東京地方裁判所 平成12年(タ)17号 判決
原告 A
右訴訟代理人弁護士 林史雄
被告 B
主文
一 平成一一年五月二四日神奈川県川崎市川崎区長に対する届出によってされた原告と被告との間の養子縁組が無効であることを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
一 原告は、主文同旨の判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。
1 原告を養子とし被告を養親とする神奈川県川崎市川崎区長平成一一年五月二四日受付の養子縁組の届出がされている。
2 次のとおりであって、原告は、前項の届出当時、養子縁組の意思を欠いていた。
(一) 原告は、平成一一年五月中旬、スポーツ新聞の求人欄に募集広告を出していた「日本薬品」という会社の面接を受けに行き、即日、採用されたが、面接を受けたその日に右の会社の会長のDと名乗る者から委任状、印鑑登録の申請書、国民健康保険加入申込書等の書類に署名捺印させられた。
(二) 原告は、平成一一年五月二四日、名前不詳の右の会社の幹部に川崎市川崎区役所に連れて行かれ、養子縁組届の手続をさせられた。
(三) 原告は、右の会社のあるビルに住まわされ、外出も許されず拘束されていたが、平成一一年六月七日、同ビルから逃げ出し、病院でストレス傷害との診断を受けて入院した。
(四) 原告は、退院後、東京家庭裁判所に養子縁組無効確認調停を申し立てたが、被告が住民票記載の住所に居住しておらず、呼出状が送達されなかったため、調停を取り下げた。
(五) 原告は、右の会社内で二、三度被告の顔を見たことがあるだけで、紹介されたことも話をしたこともない。
(六) 被告は、原告以外の複数の者と養子縁組、離縁を繰り返している。
3 よって、養子縁組の無効確認を求める。
二 被告は、公示送達による適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しない。
三 原告は、甲第一ないし第一四号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用した。
四1 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一、第四号証によれば請求原因1の事実が認められる。
2 そこで、原告の縁組意思の有無について検討する。
その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第五号証、第一〇号証ないし第一三号証、弁論の全趣旨から真正に成立したと認められる甲第七、第八号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(一) 原告は、平成六年に大学を中退した後、Cと結婚し、福島県喜多方市でパチンコ店等数か所に勤めていたが、平成九年に離婚した。その後、再びやり直そうと、Cとともに上京し、パチンコ店に住込みで勤めていたが、平成一一年初め頃別れた。
(二) 原告は、平成一一年五月中旬、住むところもお金もなく困窮していたので、仕事に就こうと、スポーツ新聞の求人欄に募集広告を出していた東京都港区内の「日本薬品」という会社へ面接に赴いたところ、即日、同社に採用された。原告は、同社のあるビル内に住まわされた。
(三) 同日中に、同社の会長と称するDと名乗る者らから、印鑑登録の申請書、国民健康保険加入申込書、委任状等の書類及び養子縁組届に署名捺印させられた。このとき、原告は、被告と養子縁組をするつもりは全くなかった。
(四) 原告は、平成一一年五月二四日、同社の幹部(名前不詳)に川崎市川崎区役所へ連れて行かれて、原告と被告との間の養子縁組(以下「本件縁組」という。)の届出、住民票転入届、印鑑登録の手続をさせられた。翌日には、Dから「ブラックリストから名前を消してホワイトにするために養子縁組する。」などと聞かされた。
(五) 原告は、前記(二)の頃以来、ビル内から外出も許されず、拘束された状態にあったが、平成一一年六月七日に右のビルから逃れた。病院で診察を受けたところ、ストレス障害と診断されて入院し、同年七月七日に退院した。
(六) その後、法律扶助協会で相談の上、法律扶助決定を受けて東京家庭裁判所に養子縁組無効確認調停を申し立てたが、裁判所から被告に対する呼出状が送達されず、調査の結果、被告が住民票の住所に居住していないことが判明し、被告の居所も不明であったため調停を取り下げた。
(七) 原告は、被告とは、前記会社内で顔を二、三度見たことがある程度で、会話をしたこともなく、面識があるとはいえない。被告は、本件縁組の証人となっているE及びFを含む複数人と、本件縁組と近接した短期間内に養子縁組、離縁を繰り返し行っている。
(八) 原告は、E及びFとも面識はない。また同人らも短期間内に被告の外複数人と養子縁組を繰り返している。
五 これらの事実によると、前記のD、被告らは、真実は養子縁組をする意思がないのに、それ以外の何らかの目的で養子縁組制度を利用しており、本件縁組もD、被告らにより同様の目的で利用されたもので、原告は、養子縁組をする意思がないままに、被告らに本件縁組の届出書に署名捺印させられたと認められる。
したがって、原告にも被告にも、本件縁組当時、縁組意思が欠けていたことが明らかである。
六 以上のとおりであって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 成田喜達)