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東京地方裁判所 平成12年(ワ)1914号 判決 2002年3月12日

原告

遠藤三七吉

ほか六名

被告

ヤマト運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告遠藤三七吉及び同吉野春子に対し、それぞれ、連帯して、三一四万九五二一円及びこれらに対する平成一〇年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告五十嵐悦子、同長谷川惠子、同梅原勝、同梅原廣実及び同渡邊なをみに対し、それぞれ、連帯して、六二万九九〇四円及びこれらに対する平成一〇年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二四分し、その一〇を原告遠藤三七吉及び同吉野春子の負担とし、その五を原告五十嵐悦子、同長谷川惠子、同梅原勝、同梅原廣実及び同渡邊なをみの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告遠藤三七吉及び同吉野春子に対し、それぞれ、連帯して、八五一万二八三八円及びこれらに対する平成一〇年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告五十嵐悦子、同長谷川惠子、同梅原勝、同梅原廣実及び同渡邊なをみに対し、それぞれ、連帯して、一七〇万二五六七円及びこれらに対する平成一〇年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告らが被告らに対して、民法七〇九条等に基づいて損害賠償を請求している事案である。

一  前提となる事実

(1)  本件事故の発生

<1> 発生日時 平成一〇年四月一八日午前一一時四〇分ころ

<2> 事故現場 静岡県富士市大野新田七四七番地の一三九先路上(以下「本件現場」という。)

<3> 被害者 同所を歩行中の訴外亡遠藤さわ(明治三五年三月二八日生、以下「亡さわ」という。)

<4> 加害者 普通貨物自動車(沼津一一い一六五、以下「加害車両」という。)を運転していた被告勝又輝幸(以下「被告勝又」という。)

<5> 事故態様 亡さわが自宅前の本件現場で、道路を横断して自宅に入ろうとしたところ、同所をバックしてきた加害車両と衝突した。

<6> 結果 本件事故の結果、亡さわは、左腓骨骨折、左腓骨外果骨折、左下腿挫創、頭部挫創の傷害を負って(甲二の一、二)富士市立中央病院(以下「中央病院」という。)に入院した。その後同病院を退院したが、再度同病院に入院し、同年八月一七日慢性心不全により死亡した。

(2)  治療経過

ア 亡さわは、本件事故当日救急車で中央病院に搬送されて入院した。傷病名は前記のとおり。

イ 同年五月二九日 退院。

しかし、歩行は不能で、排便排尿自力不能。自宅にて小松クリニックによる往診、訪問医療及び膀胱バルーン交換等の治療を受けていた。

ウ 同年六月一九日 高熱、全身衰弱等で沼津市立病院に入院。

同年七月四日 同病院退院。

エ 同年七月二六日 高熱・脱水症状で再び中央病院に入院。

病名は、心不全、尿路感染症、消化管出血。

オ 同年八月一七日 死亡

(3)  被告らの責任原因

ア 被告勝又

被告勝又は、加害車両を運転して後退させていたが、その際後方の安全を確認すべき注意義務を怠り、漫然と約五〇m後退させた過失により亡さわに接触・転倒させ、加害車両の後輪で亡さわを轢いたものであるから、民法七〇九条により、亡さわに生じた損害を賠償すべき責任がある。

イ 被告ヤマト運輸株式会社(以下「被告ヤマト」という。)

被告ヤマトは、加害車両の保有者であり、また、被告勝又を雇用していたものである。したがって、亡さわに生じた人身損害について自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、また、被告勝又が被告ヤマトの業務の執行中に惹起した本件事故により亡さわが被った損害について、民法七一五条により、賠償すべき責任がある。

(4)  原告らの相続

原告らは、別紙相続関係図のとおり、亡さわの子又は孫であり、その法定相続分は、原告遠藤三七吉及び同吉野春子が各四分の一、その余の原告らが各二〇分の一であるが、法定相続分に相当するような遺産分割協議が行われている(甲四)。

(5)  損害のてん補

被告ヤマトは、次のとおりの支払をなし、これらは本件においては損害の填補として控除されるべきである。

<1> 平成一〇年六月一一日 一四七万八五四〇円

亡さわの中央病院に入院中の医療費として、被告側で、前記金額を中央病院に支払った。

<2> 平成一〇年一〇月一四日 八二万〇五九三円

二  争点及び争点に関する当事者双方の主張

(1)  亡さわの死亡と本件事故との因果関係

ア 原告ら

亡さわは、本件事故以前は元気であり、一人で外出できていたが、本件事故による受傷で歩行不能となった上、本件事故による精神的ショック等もあって、体力が極端に衰弱の一途をたどった結果死亡したものであるから、本件事故と亡さわの死亡との間には因果関係が認められる。

イ 被告ら

事故から間もない平成一〇年四月二〇日付の中央病院医師の診断書によれば、亡さわは本件事故により左腓骨骨折の傷害を負ったものであるが(乙五)、入院加療の上同年五月二九日に退院し、前記受傷のほか左下腿挫創、頭部挫創の傷害も含めて同年六月八日には治癒したものとされている(甲二の二)のであるから、本件事故による外傷は治癒したものである。

亡さわの死因は慢性心不全であり(甲一一)、亡さわが本件事故以前から心臓弁膜症であったことから(乙七)みても、本件事故と亡さわの死亡との間に相当因果関係は認められない。

(2)  本件事故の態様(過失相殺)

ア 被告ら

亡さわは、後退してくる加害車両を認識しながら、その直後を横断しようとしたものであるから、三〇%の過失相殺がなされるべきである。

イ 原告らの認否及び反論

亡さわが加害車両の直後を横断したとの点は否認する。被告勝又は、バックカメラがあったにもかかわらず亡さわが先に横断を開始していたのを見落とし、しかもバックで時速約三五kmという暴走運転をしたものであるから、重大な過失によって本件事故を惹起したものである。亡さわには、過失はなく、また、重大な過失にはって本件事故を惹起した被告側との比較において、亡さわに過失相殺をすべきではない。

(3)  損害額

ア 原告らの主張

<1> 入院慰謝料 一六七万円

<2> 介護人休業損害 一七九万六九一六円

亡さわの介護を訴外遠藤由之(以下「訴外由之」という。)が担当したが、訴外由之は有職者であり、年間九六万五五六五円の収入があった。訴外由之は亡さわの介護のために離職して介護に専念した。訴外由之は、亡さわ死亡までの補償は被告側から受けたが、亡さわ死亡後も失職したままであるから、亡さわの本件事故時の平均余命の二年分(年五分のホフマン方式による中間利息を控除する)の休業損害を請求する。

<3> 葬祭費 一二〇万円

<4> 遺族年金 三五九万八二四三円

亡さわは遺族年金(年額一九三万三五〇〇円)を受給していた。亡さわの本件事故時の平均余命である二年間は、さらにこの年金を受給することができたのであるから、この年金の二年分(年五分のホフマン方式による中間利息を控除する)が亡さわの逸失利益となる。

本件の遺族年金は、戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下「援護法」という。)に基づくものである。援護法は、軍人軍属等という国と特別な関係にあった者が、戦争公務等によって受傷罹病し、これにより障害の状態又は死亡した場合に国が使用者としての立場から、国家補償の精神に基づき障害者本人又は死亡者の遺族を援護するものであり、援護法に基づく遺族年金は死亡による損害の填補という損失補償的な性質を有するものである。このように、本件遺族年金が損失補償的な性質を有する以上、受給権者が対価を拠出していたか否かという点を論ずる前提を欠いている。したがって、本件年金の逸失利益性は肯定されるべきである。

<5> 老齢年金 六九万〇六一七円

亡さわは老齢福祉年金(年額三七万一一〇〇円)も受給していた。この年金についても後記のとおり逸失利益性を認めるべきであるから、前記遺族年金と同様、平均余命の二年分(年五分のホフマン方式による中間利息を控除する)が、亡さわの逸失利益となる。

本件老齢福祉年金は、国民年金法に基づくものであり、受給権者による拠出要件のない年金である。しかし、本件老齢福祉年金は、制度上老齢年金を受けるために必要な拠出ができない者を救済し、その者に損失補償ないし生活保障を与えるという見地から、特別の措置として設けられたものであり、単なる恩恵として設けられたものではない。すなわち、当時の年金制度上、拠出年金発足当時五〇歳を超えている者は強制加入の被保険者になれず、またその当時五五歳を超えている者は任意加入の被保険者にもなれなかったため、年金支給開始の日である昭和三四年一一月一日において七〇歳を超えている者は同日から、七〇歳を超えていない者のうち、明治四四年四月一日以前に生まれた者は七〇歳に達した日から本件老齢福祉年金を支給することになったのである。このように、本件老齢福祉年金は、拠出したくても拠出できなかった者に対する損失補償ないし生活保障を目的としている以上、無拠出の年金であることから直ちにその逸失利益性を否定することは著しく妥当性を欠く。むしろ、本件老齢福祉年金は拠出制の年金を制度的に補完するものとして、改正前の老齢年金と同質のものといえ、その逸失利益性は肯定されるべきである。

<6> 死亡慰謝料 二二〇〇万円

<7> 本件原告らの取得分 二三二一万六八三二円

本件原告らが相続によって取得した相続分は合計で四分の三であるから、<1>から<6>までの合計額に四分の三を乗じた金額である二三二一万六八三二円が、本件原告らの取得額となる。

<8> 弁護士費用 二三二万一六八三円

<9> 合計額 二五五三万八五一五円

本件原告らの本訴における請求額合計は、二五五三万八五一五円であり、これに原告各自の相続分を乗じたものが、原告らそれぞれの本件請求額となる。

なお、原告らは、遺族年金が逸失利益として認められない場合には、亡さわの逸失利益として、六八歳以上の年齢別平均給与月額二四万三五〇〇円で計算した金額を請求すると主張している(平成一三年一〇月二三日付準備書面)。

イ 被告ら

被告らは、損害額全般について争っているほか、特に以下の損害項目については次のような主張をしている。

<1> 遺族年金

援護法に基づく遺族年金といえども、遺族の生活援護のために支給されるものであり、受給権者は何らの対価も拠出しておらず、また、本人の意思により決定しうる事由により受給権が消滅するとされている(援護法三一条)のであるから、損害賠償における逸失利益性は否定されるべきである。

<2> 老齢年金

福祉年金は、国民年金法に基づいて無拠出で支給されていたものであるが、昭和六〇年の改正により昭和六一年四月からは老齢福祉年金のみとなり、他のものは基礎年金に移行された。老齢福祉年金は、拠出制年金に加入できなかった老齢者の生活保障を目的とする極めて一身専属性の強いものである。また、拠出制か無拠出制かで、その年金の財産としての性格が相違する。本件老齢福祉年金は、理由は何であれ、本人の拠出のないまま、福祉制度の一環として本人に支給されるものであって、これを拠出制の年金と同様に逸失利益性を認めることは大いに問題である。

第三当裁判所の判断

一  争点一(死亡との因果関係)について

(1)  確かに、死亡診断書(甲一一)によれば、被告らの主張するように、亡さわの死因は慢性心不全であり、発病から死亡までの期間は四年、死因の種類としては病死とされている。また、甲二の二によれば、亡さわが本件事故によって負った傷害は平成一〇年六月八日治癒したものと考えられる。これらの事実によれば、本件事故と亡さわの死の間に因果関係を認めることができるのか疑問といえよう。

(2)  しかし、亡さわは、事故時において九六歳という高齢であり、前記治療状況で明らかなように、退院時においても歩行は不能で、膀胱バルーンを使用しており、事故前と比較して全身症状は極めて不良であったことは明らかである。また、死亡に至った経緯について、被告らが提出している乙七(中村医師の医学的意見書)によっても、<1> 尿路感染症から心不全が増悪し、さらには、両側胸水貯留、意識障害、吐下血、呼吸困難増強、血圧低下を経て死亡したこと。<2> 高齢者が傷害を負って歩行障害をきたし、膀胱バルーンを挿入した場合には尿路感染症を引き起こしやすいこと。<3> 亡さわが平成一〇年七月二六日に中央病院に入院したのは尿路感染症が原因であること。の各事実を認めることができる。

このような、亡さわの本件事故後の治療経過を踏まえれば、本件事故によって亡さわの全身の状態は、亡さわが当時九六歳という高齢であったため、極めて不良なものとなり、歩行障害から採用せざるを得なくなった膀胱バルーンのために尿路感染症に罹患し、そのため、従前から心不全・心臓弁膜症だったこと(平成六年九月に心不全で中央病院に入院したことはあるが、退院後に通院治療を受けた形跡がないので、悪化したことはないと考えられる。)も相まって、最終的には死亡したものと認めるのが相当である。

(3)  以上のような亡さわの全身症状の経過によれば、本件事故による受傷が亡さわの死亡に寄与しているものと認められ、本件事故と亡さわの死亡との間の因果関係はこれを肯定すべきであるが、他面において、亡さわの直接の死因が慢性心不全とされ、事故前から心臓疾患を有していたことが亡さわの死に直接結びついていることに鑑み、民法七二二条二項を類推適用して、亡さわの死亡に関する被告らの損害賠償責任を、四割の限度で減じるのが相当である。

二  争点二(過失相殺)について

本件事故は、被告らも認めるように、基本的には被告勝又の後退の際の後方の安全を十分確認しなかったことによるものである。

しかしながら、乙一ないし四(刑事記録)によれば、亡さわは、道幅三・二m、指定最高速度時速三〇kmの市街地を通る道路の、横断歩道の存在しない部分を、加害車両が後退してきているのを承知しながら横断したという過失があることは否定できない。

原告らは、被告勝又が、時速約三五kmで走行していたと主張しているが、そのような主張の基礎となっている距離関係は、必ずしも信用できるものではなく、かえって、被告勝又は、後退時の速度を時速約五kmと一貫して述べていること等に照らし、原告ら主張のような事実を認定することはできない。

以上認定の諸事実及び亡さわが事故当時九六歳という高齢であったこと等に照らし、一割の過失相殺をするのが相当である。

三  争点三(損害額)について

各損害項目ごとに、必要な限度で当事者の主張を簡潔に示しつつ、当裁判所の判断を示すこととする。

なお、結論を明示するために、冒頭に裁判所の認定額を記載し、併せて括弧内に原告らの請求額を記載する。

(1)  入院慰謝料 一四〇万円(一六七万円)

亡さわが、本件事故当日から五月二九日まで入院した点は、すべて本件事故に起因するものであるが、その後の入院については、亡さわの死亡との因果関係と同様の問題があるので、亡さわが入院した期間をも考慮し、亡さわの入院慰謝料としては、一四〇万円が相当である。

(2)  介護人の休業損害 なし(一七九万六九一六円)

原告らは、亡さわの介護のために離職した訴外由之の、亡さわ死亡後平均余命までの二年間の休業損害を請求している。しかし、そもそも亡さわが死亡した後は介護の必要性がなくなるのであるから、この期間の介護料を請求することができないのは当然であり、介護の必要性がなくなれば、訴外由之は仕事をすることができるのであるから、特段の事情がない限り休業損害は発生しない。また、仮に、訴外由之が職を得られず収入を失ったとすれば、それは、直接の被害者である亡さわ以外の者(訴外由之)の損害(間接損害)ということになって、訴外由之自身が請求権者であるから、本件の原告らがこれを請求することはできない。

以上により、訴外由之の亡さわ死亡後の介護のための休業損害を、原告らが請求できる理由はない。

(3)  葬祭費 七二万円(一二〇万円)

甲一六及び弁論の全趣旨によれば、亡さわの葬儀が行われたこと、葬儀には相当の金銭的出費があったことが推認され、少なくとも一二〇万円の費用を要したものと認めるのが相当である。

また、前述したように、死亡に関する損害については四割を減じるから、本件事故と相当因果関係が認められるのは七二万円となる。

(4)  遺族年金、老齢年金 なし(四二八万八八六〇円)

亡さわが、援護法に基づく遺族年金を年額一九三万三五〇〇円(甲六)、老齢福祉年金を年額三七万一一〇〇円(平成一〇年四月に平成一〇年スライド政令により四〇万九六〇〇円に改定されている。甲七)の給付を受けていたことが認められる。

そこで、各年金の逸失利益性が問題となるが、一般に、他人の不法行為によって死亡した場合、その被害者が受給していた年金がすべて当該被害者の逸失利益に当たるというものでない。すなわち、被害者が受給していた年金が、専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有する場合は、受給権者の生存中その生活を安定させる必要から支給するものと考えられるから、受給していた者が死亡することによってその年金を支給する目的が消滅する。したがって、被害者が死亡した後は、もはや遺族がその年金に関して逸失利益という形で、不法行為の加害者側に請求することはできないと解すべきである。

これを、本件の各年金について検討する。

まず、援護法に基づく遺族年金であるが、これは、たしかに原告らの主張するように損失補償的な側面をも有する(援護法一条)であろうが、年金の性格としては、無拠出制であり、遺族年金を受給できる遺族の範囲は、死亡した者の死亡当時の配偶者(内縁関係も含む)、子、父、母、孫、祖父、祖母等の一定の身分のある者で、かつ、死亡した者によって生計を維持し、又はその者と生計をともにしていたことが必要である(同法二四条一項)。また、受給権者が死亡した時のほか、婚姻や養子縁組等の本人の意思により決定しうる事由によっても受給権が消滅するとされている(同法三一条)こと等から見て、受給権者の生計の維持を主たる目的とするものと解するのが相当である。

したがって、この年金について逸失利益性を肯定することはできない。

次に、老齢福祉年金であるが、これが、昭和六〇年の国民年金法改正にあたり、新国民年金の老齢基礎年金に移行されずに残されたもので、無拠出の年金であることは当事者間に争いがなく、このような改正の経緯に鑑みれば、この年金は、被告らの主張するとおり、拠出制年金に加入できなかった老齢者に対し、生活保障の観点から年金を支給するものであって、社会福祉的なものと捉えるのが相当であり、受給権者の生存中その生計を維持するためのものと理解すべきであろう。逸失利益性を肯定することはできない。

さらに、原告らは、予備的に年齢別平均賃金による逸失利益を主張しているが、事故当時九六歳であった亡さわが労働の対価として収入を得ていたという主張・立証はなく、その他亡さわの収入を基礎付けるような主張はなされていない。

以上によれば、亡さわに逸失利益を認めることはできないというべきである。

(5)  死亡慰謝料 一〇八〇万円(二二〇〇万円)

亡さわの死亡慰謝料は、亡さわの年齢等に照らし、一八〇〇万円が相当であるところ、前述したように、死亡に関する損害賠償額についてはその四割を減じるのが相当であるから、本件では一〇八〇万円の死亡慰謝料を認定することができる。

(6)  過失相殺及び既払金の処理 一一三九万八〇八六円

以上により、原告らの主張する損害額のうち、当裁判所が認定できるのは一二九二万円である。

この他に、被告らが支払ったと主張し、原告らも受領を争わない金額として治療費の一四七万八五四〇円及び治療関係費用八二万〇五九三円がある。

これらも本件の損害額となることは明らかであるから、前記一二九二万円にこれを加えると、一五二一万九一三三円となる。

前述のとおり、本件については一割の過失相殺を認めるのが相当であるから、本件で原告ら及び訴外遠藤静男の賠償請求できる金額は一三六九万七二一九円となるが、前記各既払金を控除すると、一一三九万八〇八六円となる。

(7)  本件原告らの取得分

(6)の金額のうち、訴外遠藤静男の相続分に応じた分(二八四万九五二一円、以下小数点以下は切り捨て。)を控除した八五四万八五六五円が、原告らが請求できる金額の合計となり、これをそれぞれの相続分で割り付けると、

原告遠藤三七吉及び同吉野春子が各二八四万九五二一円となり、その余の原告らが各五六万九九〇四円となる(小数点以下をすべて切り捨て処理するので、各人の取得額の合計額は八五四万八五六五円にならない。)。

(8)  弁護士費用

原告らが、原告ら代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、認容額、審理経過等を総合勘案して、被告らに賠償を求めることができる弁護士費用としては、原告遠藤三七吉及び同吉野春子につき各三〇万円、その余の原告らにつき各六万円とするのが相当である。

(9)  認容額

以上により、原告遠藤三七吉及び同吉野春子については、それぞれ三一四万九五二一円、その余の原告らについては、それぞれ六二万九九〇四円、並びに各金額に対する平成一〇年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を求める限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 村山浩昭)

別紙 相続関係図

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