大判例

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東京地方裁判所 平成12年(ワ)882号 判決

原告 海援通商株式会社

右代表者代表取締役 森本幸平

右訴訟代理人弁護士 林敏彦

被告 株式会社湯ヶ嶋高原倶楽部

右代表者代表取締役 森徹

右訴訟代理人弁護士 清塚勝久

同 遠藤元一

同 安部洋平

同 青木智子

主文

一  被告は原告に対し、金三七五〇万円並びに内金四五〇万円に対する平成一一年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員及び内金三三〇〇万円に対する同年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、被告の経営するゴルフクラブの会員となり、預託金を支払った原告が据置期間の経過により返還請求をしたところ、被告が預託金の据置期間の延長を主張して争っている事件である。

一  請求原因(争いがない。)

1  原告は、平成元年一〇月三〇日、被告が経営するゴルフクラブ「湯ヶ嶋高原倶楽部」(以下「本件クラブ」という。)に入会し、資格保証金として金三三〇〇万円(以下「本件預託金一」という。)を被告に預託した。原告と被告とは、本件預託金一の据置期間を会員資格保証書の発行日である平成元年一二月八日から一〇年間と定めた。

2  原告は、本件クラブの会員権を取得し、入会承認を受け、平成六年一月二六日、名義書換を行った。この会員権は、昭和六〇年五月二八日付会員資格保証書上の資格保証金四五〇万円(以下「本件預託金二」という。)の返還請求権を含むものであった。この会員資格保証書においては、本件預託金二の据置期間が会員資格保証書の発行日である昭和六〇年五月二八日から一〇年間と定められていた。

3  原告は被告に対して、平成一一年一一月一二日に到達した書面により、本件クラブから退会する意思表示をするとともに、本件預託金一については据置期間経過後直ちに、本件預託金二については直ちに支払うよう請求した。

4  昭和六〇年五月二八日及び平成元年一二月八日から、各一〇年間が経過した(顕著な事実)。

二  抗弁

被告は、本件クラブの会則第一五条に基づき、平成七年四月一四日、理事会の同意を得て、本件預託金一及び二を含む会員資格保証金の据置期間を一律に五年間延長することを決定したので、本件預託金一及び二の弁済期は到来していない。

三  争点

会員資格保証金の据置期間を延長する決議の有効性

第三判断

一  本件クラブの会則第一五条においては、「会社は、理事会の同意を得て、会社の経営を円滑に遂行するうえにおいて必要と認めたとき、又は本倶楽部の運営上会員の利益を著しく阻害する恐れがあると判断したとき、あるいは、天災地変、社会情勢の著しい変化その他止むを得ない事態が発生したときは会員資格保証金の据置き期間を一定期間延長することができる。」と定められている(乙第二号証)。乙第五号証、第七号証及び第九号証によれば、本件クラブの会則第一五条に基づき、被告が平成七年四月一四日付の理事会の同意を得て、本件クラブの会員資格保証金の据置期間を一律に五年間延長することを決定したことが認められる。また、原告は、本件クラブへの入会時に、本件クラブの会則という約款に従うことを被告に対して約していた(乙第三及び第四号証)。

二  右のとおり被告による据置期間の延長決定は、本件クラブの理事会の同意を経ているとしても、理事会の構成員である理事は、「会員並びに会社の中より会社がこれを委嘱する」ことになっており(乙第二号証第二二条)、原告を含む会員から民主的に選出されたものでなく、被告の意思のみに基づいて選出することができるから、理事会は会員を代表する関係にない。したがって、理事会に会員から選出された理事が含まれていたとしても、理事会の同意を得たことをもって被告の決定が会員に対して拘束力を有することの根拠とすることはできない。

三  乙第九号証によれば、被告が据置期間延長の議案を発議したのは、「会員資格保証金の預託期間が既に到来しているが、諸般の情勢から当初の予定どおり償還することは極めて困難であるため」であることが認められ、被告は、これが乙第二号証第一五条の要件に該当すると主張する。

据置期間を延長することができる旨の会則の定めは、原告が本件クラブへの入会時に承認し、被告との契約の内容をなすものであるが、「会社の経営を円滑に遂行するうえにおいて必要と認めたとき、又は本倶楽部の運営上会員の利益を著しく阻害する恐れがあると判断したとき」との要件は、被告の判断のみによって制限なく据置期間の延長を認める結果となり、預託金によって被告に無利子の資金を提供したこととなる原告との公平を失するものであって、民法第一三四条の類推適用により無効であると解する。

被告は、いわゆるバブル経済の崩壊に伴う会員権市況の暴落により、会員権を譲渡する方法ではなく、預託金の返還を受けて投下資本の回収を図る者が増加したことを、「天災地変、社会情勢の著しい変化その他止むを得ない事態が発生したとき」との要件に該当すると主張する。

しかし、経済情勢の変動はいかなる時代においても常に考慮に入れておかなければならないことであり、経済情勢の変動をもって「天災地変、社会情勢の著しい変化」に該当するということはできない。たとえ、いわゆるバブル経済の崩壊自体が社会通念上予想が困難であったとしても、被告は、どれだけの額の預託金の返還時期がいつ到来するかをすべて把握しているはずであり、返還時期において会員権相場が偶然低迷していれば、預託金の返還を受けようとする会員が増えることは容易に予測される。そのため、被告は、預託金の返還を請求する会員が発生することを確率的に予測し、これが集中した場合の危険を回避する措置を講じておくことが経営上必要であったと認められ、会員権相場が下落しないことを前提にして預託金返還に対する対策を立てていなかったとすれば、それは経営判断の過誤にほかならない。以上の事情を考慮すると、いわゆるバブル経済の崩壊に伴う会員権市況の暴落により、会員権を譲渡する方法ではなく、預託金の返還を受けて投下資本の回収を図る者が増加したことは、「天災地変、社会情勢の著しい変化その他止むを得ない事態が発生したとき」との要件に該当すると認めることはできない。

四  据置期間の延長に反対する会員があったとしても、被告について再建型倒産手続が開始され、再建計画の一環として、据置期間延長が認められれば、会員(預託金返還請求権を有する債権者)全員が拘束されるところであるが、このような手続によらないならば、据置期間の延長は、一種の私的整理として個別の会員との合意を積み重ねて行うことが現行法上必要である。前記のとおり、原告と被告との間の約款(会則)の定め及び被告の決定によっては、被告と原告との間の合意が形成されたと認めることはできない。したがって、据置期間を延長する被告の決定が原告に対する拘束力を有するものではなく、本件預託金一及び二の弁済期が到来していないとする被告の抗弁は、理由がない。

五  よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第六一条、仮執行の宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 古閑裕二)

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