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東京地方裁判所 平成12年(ワ)26676号 判決 2001年6月27日

原告

中山正明

ほか一名

被告

中島正之

主文

一  被告は、原告らに対し、各金二〇一八万九八五六円及びこれに対する平成一二年一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告中山正明に対し、二二〇七万〇八一六円、原告中山秀子に対し、二二〇七万〇八一六円及び同各金員に対するそれぞれ平成一二年一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により死亡した被害者の遺族である原告らが、被告に対し、自賠法三条及び民法七〇九条に基づき損害賠償を請求している事案である。

一  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実

(一)  本件事故の発生

ア 日時 平成一二年一月八日 午後九時四一分ころ

イ 場所 千葉県木更津市矢那四五〇八―四 県道木更津末吉線上

ウ 原告車両 中山輝(以下「輝」という。)が運転する原動機付自転車(木更津市か四六九〇)

エ 被告車両 被告が運転する普通乗用自動車(袖ヶ浦三三は五〇七二)

オ 事故態様 被告車両が対向車線に進出して、対向進行してきた輝に衝突し、輝は、頭蓋底骨折の傷害を負い、同日午後一一時一一分ころ死亡した。

(二)  責任原因

被告は、本件事故現場が追越しのための右側部分はみ出し通行禁止とされ、制限時速も毎時四〇キロメートルと規制されている上に、右方に湾曲する前方の見通しが困難な場所であるにもかかわらず、前車を追い越すべく被告車両を時速約七〇キロメートルに加速して対向車線に進出させた過失により、対向進行してきた原告車両を認め左転把したが間に合わず、転倒した輝の頭部に被告車両前部を衝突させて本件事故を発生させたものであり、原告らに対し、自賠法三条及び民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う(甲一〇の一ないし七)。

(三)  相続

原告らは、輝(昭和五八年一月一九日生)の両親であり、その相続分は各二分の一である(甲五)。

(四)  既払金 三〇〇〇万円

二  争点(損害額)

(原告らの主張)

<1> 逸失利益 四六九四万一六三二円

原告らは、長男の輝及び二男の聡並びに祖父母の六人暮らしで、代々専業農家であったが、平成二年には農事組合法人木更津水耕組合を設立して、従業員四人及びパート二人を雇い、ミニトマト等の施設園芸に従事しており、輝は、家業を引き継ぐばかりでなく、畜産を含めた総合農業経営を目指し大学進学を希望していた。輝は、少なくとも賃金センサス平成一〇年男子労働者学歴計全年齢平均賃金を得られたはずであり、生活費控除率を五〇パーセント、逸失期間に対応するライプニッツ係数を一六・四八として計算する。

五六九万六八〇〇円×(一-〇・五)×一六・四八

<2> 慰謝料 二二〇〇万円

輝及び原告らは、前記のとおり、大規模専業農家で何不自由のない生活をしており、将来ある生命を若くして失われた輝本人の無念と後継者を失った原告らの悲しみに対する慰謝料は、上記金額を下回ることはない。

<3> 葬儀費用 一二〇万円

輝死亡のため仏具購入、寺代等相当額を要したが、原告らは、葬儀費用の各二分の一を負担した。

<4> 小計 七〇一四万一六三二円

<5> 原告らは、各二分の一の割合で輝を相続し、既払金も各二分の一で損害に充当したので、各損害額は二〇〇七万〇八一六円である。

<6> 弁護士費用 各二〇〇万円

(被告の主張)

<1> 争う。逸失利益は、次のとおり四三五七万九七一二円である。

原告らが主張する事情を前提にすると、賃金センサス平成一〇年男子高卒全年齢平均賃金である五二八万八八〇〇円を基礎とするべきである。

五二八万八八〇〇円×(一-〇・五)×(一八・三三九-一・八五九)

<2><3> 争う。

第三争点(損害額)に対する判断

一  逸失利益 四三五七万九七一二円

輝は、本件事故時、県立君津農林高校に在学中の一六歳の男子であり(甲八の一、二)、本件事故に遭遇しなければ、卒業後一八歳から六七歳に達するまで就労が可能であり、その間、毎年、賃金センサス平成一〇年男子高卒全年齢平均賃金である五二八万八八〇〇円を得ることができるとみるのが相当である。原告らは、学歴計全年齢平均賃金を基礎に逸失利益を算出すべきであると主張するが、輝が、その家庭環境等にかんがみて、大学に進学する可能性があったことは否定できないものの、弁論の全趣旨によれば、輝が、高校卒業後家業である農業に従事する可能性も高く、大学への進学、卒業及びその時期についてはいずれも不確実であるといわざるを得ず、原告らの同主張は採用することができない。そこで、生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、輝の本件事故当時における逸失利益の現価は、次のとおり上記金額となる。

五二八万八八〇〇円×(一-〇・五)×(一八・三三九-一・八五九)

二  慰謝料 二二〇〇万円

輝がまだ若年であること、本件事故は、被告の一方的な過失によって引き起こされたものであり、本件事故の発生につき輝に全く過失がないこと、家族関係、生前の生活状況等一切の事情を考慮すると、輝が死亡したことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料は上記金額とするのが相当である。なお、上記金額は、原告らの固有の精神的苦痛の程度も含めて評価したものである。

三  葬儀費用 一二〇万円

証拠(甲六の一ないし七)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、輝の葬儀に関連して一二〇万円以上を支出したこと、葬儀費用は原告らが二分の一ずつ負担したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一二〇万円と認めるのが相当である。

四  相続及び損害の填補

輝及び原告ら固有の損害の合計は六六七七万九七一二円であり、原告らの相続分は各二分の一で、固有の損害額は同額であるから、原告らの各損害額は三三三八万九八五六円となり、既払金各一五〇〇万円を控除すると、一八三八万九八五六円となる。

五  弁護士費用

本件事案の難易、審理の経緯、請求額、認容額、その他諸般の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告らにつき各一八〇万円とするのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、各二〇一八万九八五六円及びこれに対する不法行為の日である平成一二年一月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却する。

(裁判官 鈴木順子)

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