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東京地方裁判所 平成12年(ワ)2789号 判決 2002年4月16日

原告

A野花子

他1名

上記二名訴訟代理人弁護士

宮川博史

被告

B山松夫

同訴訟代理人弁護士

阿部一夫

髙江満

佐々木龍太

安田信彦

同訴訟復代理人弁護士

島田浩樹

主文

一  被告は、原告A野花子に対し、一四〇九万〇九五二円及びこれに対する平成六年五月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告A野一江に対し、九五七万六八八四円及びこれに対する平成六年五月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告A野花子に対し、六五二二万七七六八円及びこれに対する平成六年五月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告A野一江に対し、四四七九万四五二二円及びこれに対する平成六年五月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

なお、本件は、原告両名について一部請求となっている。

第二事案の概要

本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告らが被告に対して、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条に基づいて、それぞれ損害の賠償を請求している事案である。

一  前提となる事実

(1)  本件事故の発生

ア 発生日時 平成六年五月三一日午後九時一〇分ころ

イ 事故現場 神奈川県横浜市中区本牧和田三四番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

ウ 加害者 普通乗用自動車(横浜《省略》、以下「加害車両」という。)を運転していた被告

エ 被害者 軽自動二輪車(一横浜《省略》、以下「被害車両」という。)を運転していた原告A野花子(当時の姓は「C川」、以下「原告花子」という。)及び同車両に同乗していた原告A野一江(当時の姓は「C川」、以下「原告一江」という。)

オ 事故態様 原告花子が被害車両を運転して本件事故現場の交差点(以下「本件交差点」という。)を直進していたところ、前方から加害車両が右折してきて被害車両に衝突した。

(2)  被告の責任原因

被告は、加害車両を自己のために運行の用に供していたものであり、かつ、本件事故現場に進入するにあたり、前方側方を注視し、かつ信号表示に従う義務があるのにこれを怠り、赤信号で右折するなどの過失により本件事故を発生させたのであるから、自賠法三条、民法七〇九条により、原告らに生じた損害について賠償すべき責任がある。

(3)  原告らの負った傷害、治療経過及び後遺障害等

ア 原告花子

(ア) 原告花子は、本件事故により左大腿骨開放骨折、左前腕開放骨折、外傷性くも膜下出血、顔面挫創、右大腿挫創の傷害を受け、平成六年五月三一日から平成九年六月一六日まで一一一三日間入院し、同月三〇日から同年一〇月二九日まで通院し、同年一一月四日から同年一二月二六日まで五三日間入院し、平成一〇年一月六日から同年一一月二五日まで通院して同日症状固定した(ただし、甲第三号証の後遺障害診断書上は平成一〇年一二月三日に症状固定となっている。)。入院日数は一一六六日(原告花子は一一九六日と主張するが、入院期間が原告花子主張のとおりであったとして一一六六日である。)、実通院日数は九〇日である。

(イ) 原告花子は、自動車保険料率算定会調査事務所(以下「調査事務所」という。)において、次のとおりの自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)の併合五級の後遺障害の認定を受けた。

左膝関節機能障害 八級七号

(左下肢短縮障害 一三級九号)

顔面醜状 七級一二号

左大腿部醜状 一四級五号

採骨による骨盤変形 一二級五号

以上により併合五級

イ 原告一江

(ア) 原告一江は、本件事故により、左大腿骨骨幹部骨折等により、平成六年五月三一日から同年八月二日まで六四日間入院し、同月四日から平成八年三月一二日まで通院し、同月一三日から平成九年八月三日まで五〇九日間入院し、同年九月一六日から同年一一月七日まで通院し、同月一七日から同年一二月二九日まで四三日間入院し、同月三〇日から平成一〇年一〇月六日まで通院し、同日症状固定した(ただし、甲第四号証の後遺障害診断書上は平成一〇年一〇月一五日に症状固定となっている。)。入院日数は六一六日(原告一江は五六九日と主張するが、入院期間が原告一江主張のとおりであったとして六一六日である。)、実通院日数は一五三日である。

(イ) 原告一江は、調査事務所において、次のとおり等級表の併合一一級の後遺障害の認定を受けた。

左大腿骨変形 一二級八号

骨盤骨変形 一二級五号

左下肢醜状 一四級五号

二  争点及び争点に対する当事者双方の主張

(1)  事故態様(過失相殺)

(被告)

本件事故現場は、信号機により交通整理の行われている交差点であり、被告は、交差点手前で対面信号が青から黄色に変わり、さらに直前で信号が赤に変わったが、対向車線を直進してきた原告花子運転の被害車両とは約五五・五mの距離があったので、被害車両は、交差点手前で停止するものと考え、そのまま交差点に進入、右折を開始し、ほぼ右折を完了しかけたところ、加害車両の左後部に、赤信号を無視して交差点に直進してきた被害車両が猛スピードで衝突したものである。

このような事故態様によれば、被害車両は、明らかに赤信号を無視して交差点内に進入し、制限速度時速五〇kmを少なくとも一五km以上上回る猛スピードで、「既右折」の状態にあった加害車両に衝突したものであるから、七割の過失相殺がなされるべきである。

なお、被害車両の運転者であった原告花子は、当時未成年者であった原告一江の母であり、原告一江とは経済的に一体であった(「財布が一つ」の関係)から、原告一江との関係でも、民法七二二条二項の被害者ということができ、過失相殺が適用される。

(原告ら)

本件事故は、加害車両及び被害車両の双方が黄色信号で交差点に進入した後赤信号で衝突したもので、しかも、加害車両は、直進してくる被害車両の存在を認識していながら、進行して来ないものと軽信して減速することなく直近を右折しているものであるから、右折車両である加害車両に著しい過失のある事案である。

また、本件は加害車両側が既右折だったのではなく、減速することなくいきなり右折してきたのであり、一方、被害車両が高速で交差点に進入したという的確な証拠はない。

これらの点を考慮すると、被害車両側に過失があってもそれはごくわずかであり、せいぜい一〇%とみるのが相当である。

(2)  損害額

損害の算定に関する当事者双方の主張は、「裁判所の判断」の中で適宜具体的に指摘するが、ここでは、原告らと被告間の主要な対立点について、簡潔に記載する。

ア 後遺障害逸失利益算定に関する問題

(ア) 中間利息控除の基準時

(被告)

将来にわたる逸失利益の算定においては、遅延損害金の起算日である不法行為時の現価に引き直して算定されるべきである。すなわち、不法行為に基づく損害は、不法行為時に一定の内容のものとして発生しているものであり、それ故に遅延損害金の起算日も不法行為時とされている。中間利息を控除するときに、不法行為時における現価を求めるのではなく、症状固定時における現価を求めるのであれば、不法行為時から症状固定時までの中間利息を被害者側において不当に利得することになる。後遺障害による逸失利益の場合、加害者である被告は、症状が固定するまでの間はただ待つしかないのであり、不法行為時から症状固定までの中間利息を被害者である原告らが利得することを正当化すべき事由は存在しない。

したがって、本件において後遺障害に基づく逸失利益を算定する際には、事故時から六七歳までのライプニッツ係数から事故時から症状固定時までのライプニッツ係数を差し引いたものを用いて中間利息を控除すべきである。

仮に、逸失利益の現価算定の基準時を症状固定時とするのであれば、その論理必然の結果として遅延損害金についても、症状固定日以降の日から発生するものと解すべきである。

(原告ら)

後遺障害の逸失利益を算定する際の基準時は、症状固定時とするのが最高裁も含めて実務の大勢である。

(イ) 中間利息の控除割合

(原告ら)

現在は低金利時代が続いており、五パーセントのライプニッツ係数で中間利息を控除すると、被害者に不利になりすぎる面がある。したがって、将来全部とはいうわけではなくとも、症状固定から一〇年間は二%、その後は五%の割合によって中間利息を控除すべきである。

(被告)

中間利息の控除は、逸失利益の現価を算定するために将来の弁済期までの運用利益を控除するものであり、遅延損害金を付すること等とは性質が異なるが、民法の制定当時上記利息及び遅延損害金の割合が五%に定められたのは、当時の我が国及び諸外国の一般的な貸付金利や法定利率を参考にしたもので、運用利益を考慮した結果であるし、また、長期にわたる逸失利益を算定するに際し、その間の貸付金利等の推移を客観的かつ高度の蓋然性をもって予想することは困難である。近年我が国の公定歩合及び銀行金利等が年五%を大きく下回る水準で推移していることは事実であるとしても、これはいわゆるバブル経済の崩壊によって生じている極めて特異な現象と見るべきであって、このような状態が永続するものと即断することはできない。

(ウ) 原告一江の基礎収入

(原告一江)

原告一江は、事故時において一七歳という可塑性に富む年齢であった。女子労働者に対しては、近時立法を含めて待遇の改善が図られつつあり、女性が男性並みに男性と同等に働くことを容易に選択できる社会状況になりつつある。したがって、原告一江の後遺障害による逸失利益を算定するに当たっては、女子労働者の平均賃金ではなく、男女を含む全労働者の平均賃金をもって算定するのが相当である。

(被告)

年少者であっても女子については、女子労働者の平均賃金を基礎収入として用いた判決が最近においても言い渡されているところであり、必ずしも、原告一江の主張が実務的に採用されているわけではない。

また、仮に、未就労の女子の逸失利益を算定するに当たり、全労働者平均賃金を用いることが認められるとしても、それは、中学生ぐらいまでであり、本件の原告一江は、高校卒業後専門学校の歯科衛生士科に進学することが決まっていた。歯科衛生士は、法律上女子のみが就くことができる職業であり、補助的仕事に就く就労であるから、原告一江は、これまで女性が選択することが容易でなかった道や男性が占めていた職場への進出を選ぼうとしていたのではないことが明らかである。

したがって、原告一江について逸失利益算定に当たり全労働者の平均賃金を基礎収入とすることはできない。

(エ) 労働能力喪失率

(原告花子)

原告花子は、本件事故の後遺障害として、左大腿筋力低下、可動域制限、歩行障害(連続歩行五〇〇mまで、跛行認める)徒手筋力テストの結果が悪く、左大腿部、腸骨、左前腕、右大腿に計九か所、全長九〇cm以上の瘢痕を残し、前記のように等級表の併合五級の認定を受けており、主婦労働にも大きな支障がある。

したがって、原告花子は、症状固定年齢である四九歳から六七歳までの間、その労働能力を少なくとも七九%喪失したものである。

(被告)

原告花子が主張する後遺障害(調査事務所で認定されたものを含む)のうち、顔面醜状、左大腿部醜状、及び採骨による骨盤変形については、被害者の年齢、性別、職業からみて必ずしも労働能力を喪失させるものではない。

(原告一江)

原告一江は、本件事故の後遺障害として、左股関節、左膝関節の可動域制限、両側骨盤部左大腿部に八か所全長五〇cm以上の瘢痕を残し、左大腿骨の屈曲変形治癒、左大腿部皮膚瘢痕による皮膚及び筋肉のひきつれがあり、前記のとおり、調査事務所によって等級表の併合一一級の認定を受けているが、調査事務所により認定を受けていない腹部醜状、左股関節の機能障害、左膝関節の機能障害も実際には大きな障害があり、これらの各部の障害は通常の後遺障害等級では評価しきれない状況であるから、等級表一〇級と同様の評価をすべきである。

したがって、原告一江は、症状固定年齢である二一歳から六七歳までの間、その労働能力を少なくとも二七%喪失したものである。

(被告)

被告一江の後遺障害と認められているものは、左大腿変形、骨盤骨変形及び左下肢醜状であり、これらはいずれも労働能力を喪失させるものではない。

イ 原告一江の休業損害について

(被告)

原告一江は、本件事故がなければ高校卒業後の平成八年四月から就労したものとして症状固定時までの休業損害を請求しているが、原告一江は、平成八年四月から医療法人D原専門学校の歯科衛生士科に入学することが決まっており、入学時納付金を納入済みであった。したがって、上記専門学校に在学するはずであった期間は、休業損害の算定期間に含まれない。

第三裁判所の判断

一  争点(1)(事故態様)について

ア  《証拠省略》によれば、以下の事実を認定することができる。

① 被告は、加害車両を運転して、麦田町方面から本件交差点に時速約四〇kmで走行・接近していた。

② 被告は、本件交差点を右折しようと、右折の合図を出して減速・走行していたところ、交差点手前の停止線より約一二メートル手前(別紙図面②と停止線の距離)で対面信号が青から黄色に変わるのに気付いたが、そのまま右折しようと進行し、交差点手前の横断歩道上では、信号が赤になり、また、対向車線の歩道側の車線を被害車両が走行して来ているのに気付いたが、被害車両が停止するものと考えてそのまま、交差点に進入して右折を開始した。

③ 一方、原告花子は、後部座席に原告一江を乗せて被害車両を運転し、根岸町方面から本件交差点に向かって進行していた。被害車両の対面信号は、被害車両が本件交差点手前の停止線より少なくとも約一〇メートル以上前の地点で赤に変わっていた。

④ 原告花子は、対向車線の加害車両を、同車両が交差点に進入する前に、対面信号が青から黄色に変わるのと同じ頃に発見認識したが、自分の方が直進であることから加害車両が停止してくれるものと考え、時速約五〇から六〇kmで直進進行した。

⑤ 加害車両と被害車両は、本件交差点の本牧緑が丘方面出口付近で衝突したが、その際の両車両の衝突部位は、被害車両の前部と加害車両の左側面中央付近であった。

イ  以上の事実が認定でき、これに反する証拠は信用できない。

(ア) 原告らは、被害車両も黄色で交差点に進入したものと主張しているが、被害車両は明らかに赤になってから交差点に進入したものと認められる。

なぜなら、乙第五号証(E田春子の警察官調書)及び第六号証(A田夏子の警察官調書)によれば、E田春子及びA田夏子の両名は、事故当時被害車両と同一方向に自転車で進行していた者であるが、交差点手前の停止線よりさらに約一〇m又はそれ以上手前で対面信号が赤になったので停止しようとしていたところ、後方から被害車両が速い速度で追い越していったと説明しており、これらの供述はその目撃状況に照らし十分信用できる。

したがって、被害車両は、対面信号が赤に変わっていたにもかかわらず、相当な速度で交差点に進入したことが明らかである。

(イ) 一方、加害車両は、交差点の手前で右折に伴う減速はしたが、交差点に進入してからさらに減速又は徐行はしていない。この点は乙第二号証(B野秋夫の警察官調書)により明らかである。

(ウ) 被告は、加害車両が既右折であったこと、及び被害車両が制限速度(時速五〇km)を少なくとも一五km以上上回る速度であったとも主張している。

前記認定のとおり、本件事故が、加害車両からみて、交差点の出口付近で起きていること、及び認定される両車両の衝突部位等を考慮すると、加害車両は右折を完了する間際に本件事故を惹起したものと評価することができる。しかし、被害車両の速度については、制限速度を超過していたのではないかと考えることは十分可能ではあるが、時速にして制限速度を一五km以上超過していたものと認めるべき的確な証拠はないと言わざるを得ない。

ウ  上記認定の本件事故態様に照らせば、被害車両が単車であり、加害車両が四輪車であることを考慮しても、被害車両側に四五%の過失があるものと認めるのが相当である。

エ  なお、本件事故の被害者である原告花子は、被害車両を運転していたものであるから、当然その賠償額については過失相殺の措置を受けるが、本件においては原告一江についても同様である。

原告一江は、被害車両に同乗していたものであり、原告一江から見れば、本件事故は被告と原告花子の共同不法行為ということになり、同乗していた事実のみで過失相殺されることはない。しかし、原告一江は、原告花子の子であり、事故時においては満一六歳であり、現在は、離婚した原告花子とともにオーストラリアにおいて二人で居住しているものであるから、原告花子は、原告一江と身分上ないしは生活関係上一体をなすと見られる関係にあるから、原告一江の賠償額を算定する際にも、原告花子の過失を斟酌することが許される。

したがって、本件においては、原告花子及び原告一江の双方の損害について過失相殺が適用される。

二  争点(2)(損害額)について

カッコ内に原告らの請求額を示す。

ア  原告花子の損害

① 治療費 七二四万八七二二円 (原告花子の請求どおり)

当事者間に争いがない。

② 入院雑費 一七四万九〇〇〇円 (一七九万四〇〇〇円)

原告花子は、本件事故による傷害のため、一一六六日間の入院加療を要した。その間に要した雑費を一日あたり一五〇〇円として、一七四万九〇〇〇円の入院雑費を要したものと認めるのが相当である。

③ 休業損害 一三〇九万四〇四二円 (一五五八万三三二七円)

原告花子は、本件事故日から症状固定日(平成一〇年一二月三日)まで、主婦としての労働を全くできなかったものとして、平成一一年の女子労働者の賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金である年収三四五万三五〇〇円を基礎収入として、一五五八万三三二七円の休業損害があったものと主張している。

(計算式)

345万3500円×(215日÷365+3年+337日÷365日)=1558万3327円

しかし、原告花子の休業損害を算定するには、まず基礎収入として、本件事故のあった平成六年当時の賃金センサスを用いるべきであり(女子労働者産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金は三二四万四四〇〇円)、また、入院期間一一六六日を除いては、原告花子が主婦であることから、家事労働が現実にどの程度できなかったのかを考慮して算定すべきである。《証拠省略》によれば、退院後は、原告一江に手伝ってもらうなどしながらも、ある程度は家事を行っていたものと認められるから、この間の休業率は原告が主張するように一〇〇%ではなく、後述する原告花子の後遺障害の労働能力喪失率をも考慮し、退院時においては、症状固定までの間平均して六五%の休業率であったと認めるのが相当である。

よって、原告花子の休業損害は、次の計算式によって求めることができる。なお、事故日から症状固定日までは一六四八日、平成八年は三六六日である。

324万4400円×(215日÷365日+2+220日÷365日)+324万4400円×0.65×(482日÷365日)=1035万5413円+278万4850円=1314万0263円 (いずれも、小数点以下は切り捨て。以下同じ。)

④ 入院付添費 一八〇万円 (三四三万八〇〇〇円)

原告花子は、前記入院期間中、当初の九か月間は毎日、その後の六か月間は二日に一回、その後は一週間に二回の付添を受けたので、その付添費は、三四三万八〇〇〇円になると主張している。

(計算式)

6000円×(30日×9+30日×6÷2+(1196日-270日-180日)÷7×2)=343万8000円

しかし、原告花子の入院していた病院では完全看護であったから、入院期間中すべてについて付添が必要であったとは認められない。《証拠省略》によれば、事故後約一〇か月で自分である程度動きができるようになったとしているから、約一〇か月間すなわち三〇〇日は近親者による付添が必要だったものと認めるのが相当である。実際に入院していた時期を考慮し、その費用を一日六〇〇〇日として、一八〇万円を認定する。

⑤ 交通費 二〇〇万六八八〇円 (原告花子の請求どおり)

原告花子の通院交通費、入院付添交通費、原告一江の通院交通費、入院付添費を合計した金額である。明細は別表のとおりであり、被告側が認めた金額である(途中からは交通費を二分の一しか認めなくなったので、その分は二倍にしてある。)。

《証拠省略》によれば、被告側の保険会社も原告らの傷害が重篤であることを考慮して、交通費を相当認めていたものと推認されること、及び原告らが足に傷害を負ったことから移動に関してタクシーを利用していたものと推認されることからして、原告主張の金額程度の交通費を要したものと認めて差し支えない。

⑥ 入通院慰謝料 六〇〇万円 (七〇〇万円)

原告花子は、本件事故により極めて重傷を負い、長期の入通院を余儀なくされ、長期の入院及び重度の後遺障害を主な原因として夫の女性問題で離婚まで余儀なくされたとして、入通院慰謝料としては七〇〇万円が相当であると主張している。

原告花子の主張するとおり、原告花子の負った傷害は極めて重く、合計すると三年以上にわたる入院生活を余儀なくされ、さらには、結果として配偶者と離婚せざるを得なくなった(離婚したのは症状固定後ではあるが、入院中から関係は思わしくなかったようである。)という事情も認められるところである。これらの事情を総合すれば、入通院慰謝料として六〇〇万円を認めるのが相当である。

⑦ 逸失利益 一九九七万五九七一円 (三八九七万二一七四円)

a 原告花子は、前述のとおり、症状固定年齢である四九歳から六七歳までの一八年間少なくとも七九%の労働能力を喪失したと主張し、また、逸失利益の現価を求めるに当たり、中間利息控除の基準時は症状固定時であり、現状の低金利時代を考慮すれば、症状固定時から一〇年間は年二%、その後は五%として算定するのが妥当であると主張している。

(計算式)

345万3500円×0.79×14.2846=3897万2174円

b まず、原告花子の労働能力喪失率について検討する。

原告花子について認められている後遺障害のうち最も等級の高いものは顔面醜状によるものであるが、顔面醜状は機能障害ではない上、一般に主婦の場合、顔面醜状があるが故に主婦労働について実質的な支障があるとは考えにくい。次に左膝関節の機能障害は、まさに機能障害として主婦労働についても相当な支障をきたすものと認められる。採骨による骨盤骨変形は、機能障害としては大きなものをもたらさないと考えられ、左大腿部醜状も機能障害としてはほとんど問題とならないであろう。

このような原告花子の後遺障害の具体的な部位、態様からみれば、等級表上では併合五級であっても、現実の労働能力喪失率は六〇%と認めるのが相当である。

c 中間利息の控除割合

たしかに、原告らが主張するように、近年の預貯金金利が極めて低い状態で推移していることは公知の事実であり、中間利息の控除が、将来のある時点までの運用利益を控除するものである以上、このような市場金利の割合と無関係であるということはできないであろう。

しかしながら、破産法四六条五号、会社更生法一一四条及び民事再生法八七条等が、将来の債権の現価評価する際に法定利率によることとしていることからすれば、現行法の趣旨としては、中間利息を控除する際は、特段の事情のない限り法定利率によることとしているものと解されるし、また、将来長期にわたる金利の推移を客観的かつ高度の蓋然性をもって予測することは困難であり、原告らの主張するようにたとえ一〇年という一定の期間であっても、その期間現在のような低金利の時代が続いているものと蓋然的に認定することも困難であろう。さらには、中間利息の控除というような損害額算定のいわば技術的な問題で、個々の事例ごとに別々の控除割合を認めると、損害賠償実務の迅速かつ安定的な処理に支障をきたすおそれが大であり、場合によっては個々の被害者間に不平等をもたらすことにもなろう。

したがって、たしかに、現状だけをみれば、年五%の割合で中間利息を控除することが、被害者側に不利な算定方法であることは否めない(この点は慰謝料で考慮しうる。)が、法定利率をもって中間利息を控除することが、不合理であるとまではいえない。

d 中間利息控除の基準時

一般にある不法行為に基づく損害は、当該不法行為時に一定の内容のものとして発生していると考えられており、遅延損害金も損害全体に対して不法行為時から起算されているところである。

したがって、後遺障害逸失利益を算定するに際し、不法行為時に遡って控除せず、症状固定時を基準に中間利息を控除すれば、不法行為時から症状固定時までの中間利息を不当に利得することになるとの被告の指摘は正当であり、裁判例において、症状固定時を基準に中間利息を控除しているのは、算定の際の計算の仕方が簡便であること及び被害者にとって不利にならないことから採用されているものと思料されるが、本件のように不法行為から症状固定までに約四年半も経過している事案においては、前記の被告指摘にかかる問題点が無視できないものと認められるから、不法行為時を基準に中間利息の控除を行うのが相当である。

ところで、現在、中間利息を控除する際には、複利式のライプニッツ係数を用いるのが通例であるが、不法行為時から症状固定時までの期間はすでに経過している期間であり、その間の利殖の可能性がない一方、年五%の遅延損害金(単利と解されている。)が付されることになる。これらの点を考慮すると、一般的には複利のライプニッツ式で中間利息を控除するのが相当であるとしても、事故時から症状固定時までの中間利息の控除には、単利の新ホフマン式を用いるのが相当である。したがって、年五%のライプニッツ係数を用いて症状固定時における現価(年金)を求め、それをさらに不法行為時を基準として中間利息を控除するために、不法行為時から症状固定時までの年数、本件では四年の新ホフマン係数(年五%)によって現価を求めることとなる。

なお、基礎収入は、症状固定時の平成一〇年の賃金センサスを用いる(三四一万七九〇〇円)。

341万7900円×0.6×11.6895=2397万2125円

2397万2125×0.8333=1997万5971円

⑧ 後遺障害慰謝料 一七〇〇万円 (一五〇〇万円)

原告花子に残存する後遺障害の内容、及び顔面醜状等は労働能力喪失率の判定の際には考慮していないこと等をも斟酌して後遺障害慰謝料としては一七〇〇万円とするのが相当である。

⑨ 将来の治療費 認定額 なし (三八万〇七六三円)

原告花子は、現在も後遺障害に基づく顔面の腫れなどのため、帰国して治療を余儀なくされている。そのための治療費及び帰国費用等は、合計三八万〇七六三円となる(一オーストラリアドルは六五円と換算している。)と主張している。

しかしながら、症状固定によって一般に考えられる治療が終了した後の治療費は、特段の事情がない限り、賠償の対象にはならないと考えるべきであり、本件でも、原告花子のような症状に対して、どのような治療が必要となるのか具体的に明らかになっているとはいえず、特段の事情があるとはいえない。

⑩ 自動二輪の物損 一〇万円 (三〇万円)

原告花子は、本件被害車両は、代金三九万円、分割経費込みで四七万九七〇〇円で購入したものであるから、事故時の時価及び廃車諸費用として、三〇万円の損害を主張する。また、被害車両は、原告花子が支払のすべてを負担しているので、実際は原告花子の所有であるとしている。

《証拠省略》によれば、被害車両は、平成二年七月に代金三九万円で購入したものであり、たしかに、クレジットの申込人はC川太郎となっているものの、支払の引落し口座は原告花子名義(ただし、原告花子の事故当時の姓であるC川である。)になっているから、原告花子の所有であったと認めることができ、事故時の時価については時間の経過等を考慮し、物損全体として、一〇万円を損害として認めるのが相当である。

⑪ 損害小計 六九〇二万〇八三六円 (九一七二万三八六六円)

⑫ 過失相殺後の額 三七九六万一四五九円

前述のとおり、本件においては四五%の過失相殺をすべきであるから、原告花子が賠償を受けるべき金額は、三七九六万一四五九円となる。

⑬ 自賠責保険受領分に相当する遅延損害金 三九二万二〇六三円 (原告花子の請求どおり)

本件事故は平成六年五月三一日に発生しているが、原告花子は後遺障害分の自賠責保険金一五七四万円を平成一一年五月二四日に受領したから、事故発生日から支払日までの支払額に対する確定遅延損害金は三九二万二〇六三円である。

(計算式)

1574万円×0.05×(215日÷365日+4年+144日÷365日)=392万2063円

⑭ 損害のてん補 合計二九〇九万二五七〇円

原告花子は、被告側の自賠責保険から一五七四万円、被告側から一三三五万二五七〇円の合計二九〇九万二五七〇円の支払を受けた。

⑮ 小計 一二七九万〇九五二円 (六六五五万三三五九円)

⑯ 弁護士費用 一三〇万円 (六六五万五〇〇〇円)

原告花子が原告ら代理人に本件訴訟の提起・追行を委任したのは、当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、認容額、審理経過等を勘案し、被告に賠償を求めることができる弁護士費用としては一三〇万円が相当である。

⑰ 合計 一四〇九万〇九五二円 (七三二〇万八三五九円)

イ  原告一江の損害

① 治療費 三三五万〇八八一円 (原告一江の請求どおり)

当事者間に争いがない。

② 入院雑費 九二万四〇〇〇円 (八五万三五〇〇円)

原告一江は、本件事故による傷害のため、六一六日間の入院加療を要した。その間に要した雑費を一日あたり一五〇〇円として、九二万四〇〇〇円の入院雑費を要したものと認めるのが相当である。

③ 休業損害 三七二万四二四四円 (六四〇万〇六七二円)

原告一江は、次のように休業損害を請求している。

すなわち、原告一江は本件事故時は高校生であったが、本件事故により、高校を卒業できた平成八年四月一日から平成一〇年一〇月一五日まで稼働することができなかった。

また、原告一江は、事故時一七歳であった可塑性に富む年齢であったから、全労働者(男女計)の学歴計の平均賃金を基礎収入とすべきである。一八歳、一九歳の平均賃金は二三二万五七〇〇円であり、二〇歳の平均賃金は三〇三万八七〇〇円であるから、原告一江の休業損害は、以下のとおり、六四〇万〇六七二円となる。

232万5700円×(275日÷365日)+232万5700円+303万8700円×(279日÷365日)=640万0672円

しかし、原告一江は、本件事故当時高校二年生であり、当時においては高校卒業後就職する意思があったとは認められないし、高校三年生になって歯科衛生士になるための専門学校(二年間)に進学することを考え、実際に入学したが、一年間の休学を経て、本件事故による受傷のため、立って行う仕事である歯科衛生士になるのは無理と判断して退学したものと認められる。これらの事実によれば、原告一江が高校を卒業した平成八年四月から一年間は自己の判断で歯科衛生士になることを考えて専門学校に在籍していた時期であるから、この間の休業損害を請求することはできないが、専門学校を退学した後は本来稼働してしかるべきであるにもかかわらず、本件事故による受傷のために稼働できなかったものと考えられるから、平成九年四月一日から症状固定日である平成一〇年一〇月一五日までの休業損害を請求することはできる。

なお、この間の休業損害を算定する際の基礎収入としては、女子の高校卒の年齢別の平均賃金を用いるべきである(女子の平均賃金を使うことについては後述)が、平成九年の一八歳から一九歳のそれは二一〇万一〇〇〇円、平成一〇年の二〇歳から二四歳のそれは二七一万三八〇〇円であるから、以下の計算式によって休業損害を求めることができる。

210万1000円×(275日÷365日)+271万3800円×(288日÷365日)=158万2945円+214万1299円=372万4244円

④ 入院付添費 三八万四〇〇〇円 (一三五万六〇〇〇円)

原告一江は、次のように主張して入院付添費を請求している。

すなわち、原告一江は、前記入院期間中、当初の三ケ月間は毎日、その後は一週間に二回の付添を受けたので、その費用は一三五万六〇〇〇円となる。

(計算式)

6000円×(30日×3+(568日-90日)÷7×2)=135万6000円

しかし、原告一江は、当初平成六年五月三一日から同年八月二日までの六四日間の入院治療を受けたが、その後に入院したのは平成八年三月のことであり、その間の期間は退院していたのであるから、当初三か月間入院付添を受けたとの主張は不可解であり、事故後一年九か月以上も経過した後の入院について付添が必要だったと認めるべき事情は立証されていない。

したがって、原告一江の受傷の程度、当時の年齢等を考慮して、近親者による付添費用を認められるのは、当初の入院の六四日間のみである。なお、この期間は原告花子も入院していたが、原告花子は主として健生会朝倉病院に入院中であり、原告一江は横浜赤十字病院に入院していたのであるから、当時の家族(当時の原告花子の夫と同原告の息子)が原告両名を分担して付き添っていたものと認めることができる。一日当たりの費用は六〇〇〇円とするのが相当である。

よって、入院付添費は、三八万四〇〇〇円である。

⑤ 学費 六二万円 (原告一江の請求どおり)

原告一江は、専門学校の学費として六二万円を請求している。《証拠省略》によれば、被告側の保険会社が原告一江の「看護学校学費分」を支払っていることが認められ、《証拠省略》をも併せ考えれば、原告一江が専門学校に行こうとして結局本件事故のために退学せざるを得なかったという意味で、六二万円の損害があったものと認めることができる。

⑥ 入通院慰謝料 四二〇万円 (六〇〇万円)

原告一江は、本件事故による入通院のための精神的苦痛を慰謝するためには、六〇〇万円が相当であると主張している。

原告一江が本件事故によって受けた傷害の部位・程度、及び入通院状況等を考慮すれば、原告一江の入通院慰謝料は、四二〇万円とするのが相当である。

⑦ 逸失利益 一〇一八万四九三四円 (三〇二五万一一七三円)

a 原告一江は、後遺障害による逸失利益を算定するにあたり、基礎収入として男女計の全労働者平均賃金(学歴計全年齢平均)、労働能力喪失率として二七%、中間利息の控除率については、当初の一〇年間は二%、その後は五%で算定すべきであると主張している。

(算定式)

496万7100円×0.27×22.5567=3025万1173円

b 原告一江の労働能力喪失率について

原告一江は、左大腿骨変形、骨盤骨変形、左下肢醜状の後遺障害を負い、現状においても左膝の上部に骨が突起しており、膝の動きも原告一江の努力にかかわらず未だ通常の状態ではないし、股関節も日常生活にさほどの支障はないようだが左右で稼働域に違いがあり、正座に近い姿勢を取ると膝周辺が痛く、左大腿部の瘢痕(左下肢醜状)は触れると痛みがある。原告一江は、現在オーストラリアで勉学に励んでいるが、上記の後遺障害のために労働能力を制限されているものと認められ、原告一江の年齢をも考慮すればその割合は二〇%と認めるのが相当である。

c 基礎収入について

原告一江は、原告一江が受傷時に一七歳の高校生であり、可塑性に富む未就労の女子であったことから、賃金センサスの全労働者の平均賃金を使用すべきであると主張している。

たしかに、原告一江は、本件事故時満一六歳の高校二年生であり、未就労の女子であった。

年少女子の逸失利益を算定する上で、法制度的にも女性の職業選択の範囲が広がり、男性がこれまで独占していた職域にも進出していくことが予想される現状においては、基礎収入を女子の現在の平均的な賃金水準によることに問題があることは否定できないであろう。なぜなら、法制度が確立し、社会的に女性の活躍が認知され、今後徐々にではあっても、男性と同等の仕事する女性が増加していくことは確実であろうから、今後そのような可能性が高い者にとって、現在の女性の男性よりもおしなべて低い賃金水準で逸失利益を算定することは、必ずしも合理的とはいえないし、年少者の将来の逸失利益額に男女の違いのみによって大きな隔たりがあるとすれば、それは個人の尊厳ないし男女平等の理念に照らし適当ではないと考えられるからである。

しかし、本件の原告一江の場合には、やはり、女子の賃金水準を前提にせざるを得ないものと考える。

義務教育を終了した高校生の場合、一般的に将来の進路、職業選択についての希望や予定がある程度具体化するであろうから、あらゆる職種に就く可能性を前提にした全労働者の平均賃金を使う根拠が薄弱化することは否定できないであろう。また、高校生の場合、同年代の若年者で既に就業し、労働市場において評価を受けている者が存在しており、仮に女子であるとすれば、その者には男子よりも低い現在の女子の賃金水準に基づく逸失利益の算定をせざるを得ないであろうが、未就労だったために、現在の女子の賃金水準を反映したものではない全労働者の賃金水準で算定されるというのは、バランスを欠く嫌いがある。

本件の原告一江は、本件事故後であるが、一時期歯科衛生士という職業に就こうと真剣に考え専門学校にまで入学したのであり、その職業は女性の補助的仕事といわれている。

以上により、原告一江には、平成一〇年賃金センサスの産業計・企業規模計・女子労働者学歴計の全年齢平均賃金である年収三四一万七九〇〇円を基礎収入とし、労働能力喪失率を二〇%、症状固定時の年齢二一歳から六七歳までの逸失利益を算定する。中間利息の控除については、原告花子の場合と同様である。

(計算式)

341万7900円×0.2×17.88×0.8333=1018万4934円

⑧ 後遺障害慰謝料 四五〇万円 (五一〇万円)

原告一江に残存する後遺障害の内容等からみて、後遺障害慰謝料としては四五〇万円とするのが相当である。左下肢に残存する醜状痕は、慰謝料の増額事由と評価できる。

⑨ 損害小計 二七八八万八〇五九円 (五三九三万二二二六円)

⑩ 過失相殺後の額 一五三三万八四三二円

前述のとおり、本件では原告一江についても過失相殺がなされるから、四五%の過失相殺をすると、一五三三万八四三二円となる。

⑪ 自賠責保険受領分に対する遅延損害金 八三万二四八七円 (八三万一五八〇円)

本件事故は平成六年五月三一日に発生しているが、原告一江は、被告側の自賠責保険金の後遺障害分として三三一万円を平成一一年六月一〇日に受領した。被告側の自賠責保険金の支払までの確定遅延損害金は、八三万二四八七円である。

(計算式)

331万円×0.05×(215日÷365日+4+161日÷365日)=83万2487円

なお、原告一江は、被告が主張するように、もし、原告花子の自賠責保険金が原告一江の損害賠償金のてん補となるのであれば、その分の確定遅延損害金も請求するとしているが、後述のとおり、これは本件ではてん補扱いしないので、必要ない。

⑫ 損害のてん補 七四九万四〇三五円

原告一江は、被告側の自賠責保険から三三一万円、被告側から四一八万四〇三五円の合計七四九万四〇三五円の支払を受けたので、これを前記損害額から控除する。

被告は、原告花子運転の被害車両に付保されていた自賠責保険からの支払をもてん補として主張しているが、これは、原告花子の過失を原告一江の賠償金の算定に際し過失相殺として考慮する以上、前記てん補金は、共同不法行為者たる原告花子の原告一江に対する債務の支払として扱われるべきであり、被告に対する賠償請求に際して控除すべきものではない。

⑬ 小計 八六七万六八八四円 (四七二六万九七七一円)

⑭ 弁護士費用 九〇万円 (四七二万六〇〇〇円)

原告一江が、本件訴訟の提起・追行を原告ら代理人に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、認容額、審理経過等を総合勘案して、被告に賠償を求めることができる弁護士費用としては九〇万円が相当である。

⑮ 合計 九五七万六八八四円 (五一九九万五七七一円)

三  結論

以上により、原告らの本訴請求は一部理由があるので、その限度で認容する。なお、原告らの民事訴訟法九六条二項による付加期間の定めを求める申し出については、原告ら本人はたしかに遠隔地に居住しているが、訴訟代理人の事務所が当裁判所所在地内にあり、かつ、同代理人において控訴の権限を有していることから、前記法条による付加期間を定めるまでの事情はないものとして、定めることはしない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 村山浩昭)

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