東京地方裁判所 平成11年(行ウ)118号 判決 2000年5月22日
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告らの平成九年一二月一八日付け租税特別措置法四〇条の規定による承認申請に対し、平成一〇年一一月一八日付けで行った不承認処分を取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告らが、公益法人に対する株式の贈与に伴うみなし譲渡所得課税について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)四〇条一項後段の規定により非課税の承認申請をしたところ、被告に不承認とされたことを不服として、その取消しを求めている事案である。
一 争いがない事実
1 社会福祉法人萩市社会福祉協議会(以下「萩市社協」という。)は、萩市における社会福祉事業の能率的運営と組織的活動を展開し、地域福祉の増進を図ることを目的として社会福祉事業法に基づき設立された社会福祉法人で、公益を目的とする事業を営む法人である。
2 原告らは、平成八年七月三〇日、萩市社協に対し、Aの死亡により共同相続した日立精機株式会社株式一万九〇〇〇株及び川崎重工業株式会社株式五万一〇〇〇株(以下「本件株式」と総称する。原告らの持分はいずれも三分の一ずつである。)を贈与した。
3 萩市社協は、平成八年八月五日、ウツミヤ証券株式会社萩支店において、本件株式を三四八九万九九七六円で売却して、右売却代金から手数料等を控除した残額を山口銀行萩支店の定期預金とし、右定期預金の利息を萩市内の民間社会福祉施設及び団体の育成及び助成のための費用に充当している。
4 原告らは、平成九年一二月一八日、被告に対し、右贈与について措置法四〇条一項後段の規定による所得税の非課税の承認を申請したが、被告は、平成一〇年一一月一八日、租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)二五条の一七第二項二号に規定する要件に該当しないことを理由に、いずれも不承認処分(以下「本件各不承認処分」という。)を行い、通知した。
5 原告らは、平成一〇年一二月一六日、被告に対し、本件各不承認処分を不服として異議申立てをしたが、被告は、平成一一年三月一〇日、これらをいずれも棄却する旨決定した。
二 法令等の定め
1 みなし譲渡所得課税
所得税法は、資産の譲渡による収入から取得費、譲渡に要した費用及び特別控除額を控除した金額を譲渡所得とし(同法三三条)、譲渡所得の金額の計算上収入金額とすべき金額を、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額と定めているところ(同法三六条一項)、法人に対する贈与又は遺贈(以下「贈与等」という。)については、贈与等の譲渡所得の基因となる資産の移転の事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、当該資産の譲渡があったものとみなして、譲渡収入金額を擬制する旨を規定している(同法五九条一項一号)。
2 本件特例
措置法四〇条一項後段は、民法三四条の規定により設立された法人その他の公益を目的とする事業(以下「公益事業」という。)を営む法人(以下「公益法人」という。)に対する財産の贈与等で、当該贈与等が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することその他の政令で定める要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについては、所得税法五九条一項一号のみなし譲渡所得課税の規定の適用に当たって、当該財産の贈与等がなかったものとみなす旨を定めている(以下「本件特例」という。)。
3 事業供用要件
右の措置法四〇条一項後段の「政令で定める要件」は、措置法施行令二五条の一七第二項各号に定められているところ、同項二号は、当該贈与等に係る財産(以下「寄附財産」という。)が、当該贈与等があった日以後二年以内に、当該財産を受けた法人の当該贈与等に係る公益を目的とする事業の用に供され、又は供される見込みであることを要件として定め、また、同号かっこ書において、寄附財産につき同条四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由により寄附財産の譲渡をする場合において、当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利(以下「代替資産」という。)を取得するときは、代替資産についても、当該贈与等があった日以後二年以内に、当該財産を受けた法人の当該贈与等に係る公益事業の用に供され、又は供される見込みであることを要件として本件特例を適用することを定めている(以下、同条二項二号に規定する要件を「事業供用要件」という。)。
そして、同条四項は、同条二項二号かっこ書の定める寄附財産譲渡のやむを得ない理由として、収用等又は換地処分等による譲渡があった場合(同条四項一号)、被災施設の復旧を図るために譲渡があった場合(同項二号)、公害等により公益事業の遂行が困難となったこと等に伴い施設を移転するために譲渡があった場合(同項三号)を定めている。
4 措置法四〇条通達
(一) 「租税特別措置法第四〇条第一項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて」(平成一〇年六月一八日付け課資二―二四三による改正後のもの。以下「措置法四〇条通達」という。)八本文は、寄附財産又は代替資産が当該贈与等に係る公益事業の用に供されるかどうかの判定は、当該財産そのものが、直接、当該公益事業の用に供されるかどうかにより行うものとすると定めている。
もっとも、措置法四〇条通達八ただし書は、株式、著作権などのように、その財産の性質上その財産を直接公益事業の用に供することができないものである場合には、各年の配当金、印税収入などその財産から生ずる果実の全部が当該公益事業の用に供されるかどうかにより、当該財産が当該公益事業の用に供されるかどうかを判定して差し支えないものとして取り扱い、この場合において、各年の配当金、印税収入などの果実の全部が当該公益事業の用に供されるかどうかは、当該果実の全部が、直接、かつ、継続して、当該公益事業の用に供されるかどうかにより判定することに留意すると定めている。
(二) また、措置法四〇条通達九は、例えば、次のような場合が、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書に規定する「その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由」に該当するものとして取り扱う旨を定めている。
(1) 贈与等に係る土地等が、不整形地若しくは間口が狭小な土地等又は借地権が設定されている土地等であることなどから、それ自体を、直接、公益法人の公益事業の用に供することが困難であるため、当該土地等の全部又は一部が当該法人において隣接地等又は借地権と交換された場合
(2) 財産の提供による公益法人の設立認可等又は公益事業に係る施設の設置認可に際し、当該施設の設置場所が適当でないとする行政庁の指導に基づく設置場所の変更があったことに伴い、寄附財産が当該法人において譲渡された場合
(3) 寄附財産の使用について建築基準法その他の法令による制限を受けるなどのため、当初の使用計画が実行不能となったことから事業計画の変更があったことに伴い、当該財産が公益法人において譲渡された場合
(4) 公益法人の設立の許可又は認可の要件として、一定の施設を有することが必要とされていることから、当該公益法人の設立前にその設立準備委員会等において、贈与等によって取得した土地等の財産が譲渡され、その譲渡代金の全額をもって当該施設が取得された場合で、当該施設の取得のためには当該財産を譲渡するよりほかに方法がなかったと認められるとき
(5) 公益事業の新規開設又は事業規模の拡張に伴いその事業の基盤として必要不可欠な財産の取得資金に充てるため、又はその事業の基盤として必要不可欠な建物等の減価償却資産が老朽化したことに伴い当該資産の建替資金等に充てるために寄附財産が公益法人において譲渡された場合(前記(4)に掲げる場合を除く。)で、当該法人の財務状況や活動状況に照らし、その財産の取得又は建替え等のためには当該寄附財産を譲渡するよりほかに方法がなかったと認められるとき(注) 当該法人が寄附財産を譲渡することを企図して贈与等を受けたと認められる場合には、(5)に該当しないことに留意する。
三 当事者双方の主張
(被告の主張)
1 措置法における非課税要件規定は、原則的規定である所得税法の課税要件規定に対する例外的規定であり、課税要件規定とは異なる何らかの財政、経済政策的配慮から定立されるものであるから、課税要件規定が実現維持しようとする租税負担の公平等の理念に対して何らかの意味におけるいわゆる阻害的な影響を及ぼすものである。したがって、非課税要件規定の解釈は厳格にすべきであって、安易にこれを拡張して解釈することは許されない。
また、本件特例の適用を受けるための要件を定めている措置法施行令二五条の一七第二項は、措置法四〇条一項の委任に基づくものであり、通達のごとく単に措置法の解釈をしているにすぎないものではないから、措置法施行令も措置法の規定を具体化する法令として措置法と一体となって厳格に解釈すべきである。
原告ら主張のように、措置法施行令について合目的的解釈を行うならば、厳格に解釈すべき措置法の非課税要件の一義性や明確性が欠け不明確なものとなり、結局、措置法を厳格に解釈することが困難となる。
2 右の観点から本件特例を解釈すると、措置法施行令二五条の一七第二項二号の規定によれば、同号かっこ書に定める事情がある場合を除き寄附財産そのものが、直接、公益法人においてその公益事業の用に供される場合に限って事業供用要件を満たすことになるというべきである。
措置法四〇条通達八ただし書は、寄附財産が株式、著作権等の場合に、果実の全部が直接かつ継続して公益事業の用に供されるか否かにより事業供用要件を判定する取扱いを行っているが、これは、株式、著作権等のように、その財産の性質上直接公益事業の用に供することができないものであっても、株式の配当金や著作権の印税収入など、当該寄附財産を他の事業の用に供することなく、寄附財産そのものから必然的に発生する利益があればその利益も寄附財産そのものと同視し得るとも考えられることを根拠とするものである。
したがって、公益法人が寄附財産を公益事業の用に供さないまま譲渡した場合には、原則として本件特例を適用するための国税庁長官の承認を受けることはできないものであり、例外的に、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書により、譲渡することについて一定のやむを得ない理由があり、かつ、譲渡による収入金額の全額に相当する金額で取得した一定の代替資産を直接公益事業の用に供している場合に限り、本件特例の適用が認められるものである。
3 以上によれば、萩市社協は、本件株式を譲渡しているのであるから、寄附財産そのものが公益事業の用に供されていない上に、萩市社協の本件株式の譲渡には措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書に定めるやむを得ない理由がなく、さらに、譲渡による収入金額の全部に相当する金額を定期預金にしただけであり、同号かっこ書に定める代替資産を取得していないから、原告らが贈与した本件株式は、同号所定の事業供用要件を満たしていないというべきである。
4 なお、原告らは、被告主張の解釈によれば、無配当の株式の寄附に本件特例の適用はなくなり、寄附した株式が無配当になると既になされた承認処分が取り消されることとなるから、右解釈は相当ではないと主張するが、本件特例は、寄附財産を直接公益事業の用に供することを目的とするものであり、直接公益事業の用に供することが不可能な財産又は不可能となった財産が事業供用要件を満たさないことは明らかであるから、原告らの右主張は失当である。
また、原告らは、被告主張の解釈によれば、寄附者の関知しない公益法人の寄附財産の譲渡により、課税関係が左右され、課税予測を困難にすると主張するが、本件特例の事業供用要件は、前記のとおり一義的に明確であり、本件特例が寄附財産を直接公益事業の用に供する場合に適用されることは明らかであるから、寄附財産の種類及び公益法人の対応によって課税関係が左右されることは寄附者にとってあらかじめ十分承知できるものであり、法的安定性を欠くとはいえず、原告らの右主張も失当である。
(原告らの主張)
1 措置法は、政策的目的等から税負担の軽減等の特例を定めているものであるから、安易な拡張解釈、適用は許されないが、規定の文言解釈に限定されるものではなく、その特例の趣旨、目的に従った合目的的解釈こそなされるべきである。
また、措置法が具体的内容を政令である措置法施行令に委ねている場合には、措置法の政策的考慮と税負担公平の原則とを比較考量し、措置法施行令が合理的な内容を有するかどうかを厳格に解釈すべきであり、措置法の政策的考慮と税負担公平の原則のバランスが崩れている場合には、措置法施行令について合目的的解釈がなされるべきである。
ところが、被告主張の解釈は、次のとおり、民間の公益事業の一層の増進を図るために公益法人に対する資産の寄附につき譲渡所得課税を非課税にするという本件特例の趣旨、目的を考慮しておらず、また、措置法の政策的考慮と税負担公平の原則のバランスが崩れてしまうことになるものであるから、失当である。
2 寄附財産を公益事業の用に供する方法は、その寄附財産の種類、性質、事業内容、経済情況等を総合した、公益事業の運営者の合理的判断によって行われるべき性質のものである。すなわち、寄附財産それ自体を直接公益事業の用に供することが、寄附の趣旨や寄附者の意思にも合致し、必要ないし有益な場合もあるが、その財産を譲渡換金して、その代わりに必要ないし有益な資産に変換し、あるいはこれを取得する場合もある。
しかるに、後者の場合に、たとえ、譲渡代金の全部又は全部に相当する代価物が事業の用に供されても、寄附財産それ自体を公益事業の用に供していないことを理由に、事業供用要件を満たさないとすることは、本件特例の趣旨、目的に照らし、合理的理由を欠くものである。
3 また、公益事業の用に供される態様、内容等は、寄附財産の種類、性質等により異なるものであるところ、措置法施行令二五条の一七第二項二号は、寄附財産が公益事業の用に供されるべきことを規定したにすぎず、公益事業の用に供する態様、内容、方法等についてまで規定しておらず、寄附財産それ自体が直接公益事業の用に供されなければならない旨の明確な規定もない。同号かっこ書は、同条四項各号の規定及び措置法四〇条通達九の内容からすると、寄附財産が減価償却資産、土地又は土地の上に存する権利である場合に、これらを譲渡して代替資産を取得したときについて、事業供用要件を満たすことを注意的、確認的に規定したものにすぎず、本件株式のような有価証券等に関する規定ではないと解すべきである。
そして、寄附財産の譲渡がなされた場合に本件特例が適用されるのは、やむを得ない譲渡に限るとしても、本件特例の趣旨、目的に照らせば、業務運営上、必要かつ有益な寄附財産の譲渡が、本件特例の適用の対象から排除されるべきではない。
4 したがって、本件特例を合目的的に解釈すれば、事業供用要件を満たすか否かは、寄附財産の種類、性質等により個別具体的に評価判断されるべきであり、寄附財産と実質的に同一性があると評価できる資産を代替的に取得しこれを公益事業の用に供する場合は、事業供用要件を満たすと解すべきである。
そして、本件株式の寄附についても、その譲渡代金(手数料等を控除した残額)を定期預金にしてその利息を公益事業の費用に充てているのであり、本件株式を保有してその配当を公益事業の費用に充てる場合と実質的に同じと評価できるから、事業供用要件を満たしているというべきである。
5 被告主張の解釈によれば、無配当の株式の寄附に本件特例の適用はなくなり、また、寄附した株式が無配当になると、既になされた承認処分が取り消されることとなるが、無配当の株式でも復配の余地があり、右解釈は、本件特例の趣旨、目的に照らして相当ではなく、寄附者の課税予測を困難にするものである。
また、株式を公益法人に寄附したところ、企業業績や株式市場の動向に左右される株式を譲渡して、定期預金とし、その利息を公益事業の費用とすることが、事業運営の安定を図るために、公益法人にとって必要かつ有益な場合があるが、被告主張の解釈によれば、このような寄附者の関知しない事情によって、課税関係が左右されることとなり、寄附者の課税予測を困難にするものである。
したがって、本件特例の事業供用要件は、意味内容が必ずしも一義的に明確でなく、寄附者の課税予測が困難であり、法的安定性を欠くから、事業供用要件を合目的的に解釈、適用し、寄附者の課税予測、法的安定性を確保する解釈をすべきである。
四 争点
以上によれば、本件の争点は、本件株式の売却代金(手数料等を控除した残額)を定期預金とし、その利息を民間社会福祉施設及び団体の育成及び助成のための費用に充当することが、措置法施行令二五条の一七第二項二号所定の事業供用要件を満たすか否かの点にある。
第三争点に対する判断
一 措置法施行令二五条の一七第二項は、措置法四〇条一項後段の規定に基づいて、本件特例の適用を受けるための国税庁長官の承認を得るための要件を定めるものであるところ、右措置法施行令二五条の一七第二項二号は、寄附財産について、当該贈与等があった日以後二年以内に当該財産を受けた法人の当該贈与等に係る公益事業の用に供され、又は供される見込みであることを、前記要件の一つとして規定している(事業供用要件)が、かっこ書を設けて、寄附財産について譲渡がなされた場合においても、右譲渡に同条四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由があり、当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利を取得したときには、公益事業の用に供し、又は供する見込みのものが寄附財産そのものではなく、代替資産であっても、事業供用要件を満たす旨を規定している。
右のような同条二項二号かっこ書の規定が設けられていることからすれば、寄附財産を譲渡することによって代替的に取得した資産が公益事業の用に供され、又は供される見込みがある場合に、同号所定の事業供用要件に該当するというためには、同号かっこ書に定められた各要件(右譲渡に一定のやむを得ない理由があること、譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって一定の代替資産を取得すること)を具備することが必要であると解すべきである。
二 これに対し、原告らは、本件特例を合目的的に解釈すれば、寄附財産を譲渡して代替的に資産を取得し、これを公益事業の用に供し、又は供する見込みがある場合にも、事業供用要件を具備すると主張し、これを当然の前提として、同号かっこ書は、寄附財産が減価償却資産、土地又は土地の上に存する権利である場合に、これらを譲渡して代替資産を取得したときについて、事業供用要件を満たすことを注意的、確認的に規定したものにすぎず、本件株式のような有価証券等に関する規定ではないと解すべきであると主張する。
しかし、仮に措置法施行令二五条の一七第二項二号が原告ら主張のような考え方を前提としているとしても、同号のかっこ書において、右の場合だけを確認的、注意的に規定すべき理由は見出せず、むしろ、同号かっこ書は、譲渡の対象となる寄附財産について「当該財産」と規定するだけであって、これを減価償却資産、土地又は土地の上に存する権利に限定していないこと、非課税規定はみだりに拡張して解釈適用すべきものではないところ、同号かっこ書の定める要件に該当する譲渡は措置法施行令二五条の一七第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由によって譲渡した場合に限られていることからして、原告らの右主張は採用し難い。
なお、原告らは、本件特例を右のとおりに解することは、政令に具体的規定を委任した措置法の政策的考慮と税負担公平の原則のバランスを崩すことになるものであるから、本件特例について合目的的解釈をすべきであると主張するが、措置法施行令が右のとおりに解される事業供用要件を定めたことは、本件特例の適用を受けるための国税庁長官の承認を得るための要件を政令で規定することを委任した措置法四〇条一項後段の委任の限度を超えるものではないから、原告らの右主張は前提を欠き失当である。
三 また、措置法四〇条通達八ただし書は、株式、著作権等について、直接公益事業の用に供することができない財産の性質を考慮して、果実の全部が公益事業の用に供されるか否かにより事業供用要件を判定する取扱いを定めているけれども、寄附財産について譲渡がなされた場合については、措置法施行令において事業供用要件を満たすための要件を前記のとおり定めているのであるから、右要件を満たさない場合に、寄附財産の種類、性質等を考慮して事業供用要件があると解する余地はないというべきである。
四 なお、原告らは、寄附した株式の配当の有無や、公益法人における寄附財産の譲渡の有無により、本件特例の適用の有無が左右される解釈は、課税予測を困難にするものであるから失当であり、法的安定性を確保する解釈をすべきであると主張するが、寄附財産が譲渡された場合における事業供用要件は前記のとおりであり、公益法人が寄附財産を譲渡するか否かによって課税関係が左右されることは寄附者にとって明らかであるから、事業供用要件を前記のように解することが法的安定性を欠くことになるとはいえず、原告らの右主張も理由がない。
五 以上によれば、萩市社協は、本件株式を他に売却譲渡しているところ、右譲渡は、措置法施行令二五条の一七第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由によるものではなく、また、右譲渡による売却代金から手数料等を控除した残額は、定期預金にされたものであって、同条第二項二号かっこ書に定める代替資産(減価償却資産、土地、土地の上に存する権利)が取得されたものではないのであるから、本件株式の贈与については、事業供用要件を満たしていないというべきであり、本件各不承認処分はいずれも適法である。
六 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)