東京地方裁判所 平成11年(行ク)75号 判決 2001年4月12日
主文
被申立人を原告,申立人を被告とする当庁平成11年(行ウ)第76号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決の確定に至るまで,
1 被申立人は,申立人補助参加人所属の組合員であるAを被申立人が経営する秦野市<以下略>所在の医療法人財団青山会みくるべ病院(以下「みくるべ病院」という。)に看護助手として採用し,かつ,平成7年1月1日以降同人が採用されるまでの間について,被申立人における基準に従い,同人に対し,採用されていたならば支給されたはずの賃金に相当する額に,年率5分相当額を加算した額の金員を支払わなければならない。
2 被申立人は,申立人補助参加人所属の組合員であるBをみくるべ病院に准看護婦として採用し,かつ,平成7年1月1日以降同人が採用されるまでの間について,被申立人における基準に従い,同人に対し,採用されていたならば支給されたはずの賃金に相当する額に,年率5分相当額を加算した額の金員を支払わなければならない。
3 被申立人は,申立人補助参加人所属の組合員に対し,その組合活動を理由にみくるべ病院に採用しないなどの差別的な取扱いをすることによって,申立人補助参加人の運営に介入してはならない。
理由
1 本件申立てに至る経過
一件記録(本案事件の記録を含む。)によれば,次の事実が認められる。
(1) 申立人補助参加人は,被申立人が,平成7年1月1日に申立外医療法人社団仁和会の経営していた仁和会越川記念病院の施設,業務等を引き継いでみくるべ病院を開設した際に,越川記念病院の職員であった申立人補助参加人所属の組合員であるA及びBの2名を採用しなかったこと(以下「本件不採用」という。)が不当労働行為であるとして,平成7年2月15日に神奈川県地方労働委員会(以下「神奈川地労委」という。)に救済を申し立てた(神奈川地労委平成7年(不)第3号事件)。
神奈川地労委は,平成8年7月31日,本決定主文第1ないし第3項と同旨及び被申立人に申立人補助参加人への文書の手交を命じた命令を発した。
(2) 被申立人は,同命令を不服として申立人に再審査を申し立てたが(中労委平成8年(不再)第28号事件),申立人は,平成11年2月17日,再審査申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発し,同命令書(写)は,同年3月9日,当事者双方に交付された。
(3) 被申立人は,平成11年4月5日,本件命令の取消しを求める旨の行政訴訟を提起した(当庁平成11年(行ウ)第76号不当労働行為救済命令取消請求事件)。
(4) 被申立人は,本件命令を任意に履行する態度を示していない。
2 本件申立てとこれに対する被申立人の意見
(1) 申立人は,本案事件の判決が確定するまで現在の状態が継続することになれば,申立人補助参加人に対する団結権侵害は甚だしく,回復できないものとなるばかりでなく,被申立人によって侵害された組合員の経済的損失,精神的苦痛は顕著であって,回復することが困難であるとして,主文同旨の決定を求めて本件申立てに及んだ。
(2) 被申立人は,「①労働組合法7条各号の規定は,黄犬契約条項を除き,労働者の雇入れには適用がないから,本件不採用に労働組合法7条1号3号を適用した本件命令は違法である,②被申立人は,越川記念病院とA及びBら同病院職員との労働契約を承継しておらず,主体的に職員の採否を決定したものであるから,本件不採用か解雇に等しい実体を有するとした本件命令は誤りである。」として,本件申立ての却下を求めた。
3 当裁判所の判断
(1) 企業者の採用の自由と労働者の団結権保障とを比較考量した場合,労働者の雇入れについても,労働組合法7条1号本文前段,3号の適用があると解するのが相当である。企業者には,自己の営業のために労働者を雇用するにあたり,いかなる者を雇い入れるか,いかなる条件でこれを雇うかについて,法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由に決定することができるが,労働組合法7条は,企業者の有するこの自由についての法律による特別の制限であるから,このように解しても,最高裁判所大法廷昭和48年12月12日判決・民集27巻11号1536頁に抵触するものではない。
したがって,労働者が労働組合の組合員であること,労働組合の正当な行為をしたことの故をもって雇入れをしないことは許されず,これに違反したときは,不当労働行為となり,また,労働組合の運営に対する支配介入となることがあると解するのが相当である。
(2) 一件記録によれば,被申立人は,医療法人社団仁和会の経営していた仁和会越川記念病院の施設,業務等を引き継いでみくるべ病院を開設したが,職員の採用に当たり,越川記念病院の職員であった者の多数をみくるべ病院に採用したものの,申立人補助参加人所属の組合員であるA及びBについては,両名が申立人補助参加人の組合員であり,同組合の活動をしていたことを嫌悪して,不採用としたこと,その当時,申立人補助参加人の組合員は両名のみであり,本件不採用により申立人補助参加人は壊滅的打撃を受けたことが認められる。
これによれば,本件不採用は,A及びBが申立人補助参加人の組合員であり,その組合活動をしていることを理由に両名を不利益に取扱い,雇い入れなかったもので,解雇に等しい実体を有するとはいえないものの,労働組合法7条1号本文前段に該当し,また,申立人補助参加人の運営に支配介入するものとして同条3号に該当する不当労働行為に当たると認めるのが相当であるから,本件命令に違法はない。
(3) 被申立人は,本件命令を任意に履行していないところ,被申立人のした不当労働行為の内容,程度,申立人補助参加人の組合員数からして,本件命令(文書手交を除く。)を直ちに履行させなければ,申立人補助参加人の組合員であるA及びBの経済的,精神的被害の回復が困難となり,また,申立人補助参加人の組合活動の回復が困難となることは明らかであるから,緊急命令を発する必要性も肯定することができる。
(4) よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 山口幸雄 裁判官 木納敏和 裁判官 鈴木拓児)