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東京地方裁判所 平成12年(ワ)18788号 判決 2001年3月09日

①ないし③、⑤、⑥、⑧事件原告兼④、⑦事件被告(以下「原告出版貿易」という。)

日本出版貿易株式会社

同代表者代表取締役

中林三十三

同訴訟代理人弁護士

下井善廣

井手大作

④、⑦事件原告兼①ないし③、⑤、⑥、⑧事件被告(以下「被告オリックス」という)

オリックス株式会社

同代表者代表取締役

宮内義彦

同訴訟代理人弁護士

髙城俊郎

鈴木洋子

小池敏彦

林彰久

稲田龍示

池袋恒明

林彰久訴訟復代理人弁護士

西郷新

主文

1  原告出版貿易と被告オリックスとの間で、供託者株式会社ケンウッド、同日本たばこ産業株式会社、同ヤマハ株式会社、同住金物産株式会社、同ヤマハ発動機株式会社、同川鉄商事株式会社がそれぞれ供託した別紙供託目録(1)ないし(6)記載の各供託金について、被告オリックスが還付請求権を有することを確認する。

2  原告出版貿易の請求(①ないし③、⑤、⑥、⑧事件)をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告出版貿易の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  ①ないし③、⑤、⑥、⑧事件

原告出版貿易と被告オリックスとの間で、供託者株式会社ケンウッド、同日本たばこ産業株式会社、同ヤマハ株式会社、同住金物産株式会社、同ヤマハ発動機株式会社、同川鉄商事株式会社がそれぞれ供託した別紙供託目録(1)ないし(6)記載の各供託金について、原告出版貿易が還付請求権を有することを確認する。

2  ④、⑦事件

主文第1項と同旨

第2  事案の概要

本件事案の概要は次のとおりである。訴外株式会社海外生活総合情報センター(以下「訴外情報センター」という)は、訴外株式会社ケンウッド(以下「訴外ケンウッド」という)、同日本たばこ産業株式会社(以下「訴外日本たばこ」という)、同ヤマハ株式会社(以下「訴外ヤマハ」という)、同住金物産株式会社(以下「訴外住金物産」という)、同ヤマハ発動機株式会社(以下「訴外ヤマハ発動機」という)、同川鉄商事株式会社(以下「訴外川鉄商事」という)に対し、海外赴任に関するサービス等を提供した対価としての報酬債権を有していた。原告出版貿易、被告オリックスは共に訴外情報センターの債権者であるところ、いずれも訴外情報センターとの間で債権譲渡契約を締結し、その旨を債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「債権譲渡特例法」という)に基づき登記し、対抗要件を具備していた。原告出版貿易、被告オリックス双方とも、訴外情報センターの訴外ケンウッドら六社に対する報酬債権の譲渡を受け、自らの債権譲渡が他に優先すると主張しているため、訴外ケンウッドら六社は、真の債権者が誰であるか不確知であるとして、別紙供託目録(1)ないし(6)記載のとおり報酬債権について供託した。そこで、原告出版貿易、被告オリックス双方は、前記各供託金の還付請求権は自分の方にあるとして、その確認を求めて本訴を提起した。なお、供託者が訴外ケンウッドの事件が①及び④事件であり、供託者が訴外住金物産の事件が②及び④事件であり、供託者が訴外ヤマハ発動機の事件が、③及び④事件であり、供託者が訴外日本たばこの事件が④及び⑤事件であり、供託者が訴外ヤマハの事件が④及び⑥事件であり、供託者が訴外川鉄商事の事件が⑦及び⑧事件である。

1  前提事実(争いのない事実は証拠等を掲記せず、証拠等により認定した事実は末尾に証拠等を掲記した)

(1)  訴外情報センターの株式会社ケンウッド等に対する債権

ア(ア) 訴外情報センターは、訴外ヤマハ発動機、同日本たばこ、同ヤマハ、同川鉄商事との間で、別紙第三者債務者一覧表の「契約日」欄記載の各契約日に、前記訴外会社ら四社が所定の入会金及び年会費を支払って会員となり、訴外情報センターが前記訴外会社ら四社に対して同社の社員らの海外赴任に関するサービス(カウンセリングサービス、代行サービス、研修サービス、その他各種サービス)を提供し、前記訴外会社ら四社が訴外情報センターに対し、前記サービスについての報酬を支払う旨の法人会員契約を締結した(乙1、3、5、9、弁論の全趣旨)。

(イ) 訴外情報センターは、訴外ケンウッド、同住金物産との間で、別紙第三債務者一覧表の「契約日」欄記載の各契約日に、訴外情報センターが海外人事関連業務、海外赴任者支援に関する各種情報、助言及び各種サポート業務を提供し、前記訴外会社ら二社が提供を受けた業務について業務委託料を支払う旨の業務委託契約を締結した(乙7、8)。

イ 訴外情報センターは、前記法人会員契約、業務委託契約に基づき、訴外ケンウッドら六社に対し、各種サービス、情報を提供し、別紙第三債務者一覧表の「残債務額」欄記載のとおり、訴外ヤマハ発動機に対し平成一二年四月二五日現在で一〇一三万二八一一円、同日本たばこに対し同年一月一日現在で七八万二六五二円、同ヤマハに対し同年一月二四日現在で四三万八三二九円、同川鉄商事に対し同年八月二一日現在で一三万三二九七円(遅延損害金を含む)、同ケンウッドに対し同一一年一二月二四日現在で金六五一万三一九九円、同住金物産に対し同一二年三月二一日現在で金一八〇万四二〇五円の報酬債権を有しているところ、これらの各報酬債権は平成一〇年四月一日から同一二年三月三一日までの間に発生した債権である(以下、これら各債権を併せて「本件報酬債権」という)。(乙20ないし24、弁論の全趣旨)

(2)  被告オリックスと訴外情報センターとの間の債権譲渡担保契約及び登記

ア 被告オリックスは、平成一一年二月一〇日、訴外情報センターとの間で、訴外情報センターの被告オリックスに対する下記債務を担保するため、訴外情報センターから下記債権の譲渡を受ける旨の債権譲渡担保契約を締結した(乙9、10の2ないし4、10の6ないし14、以下「被告オリックスの債権譲渡担保契約」という)。

(債務の表示)

別紙リース契約一覧表記載のリース契約に基づき訴外情報センターが被告オリックスに対し負担する一切の債務(被担保債務)。

(譲渡債権の表示)

訴外情報センターと別紙第三債務者一覧表記載の第三債務者との間の契約(契約日及び契約名称は同表「契約日」欄及び「契約書」欄記載のとおり)に基づいて、訴外情報センターが第三債務者らに対して現在有し、または将来有する債権(債権の内容については、同表「譲渡債権の内容」欄記載のとおり)のうち、債務残高に充つるまでの金額部分(被譲渡債権)。

(その他の条項)

(ア) 当該債権譲渡担保契約による債権譲渡については、この契約の締結後直ちに債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行うものとする(第三条一項)。

(イ) 訴外情報センターが、支払を停止し、又は、手形、小切手の不渡りを発生させたときは、被告オリックスは第三債務者に対し、債権譲渡に係る債権譲渡登記について通知をすることができる(第六条一項五号)。

(ウ) 被告オリックスが第三債権者に前記通知をした後は、被告オリックスは譲渡債権を直接第三債務者から回収、受領し、受領した金額からそれに要した費用を控除した後の残額を、被告オリックスの定める順序及び方法により被担保債務の弁済に充当することができる(第六条二項)。

イ 被告オリックスは、平成一一年三月四日一四時四六分、前項の債権譲渡担保契約に基づき、次のとおり債権譲渡登記(以下「被告オリックスの債権譲渡登記」という)をした(甲8)。

(ア) 概要事項の表示

登記番号 第一九九九―四八五号

譲渡人 訴外情報センター

譲受人 被告オリックス

登記原因 平成一一年二月一〇日譲渡担保

債権の総額 一億〇〇二七万二二一五円

登記の存続事項の満了年月日 平成一五年一月一日

(イ) 債権個別事項の表示

債務者 別紙第三債務者一覧表「会社名」欄記載のとおり

債権の種類 その他の報酬債権

債権の発生年月日(始期) 別紙第三債務者一覧表「債権の発生年月日」欄記載のとおり

発生時債権額 別紙第三債務者一覧表「発生時債権額」欄記載のとおり

譲渡時債権額 別紙第三債務者一覧表「譲渡時債権額」欄記載のとおり

(3)  被告オリックスの第三債務者に対する対抗要件の具備

ア 訴外情報センターは、平成一一年八月四日、自らが振り出した手形を不渡りとした。

イ 被告オリックスは、前記ア当時、訴外情報センターに対し、別紙リース契約一覧表記載の各契約に基づく債権として合計金九〇九九万五八四四円を有していた。

ウ 被告オリックスは、平成一一年八月四日、前記(2)ア(イ)に基づき、別紙第三債務者一覧表「会社名」欄記載の訴外ケンウッドら六社に対し、債権譲渡特例法第二条二項に従って、同法第八条二項の定める登記事項証明書を交付して通知し、右通知はそれぞれ同一覧表の「到達日」欄記載の到達日に到達した。

(乙11、13、15、16、18、19の各1ないし4、弁論の全趣旨)

(4)  原告出版貿易と訴外情報センターとの間の債権譲渡担保契約及び登記

ア 原告出版貿易は、平成一一年五月二六日現在、訴外情報センターに対し、次のとおり貸金債権一億一五〇〇万円及び立替金債権など合計一億六九七〇万円の債権を有していた(甲2の1ないし4)。

平成一〇年九月二四日

三〇〇〇万円

同年九月三〇日 五〇〇〇万円

同年一二月一七日 二一〇〇万円

同年一二月二九日 一四〇〇万円

イ 原告は、平成一一年五月二六日、訴外情報センターとの間で、前項アの債務の弁済に充てるため、訴外情報センターから下記債権の譲渡を受ける契約を締結した(以下「原告出版貿易の債権譲渡契約」という。甲3、4、弁論の全趣旨)。

(ア) 譲渡債権

訴外情報センターの別紙第三債務者一覧表「会社名」欄記載欄の各会社に対する売掛債権

(イ) 債権の発生年月日

始期 平成一〇年四月一日

終期 平成一二月三月三一日

(ウ) 債権総額 一億六九七〇万円

(エ) 限度額

訴外ケンウッドについては一五〇〇万円

訴外住金物産については五〇〇万円

訴外ヤマハ発動機については二〇〇〇万円

訴外日本たばこについては五〇〇万円

訴外ヤマハについては六五〇万円

訴外川鉄商事については一〇〇〇万円

ウ(ア) 原告出版貿易は、平成一一年五月二八日一三時五七分、前項イの原告出版貿易の債権譲渡契約の内容を、債権譲渡特例法二条一項により登記した(甲4、以下「原告出版貿易の債権譲渡登記」という)。

(イ) 訴外情報センターは、平成一一年七月二三日付内容証明郵便により、別紙第三債務者一覧表の「会社名」欄記載の訴外ケンウッドら六社に対し、原告出版貿易の債権譲渡契約による債権譲渡及び原告出版貿易の債権譲渡登記を通知し、同書面は同月二六日、訴外ケンウッドら六社に到達した(甲5、6、10、11、13、14、16、17、19、20、22、23)。

(5)  原告出版貿易、被告オリックス間の争いと第三債務者の供託

ア 原告出版貿易、被告オリックス双方は、本件報酬債権の譲渡について、互いに自らの債権譲渡が相手の債権譲渡より優先するとして争っている。

イ そこで、別紙第三債務者一覧表の「会社名」欄記載の訴外ケンウッドら六社は、本件報酬債権について、真の債権者を確知することができないとして、別紙供託目録(1)ないし(6)記載のとおり供託をした。

2  争点

(1)  被告オリックスの債権譲渡登記は、本件報酬債権のうち債権発生日(始期)の時点(訴外ヤマハ発動機については平成一〇年九月三〇日、同日本たばこについては同年八月二七日、同ヤマハについては同年九月一八日、同川鉄商事については同年六月一九日、同ケンウッドについては同年八月三一日、同住金物産については同年八月五日)で存在した債権にしか登記の対抗力はないのか、それとも債権発生日(始期)以降に発生した債権を含み、本件報酬債権全部について対抗力を有するのか。

(被告オリックスの主張)

ア 債権譲渡特例法第五条一項によれば、債権譲渡登記の方法について、磁気ディスクをもって調製する債権譲渡登記ファイルに記録する方法によるものとされ、その記録方式等については、「債権譲渡登記令第七条三項の規定に基づく法務大臣が指定する磁気ディスクへの記録方式に関する告示」(以下「本件告示」という)によって定められている。そして、本件告示によれば、将来発生すべき債権の記録の方法については、既存債権か将来債権かを区別する項目、あるいは将来債権として独自に記録する項目は設けられておらず、既存債権と兼用して同一の項目を用いる方式とされている。

イ 被告オリックスは、その債権譲渡登記において、「債権の発生年月日(始期)」欄についていずれも、別紙第三債務者一覧表「債権の発生年月日」欄記載のとおり、訴外ヤマハ発動機については平成一〇年九月三〇日、同日本たばこについては同年八月二七日、同ヤマハについては同年九月一八日、同川鉄商事については同年六月一九日、同ケンウッドについては同年八月三一日、同住金物産については同年八月五日の各始期を記録した。

これは、本件告示3、(5)債権個別事項ファイル項番24「債権発生年月日(始期)」の注4「債権の発生日が一つの年月日であるときはその年月日を、債権の発生日が数日に及ぶときは、その初日の年月日を記録する。将来発生すべき債権についても、同様である。」との注記に従って、「将来発生すべき債権」かつ「債権の発生日が数日に及ぶときは、その初日の年月日」として前記の始期の記録をしたものである。

ウ 被告オリックスは、「債権の発生年月日(終期)」については、記録をしていないが、これは被担保債権が完済されるまでに発生する被譲渡債権が譲渡の対象となっているから、被譲渡債権の終期については「定めがない」または「不確定期限」であるからである。

本件告示により債権個別事項ファイル項番25「債権の発生年月日(終期)」の記録は任意とされているものであり、項番24「債権の発生年月日(始期)」とは異なって必ず記録する必要は存しないとされているのも、前記事情を考慮したからであろう。

エ 被告オリックスは、「発生時債権額」及び「譲渡時債権額」については、それぞれ別紙第三債務者一覧表「発生時債権額」及び「譲渡時債権額」欄記載のとおりの金額(例えば、第三債務者ケンウッドについてはそれぞれ「金一二六三万六二一五円)」を記録しているが、これは本件告示の注7および注8の「将来債権については見積額を記載する」との注記に従って、将来債権としての見積額を記載したものである。

オ 被告オリックスは、以上イないしエの債権譲渡登記により、被告オリックスの債権譲渡担保契約に基づき、訴外情報センターが訴外ケンウッドら六社に対し、別紙第三債務者一覧表「債権の発生年月日」欄記載のとおりの年月日を初日とし、被担保債権が完済されるまでの間に発生取得する各報酬債権で、同一覧表「譲渡時債権額」欄記載のとおりの各見積額に達するまでの分を譲受けたことを公示し、当該譲渡につき対抗力を取得しているのである。

(原告出版貿易の主張)

被告オリックスの債権譲渡登記は、原告出版貿易の同登記に先立つものであるが、被告オリックスの債権譲渡登記内容及び債権譲渡担保契約によると、譲渡を受ける債権の発生について、別紙第三債務者一覧表「債権の発生年月日」欄記載のとおり、訴外ヤマハ発動機については平成一〇年九月三〇日、同日本たばこについては同年八月二七日、同ヤマハについては同年九月一八日、同川鉄商事については同年六月一九日、同ケンウッドについては同年八月三一日、同住金物産については同年八月五日の各始期の記載があるのみで、期間としての定めがないため、当該各登記に記載された債権発生日に存在した債権にしか登記の対抗力はない。したがって、被告オリックスと訴外情報センターとの間の債権譲渡は、原告出版貿易と訴外情報センター間の債権譲渡に対抗できないものである。

(2)  その他の争点

ア 原告出版貿易の債権譲渡契約は、譲渡債権を特定しているといえるか。すなわち、原告出版貿易の債権譲渡契約においては、「別紙債務者に対する」、「現在および将来発生する売掛代金債権」との記載しかなく、債権の発生原因が記載されていない。また、譲渡債権の発生期間、限度額の定めもないが、このような記載で特定として十分といえるか。

イ 原告出版貿易が譲渡を受けた債権の中に、本件報酬債権は含まれているか。すなわち、原告出版貿易が訴外情報センターから債権譲渡を受けた債権は売掛金債権であるところ、訴外情報センターが訴外ケンウッドら六社に対して有していた債権は報酬債権であり、両者の間に同一性があるといえるか。

第3  争点に対する判断

1  争点(1)(被告オリックスの債権譲渡登記の対抗力)について

(1)  問題の所在

債権譲渡特例法二条一項によれば、「法人が債権を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法四六七条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす。この場合においては、当該登記の日付をもって確定日付とする。」と規定されている。これを本件についてみるに、前提事実によれば、被告オリックスの債権譲渡登記は平成一一年三月四日一四時四六分にされ、原告出版貿易の債権譲渡登記は同年五月二八日一三時五七分にされており、被告オリックスの債権譲渡登記が原告出版貿易のそれに優先することが認められる。

そうすると、次の問題点は、被告オリックスの債権譲渡登記が本件報酬債権全部に及ぶことを公示しているか否かという点が問題になる。この点を以下検討する。

(2)  被告オリックスの債権譲渡担保契約について

ア 前提事実(2)によれば、被告オリックスは、平成一一年二月一〇日、訴外情報センターとの間で、別紙リース契約一覧表記載のリース契約に基づき訴外情報センターが被告オリックスに対し負担する一切の債務を担保するため、下記債権の譲渡を受ける旨の債権譲渡担保契約を締結したことが認められる。

訴外情報センターと別紙第三債務者一覧表記載の第三債務者との間の契約(契約日及び契約名称は同表「契約日」欄及び「契約書」欄記載のとおり)に基づいて、訴外情報センターが第三債務者らに対して現在有し、または将来有する債権(債権の内容については、同表「譲渡債権の内容」欄記載のとおり)のうち、債務残高に充つるまでの金額部分

イ 前記のとおり、被告オリックスの債権譲渡担保契約は、訴外情報センターが被告オリックスに対し被担保債務を完済するまでに発生する訴外情報センターの訴外ケンウッドら六社に対する将来の債権を譲り受けたものである。換言すれば、譲渡の対象となった、「将来の債権」の終期は「定めがない」もしくは、被担保債務の弁済を完了したとき(不確定期限)として定められるものであるところ、このような債権譲渡担保契約も、「将来の債権」として特定しているといえ、有効である(最判平12.4.21判例時報一七一八・五四)。

ウ  前提事実によれば、本件報酬債権全部は、被告オリックスの債権譲渡担保契約の債権譲渡の対象に含まれていることが認められる。

(3)  被告オリックスの債権譲渡登記の効力について

ア 被告オリックスの債権譲渡登記が前記(2)の被告オリックスの債権譲渡担保契約の内容を公示しているとするならば、被告オリックスの債権譲渡登記は原告出版貿易の債権譲渡登記に優先することになる。この点に関し、原告出版貿易は、被告オリックスの債権譲渡登記は、譲渡を受ける債権の発生年月日(始期)として、別紙第三債務者一覧表「債権の発生年月日」欄記載のとおり、訴外ヤマハ発動機については平成一〇年九月三〇日、同日本たばこについては同年八月二七日、同ヤマハについては同年九月一八日、同川鉄商事については同年六月一九日、同ケンウッドについては同年八月三一日、同住金物産については同年八月五日の各始期の記載があるのみで、終期の記載がないため、当該各登記に記載された債権発生日(始期)に存在した債権にしか登記の対抗力はないと主張する。そこで、以下、原告出版貿易の主張の当否について検討することにする。

イ 前提事実、債権譲渡特例法、債権譲渡登記令、本件告示(乙25)によれば、次の事実が認められる。

(ア)  本件告示によれば、将来発生すべき債権の記録の方法については、既存債権か将来債権かを区別する項目、あるいは将来債権として独自に記録する項目は設けられておらず、既存債権と兼用して同一の項目を用いる方式とされている。

(イ)  本件告示によれば、債権発生年月日(始期)の記録は必須とされているところ、「債権の発生日が一つの年月日であるときはその年月日を、債権の発生日が数日に及ぶときは、その初日の年月日を記録する。将来発生すべき債権についても、同様である。」とされている。被告オリックスの債権譲渡担保契約のように「将来、数度にわたって繰り返し発生する債権」を対象にする場合には、「債権の発生の初日」を始期として記載することになる。

(ウ)  本件告示によれば、債権発生年月日(終期)の記載は任意とされており、もちろん記載がされれば、債権発生の終期を示すことになるが、記載がない場合には、債権発生年月日時点の債権のみ公示していると解することは困難である。すなわち、終期が必須の記載事項であれば、終期の記載がないことにより、発生年月日(始期)の時点の債権を公示していると解する余地がある(もっとも必須の記載事項であれば記載がないことにより登記が受け付けられない可能性が高い)が、終期が任意の記載事項である以上、終期はない。換言すれば、終期の定めがないと解するのが合理的である。

(エ)  被告オリックスの債権譲渡登記によれば、「発生時債権額」及び「譲渡時債権額」については、それぞれ別紙第三債務者一覧表「発生時債権額」及び「譲渡時債権額」欄記載のとおりの金額(例えば、第三債務者ケンウッドについてはそれぞれ「金一二六三万六二一五円」)を記録している。これは、本件告示に従い、将来債権としての見積額を記録したものと解される。

ウ  以上によれば、被告オリックスの債権譲渡登記は、将来発生する債権を譲渡担保として公示する登記であり、そのような登記においては、債権発生年月日の終期のない登記は、債権発生年月日(始期)から終期の定のない期間発生した債権を譲渡の対象にしていることを公示しているとみるのが相当であり、この点の原告出版貿易の主張は採用することができない。

(4)  小括

以上の検討によれば、被告オリックスの債権譲渡登記は、本件報酬債権全部について譲渡を受けたことを公示しており、本件報酬債権全部について譲渡の対抗力を有しているといえ、原告出版貿易の債権譲渡登記に優先する。

2  結論

以上によれば、その余の争点を判断するまでもなく、被告オリックスの請求は理由があるのでこれを認容し、原告出版貿易の請求は理由がないのでこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官・難波孝一)

別紙

供託目録<省略>

第三債務者一覧表<省略>

リース契約一覧表<省略>

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