東京地方裁判所 平成12年(ワ)24221号 判決 2004年3月22日
原告
X
被告
Y1
ほか二名
主文
一 被告Y1及び被告会社は、原告に対し、各自一〇一〇万二六二五円及びこれに対する平成九年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告東京海上は、原告に対し、前項の判決が確定したときは、一〇一〇万二六二五円及びこれに対する平成九年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告Y1及び被告会社は、原告に対し、各自一億五四五一万五〇〇〇円及びこれに対する平成九年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告東京海上は、原告に対し、前項の判決が確定したときは、一億五四五一万五〇〇〇円及びこれに対する平成九年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
(1) 事故の発生
次の事故が発生した(以下「本件事故」という。)。
ア 日時 平成九年一二月一〇日午前一一時ころ
イ 場所 東京都西多摩郡<以下省略>
ウ 被告車両 普通貨物自動車(車両番号<省略>。以下「被告車」という。)
同運転者 被告Y1
エ 態様 被告Y1が被告車を運転して駐車場から車道に進出するため歩道を横切るに際し、折から歩道上を左方から右方に進行してきた原告運転の自転車に被告車を衝突させた。
(2) 責任原因
被告Y1は、被告車を駐車場から出す際、左右の安全確認が不十分であった過失があるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。
被告会社は、被告車の保有者であるから自賠法三条に基づく損害賠償責任を負い、かつ、被告Y1の使用者であるから民法七一五条に基づく損害賠償責任を負う。
被告東京海上は、被告会社との間の任意保険契約に基づく損害賠償責任を負う。
(3) 損害のてん補
本件事故による損害のてん補として、二三万四七九二円が支払われた。
二 争点
(1) 事故態様及び過失相殺
ア 原告の主張
被告Y1は、歩道の直前で一時停止したが、車道の走行車両に気をとられ、同歩道上の自転車等の有無及びその安全を確認することなく漫然発進し、時速五ないし一〇kmで同歩道に進出した過失により、折から同歩道上を左方から右方に向かい進行してきた原告運転の自転車に気付かず、同自転車に被告車左側部を衝突させ、原告を自転車もろとも転倒させ、そのまま進行を継続して被告車左側後輪に原告の安全ヘルメットを着用した頭部を轢過した。
原告はアメリカ赤十字の横田基地内合唱隊の責任者を務めており、当日は近隣の日本側老人養護施設にクリスマスキャロルを歌うため赴く途中であった。従ってセミフォーマルな服装をしており、高速で自転車を走行させることができるようなものではなかった。原告は、同所を通過するときにはいつもガソリンスタンド前から駐車場への出入り車両に気を配り、歩行者とあまり異ならない低速で安全運転をしていた。当日も、セミフォーマルな服装であったので、一段と低速でガソリンスタンド前から駐車場前にさしかかったところ、突然被告車が、高速で、斜め右側から左折しながら飛び出してきた。原告は咄嗟にブレーキをかけ、かろうじて被告車の正面ではねとばされるのは免れたが、被告車左側部と接触し、左側後輪で頭部を轢過された。原告に責められるべき過失はない。
イ 被告の主張
本件事故現場道路に接面する駐車場と隣接するガソリンスタンドとの境界線上には、コンクリート塀があり、歩道上を進行する自転車運転者と駐車場から進出する車両運転者は相互にその存在を視認しにくい状況となっていた。原告の進行方向前方は直進する道路が続いており、前方正面の見通しは良好であったものの、右方の駐車場については、コンクリート塀によって死角部分が存在する上、コンクリート塀の陰から車両が歩道上に進出してくることのあり得ることは駐車場の用途からして十分に予見し得る状況にあった。原告は、本件事故現場付近に居住していたのであるから、同所が駐車場として使用されていることを熟知していたものと思われる。
このような状況においては、原告としてはコンクリート塀によって死角となる駐車場出口付近の歩道を通過する際には、右方の駐車場から進出する車両の有無、動静を注視した上、車道寄りの部分をできる限り安全な速度と方法で進行すべきであった。しかしながら、原告は、この注意を怠った過失があるから、損害賠償額算定に当たって十分考慮されるべきである。
(2) 損害及びその額
ア 原告の主張
原告は、本件事故により、右耳多発性裂傷、第八歯・第九歯骨折等の傷害を負い、米軍横田基地等において治療を受けたが、<1>脊柱周辺の筋肉けいれんによる脊柱側弯症・激痛・直立歩行不能、<2>脊柱管の空間が六〇%以上狭まり、残尿、反射神経の減少を含む神経損傷、<3>左脚の虚弱、L五部における感覚減少、反射神経の減少、<4>左脚下部末端の膝下腱反射神経の減少、<5>椎間板ヘルニアによる腰部退行性椎間板関連病の発症、椎間板ヘルニア再発の際、脊柱癒合を必要とする可能性、<6>耳及び頭部が無感覚であり、神経が再生するにつれ慢性的痛みを感ずる高度の可能性、右耳の醜状、<7>外傷後ストレス障害(恐怖、パニック、悪夢、フラッシュバック、自動車、自転車操縦の不可能、自転車に乗っている他人に対する懸念による自己の活動不能、トラックに対する怒りと恐怖、夫とともに自転車に乗ることができないことに対する怒りと恐怖など)、<8>歯牙障害の後遺障害を残した。
原告の損害及びその額は次のとおりである。
(ア) 治療関係費
a 歯科治療費 二七万五〇〇〇円
b H医師受診費 一万〇八九〇円
c マッサージ費 八二五〇円
d 交通費 一〇万〇四三〇円
(イ) 物損
a ウールセーター 三万六八五〇円
b サングラス 五万三九〇〇円
c 安全ヘルメット 六万三五八〇円
d 自転車(マウンテンバイク) 二三万八三七〇円
e パンツ(ズボン) 一万九八〇〇円
f バック 三万七四〇〇円
g ジャケット 七万七〇〇〇円
h シャツ 一万四八五〇円
i 宝石貴金属類 二四万六四〇〇円
(ウ) 逸失利益 八九二八万五八二六円
a 基礎収入
原告は、平成九年当時、メリルリンチ証券会社アメリカ合衆国(以下「米国」という。)本社に金融コンサルタントとして勤務し、当時月三九四二ドル(一ドル一一〇円に換算して四三万三六二〇円)の収入を得ており、本件事故当時、同社東京支店に勤務することが内定しており、その給与は本国における給与を上回る予定であった。従って、年収は五二〇万三四四〇円となる。
b 労働能力喪失率
原告の後遺障害は、前記<1>及び<2>の脊柱関係は自賠法施行令二条別表(以下「等級表」という。)六級五号、<3>及び<4>の脚部関係は同七級一〇号、<5>の椎間板ヘルニア関係は七級五号、<6>の耳鼻咽喉関係は同九級五号の類推、右耳部醜状は同七級一二号、<7>の外傷後ストレス障害は同三級、<8>歯牙障害は同一四級二号にそれぞれ該当し、併合一級相当であり、労働能力喪失率は一〇〇%である。
c 労働能力喪失期間
近時の内外の状況に鑑みれば、七〇歳まで就労可能であると認めるべきである。
(計算式) 5,203,440×1.0×17.1590≒89,285,826
(エ) 慰謝料 五〇〇〇万〇〇〇〇円
本件事故により原告の被った精神的苦痛は筆舌に尽くし難く、今後も終生継続することを思えば、到底金銭をもって評価し得るものではない。
被告Y1からは、見舞い、謝罪等について一言もない。原告は、婚姻後半年も経ない新婚早々時に本件事故に遭遇したのに、被告ら代理人は、原告がAと離婚し別の男性と結婚している可能性が示唆されているとか、そもそも本訴提起自体が原告の意思によるものか否か極めて疑問であるなどと、稀にみる無神経にしてぶしつけな質問を書面で行い、原告及び原告代理人に対し、極めて非礼な言辞を弄した。これらは慰謝料算定につき考慮されるべきである。
(オ) 弁護士費用 一四〇四万六八五四円
(カ) 損害のてん補 二三万四七九二円
イ 被告の主張
(ア) 治療関係費
原告の傷害内容のうち、第八歯、第九歯骨折の事実は認められず、仮にこれが認められるとしても、本件事故との因果関係を認めることはできない。したがって、歯科治療費については、そもそも損害の事実自体争う。
その他、原告が主張するH医師受診費、マッサージ費、交通費については、治療内容を含めその支出についての具体的な証拠がない。
(イ) 物損
具体的な損害額についての立証が不十分であるし、マウンテンバイクの使用に差し支えがあるような破損を認めることもできないことに照らし、原告の主張する物損関係全般に大いなる疑問が生じ得ることは否定できない。
(ウ) 逸失利益
原告は、本人尋問の際、何らの支障もなく直立歩行をしながら出頭したのであり、原告主張の<1>の後遺障害は認められない。
原告主張の<2>については、手術が実施された以上、改善されているはずであり、これに基づく後遺障害も認められない。
原告主張の<3>及び<4>の脚部関係は、<5>の椎間板ヘルニアを根拠とされているところ、原告は、本件事故以前から椎間板ヘルニアであったし、その再発の可能性は本件事故と無関係である。
原告主張の<6>のうち、原告の聴覚に異常はないし、耳が無感覚になったとも認められず、仮にそうだとしても、原告は、本件事故後スキーに行っていたのであり、耳及び頭部が無感覚であることによる凍傷を受ける可能性は極めて低下していることがうかがわれる。醜状については、注意深く確認しなければ左右の耳の違いが判断できない程度であり、醜状と認められる部位の範囲も限局されたものであって、七級一二号に該当する程度に該当しない。
原告主張の<7>の後遺障害(外傷後ストレス障害)については、いつ原告に外傷後ストレス障害の症状が発生したかについて客観的証拠がない。平成一一年三月二六日に作成された供述調書には、外傷後ストレス障害に関する記載が全くなく、平成一四年四月一日のドミニオン病院への入院時においても外傷後ストレス障害の症状がない。原告が、本件事故後、夫とともに香港に旅行したり、友人とシンガポールに旅行に行ったり、平成一五年三月にスキーに行ったり、金融関係の仕事のトレーニングをしたりしていることなどからすると、原告の症状を外傷後ストレス障害として認定することはできない。
原告主張の<8>の後遺障害(歯牙障害)については、事故による傷害と認めることはできない。
さらに、原告は、本件事故によって仕事ができなくなったわけではなく、そもそも仕事のチャンスがなかったから仕事をしなかったのである。実際には、仕事としては、主婦の仕事をしている状態と評価すべき状況であり、原告が主張するような逸失利益による損害は生じていない。
(エ) 慰謝料
原告が主張する傷病のうち、第八歯、第九歯の骨折の事実を証明する証拠はなく、その他の後遺障害についても認めることはできない。もともと、原告から提出された診断書によれば、原告の傷害は加療六か月にとどまる程度のものであり、原告の請求する慰謝料額は極めて過大である。多めにみても一〇〇万円程度が相当である。
(オ) 素因
原告は、本件事故以前の段階において、ウイルス性脳炎の後遺症、うつ病の素因を有していたのであり、損害賠償額の算定に当たって考慮されるべきである。
第三判断
一 争点(1)(事故態様及び過失相殺)について
(1) 前記争いのない事実に加え、関係各証拠(甲二七の一・二、乙一の一ないし一二、原告本人)によれば、本件事故態様として、次の事実が認められる。
ア 本件事故現場付近の国道一六号線は、八王子方面と入間方面を結ぶ片側に二つの車両通行帯がある道路で、八王子方面から入間方面に向かう車道(以下「本件道路」という。)の幅員は六・八五mであり、その左側には、幅〇・七二mの外側線を挟んで幅三・二四mの歩道(以下「本件歩道」という。)が設けられている。本件歩道に自転車通行可の標識はないが、車両の交通頻繁な本件道路を自転車が走行するのは困難であるように見える。本件事故現場は、本件歩道上であり、本件事故現場付近の状況は、おおむね別紙図面(平成九年一二月一一日付け実況見分調書《乙一の三》添付の現場見取図)記載のとおりである。
イ 被告Y1は、被告車を運転して、本件歩道を横断して本件道路に左折進入すべく、別紙図面の<1>地点でいったん停止し、コンクリートの塀や植込み越しに右方と左方を見た。そのうち、八王子方面寄りにあった信号機が赤色表示となり、車道を進行する車両に気を取られることもなくなったので、被告Y1は、左右の歩道上を全く確認することもなく、時速五ないし一〇kmで別紙図面の<2>地点まで進行させた。
他方、原告は、自転車を運転して、入間方面から八王子方面に向かって、本件歩道のやや右寄りをゆっくり走行していたが、本件歩道の右側の駐車場から被告車が出て来るのを、被告車の左前部を見て気づき、両ハンドルのブレーキをかけたものの、すぐには止まれず、原告運転の自転車の前部と被告車の左側部とが衝突した。原告は、自転車とともに右側路面に倒れた(なお、原告は、本件事故前、本件歩道の左寄りを走っていたと供述するが、事故直後の供述調書の記載に反し、採用できない。)。
被告Y1は、衝突音を感じたが、サイドミラーを見ても異常を発見できなかったので、荷台のタイヤが倒れたものと思い、そのまま左折進行を続けながらサイドミラーを見たところ、被告車の左後輪の外側タイヤがヘルメットに乗り上げているのが見えたので、<3>地点において被告車を停止させた。
(2) 以上によれば、被告Y1は、横断しようとする本件歩道上を進行する歩行者、自転車等のあることを知り又は知り得べきであるから、歩道手前で一時停止した後、再発進するにあたっては、前後左右を注視し進路の安全を確認してから発進すべき注意義務があるところ、これを怠った過失がある。
他方、原告が、本件事故現場付近において、駐車場から車両が出て来ることを予期することは可能であったとはいえ、原告が被告車を認識した時点及び被告車の速度に照らし、仮に、原告が本件歩道の車道寄りを進行していたとしても、減速・停止等の措置によって事故を回避することが可能であったと断定することはできない。被告Y1は、本件歩道の交通の安全を全く顧慮することなく、被告車を進出させ、かつ、一度は衝突音を感じていながら、サイドミラーを一瞥するだけで漫然と被告車を進行させたのであり、その過失の程度は大きい。結局、本件において、過失相殺をすべき原告の落ち度を観念することはできない。
二 争点(2)(損害及びその額)について
(1) 治療経過等と後遺障害
ア 治療経過等
関係各証拠(甲二ないし四、甲九、二〇、二二、二五、乙一《枝番を含む。》、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の治療経過等について、次の事実が認められる(なお、理解を容易にするため、この項に限り、年号に西暦を併記する。)。
(ア) 本件事故以前
原告は、昭和六〇年(一九八五年)、ウイルス性の脳炎に罹患して治療を受け、その後遺症として、睡眠中にけいれん発作が起きるようになり(原告によれば、現在も、たまに起きるという。)、また、精神症状を起こす可能性があるので、その対処の仕方等について、医師の指導を受けた。
原告は、平成二年(一九九〇年)、背部、腰から足までの痛みがあり、椎間板ヘルニアの手術を受けたところ、痛みが軽減した。
原告は、うつ病により、平成四年(一九九二年)にはテキサス州オースティンのレッドリバーホスピタルに、平成八年(一九九六年)には聖ブロビデントホスピタルに、それぞれ一週間以内の間、入院した。
原告は、平成九年(一九九七年)六月、麻酔医のAと婚姻した。同人とは、同年一〇月の来日以後同居するようになった。
(イ) 本件事故後帰国に至るまで
平成九年(一九九七年)一二月一〇日、本件事故が発生した。
本件事故により、はずれたヘルメットのひもで原告の右耳の大部分が裂けた。その他、本件事故により、原告は、右肘関節部の橈骨頭骨折、顔面・胸部・手足への複数の打撲等の傷害を負い、その治療のため、約六か月間、横田基地第三七四メディカルグループにおいて治療を受けた。原告が入院したのは三、四日であり、その後は月三回くらい通院した。原告は、歯科医により、前歯の歯冠を被せ直す治療を受けた。
原告は、平成一〇年(一九九八年)二月五日、警察署における取調べの際、本件事故により右耳がちぎれたこと、首と背中の痛みがあることなどを供述した。原告は、同年四月一三日、歯科医の治療を受けた。
原告は、本件事故後、背中の痛みを感じることが多くなり、徐々に悪化したことから、同年一一月二日、沖縄米軍基地におけるMRI検査を受けたところ、椎間板ヘルニアであることが判明し、平成一一年(一九九九年)一月一二日、手術を受けた。その後、横田基地に戻ってから二か月に一回くらい通院し、徐々に回復した。
原告は、同年三月二六日の検察庁における取調べの際、右耳がちぎれるほどの傷を受けたことや、首と背中辺りの痛みを感じたこと、怪我の程度や治療状況等については、提出された診断書を参考にしてほしいと供述した。捜査段階において提出された診断書には、「顔面、胸部及び四肢の多発性挫傷、右耳多発性裂傷」等の記載がある。
原告は、同年八月二七日、横田基地において、原告代理人と面談した際、ある程度の神経症状を訴えながらも平静に対応し、取り乱すような態度は見せなかった。外傷後ストレス障害を含む予後の問題も話題に上ったものの、原告代理人は、原告が外傷後ストレス障害を発症しているとは感じなかった。
日本に滞在中、原告は、ヘッジファンドを扱っているブローカーから、金融関係の仕事の訓練のためのトレーニングを受け、キーボードやコンピューターを用いていた。また、原告は、父親が手術をしたときに帰国したり、夫であるAと約二回、家族に会うために帰国したり、夫の誕生日に夫とともに香港に旅行したり、友人とシンガポールに旅行した。
(ウ) 帰国後
原告は、平成一一年(一九九九年)一二月一四日、ストレッチャーに乗せられて飛行機で米国に帰国し、約一週間、ワシントンD・C・のレセスターネイバーホスピタルに入院し、退院後、ペンシルバニアの両親の許に行った。
原告は、帰国してから約五か月後の平成一二年(二〇〇〇年)四月ないし五月ころから、スミスアンドバーニーで金融コンサルタントの仕事をし始めた。原告は、平成一二年(二〇〇〇年)一一月一六日、本件事故による労働能力喪失率が一〇〇%であると主張して本訴を提起した。
原告の収入は、平成一四年(二〇〇二年)ころになると、クライアントとの間での固定給が年間約七万五〇〇〇ドルないし八万ドルとなっていたが、同年四月一日、重度のうつ病と自殺観念のため、ドミニオン病院に入院し、そのころ、仕事を辞めた。同病院の診療録には、原告の主なストレス要因が結婚不和にあるとか、仕事のストレスも原因であるとの記載があるが、本件事故との関連性を示唆する記載は見当たらない。また、同診療録には、背部痛なしとの記載もある。
原告は、平成一五年(二〇〇三年)三月、カナダのウィスラーに赴き、スキーで下降中、アイスバーン上でバランスを失って転倒し、左鎖骨を骨折した。
(エ) 治療の相当性及び症状固定時期
原告が負った右耳裂傷や身体各所への挫傷に対する治療は、本件事故後約六か月間で終了している。背部痛やその後判明した椎間板ヘルニアについては、本件事故前にも一定の症状があったものではあるが、本件事故との因果関係を全く否定することはできない。歯科治療についても、これが本件事故と全く無関係の治療であると断定することはできない。原告は、平成一一年一二月に帰国する以前において、金融関係の仕事の訓練ができる程度に回復していたのであるから、遅くともその時点においては、症状が固定していたと認めるのが相当である。
イ 後遺障害
(ア) 脊柱周辺の筋肉けいれんによる脊柱側弯症・激痛・直立歩行不能(原告主張の後遺障害<1>)について
A医師作成の平成一二年八月三日付け回答書(甲一二の一・二。以下「A回答書」という。)には、「激痛、直立歩行不能、脊柱周辺の筋肉の痙攣による脊柱側弯症」との記載がある(三項)が、これは、「Xさんの椎間板ヘルニアの症状はどのようなものでしたか。」との被告Y1及び被告会社代理人からの質問(甲一一の一・二。以下「被告側の質問」という。)に対する回答であり、これが後遺障害として残存していることを示す趣旨とは解されない。原告が脊柱側弯症であり、かつ、これが本件事故に起因することを示す証拠はない。原告に脊柱側弯症による「激痛」があり、かつ、これが本件事故によることを示す証拠もない。ドミニオン病院の診療録にも、原告の日常生活動作が自立しているとの記載がある(甲二二の一・二)。原告は、平成一五年七月二八日の本件第八回口頭弁論期日に直立歩行で出頭した(当裁判所に顕著)。したがって、上記後遺障害はいずれも認められない。
(イ) 脊柱管の空間が六〇%以上狭まり、残尿、反射神経の減少を含む神経損傷(原告主張の後遺障害<2>)について
A回答書には、「MRIにより、脊柱管の空間の六〇%以上が狭まっていること、及び残尿、反射神経の減少を含む神経性損傷」との記載がある(六項)が、これは、「Xさんに手術が必要だった主な理由はなんですか。」との被告側の質問に対する回答であり、これが後遺障害として残存していることを示す趣旨とは解されない。原告が本件事故後に椎間板ヘルニアの手術を受けたことは前記のとおりであり、現在、原告が脊柱管狭窄の状態にあることを裏付ける証拠はない。原告に「残尿、反射神経の減少」等が後遺障害として残存していると認めるべき証拠はない。
(ウ) 左脚の虚弱、L五部における感覚減少、反射神経の減少(原告主張の後遺障害<3>)について
A回答書には、「左脚の虚弱、L五部における感覚減少、反射神経の減少」との記載がある(四項)が、これは、「筋肉虚弱や感覚障害といったような神経病理学的欠陥としてはどのようなものがありましたか。手術前Xさんは伸展脚上げテストに陽性でしたか。」との被告側の質問に対する回答であり、これが後遺障害として残存していることを示す趣旨とは解されないし、その他、そのように認めるべき証拠はない。
(エ) 左脚下部末端の膝下腱反射神経の減少(原告主張の後遺障害<4>)について
A回答書には、「左脚下部末端の膝下腱反射神経の減少」との記載がある(五項)が、これは、「Xさんの背中の痛みを椎間板ヘルニアと診断した根拠はなんですか。」との被告側の質問に対する回答であり、これが後遺障害として残存していることを示す趣旨とは解されないし、その他、そのように認めるべき証拠はない。
(オ) 椎間板ヘルニアによる腰部退行性椎間板関連病の発症、椎間板ヘルニア再発の際、脊柱癒合を必要とする可能性(原告主張の後遺障害<5>)について
原告が、本件事故後、椎間板ヘルニアの手術を受けたことは前記のとおりであるが、本件事故以前にも椎間板ヘルニアの手術を受けたことがあることに照らし、将来的な再発等の可能性のみをもって、賠償を命ずべき程度の後遺障害と評価することはできない。
また、原告は、本人尋問の際、腰痛(ふくらはぎぐらいまで痛みが走るもの)を訴え、時と場合によって痛みがひどいことがあると供述する。しかしながら、ドミニオン病院の診療録には背部痛がない旨の記載があること、平成一五年三月には、原告がスキーで滑降することができていたこと、本件事故以前に椎間板ヘルニアの手術を受けた後の状態よりも現在の方が悪化していると断定するに足りる証拠もないことなどを考慮すると、仮に、原告に本件事故に起因する腰痛があるとしても、これをもって、賠償を命ずべき程度の後遺障害として認めることはできない。
(カ) 耳及び頭部が無感覚であり、神経が再生するにつれ慢性的痛みを感ずる高度の可能性、右耳の醜状(原告主張の後遺障害<6>)について
B医師作成の平成一一年一〇月一八日付け書面(甲六の一・二)には、耳輪及び頭頂部を覆う頭皮の感覚を永続的に失うこと、また、これらの部位にやけど、凍傷をより受けやすくなるために二次的に感覚を失うことが予測される旨の記載があり、A回答書にも同様の記載がある(一〇項)。原告の右耳付近は確かに感覚が失われたと認められるが、その部位に照らし、それが労働能力にどの程度の影響を及ぼすものであるか、判然としないし、将来凍傷となる可能性をもって、賠償を命ずる程度の後遺障害として評価することはできない。
他方、原告の右耳の耳垂部には、約三・三mmの線状痕があり(甲二八の一ないし一五、甲二九、弁論の全趣旨)、これは、等級表第一二級一四号に相当する後遺障害と認められる。
(キ) 外傷後ストレス障害(原告主張の後遺障害<7>)について
原告は、本件事故後、非常に憂うつな状態がしばしば訪れるようになり、五か月後から悪夢を見るようになったと供述するが、これをもって、外傷後ストレス障害の診断基準の一つとしての再体験(侵入)症状(いわゆるフラッシュバック)に該当すると認めるには足りない。原告は、「自転車に乗りたいが、裏通りとか人気のないところで乗ろうとして乗っても、非常に悪夢を見たりとか怖い思いをしたりとか(する)。」などと供述するが、こうした感情は、外傷後ストレス障害の診断基準の一つとしての回避・麻痺症状としてしか捉えられないものでもない。
次に、<1>C麻酔科主任作成の平成一一年三月二四日付け書面(甲四の一・二)には、本件事故による傷害内容として、外傷性ストレス障害が掲げられ、その内容として、「X夫人は、トラックのタイヤに頭部を“押しつぶされた”際の聴覚の外傷が原因で、悪夢を見、気分の著しい変化を起こすことがありました。これは夫婦の争いの原因ともなっており、また彼女はもはや自転車に乗ることはできないでしょう。彼女の気分及び気質は、背中の手術以降痛みが軽減されたので改善されてきています。」との記載があり、<2>D(ビヘイヴィオラル・ヘルス・サービス主任、精神科医)の平成一一年一二月一四日付け書面(甲八の一・二)には、原告が、本件事故の数日後、初めてビヘイヴィオラル・ヘルス・サービスを受診したこと、原告の臨床状況が外傷性ストレス障害(DSM―Ⅳ三〇九・八一)と診断されたこと、同月八日、緊急に精神医学的な入院加療を要する状態となったことなどが記載されている。しかし、どのような専門的知見を有する医師によって、いつの時点で、いかなる臨床症状について、どのような根拠に基づいて、こうした診断がされたのか、本件事故以前の精神疾患等を十分考慮し、鑑別を行ったか否か、さらに加えて、こうした診断に基づいていかなる治療がされたかが、全く不明である。
その他、<3>A回答書には、外傷後ストレス障害と診断されるに至った症状について、「恐怖、パニック、悪夢、フラッシュバック、自転車操縦の困難、自転車に乗っている他人に対する懸念により自己の活動が不可能となる、トラックに対する怒りと恐怖、夫と安全に自転車に乗ることができないのではという恐怖及び怒り、自分が自転車に乗れないのに、夫が夫の自転車に乗れることに対する怒り、事故の際なぜ自分が死ななかったか不思議に思う、事故について話す時にいつも不快な気分になる、特に自転車や交通が関係する活動を新しい夫とともに分かち合い楽しむにおいて‥事故の回想が視覚的きっかけによってしょっちゅう起こり、そのことにより、その視覚的きっかけを単に避けるか、自分の家から出ることを恐れるのを強いられる、自分のヘルメットの割れ目及びトラックのタイヤの跡を見たことで(または安全な場所である精神科医のオフィスでそのことを話すことで)、蒼白、震えといった極端な感情的反応を起こしたこともあった。」との記載があり、<4>E博士(臨床心理学者)作成の平成一三年一二月四日付け書面(甲一五の一・二)には、原告が慢性の外傷後ストレス障害を患っている様子がうかがわれること、同年九月一一日の同時多発テロの際、急性の外傷後ストレス障害になったとみられること、原告が、現在感じている無力感と不安感が、本件事故直後の感覚と類似すると訴えたこと、現在患っている外傷後ストレス障害は本件事故に直接起因し、適切な治療がされなかったためとみられることなどが記載されており、<5>F博士(臨床心理学者)作成の平成一四年一〇月一六日付け書面(甲二三の一・二)には、同年九月から、怒り、不安及びうつ病に対処するため心理療法を開始したこと、原告が、日本でトラックに追突され、轢かれるという事故により引き起こされた慢性の外傷後ストレス障害の後遺症として、仕事上、結婚上、社会的、身体的、そして精神的損傷を体感していることなどが記載されており、<6>G医師(精神科医)の平成一五年一月三〇日付け書面(甲三〇の一・二)には、同日原告の診察をしたこと、本件事故による外傷後ストレス障害と診断することが適切であるとの記載があり、また、同医師の平成一五年八月二七日付け書面(甲三一の一・二)には、同日原告の二回目の診察をしたこと、原告が本件事故以来悪夢とフラッシュバックにとらわれてきたこと、外傷後ストレス障害に対する処置として投薬等をすることにしたことなどが記載されており、さらに、同医師の同年一一月三日付け書面(甲三二の一・二)には、二三歳で個人的な深い悲しみのため精神科に短期間入院したことと三〇歳でトラックに轢かれたため受けた精神的衝撃との間には全く関連がない旨の記載がある。しかしながら、これらの書面は、本件事故からかなり時間を経過して作成されたものである上、いずれも上記<1>及び<2>に対するのとほぼ同様の点が指摘できる(G医師がドミニオン病院の診療録を踏まえた意見を述べているのかすら不明である。)。
原告は、外傷後ストレス障害の特徴として、発症の原因となった事件・体験から数か月ないし一年くらい過ぎてから発症することが多いと主張するが、一般論としてこれを裏付ける証拠はない。前記のとおり、本件事故から約一年八か月後の平成一一年八月二七日の時点においても、原告が外傷後ストレス障害である徴候はなかった。同年一二月一四日、米国に帰国し入院した原因が本件事故による外傷後ストレス障害であることを示唆する書面(甲八の一・二)はあるものの、当時作成された診療録その他の資料が全く提出されておらず、その裏付けもない。原告は、平成一二年四月から平成一四年三月までの間、スミスアンドバーニーにおいて金融コンサルタントとして稼働し、その間、日常生活や就労に何らかの支障があったのか否かも全く不明である。同年四月から入院したドミニオン病院の診療録において、原告の主なストレス要因が結婚不和にあるとか、仕事のストレスも原因であるとの記載があるが、本件事故との関連性を示唆する記載は見当たらない。しかも、原告は、本件事故以前において、ウイルス性の脳炎に罹患して治療を受け、その後遺症があるほか、うつ病により、二回入院治療を受けたことがある。
そうすると、本件事故によって、原告に外傷後ストレス障害が発症したと認めることはできない。もっとも、だからといって、本件事故後の原告のうつ状態について、本件事故の寄与する面が全くないとは言い切れないのであるが、上記の諸事情を考慮すると、現段階における証拠関係からは、原告の現在の精神症状が本件事故に起因するものであり、かつ、それが労働能力を制限するものとして、賠償を命ずべき程度の後遺障害として評価すべきものと断定することはできない。
(ク) 歯牙障害(原告主張の後遺障害<8>)
本件事故による原告の歯牙の損傷は、証拠上多くとも二歯にとどまるから、仮にそれが骨折に至るものであったとしても、等級表第一四級二号に相当する程度に至らない。
(2) 原告の損害及びその額について
ア 治療関係費
(ア) 歯科治療費 二三万四七九二円
関係各証拠(甲三、四、八、二七《枝番を含む。》、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件事故により歯科治療を受けざるを得なかったこと、その治療費として少なくとも二三万四七九二円を要したことが認められる。
(イ) H医師受診費 〇円
原告が、本件事故による傷害の治療のため、H医師の受診を受けたこと及びこれに要した額を裏付ける証拠がない。
(ウ) マッサージ費 〇円
原告が、マッサージを受けたこと、その必要性及び相当性並びにこれに要した額を裏付ける証拠がない。
(エ) 交通費 〇円
原告が、本件事故によって必要となった交通費の額を認めるべき証拠がない。
イ 物損
(ア) ウールセーター 〇円
原告が、本件事故により、ウールセーターを破損したこと及びその相当額を認めるべき証拠がない。
(イ) サングラス 〇円
原告は、本件事故当時、サングラスをかけていたと供述するが、その他、それが本件事故により破損したこと及びその相当額を認めるべき証拠がない。
(ウ) 安全ヘルメット 五万〇〇〇〇円
平成九年一二月一一日付け実況見分調書(乙一の三)には、原告のヘルメットが割れているとの記載があり、写真(甲九の四、乙一の三の番号一四、一五)によってもこれが認められる。その額を認めるべき証拠がないが、諸般の事情を考慮し、上記限度で認めるのが相当である。
(エ) 自転車(マウンテンバイク) 〇円
平成一〇年四月八日付け捜査報告書(乙一の二)には、原告運転の自転車の被害程度について、「ハンドル等擦過、実害なし」との記載がある。平成九年一二月一一日付け実況見分調書(乙一の三)の写真(番号九ないし一三)にも、自転車のサドルの左後部に擦過が認められるものの、それ以外の損傷が認められない。平成一〇年二月五日の取調べにおいて、原告は、「私の自転車の壊れは、ハンドルに傷がついた位でした。」と供述していた(乙一の八)。以上によれば、原告の自転車が、本件事故により、全損状態にあったとか、修理費を認めるべき程度に破損していたと認めることができない。
(オ) パンツ(ズボン) 〇円
原告が、本件事故により、パンツ(ズボン)を破損したことは、経験則上うかがわれないではないが、これを裏付ける証拠は全くないし、その相当額を認めるべき証拠もない。
(カ) バック 〇円
原告が、本件事故により、バックを破損したこと及びその相当額を認めるべき証拠がない。
(キ) ジャケット 〇円
原告が、本件事故により、ジャケットを破損したことは、経験則上うかがわれないではないが、これを裏付ける証拠は全くないし、その相当額を認めるべき証拠もない。
(ク) シャツ 〇円
原告が、本件事故により、シャツを破損したこと及びその相当額を認めるべき証拠がない。
(ケ) 宝石貴金属類 〇円
原告が、本件事故により、宝石貴金属類を破損したこと及びその相当額を認めるべき証拠がない。
ウ 消極損害
(ア) 休業損害 四二五万二六二五円
前記のとおり、原告は、後遺障害逸失利益として、本件事故時から四〇年間の労働能力喪失を主張しており、これには、症状固定時までのいわゆる休業損害の主張が含まれると解される。
関係各証拠(甲一〇の一・二、原告本人)によれば、原告(昭和○年○月○日生)は、マサチューセッツ州ノースハンプトンのスミスカレッジを卒業し、平成九年当時、メリルリンチ証券会社米国本社に金融コンサルタントとして勤務していたこと、原告の平成九年の収入が三万一五三三・八九ドルであったこと、来日後、自身の専門分野を変えたくなかったことなどから同社の東京支店に就職しなかったこと、ボランティア以外は主婦として稼働していたことが認められる。そうすると、本件事故当時、原告は家事労働に従事していたと認めるべきであり、かつ、原告は、平成一一年一二月一四日の帰国までは日本に滞在していたから、基礎収入としては、日本の賃金センサス平成九年第一巻第一表産業計・企業規模計女性労働者学歴計全年齢平均年収である三四〇万二一〇〇円を採用すべきである。
前記受傷内容及び治療経過に照らし、本件事故に起因する原告の就労制限の程度は、諸般の事情を考慮し、本件事故から六か月間を一〇〇%、それ以外の一八か月を平均して五〇%として評価すべきである。そうすると、次の計算式により、原告の休業損害は四二五万二六二五円となる。
(計算式) 3,402,100÷12×(6+18×0.5)=4,252,625
(イ) 後遺障害逸失利益 〇円
前記のとおり、原告は、原告の右耳の耳垂部に約三・三mmの線状痕があり、これは、等級表第一二級一四号に相当する後遺障害と認められる。しかし、その部位・形状・程度等に加え、原告の職業・職種・年齢のほか、原告が、平成一二年四月から平成一四年三月までの間、スミスアンドバーニーにおいて金融コンサルタントとして稼働し、その間、日常生活や就労に何らかの支障があったのか否か不明であることに照らし、これが労働能力に影響を及ぼすと認めることはできない。
エ 慰謝料
(ア) 傷害慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円
原告の受傷内容、入通院の経過等諸般の事情を考慮すると、傷害慰謝料としては二〇〇万円が相当である。
(イ) 後遺障害慰謝料 二九〇万〇〇〇〇円
原告の後遺障害の内容・程度等諸般の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料としては二九〇万円が相当である。
なお、原告は、被告ら代理人が原告及び原告代理人に対し、極めて非礼な言辞を弄したと主張するが、被告ら代理人の主張が、当初から原告及び原告代理人の名誉を害する目的で、ことさら虚偽の事実や事件と関連性のない事実を主張したものとは認められないし、その主張の表現内容・方法、態様等が著しく適切さを欠く非常識なもので原告及び原告代理人の名誉を著しく害することが明らかであるとも認められない。
オ 素因減額
以上の合計額は九四三万七四一七円となる。これは、本件事故以前の原ウイルス性脳炎やうつ病の罹患歴を十分考慮した後の金額であり、さらに素因として減額すべきものではない。
カ 過失相殺
前記のとおり、本件においては、過失相殺をすべきではない。
キ 損害のてん補
争いのない損害のてん補額である二三万四七九二円を控除すると、残額は九二〇万二六二五円となる。
ク 弁護士費用 九〇万〇〇〇〇円
本件の事案の内容、審理の経過、認容額等にかんがみると、被告に賠償を求めることができる弁護士費用としての損害は九〇万円が相当である。
第四結論
よって、本訴請求は、原告が被告Y1及び被告会社に対し、各自一〇一〇万二六二五円及びこれに対する本件事故日である平成九年一二月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告東京海上に対し、被告会社に対する上記判決の確定を条件として、同額の支払を求める限度で理由があるからこれを認容して、その余の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 本田晃)
別紙 <省略>