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東京地方裁判所 平成11年(行ウ)140号 判決 2001年5月21日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

(原告)

1  被告国は,原告に対し,金3990万5800円及びこれに対する平成9年10月4日から支払済みに至るまで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告登記官が,原告に対し,平成9年12月9日付け通知書(通知第175号)をもってした,東京法務局品川出張所平成8年10月4日受付第28164号及び同日受付第28165号の各登記に係る登録免許税について還付通知をすべき理由がない旨の通知を取り消す。

(被告国)

1  本案前の答弁 本件訴えを却下する。

2  本案の答弁 原告の請求を棄却する。

(被告登記官>

原告の請求を棄却する。

第2事案の概要

原告は,固定資産課税台帳(地方税法341条9号。以下「課税台帳」という。)に価格が登録されていない土地の所有権移転登記を受けるに際して納付した登録免許税の課税標準及び税額の計算に誤りがあり,登録免許税の誤納があった旨主張して,登録免許税法(以下「法」という。)31条2項に基づき,被告登記官に対し,所轄税務署長に誤納金の還付を通知すべき旨の請求をした。これに対し,同被告は,誤納の事実は認められず,当該通知をすべき理由はない旨の通知(以下「本件通知」という。)をした。

本件は,原告が,本件通知は違法である旨主張してその取消しを求めるとともに,被告国に対し,誤納したと主張する登録免許税相当額の還付を求めるものである(以下,被告登記官に対し本件通知の取消しを求める請求を「本件取消請求」,被告国に対し誤納金の還付を求める請求を「本件還付請求」という。)。

1  法律の定め

(1)  不動産の登記を申請する者は,所定の登録免許税を納付し,当該申請書に,課税標準の価格及び登録免許税の額を記載して,当該登録免許税額に相当する金額の納付に係る領収証書又は収入印紙を貼付して提出しなければならない(法3条,21条,22条,登録免許税法施行令(以下「法施行令」という。)18条,不動産登記法施行細則38条)。

登録免許税の課税標準及び税率は,法別表第一に掲げる登記,登録,特許,免許,許可,認可,指定及び技能証明(以下「登記等」という。)の区分に応じて課せられ(法2条,9条),売買による不動産の所有権移転登記の場合における登録免許税の課税標準は不動産の価額とされ,その税額は,課税標準に1000分の50を乗じた金額とされている(法別表第一の一(二)ニ)。

そして,登録免許税の課税標準たる不動産の価額は,当該登記又は登録の時における不動産等の価額によることとされているが(法10条1項),当分の間,地方税法341条9号に掲げる課税台帳に登録された当該不動産の価格(以下「登録価格」という。)を基礎として政令で定める価額によることができるとされている(法附則7条)。

(2)  これを受けて,登録価格のある不動産については,その課税標準は,登録価格に100分の100を乗じて計算した金額に相当する価額とされている(登録免許税法施行令附則(以下「法施行令附則」という。)3項前段)。

これに対し,登録価格のない不動産については,その課税標準は,当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で登録価格のあるものの当該申請の日の区分に応じた金額を基礎として,当該登記に係る登記機関が認定した価額(以下「認定価額」という。)とされている(法施行令附則3項後段)。

しかしながら,租税特別措置法(平成9年法律第22号による改正前のもの。以下同じ。以下「措置法」という。)84条の2及び租税特別措置法施行令(平成9年政令第106号による改正前のもの。以下同じ。以下「措置法施行令」という。)44条の2第1項1号により,前記の原則は大きく修正されており,平成8年4月1日から平成9年3月31日までの間に登記を受ける場合における不動産の価額は,法附則7条の規定にかかわらず,平成8年度の登録価格のある土地については,その登録価格に100分の40を乗じた金額とされ,平成8年度の登録価格のない土地については,当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産の平成8年度の登録価格を基礎として当該登記に係る登記官が認定した価額(認定価額)に100分の40を乗じた金額とされている。

(3)  登記官に対してする還付通知の請求について

登記機関は,過大に登録免許税を納付して登記を受けたという事実があるときは,遅滞なく,当該過大に納付した登録免許税の額その他法施行令20条で定める事項を登記の申請をした者又は登記を受けた者(これらの者が2人以上ある場合には,そのうち登記機関の選定した者)の当該登録免許税に係る納税地の所轄税務署長に通知しなければならない(法31条1項3号)。

登記等を受けた者(以下「登記申請者」という。)は,当該登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,登録免許税の過誤納があるときは,当該登記を受けた日から1年を経過する日までに,法施行令20条2項で定めるところにより,その旨を登記機関に申し出て,法31条1項に定める通知をすべき旨の請求(以下「還付通知請求」という。)をすることができる(法31条2項)。

2  前提となる事実等(各事実は末尾掲記の証拠等によって認定した。)

(1)  登記の申請及び登記

原告は,平成8年10月4日,東京法務局品川出張所に対し,東京都品川区α298番10の土地(以下「甲土地」という。),同区α298番4の土地(以下「乙土地」という。)及び同区α298番9の土地(以下「丙土地」といい,甲土地及び乙土地と併せて「本件各土地」という。)について,同日付け売買を登記原因とし,登記権利者を原告,登記義務者をA(甲土地に係る登記申請),B・C・D(乙土地及び丙土地に係る登記申請)とする所有権移転登記申請をしたところ,同出張所は,同日受付第28164号(甲土地に係る登記申請)及び同日受付第28165号(乙土地及び丙土地に係る登記申請)をもって受付けをした(以下,これらの登記申請をまとめて「本件各登記申請」といい,これらの登記をまとめて「本件各登記」という。)。

(争いのない事実)

(2)  本件各土地の分合筆の経緯等

本件各土地の分合筆の経緯は次のとおりである(いずれも東京都品川区αの土地である。)。

ア 乙土地(298番4)

(ア) 昭和40年1月23日298番4,298番6に分筆,地積601.28平方メートル

(イ) 平成8年9月3日298番4,298番8に分筆,地積375.83平方メートル

(東京都品川区α298番8の土地(225.44平方メートル)を以下「丁土地」といい,上記分筆前の東京都品川区α298番4の土地を以下「298番4の土地」という。)

(ウ) 平成8年9月11日300番1を合筆,地積586.01平方メートル

(上記合筆前の東京都品川区α300番1の土地を以下「300番1の土地」という。)

(エ) 平成8年9月19日298番4,298番9(丙土地),298番10(甲土地),298番11に分筆,地積241.27平方メートル

(品川区α298番11の土地(111.27平方メートル)を以下「戊土地」という。)

イ 甲土地(298番10)

前記ア(エ)記載のとおり,平成8年9月19日298番4から分筆,地積53.53平方メートル

ウ 丙土地(298番9)

前記ア(エ)記載のとおり,平成8年9月19日298番4から分筆,地積179.94平方メートル

本件各土地は,いずれも,本件各登記申請及び本件各登記がなされた時点において,登録価格のない土地であった。

そのため,本件各登録免許税に係る課税標準額は,措置法84条の2及び措置法施行令44条の2第1項により,当該不動産に「類似する不動産」の登録価格を基礎として被告登記官が認定した価額に100分の40を乗じた金額として算定されることになる。

(298番4の土地と300番1の土地とを合わせた部分の土地,すなわち,甲土地,乙土地,丙土地,丁土地及び戊土地を合わせた部分の土地を以下「分合筆前の土地」という。)

(甲4,甲5,乙1の1ないし3,乙2の1及び2,争いのない事実)

(3)  登記申請書の記載

甲土地に係る登記申請書には,課税の価格を1億1084万1000円及び登録免許税の額を554万2000円と記載され,乙土地及び丙土地に係る登記申請書には,課税の価格を8億7217万2000円及び登録免許税の額を4360万8600円と記載されており,それぞれ当該税額に相当する収入印紙が貼付されていた。

これら本件各登記に係る登記申請書(以下「本件各登記申請書」という。)には,本件各土地に「類似する不動産」として,本件各土地の分合筆前の土地である298番4の土地と300番1の土地が記載され,これらの土地について平成8年9月26日付けで東京都品川都税事務所長が発行した固定資産課税評価証明書が添付されていた。そして,298番4の評価証明書には,「地目,宅地」,「地積,601.28平方メートル」,「価格,30億9635万1480円」と記載され,300番1の土地の評価証明書には,「地目,宅地」,「地積,210.18平方メートル」,「価格,11億424万3680円」と記載されていた。

(弁論の全趣旨)

(4)  被告登記官による課税標準等の計算

被告登記官は,分合筆前の土地の1平方メートル当たりの価格は,前記(3)記載の両土地の価格(30億9635万1480円と11億424万3680円)の合算額42億59万5160円を両土地の面積601.28平方メートルと210.18平方メートルの合計面積811.46平方メートルで除した517万6589円であるとした上,本件各土地の1平方メートル当たりの価額は,分合筆前の土地のそれと同一であると認定し,甲土地の価額は,その面積53.53平方メートルを517万6589円に乗じた2億7710万2809円であり,乙土地及び丙土地の価額の合計は,乙土地及び丙土地の合計面積421.21平方メートルを517万6589円に乗じた21億8043万1052円であると認定した。そして,これらの価額を基に,本件各登記申請に係る課税標準額及び登録免許税額(以下「本件各登録免許税」という。)を以下のとおり計算し,本件各登記申請書の記載がこの計算結果に合致したことから,平成8年10月4日,本件各登記を完了した。

ア 課税標準額

(ア) 甲土地に係る登記申請

2億7710万2809円に100分の40(措置法84条の2)を乗じると,1億1084万1000円(ただし,国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定により,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)となる。

(イ) 乙土地及び丙土地に係る登記申請

21億8043万1052円に100分の40(措置法84条の2)を乗じると,8億7217万2000円(ただし,通則法118条1項の規定により,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)となる。

イ 登録免許税額

(ア) 甲土地に係る登記申請

前記アの(ア)の課税標準の価額1億1084万1000円に1000分の50(法9条別表第一の一(二)のニ)を乗じると,554万2000円となる(ただし,通則法119条1項の規定により,100円未満の端数を切り捨てた後のもの)。

(イ) 乙土地及び丙土地に係る登記申請

前記アの(イ)の課税標準の価額8億7217万2000円に1000分の50(法9条別表第一の一(二)のニ)を乗じると,4360万8600円となる。

(争いのない事実)

(5)  原告による還付通知請求

原告は,甲土地の課税標準額は3019万円が適正であり,これに対する登録免許税額は150万9500円となるとし,また,乙土地及び丙土地の課税標準額は合計2億3756万2000円が適正であり,これに対する登録免許税額は合計1187万8100円となるとして,これら登録免許税額の金額を超える部分については誤納金として還付されるべきであると主張して,法31条2項の規定に基づき,平成9年10月3日付けで,被告登記官に対し還付通知請求をした。

(甲2,甲3)

(6)  被告登記官による通知

これに対し,被告登記官は,本件各登録免許税に係る納付税額は適正であり過誤納の事実はないとして,還付すべき理由がない旨の平成9年12月9日付け通知書を原告あてに同日発出した(本件通知)。

(争いのない事実)

(7)  不服申出の経緯

原告は,本件通知を不服として,平成10年2月5日付けで審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成11年3月25日付けでこれを棄却する旨の裁決をした。

なお,還付通知請求,審査請求,本訴請求において原告が主張した本件各土地の課税標準額及び登録免許税額の金額は,それぞれ別紙1記載のとおりである。

(甲1ないし3及び当裁判所に顕著な事実)

3  争点

(本案前)

(1) 本件通知は取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項。以下「行政処分」という。)に当たるか否か

(2) 本件還付請求に係る訴えは訴えの利益を欠くものであるか否か(本案)

本件各登録免許税額の適否

4  当事者の主張

(1)  争点1(本件通知が取消訴訟の対象となる行政処分に当たるか否か)について

(原告の主張)

ア 登録免許税は,源泉徴収による国税等と同じく,納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であるから(通則法15条3項5号),登録免許税を還付しない旨の通知は,これによって納税すべき税額を確定させるものではなく,行政処分には当たらないものである。

なお,原告は,本件通知を行政処分と捉え,これに対する取消訴訟を提起すべきとの立場もあることにかんがみ,本件取消請求に係る訴えをも提起しているものである。

イ 被告らの主張について

法は,登録免許税の課税標準を「登記又は登録の時における不動産の価額」とのみ規定しているのであって,これを登録価格とするのは,法施行令附則に基づく取扱いにすぎないことにかんがみれば,被告らのように「通則法15条3項により自動確定する登録免許税は,登録価格のある不動産に係るもののみである。」とする解釈を採れないことは明らかである。

(被告らの主張)

ア 登録価格のない不動産の場合には,登録価格のある類似不動産の価格を基礎として登記官が登録免許税額の課税標準たる不動産の価額を認定するものとされている(法施行令附則3項,措置法施行令44条の2第1項)ほか,当該登記の目的となる不動産について増築,改築,損壊,地目の変換その他これらに類する特別の事情があるため,固定資産評価額により計算した金額に相当する価額を課税標準の額とすることを適当でないと認めるときは,課税標準たる不動産の価額は,当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額とすることとされている(法施行令附則4項,措置法施行令44条の2第2項)。さらに,登記等の申請書に記載された登録免許税の課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき,その他当該課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額が登記機関の調査したところと異なるときは,その調査したところにより,登記機関たる登記官が認定した課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額を当該登記を受ける者に通知するものとされている(法26条1項)。

これは,一定の場合,登記機関たる登記官の認定によらなければ課税標準が定まらないことを法が予定しているというべきであり,このような場合には,登記申請者がこれと異なる課税標準の価額を基に税額を計算し,その税額分を納付しても,その額が登記官が認定した登録免許税に不足する場合には「登録免許税ヲ納付セサルトキ」(不動産登記法49条9号)に該当するものとして,当該登記申請は却下されることとなる。したがって,登録免許税の課税標準について登記官の「認定」に任されている場合には,登記官の認定によって,登記申請に当たり,登録免許税として先納付すべき義務という国民(登記申請者)の権利義務の範囲が具体的に決まることになるというべきであり,登記官の課税標準の認定は,正しく公権力の主体たる国が行う行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものということができる。

イ 前記1(3)記載のとおり,登記申請者は,一定の場合に,登記官に対し還付通知請求をすることができる(法31条2項)が,この請求に対する応答として,登記機関が登記申請者に対してする通知,すなわち税務署長に還付通知をすべき理由がない旨の通知(以下「拒否通知」という。)については,法文上明確には規定されていない。しかし,登記機関が,還付通知請求に対する応答として,法31条1項の通知すべき理由があれば所轄税務署長に通知し,その理由がなければ拒否通知をすることは,法が登記申請者に還付通知請求権を認めている当然の帰結といわざるを得ない。そして,還付通知は,あらかじめ登記申請者が納付した税額を登記官が確認することによって生じた過誤納金について還付を受けるための唯一の手段であるから,拒否通知は,これによって,登記申請者に対し,税務署長からの過誤納金の返還を受け得なくするものである。

よって,拒否通知は,行政庁が法律上の根拠に基づいて行うもので,かつ,個人の権利義務に対し具体的な変動を与えるという法律上の効果を伴うものといえるから,行政処分というべきである。なお,拒否通知にこのように処分性を認めることは,前記のように請求者が過誤納金の返還請求を否定されるという直接の不利益を受ける意味においてであるから,登録免許税が自動確定の租税であること(通則法15条2項12号,3項5号)と矛盾するものではない。

(2)  争点2(本件還付請求に係る訴えは訴えの利益を欠くものであるか否か)について

(被告国の主張)

一般に国税に関する処分については,徴税行政の安定及びその円滑な運営の要請等から,審査請求前置主義が採られるとともに,処分に対する不服申立てには申立期間が定められており(通則法77条),また,行政処分一般についても取消訴訟の出訴期間が定められているところ(行政事件訴訟法14条),法31条2項が,還付通知請求の期間を登記を受けた日から1年間と限定していること,登録免許税の還付金には民事法定利息よりも高率である年7.3パーセントの還付加算金が付されること(法31条6項,通則法58条1項)からして,登録免許税に係る過誤納金については,同条2項を契機とした一連の手続,すなわち,まず還付通知請求を行い,これが拒否された場合には審査請求・取消訴訟によって拒否通知の取消しを求めるという手続によってその返還を求めるべきである。

原告は,本件訴訟において,本件取消請求に係る訴えを提起しているから,本件還付請求に係る訴えは,訴えの利益を欠くことが明らかである。

(原告の主張)

被告国の主張によれば,納税者が登録免許税の返還を求めようとする場合に,登録価格のある不動産については,誤納金の還付を請求する訴訟を提起し,登録価格のない不動産については,国税不服審判所長に対して審査請求をした上(通則法115条),拒否通知に対する取消訴訟を提起すべきことになり,同種の訴訟でありながら,納税者の危険において,複数の訴訟手続のいずれかの手続を選択しなければならなくなる。そして,訴えが却下される危険を免れようとすれば,本件の原告のように,常に複数の訴訟を併合して提起せざるを得ないこととなるが,このように複雑かつ不明確な争訟手続の選択を原告に強いるような解釈は,許されないといわなければならない。

(3)  争点3(原告につき,本件各登録免許税に係る誤納金があるか否か)について

(原告の主張)

ア 本件各土地は,本件各登記がされた時点で登録価格のない土地であったから,本件各登録免許税の課税標準たる本件各土地の価額は,本件各土地に類似する不動産で課税台帳に登録された価格のある不動産の価格を基礎として被告登記官が認定した価額となる。

ここにいう「類似する不動産」とは,価額において類似する不動産であると解すべきであり,登録価格は固定資産評価基準及び東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領(以下「取扱要領」という。)によって定められることから,価額における類似性は,評価基準及び取扱要領に基づき判断されなければならない。このように,登記官に課税標準の認定に関する裁量権はなく,価格の類似性を無視した課税標準の認定は違法である。

また,不動産に関する登記は各筆ごとにされるものであるから,法10条1項が規定する「不動産の価額」も各筆ごとに評価されるべきであり,複数の筆の土地を一体として評価することができるのは,評価基準及び取扱要領によってそれが認められている場合に限られるのであって,当該一筆の土地だけでは単独利用が困難であるとして,登記官が筆の異なる土地を一体として評価して価額を決定することは許されないというべきである。単独では利用できない土地については,その分評価減を行うべきであり,他の土地と一体として評価をすべきというのは,本末転倒である。

また,登記官が,近傍類似の不動産の価格から本件各土地の価額を認定するに際しても,登録価格のある土地とない土地とで課税の公平を害することのないよう,評価基準や取扱要領に従い,その価格を修正しなければならない。

イ しかして,本件各土地は,本件各登記がされた時点において,更地であり,利用されておらず,取扱要領により複数の筆の土地を一体として評価すべきとされている例外的場合には当たらないものであった。このように,本件各土地は,登録価格の決定に当たり,一体として評価されないのであるから,本件各登録免許税額の算定に当たっても,本件各土地を一体として評価すべきではない(後述のとおり,評価基準に従って行われた東京都品川都税事務所長による不動産取得税に係る評価においても,各筆ごとの評価がなされた。)。

また,乙土地及び丙土地は,本件各登記申請の当時無道路地であり,甲土地は間口狭小,奥行長大かつ不整形の土地であったから,「当該不動産に類似する不動産」とは,無道路地又は間口狭小,奥行長大,不整形地の各補正を受けて評価され,課税台帳に登録されるべき土地でなければならず,二方路線に沿接した整形地たる分合筆前の土地が本件各土地に「類似する不動産」でないことは明らかである。しかも,正面道路と乙土地及び丙土地との間には高低差があるため,本件各土地上に建てた建物の建築費がその分増加したり,ガス・上下水道等を正面道路から配管することができなかったり,前記建物の全体が正面道路の商況を利用できなかったりすることから,本件各土地について,その全体が正面道路に沿接するものとして評価するのは誤りであり,適正な評価減が行われるべきである。

ところで,本件各土地に係る不動産取得税(課税標準たる不動産の価格は,登録価格又は固定資産評価基準によって決定される価格である。地方税法73条の21第1項,2項)において,東京都品川都税事務所長は,甲土地については,間口狭小補正率0.90と奥行長大補正率0.98を乗じて,乙土地及び丙土地については,0.70の無道路地補正率と0.88の通路開設補正率を乗じて,それぞれ評価されており,本件各土地の登録価格があったとしたならば,間口狭小補正,奥行長大補正,無道路地補正又は通路開設補正等の補正がされた評価をされていたことは明らかというべきである。

以上によれば,被告登記官は,「当該不動産に類似する不動産」(措置法施行令44条の2)の価格を基礎として本件各土地の価額の認定及び本件各登録免許税の税額の算定をしたものとはいえないのみならず,前記の各補正がなされずにされた課税が公平を害することは明らかである。

ウ 登録免許税の課税標準は,「当該登記又は登録の時における不動産等の価額」(法10条1項)であるから,措置法84条の2が規定する「課税台帳に登録された当該不動産の価額を基礎として政令で定める価額」とは,登記申請時点までの地価下落率を考慮した価額でなければならない。

しかして,被告登記官が行った本件各登録免許税の課税標準の認定は,分合筆前の土地の登録価格によっているところ,これは平成6年度の評価替えにおいて課税台帳に登録された価格であり,平成5年1月1日時点までの地価変動のみが考慮された価格である。しかし,本件各土地及びその近隣地域においては,平成5年1月1日から本件各登記申請がされた平成8年10月4日までの間に,地価が70.46パーセントも下落しているのであり,このような地価の下落を全く考慮せずに,平成5年1月1日時点の分合筆前の土地の登録価格を基礎として行われた本件各土地の価額の認定及び本件各登録免許税の税額の算定は違法である。

なお,仮に平成8年10月4日までの地価の下落が考慮されないとしても,固定資産税における不動産の価格は,基準年度の賦課期日における価格でなければならない(地方税法349条1項)から,本件各土地の評価時点である平成5年1月1日から基準年度の賦課期日たる平成6年1月1日までの地価が29.12パーセント下落したことは,考慮されなければならないというべきであり,少なくともこの点において,前記認定は違法であるといわざるを得ない。

エ 被告国の主張ア及びイについて

被告国の主張アの適否をしばらく措いたとしても,前示のとおり,被告の認定行為は合理性のないものであり,違法である。

また,法26条が,「登記機関は,…当該課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額がその調査したところと異なるときは,その調査したところにより認定した課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額を当該登記を受ける者に通知するものとする。」と定め,法施行令附則4項が,「法別表第一の第1号に掲げる登記で不動産の価額を課税標準とするものについて登録免許税を課税する場合において,登記官が当該目的となる不動産について増築,改築,損壊,地目の変換その他これに類する特別の事情があるため前項の規定により計算した金額に相当する価額を課税標準の額とすることを適当でないと認めるときは,同項の規定にかかわらず,法附則7条に規定する政令で定める価額は,同項の規定により計算した金額を基礎とし当該事情を考慮して登記官が認定した価額とする。」と定めているとおり,法及び法施行令は,登記の目的となる不動産について特別の事情があるため課税台帳に登録された価格を基礎とした金額に相当する価額を課税標準の額とすることが適当でない場合は,登記官が当該事情を考慮し,調査を行った上,課税標準たる不動産の価額を認定すべきことを規定しているのである。かかる規定にかんがみれば,法は,権利に対する登記申請についても,登記官が申請書及びその添付書類並びに登記簿以外の資料であってもこれを考慮・調査して,課税標準を定めなければならない場合があることを予定しているのである。

オ 以上を基に,本件各登記申請時の本件各土地の状況及び地価の下落を考慮すると,本件各登録免許税の課税標準及び税額は,次の各金額を上回ることはない。

甲土地につき 課税標準 2640万2000円

税額 132万0100円

乙土地及び丙土地につき 課税標準 1億5849万5000円

税額 792万4700円

合計登録免許税額 924万4800円

したがって,被告国に対して納付した登録免許税額合計4915万0600円と前記合計登録免許税額金924万4800円との差額金3990万5800円が,本件各登録免許税に係る原告の誤納金である。

(被告らの主張)

ア 前記1(1)及び(2)に記載のとおり,登録免許税の課税標準たる不動産の価額を登録価格に基づいて求めることとされているのは,登記の都度,登記官において個々の不動産の価額を評価することは実際的でないばかりか,評価が区々となるおそれがあることなどから,課税の公平・納税者の便宜等を考慮したためであり,登録価格のある不動産は,仮にその登録価格が当該不動産の客観的に適正な時価と一致していなかったとしても,専らその価格によって登録免許税の課税標準を決するものとされていることは規定上明らかである。また,登録価格のない不動産について,類似する不動産の登録価格を基礎としてその価額を認定するものとされているのは,登録価格のある不動産とこれがない不動産の価額の間で不均衡が生じないよう,課税の公平を図るために,あくまで登録価格に依拠してその価額を求め,登録免許税の課税標準を決しようとする趣旨に出たものと解される。したがって,登記官による認定価額は,それが当該不動産に類似する不動産の登録価格を基礎として合理的に算定されたものであれば,登録価格のある場合と同様に,必ずしもそれが当該不動産の客観的に適正な時価と一致していることまで要求されているものではないと解するのが相当である。

イ 不動産登記法は,膨大な数の事件数を迅速に処理するために,いわゆる形式審査主義を採用し,登記申請書とこれに添付されるべき限定された書面及び登記簿のみによって登記申請の適否を判断すべきこととしているのであるから,「類似する不動産」(措置法施行令44条の2)の選定においても,当該登記申請書とその添付書類並びに登記簿,地図及び地積測量図等登記所に備え付けられた資料に基づいて選定することができるにすぎないといえる。

しかして,被告登記官は,登記申請書とその添付書類並びに登記簿,地図及び地積測量図等登記所に備え付けられた資料に基づいて本件各土地に「類似する不動産」の選定をした結果,本件各土地は,南側全部が公道に面している上,すべて原告の所有に帰属する隣接地であることから一体をなしていると認められると判断し,甲土地のみを取り上げて,間口狭小,奥行長大,不整形と認定するのは相当でないことからすれば,本件各土地と分合筆前の土地との間に差異はないこと,分筆の前後において地目の変更はなく,いずれも宅地であること,本件各土地と正面道路との高低差は,分筆によって新たに生じたのではなく,本件各土地は,分合筆前の土地の公道等隣接地との位置関係をそのまま承継したにすぎないこと,分合筆前の土地の登録価格には,当然のこととして本件各土地の評価も含まれていることから,分合筆前の土地が,その位置関係及び形質等において分筆後の本件各土地と「類似する不動産」ではないと判断すべきほどにまで異なっているとはいえないとして,本件各土地に「類似する不動産」として分合筆前の土地を選定したものであり,その選定に合理性がないといえないことは明らかである。

原告は,分合筆前の土地の登録価格を評価基準及び取扱要領に従い補正ないし修正して課税標準を認定すべき旨主張するが,法にはそのような補正に関する規定は存しないのであって,補正ないし修正に係る事情は,当該土地に「類似する不動産」の選定に当たり考慮すべきであるというのが法の趣旨と解すべきである。しかも,原告の主張は,本件各土地の位置関係及び形質が分合筆前の土地と異なることを前提としているが,そもそも本件各土地は一体として評価されるべきであり,そのような評価によれば,本件各土地の位置関係及び形質等は分合筆前の土地と異なるものと認められないことは前示のとおりであるから,原告の主張は失当である。

ウ 原告の主張ウについて

措置法84条の2は,課税標準となる不動産の価額について,「…政令で定める価額によることができる」とする法附則7条とは異なり,登録価格を基礎として「政令で定める価額に100分の40を乗じて計算した金額とする」と一義的に定めているから,措置法施行令44条の2第2項所定の「特別の事情」が存しない限り,登録価格又は当該不動産に類似する不動産の登録価格を基礎として登記官が認定した価額によって定まることになるのである。

しかして,前記「特別の事情」とは,課税台帳に不動産の価格を登録した後,当該不動産自体につき,規定に列挙する事由である損壊,地目の変換その他これに類する事情によって,質的又は量的な形状の変化が生じたために,当該不動産の価額が登録価格により難い程度に変動した場合に限定されるのであって,地価の下落という事情は「特別の事情」には該当しないというべきである。

したがって,被告登記官は,本件各登記申請時までの地価下落率を考慮した価額というような,登録価格以外の価額を基礎として認定した価額を課税標準とすることも,また,登録価格の妥当性について判断する余地もないといわざるを得ない。

エ 以上によれば,本件各登録免許税に係る課税標準及び税額の認定行為は合理的であり,その計算結果は前記2(4)記載のとおりとなるから,原告が本件各登記申請書に記載した課税標準及び税額の計算に誤りはなく,納付された本件各登録免許税に過誤納はない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件通知が取消訴訟の対象となる行政処分に当たるか否か)について

原告は,登録免許税がいわゆる自動確定の国税(通則法15条3項5号)であることを理由に,登録免許税を還付しない旨の通知は行政処分に当たらないと主張する。

確かに,自動確定の国税においては,納付すべき税額は特別の手続を要せずに納税義務の成立と同時に確定するのであるから,納税者において誤納をした場合においても,納付の時点で誤納額は確定し,還付手続について特段の定めがないときには,納税者は直接国に対して誤納金の還付請求権を行使し得ることとなる。しかし,法が,還付手続を円滑に進めることなどの必要から,その手続を定め,その手続によってのみ還付を行うこととしている場合には,誤納をした納税者は当該手続によらなければ還付請求権を行使できないのであり,その手続を定める法令においては,手続の明確化のために,誤納金還付請求権の発生を行政処分に係らせる旨の規定を設けることも可能であると解すべきである。したがって,登録免許税を還付しない旨の通知が行政処分に当たるか否かについては,登録免許税が自動確定の国税であることから当然に結論が導かれるものではなく,当該通知について規定している法31条が,上記のように還付手続についていわば排他的な定めをし,かつ還付請求権の発生を行政処分に係らせる趣旨を含むものか否かによって決せられるべきものである。

そこで,法31条の趣旨について検討するに,法1条は,同法の趣旨として,「この法律は,登録免許税について,課税の範囲,(中略),納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するために必要な事項を定めるものとする」と規定しており,法31条は,法1条にいう還付の手続を定めたものということができるところ,一般に,ある行政事務について手続が法定されているときには,特段の規定がない以上,当該手続に則らなければ当該事務が行われない趣旨というのが通常であり,登録免許税の還付手続のうち,少なくとも過誤納が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに由来する場合については,法31条に定める手続以外の方法によることを想定した規定は見当たらないし,同条2項が還付通知請求の期間を限定していることからすると,登録免許税の還付手続は同条の定める手続によってのみ行うというのが法の趣旨であると解するのが相当である。そして,還付通知請求について定める同条2項の文言をみると,更正の請求に関する通則法23条1項のそれに類似しており,双方の請求期間についての定めは,いずれも,立法当初には原則1月とされていたものが,昭和45年法律第8号によって1年に改められたことなどからすると,立法担当者の意思は,法31条2項の還付通知請求を通則法23条1項の更正の請求と類似の制度とし,請求に対する応答を行政処分とすることにあったものと窺われるところである。しかも,過誤納が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに由来する場合における還付加算金の起算日については,還付通知請求又は還付通知があった日の翌日から起算して1月を経過する日の翌日とされており(通則法58条1項3号,同法施行令24条2項4号),還付通知には還付加算金請求権を発生させる効果が付与されていることが明らかである。

これらのことからすると,法31条は,過誤納が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに由来する場合について,登録免許税の還付手続は同条の定める手続によってのみ行い,しかも還付加算金請求権の発生を還付通知という行政処分に係らせる趣旨とみるのが相当であり,同条2項によって還付通知請求という申請権が法定されているのであるから,その申請を拒否する行為もまた行政処分であると解すべきであって,結局のところ,還付請求権自体も還付通知という行政処分によって発生するというのが法の趣旨であると解するのが相当である。

2  争点2(本件還付請求に係る訴えは訴えの利益を欠くものであるか否か)について

(1)  被告国は,登録免許税に係る過誤納金については,まず還付通知請求を行い,これが拒否された場合には審査請求・取消訴訟によって拒否通知の取消しを求める手続によってその返還を求めるべきである,原告は,本件訴訟において,本件取消請求に係る訴えを提起しているから,本件還付請求に係る訴えは,訴えの利益を欠くことが明らかである旨主張する。

(2)  確かに,還付通知請求に対する拒否通知に行政処分性があるとすると,これを取り消して還付通知がされない限り,還付請求権は発生しないといわざるを得ない。

しかしながら,本件還付請求に係る訴えは,給付訴訟の一種であるから,原告主張の請求権が発生していないとしても,単に請求に理由がないというにとどまり,訴え自体が不適法となるものではない。また,原告は,本件訴訟において本件拒否通知の取消しを求めており,これについて本案の判断がされるならば,これに加えて本件還付請求に係る訴えを提起すべき実質的必要性があるとは認め難いが,両者の訴えはその訴訟物を異にするものであるし,特に後者の訴えは給付訴訟という権利行使の形式として最も直截的な形態を取っているのであるから,これを不適法ということはできない。

したがって,被告国の主張は採用できない。

3  争点3(本件各登録免許税に係る誤納金があるか否か)について

(1)  前記第2の2(2)記載のとおり,本件各土地は,本件各登記申請及び本件各登記がされた時点において,登録価格のない土地であったから,本件各登録免許税に係る課税標準は,本件各登記申請の日において本件各土地に類似する不動産の登録価格を基礎として登記官が認定した価額に100分の40を乗じた金額となる(法施行令附則3項後段,措置法84条の2及び措置法施行令44条の2第1項)。

(2)  証拠(甲1,甲4,甲5,甲7,甲9ないし12,乙1の1ないし3,乙2の1,2,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。この認定を左右するに足りる証拠はない。

ア 分合筆前の土地は,Eが所有していたが,平成6年10月18日,同人の死亡に伴い,A,B,C及びDが本件各土地を相続した。しかし,その旨の登記はしばらくなされず,いついかなる遺産分割が行われたのかは必ずしも明らかではないが,前記第2の2(2)記載のとおり298番4の土地及び300番1の土地の分合筆が行われ,本件各土地が独立の筆となった後の平成8年9月24日になってようやく,Aが甲土地を単独相続し,B,C及びDが乙土地及び丙土地を共同相続する旨の登記がなされた。

イ 原告は,平成8年10月4日,甲土地をAから,乙土地及び丙土地をB,C及びDから,当時本件各土地上にあった建物とともに,合計10億5000万円で購入した。原告は,同日,本件各土地を共同担保として,これらについて,株式会社東京三菱銀行を根抵当権者とする極度額16億円の根抵当権を設定した。

ウ 本件各土地の位置関係及び形状は別紙2記載のとおりであり,前記第2の2(2)記載の分合筆の結果,分合筆前の土地が本件各土地,丁土地及び戊土地に分筆されたのと同様な結果となった。なお,この一連の分合筆の前後を通じて,前記各土地の地目はいずれも宅地であった。

エ 分合筆前の土地は,甲土地,乙土地,戊土地の部分において,南側の正面道路に約20メートルにわたって高低差なく接し,また,北東側の裏面道路に甲土地及び戊土地の部分で9.195メートル接していた。

オ 甲土地は,正面道路に3.016メートル,裏面道路に5.537メートル接する,L字形に近い不整形の土地(面積53.53平方メートル)である。

カ 乙土地は,正面道路に13.405メートル接する台形状の土地(面積241.27平方メートル)であるが,正面道路が西側に向かって高くなっているため,正面道路と高低差なしに接する部分の長さは約5メートル余しかなく,他に公道及び私道には接していない。

キ 丙土地は,正面道路に10.025メートル接する台形状の土地(面積179.94平方メートル)であるが,正面道路が西側に向かって高くなっているため,正面道路と高低差なしに接する部分はなく,正面道路との高低差はすべての地点で2メートル以上ある。他に公道及び私道には接していない。

ク 甲土地及び丙土地は,本件各登記がなされた10日あまり後の平成8年10月16日,乙土地に合筆された。

(3)ア  以上によれば,本件各土地は,一連の分合筆を通じて,一貫してその地目は宅地であり,大局的にみるとEの単独所有から原告の単独所有へと移っているのであって,分合筆前の土地から丁土地及び戊土地を除いたにすぎないと評価し得るものである。ところで,丙土地は正面道路と高低差なしに接する部分はなく,他に公道及び私道に一切接していないから,乙土地内に敷地内通路を設けるか,工事をして正面道路との高低差をなくしたり階段等を設けたりする以外は,乙土地と一体として利用するしかその有効利用法はないのであり,そもそも,乙土地と丙土地を分筆した合理性は乏しいといわざるを得ない。これに加えて,甲土地は狭小で不整形地であって,単独では使用収益しにくい土地であること,乙土地が正面道路と実質的に接している部分の長さは約5メートル余しかなく,同土地からわずか3メートルほどしか離れていないところにある裏面道路への通行を確保することが土地の合理的な利用であると考えられることなどからして,本件各土地の所有者である原告にとって,これらの土地を一体として利用することが合理的であると考えられるし,実際にも,原告にはその意思があったものと推認できる。しかも,現実に,これらの土地を一体として価値を把握して根抵当権を設定していること,原告は本件各土地をその敷地上にあった建物とともに買い受けていること,本件各登記がなされた約10日後には本件各土地は一筆に合筆されていることからして,本件各土地の価額を評価するに当たっては,筆ごとに個別に捉えるのではなく,一体として捉えるのが相当である。

イ  そして,本件各土地と分合筆前の土地とを比較するに,本件各土地は分合筆前の土地から丁土地及び戊土地を除いた中央部分であり,その主たる部分と評価し得ること,本件各土地は,分合筆前の土地と同様,正面道路及び裏面道路に接しており,奥行距離は変わらないこと,正面道路と接する部分の長さは,約50メートルから26.446メートルに減ったが,固定資産評価基準における間口狭小補正の対象とならないこと,正面道路と高低差なしに接する部分の長さは,かなり減少したものの,なお約8メートルあること,裏面道路と接する部分の長さは,9.195メートルから5.537メートルに減ったにすぎないこと,このように接道条件に変化があったのは,その点で最も利用価値が高いと考えられる戊土地(111.27平方メートル)が分筆される一方,その2倍の面積を有し接道の関係では最も条件の悪い丁土地(225.44平方メートル)も分筆されたことによるものであって,本件各土地と正面道路との高低差は,分合筆前からあったもので,分筆によって増大したものではないこと,分合筆前の土地と比べ不整形の程度が増したものとはいえないことからして,分合筆前の土地は,位置関係,立地条件及び形状のいずれの点からみても,本件各土地と価額の均衡が図られている近傍類似の不動産と解するのが相当である。

そうすると,被告登記官が分合筆前の土地を措置法施行令44条の2第1項にいう「当該不動産に類似する不動産」としたことに誤りはないし,上記の諸事情に照らすと,本件各土地の1平方メートル当たりの価額は,分合筆前の土地のそれと同じとみるのが相当である。

ウ  平成8年度における298番4の土地(601.28平方メートル)の登録価格は30億9635万1480円,300番1の土地(210.18平方メートル)の登録価格は11億424万3680円であるから,これらの土地を合わせた分合筆前の土地(合計811.46平方メートル)の価格は42億59万5160円であって,同土地の1平方メートル当たりの価格は517万6589円である。

本件各土地の1平方メートル当たりの価格は,前示のとおり,類似する不動産である分合筆前の土地のそれと同じとみるべきであるから,結局,本件各土地の価格は,1平方メートル当たりの価格である517万6589円に面積を乗じて,

甲土地 2億7710万2809円

乙土地及び丙土地 合計21億8043万1052円

となる。そうすると,本件各登記申請に係る課税標準額及び登録免許税額は,

(ア) 課税標準額

甲土地に係る登記申請 1億1084万1000円

乙土地及び丙土地に係る登記申請 合計8億7217万2000円

(イ) 登録免許税額

甲土地に係る登記申請 554万2000円

乙土地及び丙土地に係る登記申請 合計4360万8600円

となる。

(4)ア(ア) これに対し,①原告は,「類似する不動産」(措置法施行令44条の2第1項)とは,価額において類似する不動産であると解すべきであり,価額における類似性は,評価基準及び取扱要領に基づき判断されなければならない,②不動産に関する登記は各筆ごとにされるものであるから,法10条1項が規定する「不動産の価額」も各筆ごとに評価されるべきであり,複数の筆の土地を一体として評価することができるのは,評価基準及び取扱要領によってそれが認められている場合に限られる,③登記官が近傍類似の不動産の価格から本件各土地の価額を認定するに際しても,登録価格のある土地とない土地とで課税の公平を害することのないよう,評価基準や取扱要領に従い,その価格を修正しなければならないとした上で,④本件各土地は,本件各登記がされた時点において,更地であって利用はされておらず,取扱要領によって複数の筆の土地を一体として評価すべきとされている例外的場合には当たらないものであったから,本件各登録免許税額の算定に当たっても,本件各土地を一体として評価すべきではない,⑤乙土地及び丙土地は,本件各登記申請の当時無道路地であり,甲土地は間口狭小,奥行長大かつ不整形の土地であったから,「当該不動産に類似する不動産」とは,無道路地又は間口狭小,奥行長大,不整形地の各補正を受けて評価され,課税台帳に登録されるべき土地でなければならず,二方路線に沿接した整形地たる分合筆前の土地が本件各土地に「類似する不動産」でないことは明らかである,⑥正面道路と乙土地及び丙土地との間には高低差があるため,本件各土地上に建てた建物の建築費がその分増加したり,ガス・上下水道等を正面道路から配管することができなかったり,前記建物の全体が正面道路の商況を利用できなかったりすることから,本件各土地について,その全体が正面道路に沿接するものとして評価するのは誤りであり,適正な評価減が行われるべきである,⑦本件各土地に係る不動産取得税においては,甲土地については,間口狭小補正率0.90と奥行長大補正率0.98を乗じて,乙土地及び丙土地については,0.70の無道路地補正率と0.88の通路開設補正率を乗じて,それぞれ評価されており,本件各土地の登録価格があったとしたならば,同様の補正がされた評価がされていたはずであるから,登録価格のある土地の評価と比べて課税の公平を害するなどと主張する。

(イ) しかしながら,複数の不動産を一括して登記申請をすることは登記実務上認められており(乙2の2及び弁論の全趣旨),一体として利用されている等特殊の関係にある複数の不動産が一括して登記申請された場合に,これらの不動産を一体として評価してはならないと解すべき理由はないし,同一人が同時に隣接する複数の土地を取得した場合には,それぞれが別個の建物の使用に供されているなど一体として利用されないことが明らかでない限りは,むしろ各土地が一体として利用されるものと推認するのが相当であって,そのような特殊な関係にある複数の不動産が個別に登記申請された場合には,これを一体として評価することが許されると解される。

しかも,前示のとおり,本件各土地は,大局的にみると,一連の分合筆によりEの単独所有から原告の単独所有へと移っており,分合筆前の土地から丁土地及び戊土地を除いたにすぎないと評価し得ること,そもそも,乙土地と丙土地を分筆した合理性は乏しいこと,甲土地は狭小で不整形地であって,単独では使用収益しにくい土地であること,乙土地は正面道路と実質的に接している部分の長さは約5メートル余しかなく,裏面道路への通行を確保することが土地の合理的な利用であると考えられることなどからして,本件各土地を同時に取得した者としては,これらの土地を一体として利用することが合理的であると考えられるし,実際にも,これらの土地を一体として価値を把握して根抵当権を設定していること,原告は本件各土地をその敷地上にあった建物とともに買い受けていること,本件各登記がなされた約10日後には本件各土地は一筆に合筆されていることなどからして,原告にはその意思があったものと推認できるし,仮にそのような意思がなかったとしても,客観的な状況からして一体としての利用が可能である以上,価額の評価に当たっては最も合理的な利用を前提とするのが合理的であることからすると,本件各土地の価額を評価するに当たっては,筆ごとに個別に捉えるのではなく,一体として捉えるのが妥当であるというべきである。

そうであるとすれば,本件各土地を個別に取り出して,補正の必要があるとする原告の前記主張は,その前提において失当であるといわざるを得ない。

実質的に考えても,土地を分筆して複数の不整形地等に分筆した場合に,これらを個別に評価し補正すべきとすると,それによって登録免許税の合計額が異なることがあり得るところであるが,土地の所有及び利用関係に変動がないのにことさらに分筆することによって土地の価額や登録免許税額が異なってくることとなるというのは,極めて不合理であるといわざるを得ない。

原告は,正面道路と乙土地,丙土地との高低差について縷々主張するが,かかる高低差は本件における一連の分合筆の前からあったものであり,分合筆前の土地の評価において既に織り込まれているべきものであるから,本件各土地の価額を分合筆前の土地の登録価格を基礎として評価する以上,さらに何らかの補正をする必要性は見当たらない。

原告は,不動産取得税における評価方法との違い等を引き合いに出して,本件各土地に登録価格があった場合と比較して課税の公平を害する旨主張する。しかしながら,評価基準においても,隣接する2筆以上の宅地について,その形状,利用状況等からみて,これらを合わせる必要がある場合においては,その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とすることを認めており,前記の諸事情に照らすと,本件各土地は評価基準に照らしても一体として評価すべきものと認めるのが相当である。原告は,本件各土地が取扱要領において一体として評価すべきものとして列挙されている各項のいずれにも該当しないと主張するが,取扱要領は評価基準に基づく評価を実施するための要領を示した東京都の内部的な取り決めにすぎないのであるから,これに直接記載がないとしても一体としての評価が許されないものではない。また,不動産取得税においては,登録価格のない不動産につき,固定資産評価基準によって課税標準となるべき価格を決定することとされている(地方税法73条の21第2項)のに対し,登録免許税においては,登録価格のない不動産の価格は,登記の時において類似する不動産の台帳価格を基準として認定することとされている(法施行令附則3項,措置法施行令44条の2第1項)のであって,両者は,法令上算定の方法を異にしているから,本件各土地に係る不動産取得税における評価が本件各登録免許税における本件各土地の価額の評価と異なっているとしても,そのことをもって直ちに課税の公平を害するものということはできないというべきである。原告の前記主張は失当である。

イ(ア)  原告は,登録免許税の課税標準は,「当該登記又は登録の時における不動産等の価額」(法10条1項)であるから,措置法84条の2が規定する「課税台帳に登録された当該不動産の価額を基礎として政令で定める価額」とは,登記申請時点までの地価下落率を考慮した価額でなければならないところ,本件各登録免許税に係る課税標準の認定は,分合筆前の土地の登録価格を基礎として行われており,平成5年1月1日時点までの地価変動のみが考慮された価格である,しかし,本件各土地及びその近隣地域においては,平成5年1月1日から本件各登記申請がされた平成8年10月4日までの間に,地価が70.46パーセントも下落しており,平成5年1月1日から基準年度の賦課期日たる平成6年1月1日だけでも地価が29.12パーセント下落したのであって,このような地価の下落を全く考慮しない本件各土地の価額の認定及び本件各登録免許税の税額の算定は違法である旨主張する。

(イ) しかし,措置法84条の2の趣旨は,登録免許税の課税標準が法10条1項にいう「当該登記又は登録の時における不動産等の価額」と異なることを容認するものであると解すべきであるから,原告の主張は,その前提において誤っているというほかない。

また,実質的にみても,平成6年度の固定資産税(土地)の評価替えに当たり,①自治事務次官が発した通知(平成4年1月22日自治固第3号)により,宅地の評価に当たっては,地価公示法による地価公示価格,国土利用計画法施行令による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格を活用することとし,これらの価格の7割程度を目途とすることとされたこと,及び②自治省税務局資産評価室長が発した通知(平成4年11月26日自治評第28号)により,平成5年1月1日時点における地価の動向も勘案し,地価変動に伴う修正を行うこととされたことから,平成5年1月1日までの地価下落を踏まえた時点修正が行われ,結局のところ,平成6年度の宅地の登録価格は,平成5年1月1日時点における当該土地の価格の約7割として評価されているものと評価することができるのであり,しかも,前示のとおり,措置法84条の2及び措置法施行令44条の2第1項1号により,平成8年4月1日から平成9年3月31日までの間に土地の所有権移転登記等を受ける場合は,原則として登録価格又は認定価額の100分の40が不動産の価額として登録免許税の課税標準となっていることをも併せて考えると,前記期間に宅地の所有権移転登記等を受ける場合の登録免許税の課税標準となる土地の価額は,平成5年1月1日時点における価格の約28パーセントの価格をもって評価されているとみることができるのである。

そうすると,仮に原告の主張するように,本件各土地について,①平成5年1月1日から本件各登記申請がされた平成8年10月4日までの間に,地価が70.46パーセント下落しており,また,②平成5年1月1日から平成6年1月1日までの間に地価が29.12パーセント下落していたとしても,それだけでは,本件各登録免許税に係る課税標準が,それぞれ,平成8年10月4日時点又は平成6年1月1日時点における本件各土地の価格を上回るものとは認められないというべきである。

したがって,原告の前記主張はいずれも失当であるといわざるを得ない。

(5)  以上によれば,本件各登録免許税額は,いずれも本件各登記申請に際して原告が納付した登録免許税の金額と同一であるから,本件各登録免許税に係る誤納金はないというべきである。

第4結論

以上の次第で,本訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 谷口豊 裁判官 篠田賢治)

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