東京地方裁判所 平成12年(ワ)21627号 判決 2002年7月24日
(第一事件)
原告
東田春子
外七三名
上記七四名訴訟代理人弁護士
小笠原勝也
同
鈴木喜久子
同
小川正和
同
五十嵐康之
同
一場順子
被告
株式会社○○
代表者代表取締役
甲野太郎
被告
株式会社△△
代表者代表取締役
甲野太郎
被告
甲野太郎
被告
乙川花子
(第二事件)
原告
西川秋子
外八七名
上記八八名訴訟代理人弁護士
小笠原勝也
同
鈴木喜久子
同
小川正和
同
五十嵐康之
同
一場順子
被告
株式会社○○
代表者代表取締役
甲野太郎
被告
株式会社△△
代表者代表取締役
甲野太郎
被告
甲野太郎
被告
乙川花子
主文
1 被告らは、連帯して、別紙当事者目録1、2記載の原告ら各自に対し、各二万円を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、被告らから美容器具等を購入し、かつ、被告らとの間で同商品の宣伝・広告等の業務委託契約を締結した原告らが、被告らの商法が詐欺に当たるとして、不法行為による損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権に基づき、被告らに対し、売買代金相当額等の一部の連帯支払を求めた事案である。
1 基本となる事実(争いのない事実等)
(1) 当事者等
ア 原告らは、被告らとの間で、後記の美容機器等の売買契約及び業務委託契約を締結した二〇歳代から六〇歳代までの主婦、会社員等であり、その大半が女性である(甲11の1・2、12の1ないし74、13の1ないし3、14の1ないし89)。
イ 被告株式会社○○(以下「被告○○」という。)は、美容機器等の販売及び取次事務等並びにこれらの業務に付帯する一切の業務を目的とする株式会社である。被告○○は、当初、登記上の本店所在地を千葉県船橋市本町a丁目b番c号としていたが、平成一一年一一月七日、千葉市美浜区中瀬d丁目e番地××ガーデンB棟二階に移転した。
ウ 被告株式会社△△(以下「被告△△」という。)は、平成一一年一一月九日設立された、美容機器等の販売等、経営活性化のための人材教育等の企画等及びこれらの業務に付帯する一切の業務を目的とする株式会社である。
なお、同被告の登記上の本店所在地は、平成一二年一〇月ころまで、千葉市美浜区中瀬d丁目e番地であった(なお、同被告の現在の本店所在地は、千葉市花見川区幕張本郷<番地略>である(乙12)。)。
また、被告○○作成の「商品売買契約書」用紙及び被告△△作成の在宅勤務者募集用紙(甲10の1)には、両法人の所在地として「船橋市本町a―b―c □□ビル5F」と記載されているものがある(甲6、10の1)。
エ 被告甲野太郎(以下「被告甲野」という。)は、被告○○及び被告△△の代表取締役である。
オ 被告乙川花子(以下「被告乙川」という。)は、平成一二年四月二日まで被告○○の代表取締役であったが、同日、被告甲野が代表取締役に就任したのと入れ替わりに辞任した。なお、被告甲野と被告乙川とは、平成五年六月九日、婚姻したが、平成一〇年一〇月二日、離婚した。
(2) 被告○○は、原告らを初めとする顧客に対し、美顔器の一機種である超音波美容器(商品名PCベルソム。以下「本件美顔器」という。)及び本件美顔器の使用に際して必要となる化粧品の超音波専用ジェルセット(以下「本件付属化粧品」という。)を販売する業務を営んでいる。本件美顔器及び本件付属化粧品(以下「本件美顔器等」という。)の合計価格は、一セット三六万七五〇〇円(税込)である。
原告らは、いずれも被告○○との間で、平成一一年二月ころから平成一二年二月ころにかけて、本件美顔器等の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。また、原告らの大半は、本件売買契約の締結に際し、商品代金支払のため、株式会社アプラス、ジーシー株式会社等のクレジット会社との間で、分割払のクレジット契約を締結した。
(3) 被告△△は、上記期間及びその前後にかけて、原告らを含む被告○○の顧客との間で業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結し、顧客がマンスリーレポート(本件美顔器等を使用した意見・感想)の提出・ポスティング(チラシの配布)・勉強会への参加等の業務を行ったことの対価として、顧客に対して所定の報酬(総額四二万円)を二〇回前後の分割払で支給する形態の業務を営んでいる(この報酬の支給が、業務を行わない者の報酬又は見込みの収入を保証するものではないことは、もちろんである。)。なお、この形態の業務委託契約を締結した顧客は、「メンバー」と呼称される。他にも、本件業務委託契約には、本件美顔器等の購入者を一人勧誘する毎に三万五〇〇〇円の紹介手数料が支払われる等、本件美顔器等の購入者の増減に伴って報酬が増減する形態の契約も存し、この形態の業務委託契約を締結した顧客は「ビジネス」と呼称される。本件訴訟(第一事件、第二事件)における原告らは、ほぼ全員がメンバー又はメンバーと同視し得る顧客である。
(4)ア 本件業務委託契約に関する業務委託契約書用紙上の「報酬」欄には、「○○が販売する商品代金の支払義務を保障するのではありません。」との文字がゴシック体で記載されている(甲7)。
イ また、本件業務委託契約に基づき、原告らの銀行口座には報酬が振り込まれているところ、同口座の通帳の記載では、振込名義人は「カ)○○」あるいは「カ)○○」となっている。
2 争点
(1) 本件売買契約と本件業務委託契約(以下、両契約を併せて「本件モニター販売契約」という。)の実態は、両者一体に結合したいわゆる「モニター販売」であるか。
ア 原告らの主張
本件売買契約と本件業務委託契約の実態は、両契約が不可分一体に結合したいわゆる「モニター販売契約」である。
イ 被告らの主張
被告○○と商品の売買契約を締結した者全員が被告△△と業務委託契約を締結しているわけではない。本件売買契約と本件業務委託契約は、各々別会社が独自に原告らと各契約を締結したものであり、不可分一体とはいえない。
(2) 本件売買契約と本件業務委託契約の両契約が不可分一体に結合したいわゆるモニター販売契約であるとして、被告らが原告らに対し本件モニター販売契約を勧誘しこれを締結させる行為は、詐欺行為に当たり、不法行為となるか。
ア 原告らの主張
本件モニター販売契約は、被告らが原告らに対し契約に従った支払を実行した場合には早晩破綻することが当初から明白であり、このことを被告らは認識していた。したがって、被告らは、原告らが本件業務委託契約による月々の報酬によって各自のクレジット会社への分割返済を行うことが不可能になること、すなわち、原告ら各自がクレジット会社に対して負担する債務相当額の損害を被ることもまた認識・容認していた。
にもかかわらず、被告らは、このような点を原告ら各自に対しひた隠しにし、本件業務委託契約による所定の報酬を支払う意思がないにもかかわらず、かかる意思があるかのように装って原告らを本件モニター販売契約に勧誘し、原告ら各自を確実に報酬が支払われるモニター販売であるとの錯誤に陥れて契約を締結させたものであり、かかる被告らの行為は、詐欺に当たり、不法行為が成立する。
イ 被告らの主張
被告○○は、あくまでも本件美顔器等の商品の販売と普及を目的として営業活動をしており、原告らの大多数もその商品価値を理解し、販売形態を理解していたはずである。被告△△が業務委託料を支払うのは、業務を遂行した者に対して労働の対価として支払うものであり、メンバー全員に四二万円の金員を支払うことを保証したものではない。途中でビジネス会員に変更する者(変更後は業務委託料は発生しない)もいれば、仕事の義務を途中でやめる者もいる。被告△△としては、メンバーが二一か月間の業務を遂行することで、宣伝活動となり、この間に四台ないし六台の商品の販売が見込まれ、この商品代金の二〇パーセント〜三五パーセントをメンバー会員に対する労働の対価として支払っているものである。
原告らは、被告△△が当初から原告らに対して報酬を支払う意思がなかったと主張するが、労働に対する報酬としては支払の実績がある。被告らは、この事業に参加する者のうち四人に一人はビジネスプランで参加するとの想定をしており、実際に途中でビジネス会員に変更する者を含めて四四パーセントの者がビジネスプランでの活動をしている。
被告らは、地区責任者(営業所長)会議、代理店会議、勉強会、説明会を開催し、原告らが本件売買契約と本件業務委託契約について十分理解できるように指導教育していた。原告らがメンバーズプランでの登録、ビジネスプランでの登録、Cプランでの登録のいずれで参加するかは本人の自由であり、本件売買契約と本件業務委託契約に同一性はなく、商品代金を被告らが原告らに代わって支払うような約定もなく、被告らの行為は詐欺行為には当てはまらない。
平成一一年九月からは、被告△△の発行する書面(プログラム―甲4)の報酬欄に「○○が販売する商品代金の支払を保障するのではありません」と明記してあるので、原告らが錯誤により契約をすることは考えられない。原告らは、少なくとも商品の良さにひかれ、購入意思があって参加し、将来ビジネスとしての利益を望んで参加したものである。
(3) 仮に、被告らの本件モニター販売契約の勧誘及び締結行為が不法行為とまではいえないとして、本件モニター販売契約の締結に関し、被告らに詐欺行為があったか、また、原告らは錯誤に陥ったか。さらには、本件モニター販売契約は連鎖販売取引に該当し、クーリング・オフにより契約を解除できるか。
ア 原告らの主張
(ア) 被告らの本件モニター販売契約の勧誘及び締結行為は、前記のとおり、被告らの原告らに対する詐欺行為である。そこで、原告らは、被告らに対し、平成一三年一〇月一日の本件口頭弁論期日において、被告らとの本件モニター販売契約を取り消す旨の意思表示をした。
(イ) 前記のとおり、原告らは、被告らから確実にモニター料を支払う旨の明示の説明を受けた結果、これを誤信し、本件モニター販売契約を締結するに至った。したがって、原告らは、いわゆる動機の錯誤に陥ったものであり、かつ、当該動機は明示されており、また、モニター料の確実な支払なくして原告らがモニター販売に手を出すことはあり得なかったから、当該動機の錯誤は法律行為の要素の錯誤というべきである。
したがって、本件モニター販売契約は、錯誤により無効である。
(ウ) 被告らのモニター販売は連鎖販売取引に該当する。
他方、連鎖販売取引を行う業者には、その顧客に対し、訪問販売法四条や同法九条の六に規定する書面とは別個独立に、同法一四条二項所定の書面を交付することが義務付けられている。そして、同法一七条一項は、連鎖販売取引の顧客は、同法一四条二項所定の書面の交付を受けた後二〇日以内に契約の解除ができる旨規定する。したがって、同法一四条二項所定の書面が顧客に交付されない場合は、前記の二〇日間は進行を始めないので、かかる場合、連鎖販売取引の顧客は、いつでもクーリング・オフにより契約を解除することができる。
そして、原告らは皆、被告らから同法一四条二項所定の書面の交付を受けなかったので、平成一三年一〇月一日の本件口頭弁論期日において、クーリング・オフにより本件モニター販売契約を解除する旨の意思表示をした。
(エ) 以上の詐欺取消・錯誤無効またはクーリング・オフによる契約解除により、被告らが原告らから受領した本件美顔器等の代金は不当利得となるので、原告ら各自は、被告らに対し、本件美顔器等の代金三六万七五〇〇円及びこれに対する前記各意思表示をした日の翌日である平成一三年一〇月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員につき、不当利得返還請求権を取得した。原告ら各自は、被告らに対し、前記不当利得返還請求権のうち、その一部である原告一名当たり各二万円、合計三二四万円の連帯支払を求める。
イ 被告らの主張
(ア) 本件売買契約及び本件業務委託契約(本件モニター販売契約)は、共に収支が見合うものであり、行き詰まるものではなかった。したがって、被告らが、原告らに対し、詐欺的行為に出たという事実はない。
(イ) 原告らは、本件美顔器等の美容的効果を期待してこれを購入したのであり、本件業務委託契約によって購入代金の支払が必ずしも保証されるわけではないことを理解していた。したがって、原告らに動機の錯誤はない。
(ウ) 被告らは、訪問販売法一四条二項に基づく書面の交付をしており、クーリング・オフによる契約の解除はできない。
(4) 被告らに責任があるとして、被告らが原告らに対して支払うべき損害額はいくらか。
ア 原告らの主張
被告らとの間で本件モニター販売契約を締結した原告らは、クレジット会社の立替払を利用して本件美顔器等の代金を支払った。したがって、原告ら各自は、本件モニター販売契約の締結により、クレジット会社に対して、本件美顔器等購入代金三六万七五〇〇円に分割払手数料(立替払手数料)を加えた額の債務を負担するに至った。そして、原告ら各自がこの債務を負担したのは、「月々の分割払は報酬で賄える」「本件美顔器等の代金をクレジットを利用して支払うことができる」「モニター料でクレジットの支払ができる」旨の被告らの勧誘文言を信用したからに他ならない。
したがって、原告らは、被告らのこのような強い勧誘が存在したからこそ、クレジット会社との立替払契約の締結に追い込まれ、その結果、本件美顔器等の代金のみならず、立替払手数料も負担するに至ったものであり、原告ら各自の損害額は、本件美顔器等の代金に立替払手数料を加算した金額、すなわち、クレジット会社に対して負担するに至った債務総額から既払報酬を控除した金額である(なお、クレジット契約を結んでいない原告らについては、本件美顔器等の代金から既払報酬を控除した金額となる。)。
原告らは、被告らのモニター販売の実態を察知すれば、本件モニター販売契約の締結に至ることはあり得ず、したがって、この債務を負担することもあり得なかった。結局、原告らは、本来負担することのあり得なかった債務を被告らの欺罔により負担するに至ったものであり、原告ら各自には、前記債務相当額の財産的損害が発生したというべきである。
なお、原告ら各自は、被告らに対し、原告らに生じた損害のうち、その一部である原告一名当たり各二万円、合計三二四万円の連帯支払を求める。
イ 被告らの主張
本件売買契約の履行により、原告らの手元には代金相当の本件美顔器等の商品がある。また、クレジットの使用は原告らからの申し出であり、クレジット会社からの電話による申込確認の際にも、原告らは、購入の意思の確認を受けている。また、一か月以内のキャンセル(クーリング・オフ)も受け付けており、原告らの主張する損害は、クレジット会社への債務にすぎず、被告らが損害を与えたものではない。原告らが被告△△から受領した報酬は損害から差し引くべきである。
(5) 本件売買契約及び本件業務委託契約と原告ら各自の被った損害との間に、因果関係はあるか。
ア 原告らの主張
本件売買契約及び本件業務委託契約(本件モニター販売契約)は、必ず破綻し、顧客に損害を及ぼすことが必至の構造を有しており、被告らは、この点を認識・容認していた。そして、被告らは、原告ら各自に対し、これらの事情を隠して勧誘し、本件売買契約及び本件業務委託契約(本件モニター販売契約)を締結させて、原告らに金員を支出させたものであり、原告ら各自の被った損害との間に因果関係のあることは明らかである。
イ 被告らの主張
原告らの主張を争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件売買契約と本件業務委託契約の実態は、両者一体に結合したいわゆる「モニター販売」であるか)について
(1) 前記基本となる事実及び証拠(甲6、10の1、11の1、12の1ないし74、13の1、14の1ないし89、19、被告代表者兼被告甲野)及び弁論の全趣旨によれば、被告○○と被告△△の関係について、以下のとおり認められる。
ア 被告△△と被告○○の登記上の本店所在地は、平成一二年一〇月初めころまで共に千葉県千葉市美浜区中瀬d丁目e番地であり(但し、被告○○については、正確には「千葉市美浜区中瀬d丁目e番地××ガーデンB棟二階」である。)、他方、被告△△の設立登記(平成一一年一一月九日)以前も、被告○○と設立登記前の被告△△の所在地は、共に船橋市で同一であった(被告○○作成の商品売買契約書用紙(甲6)及び被告△△作成の在宅勤務者募集用紙(甲10の1)には、各被告の所在地として、共に「船橋市本町a―b―c □□ビル5F」との記載がある。)。
イ 被告○○の代表者は、平成一一年四月二日まで被告乙川であったが、被告乙川は、平成五年六月九日から平成一〇年一〇月二日まで被告△△の代表者である被告甲野と婚姻関係にあった。また、被告○○の代表者は、平成一一年四月二日、被告乙川から被告甲野に交替し、被告甲野が被告△△及び被告○○の代表者を兼任することになった。
ウ 原告らにおいて、被告○○と被告△△とが別法人であると認識していた者は少なく、むしろ原告らの大半は被告○○と被告△△とが同一法人であると認識していた。
エ 被告らは、本裁判において、被告○○と被告△△とを明確に区別することなく訴訟追行している。被告らの提出する準備書面では、被告○○と被告△△とをまとめて「当社」と表現しているものが散見され、被告甲野の被告代表者兼被告本人尋問中には、被告○○と被告△△とを明確に区別することなく供述している部分がある。
(2) 以上の事実に加えて、前記基本となる事実等及び証拠(甲6ないし9、11の1、12の1ないし74、13の1、14の1ないし89、15ないし17、19、原告南田夏子、原告北山冬子、原告丁野夕子、被告代表者兼被告甲野)によれば、被告○○の本件売買契約と被告△△の本件業務委託契約の関係について、以下のとおり認められる。
ア 本件美顔器等の売買契約にあたって原告らが作成する「商品売買契約書」(甲6)には、希望プランとして「メンバー」、「ビジネス」との記載があるところ、メンバー、ビジネスは、被告△△と原告らとの間の本件業務委託契約の種別である。
また、同売買契約書には本件業務委託の内容である「直上者」「紹介者」を記載する欄が設けられており、更に本件業務委託契約の報酬振込先である「振込口座」欄が設けられている。
イ 原告らが本件美顔器等の購入を勧められた際には、必ず本件業務委託契約と一体のものとして勧誘を受け、勧誘を受けた者のほとんどが本件売買契約と本件業務委託契約の両者を締結している。また、原告らの大半は、本件業務委託契約があったからこそ本件美顔器等を購入した者であって、これがなければ本件美顔器等を購入しなかった。
ウ 本件業務委託契約に基づき原告らの銀行口座に振り込まれた報酬の振込名義人は、「カ)○○」あるいは「カ)○○」となっており、被告○○は、原告らに対し、被告△△が支払義務を負う本件業務委託契約上の報酬の支払をしていた。
エ 平成一二年八月三〇日及び同年九月一一日の二日にわたり美顔器モニター・マルチ商法被害対策弁護団に提出された書面(甲8、9)の差出人の箇所には、被告○○及び被告△△が併記されており、また、同年九月一一日付の書面(甲9)では、被告○○及び被告△△は、本件売買契約と本件業務委託契約とは同一のものであるから、クーリング・オフをするならば、両者を一体として解除すべき旨(すなわち、売買代金を原告らに返還するのと引き換えに、原告らが既に受領した報酬を被告らに返還すること)を主張している(なお、同年八月三〇日付書面(甲8)では、被告○○及び被告△△は、美顔器モニター・マルチ商法被害対策弁護団の解釈・主張に基づき、本件売買契約と本件業務委託契約とが一体であるとの前提に立つことを述べている。)。また、同書面(甲8、9)の各本文では、被告○○及び被告△△が区別して表示されておらず、すべて「弊社」と記載されている。
さらに、被告○○の作成に係る「商品の返還に伴う業務委託の解約について」と題する書面(甲19)には、「商品の返品は、業務委託契約の解約となります」との記載がある。
オ 被告○○は、本件美顔器等の販売を行っており、この販売収益で経営を成り立たせている。
しかし、他方、被告△△は、人材派遣会社であるが、派遣先は被告○○に限られている上、被告○○から被告△△に支払われる派遣料は、本件美顔器等の売り上げの約二〇パーセントとされ、被告○○の売り上げが被告△△の派遣料の基準となっている。また、被告○○から被告△△に支払われる派遣料のほぼすべてが、派遣された人員に対する給料の支払に使用されており、被告△△には営業利益がなかった。
さらに、被告△△の経費を被告○○が賄うなど、被告○○の収支と被告△△の収支は、実際上、混同されていた。
カ 原告ら顧客の本件業務委託契約締結の相手方は、被告△△が設立される以前は、被告○○であった(被告○○が、原告ら顧客との間で、本件業務委託契約と同様の契約を締結していた。)。
(3) 以上によれば、被告○○と被告△△は、形式上は別法人であっても、いずれも被告甲野の経営権に服し、一体不可分となって本件モニター販売活動を行っていたものであり、被告○○と被告△△とは、実質的には一体の法人であると認められ、また、顧客が被告△△との間でメンバーとして業務委託契約を締結するには、被告○○から本件美顔器等を購入することが義務付けられており、ビジネスプランの申込者についても、その対象者は本件美顔器等の購入者に限定されており(甲3及び4の各一頁)、被告△△との間の本件業務委託契約は、被告○○との間の本件売買契約を前提としていることや、実際に原告らは、被告△△との間で本件業務委託契約を締結するにつき、全員が被告○○から本件美顔器等を購入していること(甲12の1ないし74、14の1ないし89)に照らすと、被告○○の本件売買契約と被告△△の本件業務委託契約は、密接な関わりを有し、実質的には不可分一体のものであると認めることができる。
被告らは、商品を購入しないCプランもあると主張するが、このCプランは、クレジットの審査が通らなかった者に限り選択することができるもので、その利用が厳格に限定されており(甲3、4)、また、証拠上、Cプランでの参加者の存在は明らかではないことからすると、Cプランを理由に本件売買契約と本件業務委託契約との密接不可分性を否定することはできず、被告らの主張は理由がない。
2 争点(2)(被告らが原告らに対し本件モニター販売契約を勧誘し締結させる行為は詐欺行為に当たり、不法行為となるか)について
(1) 次に、被告○○及び被告△△による本件売買契約及び本件業務委託契約の勧誘・締結行為が違法であるかについて検討する。この点、本件売買契約及び本件業務委託契約は、前認定のとおり、実質的に不可分一体のものと認められるから、被告らの本件売買契約及び本件業務委託契約の勧誘・締結行為が違法かどうかは、両契約が一体であることを前提として全体的に考察することにより判断するのが相当である。
(2) 前記基本となる事実及び証拠(甲3、4、甲10の1・2、15ないし17、原告南田夏子、原告北田冬子、原告丁野夕子、被告代表者兼被告甲野)並びに弁論の全趣旨によれば、被告○○及び被告△△の本件モニター販売商法について、以下のとおり認められる。
ア 本件モニター販売契約の勧誘
被告○○及び被告△△は、知人・友人間の紹介、新聞・雑誌等の広告、郵便受けへのチラシの配布等により本件モニター販売契約の勧誘を行った。勧誘の内容は、「本件美顔器を使用することによりきれいになる」と本件美顔器自体の効用の説明をした場合もあったが、大半は本件美顔器を利用したモニター等の仕事依頼の説明に終始していた。原告らは、被告らの販売員から、「モニターの仕事をしてほしい。仕事の内容は、一か月五〇〇部のチラシを継続して配布することと、一か月に一度、本件美顔器を使った感想(モニター愛用者意見感想書)を送付することであり、一か月三万五〇〇〇円もらえる。」「モニターになるためには、本件美顔器を買う必要がある。本件美顔器には付属のジェル等の化粧品一式(本件付属化粧品)が必要で、定価三六万七五〇〇円、これを毎月一万七九〇〇円二四回(初回一万八三四八円)支払のクレジット(総額四三万〇〇四八円)で買えば、全く無料で本件美顔器が手に入る上に、モニター料のうち余り分は収入となる。また、モニターがチラシを配布した地域の人の中から買い手が出たときと、買い手を紹介したときは、一円も入らないが、紹介者には別途収入がある」などと説明を受けた。また、原告らの中には、モニターは、本件美顔器等の購入者の中から特に選抜された者であるとの説明を受けた者もおり、本件美顔器等の購入者の多くが同時にモニターであるとの事実は隠蔽されていた(なお、被告らも、被告○○及び被告△△の販売員によるオーバートークがあった事実自体は認めている。)。
被告○○及び被告△△が勧誘の際に使用するチラシ(甲10の1・2)には、「在宅勤務者募集」との標題の下、「第○次募集、六〇〇名限り」、「主婦・OLのサイドビジネス」、「登録制、登録無料」、「仕事 チラシポスティング市場調査(アンケート方式で報告) 健康・美容関連商品を使用した感想」、「月一回のかんたんアンケート方式で報告」、「気になる収入 月収三五、〇〇〇円〜九〇、〇〇〇円位(年収四〇万円〜三〇〇万円以上)」との記載があり、本件モニター販売契約の各業務がいかにも手軽に高収入を得られる仕事であるかのような印象を与えている。
原告らの中には、本件美顔器等が欲しくてこれを購入した者もいたが、原告らの大半は、モニターになるためには本件美顔器等が必要であったことや、モニターをすることにより得られる報酬を本件美顔器等の代金の支払に充当することによって実質的には本件美顔器等の代金を支払う必要がなくなることから、本件美顔器等を購入した者であった。
イ 本件モニター販売契約の内容
(ア) 被告○○及び被告△△が原告らとの間で締結した本件モニター販売契約の内容の概要は、以下のようなものであった。
a 被告○○は、原告らに対し、本件美顔器等を合計価格三六万七五〇〇円(税込)で販売する(なお、この販売に当たっては、**という代理店が間に入っていたこともあった。)。
b 他方、被告△△は、本件美顔器等を購入した者との間で、本件業務委託契約を締結する。本件業務委託契約には、メンバーズプランとビジネスプランの二種類があった。
c メンバーズプランの内容は、次のとおりである。
(a) マンスリーレポートの提出
本件美顔器等を使用した意見や感想を月一回(第一次募集では毎月一五日限り(甲3)、第二次募集では翌月一日から末日まで(甲4))、被告△△にマンスリーレポートとして報告する。
(b) ポスティング又は新聞折り込みによるチラシの配布
一か月に五〇〇枚のポスティングをする(第一次募集については三か月間、第二次募集については六か月間)。チラシには、返信用はがきが付いており、会員は、返信用はがきの担当者欄に予め会員番号を記載しておく。なお、これに基づき問い合わせがあった場合には、後述のビジネスプラン参加者かインストラクターが面接を行う。
(c) 勉強会
被告△△(営業所)主催の勉強会あるいは説明会に、最低月一回出席する。
(d) チラシの配布
周囲の女性できれいになりたいと思っている人又はメンバーズプランの業務に興味のある者にチラシを配布する。また、CM(コマーシャル)活動として、四か月目以降の業務期間内に、三、四人の成人女性に超音波美容を体験してもらい、感想を聞く(但し、メンバー自身は、本件美顔器等を販売することはできない。)。
(e) 報酬
第一次募集では、上記の業務のうち、(a)及び(b)の業務を履行した場合には、一か月三万五〇〇〇円の報酬がCM料として支払われる。但し、四か月目以降の業務は、マンスリーレポートの提出のみの業務となるため、報酬は一か月一万八〇〇〇円となる。報酬が四二万円に達するとビジネスプランに変更となる。
第二次募集では、前記(a)から(b)までのすべての業務を履行すると、一月二万円×二一か月=四二万円の報酬がCM料として、メンバーに支払われる。
d 他方、ビジネスプランの内容は、以下のとおりである。
(a) 業務内容
メンバーズプラン又はビジネスプランの参加者を勧誘し、ネットワーク網を管理・育成する。
(b) 報酬
① 紹介手数料
ビジネスの紹介によりメンバーズプラン又はビジネスプランの契約が成立した場合には、紹介手数料として、紹介者であるビジネス又は契約者に一契約三万五〇〇〇円が支払われる(但し、第二次募集では、契約日より三か月間は六人(六系列)までとなった。)。
② ボーナス(第一次募集のみ)
メンバーズプラン又はビジネスプランを三契約達成すると、一〇万五〇〇〇円が支払われる。
③ 指導料(第二次募集のみ)
メンバーからビジネスに変更した場合、紹介による場合は紹介者に、チラシ配布による場合は説明者に、一契約三万五〇〇〇円が支払われる。
新規契約者が、ビジネスとして登録をした場合には、一契約三万五〇〇〇円が支払われる。
④ ロイヤルティー
ビジネスの紹介により新たにメンバー又はビジネスとなった者が、更に他の者をメンバー又はビジネスとして紹介し、メンバーズプラン又はビジネスプランの契約が成立した場合には、一契約一万〇五〇〇円が支払われる(この支払金額の上限は、ビジネスの参加人数等によって異なるが、最大で六代(六世代)までの紹介に対して、支払がある。)。
その他、ビジネスは、その業績に応じて、一般ユーザー販売による割戻金・販売奨励金、インストラクターボーナス、キャンペーンボーナス、サロンボーナス(営業所手当)、再販商品手当といった手当を支給されることになる。
e 会員は、契約締結の際、メンバーズプランとビジネスプランを希望により自由に選択できる(もっとも、審査によりメンバーズプランが認められないこともある。)。
しかし、契約締結後は、メンバーズプランからビジネスプランへの変更は自由にすることができるものの、ビジネスプランからメンバーズプランへの変更は一切認められていない。メンバーズプラン参加者は、総額四二万円が支給された時点で、自動的にビジネスプランに変更される(第一次募集について)。
なお、本件モニター販売契約には、その他にCプラン(ビジネスプランC)というプランもあったが、これは本件美顔器等を購入しないで、メンバーズプラン又はビジネスプランの参加者を勧誘するものであった(但し、このプランは、クレジットの審査が通らなかった者に対し適用されるもので、会員に占める割合は低く、本件訴訟の原告らにおいても、Cプランを選択した者はいなかった。)。
ウ 本件モニター販売契約の収支関係
本件モニター販売契約による被告○○及び被告△△の収支関係は、次のとおりである。
(ア) メンバーズプランについては、被告○○は、本件モニター販売契約によれば、本件美顔器等を販売すると、一名当たり三六万七五〇〇円の収入がある。
他方、被告△△は、本件業務委託契約に基づき、所定の業務(マンスリーレポートの提出、ポスティング又は新聞折り込みによるチラシの配布等)を行った者に対して、第一次募集、第二次募集共に、総額四二万円の支出をすることになる。
したがって、被告○○及び被告△△は、メンバーズプランに参加して所定の業務を行った会員に対し、必然的に、最低でも五万二五〇〇円の損失を計上する計算になる(実際には、本件美顔器等のメーカーからの仕入代金等の経費があるので、損失は更に拡大する。)。
(イ) ビジネスプランについても、ビジネスによる本件美顔器等の購入(一セット当たり合計三六万七五〇〇円)が、被告○○のほぼ唯一の収入となる。
一方、ビジネスに対しては、被告△△から、一契約三万五〇〇〇円もの高額な紹介手数料に加え、ポーナスやロイヤルティー等の様々な報酬が支払われることになる。
(ウ) 被告○○及び被告△△は、現在、営業に行き詰まり、活動を停止している状況にある。
(3) 以上の事実を前提に、本件モニター販売契約の契約自体が違法な内容のものといえるか否かについて判断する。
ア 本件モニター販売契約の特徴としては、以下の点を挙げることができる。
(ア) メンバーズプランについて
a メンバーズプランは、いわゆるモニター契約であり、マンスリーレポートの提出やポスティング又は新聞折り込みによるチラシの配布等に対して、一定額の報酬を与えるものである。
他方、メンバーには本件美顔器等の購入が義務付けられている。そして、本件美顔器等の購入に当たっては、一セット三六万七五〇〇円という高額な金員の支出が必要であり、これに対する顧客の心理的抵抗を弱めるために、分割払を可能とするクレジット会社によるクレジット契約が用意されている(このクレジット契約による高額な金員負担への顧客の心理的抵抗の巧みな除去については、後記のビジネスプランについても同様である。)。
なお、メンバーズプランに参加した原告らは、本件美顔器等が欲しくてこれを購入したのではなく、報酬等の経済的利益を獲得するための必要条件として、やむを得ず本件美顔器等を購入した者が大半であった。
b 被告○○及び被告△△は、メンバー一人当たり本件美顔器等の代金三六万七五〇〇円の収入を得る一方、所定の業務を行ったメンバー一人当たり四二万円の支出をすることになり、メンバーが一人増加するごとに最低でも五万二五〇〇円の損失を計上することになる(実際には、被告○○及び被告△△の損失がこれよりもはるかに大きいことは、前述のとおりである。)。したがって、メンバーズプランでは、被告○○及び被告△△は、会員を増加させればさせるほど、多額の損失を計上する仕組みになっている。
c メンバーは、四二万円が支給された時点で自動的にビジネスに変更となり、後記のビジネスプランによる連鎖的拡大の歯車に取り込まれることになる(第一次募集について)。
(イ) ビジネスプランについて
a ビジネスプランは、表面上は、会員に対して本件美顔器等を販売することを内容としているものの、本件美顔器等の販売そのものに主眼があるのではなく、その実体は、本件美顔器等の販売を通じて、会員を連鎖的に(ねずみ算式に)増加させていくことが主目的となっている。実際にも、ビジネスプランに参加した原告らは皆、本件モニター販売契約の締結に当たり、本件美顔器等を購入しているが(原告らの中に、本件美顔器等を購入せずに、会員となるCプランを選択した者はいない。)、その大半は、メンバーと同様、本件美顔器等が欲しくてこれを購入したのではなく、報酬等の経済的利益を獲得するための必要条件として、やむを得ず購入した者であった。
b ビジネスは、メンバー又はビジネスの勧誘に成功すると、一定割合の経済的利益を享受することができることになっている。具体的には、一契約当たり三万五〇〇〇円もの高額な紹介手数料に加え、ボーナスやロイヤルティー等の様々な報酬が与えられることになる。
c 勧誘されて新たに会員となったビジネスも、更に第三者に対する新たな勧誘に成功すると、前記bと同様の経済的利益を享受することができるが、すべての会員が前記bの経済的利益を享受するためには、会員が連鎖的に増大していく必要があり、しかもこの連鎖が無限に拡大されることによって、利益の享受が実現できるものである。
イ(ア) そうとすると、まずメンバーズプランについては、これが被告○○及び被告△△が全く収入を上げず、損失を計上する契約であり、早晩確実に破綻するものであることは誰の目から見ても明らかであるから、このように破綻することが明らかな契約自体、違法性が強いものといわなければならない。確かに、メンバーズプランの会員のすべてが所定の業務を確実に履行しないかもしれないこと、したがって、会員の業務の債務不履行によって被告○○及び被告△△に利益の生ずる可能性があることは被告らのいうとおりであるが、所定の業務を遂行しないこと(すなわち会員の債務不履行)を期待した契約自体、業務委託の本質にもとるものといわざるを得ない。なお、本件委託業務の内容は、手軽で誰もが容易にできるものであり、サイドビジネスとして副収入を得ようとする者が、これを遂行しないことは通常想定し難いことである。
そして、メンバーズプランは、ビジネスプランに自動的に変更されることを内容とすることによって(第一次募集)、後述するビジネスプラン自体の違法性も潜在的に内含している。
(イ) 次に、ビジネスプランについても、被告○○及び被告△△の収入(本件美顔器の販売代金三六万七五〇〇円)に比して、支出が高額であること(会員には、一契約三万五〇〇〇円の紹介手数料に加え、ボーナスやロイヤルティー等の様々な報酬が与えられる。)は、前認定のとおりである。
そして、これに加えて、ビジネスプランは、新規加入者の無限の拡大を不可欠の前提条件とすることによって、いわば構造的な欠陥を内在させており、それ故に自己破綻の招来が必然的であるという点に根本的な問題を有している。そして、この破綻の原因は、新規会員の加入・拡大が実際上は困難であるという点にあるのではなく、むしろ加入が容易であればあるほど、破綻の現実化する時期も早まるという点にあり、構造的な欠陥は顕著である。
また、プランが破綻すると、それがいかなる段階においてであれ、ごく少数の上位者のみが経済的利益を獲得し、下位の圧倒的多数の者は、自己の出捐した金額すら回収できないことが必至である。したがって、このような契約への加入は、射幸的性格の極めて強いものといえる。
さらに、このような問題点を内在するプランを推進するためには、同契約の破綻の必然性やごく少数の者しか利益を享受できないという射幸性を隠蔽して、欺瞞的な勧誘活動を展開せざるを得なくなる。
ウ そうとすると、本件モニター販売契約は、メンバーズプランにしても、ビジネスプランにしても、いずれ行き詰まり、破綻することが当初から明白であり、このような契約は、それ自体が公序良俗に反し、違法性が極めて高いものであるというべきである(現に、被告○○及び被告△△は、本件モニター販売の業務遂行に行き詰まり、現在営業活動を停止していることが認められる。)。本件モニター販売契約に際しての出捐は、本件美顔器等の購入代金の支払という方式で行われるから、被告○○及び被告△△については、無限連鎖講の防止に関する法律二条にいう「無限連鎖講」に当たると解することはできないが、本件モニター販売契約の本質は前認定のとおりであるから、同法一条にいう「終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射幸心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るもの」と同視されるべきである。そうとすると、無限連鎖講については、これを開設し、運営することが法律で禁止され、刑罰の対象とされていることに鑑み、これと本質を同じくする被告○○及び被告△△が原告らとの間で締結した本件モニター販売契約についても、契約自体が社会的に違法であるとの評価を受けるものというべきである。
なお、被告らは、本件美顔器等の販売代金と宣伝広告費(業務委託料金)との関係について、紹介手数料(又は業務委託料金)には代金の二〇パーセントが割り当てられ、営業手当及びロイヤルティーにはそれぞれ販売代金の一五パーセントが割り当てられ、残りの五〇パーセントから商品の仕入れ価格(三〇パーセント)を引いたもの(二〇パーセント)が被告○○の利益になり、採算が合う旨主張するが、このような主張は、机上の計算にすぎず、本件モニター販売の実態にそぐわないから、到底採用することができない。
(4) 被告○○及び被告△△の勧誘行為の違法性
ア そこで、更に被告○○及び被告△△の勧誘行為の違法性について検討する。
イ ところで、特定商取引に関する法律(旧訪問販売等に関する法律、以下特定商取引に関する法律を「特定商取引法」、旧訪問販売等に関する法律を「旧法」という。)の「連鎖販売業」とは、物品の販売又は有償で行う役務の提供の事業であって、販売の目的物たる物品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんをする者を特定利益を収受し得ることをもって誘引し、その者と特定負担を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんに係る取引をするものをいうところ(特定商取引法三三条一項、旧法一一条一項)、前認定のとおり、被告○○及び被告△△は、原告らを本件モニター販売契約に勧誘する際、ビジネスプランにおいて、本件美顔器等の販売をすれば、紹介手数料、ロイヤリティー、報酬等を得させる旨明言しており、しかも、原告らとの間で本件美顔器等の売買契約(本件売買契約)を締結しているから、被告○○及び被告△△が原告らとの間で締結した本件モニター販売契約のうちビジネスプランは、「特定利益を収受し得ることをもって誘引し、その者と特定負担を伴うその商品の販売」(マルチ商法)に当たる。
また、本件モニター販売契約のうちメンバーズプランは、特定商取引法五一条の業務提供誘引販売取引に当たる。そして、メンバーズプランは、前認定のとおり、自動的にビジネスプランに移行することが予定されているから、本件モニター販売契約は、一体として、連鎖販売取引(マルチ商法)の性質を有しているものと認められる。
ところで、特定商取引法(旧法)の趣旨は、連鎖販売取引を公正にし、購入者等が受けることのある損害発生の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護することを目的とすることにあり、かかる趣旨を敷衍した特定商取引法三四条一項五号(旧法一二条一項五号)の禁止行為の規定の精神は、最大限に尊重されるべきである。
この点、被告○○及び被告△△が原告らに対して行った本件モニター販売契約の勧誘行為は、前認定のとおりであるところ、かかる勧誘は、被勧誘者に対し、本件モニター販売契約の問題点や新規勧誘の困難性を一切秘匿して、本件モニター販売契約があたかも手軽に高収入の望めるサイドビジネスであるかのような印象を与えるものであるから、被告○○及び被告△△の勧誘方法は、同条の禁止する「連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げない行為」に該当し、実質的に同条項の趣旨に抵触しているものと認められる。
ウ そして、かかる被告○○及び被告△△の欺罔的な勧誘行為により、原告らは錯誤に陥り、本件モニター販売契約を締結しているのであるから、被告○○及び被告△△は、原告らに対して不法行為責任を負うというべきである。
なお、被告○○と被告△△が実質的に同一の法人であることは前認定のとおりであるから、被告△△は、その成立以前の被告○○の不法行為に対しても、被告○○と連帯して責任を負う。
また、被告甲野及び被告乙川は、被告○○及び被告△△の代表者として、本件モニター販売契約の指導的立場にあった者であるから、被告○○及び被告△△と連帯して、共同不法行為責任を負う。
3 争点(4)(被告らに責任があるとして、被告らが原告らに対して支払うべき損害額はいくらか)について
前認定のとおり、本件モニター販売契約は、被告らの欺罔行為によって締結されたものであるところ、かかる欺罔行為によって原告らが本件美顔器等の商品代金を支払ったこと(あるいは、本件美顔器の代金を支払うために、クレジット会社との間でクレジット契約を締結して債務を負担したこと)自体が原告らの損害と認められる。
そして、本件美顔器等の代金は三六万七五〇〇円であり、原告らの中には、これに加えてクレジット会社に対して立替払手数料を負担している者がいることが認められるから、原告らの損害は、いずれも少なくとも原告らの本件請求額である各二万円を下らないことは明らかである。
なお、原告らの中には、本件モニター販売契約によって既にいくらかの報酬を受け取った者もおり、原告らは、本訴において、損害額から受け取った報酬額を控除して請求しているが、かかる報酬は、原告らが現実に本件モニター販売契約の業務を遂行することにより被告らから受領したものであり、本来はこれを損害額から控除する必要のないものである。また、原告らの多くは、本件美顔器等を未だ所持していることが認められるが、同人らの多くは、本件の紛争が解決した後にこれを被告らに返還する意思を有しており、本件美顔器等の代金相当額を控除するのも相当でない。なお、本件美顔器等の代金は三六万七五〇〇円であるが、同商品の客観的価値が果たしてこれほど高額なものであったかどうかについては疑問がある。
4 争点(5)(本件売買契約及び本件業務委託契約と原告ら各自の被った損害との間に、因果関係はあるか)について
以上認定の事実によれば、本件モニター販売契約の締結と原告ら各自の被った損害との間に相当因果関係があることは明らかである。
5 以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がある。よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・小野剛、裁判官・柴田秀、裁判官・佐野義孝)