東京地方裁判所 平成12年(ワ)4626号 判決 2001年4月13日
原告
加藤悦子
被告
熊沢政寛
ほか一名
主文
一 被告らは原告に対し、連帯して、九三一万〇五九七円及びこれに対する平成八年九月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告らは、原告に対し、連帯して、二三八三万五五七九円及び内二一六三万五五七九円に対する平成八年九月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、対向して走行していた自動車同士の正面衝突事故において、反対車線に出た自動車の運転手ないし所有者に対して、他方の自動車の運転手が、その損害の賠償を民法七〇九条ないし自賠法三条に基いて請求した事案である。
一 争いのない事実等
(一) 本件交通事故の発生
ア 日時 平成八年九月二〇日午後八時〇〇分ころ
イ 場所 新潟県中頸城郡中郷村大字市屋三九四番地(国道一八号)
ウ 事故車両
(ア) 被告車 普通貨物自動車(足立四七す六四九三)
運転者 被告熊沢政寛(以下「被告熊沢」という。)
所有者 被告皆見節子(以下「被告皆見」という。)
(イ) 原告車 普通貨物自動車(長岡四〇に九三七四)
運転者 原告
エ 事故態様 被告熊沢が大雨のためスリップしやすい国道一八号線を時速七〇キロメートルで走行し、路上の落下物を避けようとして右に急ハンドルを切った為、スリップして対向車線に進入し、時速六〇キロメートルで走行する原告運転の軽貨物自動車の運転席側に正面衝突した。
オ 責任原因 本件は、被告熊沢の過失により発生したものであり、被告熊沢と、被告皆見は、それぞれ民法七〇九条、自賠法三条に基いて、原告の損害を賠償する責任を負う。
(二) 原告の傷害
原告は本件事故により右大腿骨骨折・骨盤骨折・左梼骨骨折・出血性ショック・右肘傷害・右膝傷害・左足傷害・口腔内下顎裂創・脂肪塞栓症候群・急性腎不全・肝機能障害・右腋窩脂肪腫・左尺骨うき上げ症候群・上歯前左<1><2>と前右<2><3>計四歯喪失等の傷害を負った。
(三) 入通院状況
ア 平成八年九月二〇日~同年一二月二九日(入院一〇一日間)
(右入院中の一二月六日・一七日の二日間で歯科の治療を受けている)
イ 平成八年一二月三〇日~九年一一月一二日(通院実日数一七日)
ウ 平成九年一一月一三日~同月一七日(入院五日間)
エ 平成九年一一月一八日~一〇年二月八日(通院実日数五日)
オ 平成一〇年二月九日~同月二〇日(入院一二日間)
カ 平成一〇年二月二一日~一一年五月六日(通院実日数二日間)
右入院日数一一八日間・通院実日数二四日である。
(四) 原告は、入通院治療により、症状固定するも、後遺障害が残り、自動車保険料率算定会の調査事務所において、以下のように後遺障害認定を受けた。
ア 骨盤骨変形 (第一二級五号)
イ 左手関節の神経障害 (第一二級一二号)
ウ 右下肢短縮(二センチメートル) (第一三級九号)
エ 左前腕回外度(三〇度) (第一〇級一一号)
オ 四歯喪失(義歯) (第一四級二号)
カ 顔醜状痕(口唇内裏まで裂創) (第七級一二号)
キ 下顎裂創・下口唇周辺強度感覚麻痺 (第一二級一二号)
ク 胸腹部臓器障害(急性腎不全・肝機能障害) (第一一級一一号)
以上により、併合して六級相当。
(五) 損害のてん補
原告は、右のとおり損害のてん補を受けた。
ア 後遺障害慰謝料として 一二九六万円
イ 休業損害名目での前渡金 六五万円
ウ 治療費 三九八万七三五九円
二 原告の損害についての主張
(一) 治療費 三九九万一九五三円
(二) 入院雑費 一五万三四〇〇円
(三) 交通費 四万四一六〇円
(四) 付添看護料 二九万四〇〇〇円
原告は事故当時から入院するまで意識不明であり、原告が気がついた時は左手は左榛骨骨折等でベッドに固定され、右大腿骨骨折・骨盤骨折等で下半身は動かせず、排尿・排便・食事は介助が必用であった。又、一〇月二九日から約二週間にわたり赤い発疹・嘔吐等の症状により特別室にて、家族の徹夜の看病が四九日(事故日~同年一一月七日迄)必要であった。
(五) 休業損害 四七六万五五五七円
原告は、昭和四七年八月に新潟県中頸城郡妙高高原(上信越国定公園内)にある燕温泉地内の土産店・食堂を経営する訴外加藤敏男と婚姻し、日夜観光客相手に土産店・食堂兼喫茶店の家事を常時手伝っていた。よって、原告の家事従事者としての休業を計算すると、年収三三五万一五〇〇円(賃金センサス平成八年第一・第一表による女子労働者全年齢平均賃金)、平成八年九月二〇日から平成一〇年二月二〇日までの五一九日間の休業による損害は、四七六万五五五七円となる。
(計算式)
(335万1500円÷365日)×519日=476万5557円
(六) 逸失利益 一四七八万三八六八円
基礎収入を三三五万一五〇〇円(賃金センサス平成八年第一・第一表による女子労働者全年齢平均賃金)とし、労働能力喪失率を三五パーセント、症状固定時の原告の年齢は四九歳であるから、就労可能期間を六七歳まで一八年と認められるので、新ホフマン係数により中間利息を控除すると、原告の後遺障害逸失利益は、一四七八万三八六八円となる。
(計算式)
335万1500円×35パーセント×12.6032=1478万3868円
(七) 入通院慰謝料 二二〇万円
(八) 後遺障害慰謝料 一三〇〇万円
原告が、前記のように、併合六級の後遺障害等級認定を受けていることに加え、原告は、燕温泉地内の土産店・喫茶兼食堂を営む御主人の家事を常時手伝い従事している者であるから、接客に際し顔の醜状及び口のしびれ・ゆがみによる精神的苦痛は絶え難い。さらに、原告の左手は「前習え」の形に左手を前方に伸ばした時、手の平を縦には出来ても手の平を天井方向に全く回転出来ずに固まってしまっている。食堂の料理を作る時には左手で重いフライパンや片手鍋を持って作業し、又土産物を包む作業をする時等大変に障害となっている。左手の後遺障害による逸失利益の立証は極めて困難であるが、その分は慰謝料として金二〇〇万円を加算して斟酌されるべきである。また、被告らは本件解決を一切保険会社に一任して、充分な誠実な見舞いや解決にほとんど努力していないことも斟酌されるべきである。以上によれば、一三〇〇万円が相当である。
三 争点
原告の損害
第三 争点に対する判断
一 損害額
(一) 治療費 三九九万一九五三円
(二) 入院雑費 一五万三四〇〇円
(三) 交通費 四万四一六〇円
右(一)ないし(三)は、いずれも争いがない。
(四) 付添看護料 九万八〇〇〇円
原告の本件事故による傷害の内容等からすると、相当期間、家族による付添介護が必要であったことは窺われる。したがって、原告主張の四九日について認めるが、一日当たりは、二〇〇〇円とする。
(五) 休業損害 三三三万五六一三円
原告の収入については、客観的な資料はなく、原告本人尋問によれば、売り上げのうち月三、四〇万円を家計に使用していたが、税務申告は月八万五〇〇〇円でしていたということである。このような状況で、原告の休業損害(及び後述の逸失利益)の算定に用いるべき基礎収入について、原告は、賃金センサス平成八年第一・第一表による女子労働者全年齢平均賃金である三三五万一五〇〇円とすべきであると主張する。しかし、原告は、事故当時、夫と二人暮らしであり、主婦労働を過大に評価することは許されない。反面、原告は夫ともに、営業により土産物屋を維持し、それなりの生活をしていたことが認められるのであり、したがって、少なくとも、控えめに見ても、右の女子労働者全年齢平均賃金の七〇パーセント(二三四万六〇五〇円)の収入があったと認定することができる。休業期間については、平成八年九月二〇日から平成一〇年二月二〇日までの五一九日間を認める。これによると原告の休業損害は、三三三万五六一三円となる。
(計算式)
335万1500円×0.7=234万6050円
(234万6050円÷365日)×519日=333万5613円
(六) 逸失利益 五四八万四八三〇円
基礎収入は、上記のとおり二三四万六〇五〇円とする。なお、事故後、原告の収入は、現実には減少していないようであるが、原告の後遺障害がそれなりに重大であり、原告自身の努力によって収入を維持していることを考慮すると、これを逸失利益として評価しないのは公平とはいえない。労働能力喪失率は、原告の傷害の内容を考慮すると、二〇パーセントと見るのが相当である。症状固定時の原告の年齢は四九歳であるから、就労可能期間を六七歳まで一八年と認められるので、ライプニッツ係数により中間利息を控除すると、原告の後遺障害逸失利益は、五四八万四八三〇円となる。
(計算式)
234万6050円×20パーセント×11.6895=548万4830円
(七) 入通院慰謝料 二〇〇万円
原告の入通院期間等を考慮すると、上記金額が相当である。
(八) 後遺障害慰謝料 一一〇〇万円
原告の後遺障害の程度を考慮すると、上記金額が相当である。
(九) 合計 二六一〇万七九五六円
二 損害てん補後 八五一万〇五九七円
三 弁護士費用 八〇万円
四 総損害額 九三一万〇五九七円
第四 よって、原告の請求は、被告らに対して、連帯して、九三一万〇五九七円及び本件事故発生日である平成八年九月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用について民訴法六四条、同法六一条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 馬場純夫)