大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(行ウ)276号 判決 2000年10月18日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成一一年五月二六日付けで行った各保護変更決定(変更の決定日が同年四月一日のもの及び同年五月一日のもの)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が生活保護法(以下「法」という。)二五条二項に基づき、就労収入に増加があったこと及び国税還付金を収入に認定すべきことを理由として、保護費を遡及的に減額する保護変更決定をしたことに対し、原告がその取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実(各項末尾掲記の証拠等により認められる。)

1  原告は、平成七年一一月二二日付けで生活保護を開始された者である。(弁論の全趣旨)

2  「生活保護法による保護の基準」(昭和三八年厚生省告示第一五八号。以下「保護基準」という。)は平成一一年厚生省告示第一〇四号により改正され、右改定後の基準が平成一一年四月一日(以下、平成一一年中の年月日については、月日のみを記載し、「平成一一年」の記載は省略する。)から適用されることとなったために、被告は、三月二九日、別表「保護変更決定(処分)一覧表」1欄のとおり四月以降の原告に対する保護費を変更する旨決定した(以下「三月二九日決定」という。)。

右変更により、原告の収入認定額は四万〇一二〇円(実収入額六万四九八〇円、控除額二万四八六〇円)、保護費は七万一二七〇円(生活扶助四万二二七〇円、住宅扶助二万九〇〇〇円)とされた。(甲二)

3  被告は、四月五日、原告に対し、三月二九日決定に基づく四月分保護費七万一二七〇円を支給した。(弁論の全趣旨)

4  原告は、四月一四日、国税還付金六万四七五二円(以下「本件還付金」という。)を受領した。(争いがない事実)

5  被告は、四月二八日、原告に対し、三月二九日決定に基づく五月分保護費七万一二七〇円を支給した。(甲五、弁論の全趣旨)

6  被告は、五月二六日、法二五条二項に基づき、四月分以降の保護費について別表「保護変更決定(処分)一覧表」2欄のとおり、五月分以降の保護費について同表3欄のとおり、それぞれ保護変更決定を行った(以下、個別に「四月分変更決定」、「五月分変更決定」といい、両決定を併せて「本件各決定」という。)。

本件各決定により、原告の四月分の保護費は二万〇九八四円(生活扶助〇円、住宅扶助二万九〇八四円)に、五月分の保護費は九七二四円(生活扶助〇円、住宅扶助九七二四円)にそれぞれ変更され、その結果、既に原告に支給された四月分保護費との差額五万〇二八六円及び五月分保護費との差額六万一五四六円が過払金となった。(甲三、同四)

7  原告は、六月三日、被告に対し、右過払金の一部として一万円を返納した。(甲六の一、甲七)

8  被告は、六月二五日、原告に対する六月分以降の保護費について別表「保護変更決定(処分)一覧表」4欄のとおり保護変更決定を行った。(甲一六、乙一)

9  原告は、七月二日、被告に対し、前記過払金の一部として一万円を返納した。(甲六の二)

10  原告は、七月二七日、東京都知事に対し、本件各決定を不服として、審査請求を申し立てたが、五〇日以内に裁決がなかった。

そのため、原告は、法六五条二項の規定に基づいて東京都知事がこれを棄却したものとみなし、本訴を提起した。(争いがない事実)

二  当事者双方の主張

(被告の主張)

1 本件各決定が法五六条の定める不利益変更禁止に反しないこと

(一) 法四条は、国民の生活の維持は本来国民各自の自己責任によるべきことを前提としつつ、何らかの理由により自己の資産、能力により健康で文化的な最低限度の生活を維持することが不可能ないし著しく困難に陥った場合にはじめて国の事業としての生活保護を行うという生活保護の補足性の原則を規定し、また、法八条は、これを前提として、具体的な保護の程度につき、厚生大臣の定める健康で文化的な最低限度の生活を営むに当たって、要保護者の金銭又は物品では不足する分を補う程度にすることを定めている。

したがって、要保護者に法四条にいう活用すべき資産があることが新たに判明した場合に、その限度で保護の程度を減縮することは、右各法条が当然に予定するところであって、こうした場合に法二五条二項に基づき保護を減縮する保護変更処分をすることには、法五六条の正当な理由があるというべきである。

また、保護の変更処分を遡及して行うことができることは、法八〇条の規定からも明らかである。

(二) そして、被告は、三月二九日決定の後に原告からなされた三月分ないし五月分の収入及び本件還付金に関する申告に基づいて、本件還付金六万四七五二円を「就労に伴う収入以外の収入」と認定し、これを二分した額(三万二三七六円)をそれぞれ四月及び五月の収入と認定したことから、原告の四月の収入を、右三万二三七六円に二月分及び三月分の収入申告の平均額により算定した就労収入認定額(五万八〇三〇円)を合算した額(九万〇四〇六円と認定し、原告の五月以降の収入を、右三万二三七六円に四月分の収入申告の額により算定した就労収入認定額(六万九二九〇円)を合算した額(一〇万一六六六円)と認定したものであるが、右収入認定の根拠は次のとおりである。

(三) 本件還付金を収入と認定することについて

(1) 所得税の実費の額は、勤労収入を得るための必要経費として認定されるが、本件還付金は、原告に係る平成一〇年分所得税の源泉徴収額が過納となったため、所得税法一三八条一項に基づき還付されたものであるから、所得税と同様のものとすることはできない。

したがって、本件還付金は、必要経費に該当しない。

(2) また、本件還付金の一部は平成一〇年分所得税の特別減税に基づくものである。

しかし、法による保護は、生活に困窮する者が、「その利用し得る資産、能力その他あらゆるもの」を最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われ(法四条一項)、要保護者の「金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う限度」において行うものとされるから(法八条一項)、最低限度の生活の維持にあて得る金品は、自立助長の観点あるいは社会通念上の観点から妥当でない場合を除き、すべて収入として認定すべきである。

そして、右減税の趣旨は、当面の金融・経済情勢を踏まえつつ、経済社会の構造的な変化及び諸改革に対応するという抽象的な目的に基づくものであるから、右減税分を法四条の「利用し得る資産」あるいは法八条の「金銭又は物品」から除外するという具体性をもった趣旨まで含むものではない。

したがって、右減税による分も、原告の最低限度の生活の維持にあて得る金品であり、収入認定から除外する理由はない。

(四) 収入を認定すべき月について

(1) 被保護者の就労に伴う収入以外の収入のうち恩給、年金等の収入に該当しないものは、その全額を当該受給月の収入として認定することが原則とされているが、これによることが適当でない場合には、当該受給月から引き続く期間にわたって分割して認定するものとされている(昭和三八年四月一日社発第二四六号厚生省社会・援護局長通達(以下「局長通達」という。)第7―1(5))。

これにより、被告は、本件還付金全額を四月分として収入認定すると四月分保護費の減額が大きくなりすぎるため、四月分と五月分とに二分割して収入認定したものである。

(2) 就労に伴う収入で収入額が変動する場合には、当該受給月の収入として計上することが不適当で翌月の収入として計上すべき事情があるものとして、当該収入を翌月の収入とみなして計上することとして差し支えないものとされている。

原告の就労収入については、受給が月末であり、申告が翌月となるため、被告は、当該収入を翌月分の収入とみなして計上しているのである。

(五) 本件各決定が将来の事実に基づいてなされたものではないこと

四月分変更決定において「変更の決定日」が四月一日とされたのは、四月分についての保護変更決定であることを明らかにしたものにすぎないから、原告が三月二九日決定後の四月一四日に得た本件還付金を、法八条一項、二五条二項に基づき、四月分の収入に認定するのは当然である。

また、五月分変更決定の「変更の決定日」が五月一日とされたのは、五月分についての保護変更決定であることを明らかにしたものにすぎないから、五月一九日の原告の申告により、原告が三月二九日決定に係る就労収入額六万四九八〇円を上回る就労収入額九万三八九五円を得たことが判明したため、法八条一項、二五条二項に基づき、五月分の収入認定の変更を行うのは当然である。

(六) 本件各決定は、以上のとおりの収入認定に基づいてなされたのであるから、正当な理由に基づく保護の変更であり、違法な点はない。

2 本件各決定の通知の様式に違法がないこと

東京都新宿区公告式条例(昭和四四年条例第二号。以下「公告式条例」という。)三条、二条二項が条例及び規則の公布を区役所の門前掲示場に掲示して行うとしたのは、条例及び規則の内容を文書によって一般の人に知らせるためであるから、一般の人が知るに足るだけの相当な期間にわたり掲示が行われれば足り、半永久的に掲示することは要件とされていないと解される。

そして、生活保護法施行細則の一部を改正する規則(平成一一年東京都新宿区規則第七八号。以下「改正規則」という。)は、三月三一日から二週間以上の間、区役所の門前掲示場に掲示されていたから、公告式条例に則った公布がされたというべきである。

そして、生活保護法施行細則(昭和四〇年東京都新宿区規則第一〇号。以下「法施行細則」という。)第一七号様式は、右の改正規則により、四月一一日から様式が変更されたのである。

したがって、本件各決定は、右変更された様式によって通知されており、法施行細則五条が規定する様式に違反していない。

(原告の主張)

1 本件各決定が正当な理由のない不利益変更に当たること

(一) 法五六条は、正当な理由のない不利益変更を禁止しているところ、右正当な理由とは、単に収入に変更があった程度ではなく、保護の開始、停止、廃止、却下等の場合に限ると解すべきである。

本件各決定は、三月二九日決定を不利益に変更するものであるが、単に収入に変更があったという程度のことを理由にしており、正当な理由のない不利益変更に当たるから、違法である。

(二) 本件違付金を「就労に伴う収入以外の収入」と認定したことの違法

(1) 所得税還付金は、労働賃金に源を発する労働賃金の還付であり、また、国が、勤労収入を得るための必要経費のうち課税すると生活を圧迫するものを、課税最低限の中に入るものとして返したものである。

したがって、本件還付金は、恩給、年金、失業保険金その他の公の給付(昭和三六年四月一日発社第一二三号各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」(以下「次官通知」という。)第七の3(2)ア(ア))に当たらないから、これを「就労に伴う収入以外の収入」と認定するのは違法である。

(2) また、収入額は月額により認定することを原則とするところ(次官通知第七の2)、年に一度しか還付されない国税還付金を収入と認定することは許されない。

(3) さらに、国税還付金を収入と認定することは、憲法の定める納税義務の趣旨に反することとなる。

(4) 加えて、本件還付金には、平成一〇年分所得税の特別減税によるものも含まれるところ、右特別減税の趣旨は、法による被保護者もその効果を喜び合うことにあるから、これを収入と認定して、被保護者から取り上げるのは違法である。

(三) 収入を認定すべき月の誤り

収入等については、その月の一五日までに認定したものはその時点における最も早い支給日に、一六日以後のものはその次の支給日に、それぞれ算入されるべきであるから、四月分の収入は二月一六日から三月一五日までのものを、五月分の収入は三月一六日から四月一五日までのものを認定すべきである。

ところが、四月分変更決定は、同月一四日に振り込まれ、同月一五日に申告があった本件還付金を収入に認定しており、五月分変更決定は、同月一九日に申告があった四月分の収入を収入に認定しており、いずれも収入を認定すべき月を誤っている。

(四) 本件各決定は、厚生事務次官の通知である次官通知に基づいて行われた収入認定を根拠にしているが、通知、通達に一般国民が従う義務はないから、本件各決定に法的根拠はないというべきである。

(五) 変更の決定日より将来の事実に基づいてなされた違法

四月分変更決定は、変更の決定日を四月一日としているにもかかわらず、四月一五日になされた本件還付金の申告に基づいており、また、五月分変更決定は、変更の決定日を五月一日としているにもかかわらず、五月一九日になされた収入申告に基づいており、いずれも変更の決定日より将来の事実に基づいてなされた違法がある。

2 本件各決定の通知の様式の違法

保護変更決定の通知は、法施行細則五条により同細則第一七号様式によってなされるべきである。

そして、第一七号様式を改めた改正規則は、公告式条例三条、二条二項に定める区役所の門前掲示場に掲示することによる公布がなされていない。

したがって、本件各決定の通知は、右改正前の第一七号様式によってなされるべきところ、公布されていない改正後の第一七号様式によってなされたものであるから違法である。

三  争点

以上によれば、本件の争点は次の各点にある。

1  本件各決定に、法五六条に定める不利益変更についての正当な理由があるか否か(争点1)

2  本件各決定の通知の様式に違法があるか否か(争点2)

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  本件各決定は、被告が、法二五条二項に基づいて、既に決定された保護費の額を減額した不利益変更処分であるところ、法五六条は、右のように既に決定された保護を不利益に変更するについては正当な理由がなければならないと定めている。

ところで、法は、保護は、厚生大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとすると定めている(法八条一項)が、右規定は、生活保護法の基本原理の一つである「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」旨のいわゆる補足性の原理(法四条一項、五条)を具体化したものであるから、保護を開始する場合だけではなく、保護を維持、継続する場合にも妥当するというべきである。

そうであるとすれば、既に保護を受けている被保護者が新たに資産や収入を得た場合に、法八条一項に基づき被保護者の収入として認定し、それに応じて保護費を減額することは、法が予定するところであり、このような変更処分は、正当な理由によるものとして、法五六条の禁止する不利益変更には当たらないというべきである。

そして、本件各決定は、原告の四月の収入を、本件還付金の二分の一と二月分及び三月分の就労収入の平均額との合計額と認定し、原告の五月以降の収入を、本件還付金の二分の一と四月分の就労収入との合計額と認定したのであるから、右収入認定の適否について、以下検討する。

2  本件還付金について

(一) 生活保護行政は、保護基準及び次官通知、局長通達等の通達に従った取扱いがなされているところであり、生活保護の要否及び程度は、原則として、当該世帯につき認定した最低生活費と認定した収入との対比により決定されるものであるが、右収入の認定については、次官通知第七の3が、「就労に伴う収入」と「就労に伴う収入以外の収入」に二分し、さらに後者を「勤労(被用)収入」、「農業収入」、「農業以外の事業(自営)収入」及び「その他不安定な就労による収入」に細分して、それぞれの認定の指針を定めており、右「勤労(被用)収入」については、基本給、勤務地手当、家族手当及び超過勤務手当等の収入総額を認定し、右総額から勤労収入を得るための必要経費を控除するとされているところ、所得税の実費の額は右必要経費と認定することとされている(次官通知第七の3(1)ア)。

右のとおり所得税の実費の額を収入額から控除する取扱いは、源泉徴収される所得税額分を要保護者が現実に利用し、活用することができないことに着目し、これを法四条一項にいう資産等や、法八条一項にいう金銭等に当たらないとするものであり、右取扱いは生活保護の補足性の原理に則ったものということができる。

これに対し、本件還付金は、原告の平成一〇年分所得税の源泉徴収額が過納となったために、所得税法一三八条一項に基づき還付されたものであるから、もはや、所得税として徴収されたときに有していた勤労収入を得るための必要経費としての性質を失い、要保護者がこれを現実に利用し、活用することができる性格の金員であるというべきである。

したがって、これを、法四条一項にいう資産等や、法八条一項にいう金銭等に該当すると判断して、収入認定を行うことに支障は存しないというべきである。

(二) なお、原告は、収入額は月額により認定することを原則とするところ(次官通知第七の2)、年に一度しか還付されない国税還付金を収入と認定することは違法であると主張するが、次官通知第七の2が、毎月支給されるもののみを収入と認定することを定めたものでないことは明らかであるから、右主張は失当である。

(三) また、原告は、国税還付金を収入と認定することは、憲法の定める納税義務の趣旨に反すると主張するが、本件還付金は納税義務の対象となる所得税としての性質を失ったものであるから、右主張は前提を欠き、失当である。

(四) 次に、特別減税による還付金を収入認定するのは違法であるとする原告の主張の当否について検討するに、本件還付金の一部は、平成一〇年分所得税の特別減税のための臨時措置法(同年法律第一号)及び平成一〇年分所得税の特別減税のための臨時措置法及び租税特別措置法の一部を改正する法律(同年法律第八四号)に基づく特別減税によるものであるが、これは、居住者又は非居住者(総合課税の対象となる者に限る。)の同年分所得税について、その者の特別減税前の所得税額から特別減税の額を控除するもので、特別減税の額を、居住者又は非居住者本人について三万八〇〇〇円、居住者の控除対象配偶者又は扶養親族一人について一万九〇〇〇円の合計額とし、右合計額が特別減税前の所得税額を超える場合には、その特別減税前の所得税額を限度とするというものである。

右特別減税による所得税の還付金は、要保護者において、これを現実に利用し、活用することができるものであるところ、右特別減税は、当面の経済情勢等を踏まえた上での国家の施策として行われたものであるが、それ以上に、右減税による還付金を、法四条一項にいう資産等や法八条一項にいう金銭等から除外する趣旨までも含まれていると解すべき理由を見い出すことはできない。

かえって、右特別減税の実施に関連して、「平成一〇年二月における生活保護法による保護基準の特例(同年厚生省告示第一三号)」及び「平成一〇年八月における生活保護法による保護基準の特例(同年厚生省告示第一七四号)」によって保護基準の特例が定められ、同年の二月及び八月の二度にわたって、法による被保護者一人につき一万円の一時金を基準生活費に加算することにより、これを支給することとなったところ(したがって、右一時金は収入認定されない。)右一時金の支給は、右特別減税による還付金は収入として認定されることを前提に、法八条に規定する「厚生大臣の定める基準」の特例を定めることによって、保護の適正を図ったものと解される。

したがって、右特別減税による還付金を収入認定することが違法であるとする原告の主張は失当である。

(五) 本件還付金を収入認定すべき月について

局長通達第7―1(5)は、勤労(被用)収入、農業収入、農業以外の事業(自営)収入又は恩給、年金等の収入のいずれかに該当する収入以外の収入は、その全額を当該月の収入として認定することを定めているが、これによることが適当でない場合は、当該月から引き続く六箇月以内の期間にわたって分割して認定することと定めている。

そして、被告は、右定めにより、本件還付金全額を受給月である四月分として収入認定すると四月分保護費の減額が大きくなりすぎることから、これによることが適当でないとして、四月分と五月分とに二分割して収入認定したものであるところ、右定めは、収入認定すべき月の判断を機械的、硬直的に行うことによって保護費減額が過酷な結果を招来することを回避する趣旨に出たものと解され、保護の適正を図るものとして合理性を有するものということができる。

したがって、被告が、右定めに従って、本件還付金を四月分と五月分とに二分して収入認定したことに違法はないというべきである。

3  就労収入を認定すべき月について

次官通知第七の2は、収入の認定は、月額によることとし、この場合において、収入がほぼ確実に推定できるときはその額により、そうでないときは前三箇月間程度における収入額を標準として定めた額によることを定めている。

また右定めを受けて東京都の生活保護の実務においては就労収入の月額の認定方法について、東京都福祉局生活福祉部保護課保護係が生活保護運用事例集(乙五)を発行し、①収入額が変動しない定期的収入については、その月額を基礎として算定し、②ある程度変動はあっても、安定している継続的な収入については前三箇月の平均額をもって推定額を算出した上で認定し、③当月の収入を翌月の収入として計上すべき事情がある場合には、当該収入を翌月の収入とみなして計上することとして差し支えないとの認定指針を示し、これに基づいた運用が行われている。

弁論の全趣旨によれば、原告の就労収入は、収入額が安定せず、また、受給が月末であり、申告が翌月となることから、被告は、右事情を、当月の収入を翌月の収入として計上すべき事情がある場合と判断して、前記③の取扱いを行っていることが認められる。

しかし、右取扱いを行う場合には、翌月分の事務処理の締切日前に当月分の収入申告が行われれば、当初から確定額による翌月分の収入の認定が可能となるが、それ以外の場合は、その月の当初に支給した扶助額(前月分の変更に基づく扶助額、又は合理的な根拠に基づく推定認定額により算定された扶助額)に対し、事後に確定額をもって収入変更を行わざるを得ないこととなる(前記生活保護運用事例集参照)。

本件各決定においては、右取扱いを踏まえて、原告の収入申告が翌月分の事務処理の締切日後になされたことから、二月及び三月の就労収入の平均額をもって四月分の収入と認定し、四月の就労収入をもって五月分の収入と認定したものであるところ、右取扱いは就労収入を認定すべき月の判断において合理的なものであると認められるから、本件各決定において就労収入を認定すべき月を誤った違法はないというべきである。

4  なお、原告は、本件各決定が将来の事実に基づいてなされたと主張する。

証拠(甲三、同四)によれば、本件各決定についての保護変更決定通知書には「変更の決定日」欄があり、四月分変更決定の「変更の決定日」欄には四月一日と、五月分変更決定の「変更の決定日」欄には五月一日と、それぞれ記載されていること、しかし、右「変更の決定日」欄は、本件各決定が行われた日付を示すものではなく、その日以降の保護費が変更されることを表したものであることが認められる。

そして、本件各決定は、前記のとおり五月二六日付けで行われたのであるから、四月分変更決定において、原告が四月一四日に得た本件還付金を考慮し、五月分変更決定において、四月分の就労収入を考慮することは、将来の事実を考慮したものでないことは明らかであるから、原告の右主張は失当である。

5  以上のとおり、本件各決定には、法五六条に定める不利益変更についての正当な理由がある。

二  争点2について

保護変更決定の通知は、法施行細則五条により同細則第一七号様式によってなされるものとされているところ、証拠(甲三、同四)によれば、本件各決定は、改正規則により改められた第一七号様式の用紙によって通知されたことが認められる。

この点について、原告は、改正規則については、公告式条例三条、二条二項に定められた区役所の門前掲示場に掲示する方法による公布がなされていないと主張する。

しかし、公告式条例三条、二条二項は、条例及び規則の公布は、区役所の門前掲示場に掲示してこれを行うと定めているものの、その趣旨は、条例及び規則の内容を区役所の門前掲示場に掲示することによって一般の住民に知り得る状態におくことにあるから、一般の住民が知ることのできる状態で掲示がなされることをもって足りるものと解される。

そして、弁論の全趣旨によれば、改正規則は、三月三一日から二週間以上の間、区役所の門前掲示場に掲示されていたことが認められるから、一般の住民が知り得る状態で掲示が行われていたというべきであり、公告式条例三条、二条二項に則った公布がなされたということができる。

したがって、本件各決定が改正規則(同規則附則一項により四月一日から施行)により改められた様式によって通知されたことに、法施行細則五条に規定する様式に違反した事実はないから、原告の主張は前提を欠き失当である。

三  よって、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例