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東京地方裁判所 平成12年(ワ)7200号 判決

原告 ヴァルカン・インターナショナル・サービシズ・リミテッド

右代表者マネージングダイレクター ブライアン・ジェイ・ベディングフェルド

右訴訟代理人弁護士 平田大器

同 佐々木有人

被告 株式会社昔屋

右代表者代表取締役 ジェームス・アール・ミラー

右訴訟代理人弁護士 小川敏夫

右訴訟復代理人弁護士 藍田耕毅

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二万四三五九・九六スターリングポンド及びこれに対する平成一〇年八月六日から支払済みまで年二一パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が被告に対し貸金、運送料等の支払を求めている事案である。

二  争いのない事実

1(一)  原告は、顧客が指定した骨董品、美術品等の商品を英国において顧客名義で買い付け、顧客に対し右商品代金相当額を貸し付けた上、売主に対し右貸金をもって右商品代金を支払うとともに、右商品の運送手続を行うこと(以下「本件業務」という。)を業とする英国法人である。

(二)  被告は、日本法人である。

2  原告と被告は、別紙一記載の元本債権一覧のとおり本件業務について個別に取引契約を締結した(以下、この取引契約を「本件個別取引契約」という。)。

三  争点

1  本件訴えは適法か否か。

(一) 被告の主張

本件個別取引契約にはBRITISH INTERNATIONAL FREIGHT ASSOCIATION(BIFA) STANDARD TRADING CONDITIONS 1989 EDITION(英国国際運送協会標準貿易条項(一九八九年編成)。以下「BIFA標準貿易条項」という。)が適用されるところ、BIFA標準貿易条項三一条は、BIFA標準貿易条項の適用を受ける契約から生ずる紛争に関する訴訟は英国の裁判所の専属的管轄に属する旨規定している(以下、この規定を「本件管轄約款」という。)。

したがって、本件訴えについては、英国の裁判所が管轄を有し、我が国は裁判権を有しないから、本件訴えは不適法である。

(二) 原告の主張

ある契約についてBIFA標準貿易条項が適用されるためには、フレイトフォーワーダー業務に関連する業務について、フレイトフォーワーダーとその顧客との間においてBIFA標準貿易条項を適用するとの合意がなければならないが、本件個別取引契約は、被告が英国内の商品を購入する際に原告が被告に対し金融サービスを提供するものであってフレイトフォーワーダー業務とは別の業務に関する契約であるし、また、原告と被告が本件個別取引契約についてBIFA標準貿易条項を適用するとの合意をした事実もないから、本件個別取引契約にBIFA標準貿易条項は適用されない。

2  本件貸金債権及び本件フレイト債権が存在するか否か。

(一) 原告の主張

(1)  原告と被告は、昭和四五年ころ、本件業務について次の内容の基本取引契約(以下「本件基本取引契約」という。)を締結した。

ア 原告は、被告が指定した骨董品、美術品等の商品を英国において被告名義で買い付け、被告に対し右商品代金相当額を貸し付けた上、売主に対し右貸金をもって右商品代金を支払うとともに、右商品の運送手続を行う。

イ 被告は、原告に対し、右貸金につき、インボイス発行日から支払済みまで年二一パーセントの割合による利息を支払う。

ウ 原告は、被告に対し、梱包及び運送手配等についての費用(以下、右費用の支払請求権を「フレイト債権」という。)の弁済期については、インボイス発行日から最大三〇日まで弁済猶予期間を与える。

なお、被告は、原告に対し、右弁済期を徒過した場合、年二一パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(2)  原告と被告は、本件基本取引契約に従い、別紙一記載の元本債権一覧のとおり本件個別取引契約を締結し、同記載の貸金債権及びフレイト債権が発生した(以下、右債権をそれぞれ「本件貸金債権」及び「本件フレイト債権」という。)。

したがって、原告は、被告に対し、合計一二万五二二七・八スターリングポンドの元本債権を有している。

(3)  被告は、原告に対し、別紙一記載の被告の弁済のとおり合計一三万二六五三・〇三スターリングポンドを弁済した。

右弁済金は、利息、元本の順に充当され、被告の原告に対する平成一〇年八月五日現在の残債務は、別紙二記載のとおり合計二万四三五九・九六スターリングポンドである。

(4)  よって、原告は、被告に対し、本件個別取引契約に基づき、合計一三万六六六七・〇九スターリングポンドの内金二万四三五九・九六スターリングポンド及びこれに対する平成一〇年八月六日から支払済みまで約定の年二一パーセントの割合による遅延損害金の支払請求権を有している。

(二) 被告の主張

(1)  原告の主張(1) は否認する。

(2)  同(2) のうち、本件個別取引契約の存在は認め、その余は否認ないし争う。

(3)  同(3) のうち、被告が原告主張の支払をしたことは認め、その充当については争う。

(4)  同(4) は争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

(一)  前記争いのない事実と証拠(甲一ないし一六、乙一ないし三)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告は、本件業務を業とする英国法人である。

(2)  被告は、我が国の法律に基づいて設立された株式会社である。

(3)  原告と被告は、別紙一記載の元本債権一覧のとおり本件個別取引契約を締結した。

(4)  甲一ないし一六は、本件個別取引契約に係る仕切状(INVOICE)及び運送料勘定(FREIGHT ACCOUNT)の控えであり、これらに対応する仕切状及び運送料勘定が被告に送付されている(なお、乙一及び乙三は、いずれも被告に送付された運送料勘定であり、それぞれ甲一二及び甲七と対応するものである。)。

(5)  原告が被告に送付した仕切状及び運送料勘定の表面には「裏面に当社の取引条件についての重要な記載がありますので、ご覧下さい。」との記載があり、その裏面には「ヴァルカン・インターナショナル・サービシズ・リミテッドは、ひとえに、英国国際運送協会の規約(一九八九年編成)においてのみ取引を行うものである。」との記載があり、右の「英国国際運送協会の規約(一九八九年編成)」とはBIFA標準貿易条項である。

(6)  被告は、仕切状及び運送料勘定の右表面及び裏面の記載について異議を述べることなく、原告に対し、別紙一記載の被告の弁済のとおり継続して請求金額について支払をした。

(7)  BIFA標準貿易条項三一条においては、本件管轄約款が規定されている。

(二)  右認定事実によれば、原告は、被告に対し、本件個別取引契約に際し、BIFA標準貿易条項が適用される旨の記載のある仕切状及び運送料勘定を作成して送付し、他方、被告は、右記載に異議を述べることなく、原告に対し、継続してその請求金額について支払をしたことが認められるのであるから、原告と被告との間においては、本件個別取引契約についてBIFA標準貿易条項を適用することについて明示ではないとしても黙示の合意が成立したものと認めることができる。

(三)  なお、原告は、本件個別取引契約に係る業務は、被告が英国内の商品を購入する際に原告が被告に対し金融サービスを提供するものであってフレイトフォーワーダー業務とは別の業務であるから、本件個別取引契約にBIFA標準貿易条項は適用されない旨主張する。

しかしながら、原告の本訴請求債権は、本件個別取引契約に係る本件貸金債権及び本件フレイト債権であるところ、証拠(甲二ないし五、七、九、一一、一二、一五、一六、乙一、三)によれば、そのうち本件フレイト債権は、商品の運送料、梱包費用、輸送費用、保険費用等の支払請求権であり、いずれも運送業務から直接的に生じた債権であることが認められるから、原告の右主張は、少なくとも本件フレイト債権に関する部分においては失当である。また、本件貸金債権についても、右債権は、本件業務を業とする原告が、その業務の一環として原告に商品代金相当額を融資したことにより生じたものであるところ、右業務の性質上、右融資が原告の行う運送業務と密接不可分な関係を有していることは明らかであり、この場合において、BIFA標準貿易条項を右運送業務についてのみ適用し、右融資についてその適用を排除することは、本件個別取引契約の当事者の合理的意思に反するというべきである。すなわち、本件においては、本件個別取引契約から生じた紛争に関する訴訟の裁判管轄が問題となっているが、運送業務から直接的に生じた債権に関する紛争については英国の裁判所の専属的裁判管轄を認め、運送業務と密接不可分な関係を有する融資に関する紛争についてはこれと別異に解することが本件個別取引契約の当事者の合理的意思に反することは明らかである。

したがって、原告の右主張は、採用することができない。

(四)  したがって、本件個別取引契約にはBIFA標準貿易条項が適用されると解すべきところ、前記認定のとおり、BIFA標準貿易条項三一条は、本件管轄約款(BIFA標準貿易条項の適用を受ける契約から生ずる紛争に関する訴訟は英国の裁判所の専属的管轄に属すること。)を規定しているから、本件訴えについては、我が国は裁判権を有しないというべきである。

(五)  なお、念のため、本件における国際的裁判管轄の合意の方式及び応訴管轄の成否について検討する。

(1)  本件個別取引契約のような渉外的取引における国際的裁判管轄の合意の方式としては、少なくとも当事者の一方が作成した書面に特定国の裁判所が明示的に指定されていて、当事者間における合意の存在と内容が明白であれば足りると解するのが相当であり、その申込みと承諾の双方が当事者の署名のある書面によるものでなければならないと解すべきではなく(最高裁判所昭和五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一五五四頁参照)、本件個別取引契約においては、前記認定のとおり、右の要件を充たしているということができるから、国際的裁判管轄の合意の方式として欠けるところはない。

(2)  また、本件においては、第一回口頭弁論期日において被告の答弁書の陳述が擬制されたが、右答弁書には本案に関する事項が記載されているのみで裁判管轄に関する主張がなく、被告は、第二回口頭弁論期日において初めて本件訴えについて我が国に裁判権がないことを理由とする本案前の主張をしたことが記録上明らかであるため、応訴管轄の成否が一応問題となる。

そこで検討するに、渉外的争訟事件の国際的裁判管轄については、民事訴訟法一二条の規定の趣旨に則り応訴管轄が生ずるか否かについて議論のあるところではあるが、仮にこれが肯定されるとしても、そもそも同条所定の応訴管轄が生ずるためには、当該事件の被告が現実に裁判所に出頭して弁論又は申述をすることが必要であり、右被告の答弁書の陳述が擬制されたに止まるときは同条の適用がないものと解するのが相当であるから、本件においては、応訴管轄が生ずる余地はないというべきである。

(六)  以上によれば、本件訴えについては、我が国は裁判権を有しないといわざるを得ない。

二  よって、その余の点を判断するまでもなく、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉戒修一 裁判官 伊藤繁 裁判官 園部直子)

別紙<省略>

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