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東京地方裁判所 平成11年(行ウ)288号 判決 2002年6月21日

原告

社会福祉法人A

代表者理事

被告

代表者

法務大臣 森山真弓

当事者の訴訟代理人、指定代理人は別紙訴訟代理人・指定代理人一覧のとおり

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、1億0470万9656円及びこの内、

(1)  1003万0881円に対する平成11年11月25日から還付のための支払決定の日まで年7・3%の割合による金員

(2)  1003万5908円に対する平成11年11月27日から還付のための支払決定の日まで年7・3%の割合による金員

(3)  4529万7358円に対する平成11年12月15日から還付のための支払決定の日まで年7・3%の割合による金員

(4)  2516万5466円に対する平成11年12月21日から還付のための支払決定の日まで年7・3%の割合による金員

(5)  1418万0043円に対する平成12年3月11日から還付のための支払決定の日まで年7・3%の割合による金員

を支払え。

第2事案の概要

本件は、社会福祉法人である原告が、原告の理事に支払った賞与に係る所得税を源泉徴収すべき義務は生じていなかったから、原告に対して行われた源泉所得税及びその延滞税並びに重加算税の徴収は違法であると主張して、被告に対し、その徴収額を不当利得として返還請求した事案である。

1  法令等の定め

(1)  源泉徴収制度について

ア 国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収による国税を除く。)を納める義務がある者(納税義務者)及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者(徴収納付義務者)を納税者とする(国税通則法(以下「通則法」という。)2条1項5号)。

イ 所得税法28条1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者その他第4編第1章から第6章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は、同法により、その支払に係る金額につき源泉徴収する義務がある(所得税法6条)。

居住者に対し国内において所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない(同法183条)。

ウ 源泉徴収による所得税を徴収して国に納付する義務は、利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に成立し(通則法15条2項2号)、上記義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(同条3項2号)。

エ 源泉徴収の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかったときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する(所得税法221条)。

オ 源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったものについて、税務署長が国税に関する法律の規定により徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならず(通則法36条1項2号)、この納税の告知は、原則として、税務署長が、納付すべき税額、納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行う(同条2項)。

(2)  給与所得等の意義

ア 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう(所得税法28条1項)。

イ 役員とは、法人の取締役、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう(法人税法2条1項15号)。

ウ 賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう(法人税法35条4項)。

2  前提となる事実(以下の事実は、各項末尾に掲げた証拠等により認定した。)

(1)  原告の概要等

ア 原告は、平成5年10月14日、社会福祉事業法に基づき設立された社会福祉法人であり、第一種及び第二種社会福祉事業を目的とし、栃木県河内郡南河内町大字薬師寺を主たる事務所とし、同所において、特別養護老人ホーム「B」(以下「B」という。)及び老人デイサービスセンター「C」(以下「C」といい、Bと併せて「本件施設」という。)を設置経営している。

(争いのない事実)

イ 原告は、平成6年12月15日、宇都宮税務署長に対し、その設立に伴い同年10月3日に給与支払事務所を開設した旨の所得税法230条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)に規定する届出をし、給与支払事務所開設後の源泉所得税の納付を開始した。

(争いのない事実)

ウ 乙(以下「乙」という。)は、原告の設立当時から平成10年12月30日まで、原告の代表権を有する理事に就任していた。

なお、乙が平成10年12月30日付けで理事を辞任した後、同日付けで甲が原告の理事に就任している。

(争いのない事実)

エ また、原告の設立当時から、乙の夫である丙(以下「丙」という。)は、原告の事務長の職に、乙の長男丁(以下「丁」という。)は、原告の施設長の職にそれぞれ就いており、また、丙及び丁は、原告の理事も務めている。

(争いのない事実)

オ 丙は、D分教会(以下「D分教会」という。)の代表役員であり、乙は、D分教会の役員を、それぞれ務めている。

(争いのない事実)

D分教会は、平成2年,E信用金庫本店から4500万円を借り入れており(以下「D分教会の借入れ」という。)、この借入金の入金及び借入金利息の支払のために、D分教会名義のE信用金庫本店の普通預金口座(以下「本件D分教会口座」という。)を利用していた。

(甲29)

(2)  原告の設立申請と認可に至る経緯

ア 原告設立の計画

乙及び丙(以下「乙ら」という。)らは、地域の老人介護を充実させるために、特別養護老人ホームを設立したいと考え、平成4年春ころから、栃木県庁の同県保健福祉部高齢対策課(以下「県」という。)に相談に赴くなどして、社会福祉法人として原告を設立する計画を立てた。

(甲29)

イ 本件施設用地に係る土地売買契約締結

社会福祉法人としての設立認可を受ける前の原告は、平成5年6月26日、戊(以下「戊」という。)との間で、特別養護老人ホーム用地として、本件施設の所在地である土地(栃木県河内郡南河内町大字薬師寺、4999平方メートル。以下「本件施設用地」という。)を、代金1500万円で購入する旨の停止条件付売買契約を締結した。

(甲10の4)

ウ Fからの借入れ

F株式会社(以下「F」という。)は、平成5年7月29日、返済期限を平成6年3月末日として、原告設立のために必要な資金として6500万円を貸し付けてほしいとの乙の申し入れを承諾し、同月27日に開設された乙名義の口座(株式会社G銀行小山支店普通預金口座。以下「本件乙口座」という。)に、利息176万7000円を差し引いた6323万3000円を振り込んだ(以下「本件Fからの借入れ」という。)。

(甲28、甲6)

エ 贈与契約書の作成

乙と原告理事予定者丁は、原告の設立が認可されたときは、乙が原告に原告の土地取得資金等として6320万5000円を贈与する旨の平成5年7月11日付け贈与契約書(以下「本件贈与契約書」という。)を作成した。

(乙27)

オ 原告の設立認可申請

乙は、平成5年9月21日、栃木県知事に対し、事業の種類をBの設置経営、Cの設置及び受託経営並びに老人短期入所事業の受託経営、資産を6320万5000円などと記載した社会福祉法人設立認可申請書を提出して、原告の設立認可を申請した。

上記申請書には、本件贈与契約書、株式会社G銀行小山支店が乙宛てに発行した6323万4000円の本件乙口座の残高証明書、本件施設用地に係る平成5年6月26日付け土地売買契約書、社会福祉法人A B平成5年度収支予算書、特別養護老人ホーム建設計画書が添付されていた。

上記収支予算書には、貸方には、初年度の事務費支出として1000万円、固定資産取得費として7億4112万7000円が記載され、借方には、補助金収入として4億9792万2000円、設備資金借入金収入として1億9000万円、寄附金収入として6320万5000円と記載されていた。

(甲10の2ないし6、29)

カ 原告の設立認可

原告は、平成5年10月13日、社会福祉法人としての設立を認可された。

(甲10の1)

(3)  原告設立後の金員の動き等

ア 原告名義の口座の開設と6320万5000円の入金

丙は、原告の設立認可後の平成6年10月22日、原告名義のE信用金庫本店の普通預金口座(以下「本件A口座」という。)を開設し、同日、本件乙口座から同年8月25日に払い戻した6323万3000円のうち6320万5000円を同口座に振り込んだ。

(甲5、6、29、乙5)

イ D分教会の借入金に係る4000万円の返済

原告は、平成5年10月25日、本件A口座(同日付残高6320万5000円)から、5320万5000円を払い戻した。

丙は、同日、上記金額と同額の5320万5000円を、本件D分教会口座に預け入れた。

D分教会は、同日、本件D分教会口座に預け入れられた金員をもって、E信用金庫本店に対し、D分教会の借入れに係る元本のうち4000万円を返済した(以下「本件D分教会借入金返済①」という。)。

(甲5、29、乙5、6)

ウ 本件施設用地に係る土地売買代金額の変更

原告は、前記のとおり、戊から本件施設用地を代金1500万円で購入する旨の停止条件付売買契約を締結していたが、戊の要求により、平成5年11月18日、上記代金額を変更し、改めて、本件施設用地を代金5000万円で購入する旨の売買契約を締結し、同日、手付金として戊に対して500万円を支払った。

(甲29、乙7)

エ 本件施設建築工事に係る請負契約締結

原告は、平成5年12月2日、H株式会社宇都宮支店(以下「H」という。)との間において、原告を発注者、Hを請負者として、請負代金額を5億2530万円として、本件施設の建築工事に係る工事請負契約を締結し、その旨の請負契約書を作成した。

(乙8)

その後、原告は、本件施設に係る什器備品工事について、代金額6062万3000円でHに発注することとし、改めて、請負代金額を5億8537万9160円とする平成5年12月2日付け請負契約書及び請負代金額を54万3840円とする同日付請負契約書の2通を作成した。

これにより、原告がHに支払うべき請負代金は、合計5億8592万3000円となった。

(甲9、29、32、乙9、10、)

オ Hからの5000万円の借入れ

原告は、平成5年12月24日、Hから、5000万円を借り入れる旨の金銭消費貸借契約を締結した。

丙は、同日、原告名義のG銀行小山支店普通預金口座(以下「本件B口座」という。)を開設し、Hは、同日、5000万円を同口座に振り込んだ。

(甲29、乙13、14)

カ D分教会の借入金に係る529万3560円の返済

原告は、平成5年12月28日、本件B口座(同日付け残高5000万1000円)から600万円を払い戻した。

丙は、同日、上記金額と同額の600万円を、本件D分教会口座に預け入れた。

D分教会は、同日、本件D分教会口座に預け入れられた金員をもって、E信用金庫本店に対し、本件D分教会の借入れに係る残元本及び利息として529万3560円を返済した(以下「本件D分教会借入金返済②」という。)。

(甲5、29、乙6、14)

キ 本件施設用地に係る売買代金の支払

原告は、平成6年1月14日、本件施設用地に係る売買代金として、戊に対し、4500万円を支払った。

(争いのない事実)

ク Hに対する1億9000万円の支払と8958万9042円の返金

原告は、平成6年3月8日、本件A口座(同日付け残高1億9000万円)から、Hに対し、1億9000万円を振り込んで支払った。

そして、Hは、社会福祉法人A特別養護老人ホームB新築工事代金として1億9000万円を受領した旨の平成6年3月8日付け領収書を発行している。

ところが、H、平成6年3月14日、上記支払を受けた1億9000万円のうち、原告に貸し付けた5000万円(前記オ)及びその利息として5041万0958円を、本件施設建築工事に係る請負代金内金として5000万円を、受領しただけで、残金8958万9042円については、本件B口座に振り込んで原告に返金した。

(甲29、乙5、14、16)

ケ 本件Fからの借入れに係る返済

原告は、平成6年3月15日、本件B口座(同日付け残高8959万3827円)から6500万0309円を、同月22日、本件B口座(同曰付残高1459万3518円)から32万3326円を、それぞれ払い戻した。

(乙14)

原告は、Fに対し、本件Fからの借入れに係る返済として、同月15日に6515万5154円、同月22日に32万3017円、合計6547万81871円を支払った(以下「本件Fへの返済」という。)。

(争いのない事実)

コ 本件B口座からの合計2400万円の払戻し

原告は、本件B口座から、平成6年3月15日に1000万円、同月22日に500万円、同月29日に900万円を払い戻した(以下「本件B口座払戻し」という。)。

他方、D分教会は、平成6年3月15日に400万円、同月22日に500万円、同月29日に800万円のD分教会名義の定期預金口座を開設した(以下「本件D分教会名義定期預金口座開設」という。)。

また、同月29日、本件D分教会口座に100万円が預け入れられた。

(甲5、29、乙6、14)

サ 本件A口座からの送金と本件B口座への返金

原告は、以下のとおり、本件A口座から合計1億3690万6005円を払い戻し、各業者にいったん送金した後、各業者から、送金額とほぼ同額の1億3149万2563円の返金を受けている。

a 原告は、平成6年9月6日、本件A口座から2987万円を払い戻し、同日、株式会社Iに対して同額を振り込んで支払った。

しかし、株式会社Iは、同日、上記金額から振り込み手数料721円を差し引いた2986万9279円を、本件B口座に振り込んで原告に返金した。

なお、株式会社Iは、原告あてに2987万円の平成6年9月6日付け領収証を発行している。

b 原告は、平成6年9月28日、本件A口座から1461万5700円を払い戻し、同日、有限会社Jに対して同額を振り込んで支払った。

しかし、有限会社Jは、同日、上記金額と同額を、本件B口座に振り込んで原告に返金した。

c 原告は、平成6年9月28日、本件A口座から757万1895円を払い戻し、同日、K株式会社に対して同額を振り込んで支払った。

しかし、K株式会社は、同日、上記金額から振込み手数料721円を差し引いた757万1174円を、本件B口座に振り込んで原告に返金した。

d 原告は、平成6年9月28日、本件A口座から3447万9000円を払い戻し、同日、有限会社Lに対して同額を振り込んで支払った。

原告は、平成7年3月31日、本件A口座から3752万1000円と51万5000円を払い戻し、同日、有限会社Lに対して上記合計額を振り込んで支払った。

しかし、有限会社Lは、平成6年9月29日に3447万9000円を、平成7年3月31日に3262万4000円を、それぞれ本件B口座に振り込んで原告に返金した。

e 原告は、平成6年9月6日、本件A口座から400万0005円を払い戻し、同日、株式会社Mに対して上記同額を振り込んで支払った。

しかし、株式会社Mは、同日、上記金額と同額を、本件B口座に振り込んで原告に返金した。

f 原告は、平成6年9月28日、本件A口座から153万3405円を払い戻し、同日、株式会社NのOに対して同額を振り込んで支払った。

しかし、株式会社NのOは、平成6年9月28日に153万円を、同月30日に3405円を、それぞれ、本件B口座に振り込んで原告に返金した。

g 原告は、平成6年10月17日に454万2010円を、同月24日に225万7990円を、それぞれ本件A口座から払い戻し、上記各同日、各同金額を、P株式会社に対して振り込んで支払った。

しかし、P株式会社は、平成6年10月18日に454万2010円を、同月25日に225万7990円を、それぞれ本件B口座に振り込んで原告に返金した。

(本項サ全部につき、争いのない事実)

シ Hに対する請負代金5億3592万3000円の支払

a 本件A口座からの合計3億9592万3000円の支払

原告は、平成6年9月6日、本件A口座から3456万8000円を払い戻し、同日、Hに対し、同額を振込みの方法により支払った。

Hは、社会福祉法人A特別養護老人ホームB新築工事代金として3456万8000円を受領した旨の平成6年9月6日付け領収書を発行している。

原告は、平成6年10月6日、本件A口座から3億6081万1160円と54万3840円を払い戻し、同日、Hに対し、上記合計額を振込みの方法により支払った。

Hは、社会福祉法人A特別養護老人ホームB新築工事代金として、3億6081万1160円を受領した旨の平成6年10月6日付け領収書を発行している。

(甲5、29、乙5、20、21)

b 本件B口座からの合計1億9000万円の支払

原告は、平成6年10月17日、本件B口座から1億円を払い戻し、同日、Hに対し、同額を支払った。

原告は、平成6年10月19日、本件B口座から、1000万円を払い戻し、同日、Hに対し、同額を支払った。

原告は、平成6年10月27日、本件B口座から3000万円を払い戻し、同日、Hに対し、同額を支払った。

ところが、これらの支払については、領収書は発行されていない。

(争いのない事実)

(4)  課税経緯等

ア 宇都宮税務署長は、平成10年9月7日付けで、原告に対し、別表「本件係争月分に係る納税告知処分等の経緯」記載のとおり、源泉徴収による所得税(以下「本件源泉所得税」という。)の納税告知処分(以下「本件告知処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った(以下、本件源泉所得税及び上記重加算税を併せて「本件源泉所得税等」という)。

イ 宇都宮税務署長は、原告が、本件告知処分に定められた納期限である平成10年10月7日を経過しても、本件源泉所得税等を納付しなかったことから、同月23日付けで、本件源泉所得税等に係る督促状を発付した。

ウ 宇都宮税務署長は、平成10年11月16日、通則法43条3項の規定により、関東信越国税局長(以下「国税局長」という。)に対し、本件源泉所得税等の徴収の引継を行った。

エa 国税局長の所部係官Qは、平成11年1月13日、別紙租税債権目録記載の本件源泉所得税等を徴収するため、国税徴収法62条1項の規定に基づき、別紙差押債権目録記載の原告の銀行定期預金及び同確定利息の払戻請求権(以下「本件預金債権」という。)をそれぞれ差し押さえ(以下「本件差押処分」という。)、同日、同債権差押通知書を各債務者に送達した。

b 国税局長は、平成12年3月10日、原告がE信用金庫(小金井支店取扱い)に対して有する普通預金1418万0043円の払戻請求権を差し押さえ、同日、同債権差押通知書を第三債務者であるE信用金庫に送達した。

オa 国税局長は、平成11年11月24日、国税徴収法67条1項に基づき、原告が株式会社R銀行(小山支店取扱い)に対して有する定期預金及び確定利息計1003万0881円を振込みの方法により取り立て、上記振込みを確認した同月26日、振り込まれた日である同月24日に上記債権が本件源泉所得税等に充当されたものとする処理を行った。

b 国税局長は、平成11年11月26日、国税徴収法67条1項に基づき、原告が株式会社S銀行(小山支店取扱い)に対して有する定期預金及び確定利息計1003万5908円を振込みの方法により取り立て、上記振込みを確認した同年12月6日、振り込まれた日である同年11月26日に上記債権が本件源泉所得税等に充当されたものとする処理を行った。

c 国税局長は、平成11年12月14日、国税徴収法67条1項に基づき、原告が株式会社T銀行(間々田支店取扱い)に対して有する定期預金及び確定利息計4529万7358円を振込みの方法により取り立て、上記振込みを確認した同月20日、振り込まれた日である同月14日に上記債権が本件源泉所得税等に充当されたものとする処理を行った。

d 国税局長は、平成11年12月20日、国税徴収法67条1項に基づき、原告が株式会社T銀行(小山東支店取扱い)に対して有する定期預金及び確定利息計2516万5466円を振込みの方法により取り立て、上記振込みを確認した平成12年1月7日、振り込まれた日である平成11年12月20日に上記債権が本件源泉所得税等に充当されたものとする処理を行った。

e 国税局長は、平成12年3月10日、国税徴収法67条1項に基づき、原告がE信用金庫(小金井支店取扱い)に対して有する普通預金1418万0043円を振込みの方法により取り立て、上記振込みを確認した同月14日、振り込まれた日である同月10日に上記債権が本件源泉所得税に係る延滞税に充当されたものとする処理を行った。

f 以上のとおり、被告は、原告から、本件源泉所得税等及び本件源泉所得税に係る延滞税として、合計1億0470万9656円を徴収した(以下「本件徴収」という。)。

(アないしオは争いのない事実)

(5)  原告による不服申立の経緯等

ア 原告は、平成11年2月10日、本件差押処分について、国税局長に対し、異議申立てを行ったが、国税局長は、同年3月24日付けで、上記異議申立てを棄却する決定をした。

(甲3)

イ 原告は、平成11年4月20日、本件差押処分について、国税不服審判所に対し、審査請求を行ったが、同審判所長は、同年10月18日、上記審査請求を棄却する旨の裁決を行った。

(甲3)

ウ 原告は、平成11年12月27日、国税局長を被告として、本件差押処分の取消しを求める訴えを、国を被告として、本件源泉所得税等の納付義務が存在しないことの確認を求める訴えをそれぞれ提起した。

エ 原告は、本件差押処分の執行が終了したことなどから、平成12年5月9日、国税局長を被告とする上記訴えについては、取り下げ、また、国を被告とする上記訴えについては、請求の趣旨を前記第1記載のとおりとする不当利得返還請求の訴えに変更した。

(ウ及びエは当裁判所に顕著な事実)

3  当事者双方の主張

(原告の主張)

(1) 国税局長は、前提となる事実記載のとおり、原告から合計1億0470万9656円を徴収した。

しかしながら、以下のとおり、原告は、乙に対する源泉徴収義務が発生するような行為を行っておらず、本件徴収の前提である本件源泉所得税等の納税義務が存在しない。

(2) 本件Fへの返済資金6532万3635円の支出について

ア 乙らは、地域でD分教会の布教、奉仕活動をするなかで、老人介護施設の必要性を痛感し、なんとか自らの手で老人ホームを作り、地域の老人介護を充実させたいと考えるようになった。

そして、乙らは、平成4年春ころから、栃木県の保健福祉部高齢対策課等に何度も相談し、アドバイスを受け、社会福祉法人を設立して特別養護老人ホームを作ることを計画した。用地の選択、施設の建設費等の見積、社会福祉・医療事業団からの融資申込、県等への補助金の申請・内示等の経過を経て、社会福祉法人設立認可のための最終的な計画は次のようなものであった。

a 支出

ⅰ 施設の整備事業費(建設費用及び備品費用) 7億2612万7000円

ⅱ 施設の建設用地の取得費用 1500万円

ⅲ 初年度の運営費用 1000万円

計 7億5112万7000円

b 収入

ⅰ 栃木県補助金(施設整備費) 3億4642万6000円

ⅱ 栃木県補助金(備品整備費) 2514万円

ⅲ 南河内町補助金 1億3285万6000円

ⅳ 社会福祉・医療事業団借入金 1億9000万円

ⅴ 共同募金会寄付金 250万円

計 6億8792万2000円

そして、上記収入と支出の差額(不足分)6320万5000円(整備事業費分3820万5000円、用地取得費用分1500万円、運営費用分1000万円)については寄付等でまかなうように、県から指導された。

イ しかし、乙らには、6000万円もの資産があるわけではなく、第三者から寄付を受けることも困難であったが、社会福祉法人設立当初の財産として上記6320万5000円が存在することが事実上認可の条件とされたため、乙らは、形式的に社会福祉法人代表理事就任予定者であった乙個人が第三者から金員を借り入れ、これを乙が社会福祉法人設立認可後に寄付する形式をとることで上記不足金を調達することとした。

そして、乙は、上記資金について、Fへ借入れを申し入れ、前提となる事実記載のとおり、本件Fからの借入れが実現した。

ウ このように、本件Fからの借入れは、形式的には乙個人がFから借り入れたものであるが、社会福祉法人設立認可後、原告が使用することを目的としており、借入時に原告は設立中で法人格を有しないため、形式的に乙個人が借主にならざるを得なかったものであり、実質的には原告の借入れであって、原告が設立登記によって法人格を取得した後は、形式的にも原告の借入れとなったものである。

そうであるとすれば、原告が、本件Fへの返済を行ったのは、原告自身の借入金を原告が返済したものであって、この行為をもって原告が乙に対し経済的利益を供与したということはできない。

したがって、原告が、乙に対し、本件Fへの返済資金相当額の賞与を給付したと認定することはできないというべきである。

(3) 本件D分教会借入金返済①及び同②に係る合計4529万3560円の支出について

ア 本件D分教会口座への入金経緯

D分教会は、平成5年10月ころ、E信用金庫本店からD分教会の借入金の返済を求められた。

そこで、丙は、原告には、本件Fからの借入れによる6320万5000円の資金があり、直ちにその資金を使用する必要がなかったため、原告からD分教会に対し、D分教会の借入れに係る返済資金を貸し付けることとした。

その結果、原告とD分教会との間で、平成5年10月25日ころ、D分教会がE信用金庫本店から借り入れた4500万円と利息を返済するための資金を原告が貸し付けること、この貸付金の返済期限は定めないこと、この貸付金の返済方法については、原告が同日以降負担する予定である原告の設立準備資金をD分教会が原告の代わりに支払うものとすることを合意した。

上記合意に基づいて、原告は、同年10月25日、D分教会に対し、4000万円を貸し付けた。

そして、D分教会は、同日、E信用金庫に対し、本件D分教会の借入れに係る元本の一部の4000万円を返済をした。

さらに、原告は、同年12月28日、D分教会に対し、529万3560円を貸し付け、これにより、D分教会は、同日、E信用金庫に対し、D分教会の借入れに係る残元金及び利息の529万3560円を返済をした。

このように、原告は、D分教会の借入金の返済資金合計4529万3560円をD分教会に貸し付けたのであって、D分教会は、後記のとおり、上記合意に基づいて、原告の負担する債務を原告に代わって支払うことにより、これらの貸付金を原告に完済している。

そうすると、本件D分教会借入金返済①及び同②に係る支出をもって、原告が乙個人に対する経済的利益を供与したということはできない。

したがって、原告が、乙に対し、本件D分教会借入金返済①及び同②に使用された金員相当額の賞与を給付したと認定することはできないというべきである。

イ D分教会の原告に対する返済状況

D分教会又はD分教会の代表役員である丙は、以下のとおり、原告が支払うべき債務を支払っている。そして、D分教会又は丙が原告の代わりに支払った金員の合計額は金7351万9178円であり、D分教会が原告から借入れた前記4529万3560円を上回っている。

a 設計監理業務報酬金500万円

原告は、Bの設計及び施工監理業務を有限会社U(以下「U」という)に、設計監理業務報酬金913万5000円で委託した。

D分教会は、平成5年11月18日、この設計監理業務報酬のうち金500万円を、原告に代わってUに支払った。

b 地質調査、図面代、各種申請書・見積書作成代金261万5000円

原告は、株式会社VにBの敷地の地質調査を委託し、この地質調査、図面代、各種申請書作成代金として金257万5000円の請求を受けた。

D分教会は、平成5年11月12日、原告の代わりに、株式会社Vに対し、上記代金257万5000円を支払った。また、D分教会は、平成6年4月7日、株式会社Vに対し、同社から原告が追加請求を受けた地質調査の見積書作成代金4万円を支払った。

c 井戸掘り・ポンプ代金266万7700円

原告は、井戸掘り工事を、W株式会社に発注し、同社は、井戸を掘り、井戸水をくみ上げるためのポンプを設置したが、その代金は266万7700円であった。

D分教会は、平成6年6月29日、原告の代わりに、W株式会社に対し、上記代金266万7700円を支払った。

d 上水道配水管敷設工事金803万4000円

原告は、W株式会社に上水道配水管敷設工事を発注し、同社は、平成6年7月28日から同年9月30日まで工事を行ったが、この請負工事代金は803万4000円であった。

D分教会は、上記請負工事代金として、同年10月19日に560万円、同年10月20日に243万4000円を、それぞれ、原告に代わって支払った。

e 下水道敷設工事代金780万円

原告は、下水道を敷設する工事を、有限会社Xに、請負代金780万円で発注した。

D分教会は、平成6年10月28日、原告に代わって、上記請負代金780万円を支払った。

f 電気工事追加代金500万円

原告は、Hから電気工事の追加代金として500万円を発電機の納入業者であるY株式会社に直接支払うよう求められた。

D分教会は、平成6年8月ころ、原告に代わって、上記代金500万円を支払った。

g 屋根銅板代金295万4738円

Bの屋根は、設計当時、鉄で葺く予定であったが、原告は、これを銅で葺くことに変更し、Hから、鉄板と銅板の差額の代金295万4738円(消費税金8万6060円を含む)を直接銅板瓦の納入業者であるFに支払うよう求められた。

D分教会は、平成6年5月ころ、原告に代わって、上記代金295万4738円を支払った。

h ネームプレート等代金130万円

原告は、平成6年、Bの塀に取り付けるネームプレートやB内部の各種プレートの作成をZに発注し、このネームプレート等の作成代金は130万円であった。

D分教会は、平成6年9月ころ、原告に代わって、ネームプレート等の代金130万円を支払った。

i 南河内町水道加入金72万1000円

Bが南河内町の水道を利用することなったため、原告は、水道加入金72万1000円を支払う必要があった。

D分教会は、原告に代わって、上記水道加入金72万1000円を支払った。

j 電話設備代金合計金44万9740円

原告は、aに対し、Bの電話設備の設置工事を発注した。

D分教会は、平成6年9月5日、原告に代わって、上記電話設備設置工事代金44万9740円を支払った。

k 塗装代金30万円

原告は、Hの塗装しなかった建物の壁の一部の塗装を、b株式会社に発注し、この塗装代金は30万円であった。

D分教会は、平成6年4月25日、原告に代わって、上記塗装代金30万円を支払った。

l 原告のE信用金庫借入金返済金3667万7000円

原告は、平成6年8月29日、Hへの本件施設建築工事に係る請負代金支払資金として、E信用金庫本店から2667万7000円を借り入れた。

また、原告は、平成6年10月27日、Hへの本件施設建築工事に係る請負代金支払資金として、Fから3500万円を借り入れ、利息を差し引いた3426万4192円が本件B口座に振り込まれた。

さらに、原告は、同年10月28日、Fからの上記借入金3500万円の一部返済のため、E信用金庫から1000万円を借り入れ、同年11月2日、Fに対し、1000万円を返済した。

D分教会は、上記E信用金庫からの2回の借入(2667万7000円及び1000万円)の元金及び利息を、原告に代わって支払っていたが、D分教会の代表役員である丙が、平成9年3月28日に2667万7000円の借入金の残全額を、同年11月28日に1000万円の借入金の残金額を、それぞれE信用金庫から借り入れるとともに、各同額をE信用金庫に支払って、原告の借入金返済を終了させた。

このように、D分教会又はその代表役員である丙が、原告に代わって、E信用金庫に対し、原告の借入金合計3667万7000円を支払った。

(4) 本件B口座払戻金2400万円について

原告は、前提となる事実記載のとおり、本件B口座から平成6年3月15日に1000万円、同月22日に500万円、同月29日に900万円、合計2400万円を払い戻し、一方、D分教会は、E信用金庫本店に同月16日に400万円、同月22日に500万円、同月29日には800万円の定期預金を開設し、また同月29日には金100万円がD分教会口座に入金されている。

しかし、D分教会は、同月29日、上記定期預金3口を、合計1700万円の定期預金1口にしたうえで、同年8月29日、この定期預金を解約し、利息を含む金1710万0414円を本件D分教会口座に入金し、同年9月6日、このうち金407万円を払い戻し、同額を本件A口座へ入金している。

また、D分教会は、同日、499万1405円を払戻し、これを乙B口座にいったん入金した上で、同日、原告がE信用金庫から借入れた前記2668万7000円と合わせて合計金3167万8405円を本件A口座に入金している。

このように、407万円と499万1405円の合計906万1405円は、明らかにD分教会口座から本件A口座に戻っていることになる。

さらに、前記のとおり、本件B口座払戻金の2400万円から、上記のとおり本件A口座に戻っている906万1405円を控除した金1499万38595円にほぼ見合う金額である1340万7279円が同年10月6日に本件B口座に入金されている。

そして、本件A口座及び本件B口座に戻った金員は、原告の事業のために費消されている。

以上のとおり、本件B口座払戻金2400万円は、後に原告口座に戻っており、それが原告の事業のために費消されているのである。

そうすると、本件B口座払戻金2400万円は、乙が個人的に費消したものではなく、本件B口座払戻金2400万円をもって、原告が乙に対し経済的利益を供与したということはできない。

したがって、原告が、乙に対し、本件B口座払戻金2400万円に相当する金額の賞与を給付したと認定することはできないというべきである。

(5) 仮装隠ぺいの事実がないこと

ア 本件B口座開設の経緯

原告の認可申請前の段階では、本件施設用地取得費用は1500万円とされ、平成5年6月26日付けで停止条件付売買契約まで締結していたが、原告設立認可後、平成5年11月になって、売主が、強引に売買代金の増額を要求し、5000万円でないと売らないと言ってきたため、原告として、これに応じざるを得ず、売買代金を5000万円とする土地売買契約を締結した。

その結果、本件施設用地取得費用として、増額分3500万円が不足する事態となった。

そこで、原告は、Hから短期的に5000万円を借り入れることとしたが、この借入れは、県に提出した計画外の借入れであったことから、Hからの借入金5000万円を本件A口座に入金することには問題があると考え、本件B口座を開設し、同口座への入金をHに依頼したものである。

本件B口座も原告名義で開設しており、原告として、これを隠匿する意図等は全くなかったから、本件B口座開設したことは、事実の隠ぺい、仮装には当たらないというべきである。

また、平成6年3月8日に送金した1億9000万円のうち、8958万9042円が返金されているが、これは、丙としては、5000万円の借入金の返済と請負代金の内金の趣旨で1億9000万円をHに送金したところ、Hにおいて、この時点では、請負代金の内金としては5000万円で足りるとし、借入金5000万円及びその利息41万0985円並びに請負代金内金5000万円の合計1億0041万0958円だけを受領し、差額8958万9042円を返金してきたものである。

そして、平成6年10月17日、同月19日、同月27日にHに支払った合計1億4000万円の領収書が存在しないのは、1億4000万円については、平成6年3月8日付け領収書が発行されていたからにすぎない。

したがって、本件B口座への8958万円9042円の返金をもって、事実の隠ぺい、仮装と評価することはできないというべきである。

イ 原告が本件A口座から、いったん1億3690万6005円を送金し、ほぼ同額を本件B口座に返金させたことについて

原告は、社会福祉法人として、栃木県と南河内町から補助金の交付を受けているところ、社会福祉法人が、地方公共団体から補助金の交付を受けたときは、地方公共団体の長による強い監督が及ぶものとされている(社会福祉事業法56条)。

そのため、丙は、原告の設立認可申請の際に県に提出していた計画書と見合った形で、決算報告しなければならないと考えていた。

ところが、①県に提出した計画によれば、寄付金等による自己資金として6320万5000円が存在しなければならなかったが、実際には、これは原告がFから借り入れることにより賄っていた点、②県に提出した計画段階では、本件施設用地取得費用は1500万円の予定であったのに、実際の本件施設用地取得代金は5000万円となっていた点、③県に提出した計画には見積もられていなかった諸費用が別途必要となった点において、県に提出した計画書と異なる事態が生じていた。

そこで、丙は、県に提出した計画にほぼ見合う形で、本件施設の整備事業費を支出した形式を整えるため、各業者からの領収書(1億3690万6005円分)を添付して、実績報告をすることとした。

このように、形式を整えるために、本件A口座からいったん送金し、本件B口座にほぼ同額の返金を受けたが、本件B口座に返金された金員を丙あるいは乙が個人的に費消したものではない。

したがって、これらの行為をもって、乙に対する賞与をしたとの事実を仮装、隠ぺいしたと評価されるべきではない。

(6) 結論

以上によれば、原告には、本件源泉所得税等を納付すべき義務はなく、本件徴収により被告が得た金員は、法律上の原因を欠いた不当利得であって、通則法56条1項の国税に係る誤納金に該当するから、原告は被告に対し還付を請求できる。

そして、被告は、法定の起算日の翌日から還付のための支払決定の日までの日数に応じ、上記誤納金に年7・3パーセントの割合を乗じた還付加算金を還付しなければならず、本件における起算日は誤納金の納付のあった日の翌日である。

よって、原告は、被告に対し、誤納金返還請求権に基づき誤納金1億0470万9656円並びに内金1003万0881円に対する平成11年11月25日から還付のための支払決定の日まで年7・3パーセントの割合による還付加算金、内金1003万5908円に対する平成11年11月27日から還付のための支払決定の日まで年7・3パーセントの割合による還付加算金、内金4529万7358円に対する平成11年12月15日から還付のための支払決定の日まで年7・3パーセントの割合による還付加算金、内金2516万5466円に対する平成11年12月21日から還付のための支払決定の日まで年7・3パーセントの割合による還付加算金及び内金1418万0043円に対する平成12年3月11日から還付のための支払決定の日まで年7・3パーセントの割合による還付加算金の各支払を求める。

(被告の主張)

(1) 源泉徴収による所得の納税義務の発生

原告は、Hに対し、本件施設建設工事に係る請負代金合計額である5億8592万3000円のほかに、1億4000万円もの支払を行っているが、この1億4000万円は、原告がHから借り入れて本件B口座に振り込まれた5000万円及びその利息41万0958円と、平成6年3月14日にHから本件B口座に振り込まれた8958万9042円の合計額であると認められる。

原告は、補助金の振込みなどに使用する口座として公表している本件A口座と、公表外の本件B口座を使い分けて資金操作し、Hに対する1億4000万円の支払資金を捻出するため、前提となる事実記載のとおり、本件A口座から、造成工事、什器、備品購入等の代金として合計1億3690万6005円を支払ったかのように仮装し、実際には、本件B口座にその返金を受けているところ、これらは、本件Fへの返済資金、本件D分教会借入金返済①及び同②の資金、並びに本件B口座払戻金を捻出するためであったと認められる。

そして、原告の代表理事であった乙は、原告がこのようにして作出した公表外の資金のうち、本件Fへの返済に使用した6532万3635円、本件D分教会返済①に使用した4000万円、本件D分教会返済②に使用した529万3560円、本件B口座払戻金2400万円の合計1億3461万7195円(以下「本件金員」という。)について、個人的に費消したものと認められる。

したがって,原告の本件金員の支出は、乙に対する臨時的給与すなわち賞与と認定すべきであり、原告には、乙に対する本件金員の支払について源泉徴収すべき義務がある。

ア 本件Fへの返済について

a 本件贈与契約書によれば、乙は、原告の社会福祉法人設立が認可されたときは、土地取得資金として1500万円、建物整備費として3820万5000円、運営費として1000万円の合計6320万5000円を原告に贈与することを約し、丁は、これを承諾したことが認められる。

そして、前提となる事実記載のとおり、Fは、6500万円を貸し付けることを承諾し、乙名義の口座である本件乙口座に、利息を差し引いた6323万3000円を入金し、原告が社会福祉法人として設立を認可された後の同年10月22日、同日開設された本件A口座に、乙から原告に贈与を約したのと同額の6320万5000円が預け入れられている。

以上によれば、乙は、原告に6320万5000円を贈与(寄付)するために、乙個人として、Fから6500万円を借り入れたものと認められる。

b ところが、原告は、前提となる事実記載のとおり、本件B口座から、平成6年3月15日に6500万0309円、同月22日に32万3326円の合計6532万3635円を払い戻した上、同月15日に6515万5154円、同月22日に32万3017円の合計6547万8171円をFに対して支払っており、原告の資金を使って、本件Fへの返済が行われたものと認められる。

そうすると、本件Fへの返済として使用された6532万3635円は、原告の金員を、乙が、乙固有の借入金返済のために個人的に費消したものと認められる。

以上によれば、原告は、乙に対する賞与として上記6532万3635円を支払ったもの認定されるべきである。

イ 本件D分教会借入金返済①及び同②について

a 原告は、前提となる事実記載のとおり、平成5年10月25日、本件A口座から、同日付残高6320万5000円のうち5320万5000円を払い戻しているところ、本件D分教会口座には、同日、同金額の金員が預け入れられ、D分教会は、同日、本件D分教会口座から、D分教会の借入れ係る元金の一部4000万円を返済している。

上記の事実からすれば、原告に帰属している金員である4000万円が、本件D分教会借入金返済①に充てられたものと認められる。

b 原告は、前提となる事実記載のとおり、平成5年12月28日、本件B口座から、同日付け残高5000万1000円のうち600万円を払い戻しているところ、本件D分教会口座には、同日、同金額の金員が預け入れられ、D分教会は、本件D分教会口座から、D分教会の借入れに係る529万3560円を返済している。

上記の事実からすれば、原告に帰属する金員529万3560円が、本件D分教会借入金返済②に充てられたものと認められる。

c 以上のとおり、本件D分教会借入金返済①及び同②に充てられた金員(合計4529万3560円)は、いずれも原告の資産から支出されたものと認められるが、D分教会固有の借入金につき原告が返済すべき合理的理由は何ら見当たらないところ、原告の代表権を有する理事である乙がD分教会の役員を務めており、また、原告の事務長である丙がD分教会の代表役員を務めていることに照らせば、上記のとおりD分教会の借入れに係る返済に充てられた金員は、乙が、D分教会のために、原告の金員を個人的に費消したものと認められる。

したがって、原告は、乙に対する賞与として上記6532万3635円を支払ったもの認定されるべきである。

ウ 本件B口座払戻金2400万円について

a 原告は、前提となる事実記載のとおり、平成6年3月15日に1000万円、同月22日に500万円、同月29日に900万円、合計2400万円を払い戻している。そして、D分教会は、同月15日に400万円、同月22日に500万円、同月29日に800万円のD分教会名義の定期預金口座を開設し、また、同月29日には、本件D分教会口座へ100万円が頂け入れられている。

ところで、原告は,Hに対する請負工事代金として1億9000万円を本件A口座からいったん支払った形を取りながら、その一部(8958万9042円)を原告の公表外の口座と推認される本件B口座に振り込ませたている。

そして、上記8958万9042円のうち6532万3635円を、前記のとおり本件Fへの返済に充て、残額のほぼ全額(2400万円)を上記のとおり、順次払い戻し、そのうち1700万円について、本件D分教会名義定期預金口座開設に使用したものと認められる。

b 本件B口座払戻金2400万円のうち1700万円について

上記の事実からすれば、本件D分教会名義定期預金口座開設の原資は、原告の資産から支出されたものと認められるが、原告の資産をもってD分教会義の定期預金を開設すべき合理的理由は何ら見当たらないところ、原告の代表権を有する理事である乙がD分教会の役員を務めており、また、原告の事務長である丙がD分教会の代表役員を務めていることに照らせば、本件D分教会名義定期預金口座開設の原資となった金員は、乙がD分教会のために、原告の金員を個人的に費消したものと認められる。

したがって、原告は、乙に対する賞与として上記1700万円を支払ったもの認定されるべきである。

c 本件B口座払戻金2400万円のうちの700万円について

本件B口座払戻金2400万円のうち、上記のとおり本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された1700万円を除く残額700万円(以下「本件使途不明金」という。)の使途については、調査によるも明らかにされなかった(なお、本件使途不明金のうち100万円については、本件D分教会口座へ預け入れられたものと認められるが、その後の使途は不明である。)。

ところで、会社の簿外預金の払出金の使途が明らかでない場合に、当該会社の代表者等に対する賞与の支給があったと認定するか否かについて、裁判例は、①代表者等が支配する個人会社ないし同族会社であり、代表者が会社の預金等当該資産を自由にし得る地位にあること、②当該資産が売上除外等による会社の簿外資産であるか、資産の社外流出の際仮装経理が行われていること、③当該資産の使途が不明である(使途について合理的な説明がない)こと、④代表者が他の簿外資産について私的費消等個人的に取得したことがあることなどを手がかりとして、代表者等に対する賞与の支給があったと推認すべきことを認めている。

そして、本件についても、以下のような事実に照らし、本件使途不明金は、乙の賞与と認定すべきである。

(a) 原告内部における乙らの地位ないし立場及び乙らの支配管理の状況

原告は、平成5年10月14日、社会福祉事業法に基づき設立された社会福祉法人であるところ、設立認可申請書には、「役員となるべき者」として、乙、その夫である丙及び乙らの長男である丁を含めて13名の理事及び2名の監事の氏名が記載されているものの、代表権のある理事は乙一人であり、丙が事務長を、丁が施設長をそれぞれ務めていることからすれば、原告内部における乙、丙、丁の3名の親族の地位ないし立場が形式上のみならず実質的にも強大であったことがうかがわれ、原告は、事実上乙らが支配する個人会社ないし同族会社と同視し得る状況にあったものと推測される。

そして、原告においては、設立当初から、理事の乙ないし事務長の丙が原告の預金等の資産を自由にし得る地位ないし立場にあり、また、現実においても、乙、丙及び丁が自らの判断によって自由に原告の金員の移動を行っていたと認められる。

(b) 本件使途不明金の性質等について

本件使途不明金は、前述のとおり、原告の公表外の口座である本件B口座から払い戻された金員であり、本件使途不明金に見合う原告の簿外資産は確認できていない。

(c) 本件使途不明金に関する原告の説明等について

本件調査を担当した宇都宮税務署調査官dは、原告の源泉所得税に係る調査のため本件施設に臨場するも、事務長であり経理の責任者である丙が不在であったり、丙から平成6年分以前の原告の帳簿書類等は廃棄した旨の申立てがあったり、丙からも帳簿書類等の保存がないことなどを理由に調査への協力を得られなかったため、やむを得ず金融機関及び取引先等に対する調査を実施した上で、原告に対し、再三再四、調査で把握した事実の内容を説明してその確認を行うとともに、帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、原告からは、納得できる合理的な説明も、帳簿書類等の提示も得ることができなかったものである。

なお、原告は、本訴においては、本件B口座払戻金2400万円に関し、本件D分教会口座から、同年9月6日に本件A口座に906万1405円、同年10月6日に本件B口座に1340万7279円が入金されているところ、このように本件D分教会口座から本件A口座及び本件B口座に戻った金員は、原告の事業のために費消されているのであるから、これを乙の賞与と認定することはできない旨主張する。しかし、原告の上記主張が、原告が上記金員をD分教会に貸し付け、後日その返済を受けたとの趣旨であるとすれば、D分教会が上記金員の一部をあえて定期預金にしていることは不自然であるし、原告からは、かかる合意がされたこと及び原告に戻ったとする金員がその後原告の事業のために費消されたことの根拠が何ら示されていないのであるから、かかる主張についても失当である。

(2) 給与所得の収入すべき時期について

ア 所得税法36条は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の額)とする旨規定し、さらに、同条の取扱いを定めた所得税基本通達36-9は、給与所得の収入金額の収入すべき時期について、「契約又は慣習により支給日が定められている給与等についてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日」による旨定めている。また、同通達は、「いわゆる認定賞与とされる給与等で、その支給日があらかじめ定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについては現実にその支給を受けた日(その日が明らかでない場合には、その支給が行われたと認められる事業年度の終了の日)」を収入すべき時期としている。

したがって、法人が売上等を除外し、代表者等がこれを代表者等の預金通帳に預け入れし、又は、代表者等がこれを個人的経費に支出した場合においては、当該預け入れ又は支出があった日が給与所得の収入すべき時期となる。

イ これを本件金員についてみると、乙が、自身のFからの借入金を返済した日、D分教会の借入金を返済した日、D分教会の定期預金として預け入れをした日及び本件使途不明金を支出した日が、それぞれ本件金員に係る給与等の支給を受けた日となる。

ウ 以上によれば、原告が、乙への臨時的給与(賞与)について源泉徴収すべき税額は次のとおりである。

a 原告から乙に支給した臨時的給与の支給額総額1億3461万7195円

(a) 平成5年10月25日

本件D分教会借入金返済①相当額の4000万円

(b) 平成5年12月28日

本件D分教会借入金返済②相当額の529万3560円

(c) 平成6年3月15日

本件Fへの返済相当額6500万0309円

本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された400万円

本件B口座からの払戻金相当額の600万円

(d) 平成6年3月22日

本件Fへの返済相当額の32万3326円

本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された500万円

(e) 平成6年3月29日

本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された800万円

本件B口座からの払戻金相当額の100万円

b 源泉所得税総額6103万5066円

(a) 平成5年10月25日 1835万2998円

(b) 平成5年12月28日 204万0972円

(c) 平成6年3月15日 3480万3138円

(d) 平成6年3月22日 205万4958円

(e) 平成6年3月29日 378万3000円

上記各金額は、所得税法186条1項2号ロの規定に基づき上記a(a)ないし(e)のそれぞれの金額の6分の1に相当する金額に応ずる所得税法別表第2(ただし、平成6年法律第109号附則5条により、同法による改正前のもの。)の乙欄に掲げる税額に6を乗じて計算した金額に相当する税額である。

(3) 本件告知処分の適法性

本件告知処分に係る納付すべき税額は、別表「本件係争月分に係る納税告知処分等の経緯」のとおりであり、既に成立した前記税額の範囲内であるから、本件告知処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分の適法性

原告は、Hから工事代金の一部(8958万9042円)を払い戻させ、本来Hに支払うべき上記金額相当額については、別途本件施設に係る造成工事及び什器・備品の購入等を仮装することにより捻出した金額(1億3690万6005円)等をもって充当することを計画した上、Hに払い戻させた上記金額をもって、乙への臨時的な給与等として支給していたにもかかわらず、その支給について源泉所得税をその法定納期限までに納付しなかった。

上記事実は、通則法68条3項に規定する「納税者が事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったとき」に該当する。

そうすると、原告が本件告知処分に係る源泉所得税の額を法定納期限までに納付しなかったことは、通則法67条3項に該当し、また、原告に通則法67条1項ただし書の「正当な理由」があるとは認められないから、通則法68条3項の規定に基づき重加算税の額を計算すると、以下のとおりである。

ア 重加算税の基礎となる税額

a 平成5年10月分 1835万円

b 平成5年12月分 204万円

c 平成6年3月分 4064万円

上記各金額は、本件告知処分により納付すべき本件各係争月分の源泉所得税の額(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数切り捨て後の金額)である。

イ 重加算税の金額

a 平成5年10月分 642万2500円

b 平成5年12月分 71万4000円

c 平成6年3月分 1422万4000円

上記金額は、通則法68条3項の規定に基づき、不納付加算税に代え、前記アの金額に100分の35の割合を乗じて算出した金額(通則法119条4項の規定に基づき100円未満の端数切り捨て後の金額)である。

ウ 被告が本訴において主張する原告が納付すべき重加算税の金額は上記のとおりであり、本件賦課決定処分による納付すべき重加算税の額は、別表記載のとおりであり、上記各金額の範囲内であるから、本件賦課決定処分は適法である。

(5) 還付加算金の割合について

原告は、還付加算金の割合を7・5パーセントと主張しているが、還付加算金の割合については、平成12年1月1日に施行された租税特別措置法95条(平成11年法律第9号)により特例が定められ、租税特別措置法93条1項に規定する各年の特例基準割合とすることとされた。

そして、平成11年11月30日を経過するときにおける特例基準割合は4・5%であって年7・3%に満たないから、平成12年1月1日以降の還付加算金の割合は年4・5%である。

4  争点

以上によれば、本件の争点は次のとおりである。

(1)  本件Fからの借入れは乙個人が行ったものであるとして、本件Fへの返済に使用した6532万3635円を原告の乙に対する賞与と認定すべきか (争点1)

(2)  本件D分教会借入金返済①及び同②に使用した合計4529万3560円を原告の乙に対する賞与と認定すべきか。 (争点2)

(3)  本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された1700万円及び本件使途不明金700万円を原告の乙に対する賞与と認定すべきか。 (争点3)

(4)  原告が、本件金員を賞与として乙に給付した事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したといえるか。 (争点4)

第3当裁判所の判断

1  争点1について

(1)  原告は、乙が、原告の設立代表者であって、設立中の社会福祉法人の執行機関として、法人設立の目的の範囲内で原告の代表権限を有していることから、乙の行った行為による権利義務は、実質的に設立中の社会福祉法人に帰属し、法人が成立すると、形式的にも成立した法人の権利義務になるものであるとして、本件Fからの借入れは、乙が原告の設立代表者として行った行為であり、実質的には原告に帰属する行為であって、原告が法人格を取得した後は、形式的にも原告に帰属することになったものであると主張する。

そこで、本件Fからの借入れが、実質的には原告に帰属する行為であったのか、あるいは、実質的にも乙個人に帰属する行為であったのかについて検討する。

(2)  証拠等によれば、栃木県保険福祉部高齢対策課が発行している老人福祉施設建設の手引きにおいて、社会福祉法人施設建設のための資金計画について「建設自己資金(土地取得費等含む。)が十分確保できるだけの財源があること。借入する場合は、償還額を滞ることなく返済できるだけの財源があること。社会福祉・医療事業団以外の民間の金融機関からの借入は認めていません。原則として施設運営費(措置費)の中からの返済はできません。従って、建設費及び借入金返済のために投資した自己資金(寄附金)は、後で取り戻すことができません。」と明記されていること(乙28)、乙らは、社会福祉法人として原告の設立認可を受けるためには、6320万5000円の自己資金が必要であると県から指導を受けていたこと(証人丙)、乙は、Fに対し、6500万円の借入れを申し入れ、Fはこれを承諾し、乙名義の本件乙口座に、利息を差し引いた6320万3000円を振り込んだこと(前提となる事実)、乙と丁の間において、原告が設立された後、乙から原告に対し、土地取得資金等を贈与する旨の本件贈与契約書が作成され、同書面及び乙の残高証明書を添付した社会福祉法人設立認可申請書が提出されていること(前提となる事実)、原告の設立認可後、乙の口座から6320万5000円が払い戻され、原告名義の本件A口座に6320万5000円が振り込まれたこと(前提となる事実)、Fの代表取締役社長であるe自身、「乙さんに、6500万円を、返済期限を平成6年3月末日として貸し付けました。」と述べていること(甲28)が認められる。

(3)  これらの事実を総合すると、乙は、原告の設立認可を受けるための条件とされていた原告の自己資金を調達するために、原告設立代表者としてではなく、乙個人固有の借入れとして6500万円をFから借り入れて、原告に対し、6320万5000円を贈与(寄付)したものと認められるから、本件Fからの借入れは、名義上というだけでなく、実質的にも乙個人が借主となり、乙個人に帰属する行為として行われたものというべきである。

(4)  これに対し、原告は、丙や乙のような法律の素人に設立中の社会福祉法人の名において行為を行うことを厳格に求めるのは不可能であるとして、本件Fからの借入れは、乙個人名で行われているが、実際には、F自身も、設立後の社会福祉法人のために使用されていることを認識し、乙も丙も設立前の原告が借りたという認識で、本件Fの借入れを行ったものであると主張し、証人丙もその旨の供述をしている。

しかし、乙は、原告が法人格を取得する以前においても、本件施設用地に係る土地売買契約書(平成5年6月26日付けのもの)において、買主の名義として「社会福祉法人A設立代表者乙」と明記した上で、契約締結していることからすれば(甲10の4)、乙は、設立中の社会福祉法人の設立代表者としての行為については、その旨名義上も明らかにした上で契約締結等の行為を行っていたことが認められる。

そうであるとすれば、乙らは、乙個人名で行った本件Fからの借入れは、その権利義務が、乙個人に名実ともに帰属することを認識していたと認めるのが相当であり、これに反する証人丙の供述は措信し難く、原告の上記主張は採用できない。

また、原告は、乙と原告の理事予定者丁との間の贈与契約書は、形式上作成したにすぎないと主張し、証人丙もその旨の供述をしている。

しかし、前記のとおり、原告が設立認可を受けるためには、原告に自己資金として6320万5000円が存在していることが必要とされていて、原告が資金を民間企業から借り入れることは許されていなかったことからすれば、原告にとって、乙から6320万5000円の贈与を受けることが実質上、必要不可欠であったと認められるから、贈与契約書作成は形式にすぎなかった旨の証人丙の供述は措信し難く、原告の上記主張は採用できない。

(5)  以上によれば、本件Fへの返済は、乙個人が負っている債務の返済であるというべきであり、原告は、本件Fへの返済資金として6532万3635円を支出したことによって、乙個人に対して同額の経済的利益を供与したと認めるのが相当である。

したがって、原告は、本件B口座から6500万0309円を払い戻してFへ返済した平成6年3月15日、本件B口座から32万3326円を払い戻してFへ返済した同月22日、それぞれ、乙に対し、上記各同額の経済的利益を供与したと認められ、これらは、いずれも原告の乙に対する賞与と認定されるべきものと認められる。

2  争点2について

(1)  前提となる事実記載のとおり、原告の資金をもって、本件D分教会借入金返済①及び同②が行われている。

この点、原告は、原告には、当面6320万5000円の資金を使用する必要がなかったことから、原告が、D分教会に対し、返済期限の定めなく、本件D分教会借入金返済①及び同②に必要な資金を貸し付けたものであり、D分教会は、原告が支払うべき債務をD分教会が支払う方法により、上記貸付金相当額を原告に返済したと主張し、証人丙は、その旨の供述をしている。

しかし、原告とD分教会との間において上記のような消費貸借契約を締結したことを裏付けるような客観的な証拠は何ら提出されていないこと、前提となる事実記載のとおり、原告は、平成5年12月24日、本件施設用地に係る土地売買代金の支払に窮してHから5000万円を借り入れていることなどに照らすと、上記6320万5000万円の資金は原告のために必要な資金であったと認められること、原告が主張する、原告の債務をD分教会が代わって支払うという返済方法は不自然であり、そのような合意が成立したとはにわかに措信できないこと、原告が支払うべき債務をD分教会が支払っていたと認めるに足りる証拠はなく、D分教会が、本件D分教会返済①及び同②に使用された資金を原告に返済したとの事実は認められないこと(後記(2))、証人丙は、D分教会は、平成2年に借り入れた4500万円の元本を平成5年に至っても返済できていなかったと供述する一方で、本件D分教会借入金返済①及び同②の資金として原告から借りた4529万3560円については、年間1000万円ずつ位を原告に返済するつもりでいたと供述するが、年間1000万円もの返済が可能なのであれば、そもそも、D分教会の借入金の返済資金をわざわざ原告から借りる必要性がなかったはずであって、その供述内容自体、一貫性を欠いていることなど照らすと、証人丙の上記供述はにわかに措信し難く、原告がD分教会に本件D分教会返済①及び同②の資金を貸し付けたとの事実を認めることはできない。

(2)  D分教会が、原告に代わって原告の債務を支払ったとの主張について

ア 設計管理業務報酬500万円について

原告は、平成5年11月18日にUに対して支払われた設計管理業務報酬500万円の支払原資は、本件D分教会口座から平成5年10月25日に払い戻された700万円の一部であるから、D分教会が上記報酬500万円を原告に代わって支払ったと主張する。

しかし、証拠によれば、平成5年10月25日に、原告資金から5320万5000円が入金されるまでの本件D分教会口座の残高は14万6389円にすぎないことが認められるから(乙6)、同日に同口座から払い戻された上記700万円は、D分教会の資金ではなく、原告の資金(5320万5000円から、本件D分教会借入金返済①に使用された4000万円を差し引いた残額1320万500円)の一部であったと推認され、D分教会が原告に代わって上記報酬500万円を支払ったとの主張は、前提を欠いており失当である。

イ 地質調査、図面代、各種申請書作成代金257万5000円について

原告は、平成11年11月12日に地質調査費用等として株式会社Vに対して支払われた257万5000円の支払原資は、本件D分教会口座から平成5年11月12日に払い戻された257万5000円であるから、D分教会が上記費用を原告に代わって支払ったと主張する。

しかし、本件D分教会口座には、上記のとおり平成5年10月25日に5230万5000円が入金されてから、上記257万5000円が払い戻されるまでの間に、新たな入金はなかったことが認められるから(乙6)、本件D分教会口座から払い戻された上記257万5000円も、D分教会ではなく原告の資金の一部であったと推認され、上記費用257万5000円をD分教会が原告に代わって支払ったとの主張は、前提を欠いており失当である。

ウ 地質調査見積書作成代金4万円、井戸掘り・ポンプ代金266万7700円、上水道配水管敷設工事費用803万4000円及び下水道敷設工事代金780万円について

①地質調査見積書作成代金として、平成6年4月7日に支払われた4万円、②井戸掘り・ポンプ代金として、平成6年6月29日にW株式会社に支払われた266万7700円、③上水道配水管敷設工事費用として、平成6年10月19日にW株式会社に支払われた560万円及び同月20日に支払われた243万4000円、④下水道敷設工事代金として平成6年10月28日に有限会社Xに対して支払われた780万円について、原告は、上記各支払日ころには、原告名義の口座に、上記支払に該当するような出金記録がないことから、原告ではなく、D分教会が支払ったものであると主張しており、証人丙はその旨供述し、また、上記支払の領収書等として、甲13の2、甲14の1、甲15の2、甲26及び甲27を提出している。

しかし、証人丙の供述からは、D分教会が上記各支払額合計1294万1700円もの多額の金員をどのように調達したのか明らかではなく、原告が提出した上記証拠(甲13の2、14の1、15の2、26、27)をみても、D分教会が原告に代わって支払ったとの事実を窺わせるものではないから、証人丙の上記供述は、にわかに措信し難く、他に、上記事実を認めるに足りる証拠はないというほかない。

エ 電気工事追加代金500万円について

原告は、D分教会が、平成6年8月ころ、原告に代わって、Y株式会社に対して電気工事追加代金として500万円を支払ったと主張し、証人丙は、その旨供述する。

しかし、上記支払については、そのような支払がされたこについて客観的に裏付ける証拠すら提出されておらず、また、D分教会が、上記各支払資金をどのように調達したかについても明らかにされていないことから、証人丙の上記供述はにわかに措信し難く、他に上記事実を認めるに足りる証拠もない。

オ 屋根銅板代金295万4738円、ネームプレート代金130万円、南河内町水道加入金72万1000円、公衆電話設備代金44万9740円及び塗装代金30万円について

原告は、D分教会が、原告に代わって、Fに対して屋根銅板代金として295万4738円を、Zに対してネームプレート代金として130万円を、南河内町水道課に対し水道加入金として72万1000円を、aに対し公衆電話設備設置工事代金として44万9740円を、b株式会社に対し塗装代金30万円を、それぞれ支払ったと主張して、甲16ないし18、甲31の1・2、甲34及び甲35を提出し、証人丙もその旨供述している。

しかし、上記各証拠(甲16ないし18、31の1・2、34、35)をみても、D分教会が上記各支払を行ったことを窺わせるような記載はなく、D分教会が上記各支払原資をどのように調達したのかについては、証人丙の供述によっても明らかではないことからすると、証人丙の上記供述についても措信し難く、他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。

カ 原告のE信用金庫借入返済金3667万7000円について

原告は、原告の合計3667万7000円の債務をD分教会代表者である丙が肩代わりすることによって、D分教会が原告に同額を返済した旨主張し、証人丙は、原告が、E信用金庫本店から借り入れた2667万7000円及び1000万円の合計3667万7000円の元金及び利息の返済は、丙が行ってきたのであって、平成9年3月28日に2667万7000円の借入金残金を丙個人がE信用金庫から借り入れた上、原告の借入金残債務の返済として支払い、また、同年11月2日に1000万円の借入金残金を丙個人がE信用金庫から借り入れた上、原告の借入金残債務の返済として支払って、原告のE信用金庫に対する借入金債務の返済を終了させたと供述している。

そこで検討するに、証拠によれば、原告が、E信用金庫本店から、平成6年8月29日に2667万7000円を、同年10月28日に1000万円を、それぞれ借り入れたこと(甲5、19、20)、丙個人が、E信用金庫本店から、平成9年3月28日に2404万9285円を、同年11月28日に450万円を、それぞれ借り入れたこと(甲22、23)、原告のE信用金庫本店に対する借入債務は平成12年7月14日の時点では0円となっていることが認められる。

しかし、原告のE信用金庫本店に対する借入債務を丙個人が支払ったことを裏付ける客観的証拠は何ら提出されておらず、原告のE信用金庫本店に対する債務の返済と、丙個人のE信用金庫本店からの借入れとの間に何らかの関係があることを窺わせる証拠も存しないことからすると、証人丙の上記供述も、にわかに措信し難く、他に上記事実を認めるに足りる証拠もない。

(3)  以上のとおり、原告がD分教会に対し、本件D分教会借入金返済①及び同②を行う資金合計4529万3560円を貸し付けたとの事実は認められず、その他、原告がD分教会に代わって、本件D分教会借入金返済①及び同②を行うべき合理的な理由を窺わせる事情は認められない。

そして、証拠等によれば、乙分教会は、D分教会の役員であり、また、D分教会の代表役員を務める丙の妻であったこと(前提となる事実)、丙は、D分教会の借入れに係る返済期限が過ぎていたため、E信用金庫からその返済を求められていたこと(証人丙)、乙は、原告の設立当時から平成10年12月30日まで、原告の代表権を有する理事を務めており、原告の資金繰り及び経理を担当していたのは乙の夫丙であること(前提となる事実)、実質的に、原告は、乙及びその家族が運営する法人であって、乙らは、原告の資金移動を自由に行える立場にあったこと(弁論の全趣旨)が認められる。

これらの事情を総合考慮すると、原告は、原告の資金をもって、本件D分教会借入金返済①及び同②を行うことにより、乙に対し、これらの返済金相当額4529万3560円の経済的利益を供与したと認めるのが相当である。

したがって、原告は、本件D分教会借入金返済①として4000万円を支払った平成5年10月25日、及び、本件D分教会借入金返済②として529万3560円を支払った同年12月28日、それぞれ、乙に対し、上記各同額の経済的利益を供与したと認められ、これらは、いずれも原告の乙に対する賞与と認定されるべきものと認められる。

3  争点3について

(1)  本件D分教会名義定期預金口座開設について

前提となる事実記載のとおり、本件B口座から払い戻された合計2400万円のうち1700万円が、本件D分教会名義定期預金口座開設に使用されている。

そして、原告の資金を、D分教会名義の定期預金として預ける合理的な理由は何ら存在しないこと、前記のような乙とD分教会との関係及び原告における乙の地位等を総合考慮すると、原告は、本件D分教会名義定期預金口座開設資金を支出することによって、乙らが役員等を務めるD分教会、D分教会名義の合計1700万円の定期預金口座が開設させ、もって、乙に対し、同額の経済的利益を供与したものと認めるのが相当である。

したがって、原告は、本件B口座払戻金2400万円によって本件D分教会名義定期預金口座開設を行った平成6年3月15日(400万円)、同月22日(500万円)及び同月29日(800万円)に、それぞれ、乙に対し、上記各同額の経済的利益を供与したと認められ、これらは、いずれも原告の乙に対する賞与と認定されるべきものと認められる。

(2)  本件使途不明金について

ア 本件B口座払戻金2400万円のうち700万円の使途について

本件B口座払戻金2400万円のうち、本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された1700万円を除く残金700万円の具体的な使途について、原告は、首肯するに足りる合理的な説明を行っておらず、上記700万円の使途は不明というほかない。

これに対し、原告は、本件B口座払戻金2400万円は、いずれも、原告の事業に使用されたのであって使途不明などではないと主張するが、本件B口座払戻金2400万円のうち、本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された1700万円を除く700万円について、いつ、どのような原告の事業のために、誰に対して支払ったのかなどの具体的な説明は一切されていないことからすると、上記700万円の使途は不明でないとの原告の主張は到底採用できない。

イ 本件使途不明金700万円の発生経緯

前提となる事実によれば、原告は、平成6年3月8日に、Hに対し、いったん、1億9000万円を支払っており、Hから、本件施設に係る請負代金として1億9000万円を受領した旨の同日付け領収書の発行も受けているにもかかわらず、Hは、請負代金としては5000万円のみを受領し、5041万0958を貸付金の返済として受領した上、同月14日、8958万9042円を本件B口座に振り込んで返金していることが認められる。

このようにして本件B口座に振り込まれた8958万9042円のうち、6532万3635円が本件Fへの返済として使用され、残金2426万5407円のうち、2400万円が本件B口座払戻金として払い戻され、本件B口座払戻金2400万円から、本件D分教会名義定期預金開設に使用された1700万円を除いた残金700万円が本件使途不明金である。

このように、本件使途不明金700万円は、平成6年3月8日に、本件施設に係る請負代金としてHに1億9000万円を支払ったかのように仮装した上で、実際には返金を受けることによって本件B口座に作出された8958万9042円から生じたものであると認められる。

これに対し、原告は、Hから8958万9042円の返金を受けた理由について、丙としては、請負代金として1億9000万円を送金したが、Hが、その段階では、請負代金の内金としては5000万円で足りるとして、5000万円の借入金とその利息を除いた残金8958万9042円を返金してきたにすぎず、事実の隠ぺい、仮装ではないと主張し、証人丙はその旨供述する。

しかし、Hにおいていったん送金を受けた請負代金を自発的に返金すること自体不自然である上、事実と異なる平成6年3月8日付けの1億9000万円の領収書が発行された理由も明らかではないことなどに照らし、証人丙の上記供述は措信し難く、原告の上記主張は採用できない。

ウ 本件A口座からの架空の出金と本件B口座への資金捻出

前提となる事実によれば、原告は、本件A口座から各業者にいったん送金して、架空の支払があったかのように仮装した上で、直後に各業者から本件B口座に返金を受けるという資金繰りを繰り返すことによって、本件B口座に合計1億3149万2563円(原告においていったん送金した金額の合計額は1億3690万6005円)の金員を作出していることが認められる。

そして、前記のとおり、原告が乙の賞与として支出したと認められる本件Fへの返済資金6532万3635円、本件D分教会借入金返済①及び同②に使用された合計4529万3560円、本件D分教会名義定期預金口座開設に使用された1700万円の合計額1億2761万7195円に、本件使途不明金700万円を加えると、1億3461万7195円となり、本件B口座に作出された上記金員に近似した金額となることが認められる。

このような事実に照らすと、原告が、本件A口座からの送金と本件B口座への返金という一連の資金操作を行ったのは、本件Fへの返済資金、本件D分教会借入金返済①及び同②の資金、本件D分教会名義定期頂金口座開設資金及び本件使途不明金の700万円を作出するためであったことが窺われる。

これに対し、原告は、本件B口座に作出された約1億3149万2563円は、本件Fへの返済分約6500万円のほか、本件施設用地取得費用の増額分3500万円、乙らが県に当初提出した計画には見積もられていなかった諸費用などに使用されたのであって、原告が上記のような資金繰りを行ったのは、県に提出した計画に見合う決算報告をするためであったと主張し、証人丙はその旨供述する。

しかし、原告の主張する当初提出した計画には見積もられていなかった諸資用とは、具体的に何であるのかは明らかではなく、そのような計画外の諸費用の存在を裏付ける証拠も提出されていない。また、前提となる事実記載のとおり、本件施設用地取得費用として、当初計画よりも3500万円の増額が生じたとことは認められるが、他方で、原告は、前記認定のとおり、当初計画にはない借入れとして、E信用金庫本店からの合計3667万7000円の借入れを行っている事実も認められることからすると、当初計画になかった本件施設用地取得費用の増額分を捻出するために、本件B口座に1億3149万2563円もの金員を作出したとする証人丙の供述は措信し難く、原告の上記主張は採用できない。

エ 以上のとおり、原告が乙らの家族によって運営された法人であって、原告の資金移動は乙及びその家族らに支配されていたと認められること、本件使途不明金は、架空の支出を仮装するなどの資金操作によって生じたものであること、原告がこのような資金操作を行った理由は、本件Fへの返済資金、本件D分教会借入金返済①及び同②の資金、本件D分教会名義定期預金口座開設資金並びに本件使途不明金の700万円を捻出するためであったと窺われること、原告は、本件使途不明金の使途について合理的な説明を現在まで行っていないことが認められ、これらの事実を併せ考慮すると、本件使途不明金700万円は、原告の代表者理事である乙が取得したと推認するの合理的であるというべきである。

したがって、原告は、本件B口座から本件使途不明金のうち600万円を払い戻した平成6年3月15日、本件B口座から本件使途不明金のうち100万円を払い戻した同月29日、それぞれ、乙に対し、上記各同額の経済的利益を供与したものと認められ、これらは、いずれも原告の乙に対する賞与と認定されるべきものと認められる。

(3)  これに対し、原告は、本件B口座払戻金2400万円のうち、平成6年9月6日、499万1405円が本件D分教会口座から払い戻され、乙名義の口座を経由した上で本件A口座に入金されていること、同日、本件D分教会口座から407万円が払い戻され、同額が本件A口座に入金されていること、さらに、平成6年10月6日に1340万72779円が本件B口座に入金されていることから、本件B口座払戻金2400万円にほぼ見合う合計2246万8684円が原告名義の口座に戻っていると認められるので、本件払戻金は、乙が個人的に費消したものではなく、乙の賞与と認定すべきではないと主張する。

しかし、原告が主張する上記の各入金の事実と、本件B口座払戻金2400万円とは、金額的に全く合致していない上、上記各入金がされるまでの間、本件使途不明金700万円がどのように使用されていたか、上記各入金された金員が、どこから調達された金員なのかなども全く明らかにされておらず、本件B口座払戻金2400万円と、上記各入金がどのように関連づけられるのかについて、原告の主張の上においても全く不明といわざるを得ない。

そうすると、上記のような各入金の事実があるからといって、原告が、乙に対し、本件B口座払戻金2400万円を賞与として支払ったとの前記認定が左右されるものではないというべきである。

4  争点4について

前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成6年3月8日、本件A口座から、Hに対し、1億9000万円を振り込んで支払ったこと、Hは、社会福祉法人A特別養護老人ホームB新築工事代金として1億9000万円を受領した旨の同年3月8日付け領収書を発行しているが、実際にHが同日に請負代金として受領したのは5000万円にすぎず、Hは、同年3月14日、同月8日に振り込まれた1億9000万円のうち、8958万9042円を本件B口座に返金したこと、原告は、本件A口座から合計1億3690万6005円を各業者にいったん送金し、その直後に各業者から本件B口座に1億3149万2563円の返金を受けており、これらの合計1億3690万6005円の支払について領収書を徴していることが認められる。

これらの事実によれば、原告は、平成6年3月8日にはHに対し請負代金として5000万円を支払ったにすぎないにもかかわらず、同日、Hに対して請負代金として1億9000万円を支払ったかのように仮装し、Hにその旨の虚偽の領収書を作成させ、実際には同日に支払わなかった1億4000万円の請負代金資金を捻出するために、本件A口座から各業者に合計1億3690万6005円を支払ったかのように仮装して、本件B口座に1億3149万2563の金員を作出したものと認められる。

そして、原告は、これらの仮装行為によって、乙に対し、本件Fへの返済資金6532万3635円、本件D分教会借入金返済①及び同2の資金4529万3560円、本件B口座払戻金2400万円の合計1億3461万7195円の経済的利益を供与して賞与を支払った事実を隠ぺいしたものというべきである。

以上によれば、原告は、乙に対し、合計1億3461万7195円の賞与を支払った事実を仮装、隠ぺいし、その仮装隠ぺいしたところに基づいて、本件源泉所得税を納付しなかったものと認められる。

第4結論

以上によれば、被告が、本件源泉所得税等及び本件所得税に係る延滞税として1億0470万9656円を原告から徴収したことが法律上の原因を欠いていたということはできない。

よって、原告の本訴請求は理由がないというべきであり、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 裁判官 馬渡香津子)

file_2.jpg別紙

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