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東京地方裁判所 平成12年(ワ)23357号 判決 2002年4月18日

原告

甲野太郎

甲野花子

右記二名訴訟代理人弁護士

若槻哲太郎

飯田隆

被告

乙川一男

外二名

右記三名訴訟代理人弁護士

古田兼裕

宮本岳

新田明哲

主文

1  被告乙川一男及び被告○○産業有限会社は、連帯して、原告甲野太郎に対し四五三八万一三五三円、原告甲野花子に対し四五三八万一三五三円及びこれらに対する平成一二年六月一三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告○○運輸株式会社は、被告乙川一男及び被告○○産業有限会社と連帯して、原告甲野太郎に対し四五二八万一三五三円、原告甲野花子に対し四五二八万一三五三円及びこれらに対する平成一二年六月一三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

5  この判決は、第1、2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

被告らは、各自、原告甲野太郎に対し五七五二万八二八六円、原告甲野花子に対し五七五二万八二八六円及びこれらに対する平成一二年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

本件は、信号機により交通整理の行われている交差点において、青色信号の表示に従って交差点に進入した亡甲野次郎(以下「亡次郎」という。)の運転する自動二輪車が、赤色信号の表示を無視して交差道路から交差点に進入した被告乙川一男運転の普通貨物自動車と出会い頭に衝突し、亡次郎が死亡した交通事故に関し、亡次郎の相続人である原告らが、被告らに対し、民法七〇九条、七一五条一項、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。本件の主な争点は、過失相殺の成否(亡次郎に過失相殺の対象となる過失があるか)、亡次郎及び原告らの損害額、特に、アルバイト収入による逸失利益の成否・額、慰謝料の額である。

1  前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は、争いがない。)

(一)  本件事故の発生

(1) 日時 平成一二年六月一三日午前六時〇五分ころ

(2) 場所 東京都江東区辰巳三丁目<番地略>先交差点(乙1、以下「本件交差点」という。)

(3) 加害車両 被告乙川が運転する普通貨物自動車

(4) 被害車両 亡次郎が運転する自動二輪車

(5) 態様 本件交差点において、青色信号の表示に従って進入した被害車両と、赤色信号の表示を無視して交差道路から進入した加害車両とが、出会い頭に衝突した。

(6) 結果 亡次郎は、同日午前七時五七分ころ、交通事故に起因する胸腔内臓器損傷により死亡した(乙3の2)。

(二)  責任原因

被告乙川は、加害車両の運転者として民法七〇九条に基づき、被告○○産業有限会社は、被告乙川の使用者として民法七一五条一項に基づき、被告○○運輸株式会社は、加害車両の保有者として自賠法三条に基づき、それぞれ亡次郎及び原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。

(三)  相続(甲9)

原告らは、亡次郎の父母であり、法定相続分に従い、亡次郎の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。

2  争点

(一)  過失相殺の成否

(被告らの主張)

(1) 本件事故態様は、亡次郎の運転する被害車両が台場方面から新木場方面に向かって走行して青信号で本件交差点に進入したところ、東京湾方面から木場方面に向かって赤信号で本件交差点内を走行していた被告乙川運転の加害車両と出会い頭に衝突したというものである。

被害車両の後方を走行していた丙山三郎の供述内容(検面調書における訂正後のもの)によれば、被害車両は、その後方を走行していた大型タンクローリー車とトレーラー車が加害車両を見て停止しているにもかかわらず、そのまま進行し、加害車両と衝突したことになる。被害車両の後方を走行していた車両さえ加害車両の信号無視を発見して急停止し、衝突を回避し得たにもかかわらず、その前方を走行していた被害車両が加害車両に気付かずに衝突してしまったということは、容易に発見が可能な加害車両の動向を亡次郎がよく見ていなかったということを意味する。

しかも、被害車両が加害車両に衝突したのは、その左側面のかなり後方であるから、加害車両は、本件交差点をほとんど通過し終わるほどに進入しており、本件事故直前には、被害車両のほぼ真正面を走行していたのであり、亡次郎にとっては、更に発見が容易であったはずである。

(2) 一方、丙山三郎の検面調書によれば、(1)とは違い、被害車両は、右側の二台の車両の後方を走行していたか、あるいは、二台の車両とほぼ併走状態であった可能性も十分にある。そうすると、被害車両は、本件交差点に進入する前後において、大型タンクローリー車と同一の車両通行帯を走行し続け、その左側を側方通過して追い越していることになる。道路交通法二〇条三項によれば、車両は、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通過する義務があるところ、被害車両は、同一車両通行帯の左側を側方通過しているのであるから、同条項違反は明白である。また、被害車両は、同法二八条一項(右側追越しの原則)、三〇条三号(交差点付近での追越し禁止)にも違反している。

原告らは、亡次郎が「追越し」をした事実を否定している。しかし、亡次郎は、大型タンクローリー車の左側を通過する前は、当然、第一車線の中央部分を走行していたはずであり(二輪車であっても車両通行帯を一つ占めて当然であり、被害車両が継続して左側の通行余地を走行する理由はない。)、大型タンクローリー車の後方において、その前方に出るため、やや進路を変更し、第一車線の左側通行余地を走行し、そのまま本件交差点付近で大型タンクローリー車の左側を通過して前方に出たところで、加害車両に衝突したものである。

実質的に考えても、亡次郎は、同一の車両通行帯を大型タンクローリー車と併走していたからこそ、大型タンクローリー車の陰になって加害車両の確認が遅れたのであり、被害車両が車両通行帯に従って進行する注意義務に違反していなければ、本件事故が回避されていた可能性が高い。

(3) 本件においては、加害車両が赤信号に従わなかったとはいえ、被害車両に明白な前方不注視や道路交通法違反(違法な追越し、車両通行帯違反)が認められる以上、一五%の過失割合が認められるべきである。いかに少なく見ても、一〇%の過失割合は否定することができない。

(原告らの認否及び反論)

(1) 本件事故は、被告乙川の故意犯ともいうべき赤信号無視によって一方的に引き起こされた事故であり、「過失」の相殺を論じること自体、本来、筋違いである。青信号に従って進行した以上、何らの過失も存在しないことは、道路交通法規の大原則であり、本件交差点のような大型の交差点で青信号に従って進行したにもかかわらず過失が成立するのであれば、交通が麻痺するといっても過言ではない。本件のような事案で自動二輪車の側に過失が認められるのは、極めて異例の場合に限られるが、本件においては、そのような事情は全く認められない。

また、亡次郎の右側には、大型のタンクローリー車とトレーラー車が、亡次郎に先行するか、本件交差点の直前においては併走していたため、亡次郎の右側の視界は全く遮られている状態であった。このような状況下において、亡次郎が加害車両を発見して事故を回避することは不可能であり、亡次郎に過失が成立する余地は全くない。

(2) 道路交通法が定める「追越し」とは、後車の運転者が、追越しの意図をもって、その進路を変更して前車の前方へ出ることをいう。この場合には、被告らの主張するように、車両は、追い越されようとする車両の右側を通行しなければならない(道路交通法二八条)。

これに対して、後車が進路を変える必要のない「追い抜き」の場合には、同条は適用されないし、前車の右、左のいずれの側で追い抜いてもよいし、同法三〇条の追越し禁止場所で追い抜いても違反とはならない。そして、亡次郎は、進路を変更することなく、道路の一番左側を継続して走行していたものであり、亡次郎の行為は「追越し」に当たらない。自動二輪車が道路の左寄りを走行することは、極めて自然かつ合理的で、通常行われている行為であり、被告らの主張するように、亡次郎が車両通行帯の中央付近を走行しており、これから左側へ進路を変更したという事実はない。さらに、亡次郎は、タンクローリー車等が急停車したために結果的に前に出たにすぎず、亡次郎には追越しの意図もない。

以上のとおり、そもそも亡次郎が禁止されている追越しを行った事実は存在せず、被告らの主張は、その前提自体が誤っている。さらに、過失相殺が成立するためには、被害者の行為が交通事故発生の要因となっていなければならない。しかるに、亡次郎の追越し違反の有無は、亡次郎の右側を走行していたタンクローリー車等との関係で問題となるものにすぎず、加害車両との間の本件事故の発生とは無関係である。

そのほか、併走状態にあること自体が注意義務違反を構成するとの被告らの主張については、そもそも、亡次郎の行為によって併走状態が生じたのか、タンクローリー車等の行為によって併走状態が生じたのかすら全く不明である。したがって、併走状態にあることを亡次郎の責めに帰することは許されない。しかも、併走状態の有無と本件事故の発生とは無関係であり、主張自体、失当である。

(二)  亡次郎及び原告らの損害額

(原告らの主張)

(1) 治療費(甲2)

六三万七九〇〇円

(2) 葬儀費用(甲3)

二八九万〇八九六円

(3) 遺体搬送料等(甲4)

六万四八九〇円

(4) 仏壇費用(甲5)

四五万〇〇〇〇円

(5) 損害賠償関係費用

三〇万〇〇〇〇円

後記のとおり、当初、被告乙川は、自己の対面信号が赤色を表示していたことを否認し、亡次郎が信号を無視して本件交差点に進入したかのような供述を行っていた。これに対し、原告らは、原告ら代理人に真実究明を委任し、原告ら代理人は、現場検証、捜査機関への聞き込み等の事実調査を行った。原告らは、被告乙川が虚偽の供述を行わなければ当該調査依頼はしなかったものであるから、弁護士費用とは別個に、この調査料相当額が損害となる。調査料としては、三〇万円が相当である。

(6) 大学卒業までの逸失利益

四七六万四七九四円

亡次郎は、平成一二年三月二二日からラーメン店「上々ふくちゃんお台場店」においてアルバイトを開始し、本件事故発生日までの八三日間に、六一万一一四一円の支給を受けた。亡次郎の一日当たりの収入額は七三六三円であり、年間収入額は二六八万七四九五円である。

亡次郎の大学一年生当時の生活状況は、アルバイトと学業を両立するに十分な余裕があり、むしろ、亡次郎は、アルバイトをすることで生き生きと生活していた。また、亡次郎は、就職活動等が必要とならない一年生のうちにできる限り多くの単位を取得しておくことにより、大学二年生以降、更に余裕のある生活を送ることができた。亡次郎には、アルバイトを継続する強い動機もあった。原告らは、生活苦を理由としてアルバイトの継続性を主張しているわけではないから、原告らに経済的な余裕があること等を理由に亡次郎がアルバイトを行う必要性がないとする被告らの主張は、的外れである。そして、アルバイトの勤務時間帯、大学の講義の時間帯、通勤・通学時間の点からすれば、本件事故がなければ、亡次郎が、大学卒業に至るまで、平成一二年六月一三日までと同様のペースで、学業とアルバイトとを両立させて、アルバイトを継続し得たことは明らかである。

そして、亡次郎が通学していた明治学院大学経済学部経済学科第二部は、いわゆる夜学部であり、もともと社会人をも対象とし、仕事やアルバイトをして収入を得ながら卒業することを念頭に設計されている。学生の中には遊興費等を得ることを目的にアルバイトを行う者もいるが、亡次郎の行っていたアルバイトは、これと質的に異なっており、貯蓄性の高いものである。したがって、亡次郎がアルバイト収入を自己の生活費や遊興費にほとんど費消してしまうということはあり得ず、一定程度の費消や学費(半年間の授業料は、二三万三〇〇〇円にすぎない。)の点は、独身男子の生活費控除率五〇%の中において既に評価済みであり、本件において、この生活費控除率を超えて特別の取扱いをする理由はない。そこで、生活費控除率を五〇%として、大学を卒業する平成一六年四月までの逸失利益を算定すると、次のとおりである。

268万7495円×(1−0.5)×3.5459(四年間のライプニッツ係数)=476万4794円

(7) 大学卒業後の逸失利益

六〇八六万八三一三円

亡次郎は、本件事故当時、明治学院大学に在学中であったが、本件事故がなければ、同大学を卒業して、大学卒・男性労働者の平均賃金を得ることができた。平成一〇年賃金センサスによる男性労働者の大学卒・全年齢平均賃金六八九万二三〇〇円を基礎に、生活費控除率を五〇%として、大学を卒業する平成一六年四月以降、二三歳から六七歳までの四四年間の逸失利益を算定すると、次のとおりである。

689万2300円×(1−0.5)×17.6627(四四年間のライプニッツ係数)=6086万8313円

なお、中間利息控除については、予備的に、四八年間のライプニッツ係数から四年間のライプニッツ係数を控除した数値である14.5312の適用を主張する。

(8) 慰謝料 三五〇〇万〇〇〇〇円

被告乙川は、本件事故当日、全長約一二m、総重量約二〇tにも及ぶ事業用トラックを職業ドライバーとして運転していたのであるから、その運転に細心の注意を払うべきことは当然であった。ところが、被告乙川は、細心の注意どころか、交差点における自己の対面信号が赤色であることを認識しつつ、あえてそれを無視するという、職業ドライバーとして最も基本的な注意義務を怠り、何らの落ち度もない亡次郎の若い生命を奪った。本件事故は、種々の交通事故の中で最も悪質なものであり、「事故」と捉えることに躊躇さえ覚えるものであって、明るい未来を突如として断たれた亡次郎及び原告らの無念さは、計り知れない。

加えて、被告乙川は、あろうことか、捜査段階当初において、自己の対面信号は赤色であったにもかかわらず、青色であった旨の虚偽の供述を行い、さらには、驚くべきことに、本件交差点に至る自己の走行経路を客観的事実のまま供述した場合にはこの虚偽の供述を維持することが困難になることを予測して、事故当初より自己の走行経路に対する虚偽の供述まで行って、自己の罪を亡次郎になすりつけようとした。第三者の目撃供述等により、被告乙川の供述は全く虚偽であることが発覚し、異例の逮捕がされたが、被告乙川はなお否認を貫き、警察より、第三者の目撃証言やタコメーターから割り出された加害車両の走行距離と被告乙川の供述とが一致しない事実などを突き付けられ、もはや虚偽の供述を維持することができない状態に陥り、ようやく自己の犯行を認めたものであって、二〇日を超える長期にわたって虚偽の供述を維持したものである。

さらに、被告らは、本件事故後、不誠実な対応に終始し、その一切を保険会社に任せっきりにし、保険会社が十分な対応をしていないことを知りつつ、それを放置して、原告らの精神的苦痛をいたずらに増長させた。

以上の事情を考慮すると、本件における慰謝料の合計額は三五〇〇万円を下らず、亡次郎の慰謝料として二五〇〇万円、原告ら固有の慰謝料として各五〇〇万円とするのが相当である。

(9) 車両損害(買替差額)

二〇万〇〇〇〇円

亡次郎の運転していた被害車両は、本件事故により全損となったが、その本件事故当時の中古車市場価格は二〇万円である(甲8)。

(10) 小計

一億〇五一七万六七九三円

(11) 弁護士費用

一〇五一万七六七九円

(10)の金額の一割である。

(12) 既払額 六三万七九〇〇円

(13) 差引損害額

一億一五〇五万六五七二円

(被告らの認否及び反論)

(1) 治療費は、認める。

(2) 葬儀費用は、不知。

(3) 遺体搬送料等は、不知。

(4) 仏壇費用は、不知。

(2)ないし(4)については、仮に原告ら主張のとおりの費用がかかったとしても、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用は、せいぜい一二〇万円である。

(5) 損害賠償関係費用については、相当因果関係を争う。

(6) 大学卒業までの逸失利益は、争う。

原告ら主張の逸失利益が認められるためには、亡次郎が、本件事故日から大学卒業までの約三年九か月間、事故前の約三か月間と同様のペースでアルバイトを継続する蓋然性が認められなければならない。しかし、亡次郎の事故前三か月のスケジュールは過密にすぎるし、大学生である亡次郎は、試験勉強や就職活動のためにアルバイトを休む必要があるから、その後三年九か月間に、事故前の三か月間と同じアルバイト収入を得る蓋然性は認められない。原告らは、二年生以降は大学の取得必要単位数が減少するので、それほど過密ではなくなるというが、亡次郎はまだ単位取得のための試験を受けたこともないのであるから、亡次郎がアルバイトをしながら大学一年生の時点で多くの単位を取得したかどうかも定かではない。しかも、亡次郎は、生活費や学費をその経済的に余裕のある両親から全額援助してもらっていたのであり、アルバイトをどうしても継続させなければならない経済的な理由がない以上、四年間にわたって事故前と同様のペースでアルバイトを継続したであろう蓋然性は認められない。亡次郎が入学していた大学が社会人を対象としていることと、正社員ではない亡次郎がアルバイトを継続する蓋然性とは、別個の問題である。

そして、日額七〇〇〇円程度のアルバイト収入であれば、生活費や遊興費にそのほとんどを充てる可能性が高く、貯蓄性がない。また、仮に、亡次郎のアルバイト収入を幾分かでも逸失利益として認定する以上は、生活費や学費を自らが全額負担していくという前提で生活費控除率を認定する必要がある。そうすると、アルバイト収入による逸失利益が認められたとしても、収入に対して生活費の割合が多い年金生活者に準じ、生活費控除率を六〇%ないし七〇%とすべきである。

また、仮に、アルバイト収入の逸失利益性が認められたとしても、通勤手当(本件事故前のアルバイト収入のうち合計二万五四二〇円)は、労務の対価ではないから、基礎収入から控除する必要がある。さらに、亡次郎が平成一二年六月一三日までに支給を受けたアルバイト収入六一万一一四一円は、亡次郎が実際に手にしていたものであるから、逸失利益の計算から控除すべきである。

加えて、学費については、亡次郎ではなく両親が負担していたといっても、アルバイト収入による逸失利益を相続によって取得したのは両親である原告らであり、亡次郎の死亡によって学費の負担がなくなったのであるから、亡次郎の学費は損益相殺の対象とすべきである。

(7) 大学卒業後の逸失利益は、争う。

亡次郎は、本件事故当時、大学を卒業しておらず、また、現在の経済状況からすれば、大学を卒業しても就職できない可能性は決して低くないので、バランスを取り、男性労働者の学歴計・全年齢平均賃金五六九万六八〇〇円を基礎とすべきである。

また、中間利息の控除については、四八年間のライプニッツ係数18.0771から四年間のライプニッツ係数3.5459を引いた14.5312を使用すべきである。

(8) 慰謝料については、金額の相当性を争う。

確かに、被告乙川の過失割合は、亡次郎に比べれば圧倒的に大きいが、前記のとおり、亡次郎にも若干の過失があり、本件事故が被告乙川の一方的過失によるというわけではない。また、被告乙川は、当初、信号の色について虚偽の供述をしており、不誠実との批判は免れないが、捜査段階の途中からは犯行を認め、反省しており、刑事公判においても素直に犯行を認めて反省の情を示している。被告らが付保する保険会社の対応にも、特に不誠実な点はない。

以上によれば、仮に本件において慰謝料を増額するとしても、二二〇〇万円程度が妥当であり、いかに慰謝料を高額に見積もったとしても、せいぜい二四〇〇万円である。

(9) 車両損害(買替差額)は、不知。

(10) 小計額は、争う。

(11) 弁護士費用については、必要性及び金額の相当性を争う。

(12) 既払額は、認める。

(13) 差引損害額は、争う。

第3  争点に対する判断

1  過失相殺の成否について

(一)  甲1、8の1、2、乙1、3の1ないし19(刑事記録については、以下、枝番の付された乙3号証を引用する。)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故発生に至る経緯として、次の事実を認めることができる。

(1) 本件交差点は、台場方面から新木場方面に至る一方通行規制のある二車線の東行き国道三五七号線(以下「東西道路」という。)と、東京湾方面から木場方面に至る片側三ないし四車線の道路(以下「南北道路」という。)とが交わる通称辰巳三丁目第二交差点であり、信号機による交通整理が行われている。なお、東西道路の亡次郎が進行してきた側は、本件交差点手前で右折車線が加わり、三車線となっている。

(2) 被告乙川の運転する加害車両は、全長約一二m、車両重量一〇、七四〇kg、車両総重量一九、八五〇kgの事業用普通貨物自動車である。また、被害車両は、排気量二五〇ccの自家用自動二輪車である。

(3) 本件事故当時、被告乙川は、加害車両を運転し、南北道路の第一車線を東京湾方面から木場方面へ走行して、本件交差点に至った。被告乙川は、本件交差点の入口の停止線手前約45.6mの地点で、本件交差点の対面信号が赤色を表示しているのを認めたが、赤色信号の表示に従わず、時速約三〇kmの速度で本件交差点に進入した。

(4) 一方、亡次郎は、被害車両を運転し、東西道路の第一車線を台場方面から新木場方面に走行して、本件交差点に至った。この時、東西道路上においては、亡次郎よりやや先行して、第一車線をタンクローリー車が、第二車線をトレーラー車が走行していたが、両車とも、本件交差点手前で、右側交差道路から本件交差点に進入してくる加害車両を発見し、急ブレーキをかけて停止した。

(5) しかし、亡次郎は、タンクローリー車及びトレーラー車に視界を遮られて、加害車両が本件交差点に進入してくるのに気付かず、停止したタンクローリー車の左側を通過し、青色信号の表示に従って本件交差点に進入した。被害車両は、避ける間もなく、自車の前を横切るように現れた加害車両の左側面に衝突し、亡次郎は路上に転倒した。被告乙川は、被害車両が本件交差点に進入してくるのに気付かず、被害車両が加害車両に衝突する音を聞いて、初めて本件事故の発生を知った。

(二)  ところで、自動車運転者としては、信号機の表示するところに従って自動車を運転すれば足り、赤色信号の表示を無視して交差点に進入してくる車両があることを予想して、交差道路を通行する車両との安全を確認して進行すべき注意義務はない。したがって、信号違反車と信号遵守車との衝突事故における過失割合は、一般に、一〇〇:〇とすべきものである。ただ、信号の変わり目のように信号違反車の存在が予測され得る場合や、通常の前方に対する注意を払っていれば容易に信号違反車を発見して、衝突を回避し得たのに、全くその措置を採らなかったような場合には、具体的事情に応じて、信号遵守車にも事故発生についての過失が認められることがある。

(三)  本件事故当時、被害車両の対面信号が青色を表示しており、加害車両の対面信号が赤色を表示していたことは、当事者間に争いがない。被告らは、本件事故発生については、信号遵守車である被害車両にも過失があると主張しているので、以下、検討する。

まず、被告らは、被害車両がタンクローリー車等に先行していたことを前提として、亡次郎に著しい前方注視義務違反があると主張する。この点に関し、目撃者である丙山三郎の検察官に対する供述調書(乙3の5)には、被害車両がタンクローリー車等の前方を走行していた旨を述べる部分があるが、同人の実況見分調書(乙3の4)における指示説明及び検察官に対する供述調書の全体を通じて見れば、本件事故発生前の状況に関する同人の認識は、前認定のとおりであって、要するに、亡次郎が東西道路の第一車線を走行して本件交差点に至ったところ、亡次郎よりやや先行して、第一車線をタンクローリー車が、第二車線をトレーラー車が走行しており、両車とも、本件交差点に進入してくる加害車両を発見して本件交差点の手前で停止したものの、亡次郎は、タンクローリー車等に視界を遮られて、加害車両が進入してくるのに気付かず、停止したタンクローリー車の左側を通過して本件交差点に進入し、加害車両と衝突した、というものであると認められる。そうすると、被害車両がタンクローリー車等に先行していたとして亡次郎の前方注視義務違反をいう被告らの主張は、その前提において既に失当である。

さらに、被告らは、前認定の事故態様を前提として、被害車両に違法な追越しと車両通行帯の違反があり、これらが原因でタンクローリー車等の陰になって加害車両の確認が遅れたものであって、これらの道路交通法違反の事実がなければ本件事故は回避された可能性が高いと主張する。

まず、「追越し」(道路交通法二条一項二一号)の事実の有無について見ると、前認定のとおり、亡次郎は、東西道路の第一車線をタンクローリー車にやや遅れて走行していたものであるところ、その際、亡次郎が、第一車線の中央部分を走行していて、その後、進路を変更してタンクローリー車を追い越したと認めるべき証拠はない。この点につき、被告らは、「亡次郎は、タンクローリー車の左側を通過する前は、当然、第一車線の中央部分を走行していたはずである」と主張するけれども、単なる推測の域を出るものではない。特に幹線道路などにおいては、自動二輪車が道路左端部分を走行することは普通に見られることであり、亡次郎が、第一車線(乙3の4によれば、幅員4.2m)の左端部分を走行し、そのまま特に進路を変更することなく、停止したタンクローリー車の左側方を通過していった可能性も十分にあるものと考えられる。なお、タンクローリー車の側方を通過する際に、被害車両が多少自車を左側に寄せたとしても、これは「進路を変える」場合には当たらない、したがって、被害車両がタンクローリー車の「追越し」をしたことを理由に過失相殺をすべきであるとする被告らの主張は、その前提事実が認められない。

また、被害車両が、同一の車両通行帯に停止しているタンクローリー車の側方を通過したことは、車両通行帯に関する道路交通法の規定に違反するものではなく、いわんや、このことが赤色信号の表示を無視して交差道路を進行してくる加害車両との関係において、過失を構成するものではない。

(四)  以上のとおり、本件において亡次郎が加害車両を発見することができなかったのは、不幸にして、前方をタンクローリー車等が走行していたからであって、亡次郎が、通常の前方に対する注意を払っていれば容易に信号違反車を発見して、衝突を回避し得たというような事情は認められないし、亡次郎に本件事故発生の原因となるべき道路交通法違反の事実があったということもできない。本件事故は、専ら、対面信号の赤色の表示を無視して本件交差点に進入した被告乙川の責任に帰せられるべきものである。

したがって、被告らの過失相殺の主張は、採用することができない。

2  亡次郎及び原告らの損害額について

(一)  治療費 六三万七九〇〇円

当事者間に争いがない。

(二)  葬儀関係費用

一五六万四八九〇円

甲3、5によれば、原告らは亡次郎の葬儀費用として二八九万〇八九六円を、仏壇費用として四五万円を支出したことが認められる。このうち本件事故と相当因果関係のある損害は、一五〇万円とするのが相当である。

また、甲4によれば、原告らは亡次郎の遺体搬送料等として六万四八九〇円を支出したことが認められる。これは、葬儀費用及び仏壇費用とは、別個の損害として認めるのが相当である。

(三)  損害賠償関係費用 〇円

被告乙川が、当初、自己の対面信号が赤色を表示していたことを否認し、亡次郎が赤色信号の表示を無視して本件交差点に進入したかのような供述をしていたことは、後記のとおりである。原告ら各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、原告ら訴訟代理人に真相の究明を依頼し、原告ら訴訟代理人は、現場の見分、捜査機関への聞き込み等の調査を行ったことが認められる。しかし、この調査のために具体的に幾らの費用を要したのかについては主張・立証がないから、この点は、慰謝料算定の一要素として斟酌するにとどめる。

(四)  大学卒業までの逸失利益

二二二万六七五一円

(1) 甲6の1ないし3、15、17ないし21によれば、次の事実を認めることができる

ア 亡次郎は、平成一二年四月に、明治学院大学経済学部経済学科第二部に入学した。同大学の履修要項及び亡次郎の履修登録確認表によれば、亡次郎が一年生の時に履修登録していた講義の時間帯は、月曜日が午後〇時五〇分〜八時四五分、火曜日及び木曜日が午後五時四〇分〜八時四五分、水曜日が午後五時四〇分〜九時二〇分、金曜日が午後四時〜八時四五分、土曜日が午後七時一五分〜八時四五分であった。

イ 一方、亡次郎は、大学に入学する直前の平成一二年三月二二日から、ふくちゃんフーズ株式会社の経営するラーメン店「上々ふくちゃんお台場店」においてアルバイトを開始し、同月二七日に同社と雇用契約を締結した。勤務時間は、原則として、火曜日を除く日の午後一〇時から午前六時までである。給与は時間給であり、亡次郎の勤務していた深夜の時間帯は、平日が一時間一二五〇円、土・日・祝日が一時間一三七五円であった。そのほか、交通費として一日六二〇円が支給された。

ウ 亡次郎の自宅から前記ラーメン店までの通勤時間は、自動二輪車を使用した場合で約三〇分、公共交通機関を利用した場合で約一時間であった。また、自宅から大学までの通学時間は、自動二輪車を使用した場合で約四〇分、公共交通機関を利用した場合で約五〇分であった。大学から前記ラーメン店までの所要時間は、自動二輪車を使用した場合で約一〇分であった。

エ 亡次郎は、平成一二年六月一三日に本件事故により死亡するまでの八三日間(出勤日は五五日)、前記ラーメン店において勤務し、支給額総額は税込みで六三万〇八四一円であった。このうち、通勤手当は、二万五四二〇円であった。

(2) ところで、原告らは、亡次郎は、本件事故に遭わなければ、大学卒業に至るまで、平成一二年六月一三日までと同様のペースで、学業とアルバイトを両立させて、アルバイトを継続し得たと主張し、得べかりしアルバイト収入を逸失利益として主張する。

亡次郎の在籍していた大学は、社会人をも対象とした二部(いわゆる夜間学部)であり、もともと、学業と仕事とをある程度両立させることが予定されているものである。そして、前認定のとおり、亡次郎の前記ラーメン店における勤務時間は、契約上、週六日、一日八時間に及ぶものであって、一般の労働者に劣らないものであり、本件事故時までの稼働実績もこれに沿うものである。そうすると、亡次郎がふくちゃんフーズ株式会社の正社員の地位になかったとしても、その稼働収入については、原則として、一般の労働者の稼働収入と同様に逸失利益性を認めるのが相当であり、その稼働が一般に「アルバイト」と称されているからといって、遊興費を捻出する目的で片手間に行う仕事の場合のように、その貯蓄性を否定したり、生活費控除率を殊更に高率に設定するのは相当ではない。

しかし、前認定のアルバイトの時間帯、大学の講義の時間帯、通勤・通学等に要する時間からすると、亡次郎のスケジュールはかなり過密なものであったと判断され、今後三年九か月間、亡次郎が当初の三か月間と同様のペースで勤務を継続することができたとは考えにくい。原告らは、大学一年生のうちに多くの単位を取得することにより、大学二年時以降は更に余裕のある生活を送ることができたと主張するが、これも、亡次郎が大学において全く単位を取得しないうちに死亡したことからして、一つの可能性の域を出るものではない。また、亡次郎が経済的な理由からアルバイトをせざるを得なかったのでないことは、原告らも争わないところであり、原告ら各本人尋問の結果によれば、亡次郎はアルバイトを継続する強い意欲を有していたことが窺われるものの、損害賠償における蓋然性の判断としては、亡次郎が、大学卒業に至るまで、平成一二年六月一三日までと同様のペースでアルバイトを継続し得たと認めることは難しい。

そこで、亡次郎については、以上の点を総合して考慮し、大学生活四年間を通じて、平成一二年六月一三日以前の七五%程度のペースでアルバイトをすることができたものとして、その逸失利益を算定するのが相当である。亡次郎が死亡するまでの八三日間に得たアルバイト収入は、通勤手当を除き、税込み六〇万五四二一円であって、これを年収に換算すると、次のとおり、二六六万二三九三円(円未満切り捨て。以下同じ。)となる。その七五%は、一九九万六七九四円である。

六〇万五四二一円÷八三日×三六五日=二六六万二三九三円

266万2393円×0.75=199万6794円

(3)  亡次郎の逸失利益は、亡次郎が生存していれば、前記の稼働収入から生活費、遊興費、授業料(甲23によれば、半年で二三万三〇〇〇円である。)等を支出していたものとして算定すべきである。そして、亡次郎の前記収入の額が年間二〇〇万円程度であることを併せ考慮すると、亡次郎については、生活費控除率を六〇%とするのが相当である。

(4) そこで、一九九万六七九四円を基礎収入とし、生活費控除率を六〇%として、年五分のライプニッツ方式により中間利息を控除して、大学卒業までの四年間に得られたであろうアルバイト収入の不法行為時点における現価を算定すると、次のとおり、二八三万二一七二円となる。

199万6794円×(1−0.6)×3.5459=283万2172円

そして、このうち六〇万五四二一円は既に亡次郎に支払われているから、これを控除すると、アルバイト収入に関する逸失利益の残額は、二二二万六七五一円となる。

(五)  大学卒業後の逸失利益

四八七七万一〇六六円

亡次郎は、本件事故に遭わなければ、平成一六年三月に大学を卒業し、二三歳の時である同年四月から六七歳に達するまでの四四年間、稼働して収入を得ることができたものと認めるのが相当である。そこで、平成一二年賃金センサスによる大学卒・男子労働者の全年齢平均年収である六七一万二六〇〇円を基礎収入とし、生活費控除率を五〇%として、四八年間のライプニッツ係数(18.0771)から四年のライプニッツ係数(3.5459)を控除した14.5312を用いて中間利息を控除すると、その不法行為時点における現価は、次のとおり、四八七七万一〇六六円となる。

671万2600円×(1−0.5)×14.5312=4877万1066円

(六) 慰謝料

合計三〇〇〇万〇〇〇〇円

以下のとおり、本件事故は、被告乙川の重大な過失に基づくものであり、また、本件事故後の被告乙川の対応は極めて不誠実なものであって、本件については、二重の意味で慰謝料増額事由が認められる。

前認定のとおり、被告乙川は、本件交差点の手前数十mの地点で対面信号が赤色を表示していることを明確に認識していたのに、信号表示に従うという自動車運転者として最も基本的な注意義務を怠り、赤色信号にもかかわらず、あえて、交通量の多い幹線道路が交差する本件交差点に進入したものである。しかも、加害車両は、全長約一二m、車両総重量約二〇tに達する大型の貨物自動車であって、被告乙川としては、交差道路を走行する車両(特に、自動二輪車などの単車)との衝突事故が発生すれば、相手方運転者の死亡という重大な結果が生じ得ることは、容易に予測することができたはずである。一方、亡次郎は、青色信号に従って本件交差点を直進していた際、避ける間もなく本件事故に遭ったものであって、前記のとおり、亡次郎には本件事故発生に関して特に過失はない。本件事故は、被告乙川の故意にも匹敵する重大、かつ、一方的な過失により発生したものである。

また、乙3によれば、(1)被告乙川は、被害車両が赤色信号の表示を無視して本件交差点に進入したこととして、本件事故発生の責任を免れようと考えたこと、(2)そこで、被告乙川は、本件事故直後、事故現場に集まってきた人たちに対し、「ああ突っ込まれちゃった」と、自分が悪くないことを印象付けるような発言をしたこと(乙3の15)、(3)そして、被告乙川は、警察官に対し、自分は青色信号の表示に従って本件交差点に進入したものであり、被害車両が赤色信号の表示を無視して本件交差点に進入したのが本件事故発生の原因であると供述したこと(乙3の13)、(4)また、被告乙川は、本件交差点手前の辰巳三丁目第一交差点の信号と本件交差点の信号とが連動していることを知っていたことから、辰巳三丁目第一交差点を右折してきたことを隠し、警察官に対し、東京湾方面から木場方面に直進してきた旨の虚偽の供述をして、青信号の表示に従って本件交差点に進入したかのように工作したこと(乙3の13)、(5)被告乙川は、このことに罪の意識を感じていたなどと供述しているが、自ら真実を明らかにしようとはしておらず、平成一二年七月四日に逮捕された後においても、当初は頑強に虚偽の供述をし、警察官に追及されて初めて事実を認めるに至ったものであること(乙3の14)、(6)そのほか、被告乙川は、本件事故後に亡次郎の救護活動を行ったかのような供述をしていたが、これも事実に反するものであって、被告乙川は、数m離れた所から倒れている亡次郎の様子を傍観していただけで、亡次郎に対して何ら救護の措置を講じていないこと(乙3の15)、が認められる。このように、被告乙川は、自らの信号無視という重大な過失によって事故を引き起こし、亡次郎を死亡させたにもかかわらず、その責任を亡次郎になすりつけようとして虚偽の供述を重ね、また、倒れている亡次郎を前にしながら、何ら救護の措置を採らなかったものである。本件は、交通事件としては、稀に見る悪質な事案であって、遺族である原告らの被害感情が殊の外厳しいのも、当然のことというべきである。

以上のほか、本件記録に現れた一切の事情を考慮すると、本件の慰謝料としては、亡次郎に対し二五〇〇万円、原告らに対し各二五〇万円(合計三〇〇〇万円)をもって相当と認める。

(七)  車両損害(買替差額)

二〇万〇〇〇〇円

甲8の1、2によれば、本件事故により全損となった亡次郎所有の自動二輪車の中古市場価格は、二〇万円を下らないものと認められる。

(八)  以上(一)ないし(七)の小計

八三四〇万〇六〇七円

(九)  損害の填補後の小計

八二七六万二七〇七円

前記(八)の金額から当事者間に争いのない既払額六三万七九〇〇円を差し引くと、残額は、八二七六万二七〇七円となる。

(一〇)  弁護士費用

八〇〇万〇〇〇〇円

本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、八〇〇万円をもって相当と認める。

(一一)  合計 九〇七六万二七〇七円

原告らは、亡次郎の父母であり、亡次郎の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続したものであるから、その固有の損害と合わせると、原告らの損害額は、各四五三八万一三五三円となる。

第4  結論

以上によれば、原告らの本訴各請求は、被告らに対し、連帯して四五三八万一三五三円(ただし、自賠法三条に基づき責任を負う被告○○運輸株式会社に対しては、第3(七)の車両損害分を除いた四五二八万一三五三円)及びこれに対する本件事故の日である平成一二年六月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・河邉義典、裁判官・来司直美、裁判官・石田憲一)

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