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東京地方裁判所 平成12年(ワ)12054号 判決 2003年12月16日

原告

X1

ほか二名

被告

主文

一  被告は、原告X2に対し、金四五八万三三〇六円及びこれに対する平成一二年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X1に対し、金二二九万一六五三円及びこれに対する平成一二年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、金二二九万一六五三円及びこれに対する平成一二年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、センターラインを越え対向車線に進入した被告運転の普通乗用自動車が、亡A運転の普通乗用自動車に衝突し、亡Aが死亡した交通事故に関し、その相続人である原告らが、被告に対し、自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事案であり、中心的争点は、(一)本件事故の態様、すなわち、被告車がセンターラインを越えて亡Aの走行する車線に進入したのか否か、(二)亡A及び原告らの損害額にある。

一  原告らの主張(原告らの請求原因)

(一)  本件事故の発生

(1) 日時 平成一二年一月一六日午前零時四〇分ころ

(2) 場所 神奈川県茅ヶ崎市甘沼三三三番地先路上

(3) 加害車両 普通乗用自動車(湘南××み××××、以下「被告車」という。)

運転者 被告

(4) 被害車両 普通乗用自動車(湘南××ほ××××、以下「原告車」という。)

運転者 亡A

(5) 態様 亡Aが堤方面から高田方面に向けて自車線を走行中、対向車線を走行中の被告が運転を誤ってセンターラインを越え亡Aの走行車線に進入したことから、被告車と原告車が正面衝突した。

(6) 結果 亡Aは、本件事故により胸腔内臓器損傷等の傷害を負い、収容先の茅ヶ崎徳洲会総合病院において、同日午前七時、死亡した。

(二)  責任原因

被告は、被告車を運転して上記の本件事故を発生させたものであるから、自賠法三条に基づき原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

(三)  相続

原告X2は、亡Aの夫であり、原告X1及び原告X3は、いずれも亡Aの子であり、亡Aの死亡により、原告X2はその損害賠償請求権の二分の一を、その余の原告二名は同請求権の各四分の一をそれぞれ相続した。

(四)  原告らの損害額

(1) 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

(2) 遺体搬送料 一七万〇〇〇〇円

(3) 入院慰謝料 二万〇〇〇〇円

(4) 逸失利益 四〇五一万八八一一円

亡Aは、本件事故当時、満三一歳の女性であったが、主婦として家事を切り盛りしていたほか、アルバイトをして稼働していた。亡Aの上記生活状況からすれば、その年収は賃金センサス平成一二年第一巻第一表の女性労働者・企業規模計・学歴計全年齢平均の年収額である三四九万八二〇〇円を下回らない収入を得ることができたものというべきである。そして、亡Aは、少なくとも六七歳までは就労可能であり、生活費控除率三割として、三六年間の逸失利益の現価を計算すると、四〇五一万八八一一円となる(円未満切捨て。以下同じ)。

三四九万八二〇〇円×(一-〇・三)×一六・五四六八=四〇五一万八八一一円

(5) 慰謝料 二五〇〇万〇〇〇〇円

本件事故は、亡Aが自車線を走行していたにもかかわらず、センターラインを越えて走行してきた被告車に衝突され死亡するに至ったものであり、亡Aには落ち度はないこと、妻と母を失った原告らの精神的衝撃は大きいことその他の事情を考慮すると、亡Aの慰謝料は二二〇〇万円、原告ら三名の慰謝料は各一〇〇万円とするのが相当である。

(6) 損害合計額 六七二〇万八八一一円

(五)  現在までの損害の填補額

原告らは、損害の填補として、政府の自動車損害賠償保障事業から一五八八万四八二七円、任意保険(セゾン自動車火災保険株式会社)から四一〇〇万円、労災保険から既支給分として一九五万七三七一円の支払を受けた。したがって、現在までの損害の填補額は五八八四万二一九八円となる。これを損害合計額に充当すると、残額は、八三六万六六一三円となる。

(六)  損害賠償請求権の取得

残額を上記(三)の相続分に従い分配すると、原告らの損害賠償請求権は、次のとおりである。

(1) 原告X2 四一八万三三〇六円

(2) 原告X1及び原告X3 各 二〇九万一六五三円

(七)  弁護士費用

(1) 原告X2 四〇万〇〇〇〇円

(2) 原告X1及び原告X3 各 二〇万〇〇〇〇円

(八)  原告らの損害合計

(1) 原告X2 四五八万三三〇六円

(2) 原告X1及び原告X3 各 二二九万一六五三円

(九)  よって、被告は、自賠法三条に基づき、原告X2に対しては損害金四五八万三三〇六円、原告X1及び原告X3に対しては各損害金二二九万一六五三円並びに各損害金に対する本件事故発生日である平成一二年一月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

二  被告の主張

(一)  請求原因(一)(1)ないし(4)は認めるが、(5)は否認する。本件は、亡Aが自車線を越えて被告が走行する車線内に進入した過失によって発生した事故である。

(二)  同(二)ないし(四)は否認する。

(三)  同(五)は認める。

(四)  同(六)ないし(八)は否認する。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録を引用する。

第四当裁判所の判断

一  請求原因(一)(本件事故の発生)について

(一)  同(1)ないし(4)は、当事者間に争いはない。

(二)  同(5)(本件事故の態様・争点(一))について検討する。

(1) 証拠(甲六ないし九、乙一ないし三、五ないし七)によれば、次の事実を認めることができる。

<1> 本件事故現場は、高田方面から堤方面に通じる県道遠藤茅ヶ崎線上の路上であり(以下「本件道路」という。)、本件道路は、車道幅員七・二メートルの片側一車線道路であり、堤方面から本件現場に向けて左カーブ、本件事故現場から高田方面に向けて右カーブとなっているため、見通しはやや悪い状況にある。本件道路は、道路標識により最高速度が時速四〇キロメートルと指定されていたほか、追い越しのための右側部分はみ出し禁止の指定がされている。

<2> 亡Aは、アルバイトを終え帰宅するため、原告車を運転して本件事故現場に至った。

<3> 一方、被告は、酒を飲んだ上、車検切れで強制保険も切れている被告車を運転し、制限速度が時速四〇キロメートルと指定された本件道路を時速約八〇キロメートルの速度で自車を進行させ、本件事故現場の手前の左カーブの手前で被告車の前方を走行していたタクシーを追い越して、本件事故現場に差し掛かった。

<4> 被告車は、センターラインを越え亡Aの走行車線に進入したことから、原告車と衝突したが、両車の衝突地点は、原告車が停止していた地点から進行方向(高田方面)に向かった前方付近であり、上記衝突後、原告車は反対方向(堤方面)に押し戻され、進行方向左側の高さ一〇センチメートル程度の土手に乗り上げる状態で停止した。一方、被告車は原告車から見て右後方約五・三メートルの位置に高田方面に向いて車体を同車左側にある歩道にやや斜めに向けた状態で停止した。本件事故の衝突位置及び衝突後停止位置までに至る経過は、別紙一のとおりである。

<5> 亡Aは、本件事故による衝突音を聞き現場に臨場した者に対し、救助を受けた際に、「足が痛い」、「なんで、なんで」と言っていた(乙六・一六二頁)。

<6> 被告は、車検切れで強制保険も切れている被告車を運転してセンターラインを越えて亡Aの走行する車線に進入させ、本件事故を起こしたことから、道路運送車両法違反、自動車損害賠償保障法違反、業務上過失致死で起訴され、平成一四年一二月二日、横浜地方裁判所において懲役三年の判決を受け(乙六・四〇九頁)、また、平成一五年七月一〇日、その控訴審である東京高等裁判所において控訴棄却の判決を受けた(乙七)。

(2) 上記の認定事実によれば、被告は、夜間、左方に湾曲して見通しが悪く、制限速度が時速四〇キロメートルと指定されている道路において、進路の安全を確認しないまま漫然と時速約八〇キロメートルの速度で進行した過失により、被告車を亡Aの走行する車線内に進入させ、折りから自車線を進行してきた原告車の右前部に被告車の前部を衝突させたものと認めることができる。

以上によれば、本件は、被告車がセンターラインを越えて亡Aの走行する車線に進入したことから生じた事故であると認められるから、本件事故発生について過失は、すべて被告にあるものと認める。

(3) ところで、本件においては、事故の態様について争いがあり、B鑑定及びC鑑定の信用性が問題となるので、以下、両鑑定意見の合理性を検討する。

<1> B鑑定

神奈川県警察科学捜査研究所技術吏員のBは、本件事故の原因につき鑑定書を提出しており(乙六・一四二頁)、公判手続においても証人として鑑定結果を説明している(以下、これらによる同人の意見を総称して「B鑑定」といい、同鑑定におけるA車両は「原告車」、Y車は「被告車」と読み替える。)

B鑑定の要旨は、両車両の衝突及び衝突後の挙動状況については、「原告車のフロント部は左側が弱く、右側が強い斜め状況に凹損していることと、被告車のフロント部は左右の凹損にさほどの違いがない、ことから、原告車の右角付近に被告車が右前方向から衝突したものと思われた。」とし、また、衝突地点については、「衝突後、被告車は原告車を草むらに押し込むような状態となり、そして、時計方向に回転しながら油等を撒き、停止したものと推定された。衝突地点は、原告車の前方付近に散乱物が見られることと、油等が原告車の前方付近から被告車の停止付近まで連続するように撒かれていることから、原告車の停止地点前方付近と推定される。」というものであり、本件事故の衝突位置及び衝突後停止位置までに至る経過は、別紙一のとおりである。要するに、原告車と被告車との衝突地点は、原告車の停止位置の前方付近であり、被告車は右前方から原告車の右角付近に衝突し、衝突後、原告車は後方に押し込まれ土手に乗り上げる状態で停止し、他方、被告車は時計回りに回転して停止位置に停止したとするのである。

<2> C鑑定

被告から依頼されたCは、本件事故の原因を鑑定書として提出し(乙六・三〇八頁)、公判手続においても証人として鑑定結果を説明している(以下、これら同人の意見を総称して「C鑑定」という。)。これに対する証拠は、B鑑定である。

C鑑定の要旨は、「タイヤ痕cc’は、アクセレーションスカフを加味したヨーイング痕という特殊なタイヤ痕であり、そのことから、同タイヤ痕が原告車のものであることが判断できるものとし、原告車で高速回転していたのは後輪であるから、cから後輪の制動痕がついたとすると、原告車は対向車線に進入したところで、衝突していることになる。」というものである。すなわち、C鑑定は、タイヤ痕cc’は原告車によるものと解析した上、両車のつぶれ量を概算することで押されて下がった距離を計算し、衝突位置を判明するというものである。C鑑定による、被告車が原告車と衝突した後、被告車が原告車を押し戻し、両車が停止するまでの動きは、別紙二のとおりである。

(4) 各鑑定の検討

<1> 客観的証拠の検討

本件事故の態様については、上記のとおり、二つの鑑定意見が提出されているのであるが、本件においては、車両の衝突直前の走行経路及び衝突態様につき、目撃証言等これを裏付ける直接証拠がない以上、各鑑定意見の合理性を考慮するには、車両及び道路上に残された客観的証拠を検討した上、客観的証拠から事故原因を無理なく説明し得るか否かが重要なものとなると解される。そこで、以下、客観的証拠を検討する。

ア 原告車及び被告車の損傷形態

原告車は、フロント部が潰れており、その右側は運転席側のダッシュボード付近まで凹損しているが、左側はフェンダー先端付近が潰れている程度であった(乙六・九七、一〇五頁)。

一方、被告車は、前面大破、フロントガラス破損、左右前ドア破損等の状態であり、前部はほぼ左右均等に凹損しているが、左側の方は右側より若干潰れが多く、前二輪のタイヤは左側に傾いていた(乙六・三一、九七、一一三頁)。

イ 原告車及び被告車の停止位置

原告車は、高田方面から堤方面に向けて、進行方向左側の高さ一〇センチメートル程度の土手に乗り上げる状態で停止したが、上記停止位置は土留めされていなかったものの、その左右はコンクリート・ブロック様のもので土留めされており、上記土手には草木が生えていた。そして、原告車の左前後輪のタイヤとホイールの隙間には枯れ草が挟まっていた。他方、被告車は、原告車から見て右後方約五・三メートルの位置に、高田方面に向いて、車体を同車左側にある歩道にやや斜めに向けた状態で停止した(乙六・九七頁)。

ウ 現場に残されたタイヤ痕

本件事故現場の堤方面から高田方面に向けて道路右側部分にスリップ痕三条[長さ左前(aa’)二・五メートル、左後(bb’)五・八メートル、右後(cc’)一〇・七メートル]があるほか(乙六・九二頁)、xx’痕とyy’痕が二本が残されていた(乙六・一一五頁)。上記スリップ痕につき、B鑑定は、aa’痕、xx’痕及びyy’痕は本件事故によって印象されたものと推定できるが、bb’痕及びcc’痕は本件事故によって生じたものではないと判断している。

エ 散乱物の飛散状況

原告車の停止位置のすぐ前方の路上には、本件事故により生じた車体部品等の散乱物が広がり、また、同様の位置にオイル中和剤が撒かれたように広がっていた。他方、被告車の停止位置付近には散乱物は見当たらなかったが、右側路上にオイル中和剤が撒かれたように広がっていた(乙六・九七頁)。

<2> B鑑定の検討

B鑑定は、両車両の衝突地点が亡Aの車線側であると推認しているが、同意見は、両車の衝突地点と衝突後の挙動状況について、上記の原告車及び被告車の停止位置、現場に残されたタイヤ痕及びオイル中和剤の撒布状況等の客観的証拠を検討したもので、説明として合理的なものと認められる。すなわち、B鑑定は、被告車線側にはタイヤ痕の印象がみられないこと、原告車が停止している前方の路面には車両部品ようの散乱物及び油か水のようなものが撒かれた跡がみられること、この油か水のようなものは草むらから黄色中央線にかけて撒かれていること、原告車が停止している前方の路面には原告車に向かって印象されている一本のタイヤ痕があること、油等は原告車の前方付近から被告車の停止付近まで連続するように撒かれていること等を根拠として、上記結論を導き出している。そして、上記のタイヤ痕が所々に若干の膨らんだりする部分があることや黄色中央線上の斜めの痕跡があることからみて、被告車は黄色中央線上付近でスピンを起こしたものと推定している。上記の結論を導くに至る推認過程は、いずれも合理的であり、矛盾はない。

ところで、両車両の衝突地点が亡Aの車線側であると認定した場合、両車両が衝突した後、どのような過程を経て圧壊・回転・移動し、そして最終停止位置に至ったのかについて合理的な説明ができるか否かが、B鑑定の信用性を検討する上で重要であるところ、B鑑定は、原告車及び被告車の損傷を検討した上、原告車の右角付近に被告車が右前方向から衝突したと認定し、上記衝突後から停止位置に至るまでの経過については、両車が衝突した後、被告車が原告車を草むらに押し込むような状態となり、原告車は土手に乗り上げる状態で停止し、他方、被告車は時計方向に回転しながら油等を撒いて、原告車から見て右後方約五・三メートルの位置に、高田方面に向いて車体を同車左側にある歩道にやや斜めに向けた状態で停止するに至ったものと推認しているのであり、かかる推認は、原告車が停止していた土手が抵抗体となりうる状況、左車輪のタイヤとホイールの間に挟まっていた草及び散乱物の飛散状況などの客観的証拠と矛盾せず、説明として合理性が認められる。

<3> B鑑定に対する批判についての検討

これに対し、被告は、B鑑定がcc’痕を被告車のものではないとしている点について根拠がない旨主張するが、B鑑定は、STスケールを用いてホイールベースや輪距をbb’痕やcc’痕に当てはめてみたところ、これが合わなかったことなどを考慮して、本件事故に関係ないものと判断したのであるから、この判断は合理的であり、被告の主張は理由がない。

また、被告は、被告車が原告車と衝突した後に回転を始めるには、エネルギーが必要であるところ、B鑑定の所見ではエネルギーが不足している旨主張するが、B鑑定は、被告車が原告車と衝突して原告車を押し戻し、原告車が停止してから、その時点で初めて被告車が回転を始めたというのではなく、被告車が車体後部を時計回りに振りながら、ある程度回転力を持った状態で進行してきて、被告車の前部が原告車の右前部といわゆるオフセット衝突をし、さらに時計回りに回転しながら進行し、被告車がB地点で原告車がアの地点で停止し、行き場を失った被告車がさらに時計回りに回転をして、別紙一記載のCからEまでのような動きをしたとしているのであるから、エネルギー不足との批判は当たらないというべきである。したがって、被告の主張は理由がない。

<4> C鑑定の問題点

C鑑定は、cc’痕がアクセレーションスカフを加味したヨーイング痕という特殊なタイヤ痕であり、そのことから、上記痕が原告車のものであると判断できると主張するが、C鑑定が、いかなる資料に基づいてcc’痕が特殊なタイヤ痕であると判断したのか明確ではない。

また、C鑑定は、被告車の前輪が左に傾いていることが、被告車が衝突直前に左転把して衝突したことを裏付ける事情であるとするが、被告車が衝突直前に左ハンドルを切ったのだとしても、このことから、衝突直前の原告車が被告車線に進入してきたか、進入してきそうになった可能性が大で、一方で、被告車が原告車の車線に進入してきたか、進入してきそうになった可能性は小であるなどとはいえないのであるから、被告車の前輪が左を向いていることによりC鑑定が補強されることはない。

さらに、C鑑定は、原告車が、別紙二記載のとおり、被告車と衝突した後にほぼまっすぐに押し戻されたとするのであるが、上記態様は、両車両の衝突態様や衝突部位等に照らすと、相当とは言い難い。

(5) 結論

以上によれば、B鑑定は、衝突地点と衝突後の挙動状況について、客観的証拠と科学的知見に合致するもので合理性が認められる。これに対し、C鑑定は、全体的に説得力を有するものとは言い難く、合理性を欠くもので、C鑑定を採用することはできない。そして、本件においては、B鑑定により結論づけられている本件事故の態様を覆すに足りる証拠はない。

よって、本件は、被告車がセンターラインを越えて原告車の走行する車線に進入したために生じた事故であると認める。

二  同(二)(責任原因)

上記一の認定によれば、被告は、被告車を運転して本件事故を発生させたものであるから、自賠法三条に基づき原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

三  同(三)(相続)

証拠(甲四、五)によれば、原告X2は、亡Aの夫であり、原告X1及び原告X3は、いずれも亡Aの子であり、亡Aの死亡により、原告X2はその損害賠償請求権の二分の一を、その余の原告二名は同請求権の各四分の一をそれぞれ相続した。

四  同(四)(原告らの損害額)

(一)  葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

本件事故と相当因果関係のある亡Aの葬儀費用等としては、一五〇万円をもって相当と認める。

(二)  遺体搬送料 一七万〇〇〇〇円

証拠(甲二)によれば、遺体搬送料等として一七万四三〇〇円を要したことが認められるが、上記遺体搬送料も本件交通事故と相当因果関係のある損害と認める。したがって、原告らが控えめに請求する額である一七万円は損害と認めることができる。

(三)  入院慰謝料 二万〇〇〇〇円

証拠(甲五、乙五)によれば、亡Aは、茅ヶ崎徳洲会総合病院に収容され、救急治療を施されたが、事故発生時から約六時間後に死亡したことが認められる。したがって、入院慰謝料として、二万円と認めるのが相当である。

(四)  逸失利益 四〇五一万八八一一円

亡Aは、本件事故当時、昭和○年○月○日生まれの(三一歳)の女性であり、夫と子二名と居住して家事を切り盛りしていたほか、平成一一年にはアルバイトによって五九万三三六〇円の収入を得る兼業主婦であった(甲七、一七)。上記の亡Aの主婦としての生活状況及び稼働状況からすれば、その年収は賃金センサス平成一二年第一巻第一表の女性労働者・企業規模計・学歴計全年齢平均の年収額である三四九万八二〇〇円を下回らない収入を得ることができたものというべきである。そして、亡Aは、少なくとも六七歳までは就労可能であり、生活費控除率三割として、三六年間の逸失利益の現価を計算すると、四〇五一万八八一一円となる(円未満切捨て。以下同じ)。

349万8200円×(1-0.3)×16.5468=4051万8811円

(五)  慰謝料 二五〇〇万〇〇〇〇円

本件事故は、亡Aが自車線を走行していたにもかかわらず、センターラインを越えて進出してきた被告車に衝突されたものであり、亡Aには落ち度はないこと、迫ってくる自動車に衝突されて死亡するに至った亡Aの恐怖と苦痛は言葉には尽くし難いものであったというべきこと、一瞬の事故により妻と母を失った原告らの喪失感、絶望感は癒し難いものがあること、その他本件記録に現われた諸般の事情を考慮すると、亡Aの慰謝料は二二〇〇万円、原告ら三名の慰謝料は各一〇〇万円の合計二五〇〇万円と認めるのが相当である。

(六)  損害合計額 六七二〇万八八一一円

五  同(五)(損害の填補)

原告らは、損害の填補として、政府の自動車損害賠償保障事業から一五八八万四八二七円、任意保険(セゾン自動車火災保険株式会社)から四一〇〇万円、労災保険から既支給分として一九五万七三七一円の支払を受けたことは、当事者間に争いはない。したがって、現在までの損害の填補額は五八八四万二一九八円となる。これを損害合計額に充当すると、残額は、八三六万六六一三円となる。

六  同(六)(損害賠償請求権の取得)

残額を上記三の相続分に従い分配すると、原告らの損害賠償請求権は、次のとおりである。

(一)  原告X2 四一八万三三〇六円

(二)  原告X1及び原告X3 各 二〇九万一六五三円

七  同(七)(弁護士費用)

本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告X2については四〇万円、原告X1及び原告X3については各二〇万円をもって相当と認める。

八  同(八)(原告らの損害合計)

(一)  原告X2 四五八万三三〇六円

(二)  原告X1及び原告X3 各 二二九万一六五三円

第四結論

以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由があるから、認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡武)

別紙1 再現した痕跡等の状況図(拡大図)

<省略>

別紙2 再現した痕跡等の状況図(拡大図)

<省略>

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