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東京地方裁判所 平成12年(ワ)11798号 判決

原告

社団法人東京都信用組合協会

右代表者理事

雨宮良晴

右訴訟代理人弁護士

小島昌輝

岩崎健一

鈴木伸太郎

被告

株式会社池田不動産

右代表者代表取締役

池田健二

被告

有限会社キャビン

右代表者代表取締役

大澤隆介

主文

一  別紙物件目録一記載の土地につき、被告有限会社キャビンと被告株式会社池田不動産との間に締結された別紙賃貸借目録記載の賃貸借契約を解除する。

二  前項の判決の確定を条件として、被告株式会社池田不動産は、原告に対し、別紙物件目録二記載の建物を収去して同目録一記載の土地を明け渡せ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。) の根抵当権者である原告が、民法三九五条ただし書を準用して、根抵当権設定登記後に、被告有限会社キャビン(以下「被告キャビン」という。)と被告株式会社池田不動産(以下「被告池田不動産」という。Vとの間に本件土地につき締結された別紙賃貸借目録記載の賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。) の解除を請求するとともに、右解除判決の確定を条件として、抵当権による妨害排除請求権に基づき、同目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を収去して本件土地の明渡しを求めた事案である。なお、被告キャビンは、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

一  前提事実(証拠等の記載のない事実は争いがない。)

1(一)原告は、都内信用組合の業務の改善及びその発展を図るための調査研究、資料の収集・提供、統計の作成及び地域における金融不安を回避するための経営破綻した信用組合の債権管理回収事業等を目的として設立された団体である。

(二)被告池田不動産は、不動産の士冗買・賃貸借・管理及びこれらの仲介等を目的とする会社であり、被告キャビンは、プラスチック製玩具の製造及び販売を目的とする会社である。

(三)被告池田不動産の代表者は池田健二(以下「健二」という。) であり、池田浩二(以下「浩二」という。)は健二の子である。健二は、平成九年九月から平成一〇年一〇月まで被告キャビンの代表者であり(顕著な事実)、現在も実質的な経営者である(甲一〇のー、弁論の全趣旨)。

2(一)コスモ信用組合(以下「コスモ」という。)は、昭和六二年一〇月二〇日、被告池田不動産との間で、被告池田不動産所有の本件土地につき、

債務者を被告池田不動産、極度額を三六〇〇万円、被担保債権の範囲を信用組合取引・保証委託取引等とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定契約をし、同日、その旨の登記(以下「本件根抵当権設定登記」という。) をした。

(二)コスモは、昭和六三年五月一八日、被告池田不動産との間で、右極度額を四六〇〇万円に変更し、同月一九日、本件根抵当権変更の登記をした。

(三)浩二は、平成七年一二月一八日ころ、本件土地上に本件建物を新築し、同月二五日、本件建物につき、所有権保存登記をした。

(四)原告は、平成入年三月=二日、コスモから、コスモの被告池田不動産に対する左記債権等の譲渡を受け、平成九年六月一〇日、本件根抵当権移転の付記登記をした(甲六ないし九、弁論の全趣旨)。

(1) コスモと被告池田不動産間の昭和六三年五月一八日の貸付金一五〇〇万円の金銭消費貸借契約に基づく残元金九三八万○ 八四三円及びこれに対する平成五年一〇月二八日から支払済みまで年二五・五パーセントの割合による遅延損害金

(2) コスモと被告池田不動産間の平成三年二月二一日の貸付金}七〇〇万円の金銭消費貸借契約に基づく残元金七二三万三九七七円及びこれに対する平成七年二月八日から支払済みまで年二五・五パーセントの割合による遅延損害金

(3) コスモが、全国信用協同組合連合会に対し、同連合会・被告池田不動産間の平成元年一一月二四日付け金銭消費貸借契約(保証委託契約を含む。)に基づき、保証債務の履行として、平成四年六月五日、合計二二四二万三〇七〇円を支払ったことにより、被告池田不動産に対して取得した求償債権元金二二四二万三〇七〇円及びこれに対する平成五年一一月二五日から支払済みまで年二五・五パーセントの割合による遅延損害金

(五)被告池田不動産は、平成一〇年一〇月二一日、被告キャビンに対し、本件土地を売却し、同日、その旨の所有権移転登記をした。

(六)原告は、被告池田不動産及びその連帯保証人である健二に対し、東京地方裁判所に前記四の譲受債権の支払を求める訴訟を提起し(平成一〇年(ワ)第三〇〇九四号)、平成一一年三月二五日、原告勝訴の一審判決が言い渡され、同年一〇月二六日ころ、被告池田不動産及び健二の上告の取下げにより、一審判決が確定した。

3(一)浩二は、平成一一年五月一一日、被告池田不動産に対し、本件建物につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記をした。

浩二は、被告池田不動産との間で、本件建物につき、債務者を被告池田不動産、極度額を一五〇〇万円とする根抵当権設定契約をし、同日、その旨の登記をし、また、権利者を浩二とし、譲渡・転貸ができる旨の賃借権設定契約をし、同日、その旨の賃借権設定仮登記をした。

(二)被告池田不動産は、平成一一年五月一一日、被告キャビンとの間で、別紙賃貸借目録記載の賃貸借契約(本件賃貸借) を締結した。

4原告は、平成一一年七月一九日、東京地方裁判所に対し、本件土地につき本件根抵当権の実行としての競売を申し立て(平成一一年(ケ) 第三〇二一号)、同裁判所は、同月三〇日、競売開始決定をした(以下「本件競売事件」という。)。

右競売開始決定における被担保債権及び請求債権は、前記2(四)(1) ないし(3)の債権のうち、極度額四六〇〇万円にみつるまでである(甲九)。

5本件競売事件における現況調査報告書によれば、健二は、執行官に対し、本件土地だけで売り払うよりも、建物をのせて土地建物として売った方が高く売れるので、平成七年に新築したが、現在本件土地と本件建物の買手を探している旨陳述しており、執行官の意見は、本件賃貸借は正常な賃貸借契約とは考えられず、たいへん疑問に思われるというものである。

そして、本件競売事件における評価人の評価によれば、本件土地の評価額は、更地では、一一八○ 万一四〇〇円であるが、買受人が土地の占有を取得するために要すると見込まれる時間的・経済的負担を更地価格の一〇パーセントとして、約一〇六二万円となり、さらに、競売市場の有する特殊性による減価率を三〇パーセントとして、七四三万円となっており、最低売却価額も同額である。

また、本件建物は、ほぼ本件土地一杯に建築された、いわゆる件外建物であり、登記簿上種類が店舗となっているが、一階の床はなく地面がむき出しのままであり、電気・ガス・水道等の諸設備はなく、建築後、店舗として使用された形跡はない。

右事情等のため、本件土地の買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょすることが考えられる。

(甲四の1ないし11、一〇の1、一二、一三、一八、弁論の全趣旨)

6本件競売事件において、平成一二年四月六日、東京地方裁判所から入札期日等の通知があったが、原告は、同年五月二五日、売却実施の変更(延長) の申請をし、同月三〇日、東京地方裁判所から、六か月間延期する旨の連絡を受けた。

二  争点

1民法三九五条ただし書の準用による本件賃貸借の解除請求の可否

【原告の主張】

本件賃貸借は原告に損害を与えるものであるから、民法三九五条ただし書を準用して解除請求をすることができる。すなわち、① 本来であれば、本件土地建物を同一所有者のものとして一括競売ができるところ、これを免れるため、巧妙に権利移転するなどして、

競売(執行) を妨害している、② 浩二(ないし被告池田不動産) による本件建物の建築ないし所有者の変更は、正常な使用収益の範囲を遙かに逸脱しており、本件土地の競売を妨害しようとの意図のみに出た不当・不法なものである。これは、本件建物の一階部分の床にコンクリートが打たれておらず、地面がむき出しになったままであること、電気・ガス・水道等の設備がないこと、人が住んだり利用された形跡がないことなどから、明らかである。③ 本件賃貸借は正常な賃貸借ではない。④ 本件競売事件において、本件土地の評価額は七四三万円とされ、最低売却価額も同額とされているが、これは、買受人が土地の占有を取得するために要すると見込まれる時間的、経済的負担を更地価格の一〇パーセントと判定して減価したものである。しかし、実際問題として、本件建物の存在により、本件土地の実際の価値は、底地相当額にしかならないので、借地権割合が七割とすると、二百数十万円にしかならないから、本件土地を七四三万円の最低売却価額以上で買い受ける者等おらず、そのため、最低売却価額がさらに下がったり、買受人が現れない可能性が非常に高くなり、原告の被る損害は一層増大する。

【被告池田不動産の主張】争う。被告池田不動産は、本件土地上の二階建木造店舗(昭和四六年新築)でスナックを経営していたところ、昭和六二年五月六日、右建物が火災により滅失したため、新店舗(スナック)の建設を計画し、同年一〇月二〇日、前記第二の一2(1)の本件根抵当権の設定契約をするにあたっては、右計画についてコスモの了解を得た。しかし、折からのバブルと不景気及び被告池田不動産代表者健二の長期療養のため、平成七年になり、当面古物商の倉庫として使用することとして、本件建物を建築したものの、建設資金の大半を浩二の金員を一時転用したため、平成七年一二月二五日、所有者を浩二として所有権保存登記したが、浩二に返金するため、平成一〇年一〇月二一日、本件土地を被告キャビンに売却し、これにより、本件建物につき、真正な登記名義の回復を原因として被告池田不動産へ所有権移転登記をした。以上のとおりであって、競売や執行を妨害する意図はない。本件建物を収去するのではなく、本件土地と併せて処分(競売又は任意売却) し、本件土地の処分金は競売価格以上の売得金を得て債務の返済に充当し、本件建物の処分金は配分について別途協議する考えである。

2 抵当権による妨害排除請求の可否

【原告の主張】

被告池田不動産が本件建物を所有し、本件土地を占有していることにより、本件土地の競売手続の進行が害され、その交換価値の実現が妨げられていることは、前記1における原告の主張のとおりである。加えて、更地に本件建物が建築されれば、その土地の価格が著しく減少することは経験則上明らかであり、買受人は、競落後、不法占有者に対し、引渡命令により、建物収去土地明渡しを請求することができるが、引渡命令を得なければ競落物件を取得(利用) できないこと自体、競売手続の進行が妨害されていることであり、適正な交換価値の実現が妨げられていることである。

そうすると、原告は、抵当権に基づく妨害排除請求として、被告池田不動産に対し、直接原告に本件建物を収去して本件土地を明け渡すよう求めることができる。

【被告池田不動産の主張】

争う。被告池田不動産は不法占有者ではない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(民法三九五条ただし書の準用による本件賃貸借の解除請求の可否) について

1本件賃貸借は、本件根抵当権設定登記後に締結され、その賃貸借期間が二〇年であるから、本件根抵当権の根抵当権者である原告に対抗することができないものである。したがって、民法三九五条ただし書の適用があるとはいえない。

しかし、抵当権者に対抗することができない長期賃貸借であっても、それが抵当権者に損害を及ぼすものと認められる限りは、抵当権設定者による抵当不動産の利用を合理的な限度においてのみ許容するという民法三九五条の趣旨にかんがみ、抵当権者は、民法三九五条ただし書を準用して、裁判所に対し右賃貸借の解除を請求することができると解するのが相当である。考えてみるに、抵当権者に対抗することができない賃貸借が対抗することができる賃貸借と同様に抵当権者に損害を及ぼすにもかかわらず、対抗することができない右賃貸借の解除を請求することができないとすると、抵当権者に対抗することができる短期賃貸借であっても右抵当権者に損害を及ぼすときにはその解除を請求することができることと対比して甚だしく不公平かつ不合理なものといわなければならないからである。

よって、本件賃貸借が根抵当権者である原告に民法三九五条ただし書にいう「損害」を及ぼすときは、原告は、裁判所に対し、本件賃貸借の解除を請求することができるといわなければならない。

2 そこで、原告の損害について検討すると、民法三九五条ただし書にいう抵当権者に損害を及ぼすときとは、原則として、抵当権者からの解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において、抵当不動産の競売による売却価額が同条本文の(短期) 賃貸借の存在により下落し、これに伴い抵当権者が履行遅滞の状態にある被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するときをいうと解するのが相当である。

そして、前記第二の一2(四)、4、5の事実によれば、本件口頭弁論終結時において、本件賃貸借の存在により本

件土地の競売における売却価額が下落し、これに伴い根抵当権者である原告が被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少することが認められるから、本件賃貸借は、抵当権者に損害を及ぼすものというべきである。

よって、原告は、本件賃貸借の解除を請求することができる。

二争点2 (抵当権による妨害排除請求の可否) について

民法三九五条ただし書の解除請求訴訟において解除判決が確定したときは、抵当権者と賃借人との関係のみならず、賃貸人と賃借人との間においても賃貸借関係が終了すると解するのが相当であるから、賃借人の目的不動産の占有権原は賃貸人との関係でも消滅する(不法占有となる。)。また、抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権の侵害というべきであり、抵当権者は、抵当権による妨害排除請求権に基つき、右状態の排除、すなわち、抵当不動産の明渡しを請求することができると解するのが相当である。

そして、前記第二の一4ないし6 の事実によれば、原告は、本件土地につき本件根抵当権の実行を申し立てているが、被告池田不動産が本件建物を所有して本件土地を不法占有していれば、本件土地の競売手続の進行が害され、その交換価値の実現が妨げられ、本件根抵当権者である原告の優先弁済請求権の行使が困難となることが推認されるところ、弁論の全趣旨によれば、右解除判決が確定しても被告池田不動産が直ちに本件土地の明渡しに応ずるとは認め難い。

そうすると、原告は、被告池田不動産に対し、抵当権による妨害排除請求権に基づき、右判決の確定を条件として、あらかじめ原告に対し本件建物を収去して本件土地を明け渡すよう求めることができるものと解するのが相当である(なお、不動産明渡しの強制執行の方法<民事執行法一六八条一項、二項>と前記第二の一1(二)、(三)の事実及び弁論の全趣旨とによれば、所有者である被告キャビンへの明渡請求でなく、根抵当権者である原告への直接の明渡請求も認められると解される。)。

三  結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官・山口博)

別紙物件目録<省略>

別紙賃貸借目録<省略>

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