東京地方裁判所 平成12年(ワ)2033号 判決
原告 有限会社誠翔
右代表者取締役 大堤篤雄
右訴訟代理人弁護士 神岡信行
同 寺澤政治
被告 日東産業株式会社
右代表者代表取締役 塚本早苗
被告 日本相互住宅株式会社
右代表者代表取締役 加藤千秋
被告 塚本三千一
被告 塚本早苗
被告 加藤千秋
右被告五名訴訟代理人弁護士 長野源信
主文
一 原告と被告らとの間において、別紙物件目録(一)の1及び2記載の土地が原告の所有であることを確認する。
二 原告と被告らとの間において、被告日東産業株式会社を原告、被告日本相互住宅株式会社を被告とする東京地方裁判所平成八年(ワ)第二一九二二号土地所有権移転登記抹消登記請求事件につき、平成九年三月一二日言い渡され、確定した判決に基づく、被告日東産業株式会社の、被告日本相互住宅株式会社に対する、別紙物件目録(一)記載の土地につきなされた別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記の抹消登記手続を請求する権利について、不動産登記法第一四五条第二項にいう「放棄」がなされたことを確認する。
三 原告の請求のうち、「被告日東産業株式会社が原告、被告日本相互住宅株式会社が被告の東京地方裁判所平成八年(ワ)第二一九二二号土地所有権移転登記抹消登記請求事件につき、平成九年三月一二日同裁判所が言渡した、被告(日本相互住宅株式会社)は原告(日東産業株式会社)に対し、別紙物件目録(一)の1及び2記載の土地につきなされた、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、との判決が無効であることを確認する。」との判決を求める訴えを却下する。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。
事実
第一請求
一 主位的請求
1 主文第一項と同旨
2 被告日東産業株式会社が原告、被告日本相互住宅株式会社が被告の東京地方裁判所平成八年(ワ)第二一九二二号土地所有権移転登記抹消登記請求事件につき、平成九年三月一二日同裁判所が言渡した、被告(日本相互住宅株式会社)は原告(日東産業株式会社)に対し、別紙物件目録(一)の1及び2記載の土地につきなされた、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、との判決が無効であることを確認する。
3 被告塚本三千一、被告塚本早苗及び被告加藤千秋は、原告に対し、連帯して、平成一一年一一月一七日から別紙登記目録(二)記載の所有権抹消予告登記が抹消されるに至るまで、金一億九八九一万円に対する年五パーセントの割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 予備的請求
1 主文第一項と同旨
2 被告日東産業株式会社を原告、被告日本相互住宅株式会社を被告とする東京地方裁判所平成八年(ワ)第二一九二二号土地所有権移転登記抹消登記請求事件につき、平成九年三月一二日言い渡され、確定した判決に基づく、「被告(日本相互住宅株式会社)は原告(日東産業株式会社)に対し、別紙物件目録(一)記載の土地につきなされた、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記の抹消を請求する」権利を放棄したことを確認する。
3 主位的請求3と同旨
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 土地所有権
原告は、平成一一年一一月一六日、別紙物件目録(一)の1及び2記載の土地(以下「本件土地」という。)を競売により買受け、その旨の登記を経由し、所有している。
(所有権取得に至るまでの経緯)
(1) 本件土地は、もと被告日東産業株式会社(その後「エイ・エス・エス株式会社」に商号変更された後、再度「日東産業株式会社」に商号変更された。以下「被告日東産業」という。)の所有であったところ、昭和六二年一二月二四日、被告日東から被告日本相互住宅株式会社(以下「被告日本相互住宅」という。)への所有権移転登記(以下「本件所有権移転登記」という。)がなされた。
(2) 昭和六三年九月二八日、本件土地につき、被告日本相互住宅を債務者、訴外太陽神戸抵当証券株式会社(その後「さくら抵当証券株式会社」と商号変更。以下「訴外抵当権者」という。)を債権者として抵当権設定登記がなされた(以下「本件抵当権」という。)。
(3) 平成六年八月二六日、訴外抵当権者は本件土地に対する競売開始決定を申し立てた(以下「本件競売事件」という。)。
2 裁判及び予告登記
(一) 本件競売事件に基づく本件土地差押後である平成八年一一月八日、被告日東産業は被告日本相互住宅に対し、本件所有権移転登記が、被告日東産業の知らぬ間に被告日東相互住宅が無断でなしたものであり無効な登記である旨を主張して本件所有権移転登記の抹消を求め、東京地方裁判所に提訴した(平成八年(ワ)第二一九二二号土地所有権移転登記抹消登記請求事件。以下「別件裁判」という。)。
(二) 右訴訟提起により、東京地方裁判所書記官は、別紙登記目録(二)記載の予告登記(以下「本件予告登記」という。)のとおり、嘱託登記を申請し、平成八年一一月一五日、本件所有権移転登記について抹消の予告登記がなされた。
(三) 別件裁判においては、被告である被告日本相互住宅が口頭弁論期日に出頭しなかったため、裁判所は平成九年三月一二日、被告(日本相互住宅株式会社)は原告(日東産業株式会社)に対し、別紙物件目録(一)の1及び2記載の土地につきなされた、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、との判決(以下「別件判決」という。)を言渡し、同判決は確定した。
3 別件裁判に関する原告の主張
被告日東産業と被告日本相互住宅は、本件所有権移転登記が真実は有効になされたものであるにもかかわらず、執行妨害を目的として、本件予告登記をなさしめるために、両者共謀のうえ、被告日東産業が、本件所有権移転登記が被告日本相互住宅によって勝手になされた無効な登記である旨の虚偽の事実を主張し、被告日本相互住宅においても、口頭弁論期日に出頭せず、これにより、本件所有権移転登記の抹消請求を認める旨の判決を得るに至ったものである。
すなわち、別件裁判のような裁判が提起されると、警告のために予告登記がなされるが、予告登記がなされた場合には、本件土地を入札しようとする者は、現所有権に関する登記が抹消される危険性があるため、入札を断念する可能性があり、それだけ入札希望者が減少し、そのため本件土地の価格が下がる傾向が生ずる。また、それを前提として、土地を買戻すことを画策するための手段として、予告登記が利用されるのである。
したがって、別件判決は、競売入札の妨害を目的とした予告登記を得る目的で、被告日東産業と被告日本相互住宅が通謀して裁判手続を利用した結果なされたものであり、通謀虚偽表示による無効な判決である。
(妨害目的を推認させる事情)
(1) 被告ら相互の関係
被告塚本三千一の家系は別紙家系図のとおりである。
(2) 被告日東産業及び被告日本相互住宅の設立等に関する事情
<1> 被告日本相互住宅は昭和四一年三月七日に、被告日東産業は同年三月二八日に、いずれも被告塚本三千一によって設立された会社であり、その目的もほとんど同じである。
<2> 被告日本相互住宅の昭和五五年八月二〇日以前の本店所在地は、渋谷区渋谷三丁目一七番二号であり、被告日東産業も一時エイ・エス・エスと商号変更されたことがあるが、昭和五〇年一二月一二日から昭和六二年五月一三日まで本店は右被告日本相互住宅と同じ場所であった。
また、昭和五五年八月二〇日、被告日本相互住宅は本店を新宿区高田馬場一丁目二七番一号に移転したが、その後も右渋谷を支店として扱っている。
(3) 被告日本相互住宅と被告日東産業の役員
<1> 被告日本相互住宅の代表取締役は被告塚本三千一であるが、平成六年二月二五日から、被告塚本三千一の娘である被告加藤千秋もなっており、取締役には被告塚本三千一の妻である訴外塚本知子と長男である訴外塚本靖之等がなり、その他被告塚本三千一の親族により構成されている。
また、監査役として昭和六三年一月七日から平成一一年五月二日まで、右靖之の妻である被告塚本早苗がなっていた。
別件裁判を提起した当時の被告日本相互住宅の代表取締役は被告加藤千秋であった。
<2> 被告日東産業の代表取締役は、昭和五〇年一二月一八日から平成三年三月三〇日まで被告塚本三千一であり、平成三年二月二八日から平成九年一月三〇日まで被告塚本早苗となり、平成九年一月二〇日から一時訴外望月年男となったが、同年五月二九日同人の退任後は、再び被告塚本早苗が代表取締役となり、その他取締役には被告塚本三千一及び靖之のほか同人らの親族において構成されている。
別件裁判が提起された当時の被告日東産業の代表取締役は被告塚本早苗であった。
(4) 被告日東産業は、別件判決に基づいた抹消登記をしていない。
(5) 被告日本相互住宅は、別件裁判の後も、本件土地の所在地において、被告日本相互住宅名義で買主を求める看板を掲げて販売しており、かつ、売却決定がなされた後においても、原告に対して本件土地を買戻したい趣旨で面談を求めていた。
4 予告登記の抹消に関する原告の主張
(一) 競売妨害を目的とする予告登記
予告登記は、不動産登記法上、裁判所書記官が、列挙された要件に該当する事由があった時、嘱託により抹消されるものとされている(不動産登記法一四五条一項)。
不動産登記法三条は、「登記原因の無効または取消による登記の抹消または回復の訴の提起ありたる場合」に予告登記がなされることになっているが、本件のような不動産競売の妨害を目的として予告登記が利用されることを想定していなかったため、その抹消については、たとえ予告登記が競売妨害のために利用されていることが明らかになった場合であっても、形式的に列挙された要件に該当しない限り、抹消がなされることはない。
このようなことから、競落人は、予告登記の原因となった裁判の当事者(本件では被告日東産業)の協力を得なければ予告登記を抹消できないこととなり、その結果、予告登記は、競売不動産の価格の低下を招き、あるいは右当事者が買戻や協力金の支払を要求するための手段として利用され、公正な不動産競売手続が妨害される事態を招いている。
(二) 本件予告登記により原告の被っている損害及び抹消を求める利益
本件土地についても、予告登記がなされている以上、原告の所有権が否定される危険性があることから、本件土地を買い取る者はいないといえる。その意味から本件予告登記は原告の本件土地所有権行使を阻害しているものであり、原告の所有権は瑕疵のない完全な所有権とはいえない。
したがって、原告は本件予告登記の抹消を求める利益がある。
(三) 主位的主張
別件判決が無効とされた場合、不動産登記法一四五条一項の抹消事由の一つである「原告(被告日東産業)敗訴」の場合の趣旨と同様に扱えるものと解釈されるので、原告は本訴において無効を確認する判決を得ることにより、裁判所書記官の嘱託を促すことが可能となり、本件予告登記は抹消されるものと思料する。
したがって、原告は、本件予告登記の抹消を求めるための手段として、別件判決が無効であることの確認を求める利益がある。
(四) 予備的主張
別件判決は、平成九年三月一三日に言い渡され、既に確定しているが、被告日東産業は、これに基づく本件所有権移転登記の抹消登記手続を行っていない。
本件所有権移転登記の抹消登記手続を行うためには、訴外抵当権者の承諾が必要であり(不動産登記法一四六条)、被告日東産業が仮に右承諾を求めたとしても、訴外抵当権者は、原告が本件土地を競売により取得したことにより、右承諾を得られることはあり得なくなった。
したがって、被告日東産業の被告日本相互住宅に対する別件判決は、単に判決があり確定しているというだけであり、その判決に基づく権利行使、すなわち、その登記手続を行う途は閉ざされ、右登記抹消請求権は放棄されたものとみなされる。
5 不法行為に基づく損害賠償請求
原告は不動産売買等を業とする会社であり、転売利益を取得することを目的で本件土地を金二億〇七七七万円で競落したものである。
ところが、本件土地に本件予告登記がついているため売却することができないことから、本件予告登記が抹消され、本件土地が売却可能になるまで、最低売却価額である金一億九八九一万円に対する民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金に相当する金員の損害を被っている。
右の損害は、被告らの不法行為に基づく損害である。
6 まとめ
よって、原告は被告らに対し、前記第一記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1について
原告名義の所有権移転登記が経由されていることを認め、原告の買受けについては不知、その余は争う。
(所有権取得に至るまでの経緯)記載の(1) ないし(3) の事実は認める。
2 請求原因2について
認める。
3 請求原因3について
争う。
(妨害目的を推認させる事情)記載の(1) ないし(4) の事実は認める。
4 請求原因4について
争う。
(予告登記の抹消に関する被告らの主張)
別件判決は、適法な手続に基づいてなされた公権的判断であり、確定した以上は確固たる法的効果を有している。けだし、我が国の民事訴訟法は弁論主義の建て前をとっているからであり、原告の主張はこれを忘れたもので、主張自体失当である。
また、原告の被告に対する本件土地についての所有権移転登記抹消請求権の放棄の意思表示を求めることは、所有権に基づく物権的請求権ないしこれと類似する権利としてこのような請求が成り立つものでなく、原告の主張は実体法上の根拠がない。
第三当裁判所の判断
一 本件土地所有権の帰属について
1 本件証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実
本件証拠及び弁論の全趣旨(争いのない事実)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 本件土地に関する登記等の推移
(1) 本件土地は、もと被告日東産業株式会社の所有地であり、その旨の所有権移転登記(ただし、被告日東産業は、昭和四一年三月二八日に「日東産業株式会社」の商号で設立された後(甲第六号証の一)、昭和五〇年一二月一〇日に「エイ・エス・エス株式会社」へと商号変更がなされ(甲第六号証の二)、さらに平成元年一一月二日に再度「日東産業株式会社」へと商号変更がなされており(甲第六号証の四)、本件土地に関する登記は「エイ・エス・エス株式会社」名義でなされている。)がなされていた(甲第一号証の一及び二)。
(2) 昭和六二年一二月二四日受付で、本件土地について、真正な登記名義の回復を原因とする、被告日東産業から被告日本相互住宅への本件所有権移転登記がなされた(甲第一号証の一及び二)。
(3) 昭和六三年九月二八日受付で、被告日本相互住宅を債務者、訴外抵当権者を抵当権者とする抵当権設定登記がなされた(本件抵当権)(甲第一号証の一及び二、第二号証の一及び二)。
(4) 平成六年八月二六日、訴外抵当権者の申立てにより、千葉地方裁判所は本件土地について競売開始を決定し、これを原因として、同月二九日受付で、本件土地に対する差押登記がなされた(甲第一号証の一及び二、第二号証の一及び二)。
(5) 平成八年一一月八日、被告日東産業は被告日本相互住宅に対し、本件所有権移転登記が、被告日東産業の知らぬ間に、無断で設定された無効な登記である旨を主張して、本件所有権移転登記の抹消を求める訴訟(別件裁判)を提起した(甲第一九号証の一)。
(6) 右訴訟提起により、東京地方裁判所書記官は、別紙登記目録(二)記載の予告登記(本件予告登記)のとおり、嘱託登記を申請し、平成八年一一月一五日、本件所有権移転登記について抹消の予告登記がなされた(甲第一号証の一及び二、第二号証の一及び二)。
(7) 別件裁判においては、被告である被告日本相互住宅が口頭弁論期日に出頭しなかったため、裁判所は平成九年三月一二日、被告(日本相互住宅株式会社)は原告(日東産業株式会社)に対し、別紙物件目録(一)の1及び2記載の土地につきなされた、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、との判決(別件判決)を言渡した(甲第三号証)。
(8) 平成九年三月二九日、別件判決は確定した(甲第一九号証の一〇)。
(9) 平成一一年九月八日、本件土地について、原告を買受人とする売却許可決定がなされた。
(10) 平成一一年九月一四日、被告日東産業は、千葉地方裁判所に対し、右売却許可決定に対する執行抗告を申し立てた(甲第七号証の一)。
(11) 千葉地方裁判所は、同日、右執行抗告について、民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてなされたものであると認められる、との理由により抗告を却下した(甲第七号証の二)。
(12) 平成一一年一一月一七日受付で、原告は、同月一六日の競売による売却を原因とする本件土地の所有権移転登記を得た(甲第二号証の一及び二)。
(二) 被告日東産業と被告日本相互住宅との関係等について
(1) 被告日東産業は、昭和四一年三月二八日に被告塚本三千一によって設立された会社であり、本件所有権移転登記がなされた昭和六二年一二月二四日ころの代表取締役は被告塚本三千一、別件裁判を提起した平成八年一一月ころの代表取締役は、被告塚本三千一の長男の妻である被告塚本早苗であり、平成九年一月二〇日から一時訴外望月年男が代表取締役となったが、同年五月二七日の同人の退任後は、再び被告塚本早苗が代表取締役となった。
(2) 他方、被告日本相互住宅は、昭和四一年三月七日に、やはり被告塚本三千一によって設立された会社であり、被告塚本三千一が代表取締役をつとめていたが、平成六年二月に被告塚本三千一の実子である被告加藤千秋が代表取締役となり、別件裁判が提起された平成八年一一月ないし別件判決が確定した平成九年三月ころの代表取締役は被告加藤千秋であった(甲第五号証の二)。
その後、平成九年一二月に再び被告塚本三千一が代表取締役に就任し、被告加藤千秋とともに代表取締役の地位に就いている(甲第五号証の三)。
2 当裁判所の判断
以上の事実によれば、本件土地の所有権は、被告日東産業から被告日本相互住宅へと移転した後、競落により原告が取得したものと認めることができる。
別件裁判においては、被告日東産業の被告日本相互住宅に対する、本件所有権移転登記の抹消登記を求める請求を認容する別件判決が言い渡され、これが確定しているが、両社がともに被告塚本三千一によって設立され、同被告やその親族が代表取締役等の地位に就いていること、別件裁判が、本件所有権移転登記経由の約九年後に、しかも、訴外抵当権者の申立てに基づく差押えの後に提起されていること、被告日本相互住宅が口頭弁論に出頭せず、欠席のまま判決に至っていること、別件判決に対して控訴がなされぬまま確定していること、別件裁判当時、本件所有権移転登記の抹消を実現するためには、訴外抵当権者の承諾を得る必要があったが、訴外抵当権者に対して承諾を求める訴えは提起されていないことなどの事情に鑑みれば、別件裁判は、被告日東産業と被告日本相互住宅が互いに意思を通じ、本件土地について本件予告登記がなされることを企図してなされたものと推認するのが相当である。
したがって、本件土地に対する所有権の確認を求める原告の請求は理由がある。
二 本件予告登記の抹消について
1 別件判決の無効確認を求める請求について
原告の請求のうち、別件判決の無効確認を求める部分は、原告に関する現在の権利または法律関係の存否の確認を求めるのでなく、原告が当事者となっていない判決の無効確認を求める訴えであるから、不適法として却下を免れない。
2 放棄の確認を求める請求について
(一) 被告日東産業は、別件判決に基づき、被告日本相互住宅に対し、本件所有権移転登記の抹消を求める権利を有している。
しかしながら、本件土地については、本件所有権移転登記に引き続き、被告日本相互住宅から原告への所有権移転登記が経由されているから、被告日東産業が被告日本相互住宅に対して有する右の抹消登記請求権を実現するためには、まずは、被告日本相互住宅から原告への所有権移転登記を抹消しなければならない。
ところが、原告との関係においては、既に述べたとおり、原告の被告日東産業に対する本件土地の所有権確認請求が認容されることとなる。
したがって、所有権の帰属に関する右の判断が確定した場合には、被告日東産業が原告に対して、原告への所有権移転登記の抹消を求める途は閉ざされ、その結果、被告日本相互住宅に対して有する右の抹消登記請求権についても、これを実現する途は閉ざされることになる。
(二) ところで、予告登記は、登記原因の無効または取消による登記の抹消または回復の訴えが提起されたことを公示することにより、第三者に対し、不測の損害を被るおそれがあることを警告するためになされる登記である。したがって、抹消または回復の訴を起こした原告が勝訴し、これに基づいて登記の抹消または回復が行われた場合には、登記官が職権に基づいて予告登記を抹消することとされている(不動産登記法第一四五条第三項)。また、右原告が敗訴したり、訴を取り下げたりすることで、右訴えによる抹消ないし回復の可能性がなくなった場合にも、裁判所からの嘱託により、予告登記は抹消される(同条第一項)。これらの場合には、最早警告の必要がないからである。
そして、たとえ右訴えが原告の勝訴に終わり、確定判決によって原告の登記請求権が認められたとしても、原告が右権利を放棄した場合には、登記の抹消ないし回復によって第三者が不測の損害を被る可能性は実際上なくなったといってよいから、やはり、予告登記を存置させておく必要はない。そこで、右権利の放棄を証する書面が裁判所に提出された場合にも、裁判所からの嘱託により、予告登記は抹消されることとされている(同条第二項)。
(三) 予告登記の抹消に関する以上の規定と本件の事案とを対比すると、本件においては、抹消登記請求権の権利者である被告日東産業が、義務者である被告日本相互住宅に対し、実体的な意味で右権利を放棄する旨の意思表示を行ったと認めるに足る証拠はない。
しかしながら、既に述べたとおり、原告の本件土地に関する所有権確認請求が認められた場合には、被告日東産業が抹消登記請求権を実現する途は閉ざされることになるから、この場合には、最早、本件所有権移転登記が抹消されることで第三者が不測の損害を被る可能性はなく、したがって、権利放棄がなされた場合と同様に、予告登記を存置させておく必要性も存しない。
そこで、予告登記の基礎となった訴訟に基づく登記請求権について、権利実現の可能性がなくなった場合には、不動産登記法第一四五条第二項が類推適用され、右の法的状況を証する書面が裁判所に提出された場合には、当該予告登記は、裁判所からの嘱託により抹消されるべきものと解するのが相当である。
(四) 他方、予告登記の存在は、当該不動産に対する権利を目的とする取引の現実的な障害となるから、現在の所有者にとって、その抹消を実現する必要性は高い。
そこで、予告登記の基礎となった訴訟に基づく登記請求権について、権利実現の可能性がなくなったという場合には、当該不動産の所有者は、右の法的状況の存在を、訴訟をもって確認請求することができ、その認容判決を得た場合には、これを不動産登記法第一四五条第二項にいう「証スル書面」として裁判所に提出することで、嘱託による予告登記の抹消を促すことができると考えるのが相当である。不動産の所有者に対し、右のような形で予告登記の抹消に通じ得る方途を与えることには、十分な合理性と必要性が認められるからである。
(五) そして、右法的状況の確認訴訟において、受訴裁判所が請求を認容する場合には、不動産登記法第一四五条第二項に基づく予告登記の抹消が書記官の嘱託により行われることを考慮し、端的に、予告登記の基礎となった訴訟に基づく登記請求権について、同条項にいう「放棄」がなされたことを確認する旨の主文を掲げるのが相当と思料する。
(六) 以上に述べた趣旨より、本件土地の所有者である原告は、被告日東産業が被告日本相互住宅に対して有する抹消登記請求権について、不動産登記法第一四五条第二項にいう「放棄」がなされたのと同様の法的状況が存することの確認を請求できるものと解され、その確認請求を認容する主文としては、主文第二項記載のとおりとするのが相当であるから、この点に関する原告の請求には理由がある。
三 不法行為に基づく損害賠償請求について
原告は、本件予告登記の存在が本件土地の所有権を侵害する不法行為となる旨を主張するが、原告は本件予告登記の存在を前提として本件土地の競売に参加し、これを競落したのであるから、原告は、本件予告登記の存在をも念頭に入れ、これが流通の支障となる可能性をも考慮した上で、本件土地の経済的価値を評価し、競落したものと考えるのが相当である。したがって、本件予告登記の存在により損害を被ったとする原告の主張は採用することができない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、この点に関する原告の主張には理由がない。
第四結語
以上によれば、原告の請求は、主文第一項及び第二項記載の限度で理由があるから認容し、別件判決の無効確認を求める部分は不適法であるから訴えを却下し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石井俊和)
登記目録
別紙物件目録(一)記載の土地について千葉地方法務局千葉西出張所
(一) 受付年月日 昭和六二年一二月二四日
受付番号 第五八八九五号
登記目的 所有権移転
原因 真正な登記名義の回復
(二) 受付年月日 平成八年一一月一五日
受付番号 第三〇四九三号
登記目的 一番所有権抹消予告登記
原因 平成八年一一月八日 東京地方裁判所へ訴え提起
以上
物件目録
(一) 土地
1 所在 千葉市花見川区作新台一丁目
地番 一五七六番二
地目 山林
地積 一四三七平方メートル
(実測面積一一九二・八四平方メートル)
2 所在 千葉市花見川区作新台一丁目
地番 一五七六番六
地目 山林
地積 一四三八平方メートル
(実測面積一四三八・二〇平方メートル)