東京地方裁判所 平成12年(ワ)24737号 判決 2004年5月18日
別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 被告A田春子、同B山一夫、同C川夏子、同C川二夫、同D原竹夫、同D原秋子、同D原一子、同E田梅夫、同E田冬子及び同E田三夫は、連帯して、原告両名に対し、それぞれ四〇八五万八四六五円及びこれに対する平成一二年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告C川松夫に対する請求及び上記被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告らに生じた費用の二分の一は被告C川松夫を除く各被告らの連帯負担とし、被告C川松夫を除く被告らに生じた費用の各二分の一は同被告らそれぞれの負担とし、原告らに生じたその余の費用、被告C川松夫を除く被告らに生じた費用の二分の一及び被告C川松夫に生じた費用は原告らの連帯負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告両名に対し、連帯して、それぞれ八〇九七万〇八一六円及びこれに対する平成一二年五月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 事案の要旨
本件は、平成一二年五月六日(以下、特に年を示さずに月日を示す場合には、平成一二年の月日を示すものとする。)、当時いずれも少年であった被告B山一夫(以下「被告一夫」という。)、被告C川二夫(以下「被告二夫」という。)、被告D原一子(以下「被告一子」という。)、被告E田三夫(以下「被告三夫」という。)の四名(以下、この四名を合わせて「被告少年ら」という。また、被告三夫を除く被告少年ら三人を合わせて「被告同級生ら」という。)が、共謀の上、原告らの長男である亡A野一郎(以下「一郎」という。)を多数回にわたって殴る、蹴るなどの暴行を加えたことにより、一郎に肝破裂、腹腔内出血、全身の皮下出血、後腹膜腔出血、頭蓋内出血等の傷害を負わせ、同日午後九時三〇分ころ、上記傷害による外傷性ショックにより一郎を死亡させ、同月七日午前零時ころ、一郎の遺体を雑木林に投棄したことについて、原告らが、被告少年らに対しては不法行為に基づいて、被告少年らの親であるその余の被告ら(以下、被告少年らを除く被告ら七名を「被告親ら」ということがある。)に対しては、被告少年らの親権者としての監督義務違反の不法行為に基づいて、連帯して、損害の賠を求めた事案である。
二 前提となる事実(争いがないか、各項記載の証拠によって認められる。)
(1) 当事者等
一郎は、昭和五九年三月二三日、原告らの長男として出生し、本件当時一六歳で、高校二年生であった。
被告一夫は、昭和五八年一一月一五日、被告A田春子(以下「被告A田」という。)の子として出生し、本件当時一六歳で、四月に仕事を辞めて以来、無職であった。被告A田は、本件当時、被告一夫の唯一の親権者であった。
被告二夫は、昭和五八年九月二七日、被告C川松夫(以下「被告松夫」という。)及び被告C川夏子(以下「被告夏子」という。)の子として出生し、本件当時一六歳で、高校を中退して無職であった。
被告一子は、昭和五八年九月二一日、被告D原竹夫と被告D原秋子の子として出生し、本件当時一六歳で、高校二年生であった。
被告三夫は、昭和六二年二月一五日、被告E田梅夫(以下「被告梅夫」という。)及び被告E田冬子(以下「被告冬子」という。)の子として出生し、本件当時一三歳で、中学校二年生であった。
(2) 本件傷害致死事件及び死体遺棄事件の発生
ア 被告同級生らは、五月六日午後四時一〇分ころから同日午後四時三〇分ころまでの間、埼玉県飯能市大字芦苅場字久保《番地省略》の竹林内(以下「本件第一現場」という。)において、それぞれ、一郎に対し暴行を加えた。
イ 被告同級生らは、同日午後五時二〇分ころから同日午後五時三〇分ころまでの間、同市大字芦苅場字上ノ原元馬引分《番地省略》の雑木林内(以下「本件第二現場」という。)において、それぞれ、一郎に対し暴行を加えた。被告三夫は、本件第二現場においては、被告同級生らの暴行に立ち会ってはいたが、暴行は行わなかった。
ウ 被告少年らは、同日午後六時ころから午後六時五〇分までの間、埼玉県入間市大字新光《番地省略》のゴルフ専用道路及びその周辺(以下「本件第三現場」という。)において、それぞれ、一郎に対し暴行を加えた。
エ 一郎は、上記アないしウの暴行により、肝破裂、腹腔内出血、全身の皮下出血、後腹膜腔出血、頭蓋内出血等の傷害を負い、同日午後九時三〇分ころ、同市大字新光《番地省略》新光中央公園内(以下「中央公園」という。)において、上記傷害による外傷性ショックで死亡した。
オ 被告少年らは、上記傷害致死事件の発覚を防ぐため、同月七日午前零時ころ、同県狭山市大字笹井字坂上《番地省略》雑木林内(以下「本件遺棄現場」という。)に、一郎の遺体を投棄した。
(3) 本件に関する処分
本件の発覚後、被告少年らは浦和家庭裁判所川越支部(当時)に送致され、七月一〇日、被告一夫、被告二夫及び被告一子について中等少年院送致の保護処分が行われた。被告三夫については、所沢児童相談所長により、児童自立支援施設への入所が決定された。
(4) 被告少年らの責任
被告少年らは、いずれも、故意による前記暴行により一郎を死亡させ、また、一郎の遺体を雑木林に投棄して遺棄したのであるから、本件につき、民法七〇九条、同七一九条に基づき、一郎の死亡による原告らの損害を連帯して賠償する義務を負う。
(5) 被告親らの責任
被告A田は、被告一夫の親権者として、被告D原竹夫及びD原秋子は被告一子の親権者としての監督義務違反に基づき、民法七〇九条及び同七一九条に基づく責任を負う(上記各被告らは、責任を自認した。)。
三 争点
(1) 被告松夫及び被告夏子の責任
(原告らの主張)
ア 被告二夫は、中学生になってから、被告一夫と一緒に遊ぶようになったが、被告一夫は、中学校入学時から茶髪であり、後輩らから冷酷、残酷と言われ、職員や生徒らに暴行を行っていた。被告二夫は、被告一夫と付き合うようになってから、不良仲間との付き合いが増え、中学校三年生の時には、被告一夫と共に一郎をいじめた。被告二夫は、高校に進学したが、父親に無断で父親のバイクを無免許で運転し、警察から注意を受けたことがあり、本件当時、飲酒・喫煙の習慣があった。被告二夫は、高校一年生の三月に、学校側から進級できないと言われ、自主退学した。
被告松夫、被告夏子は、被告二夫が上記のような生活態度であったにもかかわらず、被告一夫との付き合いをやめさせようともせず、警察官から無免許運転で注意を受けたときも、「その程度のこと」との認識で、注意をしたにとどまり、被告二夫を放任していた。
イ 本件の暴行は、二回現場を変え、三か所で、合計約二時間三〇分にわたって続けられたものであり、被告少年らが、一郎を、あたかもサンドバッグのように執拗に暴行を加え続けるというものであった。このような暴行は、人間として、普通の育ち方をした者には到底できるものではない。
ウ 以上により、被告松夫、被告夏子には被告二夫に対する監督義務違反が認められ、本件は同義務違反と因果関係があるから、被告らは民法七〇九条に基づく責任を負う。
エ 被告松夫は、本訴提起後免責決定を受けているが、免責の趣旨からすれば、破産債務者の責任財産に対し強制執行することを否定すれば足り、給付判決を得ることができないと解すべきではない。
(被告松夫、被告夏子の主張)
ア 被告二夫は、本件当時、週に何度か帰宅時間が遅くなることはあっても、シンナー吸引や暴走行為、恐喝行為等のいわゆる非行行為に参加していたものではない。被告二夫に原告らの主張するような生活状況があったとしても度を越したものではなく、自主退学も学業面での問題があっただけであり、本件のような重大事件につながるような生活の崩れではなかった。
また、被告松夫、被告夏子は、被告二夫の生活全般についてたびたび注意をしており、被告二夫が夜に外出する際にも、携帯電話で連絡をとり、早く帰るように注意していた。被告松夫は、被告二夫が中学生の時に不良グループと付き合いだした際には、「昔の二夫に戻ってくれ。」と原告二夫を殴ったこともある。
本件の数日前、被告二夫らが一郎の顔に落書きをした際にも、被告松夫は、直ちに厳しく注意をし、一郎を守るための行動をとっている。
したがって、被告松夫、被告夏子には、本件と相当因果関係のある監督義務違反はない。
イ 仮に、被告松夫に監督義務違反が認められるとしても、被告松夫は、本件提訴後に破産・免責の申立てを行い、平成一四年一月二三日付けで、さいたま地方裁判所川越支部から免責決定を受け、同決定は平成一四年二月二〇日付けで確定した。
(2) 被告E田梅夫及び被告E田冬子の責任
(原告らの主張)
ア 被告三夫は、本件当時、格闘技に興味を持ち、技の練習をし、技を人にかけてみたいという欲求を持っていた。また、上記のとおりの問題少年であり、風貌からしても一見して問題のある少年と分かる被告一夫と一緒に遊んでいた。
被告梅夫、被告冬子は、被告一夫の暴力行為の評判等を聞いており、被告一夫の風貌等も知っていたのであるから、まだ一二、三歳であり、格闘技に興味を持つ子どもの親として、被告一夫との交際をやめさせるべきであった。それにもかかわらず、被告梅夫、被告冬子は、被告一夫との交際をやめさせなかったのであるから、同人らには重大な監督義務違反がある。
イ また、本件の暴行は、二回現場を変え、三か所で合計約二時間三〇分にわたって続けられたものであり、被告少年らが一郎をあたかもサンドバッグのように執拗に暴行を加え続けるというものであった。
このような暴行は、人間として普通の育ち方をした者には到底できるものではない。
(被告梅夫、被告冬子の主張)
原告らの監督義務違反の主張及び監督義務違反と本件に相当因果関係があるとの主張は争う。
被告三夫は、幼稚園、小学校、中学校にわたって何の問題も起こさず、学校を休むこともなく、部活動も熱心で、学校の成績を含め保護者会や担任からも特別の指摘を受けることはなかった。
本件当時も、被告三夫は、朝も夜も家族と一緒に食事をとり、夜遊びに出ることもなく、夜間の外出は、近所の子供たちとのジュニアゴルフのレッスン(送り迎えは親が車で行っている。)と、二軒隣で行われている英会話教室の時くらいであった。
被告三夫は、携帯電話を所持していなかったため、電話を取り次ぐ時には親が氏名を確認して取り次いでおり、本件当日も、午後一〇時過ぎに被告一夫から電話があったときには、親として被告三夫に注意した。
以上の事実からすれば、被告梅夫、被告冬子らには、被告三夫が本件のような行為を行うとは全く予見できなかったのであるから、本件と相当因果関係のある監督義務違反はない。
(3) 損害額
(原告の主張)
ア 逸失利益 四六九四万一六三二円
一郎は死亡当時一六歳であり、一八歳に達した時から六七歳に達するときまでは就労して賃金を得ることができたはずであるから、収入額を平成一〇年度賃金センサス男性労働者平均とし、ライプニッツ計数により中間利息を控除したのが同人の逸失利益となる。
五六九万六八〇〇円×(一-〇・五)×一六・四八〇=四六九四万一六三二円
原告らは、一郎の上記逸失利益について、それぞれ二分の一ずつの割合で相続した。
イ 慰謝料
原告らは、長男である一郎を被告少年らの暴力によって殺害され、遺体を遺棄された。本件の後、被告少年らは、原告らが一郎について尋ねても、平気で嘘をつき、被告二夫の両親は、原告らに電話をし、「息子は何もしていないのに、警察に調べられ、迷惑をしている。」という趣旨のことを言い、息子の安否を気遣う親に対して非常識かつ無神経な対応をし、被告一子の親は、原告らが被告一子宅を訪れた際、「娘はボコリ(暴行をすること)があるので帰ってこない。」と答えるなど、娘のことを全く気にしないような対応をした。被告らは、今日に至るまで、誰一人として誠意を持った謝罪を行っていない。
これらによる原告らの精神的苦痛は、金銭に評価して各五〇〇〇万円を下らない。
ウ 原告らは、本訴訟を原告ら代理人に委任したが、その弁護士費用はそれぞれ七五〇万円が相当である。
エ 合計
以上を合計すれば、原告らの損害は、それぞれ八〇九七万〇八一六円である。
(被告一夫、被告A田の主張)
損害額を争う。
(被告二夫、被告松夫、被告夏子の主張)
損害額を争う。被告松夫及び被告夏子は、事件直後からお詫びの手紙を差し出し、一郎の通夜に足を運び、原告ら宅を訪問するなどして謝罪を行っている。
(被告一子、被告竹夫、被告秋子主張)
損害額を争う。被告竹夫及び被告秋子は、原告ら宅に二度赴き、謝罪を行っている。その余は認める。
(被告三夫、被告梅夫、被告冬子)
損害額を争う。被告三夫、被告梅夫、被告冬子は、原告ら及び関係者らとの面談、電話、原告ら宅訪問をし、遺体発見現場での焼香、墓参り等をし、原告らに若干の金銭を手交するなどして、誠意をもった謝罪を行っている。
第三当裁判所の判断
一 本件の経緯
《証拠省略》及び争いのない事実によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告少年らと一郎の関係等
ア 被告一夫は、一郎とは小学校及び中学校の同級生であり、中学校の時には、一年生と三年生のクラスが同じであり、ともにテニス部に所属していたが、特に仲良くなることはなく、二人だけで遊ぶこともなかった。被告一夫は、中学校卒業後、実家である現住所地を離れ、東京都八王子市の作業所などで働いていたが、四月上旬ころ仕事を辞め、以後は実家で被告A田らとともに生活していた。
被告一夫は、被告一夫らが中学校三年生の時、被告二夫に見張りをさせて一郎に一方的に暴行を加えたことがあった。また、本件の数日前に、被告二夫に一郎を付近の小学校まで連れて来させ、暴行を加えたことがあった。
イ 被告二夫は、一郎と小学校及び中学校の同級生であり、小学校の時には休み時間等に遊ぶことがあったものの、中学校に入ってからは一緒に遊ぶことはなかった。被告二夫が、一月末ころ、被告一子と一緒にいた時、一郎とたまたま会い、三人で話をしたところ、一郎が被告一子に好意を持ち、被告二夫に紹介してほしいなどと言ったことから、一郎と一緒に遊ぶようになった。被告二夫は、二月ころから、一郎と週に一回ないし二回遊ぶようになっていたが、一郎を使い走りにしたり、一郎に飲食物やたばこなどの代金を払わせたりすることもあった。また、被告二夫は、一郎が被告二夫の気に入らないことをしたとして、一郎を叩くことがしばしばあった。
被告二夫は、本件の約一か月前である四月四日の早朝、被告一子の家で一郎らとともに麻雀をして遊んでいた際に、一郎に対して腹を立て、近くの公園に行って被告一子と二人で一郎に多数回にわたって殴る、蹴るなどの暴行を加え、更に、被告一子の家の裏手の林に移動して、被告一子や他の知人らとともに、合計六人で、数十回にわたり殴る、蹴るなどの暴行を加えた。被告二夫らは、一郎の体にあざなどができていたため、一郎の親に何か聞かれた場合には、一郎が川に落ちたことにするよう口裏合わせをした。
四月二〇日ころ、被告二夫は、被告一子とともに、一郎の態度が気に入らないとして、入間川付近のグラウンドで暴行を加えるなどした。
被告二夫は、被告一夫が、本件の数日前、一郎に上記アの暴行を加えている際、一郎の膝を蹴ったり、背中を殴るなどして、被告一夫の暴行に加わった。
五月二日の夜中、被告二夫や一郎が他の知人たちと話をしていた際、被告二夫は、他の知人たちが一郎の背中を蹴っていたとして、一郎の背中を思い切り蹴った。
被告二夫は、五月二日、被告二夫宅で、数人の知人とともに、一郎の顔に眉墨で落書きをし、被告松夫に「これはいじめではないのか。」と注意されたことがあった。
被告二夫は、五月五日、一郎の自宅の近くの林で、一郎の胸を殴ったり、一郎の脚を蹴ったりした。
被告二夫と被告一夫は、小学校及び中学校の同級生で仲も良く、中学校二年生ころからは、被告一夫の家でゲームをしたり、話をしたりして、二人で遊んでいた。被告二夫と被告一夫は、被告一夫の方が力関係が上であり、被告二夫は、被告一夫の使い走りなどをしたこともあった。
被告二夫と被告一子は、平成一一年五、六月ころに知り合い、同年一二月ころからは、週二回ないし三回程度、一緒に遊ぶようになった。
ウ 被告一子は、被告二夫を通じて一郎と知り合い、二月から四月ころまでは、週に一回ないし二回、一郎や被告二夫と遊んでいた。被告一子は、一郎の態度が気に入らないとして、一郎の頭や顔などを叩くことがしばしばあった。
被告一子は、三、四月ころ、一郎の眉毛を剃ったり、髪の毛を切ったりしたことがあった。また、被告一子は、上記イのとおり、四月四日及び四月二〇日ころに被告二夫とともに一郎に暴行を加えた。
被告一子は、平成一一年五月ころ、被告一子が同級生の家に遊びに行った際、被告一夫と知り合い、同年八月中旬ころまでは、一か月に一回程度一緒に遊んでいた。同年八月中旬以降は、被告一子と被告一夫は本件当日まで会っていなかった。
エ 被告三夫は、小学校三年生の時、当時小学校六年生であった被告一夫の自宅の近くに引っ越し、被告一夫と同じ通学班になったことから被告一夫と知り合い、一緒に遊ぶようになった。被告二夫とは、被告一夫に紹介されて知り合い、本件までに数回、一緒に遊んだことがあった。被告三夫と被告一子及び一郎は、本件以前に会ったことはない。
被告三夫は、テレビ等で格闘技を見て、格闘技に興味を抱いており、被告一夫に対し、数度、喧嘩の場面を見たいと話していた。
(2) 被告少年らによる本件の暴行
ア 被告二夫は、五月六日午後二時ころ、一郎と遊ぼうと思い、一郎に電話して、被告二夫の家に来るように言った。その後、被告二夫は、被告一子も遊びに誘い、午後三時ころ、三人で会って、「B野や」という駄菓子屋の前で話をしたり、ゲームをしたりするなどしていた。
被告一夫は、同日午後三時二〇分ころ、被告二夫の携帯電話に電話し、被告一子とも話をするうちに、同被告らの間で一郎に暴行をすることの相談がまとまり、午後四時ころにC山小学校付近で被告一子らと会うことになった。電話の後、被告一子は、一郎にこれから暴行する旨を告げた。一郎は、逃げると後日さらにひどく暴行されるため、被告一子らに従った。
イ 被告一子らは、同日午後四時ころ被告一夫と合流し、同日午後四時一〇分ころ、本件第一現場に到着した。
本件第一現場に到着すると、被告一夫が、一郎に対し、胸ぐらをつかんで問い質し、その体を突き飛ばした。次に、被告一子が一郎の胸ぐらをつかみ、多数回にわたり、一郎の体に殴る、蹴るなどの暴行を加え、被告二夫も被告一子とともに、多数回にわたって一郎の体に殴る、蹴るなどの暴行を加えた。被告同級生らは、二〇分程度にわたり、こもごも一郎に殴る、蹴るなどの暴行を加え続け、さらに、竹棒などで一郎の頭などを叩くなどした。
被告同級生らは、同日午後四時三〇分ころ、本件第一現場に人が来るかもしれないと考え、場所を移動して更に一郎に暴行を加えることにした。被告一夫は、喧嘩を見てみたいと言っていた被告三夫を誘おうと考え、被告三夫に電話してD川圏央笹井店(以下「D川」という。)に来るように誘った。被告同級生らと一郎は、被告三夫と合流するため、D川に向かった。
ウ 被告一夫は、午後五時ころ、D川に到着した被告三夫に被告一子と一郎を紹介した。被告少年らと一郎は、D川に入って食料品などを買った。
その後、被告少年らと一郎は、人目のない所として被告三夫が案内した本件第二現場に移った。
被告少年らは、本件第二現場において、しばらくD川で購入したものを食べるなどしていたが、やがて、被告同級生らが、一郎の行動について文句を言い始め、被告一子が、一郎を他の被告少年らからやや離れた所に連れて行き、一郎の腹を殴るなどの暴行を加え始めた。被告一夫と被告二夫もこれに加わり、被告同級生らは、それぞれ数回ないし一〇回程度にわたり、一郎の足や腹などを、殴る、蹴るなどした。一郎は、これに対し、「うーっ」「痛い」などの悲鳴をあげていたが、反撃や抵抗をすることはほとんどなかった。被告三夫は、本件第二現場においては、被告同級生らの暴行を見ていたが、自ら暴行を加えることはしなかった。
被告少年らが一郎に暴行を加えている際、本件第二現場付近を男性が通りかかったため、被告少年らは、暴行を加えている所を男性に見られたと考え、人目に付かない場所に移動することにし、被告三夫の案内で本件第三現場に移動した。
エ 被告同級生らは、本件第三現場において、それぞれ、一郎の胸、腹、頭などに、殴る、蹴るなどの暴行を加え、さらに倒れた一郎を無理矢理立たせて一郎の顔、腹、足などを殴る蹴るなどした。被告三夫は、当初、暴行には加わらず、被告同級生らの暴行を見ていたが、被告一子や被告一夫から被告三夫も暴行に加わるように言われ、被告三夫自身もテレビで見た格闘技の技を試してみたいと思っていたことから、被告同級生らの暴行に加わることにし、一郎の腹、胸、顔面などに殴る、蹴るなどの暴行を加え、かかと落としをするなどした。
その後も、被告同級生らは、それぞれ多数回にわたり、一郎の脇腹を蹴ったり、倒れて四つんばいになった一郎の背中に膝を落としたり、一郎を無理矢理立たせて更に腹を蹴るなどし、暴行を加え続けた。
同日午後七時ころ、辺りが暗くなってきたため、被告三夫は、被告一夫に夕飯までには帰らなければならないので帰宅したいと申し出、帰ろうとしたところ、被告一夫、一子らから帰る前にもう少し暴行を加えるよう言われたため、被告三夫は、一郎の背中、足、胸などに殴る、蹴るなどの暴行を加えた。その後、被告三夫は帰宅した。
(3) 暴行後の経緯
ア 被告三夫が帰宅した後も、被告同級生らは暴行を続けていたが、一郎が嘔吐するなどし、被告同級生らも疲れてきたため、被告同級生らは暴行を終えた。被告二夫は、一郎の顔のあざなどがひどかったため、一郎を帰宅させると一郎の親に暴行を加えたことがばれると考え、一郎を被告二夫の家に泊めることにし、とりあえず、一郎を中央公園に連れて行くことにした。被告一夫は、中央公園に向かう途中、帰宅すると言って被告二夫らと別れ、被告二夫、被告一子、一郎が中央公園に向かった。
イ 一郎は、同日午後七時三〇分ころ、中央公園に着いた後、大量の冷や汗をかき、公園のトイレの洗面台に血を吐くなどし、トイレを出た後も、すぐにしゃがみ込んで、気持ちが悪い、頭が痛いなどと訴えたので、被告二夫と被告一子は、一郎を公園のベンチまで運び、横にさせた。一郎は、横になって眠ったが、やがて、大きないびきをかき始め、口からよだれを流すようになった。
被告二夫は、同日午後九時三〇分ころ、一郎の様子がおかしいと感じたことから、耳元で大きな音で音楽を鳴らしたり、顔を叩いたりしたが、一郎は反応しなかった。一郎は、やがて、手足が冷たくなり、呼吸がなくなり、心臓も停止した。被告二夫は、被告一子に一郎が死亡したことを伝え、被告二夫と被告一子は、一郎に心臓マッサージや人工呼吸等を行ったが、一郎は蘇生しなかった。
ウ 被告二夫は、被告一夫に電話して被告一夫を中央公園に呼び出し、被告一夫に一郎が死亡したことを伝えた。被告一夫は、一郎の呼吸や心音を確かめ、一郎が死亡したことを確認した。被告一夫は、被告三夫に電話して呼び出した。被告一子は、被告三夫に一郎が死亡したことを伝えた。被告少年らは今後について、被告二夫が自首する、一郎を病院に運ぶ、埋めるなどの案を出して話し合ったが、被告少年らは、自分たちが一郎を殺害したことが親や警察に発覚することを恐れ、一郎の遺体を埋めて事件を隠蔽することに決め、一郎の遺体を本件遺棄現場に運び、五月七日の午前零時ころ、一郎の遺体を放置して遺棄した。被告少年らは、事件が発覚しないよう、口裏合わせをすることを決め、それぞれ帰宅した。
エ 五月一二日夜、被告一夫が警察に自首し、被告一夫の申告に基づいて一郎の遺体が発見されたことから、被告少年らによる本件が発覚した。
二 争点(1)(被告松夫、被告夏子の責任)について
(1) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
被告二夫は、中学校三年生ころ、被告一夫と付き合い始めたことから、不良仲間との付き合いが増えて、夜遊びなどをするようになった。
被告二夫は、中学生三年生ころから喫煙を始め、髪の毛を染めていた。高校入学後も、喫煙の習慣は続いていた。また、高校一年生の時、被告二夫が、被告松夫が寝ている間に被告松夫の原動機付自転車の鍵を持ち出し、友人に乗らせたところ、警察官に見つかり、乗っていた友人が警察に補導されて、被告二夫も警察官から注意を受けたことがあった。被告松夫は、これについて、被告二夫を叱ったが、その後、原動機付自転車を持ち出した経緯や、被告二夫も乗っていたかどうかについて問い質すことはなかった。
被告二夫は、高校一年生の終わりに、単位が不足したことにより、学校側から勧められて自主退学した。被告二夫は、高校一年生の時、病気等を含めて二週間程度の欠席をし、三〇回程度の遅刻をしていた。
被告松夫は、被告二夫が中学生の時、被告二夫のかばんにたばこが入っているのを偶然見つけ、被告二夫を叱ったことがあった。高校入学後の喫煙や、高校一年生の夏休みころ、夜の帰りが遅くなったことについても、被告松夫が被告二夫を注意したことがあった。
被告一夫との交際については、被告松夫は、被告一夫がバイクに無免許で乗っているのを知っていたことなどから、好ましくないと考えていたが、交際をやめさせることはなかった。
被告松夫は、五月二日に、被告二夫が他の知人とともに一郎の顔に落書きをしているのを見つけ、その場の雰囲気からいじめではないかと感じて被告二夫を注意し、一郎の顔の汚れを落とさせたことがあったが、その後、被告二夫に対し、上記の落書きのことについて問うことはなかった。
(2) 以上の事実に基づき判断する。
被告二夫は、中学校のころから不良交友、喫煙等の問題行動が始まり、家の原動機付自転車を持ち出して無免許運転するなど、規範意識の希薄さを窺わせる行動が見られた。被告二夫は、被告一夫に使い走りをやらされる立場に立つこともあったが、自ら被告一子らとともに一郎に対する暴行を相当期間にわたり継続していたなど、本件の逸脱行為に及ぶ可能性を抱えていたということができる。
被告松夫及び被告夏子は、被告二夫の喫煙等の問題行動、原動機付自転車の無免許運転の違法行為、不良交友、一郎の顔に落書きをするなどのいじめ行為に接するなど、親として同人の問題行動の状況を知りながら、これらの行為が有する意味について深く考えることもなく、一郎やその両親である原告らに問い合わせるなど事実関係について慎重に確認をすることも、これに基づく対策を講じることもせずに、言わば表面的な理解に基づき、問題行動を発見する都度、その場限りの注意をしてきたに過ぎない。このような表面的な対応により、被告松夫、被告夏子は、本件前の一郎に対して繰り返された暴行を看過していたのであり、これによって本件による一郎の死亡という最悪の事態に至ったということができる。
したがって、被告松夫及び被告夏子には、被告二夫に対する監督義務違反があり、民法七〇九条、七一九条により、原告らの損害を賠償する責任がある。
しかし、《証拠省略》によれば、被告松夫は、本件提訴後に自己破産の申立てを行い、平成一四年一月二三日、さいたま地方裁判所川越支部で免責許可決定を受け、同決定は平成一四年二月二〇日に確定していることが認められる。免責決定が確定した債務は、自然債務となり、訴えをもって訴求することはできないので、本件においても、被告松夫に不法行為責任があるとしても、被告松夫に対する請求を認めることはできない。
三 争点(2)(被告梅夫、被告冬子の責任)について
(1) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
被告三夫は、小学校三年生の時、当時小学校六年生であった被告一夫と通学班が一緒になり、被告三夫の姉が被告一夫の同級生であったことや、被告一夫の弟が被告三夫の三歳年下で、被告三夫と仲がよかったことなどから、被告一夫と付き合うようになった。被告一夫が実家を離れて就職した後は、被告一夫と被告三夫が会うことはなかったが、四月ころに被告一夫が仕事を辞め、実家に戻ってきてからは、被告三夫は被告一夫と頻繁に遊ぶようになり、被告一夫にスケートボードを教えてもらうなどしていた。また、それまでは夜間に外出することはなかったものの、被告一夫が戻ってきてからは、夜に被告一夫の家に遊びに行き、被告梅夫らから注意されることもあった。
被告一夫は、中学校に入学したときには茶髪であり、腹を立てると知人を殴るなどし、学校の指導に反抗して職員室に乗り込んだりするなど、生活態度が悪く、性格も暴力的であった。被告梅夫及び被告冬子は、被告一夫が暴力沙汰を起こしていることを知っていたが、被告一夫が被告三夫には親切であったことから、付き合いをやめさせようとは考えなかった。
被告三夫は、小学校六年生ころから格闘技に興味を持ち、被告一夫に対し喧嘩の場面を見てみたいと言っていた。
(2) 以上の事実に基づいて判断する。
被告三夫は、四月ころ、被告一夫が実家に戻り、被告一夫との付き合いが再開するまでは、素行等に特に問題があったとは認められないものの、被告一夫との付き合いが再開してからは、それまですることのなかった夜間の外出をするようになっていた。被告梅夫、被告冬子は、被告一夫が暴力沙汰を起こしていることを知っており、被告一夫が暴力沙汰を起こしてもおかしくない性格であることを感じていた。
被告三夫は、本件当時、一三歳と若年であり、友人や先輩等の影響を受けやすい年頃であった。また、一応の是非の弁別はできるとしても、自分一人でしっかりと物事の分別が付けられるほどの年齢ではなかった。
被告梅夫、被告冬子は、一三歳の子どもの親として、被告一夫との付き合いについてよく考え、被告三夫が夜に被告一夫と遊ぶことなどについても、被告三夫が被告一夫の影響を受け、暴力等に加担することをより懸念すべきであった。単独で逸脱行動に出る気配のない少年であっても、被影響性の強さから、集団で逸脱行動に加担する可能性は高い。特に、被告三夫は小学校六年生ころからテレビで見た格闘技に興味を持っていたことからすれば、格闘技という競技であっても、やり方次第では人の生命や身体を脅かしかねないことや、被告一夫の影響を受けて他人に対して暴力をふるったり、夜間に遊んだりしてはいけないということの指導を徹底しておくべきであった。
しかし、被告梅夫、被告冬子は、被告三夫と被告一夫の付き合いについて、深く問題視することはなく、多少の注意はしていたものの、本件当日の夜まで、被告一夫に引きずられないように強く注意することもなかった。また、格闘技についても、やり方を間違えれば危険なものであり、興味本位で他人に対して格闘技の技をかけるなどということは、決してしてはならないということについても、特に指導を行っていなかった。
とすれば、被告梅夫及び被告冬子には、被告三夫に対する監督義務違反があったというべきであり、結果として、被告三夫は、被告一夫に誘われる形で本件に加担し、一郎を死亡させるに至ったのであるから、被告梅夫及び被告冬子の監督義務違反があり、民法七〇九条、七一九条により、原告らの損害を賠償する義務がある。
四 争点(3)(損害額)について
(1) 逸失利益 各二二八五万八四六五円
一郎は、本件当時一六歳の男子であったから、一郎の逸失利益算定の基礎収入は、平成一二年度賃金センサス第一巻、第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者の全年齢平均収入五六〇万六〇〇〇円とするのが相当であり、生活費控除割合を五割として本件当時満一六歳であった一郎の満一八歳から満六七歳までの逸失利益を計算し、ライプニッツ方式により年五パーセントの割合による中間利息を控除し、逸失利益の本件当時の現価を計算すると、四五七一万六九三〇円となる。
五六〇万六〇〇〇円×(一―〇・五)×(一八・一六九―一・八五九)=四五七一万六九三〇円
原告らは、それぞれ二分の一の割合で一郎の上記逸失利益を相続した。
(2) 慰謝料 各一五〇〇万円
一郎は、原告らにとって最愛の長男であり、積極的に目の不自由な伯母の手助けをしたり、祖父母宅へ行き、祖父母の手伝いをするなどして、原告らのみならず、親族からも頼りにされ、愛される少年であった。一郎は将来、福祉の道に進むことを望んでおり、原告らは、一郎の成長をこの上なく楽しみにし、親として愛情を注ぎながら一郎を養育していた。
被告少年らは、本件暴行により一郎を死亡させたのみならず、一郎の遺体を遺棄し、原告らが必死に一郎を探し回っているさなかにも、原告らに対して協力するそぶりを見せながら嘘を言うなどして、執拗に本件を隠蔽しようとし続けた。このため、一郎の遺体は、死後約一週間にわたって発見されず、遺体の損傷が著しかったという点も軽視できない。
これらによる原告らの精神的苦痛は、まさに筆舌に尽くしがたい。
被告同級生らは、それぞれの供述調書において、一郎に対して暴力を加え続けてきた理由について、あたかも一郎にも非があったかのように述べているところがあるが、むしろ、本件は、被告同級生らが暴力に快感を覚え、一郎が抵抗しないことに乗じて、一郎には非がないにもかかわらず、一方的に難癖をつけ、自らの満足のために暴行をエスカレートさせていったものであることは明らかである。
本件の結果の重大性、一郎に対する加害行為の悪質性、遺体を遺棄し、犯行を隠蔽しようとした事件後の経緯等を考慮すれば、本件による原告らの慰謝料は、原告らそれぞれにつき、一五〇〇万円を下らない。
(3) 弁護士費用 各三〇〇万円
本件と相当因果関係のある弁護士費用は、原告らそれぞれについて三〇〇万円とするのが相当である。
(4) 合計 各四〇八五万八四六五円
以上を合計すれば、本件による原告らの損害額は、それぞれ四〇八五万八四六五円である。
五 まとめ
以上より、本件請求は、被告松夫を除く被告らに対し、各原告につき四〇八五万八四六五円及びこれらに対する不法行為の日である平成一二年五月六日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告松夫に対する請求及び同被告を除く被告らに対するその余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅香紀久雄 裁判官 水野邦夫 内藤由佳)
<以下省略>