東京地方裁判所 平成12年(合わ)361号 判決 2002年1月11日
主文
被告人A1及び被告人A2をそれぞれ懲役二〇年に、被告人A3を懲役九年に処する。
被告人らに対し、未決勾留日数中各二一〇日を、それぞれその刑に算入する。
被告人A1から、押収してある回転式けん銃一丁及び自動装填式けん銃一丁を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人A1は、右翼団体である「B社」の会長、被告人A2は、その理事長、被告人A3は、その塾頭であったもので、併せて被告人A2は、静岡県伊東市における温泉給湯権販売事業等を行う株式会社Cコーポレーションを経営し、他の被告人も同事業に関与していたものであるが、
第一前記事業に関して被告人A2とDとの間で生じた二〇〇〇万円の貸借金の返済を巡る紛議に際し、D側に立って行動した暴力団E会E一家FG組組長Hらにおいて、当該問題が決着をみた後の平成一二年八月四日に、多数の暴力団員を動員した上で東京都新宿区ab丁目所在の喫茶店「I」に被告人A1を呼び出し、前記事業に関する温泉権の返却や給湯権売却代金の引渡し等を強く要求したところ、被告人A1は、その場は同月七日に回答すると答えてようやく辞去したものの、正当な理由のない理不尽な要求であると考えてこれを拒絶することを決意し、回答日である同月七日午前、自宅から東京都千代田区c町d丁目e番地fビルg棟h階所在のB社事務所に適合実包を装填したけん銃二丁を持ち込んだ上、自己がB社事務所にいることなどを電話でHに伝え、右暴力団員らが同事務所に大挙して押し掛けて強談威迫し、場合によっては暴力による攻撃に及ぶことがあり得ることを予期し、攻撃を受けた場合には、右暴力団員らに対し、けん銃等を使用して対抗しようとし、順次B社事務所に来た被告人A3、同A2においても、被告人A1の決意を承知し、これと同様の意図の下に同被告人と共に同事務所に残り、
一 被告人A1及び同A2は、平成一二年八月七日午後零時三〇分ころから同日午後三時二〇分ころまでの間、東京都千代田区c町d丁目e番地fビルg棟h階所在のB社事務所において、かねて被告人らとの間で前記のような紛議を生じていたE会系暴力団員らが被告人らを襲撃してきた場合には、これを迎撃して右E会系暴力団員らの生命・身体に対して共同して危害を加える目的で、回転式けん銃一丁及び自動装填式けん銃一丁等を準備して集合し、もって、他人の生命・身体に対して共同して害を加える目的で凶器を準備して集合し
二 被告人A3は、前記被告人A1及び同A2の両名が前記日時場所において前記の目的で前記けん銃二丁等の凶器を準備して集合した際、同様の目的で、右凶器の準備があることを知ってこれに加わり、もって、他人の生命・身体に対して共同して害を加える目的で凶器の準備があることを知って集合し
三 被告人A1及び同A2は、共謀の上、いずれも法定の除外事由がないのに前記一記載の自動装填式けん銃一丁及び回転式けん銃一丁を所持していたものであるが、同日午後三時二〇分ころ、前記B社事務所において、そのけん銃二丁をこれに適合する実包合計一三発と共に携帯し
四 被告人三名は、同日午後三時二〇分ころ、Hほか十数名が大挙して前記B社事務所に押し掛け、そのうち、先ずH、J、K、Lらが、「A1、この野郎」などと怒鳴りながら、事務所内に押し入り、被告人A1が前記自動装填式けん銃を所持していることに気づいた者が声を挙げるなどして騒然となる中で、Mが特殊警棒で被告人A1に殴りかかろうとし、被告人A1において一発威嚇発射したものの、なお他の者がひるまず椅子を持ち上げるなどしてさらに向かってくる気勢を示したことから、共謀の上、殺意をもって、Hらに対し、同人らめがけて所携の前記けん銃二丁で弾丸一一発を発射し、Jに対し、所携のナイフ(刃体の長さ約九・五センチメートル)でその胸部、背部を突き刺し、顔面等を切り付けるなどし、
1 K(当時四九歳)に弾丸一発を命中させ、よって、同日午後四時五四分ころ、東京都文京区<以下省略>N病院において、同人を胸部射創による失血により死亡させて殺害し
2 L(当時五二歳)に弾丸一発を命中させ、よって、同日午後四時四五分ころ、東京都新宿区<以下省略>O病院において、同人を胸部射創による失血により死亡させて殺害し
3 H(当時五六歳)に弾丸二発を命中させたが、同人に加療約七三日間を要する前胸部・背部銃創等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げず
4 M(当時二五歳)に弾丸二発を命中させたが、同人に加療約一九日間を要する左肩・下腹部銃創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げず
5 P(当時二九歳)に弾丸一発を命中させたが、同人に全治約四週間を要する胸部銃創、左肩甲骨骨折の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げず
6 J(当時五三歳)に全治約二〇日間を要する胸背部刺創、全身切創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。
第二被告人A2は、かねてCコーポレーションに損害を与えて所在不明となった元社員の行方を探していたものであるが、同人と同じQなる名称で金融業を営んでいたところから、平成一二年七月一四日午後五時四五分ころ、東京都千代田区ij丁目k番l号mビルn階の貸金業者QことR方店舗を訪れ、そのころ、同店内において、相手方の応対に一方的に激高して
一 R(当時三一歳)に対し、その頭部を所携のブラックジャックと称される護身道具(鉛入り皮革棒)で一回殴打し、その顔面に頭突きを加え、同所にあった事務用の鋏でその背部を突き刺し、その腹部、左腕部を足蹴にするなどの暴行を加え、よって、同人に加療約一〇日間を要する頭部打撲、背部刺傷、左肘打撲の傷害を負わせ
二 S(当時二二歳)に対し、その顔面に頭突きを加え、手拳でその顔面、頭部を殴打し、腹部を足蹴にし、前記鋏でその額を突くなどの暴行を加え、よって、同人に全治約七日間を要する頭部打撲、頭皮挫創の傷害を負わせ
三 同所に設置された電話機五台の受話器コード五本(時価合計三三〇〇円相当)を鋏で切断し、もって、R所有の器物を損壊した。
(争点に対する判断)
一 弁護人は、判示第一の四の各事実について、(1)被告人らにはいずれも確定的な殺意はない、(2)被告人らの行為は正当防衛であり、そうでないとしても過剰防衛あるいは誤想防衛にあたる、(3)被告人A3については従犯にとどまる旨、また、判示第一の各事実について、仮に被告人らに犯罪が成立するとしても、被告人らには自首が成立する旨、さらに、判示第二の各事実について、被告人A2がR及びSに対し鋏で突き刺した事実及びSを殴った事実はなく、鋏で切断した電話機の受話器コードの本数は二本である旨主張する。
これに対し、当裁判所は、関係証拠に照らし、判示のとおり認定し、弁護人の主張はいずれも理由がないと判断したので、以下必要な限度で説明する。
二 判示第一の四の各事実について
1(一) 先ず、関係証拠により認められる事実関係は、次のとおりである。
(1) 本件犯行に至る経緯
平成一二年七月中旬ころ(以下、特記なき限り平成一二年)、A2は、Cコーポレーション名義で行っていた温泉給湯権販売事業に関してDに対し多額の融資をしていたことから、その返済を受けようとして同人に借用書を作成させた。そのため、Dは、自己の関与する不動産会社の社長であるTを通じ、暴力団E会E一家FG組組長Hにその解決を依頼した。
一方、A1は、G組と同じE会系暴力団のE会U組組長Lから、右紛議について面会を希望する旨の電話を受けるなどした結果、A2とも相談の上で、先代会長のころからB社と近しい関係にあった暴力団E会E一家V理事長であるWが、ヤクザ同士で話を付けてやるから自分たちに任せるよう述べたことなどを受けて、Wらにその仲裁を依頼した。
しかし、HやV幹部らが設けた交渉の場での話合いも物別れに終わるなど、紛議は容易には解決を見なかったが、最終的には、F一家が三〇〇万円、Vが七〇〇万円(Wが二〇〇万円、Xが五〇〇万円)を出し、それをA2に渡すことで話がまとまり、同月二四日に、念書を作成するなどしてA2・D間の紛議は決着した。
しかるに、A1は、同月二五日、右事態の推移等を省みた末に、B社の解散を決意し、包丁で自己の右手小指を切断してB社の解散を宣言し、その後関係者の了解も得るところとなった。
右紛議が一応決着したにもかかわらず、A1は、八月四日、電話でLから呼び出しを受けて、東京都新宿区ab丁目所在の喫茶店「I」に単身で赴いたところ、同店前には多数の暴力団組員が結集しており、店内では、H、L、G組組長代行K、T、F一家Y会会長Jが待ち受けていた。Hは、A1に対し、A2・D間の貸金をめぐる紛議につき自分は要求を受け入れたのであるから、今度はA1が要求を聞く番だ、などと主張し、温泉権はDのものであって、給湯権の売却代金は自らに引き渡すように強く要求した。A1は、暴力団の威勢を示した不当な言いがかりであると感じたものの、その場で拒絶することもできずに返答に窮した挙げ句、同月七日午後三時までに回答する旨告げて、同店を退去した。
(2) 本件当日の状況
A1は、解決策が見出せず苦慮した末、Hらの要求は理不尽であって到底応じることはできないと決意し、何とかして暴力沙汰にならずに事態を打開したいと思いながらも、暴力団員であるHらによる、その威勢を背景とした要求を実質的に拒絶するものである以上、同人らが場合によっては手段を選ばない行動に出ることも予想し、そのような場合には使用することを考えて、八月七日午前九時ころ、実包装填済みのけん銃二丁を持ってB社事務所に赴き、けん銃を自らの机の引き出しに隠してから隊服に着替えた後、事務所内にあった段ボールや額縁等で窓を目隠しするなどした。
なお、B社事務所は、地上七階建て地下一階建ての鉄筋コンクリート造りの雑居ビルの四階に位置し、南北約一一・二メートル、東西約四・九メートルで面積約五〇平方メートルの広さを有する。事務所内の構造は、出入口一箇所と台所、トイレの設備があり、事務所内には事務机、ソファー、ロッカー、書庫、コピー機等が多数置かれていた。
午前一〇時ころ、A3がB社事務所に現れたため、A1は、A3に対し、「今日は何もないから帰れ。」などと言ったが、事務所の様子などからA1のただならぬ雰囲気を察知したA3は事務所を辞去しようとしなかった。A1は、数度にわたってA3に帰るように命じたが、A3が応じようとしなかったことから、しばらくして、A3に対し、「FのHと話がつかない。もしかしたら今日喧嘩になるかもしれない。そのときのためにここに二丁用意してある。」などと述べた後、自己の机に隠匿してあったけん銃二丁を取り出してA3に見せ、「今日はこれを使うことになるかもしれない。そのときはお前もこれを使え。」などと述べた。A3は、A1の発言を聞きながら、F一家が事務所に訪れ抗争になった場合には、けん銃を使って、相手方を殺害してでもA1を守らなければならないと決意した。
また、A1は、Hに電話をし、「私は事務所にいます。私に屈辱を与えたいのなら、私を取りに来て下さい。」などと述べ、A3に事務所の出入口ドアの内鍵を締めさせ、電気も消させるなどした。
午後零時三〇分ころ、A2がB社事務所に現れたため、A1は、A2にも「帰れ。」などと言ったが、A2も帰ろうとはしなかった。そこで、A1は、A2にしまってあったけん銃を見せ、「Hらがここへ来る。道具を用意したからお前はこれでやれ。」などと言い、回転式けん銃一丁をA2に渡した。A2は、受け取ったけん銃をすぐに事務所中央部付近の事務机にしまい、A1は、自動装填式けん銃の遊底を引いて事務所出入口ドア付近のキャビネット上に置かれたA3の背広の下に置いた。一方、A3は、A2が回転式けん銃を使用するようになったことに伴い、自らが使用する凶器を探して出刃包丁を取り出し、事務所中央部付近の事務机の中に隠した。さらに、A2は、A3が事務所出入口ドア付近から外の様子を窺うなどしていたときに、ジェスチャーを交えて、相手が来たら自分がやるから、A3は後ろへ下がっているようにと指示するなどした。
午後三時過ぎころ、A1は、Lから二度にわたって電話を受け、事務所の場所を説明した際、「Lさん、お一人ですか。」と尋ねたところ、Lが「FのH理事長も一緒だ。」と言ったことから、HとLの二人で来訪するのだと思い、A3に事務所出入口の鍵を開けさせ、電気をつけさせ、A2に、けん銃をしまっておくように言った。
(3) 本件犯行状況
A1らが事務所出入口付近で待っていると、同日午後三時二〇分ころ、大勢の人間が事務所付近の階段や廊下を走り回る音が聞こえて、いきなり事務所の出入口ドアが開き、Hが「A1、この野郎。」などと怒鳴りながら事務所内部に押し入り、それにL、J、Kが続き、さらにG組組員M及びY会構成員Pほか数名の者が相次いで事務所内部に押し入ってきた。A1は、とっさに自動装填式けん銃を取り右手に持ったが、それを下に向けて下げた状態で相手側に取り囲まれるようにして、事務所北側の方へ移動した。このとき、誰かが「こいつけん銃を持っている。」などと声を上げ、騒然とする中で、後から入ってきたMが特殊警棒でA1に殴りかかり、それが、A1の右手の甲に当たった。A1は一発威嚇発射したが、その周囲を半円形に取り囲むようにしていたHらが怯まず、JがA1に椅子を持ち上げ投げつけてくるなどしたことから、A1は、Hらがいる方向に向けて残りの弾丸六発すべてを発砲した。このうちの少なくとも一発がHの右肩部に、一発がKの右上腕を貫通して右上胸部にそれぞれ命中し、そのほか、一発がHの左肩前鎖骨部に命中し、貫通した可能性が高い。また、A2も、A1の発砲音を聞くや事務所中央部の事務机から回転式けん銃を取り出し、Mらの方向に向けて続けざまに五発すべてを発砲した。このうちの少なくとも一発がPの左肩部に、一発がMの左肩部に命中し、そのほか、一発がLの上腕部左側に命中し、貫通した可能性が高い。さらに、一発がMの左下腹部若しくは左腰部に命中、貫通している。A3も、A2が発砲し始めると出刃包丁を取り出し、逃げようとするMに切り掛かるなどした。A1及びA2が発砲を終えるころには、H側の大部分の者は逃げ終わっていたが、A2は、事務所北西隅にあるA1の事務机のところにJが残っていることに気付き、同人に対してナイフで切りつけたりし、A3もJの方に向かっていこうとしたが、A1が止めたことから、Jは事務所から逃走した。Jは、A2の行為により左鎖骨下部、左胸下部及び左背部にそれぞれ刺創を負い、そのいずれかが胸腔まで達し気胸を生じていた。そのほか、胸部、背部、上腕部等に一〇か所の切創を負った。
(二) なお、以上の事実関係のうち、本件犯行当日の被告人らの状況に関しては、主としてA3の供述によったものであるが、弁護人は同人の捜査段階の供述は取調官の誘導に応じるなどしたもので信用性が低いと主張する。しかし、A3の供述内容は極めて具体的詳細である上、状況の進展に即してその当時の個人的心情なども明確に述べていて迫真性に富み、特に不自然、不合理な点も見当たらず、大筋においてA1の捜査段階の供述とも符合している。その上、A3の立場からして、ことさら事実を曲げてまでA1やA2に不利益な供述をするものとは到底思われないし、A3供述の主要部分は客観的状況にもよく整合するもので、その信用性は高い。
2 殺意について
(一) K、L、H、M及びPに対する殺意について
A1が使用した凶器は、八発の実包が装填可能なトカレフ型自動装填式けん銃、A2が使用したけん銃は、五個の薬室を有する口径〇・三八インチの回転式けん銃で、犯行当時自動装填式けん銃には七発(一発威嚇発射した後は六発)、回転式けん銃には五発の実包が装填されており、いずれも実包を正常に発射するけん銃としての機能を有していた。
また、本件犯行現場たるB社事務所の内部は、前示のような状況であり、とりわけその北側部分に被告人A1及び事務所に押し入ってきたHらが集まっていたため、各人が互いに一定の間隔を保つほどの余裕はなく、むしろかなり密集した状態になっていた。そのような状況においてけん銃を発砲すれば、意識的に人が存在しない方向に発砲するなどしない限り、他の者の身体に命中し、その者が死亡する高度の可能性があるということは容易に認識しうるところである。
このような状況の中で、A1は、事務所内にいきなり多人数で押し入ってきたHらが威嚇のための発砲に対しても怯まず、むしろA1に対して椅子を持ち上げるなどして向かって来る気勢を示したことから、HやKらが自己の前方約二メートルにも満たない距離にいることを認識しながら所持したけん銃を同人らに向けて残りの六発すべてを乱射し、A2は、A1の発砲音を聞いて、Mらが間近にいるのを認識しながら所持したけん銃を同人らに向けて五発発砲したものである。そして、その結果、前示のとおり、両名併せて発射した一一発中、七発を五名の被害者の体幹部や上半身に命中させている。
そして、被告人ら三名は、前示のとおり、Hらが多人数で事務所に押し掛け攻撃してくることがあり得ることを予期し、HらによるB社事務所に対する侵入行為がなされる前から、けん銃二丁を各適合実包と共に携帯して準備し、Hらが多人数で攻撃してきた場合には、自分たちの身を守るべく、Hらに対しけん銃を発砲して反撃する意図でHらの来訪を待ち受けていたのであり、被告人三名の親しい間柄、各人が承知していたそれまでの経緯、特にA3、A2については、A1から事務所から帰るように言われながら、事態を認識した上で、A1と共に事務所にとどまっていたことやA1からけん銃を示されたり、渡されたりした際のやり取り等に照らせば、少なくとも被告人三名において、暗黙のうちにその旨の事前共謀が成立していたものと認められるところ、その攻撃が現実化した際に反撃行為を実行に移したのである。しかも、A1が遊底を引いた状態でけん銃を準備していたことなどの準備状況に照らせば、被告人らは、Hらによる攻撃が現実化される可能性が十分あることを予見していたことが認められる。
そうすると、使用された凶器の種類、その殺傷能力、B社事務所内に多人数の侵入者が存在していた犯行現場の状況、A1及びA2が至近距離にいるHらをめがけて全発を撃ち尽くすまで次々と発砲した状況、その結果、現に被害者五名が体幹部や上半身に銃創を受け、二名が間もなく死亡し、他の三名もかなり重大な傷害を負っていることなどに照らせば、発砲行為を直接行ったA1及びA2に確定的殺意があったことは明らかというべきであり、直接発砲行為をしていないA3においても、前記の共謀状況に照らせば確定的殺意があったと認められる。
この点、弁護人は、①確定的殺意を持つ動機がなく、被告人らの間で事前に計画を立てていないこと、②A1が威嚇発射していること及び③被告人らが本件犯行直後、被害者を救助すべく一一九番に連絡をしていることなどをもって、被告人らに確定的殺意がなかったことの徴表であるなどと主張する。一方、検察官は、被告人らは、事態の決着を図るためにHらを事務所で待ち構え、これを銃撃して殺害しようとしていた旨主張するが、前記の犯行に至る経緯や犯行当日の状況等に照らせば、被告人らには検察官が主張するような積極的、計画的な殺意までは認められない。弁護人の主張、とりわけ①は、実質的にはその点をいうものであると解されるところ、その限りでは弁護人主張の如くであるが、被告人らが本件犯行時点で確定的殺意を有していたことは、前示のとおり、およそ至近距離から人を狙ってけん銃を発射するというその犯行態様等に照らして明らかである。また②の威嚇発射の点についても、その後の発砲状況に照らせば、あくまで可能な限りHらに対する殺害行為を避けたいというA1の心情を示すにとどまるものであって、それにもかかわらずさらに攻撃されようとした状況下での、その後の発砲における殺意を否定するものではない。さらに、③一一九番に連絡をする行為はHらを撤退させるという謀議内容を実現させた後の行動であって、これのみで既になされた発砲行為における殺意の認定が妨げられるものではないというべきである。
(二) Jに対する殺意について
関係証拠によれば、本件犯行に用いられた凶器は、刃体の長さ約九・五センチメートルに及ぶ鋭利なナイフであって、それ自体十分な殺傷能力を有するものであるところ、A2は、その性能を認識しながら、至近距離からJの身体の枢要部めがけて、多数回にわたり切りつけ突き刺そうとしていること、現にA2の行為によって、Jは、胸腔まで達する刺創を負い、気胸を生じるという、もう少し深く刺されたり受傷部位がずれていた場合には死の危険性があったと認められる創傷を負っていることなどの事情が認められ、本件凶器の性状、被告人の行為態様、狙った部位、攻撃方法、回数、実際の創傷部位、状況等に照らせば、A2はJを殺害することを意識しつつ、その身体枢要部に対し、執拗な攻撃を繰り返したものとみるのが相当である。A2は、確定的殺意を持って本件行為に及んだと十分認められる。これに反する弁護人の主張は、被害者であるJや他の被告人らの供述、さらに証拠上認められるJの多数にわたる受傷状況等の客観的事実関係に照らして、理由がないことが明らかである。
そして、本件では、前記のとおり被告人ら三名は、Hらの襲撃があった場合にはそれら二丁のけん銃を使用するなどして対抗し、襲撃から身を守ろうと共謀していたのであるから、それにもかかわらずA1が準備していたけん銃は二丁だけで、A3はけん銃を所持していなかったこと、けん銃実包は装填された一三発のみであったことなどからすると、被告人らは、Hらの襲撃があった場合にはけん銃に限らず、何らかの凶器でもってHらに攻撃することがあり得ることを当然認識していたはずであると認められる。そうすると、被告人らは、事務所内部にある何らかの凶器を用いてHらを攻撃することも予想し、その点についても黙示的に共謀していたものと認めるのが相当であり、加えて、A2のJに対するナイフによる攻撃行為は、未だ発砲直後であってH及びKが倒れているなど騒然とした本件犯行現場で引き続き行われたものであって、なお右の事前共謀に従ってなされたものと認められる。よって、A1及びA3についても、Jに対する殺意が認められる。
3 A3の正犯性について
A3は、A1からHらによる多人数での襲撃がありうることを知らされ、さらにそのための反撃手段としてけん銃が用意され、そのうちの一丁を自分が使う事態にもなりかねないことを認識した上で、A1から「帰れ。」と強く言われながらも行動を共にすべくその場にとどまり、A2にそのけん銃が渡された後も、なお自らが攻撃するに適切な凶器を探し求めて、その結果刃体の長さ約一九・五センチメートルの鋭利な出刃包丁を使うこととして用意し、犯行時には、これをもってMの胸付近をめがけて切り掛かり、A2がJに切りつけているのを見て、自らもJを攻撃しようとそちらへ向かうなどの行為をとったものであって、その共謀状況及び犯行時の行動状況等を総合すれば、A3には共同正犯が成立する。
弁護人は、A3の捜査段階の供述の信用性を論難するが、これについては先に示したとおりであり、A3は公判廷においても、けん銃を使用することを承知し、かつ、その場合には相手方を殺害する結果になることをも容認していた旨自認しているのである。
4 正当防衛、過剰防衛及び誤想防衛について
弁護人が主張するように、本件犯行当時、A1らは、HとLが二人で来訪すると思っていたところ、Hらは、それに反して多数の者を連れて大挙して押し掛けて来た上、いきなり数名が事務所内に押し入り、A1を取り囲むようにし、同人に対して特殊警棒で殴りかかる等の暴行を加えてきており、被告人らにとって極めて緊迫した状況であった事情は認められる。
しかし、電話でのLの応対からHと二人で事務所に来ると誤信していたとしても、なおA1らとしては、多人数で乱入してくるのではないかとの不安を持ち、場合によってはその他の可能性があり得ることを予想していたものと認められ、このことはA1において自動装填式けん銃をすぐ取り出せるように同けん銃を置いた場所のすぐ近くに立ってHらの来訪を待ち、他の被告人も事務所出入口ドアを取り囲むように位置して待機していたことなどから裏付けられる。
加えて、被告人らは、前示のとおり、Hら多人数が事務所に押し掛け、場合によってはHらから攻撃を受けることがありうることを予期しながら、Hらが事務所に押し掛けることが確実なものとなった後も、その予想される時刻までに時間的余裕があったにもかかわらず、事務所を離れたり、警察等の救援を得るような手だても図らずに、かえって、攻撃を受けるに至った場合には、けん銃等を用いて自ら対抗しようと意図し、けん銃を適合実包と共に携帯するなど、違法な手段をもって準備をしていたのである。
そして、実際にHら多人数による事務所内への侵入を受けるや、A1は、Hらが未だ具体的な攻撃行動を示す前から準備してあったけん銃を取り、殴りかかられるや一発威嚇発射をし、なお退散しようとせず攻撃の気勢を示すHらに対し、事前に意図していたところに従い、躊躇することなく殺意をもってけん銃を連続的かつ広範囲に発砲して強烈な攻撃を加え、A2も続いて同様に殺意をもって連続してけん銃を発砲したのである。本件におけるHらの行動は、被告人らの予期していた以上の攻撃、あるいは予測不能な攻撃であったとは認められない。また、本件全証拠によっても、そのように誤信していた事情も全くない。そのような事情があったかのように述べるA2の供述等は、他の者らの一致した供述に相反するばかりか、本件当時の客観的状況にもそぐわず信用することができない。これに対して、現実に行われた被告人らの反撃行為はHらの攻撃よりはるかに強度かつ重大なものである。
以上のように、被告人らの行為が、相手方の予期された攻撃に対して、けん銃等を準備した上で、いざとなれば殺害に及んでもこれに対抗するというそもそも社会的に許容し得ない違法性の高い私的抗争であること、加えて、実際上も、Hらの具体的攻撃内容が比較的軽微なものにとどまり、被告人らの予想した範囲を超えたものではなかったこと、これに対する被告人らの現実の反撃行為は、予期された侵害に対して退避等することなく、かえって事前に意図していたところに従い、けん銃等による殺害行為を敢行するというHらの攻撃をはるかに上回る強烈なものであったことなどの事情を総合すると、正当防衛が、相手方の攻撃に対して国家機関等の保護を受けることができないような緊急の事態の際に、実力行使に及ぶこともやむを得ないとして、例外的に当該行為の違法性を阻却する制度であることに照らせば、たとえ、本件Hらの攻撃が被告人らにとって緊迫した状況であったとしても、本件では、正当防衛の成立が認められるような急迫性があったとみることはできない。
そして、前記正当防衛制度の趣旨、本件当時の客観的状況、被告人らの認識等に照らせば、被告人らの行為は、弁護人が種々主張するところを子細に検討しても、正当防衛はもとより、過剰防衛、誤想防衛にも該当しないというほかない。
三 判示第一の各事実について
弁護人は、A1の指示によりA3が行った一一九番通報をもって、自首にあたると主張するが、確かに関係証拠によれば、A3が、第三者による一一〇番通報にやや遅れて一一九番通報をした事実は認められる。しかし、その内容はけが人が出た旨の通報であり、自己の犯罪を申告したものではないから自首は成立しない。また、一一〇番通報を受けて駆けつけた警察官に対して、A1が「私たちがやりました。」と述べているが、一一〇番通報は第三者が行ったものであること、犯行現場及び付近の客観的状況、警察官がB社事務所に駆けつけるまでに、被害者らから被害状況を聞知していた状況、右A1の発言は、犯行の状況を目の当たりにした警察官が誰がやったのかと語気鋭く追及したことに対して答えたものであること等に鑑みると、A1の右発言をもって、捜査機関に対し犯罪の発覚前に自発的に自己の犯罪事実の申告をしたものとは認められない。
四 判示第二の各事実について
A2は、公判廷において、鋏はRから取り上げてそれで殴りつけたが、突き刺しておらず、Sに対しては鋏で刺したことも殴った記憶もない、また、受話器コードは五本ではなく二本切断した記憶である旨供述する。
しかし、その供述内容は、全体に記憶によればという趣旨のものである上、捜査段階の供述内容とも合理的な理由なく変遷している。これに対し、R及びSは、公判廷において、事実を争うA2の面前で、犯行当日にA2から鋏で突き刺され、あるいは、殴られるなどしたことについて、判示認定に沿う明確な供述をしているところ、右各供述は、いずれも一貫して合理的で自然なもので、具体的かつ詳細で迫真性を有している上、かなり詳細な反対尋問にもその趣旨は揺らいでいない。さらに、その供述内容は、相互によく符合するばかりか、A2に連れられて現場に居合わせた者で、およそ嘘をついてまでA2に不利益な内容を述べるとは思われない者らの供述内容にも整合している。また、Rらの身体に残された傷痕などの受傷状況、犯行現場や残された受話器コードの切断状況及びコードの新規購入状況等の客観的証拠にも裏付けられていて、その信用性は極めて高い。
以上によれば、判示第二のとおり、優に認定することができる。これに反するA2の供述は信用できない。
五 よって、弁護人の主張はいずれも理由がなく、これを採用することはできない。
(量刑理由)
一 本件は、右翼団体と暴力団構成員との抗争事件であり、右翼団体幹部であった被告人三名が、同団体事務所に多数の暴力団構成員らが押し掛け攻撃してきた場合には、けん銃等を用いて反撃することを企て、同事務所にけん銃等の凶器を準備して集合し(凶器準備集合)、その際けん銃二丁を適合実包一三発とともに携帯し(被告人A1及び同A2にかかる銃砲刀剣類所持等取締法違反)、さらに実際に事務所内に侵入してきた暴力団構成員に対してけん銃を発射するなどして、二名を殺害し(殺人二件)、四名を負傷させた(殺人未遂四件)という事案であり、そのほか、被告人A2については、別の機会に単独で二名を傷害し、器物を損壊した事案が付加されている。
二 被告人三名は、前示のとおり、被害者らの攻撃を予期していたにもかかわらず、警察に救援を求めるなどの他の取りうる合法的な手段によることなく、かえってこれに強力な反撃を加える意図で、適合実包の装填されたけん銃等の極めて危険性の高い凶器を準備し、被害者らがいきなり事務所内に押し入って来て、被告人A1がけん銃を手にしているのを見て特殊警棒で殴りかかろうとし、さらには椅子を持ち上げて向かってこようとする気勢を示した段階で、一発威嚇発射をしただけで、その後は、けん銃二丁によって装填済みの実包合計一一発全てを、多人数とはいえ特殊警棒以外のみるべき武器を所持していなかった被害者らに向けて至近距離から撃ち尽くし、その直後には、刃体の長さ約九・五センチメートルのナイフで逃げ遅れた被害者一名の身体枢要部たる胸部等を突き刺すなどの行為に及んだものであって、その用意周到で執拗な犯行は、危険性が甚だ高く冷酷かつ残虐というべき態様のもので、極めて悪質というほかない。
被告人らは、被害者らから身を守るためと称して本件一連の犯行に及んだものであるが、白昼堂々と法禁物たるけん銃等を用意し、被害者との間で穏便な解決が図れそうにない段階に立ち至るや、直ちに法社会において厳に禁じられている私的闘争に事態の推移を委ね、実力で対抗したものであって、その発想自体、甚だ短絡的かつ独善的で反社会性が強く、遵法精神の鈍磨を顕著に示しているものといえ、厳しい非難を受けこそすれ酌量の余地は見当たらない。
そして、本件犯行の結果は極めて重大である。すなわち、本件被害者のうちの二名は胸部に被弾したことで何よりも貴重なその生命を早々のうちに奪われ、また残り四名も被弾あるいはナイフで切り付けられた結果、重傷を負い、生命を奪われかねない高度の危険に晒されている。被告人らに対し不当な言いがかりを付け、多勢の威力をもって無理やりに金銭を巻き上げようと図って、多人数で押し掛け、傍若無人に被告人らの事務所に侵入して暴行に及ぶなどした被害者らの行動も、犯罪に値するだけの違法なものではあるが、それをもってしてもなお、これに対して殺害行為にまで及ぶ理由となり得ないことはあまりにも明らかなところであって、被告人らの凶行により、無惨にも突如としてその生命を断たれた二名の被害者の苦痛や無念の情は、とりわけ察するに余りある。残された遺族らの悲しみも深く、生存する被害者ともども被告人らに対する処罰感情が厳しいのも当然である。
加えて、本件が、平日の白昼に、都心のオフィス街で多人数が動員敢行された市街戦にも類するべき犯行であったことから、現場ビル内に居合わせた者ばかりでなく、付近住民や周辺に勤務する一般市民等に与えた恐怖心や衝撃は大きい。さらに、本件が新聞報道されたことにより、社会全体に与えた不安も見逃せない。本件が及ぼした影響は深刻かつ重大である。
以上によれば、被告人三名の刑事責任はまことに重い。
三 次に、個別的な事情を見ると、被告人A1は、被告人中最も上位の立場にあるところ、紛議の解決のために反社会的な手段を選択し、本件犯行で使用されたけん銃二丁及びその適合実包を事務所内に運び込んで一連の犯行を誘発したばかりか、配下たる他の被告人二名も巻き込み、自らも装填していた実包七発中、威嚇発射の一発を除いた全ての弾丸を被害者らに向けて発砲し、少なくとも被害者二名に二発の弾丸を命中させ、そのほかにも命中、貫通させたものと窺われ、うち一名を殺害したのであって、本件犯行の中心であり、果たした役割も重大で、首謀者としてその刑責は最も重い。
また、被告人A2は、もともと本件で被害者となった暴力団構成員らが仲介して和解をした当初の紛議の当事者であるところ、事務所を立ち去る機会がありながら確固たる犯意をもって本件犯行現場に残り、殺人等の犯行に際しては、躊躇することなく被告人A1から渡されたけん銃でもって装填された五発の弾丸全てを被害者らに向けて発砲し、少なくとも被害者二名に二発の弾丸を命中させ、そのほかにも命中、貫通させ、被害者一名を殺害したものと窺われるばかりか、その後もなお刃体の長さ約九・五センチメートルという十分な殺傷能力を有するナイフでもって、事務所内に残っていた被害者一名の身体枢要部を目掛けて多数回にわたって執拗に切りつけ、胸腔まで達する刺創を負わせるなど、最も積極的な攻撃姿勢を示しており、果たした役割は被告人A1に比肩する。さらに、単独で行った傷害・器物損壊事案についても、被害者の営む会社名が自らに損害を与えた元社員のそれと同じであったというだけで、相手方会社に乗り込み、相手の言い分に全く耳を傾けず、一方的に強烈な攻撃を加えたもので、その犯行態様は粗暴極まりなく悪質である。しかるに、被告人A2は、いずれの犯行においても、自己の責任の軽減を図るとも取れる弁解を弄しており、その刑責は被告人A1以上に重いものがある。
そして、被告人A3は、本件犯行に至るまでの詳しい経緯については承知していなかったものであるが、事務所を立ち去る機会がありながら被告人A1を守ろうとの確固たる犯意をもって本件犯行現場に居続け、被告人A2にけん銃が渡された後には、自ら主体的に凶器たる出刃包丁を探し出して用意し、被害者らに対してこれを振り回したり、被告人A2がJに対し、斬りつけている場面に遭遇するや、出刃包丁を持ってその援助に向かわんとするなど、一定の役割を担っているのであるから、その役割を軽んずることはできない。さらに、右翼活動の中、独自の価値観に基づき犯した前記累犯前科による刑の執行終了後、わずか八か月余りで本件犯行に及んだことなどからして、規範意識の欠如も顕著というほかない。
四 他方、被告人らの行為は、正当防衛における急迫性の要件を満たすものではないものの、被害者らに追いつめられた心境の中、いきなり相当人数で事務所内に押し入ってこられるなどの不意をつかれ緊迫した状況下において敢行された面があることは否定できない。この点、検察官は、本件は被告人A1らが被害者らを誘い込んだり挑発した計画的犯行であると主張するが、証拠によれば、被害者らが当初から多数の威勢を示して強談威迫に及ぶことを意図し、被告人A1の対応に関わりなく、その目的に従って多人数を動員して同被告人の下に押し掛けた経緯が認められる反面、被告人らが事前にことさらにこの機会を利用して被害者らを殺害して事態の終息を図ろうとまで意図していたとは認められない。また、そもそも、被告人A1がけん銃等を準備するような心情に追い込まれた原因は、被害者らがいったん紛議が決着した後に、同被告人に対して暴力団の威勢を背景に理不尽な要求を突き付け、被告人らから金員を引き出させようとしたことにある上、本件殺人等の犯行自体についてみても、被告人A1らがけん銃を発射するなどの攻撃に出る事態にまで立ち至った経緯においては、その直前に大挙して被告人らの事務所に押し掛けるなどした被害者らの行動がそのきっかけとなった面があり、この点で被害者側にも相当の落ち度が認められる。
そして、被告人A1及び同A3は、捜査段階から本件各犯行について自己の責任を認め素直に供述し、公判廷においても、本件犯罪事実そのものは認め、反省と悔悟の気持ちを示している。なお、被告人A1は事前の殺意はなかったと公判廷で供述しているが、その供述は、できる限り話し合いで紛議を解決したいとの自らの心情や事前に暴力団員を迎え撃って殺害しようとまで共謀していたわけではないとの趣旨を示すものとも見る余地があるから、これをもって、自己の刑責の軽減を図るなどして反省が不十分であると断ずることには躊躇を覚える。また、被告人A2も、不合理な弁解をするなどしているものの、被害者の生命を奪い、傷害を負わせたこと自体は申し訳ないとして、それなりに反省の弁を述べている。
加えて、死亡した被害者二名のうち、一名の遺族に対し、香典料として一〇〇万円を支払った上、さらに四〇〇万円を支払って同人との間で示談が成立していること、またもう一名の遺族に対しても五〇〇万円の供物料を支払っていること、被告人A3については従属的な立場にあって判示認定の限度では実行行為そのものを行っていないこと、被告人A1及び同A2については前科があるも、いずれも一五年以上前のものであること、被告人A1の実兄や被告人A2の前妻、被告人A3の母親らが各被告人の更生に協力する旨述べ、知人らも被告人らのために出廷したことなど、被告人らのために有利に斟酌することができる事情もある。
五 そこで、以上の諸事情を総合考慮し、主文掲記の刑に処するのが相当と判断した。
(求刑 被告人A1、同A2に対して無期懲役、同A3に対して懲役一〇年、没収)
(裁判長裁判官 井上弘通 裁判官 野口佳子 裁判官 森喜史)