東京地方裁判所 平成12年(ワ)10803号 判決 2000年6月14日
原告 A野株式会社
右代表者代表取締役 B山太郎
被告 C川株式会社(土地建物登記簿上の商号株式会社D原総合研究所)
右代表者代表取締役 E田松夫
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地、建物につき、東京法務局豊島出張所平成一二年四月一九日受付第八六六五号による原告から訴外A田竹夫を経て被告に対する所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
第二原告の主張の概要
別紙物件目録記載の土地、建物(以下「本件不動産」という)については、前記第一請求のとおり、原告から訴外A田竹夫を経て、平成一二年四月一九日担保権の実行としての競売による売却に基づき、被告に所有権が移転したとの登記がされている。ところで、本件不動産は、原告の所有であるところ、右所有権移転登記及び本件不動産に設定されていた根抵当権設定登記はいずれも違法にされたものであるから、前記第一請求のとおりの抹消登記手続を求める。
第三当裁判所の判断
一 原告提出にかかる本件不動産の登記簿謄本によれば、右謄本には概略次の1及び2の記載がされている。
1 本件不動産の所有者は、原告であった。そして、原告が所有者のときである、昭和六一年八月一一日に、債務者原告、根抵当権者B野信用保証協会、極度額四〇〇〇万円の根抵当権(以下「第一根抵当権」という)が、また、平成二年七月二四日に、債務者原告、根抵当権者株式会社C山銀行、極度額三億五〇〇〇万円の根抵当権(以下「第二根抵当権」という)が、さらには平成五年以降にも後順位根抵当権の設定登記がそれぞれされている。その後、本件不動産は、平成九年二月一九日に、第一、第二根抵当権等が付いたまま、後順位根抵当権者であった訴外A田竹夫に代物弁済を原因として所有権移転登記手続が経由されている。
2 第二根抵当権者である株式会社C山銀行は、東京地方裁判所に対し、本件不動産について、右根抵当権に基づく競売手続の申立てをし、同裁判所は、平成一〇年三月一三日、競売開始決定を命じた。右競売手続は進められ、被告が本件不動産の競落人となり、代金納付の上、平成一二年四月一九日競売による売却を原因として被告に所有権移転登記手続がされている。その結果、本件不動産に付いていた第一、第二根抵当権等の担保物権の各登記は職権抹消された。
二 本件は、前記一でみてきたとおり、原告が所有者の当時に設定された根抵当権に基づいて競売が実施され、競落された事案である。このような場合、原告としては、執行裁判所から、債務者として、競売開始決定正本の送達を受けているのであるから、所有権の存否、根抵当権の有効性を争うのであれば、民事執行法一八一条ないし一八三条に従い、開始決定に対する執行異議、競売手続の停止等の措置をとることが法律上予定されており、かかる措置をとるべきであった。しかるに、競売手続が進められている期間中にこのような手段をとることなく、競売手続終了後に本件のような競売手続の結果を覆すような訴訟を提起することは、民事執行法一八四条の法意に照らし許されないところであり、本件訴えは不適法というほかない(本件訴えが認容されるとすると、第一根抵当権はじめ原告が設定した根抵当権等が抹消された形、いわば何ら負担のない状態で原告に所有権が戻る形となり、不合理な結果となる)。
三 以上のとおり、本件訴えは、民事執行法一八四条に抵触する不適法なものであるところ、これを本件訴えの中で補正することができないことは明白である。よって、民事訴訟法一四〇条に従い、本件訴えを却下することにする。
(裁判官 難波孝一)
<以下省略>