東京地方裁判所 平成12年(ワ)13050号 判決
原告 株式会社サンセイ・アクティブ
右代表者代表取締役 日高芳夫
右訴訟代理人弁護士 伊東隆
被告 東京観光興業株式会社
右代表者代表取締役 佐々木浩治
右訴訟代理人弁護士 太田耕造
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告に対し、次の金員を支払え。
1 金一四五万七八〇一円及びこれに対する平成一二年七月一日から同年同月三一日まで年四・五パーセント、同年八月一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員。
2 金一四五万七五〇〇円及びこれに対する平成一二年一〇月三日から同年一一月二日まで年四・五パーセント、同年一一月三日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員。
3 平成一二年一二月二七日限り金一四五万七五〇〇円及びこれに対する同年一二月二八日から平成一三年一月二七日まで年四・五パーセント、同年同月二八日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員。
4 平成一三年二月二八日限り金一四五万七五〇〇円及びこれに対する同年三月一日から同年同月三一日まで年四・五パーセント、同年四月一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
第二事案の概要
本件は、原告が所有していた不動産が、固定資産税及び都市計画税の賦課期日後に被告に所有権が移転されたが、当該年度のこれらの税の全額について原告が納税義務を負担し、被告が納税義務を免れたことが不当利得に当たるとして、被告に対し、これらの税相当額の返還を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、平成一二年一月一日の時点で別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)を所有し、不動産登記簿上でも所有者として登記されていた。(争いがない。)
2 被告は、平成一二年三月九日、競売による売却により本件不動産の所有権を取得し、その旨の登記を経由した。(争いがない。)
3 本件不動産に対する平成一二年度の固定資産税及び都市計画税は、平成一二年一月一日における本件不動産の不動産登記簿上の所有者である原告に対して賦課されたが、その納付期限及び税額は次のとおりである。(甲第二号証の一ないし四)
(一) 平成一二年六月三〇日 一四五万七八〇一円
(二) 同年一〇月二日 一四五万七五〇〇円
(三) 同年一二月二七日 一四五万七五〇〇円
(四) 平成一三年二月二八日 一四五万七五〇〇円
4 本件に関する固定資産税及び都市計画税の延滞金は、納付期限後一月以内は年四・五パーセント、それ以降は年一四・六パーセントである。(争いがない。地方税法三六九条一項、附則三条の二)
二 争点
本件の争点は、固定資産税及び都市計画税の賦課期日に所有者であったためこれらの税の納税義務を負担したが、その後に当該不動産の所有権が他に移転された場合に、新所有者が、旧所有者に賦課された税額について不当利得返還義務を負うかどうかである。
1 原告の主張
固定資産税は、固定資産の資産価値に着目して課される物税であり、固定資産の所有者に賦課する所有者課税主義が採られている(地方税法三四三条一項)。そして、固定資産税の賦課に当たっては、台帳に所有者として記載されている者を税法上の所有者とする台帳課税主義が採られ(同条二項)、賦課期日は一月一日とされているから(三五九条)、同日における台帳上の所有者に賦課されることになるが、このような課税制度は、専ら技術的な理由によるものである。すなわち、課税に当たり、あくまでも真実の所有者を納税義務者としなければならないとすれば、課税者が複雑多岐な民事上の実体関係に介入することになり、事実問題としてその把握が容易でないばかりでなく、私法上の所有関係はしばしば長期にわたっていずれとも決し難い場合があるので、このような困難を除くため古くから台帳課税主義が採られてきた。また、一月一日現在の所有者に対して賦課することについても、固定資産を有する期間に応じて賦課期日当日の所有者とその後の所有者とに月割りで課税するという方法も考えられるが、課税上の事務が煩瑣に耐えないし、固定資産の売買に際しては、その税負担は旧所有者から新所有者に転嫁し得るものであること等の理由から、賦課期日後の納税義務の発生、消滅を問わないこととされたのである。
固定資産税が、右の技術的理由から一月一日の台帳上の所有者に賦課されることは、公法上の問題としてはそれなりに完結しているともいえるが、私人間についても当然に同一の結論に至るべきかは別の問題である。固定資産税は、所有者の実質的な担税力に着目して課される財産課税的性格を有するものであり、取引の実際においても、税負担を取引日を基準に振り分けることが常であり、それが行われない場合も税を考慮して取引価格が定められている。実質的にみるなら、固定資産税の究極的な負担者は真の所有者であり、地方税法は徴税の技術的考慮から、名義人と真の所有者との食い違いについては、当事者間の解決に委ねたものとみることができるのであり、そうであれば、私人間では、誰に負担させるのが衡平の観念に合するかを考え、その調整として不当利得による解決を採ることも不当ではないと考えられる。最高裁判所昭和四七年一月二五日第三小法廷判決(民集二六巻一号一頁)も、このような考え方によるものである。
なお、原告は、本件で問題とされる固定資産税及び都市計画税を現実に納付してはいないが、公法的には原告がこれらの納税義務者であり、原告が納税義務を免れることはできず、そのことにより被告は負担すべき債務を免れているのであるから、納付前においても不当利得は成立する。
2 被告の主張
固定資産税等の納付義務者は、毎年一月一日に台帳に所有者として記載されている者であり、原告は法律上の納税義務に基づき固定資産税等を納付するのであり、そのことにより被告が納税義務を免れたのではないから、何ら利得を得るものではない。原告が引用する最高裁判例は、賦課期日において不動産の所有者でない者が台帳に所有者として登録されていたために、真の所有者は本来課税されるべきであるにもかかわらず、課税されずに単なる名義人に課税された事案であり、本件とは事案が異なる。本件では、賦課期日において原告は実質的にも形式的にも所有者であり、被告は所有者ではなかったから、右判例に該当するものではない。
第三争点に対する判断
一 地方税法三四三条は、「固定資産税は、固定資産の所有者(中略)に課する。(一項)」、「前項の所有者とは、土地又は家屋については、土地登記簿若しくは土地補充課税台帳又は建物登記簿若しくは家屋補充課税台帳に所有者(中略)として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三四八条第一項の者(国等の非課税団体)が同日前に所有者でなくなっているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。(二項)」と、同法三五九条は、「固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。」とそれぞれ規定し、同法七〇二条により、都市計画税の課税客体である「土地又は家屋の所有者」も、当該土地又は家屋に係る固定資産税について所有者とされ、又は所有者とみなされる者をいうものとされている。
二 固定資産税は、土地、家屋等の資産価値に着目して課せられる物税であり、その課税客体は原則として固定資産の所有者であるが、法は課税上の技術的考慮から台帳課税主義を採り、真実の所有者でない者でも、賦課期日において、土地については土地登記簿又は土地補充課税台帳、家屋については建物登記簿又は家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者を所有者として課税することとしている。
ところで、原告は、平成一二年度の固定資産税の賦課期日である同年一月一日において、本件不動産の真実の所有者であり、土地登記簿及び建物登記簿に所有者として登記されていた者であるから、実質的にも形式的にも本件不動産について固定資産税の納税義務者に該当し、この点での実体と形式のそごはない。
問題は、賦課期日の制度により、一定の時点における不動産の所有者に、四月一日から始まる当該年度の一年分の固定資産税を課することとしている点について、賦課期日から当該年度が始まる前日までの間(本件はこの場合に当たる。)又は年度途中に不動産の所有権が移転された場合に、旧所有者が当該年度分全額の納税義務を負担することが新所有者の不当利得といえるかどうかであるが、法が賦課期日の制度を設け、同日における所有者に対して課税することとしている以上、賦課期日において実質的にも形式的にも所有者ではなかった新所有者が課税されず、納税義務を負担しないことが法律上の利得に当たると解することは困難というべきであり(所有者でない者が台帳課税主義により課税される場合は、本来課税されるべき者が課税を免れるという意味で不当利得に当たるということができるが、賦課期日に実質的にも形式的にも所有者であつた者が当該年度分の固定資産税を課税されることは、課税上の技術的考慮による側面があるにせよ、前記固定資産税の財産課税的性質からみて本来課税されるべき者が課税を免れたとはいえない。)、旧所有者に不当利得返還請求権が発生する余地はないと解される。そして、この点は、課税客体を固定資産税と同一とする都市計画税についても同様である。
なお、現実には、不動産の売買において、当該年度の固定資産税及び都市計画税の負担を所有権移転時期によって振り分けたり、右負担を考慮して代金額を定めることが行われているのは、原告が主張するとおりであるが、このような合意がない場合においても、不当利得返還請求権に基づいて当然に税負担の調整をするのが相当かどうかは別問題であると解される。
また、原告は、最高裁判所昭和四七年一月二五日判決(民集二六巻一号一頁)を引用しているが、同判例は、真実は土地、家屋の所有者でない者が、登記簿に所有者として登記されていたために、固定資産税の納税義務者として課税され、現実にこれを納付した場合に関するものであり、本件とは事案を異にするというべきである。
三 そうすると、不当利得返還請求権に基づき、被告に対し、原告が納税義務を負担した固定資産税及び都市計画税相当額の支払を求める原告の請求は理由がない。
第四結論
以上によれば、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 寺尾洋)
物件目録
一、所在 港区西新橋二丁目
地番 三一一番七
地目 宅地
地積 一二六・五一平方メートル
二、所在 港区西新橋二丁目
地番 三一一番九
地目 宅地
地積 一一二・〇九平方メートル
三、所在 港区西新橋二丁目
地番 三一一番一三
地目 宅地
地積 二三八・〇一平方メートル
四、所在 港区西新橋二丁目
地番 三一一番一六
地目 宅地
地積 一〇・八〇平方メートル
五、所在 港区西新橋二丁目三一一番地一三、三一一番地七、三一一番地九
家屋番号 三一一番七の二
種類 事務所、車庫、居宅
構造 鉄骨鉄筋コンクリ-ト造陸屋根八階建
床面積 一階 三五三・八九平方メートル
二階 三六四・〇五平方メートル
三階 三四六・九五平方メートル
四階 三二九・八五平方メートル
五階 三〇〇・二一平方メートル
六階 二八三・一一平方メートル
七階 二六七・一五平方メートル
八階 一六〇・三〇平方メートル