東京地方裁判所 平成12年(ワ)6711号 判決
原告 三好建設不動産株式会社
右代表者代表取締役 中村宏一
被告 新見正彰
被告 辻秀造
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告新見正彰は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物部分を明け渡し、かつ、平成一二年三月八日から右明渡済みに至るまで一か月九万八八〇〇円の割合による金員の支払をせよ。
2 被告らは、原告に対し、連帯して、二四万四六〇九円及び内二万四七〇〇円に対する平成一一年五月二五日から、内九万八八〇〇円に対する平成一一年一二月二五日から、内九万八八〇〇円に対する平成一二年一月二五日から、内二万二三〇九円に対する同年二月二五日から支払済みに至るまで年三割の割合による金員の支払をせよ。
3 訴訟費用は、被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告新見の答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二事案の概要
一 当事者間に争いのない事実等
1 原告は、被告新見に対し、平成一一年四月一六日、別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を次の約定の下に賃貸した(以下、この賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。
(一) 使用目的 住居
(二) 賃料等 賃料一か月・九万四〇〇〇円、共益費一か月四八〇〇円を前月の二五日までに原告の銀行預金口座に送金して支払う。
(三) 遅延損害金 年三割
(四) 特約 賃料その他の債務の支払を一か月以上怠ったときは、原告において催告をしないで契約を解除することができる。
2 被告辻は、本件賃貸借契約の締結の際、原告に対し、被告新見が本件賃貸借契約に基づいて負担するすべての債務について連帯保証をする旨約した。
3(一) そこで、原告は、被告新見に対し、平成一一年一二月三日到達の内容証明郵便により、平成一一年一一月分及び一二月分の賃料等を右郵便到達後三日以内に支払うべき旨催告した。
(二) 原告は、被告新見に対し、平成一二年三月七日到達の内容証明郵便により、本件賃貸借契約を債務不履行を理由として解除する旨の意思表示をした(以下、この解除を「本件解除」という。)。
(三) 被告新見は、平成一一年五月三一日には、七万七一〇〇円しか支払わなかったので、九万八八〇〇円に二万一七〇〇円不足するが、その点を除けば、同年中に一二月分までの賃料の支払をした(甲二の1ないし11、乙二、三、原告代表者、弁論の全趣旨)。
また、被告新見は、平成一二年二月七日、同年三月三一日、同年四月二五日、同年五月九日、同年六月六日、原告に対し、それぞれ九万八八〇〇円ずつ支払をした(甲二の1ないし11、乙三、四、八、被告新見本人、弁論の全趣旨)。
二 争点
1 原告の主張
(一) 被告新見は、従来から賃料等の支払をしばしば遅延しており、平成一一年一一月分及び一二月分の賃料等を支払わなかったが、原告が内容証明郵便により支払を催告したところ、ようやく催告期間経過後に右二か月分の延滞賃料等の支払をした。
(二) 被告新見は、本件解除の時点で、平成一一年六月分の賃料等のうちの二万四七〇〇円並びに平成一二年二月分及び三月分の賃料等の支払をしていなかった。
(三) 本件賃貸借契約においては、本件建物部分を現状有姿のままで賃貸する旨の特別の合意がされ、賃料もそれに応じて設定されているから、原告は、被告新見の主張する各修繕義務を負わない。そのことは、契約条項の一三条からも明らかである。
また、被告新見の主張する家電用品等は、消耗品であり、借主の負担で設置すべきものである。既設置の家電用品等を本件建物部分内に存置するかどうかは、賃貸人の専権に属する事項である。存置によって賃借人の居住一般に支障がなければ、賃貸人に債務不履行があるとすることはできない。
仮に、賃貸人が使用に耐え得る家電用品等を設置する義務を負担するならば、本件建物部分の賃料は、近隣の賃料と比較して著しく低廉であると言わなければならない。
(四) よって、原告は、被告新見に対し、本件賃貸借契約に基づき、その終了を原因として本件建物部分の明渡し並びに本件賃貸借契約終了の日の翌日である平成一二年三月八日から右明渡済みに至るまでの一か月九万八八〇〇円の割合による賃料相当損害金及び平成一二年三月七日までの未払賃料等の合計二四万四六〇九円及び平成一一年六月分の未払賃料等二万四七〇〇円に対するその弁済期である同年五月二五日から、平成一二年一月分の未払賃料等九万八八〇〇円に対するその弁済期である平成一一年一二月二五日から、平成一二年二月分の未払賃料等九万八八〇〇円に対するその弁済期である同年一月二五日から、同年三月一日から同月七日までの未払賃料等二万二三〇九円に対するその弁済期である同年二月二五日からそれぞれ支払済みに至るまでの年三割の割合による約定遅延損害金の支払をすることを求め、被告辻に対し、連帯保証契約に基づき、被告新見と同額の金員の支払をすることを求める。
2 被告新見の主張
(一)(1) 本件建物部分には、契約当初から、エアコン、ガスオーブン付きガスレンジ、二四時間風呂の施設があった。
(2) しかし、当初から、エアコンは、故障をしており、送風機能はあるが、冷暖房除湿機能はない状態であり、ガスオーブン付きガスレンジは、ガスオーブンの部分が故障して使用できない状態であり、さらに、二四時間風呂の施設も、使用できない状態である。
(3) しかも、原告は、浴槽に温水を供給するガス給湯設備が故障したにもかかわらず、半年以上にわたり放置している。
(4) 被告新見は、入居後、エアコン、ガスオーブンの故障を初めて知って原告に修理を要求し続けたが、原告は、それらの修理をせず、また、浴槽への温水を供給するガス給湯設備の修理もしない。
(5) 原告は、当初から本件建物部分の使用に必要な建物全体の管理を行っていない。
(6) 被告新見が賃料の支払を期限通りにしなかったのは、本来賃貸人である原告において行うべき修理や管理を約定どおり実施することを求めて支払を留保していたからであり、支払能力がなかったわけではない。
(二) 被告新見は、平成一一年四月六日、原告に対し九万四〇〇〇円を支払い、仲介者である株式会社宝ハウジング(以下「宝ハウジング」という。)に対して九万八七〇〇円を契約手数料として支払った。これらは、いずれも賃料等の支払に充てられるべきである。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四争点に対する当裁判所の判断
一 証拠(甲一の1ないし6、原告代表者、被告新見本人)と弁論の全趣旨によると、原告は、本件建物部分の賃貸の仲介を宝ハウジングに依頼し、被告新見との本件賃貸借契約締結に関する交渉・説明は、すべて宝ハウジングにおいて行ったこと、原告は、みずから作成した契約条項により本件賃貸借契約を締結したこと、本件賃貸借契約の締結時に本件建物部分にはエアコン、ガスオーブン付きガスレンジ及び二四時間常時浴槽に温水を提供できる設備(以下「二四時間風呂設備」という。)が設けられていたこと、エアコン及びガスオーブン付きガスレンジは、かなり前に原告が設置したものであり、右の二四時間風呂設備は、前の賃借人が設置したものであること、被告新見は、本件賃貸借契約締結前に宝ハウジングの担当者と一緒に本件建物部分を下見し、被告新見の入居前に原告において修理する箇所について説明を受けたこと、以上の事実を認めることができる。
二 次に、証拠(乙五、七、被告新見本人)によると、被告新見は、入居後、エアコン及びガスオーブンが故障していて使用できないことを知ったこと、被告新見は、当初から二四時間風呂設備を使用せず、ベランダに設置されているガス給湯設備を使用していたが、入居後一、二か月でそれが故障したので原告に依頼して修理をさせたこと、しかし、右ガス給湯設備は、平成一一年九月ころにも再度故障して点火しなくなり取替えを要する状態であること、原告は、被告新見が修理・取替えを依頼をしても、エアコン、ガスオーブン及びガス給湯設備の修理・取替えをせずに放置していること、以上の事実を認めることができる。
三 そこで、右一、二において判示したところを前提として検討するに、住居として部屋を賃貸する場合において、その室内にエアコン、ガスオーブンなどを設置して賃貸するかどうかは賃貸人が決定すべきものであるが、それらが設置されている状態で賃貸借契約を締結する場合には、特に、それらが故障していても賃貸人において修理をしない旨明示した場合以外は、賃貸人において、それらが通常の機能を有するものとしてそれらの設備付きの貸室として賃貸したものと認めるのが相当である。
そこで、右の観点から検討するに、原告は、宝ハウジングをして本件賃貸借契約の締結事務を担当させたものであるが、宝ハウジングが原告所有の貸室の賃貸を仲介したのは本件が初めてであったこと(原告代表者)、宝ハウジングにおいてエアコン、ガスオーブンが故障していないかどうかを事前に調査していたことを認めるに足りる証拠はないこと、それらの故障は、外観からは容易に判明しないものであること、以上の点を考慮すると、宝ハウジングが下見の際に被告新見に対し故障の事実と原告において修理しないことを告げたとまで認めることはできないというべきである。
原告は、宝ハウジングが故障の事実を告げた証拠として同じビル内の他の貸室の賃借人が作成した甲第八号証の1ないし3を提出するが、それらの貸室については、いずれも宝ハウジングが関与していないから、右の各証拠から直ちに宝ハウジングにおいて被告新見に対しエアコン及びガスオーブンが故障していることを告げたと認めることはできない(本件建物部分の賃料額(かなり低廉であると認められる。)を考慮しても、同様である。)。
また、原告において契約条項を作成した本件賃貸借契約の契約書(甲一の1ないし6)には、修理及び取替えに関する条項(一三条)があるが、そこには、「乙が使用中に発生した次の各号に掲げるものの修理及び取替は」と記載されていることからして、賃借人が使用中に修理又は取替えの必要が生じた畳表等について原告の承諾を得て修理又は取替えをする場合には、賃借人である被告新見において費用負担をすべきものとしていることは明らかであり、契約前から故障しているものについてまで、被告新見の負担で修理等をしなければならない旨定めていると解することはできない。
したがって、宝ハウジングが被告新見に修理・取替えについて説明をしたとしても、右の条項に定める限度で説明をしたものと認められ、故障しているかどうか明らかではないエアコン及びガスレンジについて、契約前から故障していても修理・取替えをしない旨の説明をしたものと認めることはできない。
これに対し、二四時間風呂設備は、当然に設置に高額な費用をかける必要があるものであり、また、これとは別にベランダに本来のガス給湯設備があったこと、被告新見も下見に際して現実にこれを認識していながら、全く使用しようとしたことがなく、その修理を原告に要求したこともないこと(乙七、被告新見本人)からすると、下見に際して、前の賃借人が設置したものであり賃貸の対象とはなっていないことを知らされていたものと認められる(なお、賃貸の対象とならない場合には、特に存置させることにつき合意が成立した場合を除き、賃貸人において撤去すべきことになる。)。
なお、ガス給湯設備については、右の契約条項において浴槽が明示されているにもかかわらず、これが明示されていないことからして、右の契約条項の対象となる備品と見ることはできないから、原告は、民法六〇六条一項によりその修繕義務を負うことになる。
四 そこで、進んで、本件賃貸借契約の解除の効力について検討するに、賃貸人が修繕義務を負う場合において賃借人の要求にもかかわらず賃貸人がその義務を履行しないときは、賃借人は、同時履行の抗弁権に基づき、修理がされるまでは、少なくともその修理に要する費用の限度で賃料の支払を拒絶することができるというべきであり、管理費についても、原告において本来早急に修理すべき建物玄関のガラス戸を修理していないこと(原告代表者、被告新見本人)からして同様の要件の下に修理がされるまで支払を拒絶することができるというべきである。
そうすると、原告が本件解除の意思表示をした時点において、被告新見は、平成一一年六月分の賃料等の一部並びに平成一二年二月分及び三月分の賃料等を支払っていなかった状態であるから、同時履行の抗弁権の行使としては、未だその程度を超えていなかったというべきである。
したがって、被告新見には、債務不履行はなく、原告の行った本件解除は、効力を生じない。
五 次に、賃料等の未払分の存否について検討する。
争いのない事実等によると、本件口頭弁論終結の時点では、被告新見は、平成一一年六月分の賃料等の未払分及び平成一二年一月ないし三月分の賃料等を支払済みである。
六 次に、被告辻に対する請求について検討するに、被告辻は、適式な呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、何ら主張をしないが、弁論の全趣旨によると、被告新見の連帯保証人としての立場にあることから被告新見の主張立証の結果に従う趣旨で出頭しないものと認められるし、賃料等の弁済状況については、原告もこれを認めているものと認められる。
そうすると、被告辻との関係でも、本件解除は、無効であり(賃貸借関係における信頼関係が破壊されているとはいえない。)、かつ、本件請求に係る賃料等は、すでに支払済みになっているというべきである。
第五結論
よって、原告の被告らに対する請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡久幸治)
(別紙) 物件目録
一 左記建物の二階部分一五一・一七平方メートルの内二〇一号室専有部分五一・三三平方メートル(後記図面斜線の部分)
記
所在 練馬区豊玉中三丁目一四番地一
家屋番号 一四番一
種類 店舗共同住宅
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
床面積 一階 一一五・八八平方メートル
二階 一五一・一七平方メートル
三階 一五一・一七平方メートル
四階 一五一・一七平方メートル
後記図面<省略>