事に係る取引を発案し、実行した上、本件裏資金の一部を自己の所得としていたことは前記のとおりであるから、この点の原告の主張は到底採用できない。
(3) したがって、原告は、国税通則法68条2項の規定に基づいて、本件更正処分に基づき同法35条2項の規定により納付すべき税額3903万円(ただし、同法118条3項の規定によって1万円未満の端数を切り捨てた後の金額。)に100分の40の割合を乗じて計算した1561万2000円の重加算税の納税義務を課されるべきことになる。
そして、本件賦課決定処分に係る原告の平成3年の重加算税の金額は、1366万0500円であり、上記の1561万2000円の範囲内であるから、本件賦課決定処分は適法である。
第4結論
以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 裁判官 馬渡香津子)
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