東京地方裁判所 平成12年(ワ)9500号 判決
原告 株式会社サンヨー工業
右代表者代表取締役 細田雅行
右訴訟代理人弁護士 土田吉彦
被告 春日居観光開発株式会社
右代表者代表取締役 稲川廣政
右訴訟代理人弁護士 赤羽宏
同 二瓶茂
同 脇奈穂子
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、三八四〇万円及びこれに対する平成一二年五月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
被告は、ゴルフ場である春日居ゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフクラブ」という。)を経営している株式会社である。
2 預託金の預託及び返還請求
(一) 原告(合併前の商号はホソダ興産株式会社)は、平成二年三月一日、被告との間で、本件ゴルフクラブに入会する旨の契約を締結し、同日、被告に対し、入会預託金として一四四〇万円を預託した。
(二) また、原告は、平成二年五月一日、被告との間で、本件ゴルフクラブに入会する旨の別の契約を締結し、同日、被告に対し、入会預託金として二四〇〇万円を預託した。
(三) 本件ゴルフクラブの会員権約款(以下「本件会則」という。)第七条第二項には、「預託金は無利子とし、本契約の成立後一〇年を経過した後に会員の請求により返還する。」と規定されている。
(四) 原告は、平成一二年三月三日付け内容証明郵便で、被告に対し、右(三)の会則に基づき、(一)及び(二)の各預託金の返還を請求し、右郵便は、同月五日被告に配達された。
(五) よって、原告は、被告に対し、前記預託金の合計三八四〇万円及びこれに対する弁済期後で本件訴状送達の翌日である平成一二年五月二四日から支払済みまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
請求の原因はすべて認める。
三 抗弁
1 預託金返還期限延長条項の存在
本件会則第七条第二項ただし書には、「(預託金を)返還することが著しく困難であり、かつ、これに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある場合会社はその期間を延長することができる」と規定されている(以下「本件条項」という。)。
原告は、本件会則に定められた内容を遵守することを約して入会したから、右入会契約には本件条項が適用される。
2 被告による預託金返還期限延長決議
被告は、平成一一年八月一〇日の取締役会において、本件条項に基づき、会員の預託金の返還期限を、当初の期限到来の日から一〇年後の該当日まで延長する旨の決議をし(以下「本件決議」という。)、その後各会員に右決議がされたことを通知した。
3 本件条項の有効性
(一) 本件条項が規定された経緯
預託金会員制ゴルフクラブにおいては、入会時の預託金はゴルフ場施設の建設資金などに全額使用されるため、預託金の返還期限において、一度に多くの会員から返還請求された場合には、返還が困難となる。そこで、右のように預託金の返還が困難な場合には、<1> ゴルフクラブを解散し、ゴルフ場施設を売却してその資産を換価し、これにより会員に対する預託金の返還を優先する方法と、<2> ゴルフクラブの運営という共通の目的のために、預託金の返還を一時延期してでもゴルフクラブの存続を優先する方法が考えられるが、ゴルフクラブを運営する会社としては、いずれの方法によるべきかを事前に決めておく必要がある。そして、本件ゴルフクラブにおいては、右のような状況においては、預託金の返還よりもゴルフ場の施設利用という会員共通の目的を優先すべきとの前記<2>の方針が採用され、本件条項が規定されたものである。会員は、ゴルフ場の施設利用及びゴルフクラブの運営という共通の目的のもとに入会契約を締結するものであるから、右の目的を維持するため預託金返還請求権が制約を受けるとしても、不合理とはいえない。
(二) 本件条項の要件
本件条項は、「(預託金を)返還することが著しく困難であり、かつ、これに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある場合」を要件として返還期限を延長できるとするものであり、延長の要件が具体的に定められている。また、本件条項は、右要件がある場合に限り被告が延長することができると定めているものであり、手続も規定されている。延長要件が存在するか否かの判断権が債務者である被告に与えられていることに問題があるようにも見えるが、右判断の要件は前記のとおり本件条項に具体的に定められているのであり、被告の裁量権はせいぜい延長期間の長さにあるにすぎないということができるから、この点は本件条項の有効性に影響を及ぼすものではない。
(三) 右のとおり、本件条項は合理的理由のもとに合理的要件を定めているものである。また、前記のとおり、本件条項は入会に際して会員に知らされ会員はこれを承諾して入会したものであるから、本件条項は有効である。したがって、本件決議が本件条項の要件を備えるものである以上、本件決議は有効である。
4 本件決議の有効性
(一) 被告の資産状況
(1) 被告は、本件会員権(当初会員権)の募集当時には、第三次会員の募集口数一八〇口を残し、これにより、当初会員の預託金返還時期到来前に七二億円が調達できる予定であった。ところが、平成三年ころからのバブル経済の崩壊の影響で、会員権の市場価格が下落し、第三次会員を募集することができなくなった。
(2) 被告は、海外においてゴルフ場の増設開発や不動産の売却を行う会社に投資を行い、利益の還元を得て、預託金返還の財源の一部とする予定であった。ところが、右投資先の経営状況が悪化し、投資した資金の回収が困難となった。
(3) 本件入会契約当時には、足利銀行の頭取が本件クラブの理事長をしていたこともあり、右銀行から全面的協力を求めることが可能であり、右銀行からの融資により預託金の返還に応じることも予定していた。ところが、平成五年に、右理事長が前被告代表取締役の態度に不満を持ち、理事長を辞任したことから、右銀行からの多額の資金援助は見込めなくなった。
(4) 会員からの預託金は合計一五六億円程度であり、右預託金は本件ゴルフ場の建設資金に要した一七二億円の一部として全額使用された。
(5) 本件決議当時、被告の資産としては、預金等の流動資産として残存しているものはなく、平成一〇年期決算における現金及び預貯金等の残高は、一八一万円程度でありその後も大きな変動はない。
(6) 経済的価値を有する資産としては、本件ゴルフ場用地及びクラブハウス等の不動産があり、右不動産の固定資産税評価額は合計約一〇億二〇〇〇万円であるが、右不動産には、本件決議当時、合計約九五億一〇〇〇万円の負債を被担保債務とする根抵当権が設定されている。
(7) 本件ゴルフ場の利用に基づく売上げは、平成一〇年度決算で約五億六〇〇〇万円であり、その営業利益はほとんど存在しない。
(8) 以上によれば、被告は、本件決議時点において、会員からの預託金の返還請求に応じる経済的能力が全くない。また、右資産状況の悪化により、他社からの借入や、株主・取引先金融機関からの借入を行うことも不可能であるから、預託金の返還資金を融資により調達することも不可能である。したがって、被告が原告に預託金を返還することは困難であり、返還請求が複数生じれば、もはや返還は不可能な事態に陥ることは明らかであるから、このような被告の資産状況は、本件条項の「(預託金を)返還することが著しく困難である」という要件に該当する。
(二) 預託金返還請求のされる可能性
本件ゴルフクラブの会員の多くは、平成二年三月から同年四月ころに入会しているから、右会員の預託金返還期限は、平成一二年三月ないし四月に集中する。そして、本件会員権の市場価格は現在一〇〇万円を下回っているが、会員の預託金の金額は、一四四〇万円と二四〇〇万円の二種類であるから、多くの会員は、会員権を市場で売却するよりも、預託金全額の返還を求めると考えられる。その場合、返還請求のあった一部の会員に対してのみ預託金返還に応じるという方法では、運転資金の枯渇を招き、倒産の危険性が高く、ゴルフクラブの運営という共通の目的に反することは明らかである。
右状況の下においては、ゴルフクラブの解散及びゴルフ場施設の売却による財産の換価を防ぎ、ゴルフクラブを存続し、会員のプレー権を確保するためには、預託金の償還期限延長の決定をする以外に方法はなかったから、本件決議は、「(預託金の返還)に応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある」という要件を備えている。
(三) 延長期間の相当性
被告は、ゴルフ場の経費削減のため、地代について、調停により、三年間は地代を半額とし、平成一三年末までに賃借範囲について減縮する協議を行い、一部が成立している。さらに調停がまとまれば、これにより一〇年で約一億八〇〇〇万円の積み立てが可能である。これらのことと次の(四)により、一〇年後には、会員権相場が上昇し、あるいは預託金返還が可能となる蓋然性がある。
(四) 被告のその他の努力
(1) 被告は、会員参加の組織づくりの一環として委員会活動の拡充、複登録制による会員の利用権の拡大、山百合会・レディース会・友の会・巣箱の会等の親睦会の設置などの措置を講じており、本件ゴルフクラブの会員権の時価は、今後上昇が予想される。
(2) 被告は、会員の不利益に対する利益保護及び一〇年後の預託金返還のための経済的環境の改善のため、会員の有する会員権の権利内容を充実させるための委員会(会員制度充実委員会)を設置した。
(3) 被告は、平成一一年九月及び同一二年六月、会員に、本件決議の代償措置として、本件ゴルフ場の無料券を配布した。
(4) 被告は、本件決議の代償措置として、本件会員の名義変更料の減額・無料化を実施した。
(5) 被告は、本件決議後、会員に対して、アンケート形式により意見を聴取したが、平成一二年五月末の段階では、聴取した四九二名の会員のうち、明確に反対意見を表明している会員は、四四名である。現在預託金返還を訴訟により求めている会員は、原告も含め一八名であるが、他の会員についても、被告担当者が会員の自宅を回り、同意を得られるよう努めている。
(6) 平成一二年四月中旬においては、本件ゴルフクラブの会員権相場は八五万円であるが、右相場は割安と評価されており、安定した営業を続けていけば、市場価格は上昇が見込まれる。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は否認する。
原告は、被告と本件条項について合意していない。原告は、本件会員契約締結の際、一〇年経過後に、当然預託金の返還を受けられると考えて入会したものであり、預託金返還期限が延長されることを承知して会員になったのではない。
2 抗弁2ないし4は不知ないし否認する。
3 預託金返還期限の延長には原告の個別的承諾を得る必要があり、被告が、原告の承諾なくして一方的に返還期限を延長しても、原告に対抗することはできない。
理由
一 請求の原因について
請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
二 抗弁について
1 抗弁1(預託金返還期限延長条項の存在)について判断すると、成立に争いのない甲第三号証によれば、本件会則の第七条第二項ただし書は、「ただし、返還することが著しく困難であり、かつ、これに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある場合には、被告会社は預託期間を延長することができる」と規定されていることを認めることができ、また、成立に争いのない乙第四号証の1及び2によれば、原告は、「クラブ規約ならびに会員権約款承認の上(中略)申し込みます」と記載された入会申込書により本件入会契約の申込みをしていることを認めることができる。他方、弁論の全趣旨によると、本件ゴルフクラブはいわゆる預託金会員制のゴルフクラブであり、本件ゴルフクラブは被告とは別個独立に存在するものではないことを認めることができるから、本件会則は、本件入会契約の契約内容を定めるものというべきである。そうすると、本件入会契約には、本件条項が適用されると認めることができる。
2 そして、抗弁2(被告による預託金返還期限延長決議)について判断すると、成立に争いのない乙第五号証によれば、平成一一年八月一〇日、被告の取締役会は、「預託金の償還期限延長について」との議題を審議し、本件条項に基づき、預託金の返還期限を期限到来の日から一〇年後の該当日まで延長する旨の本件決議をしたことが認められ、また、成立に争いのない乙第六号証と弁論の全趣旨によると、平成一一年九月二八日付けで、本件ゴルフクラブの会員宛に本件決議が行われたことを伝える書面が作成され、これを郵送することにより、本件決議の内容が会員に通知されたことを認めることができる。
3 そこで、抗弁3(本件条項の有効性)について検討する。
(一)(1) 成立に争いのない乙第七号証及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
本件ゴルフクラブは、昭和五八年に建設計画が立てられ、平成元年九月六日から、会員の募集が行われた。被告は、当初預託金の返還の財源として、主として、他社への投資により得られる利益、新規会員権の募集及び足利銀行からの融資を予定していた。すなわち、当時の被告代表取締役の宮家は、海外においてゴルフ場の造成開発や不動産の売却を行う会社を経営していたところ、右会社に投資を行い、そこから得られる利益を被告に還元して、それを預託金返還の財源とする予定であった。そして、右投資に必要な資金は、ほとんどすべて足利銀行から被告に融資され、更に宮家の別会社に再融資された。また、被告は、第三次会員の募集口数一八〇口を残していたので、当初会員に対する預託金の返還時期前に会員を更に募集することで、完売した場合、約七二億円が新たな返還資金となる予定であった。また、当時は足利銀行が被告に協力する立場をとっていたから、足利銀行からの融資を返還資金とすることも考えられていた。したがって、平成元年当時は、預託金返還に関して、仮に市場価格が下がって多くの会員から返還の請求があったとしても、資金調達の見込みが全くないという状態ではなかった。
もっとも、会員の募集を始めた平成元年当時までには、既に他のゴルフクラブでは預託金返還問題が生じ、訴訟が提起されていた例もあったため、被告は、将来において預託金返還請求が集中して行われる事態を想定して、その際にとるべき方法を検討したが、本件ゴルフクラブにおいては、会員のゴルフのプレー権存続を第一として他に優先させる方法を採用することとした。そこで、被告は、預託金返還請求が集中し、資金調達が不可能となった場合には、会員のゴルフプレー権を守るべく、預託金返還期限を延長できるようにするため、本件会則中に、その趣旨を明らかにした文言により、本件条項を設けた。
(2) ところで、本件ゴルフクラブのような預託金会員制ゴルフクラブは、ゴルフ場の建設資金の大半が預託金でまかなわれるものであり、建設資金、ひいては預託金の総額は極めて高額になるものであるから、一〇年ほどの期間経過後に集中して預託金返還請求がされるとすれば、特段の事情のない限り、被告がこれに応じる経済的状況にないことが予測できたところである。したがって、その場合に、多数の会員に対して当初の預託金返還期限に預託金の返還をしようとすれば、被告の存続が危ぶまれる事態となり、倒産的清算を余儀なくされることにもなりかねない。ところが、他方では、ゴルフ会員権は市場流通性があり、平成二年ころまでは市場価格が預託金額を上回り続けたため、その状態が続けば預託金返還請求が集中することはないと見込まれたし、更には、会員の中には、預託金の返還よりも、ゴルフ場施設の利用に主眼を置く会員がいることも想定され、このような会員については、前記のような経営危機が生じた場合には、預託金返還請求権に制約を受けることになっても、ゴルフ場施設の利用を継続できる方法で対処することを選ぶことも十分に考えられるところである。そうだとすると、被告が、会員募集に当たり、預託金返還期限が到来した時点における経済状態の変動に備えるとともに、会員間の利害を予め調整することができる会則を定め、これを承諾する者のみに会員資格を与えることとしたことは理解できるところであり、その方法として、ゴルフ場施設の利用ないし右施設の存続を優先させる方法を採用したことも合理性があるというべきである。そして、前記認定によると、本件条項は、右の調整方法として定められたものと認めることができるから、本件条項自体に不合理性ないし不当性が認められない限り、本件条項が原告の個別的承諾なく預託金返還期限を延長することを許容していることの一事をもって、これを無効とすることは困難である。
(二) そこで、本件条項の定めを検討すると、前記乙第七号証及び弁論の全趣旨によると、預託金返還期限の延長に関しては、多くのゴルフ場では「不可抗力による場合」、「天災地変の場合」等の極めて厳格な要件を定めるか、あるいはその反対に抽象的であまり具体的とはいいがたい要件を定めて返還期限を延長できるとの規定を置いていること、これに対して、本件条項は、「(預託金を)返還することが著しく困難であり、かつ、これに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある場合」には、返還期限を延長できると規定しており、相当具体的に期限延長の要件が定められていることを認めることができる。すなわち、本件条項は、これが置かれた前記のような経緯(経済状況が変動し、ゴルフ場の経営を続けられないような事態に陥ったときには、預託金返還期限を一時期延長することにより、会員のプレー権を尊重するべきであるとの趣旨から規定されたもの)とともに考えると、本件条項の「返還することが著しく困難であり、かつ、これに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある場合」とは、経済的な事情の著しい変更により経営困難に陥り預託金返還に応じると経営を断念せざるをえない場合をいうものと解することができる。その要件は具体的であり、かつ、会員にとって比較的容易に想定することができるものというべきである。
したがって、本件条項は、その具体性、明確性の点においても、不合理であり、不当であるということはできない。
(三) もっとも、預託金返還請求権が会員の基本的権利であることに照らせば、本件条項をその文言のとおりに解するのは妥当でなく、会員の基本的権利である預託金返還請求権を犠牲にしてもやむをえないと認めるに足りる合理的事情がある場合に限って、本件条項に基づく決議が有効であると解すべきである。
そして、このような観点から検討すると、本件条項の「返還することが著しく困難であり、かつこれに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある場合」に当たるといえるためには、<1> 当事者にとって、入会契約締結時には予測不可能な著しい経済状況の変化が生じたこと、<2> 預託金の返還に応じた場合には、倒産が必至である等被告の会社経営に重大な支障が生じること、<3> 返還期限の延長が、被告の経営維持のために真にやむをえない措置であり、他に採りうる手段がないこと、<4>被告が、返還期限の延長の代償措置を講じていること、<5> 延長期間経過後には、預託金返還に応ずることが合理的に期待可能であり、かつ、右期間が、可能な限り短期間に設定されていることを要件とするものと解するのが相当である。そして、このような要件を満たす必要があると解する場合には、債務者である被告が一方的に期限延長の決定権をもつとしても、その判断が恣意的に行われる危険は少ないと考えられる。
4 右のような観点から、抗弁4(本件決議の有効性)について検討する。
(一) まず<1>については、バブル経済の崩壊は、一般人が予測することが極めて困難であった著しい経済状態の変更というべきであるから、本件決議が<1>の要件を満たしていることは明らかである。
(二) <2>及び<3>についてみると、前記乙第六、第七号証、成立に争いのない乙第八ないし第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告は、前記のとおり、当初、返還原資として、海外においてゴルフ場の造成開発や不動産の売却を行う他社に投資することにより得られる利益、会員の第三次募集を行うことにより調達できる七二億円及び良好な関係にあった足利銀行からの融資を予定していた。ところが、バブル経済の崩壊により、平成三年ころから、ゴルフ会員権の市場価格が下落し、予定していた第三次会員権の募集はできなかった。また、当時から、ゴルフ場全体の経済的状況が悪くなってきたため、前記他社への投資は失敗に終わり、利益を得られなかったのみならず、投資した資金の回収が困難となり、大口の不良債権が残った。さらに、足利銀行の頭取が被告の当時の代表取締役の経営に不審を抱いたため、それまで本件ゴルフクラブの理事長をしていたのに平成五年には理事長を辞任し、足利銀行からの多額の資金援助は見込めなくなった。これらの事情により、当初預託金の返還原資として予定されていた財源を確保することができなくなった。
これに加えて、会員からの預託金は、ゴルフ場建設資金として既に支出されており、残存するものはない。
(2) 本件決議当時の被告の資産としては、平成一二年度の固定資産税評価で約一〇億二〇〇〇万円の不動産があるものの、右不動産には、本件決議当時合計約九五億一〇〇〇万円の債権を被担保債権とする根抵当権が設定されている。
平成一〇年度の決算によれば、本件ゴルフ場の総売上は、五億六〇〇〇万円程度であるが、これによっても営業利益はほとんどない。
被告は、短期貸付の約四〇億五〇〇〇万円の債権を有しているが、そのうち約三九億円は、前被告代表取締役であった宮家に対する融資額であり、その回収は現在困難となっている。
このような資産状況の悪化により、他社からの借入れ、株主・取引先金融機関から借入れを行うことも不可能であり、預託金の償還資金を融資により調達することは不可能である。
(3) そして、平成一一年一月から八月までの間に、会員に預託金返還期限の延長について意見を聴取したところ、明確に反対をした会員は三・六パーセントであったが、一人でも返還請求をすると、不和雷同的に請求する会員がいると考えられることから、意見不明とされた会員のうち半数が反対であると考えると、一五・九パーセントの会員が返還を請求すると予測された。右請求があった場合、四億七〇〇〇万円から二〇億七六〇〇万円程が返還原資として必要になると考えられた。
以上の事実に照らせば、当初の預託金返還期限を遵守する以上、本件ゴルフ場は解散せざるをえず、その結果、ゴルフ場の利用ができなくなることが明らかであるから、会員のゴルフ場施設利用権を確保するためには、本件延長決議はやむをえない措置であり、他に採りうる手段はなかったものと認められる。してみると、本件決議は、<2>及び<3>の点も充足しているというべきである。
(三) 次に<4>について判断すると、前記乙第七号証及び成立に争いのない乙第一二号証によれば、被告は、平成一二年六月に、個人会員について三親等内の親族に譲渡する場合の名義変更料の無料化、法人会員の記名者変更料の減額、一定の資格を有する者に対する施設無料利用券の配布の代償措置を決定し、配布したことが認められるので、本件決議は<4>の要件も満たすというべきである。
(四) さらに、<5>については、成立に争いのない乙第三、第一四号証、前記乙第六、第七、第一〇、第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告は、会員参加の組織づくりの一環としての委員会活動の拡充、複登録制による会員の利用権の拡大、山百合会・レディース会・友の会・巣箱の会等の親睦会の設置などの措置を講じ、本件ゴルフクラブ会員権の市場価値の上昇のため努力を行っている。
被告は、会員の有する権利内容を充実させるべく会員制度充実委員会を設置した。
(2) 被告が、平成一二年五月現在において、本件決議について会員の意見を集計したところ、意見を聴取した四九二名の会員のうち、明確に反対の意見を表明したのは四四名にすぎず、三九六名が賛成を述べており、右によれば、聴取に応じた会員のうち、約五分の四が賛成している。
(3) 平成一二年四月二〇日、調停が成立し、本件ゴルフ場の地代の一部が減額された。
以上の事実に照らせば、会員の大半が本件決議を事後的に承諾していること、会員権の市場価格の上昇が見込まれると考えられること、被告は経費削減等の経営努力を重ねることで、本件決議の結果預金返還期限の到来する一〇年後には、請求に応じられる環境を整える準備をしていることが認められるから、一〇年間の延長は、やむをえない最短の期間延長であるということができ、本件決議は<5>の要件も満たすということができる。
(五) 以上の検討によると、本件決議は、右<1>ないし<5>のすべての要件を充足しており、有効というべきであり、これにより預託金返還期限は一〇年後に延長されたものと認められる。
よって、被告の抗弁は理由がある。
三 結論
以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 土屋文昭)