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東京地方裁判所 平成12年(ワ)1128号 判決

原告 宮坂正明

被告 特別区人事・厚生事務組合

右代表者管理者 西野善雄

右指定代理人 森岡清和

同 小山巳芸

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金一〇〇万円を支払え。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、東京都江東区役所の一般事務職員である原告が、特別区人事委員会に対し、勤務条件に関する行政措置要求を行い、特別区人事委員会は、右措置要求を棄却する判定をしたところ、原告は、右判定には、多数の事実認定及び判断の欠落、特別区人事委員会の委員の能力の欠如、江東区役所の昇格差別を助長させる意図がある不当なものであり、そのような右判定によって、労働条件向上の権利、差別・強要が行われている職場において日々平等に取り扱われる権利、差別されない権利を侵害されたなどと主張して、被告に対し、不法行為に基づいて慰謝料一〇〇万円の支払を求めた事案である。

二  前提事実(当事者間に争いのない事実については特にその旨を断らない。また、証拠等により認定した事実については認定に供した証拠等を末尾に掲記した)

1  当事者等

原告は、東京都江東区役所に一般事務職員として勤務するものであり、被告は、特別区の権限に属する事務の一部を共同処理するため、地方自治法二八四条一項に基づく一部組合として昭和二六年に設立された特別地方公共団体であり、その構成員は、東京都二三区であるが、これとは別個独立の法人格を有する。

2(一)  原告は、平成八年二月二二日、特別区人事委員会(以下「人事委員会」という)に対し、勤務条件に関する行政措置要求(以下「本件措置要求」という)を行った。

原告は、平成八年二月二九日付けで本件措置要求の要求事項の一部を取り下げ、最終的な要求事項(以下「本件要求事項」という)は、次のとおりとなった。(甲一、二、乙一)

(1)  現行の行政職給料表(一)三級から同四級への昇格及び同四級から同五級への昇格を、年齢と経験年数のみを基準とする順番制にすること

(2)  右(1) のことから、同年齢、同職歴の同期採用者を、同一年の同時期に昇格させること

(3)  主任主事昇任選考試験及び係長職昇任選考試験を廃止すること

(二)  人事委員会は、平成九年一月二八日付けで本件措置要求を棄却する判定をした(以下「本件判定」という)。

3  本件判定に至るまでの人事委員会の審理手続(以下「本件判定手続」という)は、以下のとおりである。

(一) 原告の本件措置要求を受けて、人事委員会は、平成八年三月一九日付けで原告の本件措置要求を受理し、原告に対し、本件措置要求を受理した旨の通知書を送付し、同日付けで江東区長室橋昭(以下「江東区長」という)に対し、本件措置要求の受理並びに意見及び資料の請求についての通知書を送付した。(乙二の1ないし3)

(二) 江東区長は、同年四月一八日付けで、人事委員会に対し、本件措置要求についての意見書及び資料を提出した。人事委員会は、同年四月二四日、原告に対し、右意見書を送付した。(甲三、乙三)

(三) 原告は、同年五月二三日付けで、人事委員会に対し、江東区長の意見書に対する反論書を提出し、人事委員会は、同年六月三日、江東区長に対し、右反論書を送付し、同反論書に対する再意見書の提出を求めた。(甲四、乙四)

(四) 江東区長は、同年七月一日付けで、人事委員会に対し、本件措置要求についての再意見書を提出した。人事委員会は、同年七月九日、原告に対し、右再意見書を送付し、再反論書の提出を求めた。(甲五、乙五)

(五) 原告は、同年八月七日付けで、人事委員会に対し、再反論書(意見書)を提出した。人事委員会は、同年八月一二日、江東区長に対し、右再反論書を送付した。(甲六、乙六)

(六) 原告は、同年九月二七日付けで、人事委員会に対し、再反論書(意見書(2) )を提出した。人事委員会は、同年一〇月二日、江東区長に対し、右再反論書を送付した。(甲七、乙七)

(七) 江東区長は、同年一一月八日付けで、人事委員会に対し、本件措置要求についての資料を提出した。(弁論の全趣旨)

(八) 人事委員会は、同年一二月三日、本件措置要求の判定方針について決定した。(乙八)

(九) 原告は、平成九年一月一三日付けで、人事委員会に対し、人事委員会の本件措置要求に対する判定を早急にするよう要望した。(乙九)

(一〇) 人事委員会は、同年一月二八日、人事委員会は、本件判定をし、同判定書の正本を原告及び江東区長に送付した。(甲二、乙一〇)

4  勤務条件に関する行政措置要求の審査に関する規則(昭和五三年特別区人事委員会規則一九号、以下「委員会規則」という)は、次のとおりである(乙一一)。

(一) 人事委員会は、行政措置要求書が提出された場合には、要求者の資格、要求事項及びその他の記載事項について調査し、受理するかどうかを決定しなければならない(委員会規則七条一項)。

(二) 人事委員会は、要求を受理した場合には、その旨を当事者に通知しなければならない(同九条)。

(三) 人事委員会は、事案の審査のため必要があると認めるときは、当事者若しくはその代理者又はその他の関係者から意見を徴し、又はこれらの者に対し資料の提出を求め若しくは出席を求めてその陳述を聞き、その他必要な事実調査を行うことができる(同一四条)。

(四) 人事委員会は、事案の審査を終了したときは、速やかに判定を行い、判定書の正本を当事者に送達しなければならない(同一八条)。

三  争点

本件判定は、違法なものとして原告の損害賠償請求権を生じさせるものか。

(原告の主張)

原告の主張の詳細は、別紙記載のとおりであり、その要旨は次のとおりである。すなわち、本件判定は、原告が本件判定手続において主張したすべてのものについて判断しておらず、多くの事実認定及び判断の欠落がある。また、人事委員会を構成する委員は、判定者として有すべき能力が欠落しており、職務不適格者である。さらに、本件判定は、江東区当局と共に、人事委員会がさらなる差別の強化を意図して行ったものである。

(被告の主張)

1 原告の主張は、否認ないし争う。

2 本件判定手続は、前記二、4のとおりの委員会規則に則り、適法、適正に行われたものであり、何らの違法もない。

本件判定も原告の本件措置要求の申立を受けて、要求事項ごとに応じられない理由を簡潔、明瞭に付記し、かつ、公正、公平に判断しており、本件判定の内容には、何ら違法な点はない。

原告は、本件判定に関し、人事委員会が差別の強化を図る悪質な意図のもとに行ったものであり違法であるとするが、人事委員会はそのような意図を持って本件判定を行っていない。

第三争点に対する判断

一1  原告は、本件判定がその判定手続において原告が縷々主張した事柄のすべてについて判断していないなどとしてその理由の不備をいうが、右主張は、結論において原告の本件措置要求を棄却した本件判定の認定判断内容の誤りを主張して本件判定を違法であるとし、これにより原告が被った損害の賠償を求めるものと解される。

2  ところで、地方公務員法四六条は、公務員がその勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会(以下、両委員会を併せて「人事委員会等」という)に対し適当な行政上の措置が行われることを要求することができるとしている。右規定は、職員の勤務条件につき人事委員会等の適法な判定を要求し得べきことを職員の権利ないし法的利益として保障する趣旨のものと解されるが、人事委員会等は、広範な諸事情を総合的に考慮して、当該行政措置要求の対象となった勤務条件について吟味し、適当な行政上の措置を行うことの当否を判断する専門機関として、裁量権を有している。このような人事委員会等の裁量権に加え、原告主張のような認定判断の誤り等により本件措置要求が棄却されたような場合には、当該判定の取消訴訟の手続をとることによって当該公務員が通常被る不利益は回復されることをも考慮すると、行政措置要求に対する判定の単なる認定判断の誤りをもって、直ちに国家賠償法上の損害賠償義務を肯定することはできず、損害賠償義務が認められるためには、右判定手続が、人事委員会等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、その権能に明らかに背いてなされたものと認められるなどの特別の事情が存在することが必要であると解するのが相当である。

3  これを本件についてみるに、本件判定手続は、前記第二、二、2及び3で認定したとおり、その手続内容は委員会規則に則ったものであり、原告は実質的にも十分にその主張の機会を与えられており、手続的保障に欠けるところはなく、本件全証拠を検討するも、前記特段の事情が存することを認めるに足りる証拠はない。よって、本件判定に多くの事実認定及び判断の欠落があるとの原告の主張は採用することができない。

なお付言するに、行政措置要求についての判定ないし判定書においては、判定主文を導く上で必要にして十分な範囲で理由を簡潔、明瞭に記載すれば足りるところ、本件判定書は、原告の掲げる本件要求事項に対し、地方公務員法一五条の定める任用の根本基準である成績主義、すなわち、職員の任用は、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行われなければならないという建前の観点からして採用の余地がないことを明示しており(甲二)、理由としての判断が欠落しているとまではいえず、この点においても、原告の主張は理由がない。

また、原告は、本件判定手続では、いわゆる民訴法上の擬制自白が成立しており、本件判定には、右事実について摘示がないので認定の不備があるなどとも主張する。しかし、委員会規則等に照らすと、そもそも人事委員会の判定手続に民訴法が当然に適用があり、かつ、本件判定手続において原告の主張にかかる各事実につき擬制自白が成立しているものとするのは、原告独自の見解というべきであって、採用することができない。

二  原告は、人事委員会を構成する委員には判定者として有すべき能力等が欠けているとか、あるいは、本件判定は原告の職場における差別を助長する意図をもって行われたなどと主張するが、本件全証拠を検討するも、これらの主張を認めるに足りる証拠は存在しない。

第四結論

以上によれば、原告の請求は理由がないので、これを棄却することにする。

(裁判長裁判官 難波孝一 裁判官 足立正佳 裁判官 内野宗揮は転官につき、署名押印できない。裁判長裁判官 難波孝一)

別紙<省略>

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