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東京地方裁判所 平成12年(ワ)8284号 判決 2002年1月30日

原告

ビルコン株式会社

訴訟代理人弁護士

海老原元彦

谷健太郎

浅井弘章

補佐人弁理士

山名正彦

被告

増田工業株式会社

訴訟代理人弁護士

安原正之

佐藤治隆

小林郁夫

訴訟復代理人弁護士

鷹見雅和

補佐人弁理士

志賀富士弥

橋本剛

小林博通

鵜澤英久

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,別紙物件目録1及び2記載の装置を製造し,譲渡し,貸し渡し又は譲渡若しくは貸渡しのため展示してはならない。

2  被告は,その本店,支店,営業所及び倉庫に存する上記各装置を廃棄せよ。

3  被告は,原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成12年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が被告に対し,別紙物件目録1及び2記載の各装置(同目録記載の各装置を,順に「被告装置1」「被告装置2」といい,これらをあわせて「被告各装置」という。)を製造等している被告の行為が原告の有する特許権を侵害するとして,製造等の差止め等と損害賠償の支払を求めた事案である。

1  前提となる事実(証拠を示した事実を除き,当事者間に争いがない。)

(1)  原告の有する特許権

原告は,次のア,イの各特許権(以下順に「本件特許権1」「本件特許権2」と,これらをあわせて「本件各特許権」といい,その発明(本件特許権2については,請求項1の発明)を順に「本件発明1」「本件発明2」と,これらをあわせて「本件各発明」という。)を有している。

ア 本件特許権1

(ア) 発明の名称 受付整理装置

(イ) 出願日 昭和57年3月12日

(ウ) 登録日 昭和62年1月30日

(エ) 特許番号 第1360590号

(オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報1」写しの該当欄記載のとおり

(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書1」という。)

イ 本件特許権2

(ア) 発明の名称 受付処理装置

(イ) 出願日 平成2年10月25日

(ウ) 登録日 平成8年10月2日

(エ) 特許番号 第2096271号

(オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報2」写しの該当欄記載のとおり

(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書2」という。)

(2)  本件各発明の構成要件

本件各発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。

ア 本件発明1

A 受付券を発行毎にその受付券に連続番号としての呼出番号を印字する受付券発行機と,

B 受付けする呼出番号及びこの呼出番号の受付券を受付けする受付窓口の番号夫々を対応させて表示する表示盤と,

C 呼出キースイッチ,チャイムキースイッチ,クローズキースイッチを有し,各受付窓口に配設された操作キー部及び呼出番号をモニター表示するモニター表示部で成る窓口操作盤と,

D これら受付券発行機,表示盤,窓口操作盤を連繋して制御するマイクロコンピュータで成る制御盤とを備えており,

E 制御盤は前記窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示すると共に,呼出信号を発した窓口操作盤のモニター表示部には表示盤に表示した呼出番号を表示するようにしたことを特徴とする,

F 受付整理装置

イ 本件発明2

A 受付券を発行毎にその受付券に連続番号としての呼出番号を印字する受付券発行機と,

B 受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付する受付窓口それぞれを対応させて表示する表示機と,

C 各受付窓口に配され,複数の窓口業務を窓口毎に必要な業務として適宜選択指定できる業務選択キースイッチ,呼出キースイッチ,クローズキースイッチを有し,且つ,各操作キー及び呼出番号をモニター表示するモニター表示部を有した窓口操作機と,

D これら受付券発行機,表示機,窓口操作機を連繋して制御するコンピュータにて成る制御機とからなり,

E 前記受付券発行機,表示機,窓口操作機は,それぞれ少なくともCPU,ROM,RAMを有するマイクロコンピューターと,前記制御器,及び,受付券発行機,表示機,窓口操作機それぞれと連繋する通信インターフェイスとをそれぞれ内蔵して,適宜ケーブルによって前記制御機のコンピューター,及びマイクロコンピューター同士を連繋して形成し,

F 窓口操作機は,業務選択キーによりそれぞれの窓口の受付業務の外に他の窓口の受付業務をも適宜選択する複数業務選択機能を有し,

G 制御機は前記窓口操作機の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出を発した窓口操作機の選択業務の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示機に表示すべく形成したことを特徴とする,

H 受付処理装置

(3)  被告の行為

被告は,業として,被告各装置を製造販売している(被告は,被告装置1を市川市役所に納入し,被告装置2を足立区役所に納入した。)。

(4)  被告装置の構成

被告各装置のうち,本件発明1の対比に必要な構成部分は,ア,イ,本件発明2に必要な構成部分は,ウ,エのとおりである。

ア 被告装置1の構成

A′ 受付券に呼出番号を印字し,発行するオートナンバープリンターと,

B′ 予めユニットの表面に固定的に表示された受付窓口番号と,この窓口で受付する呼出番号を夫々対応させて可変表示するサインポールユニット及びセンターサインユニットと,

C′ 表示ボタン,保留ボタン,終了ボタン,選択ダイヤルその他のボタンからなる操作キー部及び呼出番号を表示するモニター表示部とを備えており,各受付窓口に配設されたサインポールコントローラと,

D′ 前記のオートナンバープリンター,サインポールユニット及びセンターサインユニット,サインポールコントローラを連繋して全体を制御するコントロールボックスとを備えており,

E′ コントロールボックスは,前記サインポールコントローラの表示ボタンによる呼出信号により,その呼出信号を発したサインポールコントローラが位置する窓口のサインポールユニットに表示された窓口番号と,受付券の呼出番号とを順次対応させて,サインポールユニット及びセンターサインユニットにチャイム音と共に表示し,呼出信号を発したサインポールコントローラのモニター表示部に前記サインポールユニット及びセンターサインユニットに表示した呼出番号を表示する,

F′ 自動窓口受付システムである。

イ 被告装置2の構成

A′ 呼出番号を印字し,受付券を発行する番号札発行器と,

B′ 予め表面に固定的に表示された受付窓口番号と,この窓口で受け付ける呼出番号を夫々対応させて表示するサインポールと,

C′ 呼出ボタン,保留ボタン,Gボタン,テンキーその他のボタンから成る操作キー部及び呼出番号を表示するモニター表示部とでなり,各受付窓口に配設された受付窓口用操作卓と,

D′ 前記の番号札発行器,サインポール,受付窓口用操作卓を連繋して制御するコントロールボックスとを備えており,

E′ コントロールボックスは前記受付窓口用操作卓の呼出ボタンによる呼出信号により,その呼出信号を発した窓口受付用操作卓が位置する窓口のサインポールに表示された窓口番号と受付券の呼出番号とを順次対応させてサインポールにチャイム音と共に表示し,呼出番号を発した受付窓口用操作卓のモニター表示部に前記サインポールに表示した呼出番号を表示する,

F′ 呼出し番号表示システムである。

ウ 被告装置1の構成(下線箇所は,原告の主張である。)

A′ 受付券に連続番号としての呼出番号を印字し,発行するオートナンバープリンターと,

B′ 予めユニットの表面に固定的に表示された受付窓口番号とこの窓口で受け付ける呼出番号を夫々対応させて可変表示するセンターサインユニットと,

C′ 各受付窓口に配設され,複数の業種のうち窓口業務者が希望する業種を選択できる選択ダイヤル,表示ボタン,終了ボタンを有し,かつ,各操作ボタン群及び呼出番号を表示するモニター表示部とを備えているサインポールコントローラと,

D′ 前記のオートナンバープリンター,センターサインユニット,サインポールコントローラを連繋して制御するコントロールボックスとを備えており,

E′ 前記オートナンバープリンター,センターサインユニット及びサインポールコントローラは,それぞれ少なくともCPU,ROM,RAMを有するマイクロコンピューターと,前記コントロールボックス,及び,オートナンバープリンター,センターサインユニット,サインポールコントローラそれぞれと連繋する通信インターフェースとをそれぞれ内蔵して,適宜ケーブルによって前記コントロールボックスのマイクロコンピューター,及びマイクロコンピューター同士を連繋して形成し,

F′ サインポールコントローラは,選択ダイヤル及び終了ボタンにより当該窓口の受付業務を適宜選択する複数業務選択機能を有し,

G′ コントロールボックスは,前記サインポールコントローラの表示ボタンの呼出信号により,呼出信号を発したサインポールコントローラの選択業務の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させてセンターサインユニットに表示すべく形成した,

H′ 自動窓口受付システム。

エ 被告装置2の構成(下線箇所は,原告の主張である。)

A′ 受付券に連続番号としての呼出番号を印字し,発行する番号札発行器と,

B′ 予め表面に固定的に表示された受付窓口番号と,この窓口で受け付ける呼出番号を夫々対応させて表示するサインポールと,

C′ 各受付窓口に配設され,複数の業種のうち窓口業務者が希望する業種を選択できるGボタン,呼出ボタン,テンキーを有し,操作ボタン群及び呼出番号を表示するモニター表示部とを備えている受付窓口用操作卓と,

D′ 前記の番号札発行器,サインポール,受付窓口用操作卓を連繋して制御するコントロールボックスとを備えており,

E′ 前記番号札発行器及び受付窓口用操作卓は,それぞれ少なくともCPU,ROM,RAMを有するマイクロコンピューターと,前記コントロールボックス,及び,番号札発行器,サインポール,受付窓口用操作卓それぞれと連繋する通信インターフェースとをそれぞれ内蔵しており,また,サインポールは前記コントロールボックス,番号札発行器及び受付窓口用操作卓それぞれと連繋する通信インターフェースを内蔵し,AUCPU基板とLANケーブルで接続されており,前記番号札発行器,サインポール及び受付窓口用操作卓は,適宜ケーブルによって前記コントロールボックスのマイクロコンピューター同士を連繋して形成し,

F′ 受付窓口用操作卓は,Gボタン及びテンキーにより当該窓口の受付業務を適宜選択する複数業務選択機能を有し,

G′ コントロールボックスは,前記受付窓口用操作卓の呼出ボタンの呼出信号により,それを発した受付窓口用操作卓の選択業務の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させてサインポールに表示すべく形成した,

H′ 呼出し番号表示システム

2  争点及び当事者の主張

〔本件発明1について〕

(1) 被告装置1と本件発明1との対比

(原告の主張)

ア 構成要件Aの充足性

被告装置1の構成A′のオートナンバープリンターは,窓口へ事務の依頼に来た依頼者へ連続番号を呼出番号として印字した受付券を発行するものであるから,構成要件Aの受付券発行機に当たる。被告装置1においては,業務別に4個のグループ選択ボタンがあるが,これはグループ選択ボタンの個数分の受付券発行機能を併合したものと解して差し支えないから,オートナンバープリンターが「受付券発行機」に該当しない理由にはならない。

イ 構成要件Bの充足性

構成要件Bの「呼出番号及び・・・受付窓口の番号夫々を対応させて表示する」とは,受付窓口の番号が固定表示されたものは含まれないと解すべきではない。

他方,被告製品1のサインポールユニット及びセンターサインユニットは,切り文字によって固定表示された受付窓口番号と並んで,受付する呼出番号が表示されるから,構成要件Bの「呼出番号及び・・・受付窓口の番号夫々を対応させて表示する表示盤」を充足する。

ウ 構成要件Cの充足性

被告装置1のサインポールコントローラは,各受付窓口に配設され,表示ボタンの操作で呼出番号を発し,モニター表示部に呼出番号を表示する機能,保留ボタンと表示ボタンの組合せにより再呼出を行う機能,選択ダイヤルを0に回転選択し終了ボタンを押すことにより窓口を閉鎖する機能を有するから,構成要件Cの「窓口操作盤」に該当する。

エ 構成要件Eの充足性

被告装置1のコントロールボックスは,サインポールコントローラの発する呼出信号により窓口番号と呼出番号とを順次対応させてサインポールユニット及びセンターポールユニットへ警報音と共に表示し,サインポールコントローラのモニター表示部へ呼出番号を表示するので,構成要件Eを充足する。

(被告の反論)

ア 構成要件Aの充足性

(ア) 被告装置1のオートナンバープリンター1は,発行口7からは非連続番号の受付券を発行する。したがって,非連続番号の受付券を発行するオートナンバープリンター1は,「受付券を発行毎にその受付券に連続番号としての呼出番号を印字する受付券発行機」に当たらない。

(イ) 構成要件Aの「受付券発行機」は,本件明細書1の発明の詳細な説明欄の記載に照らすと,複数の業務を想定した受付券発行機を含まない趣旨と理解すべきである。他方,被告装置1のオートナンバープリンター1は,グループ選択ボタンは4つあっても,受付券を発行するプリンターの発行口は1つであるなど,有機的に関係付けられた1個の装置であり,単独の機能を有する装置を単に併合(複合化)したものではないので,構成要件Aの「受付券発行機」に該当しない。

イ 構成要件Bの充足性

被告装置1のサインポールユニット2,センターサインユニット3はいずれも,受付窓口番号が固定表示されており,受付窓口番号を任意に変更することはできず,また,複数の窓口の窓口番号と呼出番号を順次表示できない。したがって,サインポールユニット2,センターサインユニット3は,いずれも,構成要件Bの「受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付券を受付する窓口番号夫々を対応させて表示する」を充足しない。

ウ 構成要件Cの充足性

構成要件Cの「チャイムキースイッチ」は,本件明細書1の発明の詳細な説明欄によると,「表示盤に呼出番号が表示されたにもかかわらず,呼出番号に該当する受付券を有した依頼者が窓口に来ない場合に再度呼出を行うために押されるもの」(本件明細書1の2頁左欄24ないし28行目)であり「チャイムキースイッチを押すことで制御盤により再呼出が行われる。即ち,表示盤の呼出番号表示器の呼出番号を再度点滅表示させると共にチャイム等の警報音を発する」(同2頁右欄42行ないし3頁左欄2行目)ものを指すと解すべきである。これに対し被告装置1の呼出音ボタンは,単にチャイム音を発して注意を喚起するだけのもので,呼出番号を再度点滅表示するようなことはないので,構成要件Cの「チャイムキースイッチ」に該当しない。

また,構成要件Cの「クローズキースイッチ」は,押しボタン式のクローズ専用のスイッチを指すと解すべきである。これに対し,被告装置1は,選択ダイヤルと終了ボタンとによるクローズ機能を奏するのであって,クローズ専用の単一操作用のキースイッチを設けていない。

エ 構成要件Eの充足性

構成要件Eの「制御盤」は,各受付窓口の個々の処理時間が相違していても呼出番号順は,受付券の発行番号順と変わらないように制御をするものを指すと解すべきである。

これに対し被告装置1では,業務ごとに発行口7から発行される受付券の番号が非連続番号となるため,各受付窓口の個々の処理時間が相違しても,異なる業務間では,呼出番号順は前記発行口7から発行される受付券の発行順にはならない。また,サインポールユニット2やセンターサインユニット3の窓口番号は固定表示されており,制御できない。したがって,コントロールボックス5は,サインポールユニット2やセンターサインユニット3を,「窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に・・・表示する」という制御はしていないので,構成要件Eの制御盤に該当しない。

(2) 被告装置2と本件発明1との対比

(原告の主張)

ア 構成要件Aの充足性

被告装置1の番号札発行器は,窓口へ事務の依頼に来た依頼者へ連続番号を呼出番号として印字した受付券を発行するので,構成要件Aの受付券発行機に当たる。被告装置1においては,業務別に2個のグループ選択ボタンがあるが,これはグループ選択ボタンの個数分の受付券発行機能を併合したと解することができるから,オートナンバープリンターが「受付券発行機」に該当しない理由にはならない。

イ 構成要件Bの充足性

構成要件Bは,窓口番号が固定表示されたものは含まれないと解すべきではない。

他方,被告製品2のサインポールは,切り文字によって受付窓口番号が固定表示されるから,構成要件Bの「番号夫々を対応させて表示する表示盤」を充足する。

ウ 構成要件Cの充足性

被告装置2の受付窓口用操作卓は,各受付窓口に配設され,呼出ボタンの操作で呼出信号を発し,モニター表示部に呼出番号を表示する機能,保留ボタンと呼出ボタンの組合せにより再呼出を行う機能,Gボタンと「-」の組合せにより窓口を閉鎖する機能を有するから,本件発明1の構成要件Cの窓口操作盤に該当する。

エ 構成要件Eの充足性

被告装置2のコントロールボックスは,受付窓口用操作卓が発する呼出信号により窓口番号と呼出番号とを順次対応させてサインポールへ警報音と共に表示し,受付窓口用操作卓のモニター表示部へ呼出番号を表示するので,構成要件Eを充足する。

(被告の反論)

被告装置2と本件発明1との対比に関する被告の反論は以下のとおりである。

ア 構成要件Aの充足性

番号札発行器1は,非連続番号の受付券が発行されるので,構成要件Aの「受付券を発行毎にその受付券に連続番号としての呼出番号を印字する受付券発行機」に該当しない。

イ 構成要件Bの充足性

サインポール2は,受付窓口番号が固定表示されており,受付窓口番号を任意に変更することはできず,また,複数の窓口の窓口番号と呼出番号を順次表示できない。したがって,サインポール2は,構成要件Bの「受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付券を受付する窓口の番号夫々を対応させて表示する」を充足しない。

ウ 構成要件Cの充足性

サインポールコントローラー4は,構成要件Cを充足するものではない。その理由は,(1)の「被告の反論」と同じである。

エ 構成要件Eの充足性

構成要件Eの「制御盤」は,各受付窓口の個々の処理時間が相違していても呼出番号順は,受付券の発行番号順と変わらないように制御をするものを指すと解すべきである。

これに対し,被告装置2では,業務ごとに発行口7から発行される受付券の番号が非連続番号となるため,各受付窓口の個々の処理時間が相違しても,異なる業務間では,呼出番号順は前記発行口7から発行される受付券の発行順にはならない。また,サインポール2の窓口番号は固定表示されており,制御できない。したがって,コントロールボックス4は,サインポール2を,「窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に・・・表示する」という制御をしていないので,構成要件Eを充足しない。

〔本件発明2〕

(3) 被告装置1と本件発明2との対比

(原告の主張)

ア 構成要件Aの充足性

被告装置1のオートナンバープリンタは,あるグループ選択ボタンB1を押すと,1番から850番までの数字体系で連続する順番数の呼出番号を印字した受付券を発行し,また,別のグループ選択ボタンB2を押すと,900番から999番までの数字体系で連続する呼出番号を印字した受付券を発行するから,このように業務別に2個のグループ選択ボタンを有する構成は,グループ選択ボタンの個数分の受付券発行機能を併合したものと理解して差し支えない。被告装置1のオートナンバープリンタにグループ選択ボタンが複数個存在しても,同一のグループ選択ボタンが押された場合には,そのグループにおいては「連続番号としての呼出番号を印字する」から,オートナンバープリンターは,構成要件Aの受付券発行機に該当する。

イ 構成要件Bの充足性

構成要件Bは,窓口番号が固定表示されたものは含まれないと解すべきではない。

被告装置1のセンターサインユニットは,別紙物件目録1の図4に示されているとおり,1番~8番の窓口番号が正面横2段の行列で窓口番号順に予め切り文字で貼着することにより固定的に表示されており,各切り文字の右側には各窓口番号で受付する呼出番号を表示するためのLED部がそれぞれ設けられているのであるから,センサーサインユニットが,受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付する受付窓口それぞれを対応させて表示するものということができ,構成要件Bの「表示機」に該当する。

ウ 構成要件Cの充足性

(ア) 構成要件Cの「業務選択キースイッチ」は,複数の受付窓口がある受付においてテラーの側で取扱業務を適宜選択できるという点に特徴があるから,1つの受付窓口が同時に2つの業務を選択する場合(業務Aと業務Bを1つの窓口で取扱う場合)を指すものと解すべきであるが,そればかりでなく,ある業務を行っていたテラーが当該業務の取扱を止めて別の業務を選択する場合(業務Aを担当していたテラーが業務Bを行うよう切り替える場合)も含むと解するのが相当である。

被告製品1の「グループ選択ダイアル16」は,同時に複数の業務グループを選択したり,現在選択している業務グループに他の業務グループを加えて複数の業務グループを選択することはできないが,複数の業務グループ中から1つの業務グループを選択することはできるから,「複数の窓口業務を窓口毎に必要な業務として適宜選択指定できる業務選択キースイッチ」に該当する。

(イ) 被告装置1の「終了ボタン20」は,「選択ダイヤル16」と協働することにより,窓口を閉鎖する機能を有していることから,構成要件Cの「クローズキースイッチ」に該当する。

エ 構成要件Fの充足性

被告装置1は,サインポールコントローラの選択ダイヤル及び終了ボタンの組合せによって業種選択機能を有するから,構成要件Fを充足する。

オ 構成要件Gの充足性

被告装置1の「コントロールボックス5」は,構成要件Gの「制御機」に該当する。

(被告の反論)

ア 構成要件Aの充足性

構成要件Aの受付券発行機は,「受付券を発行毎にその受付券に連続番号としての呼出番号を印字する」ものである。

これに対し,被告装置1のオートナンバープリンター1は,グループ選択ボタンB1~B4,受付券発行口7と,コントロールボックス5と連繋するCPU,ROM,RAMを有するマイクロコンピュータを内蔵し,グループ選択ボタンを押すごとに少なくとも2つ,最大4つの数字体系(番号順)の異なる印字がされ,発行口から印字した受付券が発行される。このように,オートナンバープリンター1は,異なるグループ選択ボタンを押すごとに発行口7から非連続番号を印字した受付券を発行するので,「連続番号としての呼出番号を印字する」ものとはいえない。

イ 構成要件Bの充足性

被告装置1のセンターサインユニット3は,各受付窓口番号が固定表示されているので,呼出番号に対応させて受付窓口番号を変えることができない。また,固定表示された窓口番号の右側LED表示部には,その窓口番号の窓口で呼出をしている番号のみを表示し,他の窓口の呼出番号は表示しないので,「受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付する受付窓口それぞれを対応させて表示する」ものではない。

ウ 構成要件Cの充足性

(ア) 被告装置1の「グループ選択ダイアル16」は,回転させることにより所定のグループ番号を選択し,その後,操作ボタン群14の終了ボタン20(セット)を押すことにより複数の業務グループ中から1つの業務グループを選択するものであり,選択した業務グループを他の業務グループに切り換えることはできるが,同時に複数の業務グループを選択したり,現在選択している業務グループに他の業務グループを加えて複数の業務グループを選択することはできない。したがって,「グループ選択ダイアル16」は,構成要件Cの「複数の窓口業務を窓口毎に必要な業務として適宜選択指定できる業務選択キースイッチ」に該当しない。

(イ) 被告装置1の「終了ボタン20」は,主として窓口での1つの事務処理後に,サインポールコントローラ4のモニター表示部15や各ユニット2,3の呼出番号LED表示部8,12に表示されている呼出番号を単に消去するもので,窓口をクローズするクローズボタンではない。窓口をクローズするときは,単に終了ボタン20を押すだけでは作動せず,予め前記選択ダイヤル16を「0」の位置に回転選択した後に,この終了ボタン20を押すことによって行う。すなわち,クローズするには,2つの操作が必要である。したがって,終了ボタン20は,構成要件Cの「クローズキースイッチ」に該当しない。

エ 構成要件Fの充足性

構成要件Fの「それぞれの窓口の受付業務の外に他の窓口の受付業務をも適宜選択する複数業務選択機能を有し」とは,1つの窓口操作機に自己の業務を含めて他の業務を同時に複数選択すること,つまり基本的にあらかじめ固定的に選択された自己の業務の外に,他の異なる1,2,3あるいはそれ以上の業務を同時に選択しておくことができるという機能を有することを意味するのであって,1つの業務を他の業務に切り換えて置き換えるという単純な機能を有することを意味するものではない。

これに対し,被告装置1の「サインポールコントローラー4」は,選択ダイヤル16及び終了ボタン20の組合せ操作によって,自己の業務(グループ)以外の業務を選択することは可能であるが,この選択は単一の業務だけであって,いったん,別の業務を選択した場合は,今まで選択されていた業務は消去されてしまう。

したがって,被告装置1は,構成要件Fを充足しない。

オ 構成要件Gの充足性

構成要件Gの「制御機」は,「窓口操作機の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出を発した窓口操作機の選択業務の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示機に表示」させるものである。

これに対して,被告装置1の「コントロールボックス5」は,サインポールコントローラ4の呼出キースイッチに相当する表示ボタン17の呼出信号により,その呼出を発したサインポールコントローラー4の選択業務の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号を順次対応させてセンターサインユニット3に表示させる制御はしていない。

したがって,被告装置1の「コントロールボックス5」は,構成要件Gの「制御機」に該当しない。

(4) 被告装置2と本件発明2との対比

(原告の主張)

ア 構成要件Aの充足性

被告装置2の番号札発行器は,窓口へ事務の依頼に来た依頼者へ連続番号を呼出番号として印字した受付券を発行する。したがって,番号札発行器は,構成要件Aの受付券発行機に該当する。

被告装置1の番号印刷器において,グループ選択ボタンが複数個存在しても,同一のグループ選択ボタンが押された場合には,そのグループにおいては「連続番号としての呼出番号を印字する」から,オートナンバープリンターは,構成要件Aの受付券発行機に該当する。

イ 構成要件Bの充足性

構成要件Bは,窓口番号が固定表示されたものは含まれないと解すべきではない。

被告装置2のサインポールは,受付する呼出番号と,受付窓口の番号とを夫々対応させて表示するのであるから,構成要件Bの「表示機」に該当する。

ウ 構成要件Cの充足性

構成要件Cの「業務選択キースイッチ」は,1つの受付窓口が同時に2つの業務を選択する場合ばかりでなく,ある業務を行っていたテラーが当該業務の取扱を止めて別の業務を選択する場合も含むと解するのが相当である。被告装置2の「グループ選択用のGボタン17」は,2以上の業務(グループ)をあらかじめ同時に複数選択しておく機能は有していないけれども,構成要件Cの「複数の窓口業務を窓口毎に必要な業務として適宜選択指定できる業務選択キースイッチ」に該当する。

被告装置2の「窓口操作卓3」は,Gボタン17とテンキー13の「-」ボタンによる2つの操作により協働してクローズさせるのであるから,構成要件Cの「クローズキースイッチ」に当たる。

エ 構成要件Eの充足性

被告装置2の各サインポール2には,確かに,CPU,ROM,RAMとを有するマイクロコンピューターが内蔵されていない。しかし,番号札発行器,受付窓口用操作卓が,それぞれマイクロコンピューター及び通信インターフェイスを内蔵し,また,AUCPU基板が,ケーブルによって,サインポールとコントロールボックスとの連繋を可能ならしめており,コントロールボックスが呼出信号を発した受付窓口用操作卓の窓口番号と呼出番号とを順次対応させてサインポールに表示させる機能に寄与していることを考慮すれば,各サインポールにCPU,ROM,RAMとを有するマイクロコンピューターが内蔵されてなくとも,構成要件Eを充足すると解すべきである。

オ 構成要件Fの充足性

被告装置2においては,受付窓口用操作卓のGボタン及びテンキーによって業種選択をすることができるから,構成要件Fを充足する。

カ 構成要件Gの充足性

被告装置2の「コントロールボックス」は,構成要件Gの「制御機」に該当する。

(被告の反論)

ア 構成要件Aの充足性

番号札発行器1は,非連続番号の受付券が発行される。したがって,番号札発行器は,構成要件Cの「受付券を発行毎にその受付券に連続番号としての呼出番号を印字する受付券発行機」に該当しない。

イ 構成要件Bの充足性

被告装置2の各サインポール2は,受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付をする窓口それぞれを対応させて表示することができないので構成要件Bの「表示機」に該当しない。

ウ 構成要件Cの充足性

被告装置2の「グループ選択用のGボタン17」は,グループ選択を別の1つのグループに切り換える機能を有しているだけで,1つの窓口操作機で2以上の業務(グループ)をあらかじめ同時に複数選択しておく機能は有してない。したがって,「グループ選択用のGボタン17」は,「複数の窓口業務を窓口毎に必要な業務として適宜選択指定できる業務選択キースイッチ」に該当しない。

また,被告装置2の「窓口操作卓3」は,Gボタン17とテンキー13の「-」ボタンによる2つの操作によりクローズさせるのであって,単一のクローズキースイッチによる単一操作によってクローズさせることはできない。したがって,「窓口操作卓3」は,構成要件Cの「クローズキースイッチ」に当たらない。

エ 構成要件Eの充足性

被告装置2の各サインポール2には,CPU,ROM,RAMとを有するマイクロコンピューターが内蔵されておらず,コントロールボックス4に接続されたAUCPU基板にLANケーブルを介して接続されているにすぎない。このため,サインポール2は,LANケーブルを介してAUCPU基盤によって一方的に制御されるだけであるため,高精度の制御はできない。したがって,被告装置2は,構成要件Eを充足しない。

オ 構成要件Fの充足性

構成要件Fの「業務選択機能」とは,同時に2以上の複数の業務を選択する機能を意味すると解すべきである。これに対し,被告装置2は,1つの業務グループを他の1つの業務グループに切り換えるという機能を有するのみであるから,構成要件Fを充足しない。

カ 構成要件Gの充足性

構成要件Gの「制御機」は,「窓口操作機の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出を発した窓口操作機の選択業務の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示機に表示」させるものである。

これに対し,被告装置2では,各サインポール2の窓口番が固定表示となっているので,窓口番と呼出番号とを順次対応させて表示できないし,しかも,サインポール2が各窓口操作卓に設けられているので,各サインポール2に表示される呼出番号は平均的には同じ業務グループの受付窓口数だけ飛び越した番号順となり,受付券発行順に従った番号にはならない。したがって,被告装置2のコントロールボックスは,構成要件Gの「制御機」に該当しない。

(5) 損害額

(原告の主張)

被告は,地方自治体等に対して,1システム当たり平均500万円で,被告各装置を販売している。被告各装置は地方自治体等に対して少なくとも100台納入されている。

被告の利益率は売上高の20パーセントを下ることはないから,被告の得た利益額は,1億円となり,同額が原告の受けた損害額となる。

5,000,000(円)×100(台)×0.2=100,000,000(円)

よって,原告は被告に対して,その一部である5000万円を請求する。

(被告の反論)

争う。

第3争点に対する判断

1  本件発明1について

(1)  被告各装置の構成要件Bの充足性について

ア 構成要件Bの解釈

本件発明1の構成要件Bに係る特許請求の範囲の記載部分(以下単に「構成要件B」という。)には,「受付けする呼出番号及びこの呼出番号の受付券を受付けする受付窓口の番号夫々を対応させて表示する」と記載されている。同記載の意味は,その文言から,「呼出番号」と「受付窓口の番号」の両者について,非表示状態から表示状態に変えることを指すと理解すべきである。

この点,原告は,「表示する」とは,非表示状態から表示状態へ変化させる意味だけでなく,何ら変化を伴わず,継続的に表示されている状態を保つことを広く含む意味であると主張する。しかし,原告の同主張は,以下の理由から採用できない。

すなわち,①構成要件Bには,「呼出番号」及び「受付窓口番号」「夫々を対応させて」を「表示する」と記載されていることに照らすならば,いずれか一方を表示状態に固定しておき,他方のみを,非表示から表示に変えることと理解することはできないこと,②本件明細書1の「発明の詳細な説明」欄には,「依頼者は受付券11を受け取るという操作と,この受付券11の番号が呼出番号として表示され,この呼出番号に対応した窓口番号が表示されるのを確認するという行為のみで良く,複雑な手間が不要である。」と記載されているが(本件明細書1の4頁右欄27ないし31行),同記載部分は,「呼出番号」と,呼出番号と対応させた「窓口番号」の両者について,非表示状態から表示状態に変えることによって,依頼者が,複数の表示場所を探すことなく,「窓口番号」と「呼出番号」を容易に確認でき,手間を省く趣旨を明示したのは明らかである。そうすると,「表示する」との文言を,表示状態の継続状態を含むと解することはできないこと,③特許請求の範囲の構成要件Eには,「窓口番号と・・・呼出番号とを順次対応させて警報音と共に表示する」と記載されているが,上記「表示する」の意義は,「呼出キースイッチの呼出信号により,」「警報機と共に」などの用語とあわせて読めば,非表示状態から表示状態へ変える意味に限定して理解すべきことは明らかであること,⑤その他,本件明細書1の他の部分にも,窓口番号が固定表示されたものをも含むことを示唆する記載は一切ないこと等の点に照らすならば,「表示する」の意味は,「呼出番号」と「受付窓口の番号」の両者について,非表示状態から表示状態に変える趣旨であると理解すべきである。

イ 対比

被告装置1のサインポールユニット及びセンターサインユニット,被告装置2のサインポールは,各目録の構成の記載(物件目録1,2の「2 構造の説明」の(1))のとおりであり,その「受付窓口の番号」は,いずれも切り文字によって固定表示され,表示状態が継続的に保たれている。そうすると,被告各装置は,受付窓口の番号を非表示状態から表示状態に変えるものではないので,構成要件Bを充足しない。

(2)  被告各装置の構成要件Eの充足性について

構成要件Eは,「窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示する」との記載がある。

同構成要件の「表示する」との語義については,前記(1)において判断したとおり,非表示状態を表示状態に変化させることと解すべきである。そうすると,被告装置1のサインポールユニット及びセンターサインユニット,被告装置2のサインポールは,いずれも受付窓口番号が固定表示され,非表示状態から表示状態に変えるものではないので,被告各装置はいずれも構成要件Eを充足しない。

2  本件発明2について

(1)  被告各装置の構成要件Bの充足性について

ア 構成要件Bの解釈

本件発明2の構成要件Bには,「受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付する受付窓口それぞれを対応させて表示する表示機」と記載されている。同記載の意義は,その文言から,「呼出番号」と「受付窓口」の両者について,非表示状態から表示状態に変えることを指すと理解すべきである。

この点,原告は,「表示する」とは,非表示状態から表示状態へ変化させる意味だけでなく,何ら変化を伴わなず,継続的に表示されている状態を保つことを広く含む意味であると主張する。しかし,原告の同主張は,以下の理由から採用できない。

すなわち,①構成要件Bには,「呼出番号」及び「受付窓口」「それぞれを対応させて」「表示する」と記載されていることに照らすならば,いずれか一方を表示状態に固定しておき,他方のみを,非表示から表示に変えることと理解することはできないこと,②本件発明2の「発明の詳細な説明」欄には,本件発明2は,本件発明1を基礎とし,その発展型として,各窓口において複数の業務を選択指定できるようにしたものであると記載されているが(本件明細書2の2頁右欄8行目ないし9行目,3頁左欄11行目ないし20行目など。),同記載部分は,前記1で認定したとおり,「呼出番号」と,「受付窓口」の両者を対象にして,非表示状態から表示状態に変化させることよって,依頼者が,複数の表示位置を探すことなく,「受付窓口」と「呼出番号」を容易に確認でき,手間を省く趣旨を明示したのは明らかである。そうすると,「表示する」との文言を,表示状態の継続状態を含むと解することはできないこと,③本件発明2の構成要件Gには,「制御機は前記窓口操作機の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出信号を発した窓口操作機の選択業務の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示機に表示すべく形成したことを特徴とする」と記載されているが,同構成要件における「表示」の意味は,「窓口番(窓口番号の誤記と解される。)と・・・呼出番号とを順次対応させて表示機に表示すべく」などの文脈とあわせて読めば,受付窓口番号と呼出番号の両者を非表示状態から表示状態へ変える意味に限定して理解すべきことは明らかであること,⑤その他,本件明細書2の他の部分にも,窓口番号が固定表示のものを含む旨を示唆する記載はないこと等の点に照らすならば,「表示する」の語の意味は,「呼出番号」と「受付窓口」の両者について,非表示状態から表示状態に変える意味であると解すべきである。

イ 対比

そうすると,被告装置1のセンターサインユニット,被告装置2のサインポールは,いずれも窓口番号が切り文字によって固定表示されているものであるから,被告各装置はいずれも構成要件Bを充足しない。

(2)  被告各装置の構成要件Cの充足性について

ア 構成要件Cの解釈

本件発明2の構成要件Cは,「各受付窓口に配され,複数の窓口業務を窓口毎に必要な業務として適宜選択指定できる業務選択キースイッチ」と記載されているが,上記「業務選択キースイッチ」は,1つの受付窓口業務者が同時に2つの業務を選択指定できる「選択スイッチ」(業務Aと業務Bを1つの窓口で取扱う場合)を指すものと解すべきであり,ある業務を行っていた窓口業務者が当該業務の取扱いを止めて別の業務を選択することができる「選択スイッチ」(業務Aを担当していたテラーが業務Bを行うよう切り替える)を広く含むと解すべきではない。

その理由は,以下のとおりである。すなわち,①構成要件Cは,「複数の窓口業務を・・・適宜選択指定できる」と記載されていること,②本件明細書2の「発明の詳細な説明」欄に,「一つの窓口にて呼出されるべき番号が多くたまってきた場合には,この窓口の業務を他の窓口にあっても業務選択されていることがあるので,その待ち数を他の窓口に連絡すべく連絡窓口指示キースイッチ29を押して,次に待数連絡キースイッチ28を押すことで,一つの窓口で延滞していた呼出番号を他の窓口にあっても確認することができ,空いている窓口の方でその業務に関わる呼出番号の来客を呼出すことができ,業務補助を行って速やかな受付業務を行うものである。」と記載されていることに照らすならば(本件明細書2の5頁左欄22ないし30行目),上記「業務選択キースイッチ」は,複数の業務を同時に選択指定することができる「選択スイッチ」に限られることは明らかである。

イ 対比

被告装置1のグループ選択ダイアル及び被告装置2のGボタンのいずれも,複数の業務グループを同時に選択指定することはできないのであるから,被告各装置は,本件発明2の構成要件Gを充足しない。確かに,被告装置1のグループ選択ダイアルにおいては終了ボタンを押すことにより,被告装置2のGボタンにおいては更にGボタンを押すことにより,一旦,取り扱っていた業務を止めたのちに,別の業務グループを選択することはできるが,このような場合が構成要件Cにおける「業務選択」に該当しないことは,アで判断したとおりである。

(3)  被告各装置の構成要件F,Gの充足性について

ア 構成要件Fは,「窓口操作機は,業務選択キーによりそれぞれの窓口の受付業務の外に他の窓口の受付業務をも適宜選択する複数業務選択機能を有し」と記載されている。上記「複数業務選択機能」の意義については,前記(2)で判断したとおり,複数の業務を同時に選択指定できることを指すと解すべきである。そうすると,被告各装置はいずれも,構成要件Fを充足しない。

イ 構成要件Gは,「制御機は前記窓口操作機の呼出キースイッチの呼出信号により,その呼出信号を発した窓口操作機の選択業務の窓口番と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示機に表示すべく形成したことを特徴とする」と記載されている。上記「表示する」の意義については,前記(1)で判断したとおり,「呼出番号」と「受付窓口」の両者について,非表示状態から表示状態に変える意味であると解すべきである。そうすると,被告各装置はいずれも構成要件Gを充足しない。

第4結論

よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 今井弘晃 裁判官 石村智)

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