大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成12年(ワ)19649号 判決 2002年7月22日

原告

亡飯塚荘一承継人細川敏子

ほか一名

被告

竹中慎太郎

ほか一名

主文

一  被告らは、原告細川敏子に対し、各自二六二万二二一一円及びこれに対する平成六年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告飯塚富夫に対し、各自二六二万二二一一円及びこれに対する平成六年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを二〇分し、その一七を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告細川敏子に対し、各自一八二四万七二〇七円及びこれに対する平成六年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告飯塚富夫に対し、各自一八二四万七二〇七円及びこれに対する平成六年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自転車を運転中、四輪車と衝突して負傷した男性(当時七一歳)が、四輪車の運転者に対しては民法七〇九条に基づき、四輪車の所有者に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、それぞれ損害賠償を求めた事案であり、本訴係属中、上記男性が死亡し、その遺族が承継した。

一  争いのない事実

(1)  事故の発生

次の事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

ア 日時 平成六年一月一七日午後一時七分ころ

イ 場所 佐倉市飯田三八〇の三先路上

ウ 加害車両 普通乗用自動車(多摩七八ほ七一〇五)

同運転者 被告竹中慎太郎(以下「被告慎太郎」という。)

同所有者 被告竹中浩光(以下「被告浩光」という。)

エ 態様 被告竹中慎太郎が、加害車両を運転して、上記日時に佐倉市飯田方向から佐倉市土浮方向に向けて進行して上記場所にさしかかった際、その進行方向の左方からT字型に直角に交差する道路(以下「交差道路」という。)を宮前方向から飯田方向に向けて自転車(以下「本件自転車」という。)に乗車して進行してきた亡飯塚荘一(以下「亡荘一」という。)と衝突したもの。

(2)  被告らの責任

本件事故について、被告慎太郎は民法七〇九条に基づき、被告浩光は自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償責任を負う。

(3)  亡荘一の傷害、治療(一部)及び後遺障害認定

亡荘一は、本件事故により、右下腿開放骨折、左膝蓋骨骨折、恥骨結合離開、膀胱破裂の傷害を負い、救急医療センター、佐倉中央病院、東邦大学付属佐倉病院、南ヶ丘病院、佐倉厚生園において入通院による治療を受けた。

また、亡荘一には、自賠法施行令別表に定める第五級の等級に定める後遺障害があると認定された。

(4)  亡荘一の死亡と原告らの相続

亡荘一は、平成一三年九月九日死亡した。原告細川敏子及び原告飯塚富夫はいずれも亡荘一の子であり、相続により、それぞれ二分の一の割合で亡荘一の権利義務を承継した。

二  争点

(1)  事故態様及び過失相殺

ア 被告らの主張

本件現場は、酒々井町中川方面から佐倉市萩山新田方面に通じる幅員四・三メートルの市道と佐倉市岩名方面から同市道に直角に向かう幅員二・六メートルの交差道路が交差する信号機による交通整理の行われていないT字路交差点である。現場道路は、アスファルト舖装された平坦な道路で、本件事故当時道路は乾燥していた。現場道路の速度制限は、時速六〇キロメートルであった。

被告慎太郎は、酒々井町中川方面から佐倉市萩山新田方面に向けて時速約七〇キロメートルの速度で直進進行中、別紙図面(司法警察員作成の平成六年二月一日付け実況検分調書添付交通事故現場見取図を縮小したものである。)<1>地点において、亡荘一が佐倉市岩名方面から自転車に乗って上記T字路交差点に向けて<ア>地点を進行してくるのを発見した。被告慎太郎は、さらに直進進行を続け、別紙図面<2>地点まで進行を続けたところ、亡荘一も別紙図面<イ>地点まで進行してきたので、警告のためのクラクションを鳴らした。しかしながら、被告慎太郎は、亡荘一が一時停止はもちろんのこと、加害車両に気づいた様子もなく別紙図面<ウ>地点まで進出し、右折を開始しようとしているのを別紙図面<3>地点において発見し、危険を感じて急制動をかけるとともに、ハンドルを右に転把したが間に合わず、別紙図面◎×一地点において衝突した。

本件事故状況は以上のとおりであって、亡荘一には本件事故の惹起について極めて大きな過失があるといえるのであって、相当の過失相殺がされるべきである。

イ 原告らの主張

本件事故現場は、加害車両側の通路の幅員が四・三メートル、被害者側の道路の幅員が二・六メートルであり、明らかに加害者側の道路の幅員が広いケースに当たる。

かかる状況においては、仮に、亡荘一に何らかの過失が認められたとしても、<1>亡荘一が本件事故当時七一歳の老人であったこと、<2>亡荘一側の道路の幅員が狭かったこと、<3>本件事故状況からみて、明らかに亡荘一の方が被告慎太郎側の道路に先に進入していたこと、<4>本件事故現場周辺は、見通しが良い場所であるのに、被告慎太郎は亡荘一から約七八・五メートルの地点に至るまで亡荘一の存在を発見しなかったことから、脇見運転による前方不注視と考えられ、著しい過失があること、<5>被告慎太郎は、制限速度時速六〇キロメートルの道路を、時速約七〇キロメートルで走行し、約一〇キロメートルの速度違反を犯していたにもかかわらず、亡荘一発見後も減速しないまま漫然と進行したこと、の五点により、各一割ずつの減算要素があるため、少なくとも合計五割の減算要素となる。

したがって、仮に亡荘一に何らかの過失が認められたとしても、上記減算要素の存在により、本件においては過失相殺による減額は行われるべきではない。

(2)  損害及びその額

ア 原告らの主張

本件事故による亡荘一の損害は、次のとおり三六四九万四四一五円であり、原告らは、相続により、これを各二分の一の割合で承継した(各一八二四万七二〇七円)。

(ア) 積極損害

a 治療費 一三七〇万一五七六円

b 付添費

(a) 入院・自宅付添費 一一三五万八〇〇〇円

一日当たり六〇〇〇円の一八九三日分(平成六年一月一七日から後遺障害確定時である平成一一年三月二五日まで)は上記額となる。

(b) 介護料 五四〇万〇〇〇〇円

亡荘一は、前記争いのない後遺障害のほか、左大腿骨転子下骨折、左脛骨膝関節内骨折等の後遺障害を負い、自力では生活できず、常に介護を要する状態となった。一日当たり六〇〇〇円の九〇〇日分(後遺障害確定時である平成一一年三月二五日から亡荘一の死亡時である平成一三年九月九日まで)は上記額となる。

なお、亡荘一は、本件事故以前には、何ら痴呆症状を呈していなかった。亡荘一が、本件事故後に軽い痴呆症状を呈してきたのは、本件事故の後遺障害により寝たきりとなり、心身の活動が、質量ともに事故前よりも著しく低下したことが原因である。

c 入院雑費 六四万八七〇〇円

一日当たり一三〇〇円の入院期間四九九日分は上記額となる。

d 通院交通費 三八万三九四〇円

e 車いす代 九万六〇〇〇円

(イ) 消極損害(休業損害) 一七七三万七一五〇円

亡荘一は、船橋市役所を定年退職した後、その所有する田畑を耕作して自家用の米、野菜を収穫し、平成四年ころからは、その妻とくがパーキンソン病で寝たきりの状態となったため、その介護を一手に引き受けて、おしめの交換、食事の世話などのすべてを行ってきたが、本件事故により、その世話も全くできなくなった。そのため、家政婦を雇ったり、同居する家族の負担が増大した。

亡荘一の収入としては、一か月二八万五〇〇〇円は認められるべきであり、平成六年一月一七日から平成一一年三月二五日までの間の額は上記金額となる。

(ウ) 慰謝料

a 入通院慰謝料 四五〇万〇〇〇〇円

亡荘一の入院日数は四九九日間であり、通院期間は約四四か月であるところ、これを慰謝するには、上記金額が相当である。

b 後遺障害慰謝料 一三〇〇万〇〇〇〇円

本件後遺障害の慰謝料としては、上記金額が相当である。

(エ) 弁護士費用 三三〇万〇〇〇〇円

(オ) 既払金

上記合計七〇一二万五三六六円から、損害のてん補として支払を受けた三三六三万〇九五一円を控除すると、三六四九万四四一五円となる。なお、被告らが合計二五一九万九三四九円を支払ったことは認めるが、損害のてん補ではない部分がある。例えば、被告らが支払ったと主張する付添費のうち二三三万九三一二円は、原告らの請求分以外の職業的付添人らに対して支払われた分であり、原告らの請求に対応するものではない。

イ 被告らの主張

(ア) 積極損害について

a 治療費について

一三六八万五四〇六円の限度で認め、その余は不知。

b 付添費について

(a) 入院・自宅付添費について

四六三万七三一二円の限度で認め、その余は争う。

(b) 介護料

争う。

亡荘一の後遺障害は五級と認定されたが、亡荘一は本件事故による傷害以外に私病としての痴呆状態があり、寝たきりの生活になったことがすべて本件事故に基づくものと認めることはできない。少なくとも、本件事故と相当因果関係のある後遺障害が、家族又は職業的付添人の付添看護が必要な状態とはいえない。また、亡荘一は、本件事故以前に気管支喘息、骨粗鬆症、高血圧、腰痛症、脊柱管狭窄の疑いの各傷病について治療を受けていた。平成五年九月二四日には、既に亡荘一に発症していた跛行について、脊柱管の狭窄による脊髄性間欠性跛行と推定されていた。原告らが主張する後遺障害の症状は、専ら本件事故以前の脊髄の病変によるものと推定でき、通常の五級相当の後遺障害について、本件事故に起因するものと判断することはできない。仮に因果関係があるとしても、相当程度の素因減額がされるべきである。

c 入院雑費について

日額一三〇〇円は争い、入院期間は不知。

d 通院交通費について

三三万一三四〇円の限度で認め、その余は争う。

e 車いす代について

不知。

(イ) 消極損害(休業損害)について

本件事故当時、亡荘一が妻の介護に専ら従事していたこと、妻の介護費用分として五八〇万一二〇五円が支払われていることは認め、その余は不知ないし争う。

亡荘一は、大正一一年三月二〇日生まれで本件事故当時七一歳であり、無職であったのであるから、原告ら主張の休業損害は過大なものであるといわざるを得ない。

(ウ) 慰謝料について

a 入通院慰謝料について

入通院期間及び金額のいずれについても争う。

b 後遺障害慰謝料について

争う。

(エ) 弁護士費用について

争う。

(オ) 既払金について

被告らは、別紙一覧表記載のとおり、合計二五一九万九三四九円を支払済みであるほか、亡荘一は自賠責保険金一一五〇万円を受領している。

(3)  消滅時効

ア 被告らの主張

本件事故は平成六年一月一七日に発生しており、後遺障害を除く傷害部分の損害については、平成九年一月一七日の経過により、消滅時効が完成しており、被告らはこれを援用する。

亡荘一の後遺障害は、遅くとも平成七年五月三一日は症状固定となっており、後遺障害に基づく損害についても、平成一〇年五月三一日の経過により消滅時効が完成しており、被告らはこれを援用する。

なお、亡荘一は、平成七年五月に千葉県弁護士会所属の守川幸男弁護士に損害賠償請求の依頼を行い、同弁護士の指導のもと、症状固定に基づく被害者請求等が既に可能な状態であった。

イ 原告らの主張

亡荘一の症状固定日は平成一一年三月二五日であり、本件訴訟は平成一二年九月二一日に提起している以上、消滅時効は完成していない。

第三判断

一  争点(1)(事故態様及び過失相殺)について

(1)  関係各証拠(甲一、甲一三、乙一、乙二、被告竹中慎太郎本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故態様として、次の事実が認められる。

ア 本件事故現場は、酒々井町中川方面から佐倉市萩山新田方面に通じる幅員四・三メートルの市道(以下「本件市道」という。)と佐倉市岩名方面から同市道に直角に向かう幅員二・六メートルの交差道路が交差する信号機による交通整理の行われていないT字路交差点(以下「本件交差点」という。)の付近であり、その概況は、別紙図面のとおりである。路面状況は、アスファルト舖装された平坦な道路で、本件事故当時道路は乾燥していた。本件市道の速度制限は、時速六〇キロメートルであった。

本件交差点付近において、本件市道・交差道路の双方の見通しは良く、視界を遮るものはない。

イ 本件市道は、被告慎太郎が通う大学に向かう途中の道路であり、交通量が少ないこともあり、被告慎太郎の周囲では「印幡高速」などと呼んでいた。

被告慎太郎は、加害車両を運転して本件市道を酒々井町中川方面から佐倉市萩山新田方面に向けて時速約七〇キロメートルの速度で直進進行中、別紙図面<1>地点において、佐倉市岩名方面から本件交差点に向けて<ア>地点を進行してくる本件自転車を発見した。被告慎太郎は、本件自転車の運転者(亡荘一)が加害車両に気づいて止まってくれるものと思い、さらに進行を続け、別紙図面<2>地点まで進行を続けた。他方、亡荘一も、加害車両が進行してくることに気づいたが、本件自転車を見て停止するものと思い、別紙図面<イ>地点まで進行した。これを見た被告慎太郎は、警告のためのクラクションを鳴らしたが、亡荘一は、一時停止することもなく別紙図面<ウ>地点まで進出して右折を開始した。被告慎太郎は、別紙図面<3>地点において危険を感じて急制動をかけるとともに、ハンドルを右に転把したが、間に合わず、別紙図面<×>一地点において衝突した。

(2)  以上のとおり、本件は、信号機により交通整理の行われていない交差点において、明らかに狭い道路から右折した自転車と、明らかに広い道路を直進する四輪車との事故である。その事故態様に加え、亡荘一が、本件事故当時七一歳の老人であったこと、被告慎太郎が、亡荘一運転の自転車を発見しながら減速せずに進行したことを考慮すると、その過失割合は、亡荘一が二〇パーセント、被告慎太郎が八〇パーセントと解すべきである。

なお、亡荘一は、本件交差点に進入する前に加害車両を視認でき、クラクションも鳴らされていたのに漫然と右折進行したことが認められるが、そのことをもって著しい過失ないし重過失と評価することはできない。また、本件衝突地点と双方の速度差に照らし、亡荘一運転の自転車が本件交差点に明らかに先入していたと評価すべきでもない。

二  争点(2)(損害及びその額)について

(1)  積極損害

ア 治療費 一三七〇万一五七六円

(ア) 前記争いのない事実、関係各証拠(甲二ないし六《枝番を含む。》)及び弁論の全趣旨によれば、亡荘一は、<1>平成六年一月一七日から同年二月一六日まで千葉県救急医療センターに、同日から同月二八日まで佐倉中央病院に、同日から同年三月九日まで東邦大学医学部付属佐倉病院に、同日から同年一一月九日まで南ヶ丘病院に、同年一二月一二日から平成七年三月三〇日まで東邦大学医学部付属佐倉病院に、同日から同年六月二一日まで日産厚生会佐倉厚生園にそれぞれ入院し、<2>平成六年一一月一〇日から同年一一月二五日まで南ヶ丘病院に、同月二四日及び平成七年七月から平成一一年一月まで東邦大学医学部付属佐倉病院にそれぞれ通院し、<3>同年三月二五日症状固定に至ったことが認められ、これら認定を覆すに足りる証拠はない。

(イ) 原告主張の治療費のうち一三六九万〇四〇六円については当事者間に争いがない。また、関係各証拠(甲二ないし六《枝番を含む。》、甲一五)及び弁論の全趣旨によれば、それ以外に少なくとも治療費として一万一一七〇円が支払われたことが認められ、その合計は上記額となる。

イ 付添費

(ア) 入院・自宅付添費 五六八万二〇〇〇円

上記ア(ア)の認定事実に加え、関係各証拠(甲三、甲一三、甲一四、甲一七ないし一九、乙三、原告細川敏子本人)によれば、亡荘一は、本件事故後症状固定まで、独力で歩行、入浴、排泄等を行うことができなくなり、入院中はもとより、症状固定に至るまでの自宅での治療期間を通じて、原告細川敏子及びその夫である細川斉において付添看護を要する状態にあったことが認められる。亡荘一の受傷・症状の程度、年齢等を勘案すると、入院中及び自宅の近親者付添費としては一日当たり三〇〇〇円が相当である。本件事故後症状固定まで一八九四日間の額は上記額となる。

(イ) 介護料 二七〇万〇〇〇〇円

前記争いのない事実及び上記ア(ア)の認定事実に加え、関係各証拠(甲四、甲六の一、甲一三、甲一四、甲一七ないし一九、乙三、原告細川敏子本人)によれば、亡荘一は、下肢の関節機能障害の後遺障害を残し、独力で歩行、入浴、排泄等を行うことができない状態となったことが認められる。亡荘一の症状の程度等を勘案すると、介護料としては一日当たり三〇〇〇円が相当であり、後遺障害確定時である平成一一年三月二五日から亡荘一の死亡時である平成一三年九月九日まで九〇〇日間の額は上記額となる。

なお、亡荘一が、本件事故以前に痴呆症状を呈していたことを認めるに足りる証拠はない。また、関係各証拠(甲一三、乙四)によれば、亡荘一は、本件事故前に気管支喘息、骨粗鬆症、高血圧症、腰痛症、脊柱管狭窄の疑いの傷病名で治療を受けていたことが認められるが、本件事故がなくとも介護を要する状態であったと認めるには足りないし、これら既往症(特に脊柱管狭窄)が亡荘一の後遺障害に寄与したとしても、その度合いが相当程度あると認めるにも足りないから、この点をもって何らかの減額をすべきものとも認め難い。

ウ 入院雑費 六四万八七〇〇円

上記ア(ア)の認定事実その他弁論の全趣旨によれば、一日当たり一三〇〇円の割合による入院期間四九九日間の入院雑費の請求は相当である。

エ 通院交通費 三八万三九四〇円

原告の請求する通院交通費のうち三三万一三四〇円については当事者間に争いがない。甲八及び弁論の全趣旨によれば、それ以外に搬送料として合計五万二六〇〇円が支払われたことが認められる。

オ 車いす代 九万六〇〇〇円

上記イの認定事実及び甲九によれば、亡荘一は車いすを使用する必要があり、その購入代金として上記額を要したことが認められる。

(2)  消極損害(休業損害) 一二一一万七五〇〇円

関係各証拠(甲一三、甲一四、甲二〇ないし三七、原告細川敏子本人)によれば、亡荘一は、本件事故当時、妻とくとともに、長女である原告細川敏子及びその夫である細川斉と同居し、無職であったが、その所有する田畑を耕作して自家用の米、野菜を収穫したり、パーキンソン病で寝たきりの状態となった妻とくの介護を行っていたこと、原告細川敏子の家庭において、本件事故以前に家政婦を雇ったことはなかったが、本件事故後、家政婦を雇わざるを得なかったことが認められる。

亡荘一が農業によって収益を得ていたことを認めるに足りる証拠はないが、妻とくの介護を行っていた点はいわゆる家事労働と認めるべきであり、証拠上認められる亡荘一の行っていた介護の内容・程度に照らし、賃金センサス平成六年第一巻第一表産業計・企業規模計女子労働者学歴計六五歳以上の平均年収二九八万八七〇〇円の八〇パーセント(日額六五五〇円)を基礎として算定するのが相当である。本件事故発生日から妻とくが死亡した平成一一年二月九日まで一八五〇日間の額は上記金額となる。

(3)  慰謝料

ア 入通院慰謝料 三五〇万〇〇〇〇円

亡荘一の傷害の内容、程度、入院の期間、治療の内容等諸般の事情を考慮すると、入通院慰謝料としては上記金額が相当である。

イ 後遺障害慰謝料 一三〇〇万〇〇〇〇円

亡荘一の後遺障害の内容、程度等諸般の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料としては上記金額が相当である。

(4)  過失相殺

以上合計五一八二万九七一六円から前記一の亡荘一の過失割合二割を減ずると、四一四六万三七七二円となる(小数点以下切捨て)。

(5)  既払金控除

亡荘一が自賠責保険一一五〇万円を受領したこと及び被告らが合計二五一九万九三四九円を支払ったことについては当事者間に争いがない。甲一六及び弁論の全趣旨によれば、被告らの支払は本件事故による損害のてん補として行われたものと解すべきである。

そして、(4)の残額四一四六万三七七二円から上記各既払金を控除すると、四七六万四四二三円となる。

(6)  弁護士費用 四八万〇〇〇〇円

本件事案の内容、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件と相当因果関係のある弁護士費用は四八万円と認めるのが相当である。

(7)  相続による損害賠償請求権の取得

前記争いのない事実のとおり、亡荘一は、平成一三年九月九日死亡し、原告細川敏子及び原告飯塚富夫は、相続により、上記合計五二四万四四二三円の損害賠償請求権をそれぞれ二分の一の割合で承継した(各二六二万二二一一円。小数点以下切捨て)。

三  争点(3)(消滅時効)について

前認定のとおり、亡荘一の症状が固定したのは平成一一年三月二五日であり、これを覆すに足りる証拠はない。本件訴訟は平成一二年九月二一日に提起されたことは当裁判所に顕著である。ところで、交通事故による人身損害の消滅時効の起算点は、後遺障害が残った場合は、傷害関係及び後遺障害関係のものすべてについて症状固定時と解すべきである。そうすると、この点に関する被告らの主張には理由がない。

第四結論

よって、本訴請求は、原告らが被告らに対し、それぞれ二六二万二二一一円及びこれに対する本件事故日である平成六年一月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余の請求には理由がない。

(裁判官 本田晃)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例