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東京地方裁判所 平成11年(行ウ)182号 判決 2001年5月25日

主文

1  被告が,原告に対し,平成10年1月27日付けでした相続税の決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が,原告に対し,平成10年1月27日付けでした相続税の決定処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,Aの死後,原告がAの子であることを認知する裁判が確定したことから,原告が,民法910条に基づき,他の相続人から価額の支払を受けたところ,被告が,Aの死亡により開始した相続に係る原告の相続税に関し,相続税法(平成10年法律第83号による改正前のもの。以下「法」という。)35条3項に基づいて,原告に対し相続税の決定処分をしたため,原告が,これを不服としてその取消しを求めているものである。

1  法令の定め

(1)  法によれば,相続税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は,法32条各号に掲げる事由のいずれかに該当することにより当該申告又は決定に係る課税価格又は相続税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があった場合には,当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額)が過大となったときは,当該各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り,納税地の所轄税務署長に対し,その課税価格及び相続税額につき国税通則法(以下「通則法」という。)23条1項の規定による更正の請求をすることができるとされているところ(法32条),法32条2号には,「民法787条又は892条から894条までの規定による認知,相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定,同法884条に規定する相続の回復,同法919条2項の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと」と規定されている。

(2)  法によれば,税務署長は,法32条1号から4号までの規定による更正の請求に基づき更正をした場合において,当該請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者につき,次に掲げる事由があるときは,当該事由に基づき,その者に係る課税価格又は相続税額を更正し,又は決定することとされているが,当該請求があった日から1年を経過した日と通則法70条の規定により更正又は決定をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においては,更正又は決定をすることができないとされている(法35条3項)。

ア 更正の請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者が法27条若しくは29条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及び修正申告書を含む。)を提出し,又は相続税について決定を受けた者である場合において,当該申告又は決定に係る課税価格又は相続税額(当該申告又は決定があった後修正申告書の提出又は更正があった場合には,当該修正申告又は更正に係る課税価格又は相続税額)が当該請求に基づく更正の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなること。(法35条3項1号)

イ 当該他の者が前記アに規定する者以外の者である場合において,その者につき前記アに規定する事実を基礎としてその課税価格及び相続税額を計算することにより,その者が新たに相続税を納付すべきこととなること。(法35条3項2号)

(3)  子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,父又は母の死亡の日から3年以内に限り,認知の訴えを提起することができ(民法787条),認知は,出生の時に遡ってその効力を生ずるが,第三者が既に取得した権利を害することはできない(同法784条)。

そして,相続の開始後認知によって相続人となったものが遺産の分割を請求しようとした場合において,他の共同相続人が既に分割その他の処分をしたときは,価額のみによる支払の請求権を有するものとされている(同法910条)。

2  前提となる事実等(証拠等を掲記した以外の事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  Aは,昭和63年9月18日,死亡した(以下,Aの死亡により開始した相続を「本件相続」という。)。

(2)  Aの子であるB,D及びC(以下「B及びDとまとめて「Bら」という。)は,平成元年2月28日,Aの相続財産につき遺産分割を行い,分割した各遺産を取得した。

そして,Bらは,同年3月29日,被告に対し,本件相続に係る相続税について,その旨の申告をした。

(3)  原告は,平成元年12月25日,東京地方裁判所平成元年タ第332号死後認知請求事件において,Aの子であることを認知する旨の判決(以下「本件認知判決」という。)の言渡しを受け,同判決は,平成2年1月9日の経過により,確定した。

(4)  原告は,Bらに対し,民法910条に基づき,遺産分割に代わる価額の支払を求める訴え(この訴えに係る請求を以下「本件価額請求」という。)を当庁に提起したところ,Bらは,平成7年7月18日付けで前記判決確定の事実を認める旨の答弁書を提出し(弁論の全趣旨),平成8年11月26日,Bらが各自原告に対し金1585万1399円及び遅延損害金を支払うよう命じる判決(以下「本件価額支払判決」という。)がされた。

(5)  B及びDは,平成9年2月24日,原告に対し,本件価額支払判決による元利金の合計金額全額として,1666万6668円を,Cは,同日,同様に1666万6666円を,それぞれ原告に対して支払った(このように原告の受領額の合計は5000万0002円であり,実際上,その時点における元利金の合計額5270万6969円を下回るものであった。以下,この支払を「本件支払」という。)。(甲5の1ないし3,弁論の全趣旨)

(6)  Bらは,平成9年3月21日,被告に対し,本件支払により前記(2)記載の申告に係る相続税額が過大となったとして,法32条2号に基づき,更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

被告は,同年6月3日,本件更正の請求に基づき,本件相続に係るBらの相続税について,減額の更正をした。(甲7,9)

(7)  被告は,平成10年1月27日付けで,原告に対し,法35条3項に基づき,本件相続に係る原告の相続税について,課税価格を4755万4000円,納付すべき税額を1810万1900円とする決定処分(以下「本件決定」という。)をした。

(8)  原告は,平成10年3月26日,被告に対し,本件決定を不服として,異議申立てをしたが,被告は,同年6月24日付けで,上記異議申立てを棄却する旨の決定をした。

(9)  原告は,平成10年7月23日,国税不服審判所長に対し,前記(8)記載の決定を経た後の本件決定を不服として,審査請求をしたが,同所長は,平成11年5月24日付けで,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。

(10)  原告は,平成11年8月16日,当庁に対し,本件決定の取消しを求める本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)

3  被告が主張する本件決定の根拠

被告が本訴において主張する原告の相続税の課税価格及び納付すべき相続税額は,別表1の「課税価格等の計算明細表」及び別表2の「税額算出表」記載のとおりである。

4  争点

本件の争点は,本件決定がその前提としているBらの更正の請求が法32条所定の期間内にされたものか否かが主たる争点である。

5  当事者の主張

(被告の主張)

(1) 相続税の申告又は決定の時において相続人とされていた者が後発的な事由により相続人でなかったこととなった場合,又は,相続人とされていなかった者が後に相続人とされる場合など,申告又は決定の時以後に相続人に異動を生じる場合がある。この場合には,各相続人等の相続又は遺贈による取得財産の内容に異動が生じることがあり,また,法15条1項に定める遺産に係る基礎控除額が異なることになるため,既に確定した相続税額に異動が生じることになる。

そこで,課税価格及び相続税額が過大となった者については,法32条による更正の請求に基づいて更正を行う一方で,同条に規定する更正の請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者に対する更正又は決定が,更正又は決定の除斥期間を経過しているためにできないこととすると,相続税の総額の一部が課税されない結果となり,法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式(同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額を被相続人の法定相続人が民法900条及び901条に規定する相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に累進税率を適用して算出した金額の合計額を相続税の総額とし,その相続税の総額を相続又は遺贈により財産を取得した者の課税価格に応じてあん分した金額を相続税として課税する方式をいう。法11条以下)を導入した趣旨,すなわち,相続財産の取得者の担税力に照応した合理的な課税をすることにより税負担の公平を期することとする趣旨に反することになる。そのため,法35条3項は,相続人等の間において相続財産の異動に関する法32条1号ないし4号までの事由が発生し,これらの事由に基づく更正の請求に基づき更正をした場合には,同一の被相続人から財産を相続又は遺贈により取得した者相互間の税負担の公平を図るため,法35条3項ただし書に規定する日の前日までは更正の請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者に対する更正又は決定をすることができるとしているのである。

この場合において,「民法787条の規定による認知により相続人に異動を生じたこと」による更正の請求(法32条2号)は,(2)に述べる理由から,認知判決が確定し民法910条に規定する価額請求権を有することとなったときだけではなく,被認知者と他の共同相続人との間で民法910条に規定する価額金(以下単に「価額金」という。)の支払が確定したとき,すなわち,価額金の支払額が具体的に確定したときにおいても,その翌日から4か月以内にすることができると解すべきであり,被認知者は,法30条の規定による相続税の期限後申告書又は法31条1項の規定による相続税の修正申告書を提出することができ,課税庁は法35条3項の規定に基づき更正又は決定をすることができると解すべきである。

(2) 法における課税の原則

ア 相続税は,人の死亡によって財産が移転するのを機会にその財産に対して課される租税であるところ,法は,各共同相続人が現実に取得した財産の価額に応じて相続税を課することを課税の原則としている(法11条,11条の2第1号参照)。

したがって,遺言がある場合には,各受遺者が遺言により現実に取得した相続財産に対し,また,遺言がない場合には,各相続人が遺産分割協議により取得した相続財産に対し相続税が課されるのが原則である。

イ 現実に取得した財産の価格に応じて相続税を課するという相続税の課税の原則に照らせば,認知判決の確定前において,被認知者を除く他の共同相続人が既に遺産分割協議を成立させて現実に各共同相続人が相続財産を取得している場合において,被認知者から民法910条に基づく価額の請求を受けた他の共同相続人が法32条2号の事由が生じたことにより更正の請求ができることとなる時期は,他の共同相続人が被認知者に対して現実に支払うべき価額金の額が確定した時,すなわち,被認知者が支払を受ける価額金の額が確定した時と解すべきである。

(3) 認知判決の確定時に価額請求権に基づき更正の請求を行う場合の不合理性認知判決が確定したことにより,被認知者は相続分に相当する価額を他の共同相続人に対して請求することができ,他の共同相続人は被認知者に対し相続分に相当する価額金の支払義務が生じることとなるが,仮にこの時点で,価額金相当額について,法32条2号の事由が生じたとして更正の請求を行い,その後,価額金の支払に関する訴えについての判決が確定したときに別途通則法23条2項1号による更正の請求を行うことができるとした場合には,以下に述べるとおり,相続税の課税漏れが生じるなど不合理な結果を招くこととなる。

ア 第1に,本件の場合において,仮に認知判決の確定した時に更正の請求をしその請求に基づいて他の共同相続人から被認知者へ相続税の課税替えをしたとすると,次のとおり,最終的に他の共同相続人から被認知者に対し支払う価額金の額と被認知者の法定相続分に相当する金額との差額に係る相続税の課税漏れが生じることになる。

まず,原告は,本件認知判決の確定により相続人の地位を取得したことから,原告に法定相続分(4分の1)に相当する価額金の請求権が発生し,Bらはそれぞれ6308万7821円の価額金の支払義務が確定したとして更正の請求を行うことになる。この更正の請求に対して,被告は,Bらの課税価格及び相続税額を減額する更正を行う一方,原告は価額金の請求権を取得したことになるから,法30条又は法31条1項の規定に基づき相続税の期限後申告書又は修正申告書を提出するか又は原告から申告書の提出がない場合には,法35条3項の規定により決定又は更正が行われることになる。

その後,本件価額支払判決の確定により,原告はBらからそれぞれ1585万1399円,総額4755万4199円を取得することが確定している(価額金の額が法定相続分に相当する金額よりも減少したのは,債務及び葬式費用の額681万7043円が相続財産価額から控除されたこと及び原告がAから生前贈与を受けた1億8657万3338円が特別受益と認定されたためである。)。

そこで,原告は,価額金請求事件の判決確定によりBらから受け取る価額金の額が法定相続分に相当する金額よりも減少することから,通則法23条2項1号の事由に当たることを理由として更正の請求を行うことにより,前述の申告又は更正決定により確定している相続税額の減額を求めることができる。これに連動して,Bらの課税価格が増加することとなるが,Bらの法定申告期限が平成元年3月30日(昭和63年法律第109号附則34条)であることから,被告がBらに対し更正をすることができるのは平成4年3月30日まで(通則法70条1項)であり,Bらに対し増額の更正をすることができるとする何らの規定もないことから,課税漏れが生じることとなるのである。

イ 第2に,通則法23条2項1号に規定する「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)」によらないで価額金の額が確定した場合,例えば,当事者間の話合いによる解決があった場合には,同号による更正の請求を求めることができないことになるが,そうすると,他の共同相続人にとっては,当事者間での話合いによる解決の場合には更正の請求はできないが,判決による解決の場合には更正の請求が可能となり,相続により取得した財産において何ら変わるところがないのにもかかわらず当事者間の解決の方法の違いにより課税額が異なることとなり,取得した財産に応じた課税という相続税の課税の原則にかんがみ不合理といわざるを得ない。

ウ 第3に,認知判決の確定のときに他の共同相続人の更正の請求を認め,被認知者に対する課税替えを行うことができるとすれば,認知判決の確定時点では現実には何ら財産を取得せず将来における価額金の取得見込額さえも明らかでない被認知者に対し課税を行うこととなり,担税力の全くないところに課税が行われるという被認知者にとっては非常に酷な結果となる。これを他の共同相続人について見ると,認知判決の確定時には,他の共同相続人は被認知者に対し価額金を支払うのかどうかも明らかではかく,したがって,未だ価額金の額さえも確定していないのにもかかわらず,更正の請求により相続税の減額が受けられることになり,被認知者及び他の共同相続人のいずれにとっても担税力に照応した課税という課税の原則にかんがみ不合理である。

確かに,認知判決が確定した時に価額請求権は発生すると解されるが,認知判決の確定した時点の価額請求権は,被認知者が法定相続分まで請求できることが抽象的に確定しているだけにすぎないもの(本件の場合,特別受益について当事者間に争いがあり,判決によらなければ特別受益の額,したがって被認知者に支払われる価額金の額を確定させることは不可能であった。)であって,被認知者と他の共同相続人との間で価額金の額に争いがあれば,具体的に支払われる価額金の額は確定しないのであるから,認知判決の確定の時点で価額請求権に基づき更正の請求をすることができると解することは不合理である。

エ 第4に,仮に,他の共同相続人間における当初の遺産分割協議において他の共同相続人の1人が全く相続財産を相続していなかったり被認知者に対して負担すべき価額金の額を下回る相続財産しか取得していない場合を考えると,相続財産の取得の有無にかかわらず,他の共同相続人は,互いに他の共同相続人とともに価額金の支払義務を負うと解されるから,これらの場合には,財産を全く取得していない共同相続人の負担すべき額に相当する金額だけ又はその共同相続人の負担すべき価額金の額と実際に取得した相続財産の価額の差額分だけ,被認知者の課税価格に算入された金額(価額金の全額)と他の共同相続人の課税価格から減額される額の合計額が一致しないこととなり,法定相続分による遺産取得者課税方式を採用している法の趣旨に照らし不合理である。

(4) 法における更正の請求の規定の変遷

(以下,各年に施行されている個別の相続税法については,「昭和25年相続税法」等といい,昭和25年から通則法が制定された昭和37年までの間に施行されていた相続税法を総称して「旧相続税法」といい,また,通則法の制定以後施行された相続税法を総称して「現行相続税法」という。)及び通則法(各年に施行されている個別の通則法を以下「昭和37年の通則法」等といい,昭和37年から昭和45年までの間に施行されていた通則法を総称して「旧通則法」,旧通則法の改正が行われた昭和45年以後施行された通則法を総称して「現行通則法」という。)

ア 旧相続税法における更正の請求の規定

旧相続税法における更正の請求は,昭和25年の税制改正により,現行通則法23条1項に相当する規定(申告の内容に計算誤り等があった場合の通常の更正の請求)が旧相続税法32条1項に規定され,現行相続税法32条1号ないし3号の規定が旧相続税法32条2項に規定されていた。

なお,昭和25年相続税法32条1項及び2項の規定は,次のとおりとなっていた。

ア 昭和25年相続税法32条1項

「期限内申告書又は当該申告書に係る修正申告書を提出した者は,当該申告に係る課税価格若しくは相続税額又は当該修正申告に因り増加した課税価格若しくは相続税額が過大であることを知ったときは,当該申告書の提出期限又は当該修正申告書を提出した日から1月以内に限り,当該申告書又は修正申告書を提出した税務署長に対し,その課税価格又は相続税額につき…更正をすべき旨の請求をすることができる」。

(イ) 昭和25年相続税法32条2項

「申告書を提出した者又は…決定を受けた者は,左の各号の一に該当する事由に因り当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは,当該各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り,当該申告書を提出した税務署長又は当該決定をした税務署長に対し,その課税価格及び相続税額につき…更正をすべき旨の請求をすることができる」

① 55条の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合において当該財産の分割が当該相続分又は包括遺贈の割合に従ってなされなかったこと。

② 民法787条等の規定による認知等に因り相続人に異動を生じたこと。

③ 遺留分の減殺の請求があったこと。

イ 通則法の制定(通常の更正の請求の規定の制定)

昭和37年に制定された通則法(昭和37年法律第66号)により,各税に共通する更正の請求の事由(通常の更正の請求の事由)は,同法23条(以下「旧通則法23条」という。)に規定されることになり,これに伴い,昭和25年相続税法32条1項は削除され,同条2項は現行相続税法32条となった。

なお,旧通則法23条1項は,「納税申告書を提出した者は,次の各号の1に該当する場合には,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1月以内に限り,税務署長に対し,その申告に係る課税標準等又は税額等につき…更正をすべき旨の請求をすることができる」と規定し,その1号に,「当該申告書に記載された課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき」と規定していた。

ウ 旧通則法23条の改正(後発的事由による更正の請求の追加)

昭和45年の通則法の改正(昭和45年法律第8号)により,旧通則法23条1項の更正の請求ができる期間が1月以内から1年以内とされ,また,いわゆる後発的事由に基づく更正の請求が追加され,現行通則法23条2項が規定された。

なお,昭和45年の通則法23条2項は,「納税申告書を提出した者又は…決定を受けた者は,次の各号に該当する場合には,…当該各号に掲げる期間において,その該当することを理由として…更正の請求をすることができる」と規定し,その1号においては,「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なること が確定したとき」は,「その確定した日の翌日から起算して2月以内」に更正の請求ができると規定している。

エ 以上述べたところによれば,仮に認知判決の確定のときに法32条2号の事由による更正の請求を行い,その後に価額金の支払に関する訴えについての判決が確定したときに現行通則法23条2項1号の事由による更正の請求ができると解すると,現行通則法23条2項が制定されていなかった昭和25年から44年までの間は,価額金の支払に関する訴えについての判決が確定し,被認知者の価額金の実際の取得額(他の共同相続人の価額金の実際の支払額)と認知判決の確定時に更正の請求に基づき確定されている金額に相違があったとしてもこれを是正することはできなかったこととなる。

また,昭和44年以前においては,相続税に関する後発的事由に基づく更正の請求は相続税法に規定されていたのであり,昭和25年相続税法の当時から現在まで法32条2号による事由が相続税法32条に規定され,認知により相続人に異動を生じたことにより相続税の課税価格及び相続税額が過大となったときに更正の請求をすることができるとの規定が設けられ,この規定の趣旨が民法910条の価額のみによる支払の請求権によって財産の分割がなされた場合のことであるとすれば,認知による価額金の支払事由の発生による更正の請求は法32条2号による更正の請求であると解すべきであって,更正の請求をすることができる時期は,被認知者と他の共同相続人の間で価額金の額が具体的に確定したときと解すべきである。また,このように解釈すれば,前記(3)で述べた不合理な点も全て解消されることからもこのような解釈は優に合理的であるというべきである。

(5) 本件決定の適法性について

ア 前記(2)で述べたとおり,法32条2号には,認知の確定により相続人の数に異動を生じたことのほか,価額金の支払額が具体的に確定したことをも含むと解すべきところ,Bらは,原告に支払うべき価額金の額が具体的に確定したことにより課税価格及び相続税額が過大となったことから法32条2号による更正の請求を行ったものであり,当該更正の請求は法32条2号に基づく適法なものであるから,被告がBらの更正の請求に基づき更正をしたことに伴い,原告に対し法35条3項の規定を適用して行った本件決定も適法である。

イ 前示のとおり,法35条3項によれば,同項に定める更正又は決定は,法32条による更正の請求があった日から1年を経過した日と通則法70条の規定により決定をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においては,決定をすることができないとされている。

しかして,他の相続人から被告に対して更正の請求があったのは平成9年3月21日,当該請求のあった日から1年を経過した日は,平成10年3月22日であり,他方,通則法70条の規定により決定をすることができないこととなる日は,相続税の法定申告期限から5年を経過した日であり,相続税の法定申告期限は,相続の開始があったことを知った日の翌日から6か月以内(相続税法27条(平成4年法律16号による改正前のもの。))であるところ,原告は,認知に関する裁判の確定により相続人となった者であるので,相続の開始があったことを知った日は,認知に関する裁判の確定を知った日,つまり平成2年1月9日であるから,通則法70条の規定により決定をすることができないこととなる日は,平成7年7月10日である。

そうすると,本件決定は,前記のうち,いずれか遅い日である平成10年3月22日より前に行われていることから,本件決定は適法である。

ウ 被告が本訴において主張する原告の納付すべき相続税額は,別表1記載のとおり,1826万1600円であるところ,本件決定における原告の納付すべき相続税額(1810万1900円)は,この金額の範囲内であるから,本件決定は適法である。

(原告の主張)

(1) 現行の法が採用する法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式の下では,他の共同相続人が遺産分割協議を終了している場合に認知判決の確定があると,共同相続人の数に異動が発生し,民法910条に規定する価額金を他の共同相続人に請求するか否かにかかわらず,従来の共同相続人各自の法定相続分に応ずる取得金額及び相続税額に異動が生ずることになる。

したがって,他の共同相続人は,認知の判決が確定し同人らの法定相続分に応ずる取得金額及び相続税額が過大となったのであるから,法32条2号の規定により,認知判決の確定を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をしなければならない。

(2) 法32条2号の解釈について

被告は,認知判決が確定し民法910条に規定する価額請求権を有することとなったときだけではなく,被認知者と他の共同相続人との間で価額金の支払が確定したとき,すなわち,価額金の支払額が具体的に確定したときにすることができる旨主張するが,このような解釈は妥当でなく,価額金の支払が確定したときには,通則法23条2項1号の事由による更正の請求をすることができるにすぎないものである。その理由は以下のとおりである。

ア 法32条が掲げる事由は,いずれも相続人の異動を生ずる場合についての規定であるところ,相続人の数に異動が生じたときは,遺産に係る基礎控除額(法15条)も変化することから,法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式を取り入れた現行の相続税制度において,それ自体として,独自の意義を有しているのである。

しかるに,被認知者と他の共同相続人との間で価額金の支払が確定したときは,相続人の異動を生じる場合ではない。

イ 税法は侵害規範(国民に負担を求める規範)の代表的なものであり,法的安定性の要請が強く働くから,税法の解釈,特に租税実体法の解釈は一般的にいって法文から離れた自由な解釈は許されていない。特に,法32条2号は,民法における用語(概念)が用いられている(以下「借用概念」という。)規定であるところ,借用概念について,税法独自の解釈を認めることになると,納税者の経済生活における予測と安定性を阻害することになるから,これについては,他の法分野におけるのと同じ意義で用いていると解すべきである。

民法787条による認知の意義は民法においてその概念は確定しており,法32条2号に民法910条を含めて解すべき別段の規定がない以上,被告主張のように解することは,租税法律主義と法的安全性を阻害し,課税要件明確主義に反するものであって,許されない拡張解釈というべきである。

ウ 法32条3号は,「遺留分による減殺の請求があったこと」と規定し,遺留分による減殺請求権の発生ではなく,具体的にその行使があった場合を規定しており,遺留分減殺請求権の発生と行使とを明確に区分している。

法32条2号は,民法787条の規定による認知により相続人に異動を生じ,それに伴い価額請求権を有することとなったことまでを規定しているのであり,価額請求権の行使があったことまでを含めることは拡張解釈であって,許されないものである。

(3) しかして,Bらは,遅くとも,本件価額請求に対し,同人らが答弁書を提出して本件認知判決の確定の事実を認めた平成7年7月18日までに,本件認知判決の確定を知ったのであるから,その翌日から4か月以内である平成7年11月18日までに,法32条2号により,更正の請求をすることができたのである。しかるに,Bらは,上記期間内に更正の請求を行わず,平成9年3月21日になってようやく請求をしたものであり,これは,請求期限を徒過した不適法な請求であった。

なお,Bらは,本件価額支払判決が確定したことにより,同判決確定の日の翌日から起算して2か月以内に,通則法23条2項1号の規定により更正の請求をすることができるが,Bらは,かかる期間経過後に更正の請求を行ったのであり,いずれにせよ,更正の請求の期限を徒過したものであるから,かかる請求を基礎として,原告に対し行った本件決定は違法なものである。

第3当裁判所の判断

1  相続税又は贈与税については,通則法に定める事由に該当しない場合,すなわち,課税価格又は相続税額若しくは贈与税額が法の規定に従って計算されている場合や,通則法の定める一般的な後発事由にも該当しない場合であっても,相続,遺贈又は贈与により財産を取得した者から請求があったときには,それらの者の間の負担の公平を図るため,課税価格又は税額を更正すべきであると考えられる場合がある。そこで,法は,32条において,そのような趣旨から相続税法特有のいわゆる後発的更正の請求の事由を定めている。

法32条2号は,「民法787条又は892条から894条までの規定による認知,相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定,同法884条に規定する相続の回復,同法919条2項の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと」と規定しているところ,これは,列挙されたような各事由が生じて相続人に異動が生じた場合には,各相続人の取得する相続財産に異動が生じ,また,基礎控除額(法15条)が異なることとなって,先に確定した相続税額に異動が生ずることになるから,これを理由として更正の請求をすることを認めたものである。

2  このうち,民法787条による認知の訴えの判決が確定した場合において,それ以前に他の共同相続人間で遺産分割がされていたときには,その時点で認知の判決確定によって新たに相続人となった者には,他の共同相続人に対して,その具体的相続分に相当する価額支払請求権が生じ,他の共同相続人には,これに対応した支払義務が期限の定めのない債務として生ずることとなる(民法910条)。この請求権及び支払義務の内容については,必ずしも解釈の確定していない部分があるため,現実問題としては,訴訟においてこの請求権を行使した結果がいかなるものとなるかが予測困難な場合もないではないが,法解釈は本来一義的にされるべきものであるから,理論的には現在解釈の確定していない部分についても,本来あるべき解釈は一義的に定まるべきものであり,それに応じて請求権の内容も一義的に定まるべきものである。また,現在の通説的見解によると,新たに相続人となった者が請求し得る価額は請求時の時価を基準として算出することとされているから,請求の時期によって請求し得る額が変動することとなり,請求権の内容が確定していないかのように見えないでもないが,時点さえ特定すれば,その時点における請求権の内容は常に一義的に特定し得るものであるから,被認知者はその当日における請求権の内容を確定させて具体的金額を請求することが可能であり,他の共同相続人は,新たな相続人からの支払請求を待つまでもなく,例えば認知の裁判の確定した日においても,その時点における自己の支払義務の内容を算出し,その金額を提供し,その受領を拒まれたときは,これを供託することにより価額支払義務を免れることができるのである。しかも,価額支払請求権の内容は,このように変動するものではあるが,それは相続財産の価額の変動に伴うものにすぎず,その算出の基礎となるべき被認知者が取得する財産の相続財産全体に対する割合は一定不変なものであるから,法17条にいう被認知者に「係る相続税の課税価格が当該財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合」(この割合を,以下,「法17条にいう割合」という。)もまた不変であり,それによって算出する同人の負担すべき相続税の額もまた変化することがなく認知の裁判が確定した時点から確定しているということができ,その反面として,他の共同相続人らが全体として負担すべき相続税額の変動も,その時点で確定的に生じているということができる。

この点については,相続税額を算出する際に,被認知者に係る「相続税の課税価格」を現に取得した価額金自体と考えることを前提とし,その金額は変動が予想されるものであり,他方,「すべての者に係る課税価格の合計額」は相続開始時の相続財産全体の価格として一定不変のものであるから,被認知者の負担すべき相続税もまた現に取得した価額金に応じて変動するとの見解も考えられないではない。しかし,この見解は,相続財産の価額変動に伴って各相続人の具体的相続分の割合と相続税負担額の割合とが整合しない結果となることを容認するものであり,具体的相続分の割合に応じて相続税を負担させようという同条の趣旨に反するものというほかない。同条の趣旨からすると,相続開始時から相当期間が経過し,相続財産の価格が変動したのち,その変動後の価格を基準に価額金が算定された場合においては,当該価額金の「相続税の課税価格」は,当該価額金自体の額面金額ではなく,これを相続開始時においてその算定がされた場合の金額となるよう補正した金額と考えるべきものであり,このような解釈は,課税庁においても,相続財産の価格変動後にされた代償分割の場合には既に採用しているところである(相続税法基本通達11の2-10)。そして,このように解釈すると,法17条にいう割合は,結局,当該価額金算定時において価額金が相続財産全体に占める割合に等しいこととなり,この割合は前記のとおり一定不変なのであるから,被認知者が負担すべき相続税額にも変化がないこととなる。したがって,このような見解は,法17条についての誤った見解を前提とするものであって採用できない。

3  このような価額支払請求権の内容,その発生に伴う相続税額の変動及び法32条2号の文言に照らすと,認知の裁判の確定によって新たな相続人が生じた場合において,それ以前に他の共同相続人間で遺産分割がされていたときにおける同号に基づく更正の請求は,文言どおり同裁判の確定したことを知った日から4か月以内に限ってすることができ,この期限以後はすることはできないと解するのが相当である。

他方,認知の裁判が確定した場合には,被認知者は,出生の時に遡って被相続人の子となり,被相続人の死亡時に遡って相続人たる資格を有することになる(民法784条)から,当該判決確定の日の翌日から10か月以内(ただし,原告については,相続税法(平成4年法律第16号による改正前のもの)27条により,6か月以内である。)に,当該相続に係る相続税について,申告する義務を負う(法27条1項)ものと解するのが相当である。この時点において,他の共同相続人らが既に遺産分割を終えている場合には,当該被認知者は,前記2のとおり,価額支払請求権を取得しており,その価額の相続財産全体に占める割合は既に確定しているのであるから,その割合を基礎として,納付すべき税額を計算して,申告すべきものであり,他の共同相続人から前記の更正の請求を受けた課税庁としては,被認知者に対して,この申告をするよう促すべきである。

そして,その時点において,被認知者と他の共同相続人との間において価額支払請求権の内容に争いがあり,その係争をめぐる判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)において,当初の申告等における計算の基礎となった事実が異なるところとなったとき(特別受益の有無やその額の判断によって,被認知者の具体的相続分の相続財産全体に対する割合が異なる場合などが想定される。前記2のとおり,この割合に変動がなく,相続財産の価格変動によって請求し得る金額に変動があったにすぎない場合は,税額の計算の基礎となった事実が異なったことにはならないし,各相続人が話合いにより任意にこの割合を変動させて紛争を解決したときにも,後記4(2)のとおり,法所定の更正の請求の理由が生じたとはいえない。)は,被認知者及びその他の共同相続人は,当該判決等の確定の日の翌日から起算して2か月以内に,通則法23条2項1号に基づき,更正の請求をすることができるのである。

4(1)  これに対し,被告は,認知判決の確定時に価額金相当額について,法32条2号の事由が生じたとして更正の請求を行い,その後,価額金の支払に関する訴えについての判決が確定したときに別途通則法23条2項1号による更正の請求を行うことができるとした場合には,相続税の課税漏れが生じる旨主張するが,前記3のように解すれば,課税庁は被認知者からの申告及び他の共同相続人からの更正の請求を照らし合わせ,必要があれば双方に事実関係の確認を行い,自ら正しいと認めるところに従って申告内容等を是認し又はこれを更正しているのであるから,それに誤りがあったために後に課税漏れの結果が生じたとしてもやむを得ない結果というべきであるし,このような紛争状態下にある双方当事者は,それぞれ自己の取得すべき財産を多めに主張することが予想され,それをそのまま課税関係に反映させると税額についても多めに申告することが予想され(この点において,前記第2の5(被告の主張)(3)アにおける被告の想定には疑問がある。むしろ,Bらは,本件価額支払判決に摘示されているように原告の特別受益を考慮し,結局は同判決の結論どおりの更正の請求をするのが通常であると考えられる。),課税庁において,いずれの当事者の主張が正しいかを決することが困難な場合には,双方の主張を前提とする申告等をそのまま是認することにより,いわば税の過大な納付をさせることもやむを得ないところであり,将来の価額支払請求の判決の確定により,通則法23条2項1号に基づく更正の請求の理由が生じたときには,その手続によって是正すれば,むしろ過大な納付の状態が解消するにとどまり,課税漏れが生ずることはないというべきである。

(2)  被告は,例えば,当事者間の話合いによる解決があった場合には,通則法23条2項1号による更正の請求を求めることができないことになるが,そうすると,他の共同相続人にとっては,当事者間での話合いによる解決の場合には更正の請求はできないが,判決による解決の場合には更正の請求が可能となり,相続により取得した財産において何ら変わるところがないのにもかかわらず当事者間の解決の方法の違いにより課税額が異なることとなって,取得した財産に応じた課税という相続税の課税の原則にかんがみて不合理といわざるを得ない旨主張する。

しかしながら,この場合には法律上改めて遺産分割を行うことは許されていないのであり,各相続人は法に従って価額金を算定するほかなく,その額を話合いで変動させることは,相続とは無関係な新たな財産の移転行為となることに留意しなければならない。このことからすると,当事者間の話合いによる解決の場合は,それが同号にいう更正の請求の理由に該当するか否かが明らかでない場合が多く,例えば,その内容が請求権の一部免除というものであるときには,もはや相続税額を更正すべきものではなく,新たに所得税や贈与税を発生させるにすぎないものであるから,判決の場合と同列に論じられないのは当然である。また,被告が主張する点は,通則法23条2項1号が「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」と規定していることの帰結にすぎず,被告主張の不合理な点は本件のような場合に限って生じることではなく,この点をもって,法32条2号の解釈を左右するものとみるのは相当でない。

しかも,当事者が通則法23条2項1号に基づいて更正の請求をしようという場合には,価額の支払(民法910条)等に関して,起訴前の和解(民事訴訟法275条)や民事調停(民事調停法16条,24条の3)等の手続を経ることによって,同号の更正の請求をすることができるのであるから,このように解したとしても,当事者にとって著しく酷であるとはいえない。

(3)  被告は、仮に,他の共同相続人間における当初の遺産分割協議において他の共同相続人の1人が全く相続財産を相続していなかったり被認知者に対して負担すべき価額金の額を下回る相続財産しか取得していない場合を考えると,財産を全く取得していない共同相続人の負担すべき額に相当する金額だけ又はその共同相続人の負担すべき価額金の額と実際に取得した相続財産の価額の差額分だけ,被認知者の課税価格に算入された金額(価額金の全額)と他の共同相続人の課税価格から減額される額の合計額が一致しないこととなり,法定相続分による遺産取得者課税方式を採用している法の趣旨に照らし不合理である旨主張する。

しかしながら,被告の主張する不合理は,この場合に限らず,例えば,相続人の1人が消極財産のみを相続し,他の1人が積極財産の大部分を相続し,他の相続人がそれぞれごく僅かずつの積極財産を相続したときにも生ずることである。すなわち,このような場合においても,法17条を形式的に適用するだけでは相続税の合理的な負担割合とはならないのであり,このことは法定相続分による遺産取得者課税方式自体の問題というほかなく,法32条2号の解釈とは関係がないものである。そして,このような場合には,法17条の規定にかかわらず,各人の取得した積極財産の割合に応じて相続税を分担するほかなく,被告の設例の場合には,先に相続税を負担した者がその割合に応じて被認知者の負担すべき税額をあん分して還付を受けるなど合理的な解釈を見出すほかないと考えられる。

(4)  被告は,①仮に認知判決の確定のときに法32条2号の事由による更正の請求を行い,その後に価額金の支払に関する訴えについての判決が確定したときに現行通則法23条2項1号の事由による更正の請求ができると解すると,現行通則法23条2項が制定されていなかった昭和25年から44年までの間は,価額金の支払に関する訴えについての判決が確定し,被認知者の価額金の実際の取得額(他の共同相続人の価額金の実際の支払額)と認知判決の確定時に更正の請求に基づき確定されている金額に相違があったとしてもこれを是正することはできなかったこととなる,②昭和44年以前においては,相続税に関する後発的事由に基づく更正の請求は相続税法に規定されていたのであり,昭和25年相続税法の当時から現在まで法32条2号による事由が相続税法32条に規定され,認知により相続人に異動を生じたことにより相続税の課税価格及び相続税額が過大となったときに更正の請求をすることができるとの規定が設けられ,この規定の趣旨が民法910条の価額のみによる支払の請求権によって財産の分割がなされた場合のことであるとすれば,認知による価額金の支払事由の発生による更正の請求は法32条2号の更正の請求であり,更正をすることができる時期は価額金の額が確定したときと解すべきである旨主張する。

しかしながら,被告の前記主張①は,結局,立法の不備を主張するものにすぎず,それ自体が他の法文の解釈に影響を及ぼすものではないし,まして,それが解消された現時点においては,前記のように法32条2号の文言に忠実な解釈をすることに何ら妨げがなくなったというべきである。また,被告の前記主張②は,要するに,価額金の額が確定したことを要するか否かについての見解の相違にすぎず,この点については,前記2に説示したとおりである。

なお,現行の,法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式が採用された昭和33年以前においては,遺産取得者課税方式が採られ,各相続人の課税価格に異動が生じない限り,その税額に異動が生じないことになっており,かかる課税体系の下では,当裁判所の前記解釈を採用すべきか否かに疑問が生じないでもないが,そのことによって,現行相続税法32条2号の解釈が左右されるものではない。

5  そうすると,Bらは,本件支払を理由として,法32条2号の規定による更正の請求をすることはできなかったものであり,本件認知判決の確定による更正の請求(法32条2号)ないし本件価額支払判決の確定による更正の請求(通則法23条2項1号)をなし得たにすぎないものである。

しかして,法35条3項に基づいて税務署長が更正又は決定を行う場合には,法32条1号から4号までの規定による適法な更正の請求に基づいて更正処分が行われたことがその前提となるところ,前記第2の2記載の事実によると,Bらのした本件更正の請求は,Bらが本件認知判決確定の事実を知ってから4か月以内に行われたものではなく,これを大幅に徒過した後に行われた不適法なものであるから,これに応じてされた更正処分には重大かつ明白な瑕疵があるというほかなく,被告がした本件決定は,その前提を欠くものと解するのが相当である。

また,前示のとおり,原告に係る相続税の申告期限は平成2年7月9日であるから,原告に対する相続税の決定は,上記申告期限から5年を経過した日である平成7年7月9日以降はすることはできないものであり,本件決定を法25条に基づく適法な決定とみる余地はない。

したがって,本件決定は違法なものといわざるを得ない。

第4結論

以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 谷口豊 裁判官 篠田賢治)

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