東京地方裁判所 平成11年(行ウ)148号 判決 2000年3月30日
原告 細野俊明
被告 東京都知事
代理人 戸谷博子 飯山義雄 ほか五名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成九年一一月六日付けでした、障害基礎年金支給処分を取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告が被告に対して国民年金法に基づき障害基礎年金の裁定を請求したところ、被告が、受給権発生日を原告の請求の日である平成九年六月一八日として、同年七月から障害基礎年金の支給をする旨の裁定処分をしたため、原告が、障害基礎年金を障害認定日の属する月の翌日(編注・「翌日」は「翌月」の誤りか)に遡及して支給することを認めなかった右の裁定処分は国民年金法(以下「法」という。)及び平成六年一一月九日法律第九五号による国民年金法等の一部を改正する法律(以下「平成六年改正法」という。)附則(以下「平成六年改正附則」という。)に反する違法があるとして、右裁定処分の取消しを求めるものである。
一 関係法令の定め
1 障害厚生年金の支給要件
厚生年金保険法四七条一項は、障害厚生年金について、傷病の初診日に被保険者であった者が、当該初診日から起算して一年六月を経過した日(障害認定日)において、その傷病により同条二項に定める障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に、その障害の程度に応じて、その者に支給する旨規定している。
ただし、国民年金、厚生年金等の改正について定めた国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六〇年法律第三四号、以下「昭和六〇年改正法」という。)附則(以下「昭和六〇年改正法附則」という。)六七条は、障害厚生年金に関し、発病日又は初診日が施行日(同附則一条により、昭和六一年四月一日。)前にある傷病による障害について前記厚生年金保険法四七条一項の規定を適用する場合に必要な経過措置は政令で定める旨規定しており、これを受けた国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令(昭和六一年政令五四号、以下「昭和六一年経過措置政令」という。)七八条一項は、右の施行日前に発した傷病による障害について、厚生年金法四七条一項を適用する場合においては、同項が初診日に被保険者であった者としている部分は、初診日に被保険者であった者で当該初診日が施行日以後にある場合又は施行日前に被保険者であった間に疾病にかかり、又は負傷した者との要件に変えて適用する旨規定している。
2 障害基礎年金の支給要件
法三〇条一項は、障害基礎年金について、傷病の初診日に、「一 被保険者であること」、「二 被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、六〇歳以上六五歳未満であること」のいずれかに該当した者が、当該初診日から起算して一年六月を経過した日(障害認定日)において、その傷病により同条二項に定める障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときに、その者に支給する旨規定している。
ただし、昭和六〇年改正法附則二三条は、発病日又は初診日が施行日前にある傷病による障害について法三〇条一項の規定を適用する場合に必要な経過措置は政令で定めるとし、これを受けた昭和六一年経過措置政令二九条一項は、施行日(編注・「施行日」は「施行日前」の誤りか)に発した傷病による障害について、法三〇条一項を適用する場合においては、同項が傷病の初診日に同項一号又は二号のいずれかに該当した者としている部分は、右のいずれかに該当した者又は初診日(その日が右の施行日前である場合に限る。)が国民年金の被保険者であった者であって当該初診日において六五歳未満であるもの若しくは厚生年金等の被保険者である間に疾病にかかり、若しくは負傷した者との要件に変えて適用する旨規定している。
3 平成六年改正附則六条による障害基礎年金について
平成六年改正附則六条一項は、傷病の初診日(その日が昭和三六年四月一日から昭和六一年三月三一日までの間にあるものに限る。)において、国民年金の被保険者、厚生年金の被保険者等であった者であって、当該傷病による障害について障害基礎年金、障害厚生年金等の受給権を有していたことがない者が、当該傷病により、平成六年改正法の施行日である平成六年一一月九日に法三〇条二項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは、その者は、右施行日から六五歳に達する日の前日までの間に、法三〇条の四第一項に規定する障害基礎年金の支給を請求できる旨規定している。
また、平成六年改正附則六条二項は、同条一項の請求があったときは、法三〇条の四第一項の規定にかかわらず、その請求をした者に同項の障害基礎年金を支給する旨規定している。
二 当事者間に争いのない事実等
1 原告の傷病(精神病。以下「本件傷病」という。)の発病日は、昭和五八年ころであり、原告は右傷病の発生日において、国民年金の被保険者であった。また、原告の傷病の初診日は、昭和六〇年一月二五日であり、原告は当該初診日において、厚生年金保険の被保険者であった。
2 本件傷病の発生日は、右のとおり昭和六〇年改正法の施行日前であるから、厚生年金保険法の障害厚生年金の支給要件の規定の適用に関しては、前記一1記載のとおり、昭和六〇年改正法附則六七条、昭和六一年経過措置政令七八条一項が適用されるところ、原告の初診日は昭和六〇年改正法の施行日前であり、かつ本件傷病の発生日には厚生年金保険の被保険者ではなかったので、原告は、障害厚生年金の支給要件を満たさない。
また、右のとおり本件傷病の初診日は、昭和六〇年改正法の施行日前であるから、国民年金法の障害基礎年金の支給要件の規定の適用に関しては、前記一2記載のとおり、昭和六〇年改正法附則二三条、昭和六一年経過措置政令二九条一項が適用されるところ、原告は初診日において国民年金保険の被保険者ではなく、かつ、傷病の発生日において厚生年金保険法の被保険者等でなかったので、障害基礎年金の支給要件を満たさない。
右のとおり、原告は、その傷病の初診日において厚生年金の被保険者であったが、障害基礎年金、障害厚生年金の受給権がなかったのであるから、前記一3記載のとおり、原告については、平成六年改正附則六条による障害基礎年金の支給の規定が適用されることになる。
3 そこで、原告は、平成九年六月一八日、被告に対し、法による障害基礎年金の裁定請求をした。
4 被告は、平成九年一一月六日、受給権発生日を右請求の日である平成九年六月一八日とし、同年七月から障害基礎年金を支給する旨の裁定処分(以下「本件処分」という。)をした。
5 原告は、本件処分を不服として、平成九年一二月二二日、東京都社会保険審査官に対して、審査請求をした。
東京都社会保険審査官は、平成一〇年四月二七日、右審査請求を却下する決定をした。
6 原告は、右却下決定を不服として、平成一〇年六月二四日、社会保険審査会に対し、再審査請求をした。
社会保険審査会は、平成一一年三月三一日、右再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
三 争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は、障害基礎年金の受給権発生日を原告の裁定請求の日とした本件処分の適法性であり、右争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
1 原告の主張
(一) 年金給付の支給は、「支給すべき事由が生じた日の属する翌月から始める」(法一八条一項)と規定されている。
そして、ここにいう「支給すべき事由」とは、原則として、法三〇条一項の定める要件が満たされたことをいうものであって、請求がされたことではないと解すべきである。なぜなら、法は三〇条の三第三項において、「第一項の障害基礎年金の支給は、第十八条第一項の規定にかかわらず、当該障害基礎年金の請求があった月の翌月から始めるものとする」と特に規定しており、かかる文理からすると、法一八条一項の「支給すべき事由」とは、請求があったことをいうものではないことは明らかだからである。すなわち、障害基礎年金の支給に関しては、法は、客観的な支給要件を満たす事実の発生を支給開始の基準としており、これと異なって請求があったことを支給開始の基準とするような場合には、法三〇条の三第三項のような特別の規定を置いているのである。
被告は、年金給付の支給は、支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始めるものとされている(法一八条一項)ところ、平成六年改正附則六条が適用される場合は、支給すべき事由とは、請求があったことであり、同条は、請求によって、受給権が発生するものとしたものであるから、この場合の障害基礎年金の支給の開始時期は請求があった月の翌月となると主張し、法一八条一項が支給開始時期に関する原則規定であることを前提としながら、「支給すべき事由」とは、場合により支給要件が客観的に満たされたことであったり、請求があったことであったりするという理解をしている。しかし、そうであるならば、法三〇条の三第三項のような規定は不要であるはずであり、同項が存在していることからすれば、法一八条一項の「支給すべき事由」とは、請求があったことではなく、支給要件が客観的に満たされたことをいうものと解すべきである。
(二) また、平成六年改正附則六条二項は、「前項の請求があったときは国民年金法第三十条の四第一項の規定にかかわらず、その請求をした者に同項の障害基礎年金を支給する」と規定している。そして、法三〇条の四第一項は、「疫病にかかり、又は負傷し、その初診日において二十歳未満であった者が、障害認定日以後に二十歳に達したときは二十歳に達した日において、障害認定日が二十歳に達した日後であるときはその障害認定日において、障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは、その者に障害基礎年金を支給する」と規定している。
このように、平成六年改正附則六条二項は、支給の実体的要件に関して「国民年金法第三十条の四第一項の規定にかかわらず」と規定しているにすぎず、支給開始時期については何ら定めていない。
(三) 平成六年改正附則六条は、法が初診主義をとり、厚生年金保険法が発病主義を採用しているために、必然的に救済されない者が出てくることから、救済範囲を広げるために改正されたものである。そして、そもそも障害年金制度は、相互扶助の精神によって、被保険者が障害を被った場合に、当該障害者に損失補償及び生活保障を与えるものであり、このような法の趣旨及び憲法二五条が社会保障を国の責務としていることに照らせば、法律の文言上、解釈が明らかでない場合には、可能な限り広くその適用が認められるように解釈するべきである。特に、平成六年改正附則が救済範囲を広げるために六条を規定したことからすれば、右のような解釈をすべきである。
仮に、平成六年改正法附則六条に基づく障害基礎年金について、その「支給すべき事由」が生じた日が請求の日であるとしか解されないとするならば、右規定は、同じく厚生年金保険等の公的年金制度のもとで保険に加入しながら、立法の不備のため障害認定日や年金の加入時期によって障害基礎年金を受給できる金額に差異が生じる結果を招来するのであって、このような結果をもたらす右規定は、立法の不備を原告のような立場にある者に押しつけるものであって憲法一四条に違反するものというべきである。
(四) 社会保険審査会の裁決において、本件は、事後重症の場合と同様に請求をまって始めて支給されるものとされた。
事後重症とは、障害認定日には障害の程度が軽く障害基礎年金等に該当しない場合でも、その後障害が重くなり六五歳に達する前日までの間に障害年金給付に該当する障害に該当した場合は、本人が請求することによってその請求の翌月分から障害年金が受けられるものである(厚生年金保険法四七条)。
確かに、厚生年金保険法四七条の二第三項においては、「請求があったときには請求をした者に支給する」と規定され、平成六年改正附則六条の規定の仕方と同様である。
しかし、事後重症の場合が本件の場合と内容的に異なるのは、障害認定日にはそもそも支給されるべき程度の障害が生じていないということである。したがって、事後重症の場合には、障害年金が支給されるべき程度の障害が生じたことが客観的に分かるのは本人の請求以降ということにならざるを得ず、遡及して支給するということは起算点が明確にならないために困難である。これに対し、本件の場合は、受給要件の確認をする裁定を請求することが遅れただけであって、障害認定日に年金を支給されるべき障害が生じていたことは医師の診断書で明確である。
したがって、本件について事後重症の場合と同様に考えるべきではない。
2 被告の主張
平成六年改正附則六条一項は、前記一3記載のとおり規定されているが、右規定は、昭和六一年四月一日より前に障害になったが、公的年金制度に加入して保険料拠出を行っていたにもかかわらず当時の支給要件に該当せず、障害年金を受給できなかった者について、現在の支給要件に該当する場合には、特例として、法三〇条の四第一項の障害基礎年金の支給を請求することができることとしたものである。
年金給付の支給は、支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始めるものとされている(法一八条一項)ところ、平成六年改正附則六条が適用される場合は、支給すべき事由とは、「請求があった」ことである。
すなわち、平成六年改正附則六条は、同項に規定する要件を満たす場合に、法三〇条の四第一項の障害基礎年金の支給を「請求することができる。」と規定し、昭和六一年四月一日より前に障害になったが、公的年金制度に加入して保険料拠出を行っていたにもかかわらず当時の支給要件に該当せず、障害年金を受給できなかった者の請求によって、同人の受給権が発生するものとしたものである。
したがって、この場合の障害基礎年金の支給の開始時期は請求があった月の翌月となる。
原告が障害基礎年金の支給を請求したのは、平成九年六月一八日であり、被告は、平成六年改正附則六条を適用して、同年七月から同年金を支給することを決定したものであり、被告の本件処分には何ら違法はない。
第三当裁判所の判断
一 年金の支給については、「これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め」るものとされている(法一八条一項)。そこで、本件においても、いつの時点で「支給すべき事由」が生じたかどうかが問題となる。
昭和六〇年改正法による改正前の厚生年金保険法は、傷病の発生時に厚生年金の被保険者であったことを障害厚生年金の受給権の発生要件としており(四七条)、他方、昭和六〇年改正法による改正前の法は傷病の初診日に国民年金の被保険者であったことを障害基礎年金の受給権の発生要件としていた(三〇条)が、昭和六〇年改正法により、法に基づく障害基礎年金、厚生年金保険法に基づく障害厚生年金のいずれについても、傷病の初診日にそれぞれの被保険者であったことを要件とする旨の法、厚生年金保険法の改正が行われ、障害基礎年金と障害厚生年金の各受給権の発生要件の統一が図られた。しかしながら、前記第二の一1、2記載のとおり、昭和六〇年改正法附則六七条及びこれを受けた昭和六一年経過措置政令は、障害厚生年金に関し、発生日又は初診日が昭和六〇年改正法の施行日前の傷病による障害について、初診日が施行日以後にある場合又は施行日前に被保険者であった間に疾病にかかり、又は負傷した者であることをその支給要件とし、昭和六〇年改正法附則二三条及びこれを受けた昭和六一年経過措置政令は、国民年金の障害基礎年金に関し、発生日又は初診日が六〇年改正前の傷病による障害については、法三〇条一項各号のいずれかに該当した者又は初診日(その日が右の施行日前である場合に限る。)が国民年金の被保険者であった者であって当該初診日において六五歳未満であるもの若しくは厚生年金等の被保険者である間に疾病にかかり、若しくは負傷した者であることを支給要件とする旨の経過規定を置いたことから、発病時には国民年金の被保険者であり、初診日には厚生年金の被保険者であった者は、障害厚生年金、障害基礎年金のいずれの支給要件も満たすことができず、したがって、障害年金を受給できないという不都合が生ずることとなった。そこで、前記第二の一3記載のとおり、平成六年改正附則六条は、かかる場合に法三〇条の四第一項に規定する障害基礎年金の支給を請求することができる旨規定し、右の不都合を解消することとしたものと解される。すなわち、従来、支給要件に該当せず、支給すべき事由が発生しなかった右のような場合について、平成六年改正附則六条は、特例を定めて、障害基礎年金の支給を創設的に認めたものと解される。
したがって、平成六年改正附則六条に基づく障害基礎年金は、同条の定める支給の要件を充足するときに、法一八条一項の「支給すべき事由が発生」したというべきところ、平成六年改正法附則六条一項は、「障害基礎年金の支給を請求することができる。」と、同条二項は、「前項の請求があったときは、…その請求をした者に…障害基礎年金を支給する。」とそれぞれ規定しているのであって、右規定の文言に照らし、また、障害基礎年金の支給について定めた法三〇条一項、三〇条の三第一項、三〇条の四第一項が要件を定めたうえで、「その者に支給する。」と規定して、右要件を満たすことにより受給権が発生するものと定めていることと対比してみれば、平成六年改正法附則六条は、障害基礎年金についてその請求があったこと自体を受給権の発生要件としているものと解するのが相当である。
そうすると、法一八条一項の「支給すべき事由が生じた日」とは、原告の請求があった日であると解すべきであり、平成六年改正附則六条に基づく障害基礎年金の受給権発生日を原告の裁定請求の日とした本件処分は適法なものというべきである。
二 この点、原告は、法三〇条の三第三項が同条一項の障害年金の支給の開始時点を請求があった月の翌月とする旨規定していることを根拠として、法は、請求があったことを支給開始の基準とするような場合には、同条三項のような特別の規定を置いているのであるから、同項のような規定がない場合には、請求時ではなく、客観的に支給要件を満たす事実の発生した時を支払開始の基準とすべきであると主張する。
しかし、同項が特に支給開始時点を規定したのは、同条一項が支給要件を定めたうえで、「その者に支給する。」と規定し、同項の障害基礎年金の支給の要件には請求することが含まれないため、支給開始時点を請求があった月の翌月とするについては、その旨特別の規定を置く必要があったものであると解される。しかるに、平成六年改正附則六条の場合には、既に説示したとおり、そもそも、請求をしたことが障害基礎年金の支給の要件となり、請求をした日が当然に法一八条一項の「支給をすべき事由が発生した日」となるのであるから、かかる特別の規定を置く必要はそもそもないものであると解される。
したがって、原告の右主張は採用できない。
三 また、原告は、平成六年改正附則六条二項は、支給の実体的要件に関して「国民年金法第三十条の四第一項の規定にかかわらず」と規定しているにすぎず、支給開始時期については何ら定めていないのであるから、同条の障害基礎年金の支給について、請求時を支給開始の基準とするのは違法である旨主張する。
しかし、既に説示したとおり、同条の障害基礎年金においては、請求があったこと自体が支給の要件とされており、請求があったことを含む同条の要件が満たされることが法一八条一項の「支給すべき事由」に該当し、支給開始の基準となるのであるから、原告の右の主張は、失当である。
四 さらに、原告は、法の趣旨及び憲法二五条に照らせば、法律の文言上、解釈が明らかでない場合には、可能な限り広く適用が認められるように解釈すべきである旨主張するが、平成六年改正附則六条による障害基礎年金については、請求があったこと自体が支給のための要件とされていると解されるから、原告の右主張は採用することができない。
原告は、仮に、平成六年改正法附則六条に基づく障害基礎年金について、その「支給すべき事由」が生じた日が請求の日であるとしか解されないとするならば、右規定は、同じく厚生年金保険等の公的年金制度のもとで保険に加入しながら、立法の不備のため障害認定日や年金の加入時期の違いによって障害基礎年金を受給できる金額に差異が生じる結果を招来するのであって、このような結果をもたらす右規定は憲法一四条に違反するものというべきである旨主張する。
昭和六〇年改正法が、傷病の発生日又は初診日が同改正法の施行日前の傷病による障害年金の支給について、前記第二の一1、2記載の経過措置を置いたことから、傷病の発生時には国民年金の被保険者であり、初診日には厚生年金保険の被保険者であった者は、障害厚生年金、障害基礎年金のいずれの支給要件も満たすことができず、したがって、公的年金制度のもとで保険に加入していながら、障害年金を受給できないという不都合が生じていたのであるが、右のような各公的年金制度の仕組みの相違により障害年金の受給権の有無が左右されることは、好ましいとはいえないものの、それ自体不合理な差別ということはできず憲法一四条違反の問題を生じないものである。したがって、平成六年改正法が、右の不都合を是正すべく従来障害年金を受給できなかった右の者らに対し障害基礎年金を支給する旨の規定を創設するに当たり、その開始時期をどのように定めるかは立法政策にかかわる事柄であるというべきであり、同改正法附則六条の適用を受ける者とその適用を受けることなく国民年金法等により当然に障害年金を受給できる者との間で、障害基礎年金を受給できる金額に差異が生じても、これをもって不合理な差別ということはできず憲法一四条違反の問題は生じないものといわなければならない。
五 以上のとおり、平成六年改正附則六条に基づく障害基礎年金の受給権発生日を原告の裁定請求の日とした本件処分は適法なものというべきである。
第四結論
よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 青柳馨 谷口豊 加藤聡)