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東京地方裁判所 平成12年(ワ)12309号 判決 2001年10月15日

<1>原告 久本洋一

<2>原告 久本正雄、久本和子

<1><2>被告 国 ほか1名

代理人 加藤正一 八木下孝義 根原稔 ほか2名

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1原告らの請求

1  (第1事件)

被告国は、原告久本洋一に対し、別紙「実測整合図」(以下「別紙図面」という。)イロハイを結ぶ直線で囲まれた土地つき、昭和40年11月15日時効取得を原因とする持分3分の1の割合による持分一部移転登記手続をせよ。

2  (第2事件)

(1)  被告国は、原告久本正雄に対し、別紙図面イロハイを結ぶ直線で囲まれた土地につき、昭和40年11月15日時効取得を原因とする持分3分の1の割合による持分一部移転登記手続をせよ。

(2)  被告国は、原告久本和子に対し、別紙図面イロハイを結ぶ直線で囲まれた土地につき、昭和40年11月15日時効取得を原因とする持分3分の1の割合による持分一部移転登記手続をせよ。

3  (第1事件、第2事件)

(1)  被告東京都は、原告らに対し、別紙図面イロハイを結ぶ直線で囲まれた土地に設けたフェンスを撤去し、同土地を明け渡せ。

(2)  原告らが、各自別紙図面イロハイを結ぶ直線で囲まれた土地つき、各自3分の1の割合による持分権を有することを確認する。

第2事案の概要

本件は、久本文子(以下「文子」という。)が、別紙図面イロハイを結ぶ直線で囲まれた土地(以下「本件土地」という。)を時効取得したとして、文子の子である原告らが、被告らに対し、本件土地の持分権の確認を求めるとともに、被告国に対し、本件土地につき時効取得を原因とする持分移転登記手続を、被告東京都に対し、本件土地の周囲に設けられたフェンスの撤去及び同土地の明渡しをそれぞれ求めた事案である。

別紙図面のとおり、本件土地の南東側に隣接して、別紙物件目録記載1の土地(以下「10番8の土地」という。)が存在し、10番8の土地の東北東側に隣接して別紙物件目録2記載の土地(以下「10番12の土地」という。)が存続することは、当事者間に争いがない(以下、これらの土地をあわせて「文子所有地」といい、本件土地と文子所有地とを併せて「本件建物敷地」という。)。

1  請求原因

(1)(各請求に共通する請求原因)

ア 文子は、昭和40年11月15日、本件建物敷地上に別紙物件目録記載3の建物(以下「本件建物」という。)を建築して、本件土地を占有していた。

イ 文子は、昭和60年11月15日経過時、本件建物敷地上に本件建物を建築して、本件土地を占有していた。

ウ 文子は、平成6年7月13日、死亡した。

エ 原告らは、文子の子である。

オ 原告久本洋一(以下「原告洋一」という。)は、平成12年3月6日の口頭弁論期日において、原告久本正雄(以下「原告正雄」という。)及び同久本和子は、同年9月4日の口頭弁論期日において、それぞれ時効を援用するとの意思表示をした。

カ 被告らは、原告らが本件土地の共有持分権を取得していることを争っている。

(2)  (持分移転登記手続請求についての請求原因)

本件土地は登記簿上国有地として無番地で、登記自体が存在しない。

(3)  (フェンス撤去及び本件土地明渡請求についての請求原因)

被告東京都は、本件土地の周囲にフェンスを設けて、占有している。

2  請求原因に対する被告らの認否

(1)  被告国

ア 請求原因(1)のアからエの各事実は、知らない。

イ 同(2)の事実は、認める。

(2)  被告東京都

ア 請求原因(1)のア及びイの各事実は、否認する。

イ 同(1)のウ、エの各事実は、認める。

ウ 同(3)の事実は、認める。

3  被告らの抗弁

(1)  被告国、同東京都-所有の意思の不存在(他主占有となる事情)

本件土地の隣接地(文子所有地とは異なる)の所有者であった矢部忠雄らが、昭和45年9月29日付けで行った公共用地用途廃止申請のための公共用地境界明示申請の際、文子は、本件土地が公共用地(水路敷)であることを前提に、昭和46年8月6日、現地立会を行い、異議なく承諾し、承諾書(以下「本件承諾書」という。)に署名押印している。

本件承諾書は、その記載内容から明らかなとおり、公共用地(水路敷)と文子が所有していた土地(10番8の土地)との境界(両土地の所有権の及ぶ範囲)を承諾したものであって、本件土地が公共用地(国有地)であることを前提としていることが明らかである。

よって、文子は、本件承諾書により、本件土地が自己の所有に属さないとの意思を外形的に明らかにしており、本件土地につき、国の所有権を排斥して占有する意思を有していなかった。

(2)  被告国-公共用財産を理由とする取得時効の不成立

本件土地は、水路であり、国有財産法3条2項という公共用財産であるから、時効取得の対象とはならない。

(3)  被告東京都

ア 時効中断

本件土地は、従来から公図の上では水路敷と表示され国有財産の取扱いがされてきたが、現況が水路敷として形態や機能を喪失し、隣接する私有地との境界確認を行う必要から、東京都知事が昭和46年8月6日に境界明示を行った。

この境界明示の際、隣接土地(10番8の土地)の所有者である文子は、立会の上、本件土地との境界を承諾し、本件土地が水路敷として国有財産に属することを確認した(なお、この手続は昭和47年2月28日に確定している。)

したがって、上記時点で、文子の取得時効は中断した。

イ 所有の意思の不存在(他主占有となる事情)

上記中断時(昭和46年8月6日)から再度、時効が進行したとしても、文子の占有は他主占有であるから、時効取得は成立しない。

(ア) すなわち、本件土地及び隣接地を含む一帯は、東京都市計画道路事業幹線街路環状第6号線の事業予定区域内にあることから、首都高速道路公団は、被告東京都の受任者として、用地買収手続に着手し、文子所有地を取得する際、上記アの際に作成された境界確定図面を前提として、平成3年9月13日、文子の代理人原告正雄の立会の下で土地の境界確認を行い、土地境界立会確認書も作成されている。その際、本件土地が、水路敷(国有地)であることを文子は再び確認した。

なお、被告東京都の担当者が、書面の趣旨や目的を何ら説明することなく、土地境界立会確認書に専ら署名捺印のみを求めることなどあり得ないし、本件土地は立会個所標示略図に明示されているし、実際にこの略図に基づく立会と境界の確認が行われている以上、原告正雄が文子所有地と水路敷との境界を確認するという認識を全く持たずに署名捺印したなどということもあり得ない。

(イ) その直後の平成3年10月1日、原告洋一は、文子の代理人として、本件土地を機能管理する渋谷区に対し、国有水路敷の用途廃止と払下げを申請し、平成10年8月20日にも、同様の趣旨で渋谷区と交渉を持った。

(ウ) 本件土地が水路敷(国有地)であることに異議を留めていない文子及び原告洋一の一連の行為は、「占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外形的客観的にみて、占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情」であるから、他主占有である。

ウ 時効利益の放棄又は時効援用権の喪失

文子は、上記イ(ア)の平成3年9月13日にされた境界確認の立会を経て、本件土地が水路敷(国有地)であるとの認識の下に、平成4年5月28日、文子所有地を首都高速道路公団に対し売却するとの内容の売買契約を締結している。

このような事情があることからすれば、文子は、時効の利益を放棄したか、時効援用権を喪失したというべきである。

エ 信義則違反及び権利の濫用

被告東京都は、登記の公示力や公図などの権利外観を信頼して、文子との間で文子所有地の売買契約を締結し、同契約に基づき債務を履行していること、同契約を締結するに当たっては、上記イのとおり、境界確認を行い、原告正雄も本件土地が公共用地であること、すなわち、文子の所有には属さないことを自ら確認していること、さらに、上記手続を踏まえた権利関係が形成されていることなどに照らすと、原告らの時効の援用は、信義則違反ないし権利の濫用として許されない。

4  抗弁に対する原告の認否

(1)  抗弁(1)のうち、文子が、10番8の土地と公共用地(水路敷)との境界は現場で表示のとおり異議なく承諾したことは認め、その他の事実は否認する。

文子が、本件承諾書に署名押印したのは、境界明示申請をした矢部の妻から強く依頼されたことから、境界を現場で確認しないまま行ったものである。

本件承諾書は、本件土地と文子所有地との境界を承諾したものにすぎず、これにより、本件土地の所有権が国に属することを承認したということはできない。

自己所有地間の境界を確認することは通常ありうることであり、文子が、自己が所有すると考えていた本件土地と10番8の土地の境界を確認したからといって、真の所有者であれば通常とらない態度を示したものとはいえない。

文子が、本件承諾書により国に所有権があることを承認したとしても、それは悪意であったことを推認させるものにすぎず、他主占有事情に該当しない。

(2)  抗弁(2)の事実は、否認する。

(3)  同(3)アのうち、文子が、10番8の土地と公共用地(水路敷)との境界を現場で表示のとおり異議なく承諾したことは認め、その他の事実は知らない。

文子のした承諾は、本件土地の所有関係に特段の注意を払うことなくされたものである上、その後も文子は本件土地を自宅敷地として使用し続けたのであるから、取得時効の中断事由としての承認であるとはいえない。

(4)  同(3)イについて

ア 同(3)イ(ア)の事実は否認し、主張は争う。

平成3年9月13日、道路公団の職員数名、原告正雄、文子所有地の隣接地所有者(矢部忠雄、渋木光代、金子きよ)が、塀で囲まれた文子所有地及び本件土地の周囲の4隅の角を確認して一周し、境界を確認した。この確認作業は、全体の所要時間は5分から10分程度であり、その間、原告正雄は、自宅敷地の一部に本件土地が含まれていることやこれを除くという話は聞かなかったし、本件土地と文子所有地の境界のポイントの確認は全く行われなかった。

そして、自宅敷地4隅の角を確認した後、原告正雄は、職員と自宅に入り、職員が持参した土地境界立会確認書に指示されるままに署名押印した。その際、同書面右の立会個所表示略図は、全く記載されていなかった(略図は、道路公団の職員が後から記入したものであり、原告正雄の確認なく勝手に記載したものである。)。

以上のとおり、平成3年9月13日の土地境界立会確認作業において、原告正雄が、本件土地と文子所有地との境界を確認した事実や本件土地の所有権が国に属することを承諾した事実はなく、さらに、略図を確認して署名した事実もない。

イ 同(3)イ(イ)の事実は、認める。

ウ 同(3)イ(ウ)の主張は、争う。

(5)  同(3)ウの主張は、争う。上記(4)アの平成3年9月13日に行われた土地境界立会確認の具体的経緯及び土地境界立会確認書作成の経緯からして、時効援用権を喪失したとか、時効利益を放棄したということはできない。

(6)  同(3)エの主張は、争う。

5  原告の再抗弁

(1)  他主占有ではないことを裏付ける事情(被告らの抗弁(1)、(3)イに対する再抗弁)

ア 文子は、本件土地上に建築した自宅について自己を所有者として保存登記をしている。

イ 10番8の土地の地積は49.58m2と登記されていたところ、当該土地の買収に際して実測したところ、45.75m2であった。これは、何らかの原因により本件土地の一部まで含めて表示登記されていたものと推認される。すなわち、文子は、昭和29年12月10日に当該土地を相続により取得して以来、平成4年5月28日に当該土地が買収されるまで38年間にわたり、本件土地の一部について所有者として課税され、納税してきた。

ウ 文子は、昭和47年ころ、自宅2階へ上がる階段を自宅外部に取り付けたが、その上がり口が本件土地であった。すなわち、文子は、本件土地上に階段を取り付けることにより、本件土地が自己の所有物であるとの認識を客観的に明らかにしていた。

(2)  黙示の公用廃止(被告らの抗弁(2)に対する再抗弁)

本件土地は、元水路の一部であるが、この水路自体は、昭和7年ころ、環状6号線の建設や払下げなどにより前後に分断され、遅くとも昭和40年当時、既に水路としての用を廃していた。

本件土地及び文子所有地は、昭和40年11月15日に文子が自宅を建築する以前に、すでに古家の敷地として利用されていた。この古家は遅くとも昭和30年ころまでには建築されており、久本家の自宅として利用されていた。この古家と隣家である矢部家の建物との境界には垣根があり、垣根と古家との間は人一人が通れるくらいであった。この部分の一部が本件土地にかかっている。このように本件土地は遅くとも昭和30年ころまでには、久本家の建物(古家)の敷地として利用されるようになっていた。

また、本件土地の周囲の状況については、本件土地と同様に、遅くとも昭和40年ころにおいて既に住宅等の敷地とされており、公図上水路と指定されていたにもかかわらず、水路としての機能、形態を全く喪失していた。

これらのことからすれば、本件土地については、文子の占有開始時において、黙示の公用廃止があった。

(3)  信義則違反ではないことを裏付ける事情(被告らの抗弁(3)エに対する再抗弁)

首都高速道路公団が、原告らに対し、本件土地の地下には、現実には水路が入っていないのに、本件土地の地下には水路が入っている旨の虚偽又は不適切な説明をしていたなどの経緯に照らすと、原告らによる取得時効の援用は、信義則に違反しない。

6  再抗弁に対する被告らの認否

(1)  被告国、同東京都

ア 再抗弁(1)ア及びウの各事実について、争うことを明らかにしない。

イ 同(1)イの主張は、争う。

(2)  被告国

再抗弁(2)の事実は否認し、主張は争う。

(3)  被告東京都

再抗弁(3)の事実は否認し、主張は争う。

第3当裁判所の判断

1  請求原因について

(1)  請求原因(1)のア及びイの各事実は、<証拠略>により認められる。

(2)  同(1)のウ及びエの各事実は、原告と被告東京都の間では争いがなく、被告国との関係では、<証拠略>により認められる。

(3)  同(1)のオ及びカの各事実は、当裁判所に顕著な事実である。

(4)  同(2)の事実は、原告と被告国との間で争いがない。

(5)  同(3)の事実は、原告と被告東京都との間で争いがない。

2  被告らの抗弁(1)について

(1)  <証拠略>によれば、本件土地の北西側の隣地である渋谷区本町3丁目10番17(以下「10番17の土地」という。)、10番17の土地の北西側の隣地である渋谷区本町3丁目10番7(以下「10番7の土地」という。)の所有者である矢部忠雄及び矢部義弘が、昭和45年9月29日、公共用地用途廃止申請のために、別紙公図写のとおり、10番17の土地及び10番7の土地と渋谷区本町3丁目10番6の土地及び同10番8の土地との間に存在する公共用地(水路敷)との境界が不明であるとして、東京都知事に対し、境界の現地での明示を申請したこと、文子は、昭和46年8月6日、自己が所有する10番8の土地と本件土地との境界につき、現地で立会の上確認し、「下記の私の所有地と公共用地(水路敷)との境界は現場で表示のとおり異議なく承諾いたします。」と記載され、その下に、「記」として「渋谷区本町3丁目10番地8」、「昭和46年8月6日立会」と記載された本件承諾書に土地所有者として署名押印したこと、文子は本件承諾書を東京都知事宛に提出したこと、以上の各事実が認められる。

上記認定事実によれば、文子は、本件土地が公共用地(水路敷)であることを認識した上で、自己の所有する10番8の土地と公共用地である本件土地との間の境界を承諾し、その旨の本件承諾書に署名押印したものと認めることができる。しかるところ、本件承諾書は、前記認定のとおり、東京都知事宛のものであり、東京都知事は、前記の一連の境界明示手続において、公図上水路敷である本件土地の管理者の立場にあったと認められるから、結局、文子は、本件承諾書に署名捺印することによって、公図上本件土地の所有者と目される国に対し、同土地が国有地であることを承認した上で、同土地と自己所有地である10番8の土地との境界を承諾したというべきことになる。

そうすると、文子のこのような態度は、外形的客観的にみて、文子が本件土地の真の所有者であれば通常はとらない態度であるといわなければならない。したがって、本件土地に対する文子の占有については、民法186条所定の所有の意思の推定はくつがえされたものというべきである。

なお、原告洋一は、文子は、本件土地を自分の土地であると言っていたであるとか、本件承諾書は、矢部さんの土地と久本の土地との境界の確認と聞いている、文子は、昭和46年のときも、公図上水路敷が自分の敷地の中にあることを知らなかったと思っているなどと供述するが、上記の認定事実に照らし、同供述は採用することができない。

(2)ア  原告らは、文子が、本件承諾書に署名押印したのは、境界明示申請をした矢部の妻から強く依頼されたことから、境界を現場で確認しないまま行ったものであると主張する。

しかし、上記のとおり、現地で立ち会った旨記載された本件承諾書があり、文子がこれに署名押印している以上、文子は、現場を確認したと認めるのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。

イ  原告らは、本件承諾書は、本件土地と10番8の土地との境界を承諾したものにすぎず、これにより、本件土地の所有権が国に属することを承認したということはできないと主張する。

しかし、上記説示のとおり、境界明示手続の経過や本件承諾書の内容からして、文子は本件土地が自己の所有地ではなく、公共用地(公の土地)であることを承認していたものと認められるから、原告らの主張は採用することができない。

ウ  原告らは、自己所有地間の境界を確認することは通常ありうることであり、文子が、自己が所有すると考えていた本件土地と10番8の土地との境界を確認したからといって、真の所有者であれば通常とらない態度を示したものとはいえないと主張する。

しかし、本件承諾書が原告の主張するようなものでないことは上記説示のとおりであるから、原告らの主張は、その前提を欠き失当である。

エ  原告らは、文子が、本件承諾書により国に所有権があることを承認したとしても、それは悪意であったことを推認させるものにすぎず、他主占有事情に該当しないと主張する。

しかし、文子が、本件承諾書に署名押印し、これを東京都知事に提出したことは、本件土地が公共用地、すなわち他人の土地であることを認識していたという意味で、文子が悪意であったことを示す事実であるばかりでなく、上記のとおり、外形的客観的にみて、文子が真の所有者であれば通常はとらない態度を示したもので、文子の土地占有権原に直結する事実と評価すべきであるから、原告らの主張は採用することができない。

3  原告の再抗弁(1)について

ア  再抗弁(1)アについて

被告らは、再抗弁(1)アの事実(文子は、本件土地上に建築した自宅について自己を所有者として保存登記をしていること)について、争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。

しかし、文子は、これらの事実を前提として、本件承諾書に署名押印して、これを東京都知事に提出している以上、これらの事実があるからといって、前記2の判断を左右するものではない。

イ  再抗弁(1)イについて

原告らは、文子は、本件土地の一部について所有者として課税され、納税していたので他主占有ではないと主張する。

確かに、<証拠略>によれば、10番8の土地の登記簿上の面積は49.58m2であるが、実測地積は45.75m2であるとの事実が認められる。

しかし、本件土地が登記簿上無番地で、登記自体が存在しないとの点につき、原告らと被告国との間で争いがないことは、前記1(4)のとおりであり、被告東京都の間では、<証拠略>により、この事実が認められる。しかるところ、文子が課税されていたのが10番8の土地及び10番12の土地であろうことは明らかであり、本件土地はこれらの土地とは別の土地である(公図上別の区画になっている以上、土地制度上両者は別の土地である。)から、原告らの主張するような事情は、単に文子所有地の登記簿上の地積と実際の面積とが食い違っていたことを示すものにすぎず、本件土地を含めて文子に課税がされていたことを示すものではない。原告らの主張は理由がない。

ウ  再抗弁(1)ウについて

被告らは、再抗弁(1)ウの事実(文子は、昭和47年ころ、自宅2階へ上がる階段を自宅外部に取り付けたが、その上がり口が本件土地であったこと)について、争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。

しかし、この事実も、文子が本件土地を占有使用していたとの事実を示すものにすぎず、前記2の判断を覆すに足りる事情とはいえない。

4  結論

以上によれば、原告らの請求は、その他の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。よって、原告らの請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩田好二 手嶋あさみ 石丸将利)

(別紙)

物件目録

1 土地

所在   渋谷区本町3丁目

地番   10番8

地目   宅地

地積   49.58m2

2 土地

所在   渋谷区本町3丁目

地番   10番12

地目   宅地

地積   9.25m2

3 建物

所在   渋谷区本町3丁目10番地8、10番地12

家屋番号 10番8の1

種類   居宅

構造   木造瓦葺2階建

床面積  1階 34.71m2

2階 34.71m2

以上

渋谷区本町三丁目地先

実測整合図<省略>

東京法務局渋谷出張所公図写(昭和45・9・8写)

渋谷区本町参丁目<図面省略>

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