東京地方裁判所 平成12年(行ウ)136号 判決 2001年9月27日
原告 岡本信也 ほか1名
被告 松戸税務署長
代理人 小沢正明 小山博実 ほか2名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が平成10年11月25日付けで原告岡本信也及び原告岡本美子に対して行った相続税の物納財産変更要求通知を取り消す。
第2事案の概要
本件は、岡本静枝(平成9年2月2日死亡)の共同相続人である原告らが、被告に対し、物納を求めようとする財産を別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)として相続税の物納を申請したところ、被告が、本件土地は相続税法42条2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産であるとして、その変更を求める通知をしたことから、原告らがこれを不服として、前記通知の取消しを求めている事案である。
1 物納申請に関する法令の定め
(1) 税務署長は、納税義務者について相続税法(平成10年法律第83号による改正前のもの。以下「法」という。)33条又は国税通則法35条2項の規定により納付すべき相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができる。(法41条1項)
(2) 法41条1項の規定による物納の許可を申請しようとする者は、その物納を求めようとする相続税の納期限又は納付すべき日までに、政令の定めるところにより、金銭で納付することを困難とする金額及びその困難とする事由、物納を求めようとする税額、物納に充てようとする財産の種類及び価額その他必要な事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。(法42条1項)
(3) 税務署長は、法42条1項の規定による申請書の提出があった場合においては、当該申請者及び当該申請に係る事項について法41条の規定に該当するか否かを調査し、その調査に基づき、当該申請に係る税額の全部又は一部について当該申請を許可し、又は当該申請を却下する。
ただし、当該申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求め、当該申請者が法42条4項の規定による申請書を提出するのをまって当該申請の許可又は却下をすることができる。(法42条2項)
(4) 税務署長は、法42条2項の規定により許可をし、若しくは却下をした場合又は同項ただし書の規定により物納財産の変更を求めようとする場合においては、当該許可に係る税額及び物納財産若しくは当該却下をした旨及びその理由又は当該変更を求めようとする旨及びその理由を記載した書面により、これを当該申請者に通知する。(法42条3項)
(5) 法42条2項ただし書の規定により物納財産の変更を求められた者は、他の財産をもって物納に充てようとするときは、その旨の通知を受けた日から20日以内に、その物納に充てようとする財産の種類及び価額その他政令で定める事項を記載した申請書を当該通知をした税務署長に提出しなければならない。
当該期間内に申請書の提出がなかった場合においては、その者は、物納の申請を取り下げたものとみなす。(法42条4項)
2 前提となる事実等(括弧内の証拠等により認められる。)
(1) 原告らは、平成9年2月2日に死亡した岡本静枝の共同相続人である。(当事者間に争いがない事実)
(2) 原告らは、同年12月2日、被告に対し、岡本静枝の相続に係る相続税について、原告岡本信也の課税価格を1億7188万7000円、納付すべき税額を3071万6600円、原告岡本美子の課税価格を1億7979万7000円、納付すべき税額を3139万9200円とする申告書を提出した。
また、同日、原告岡本信也は、物納を求める税額3071万6600円、物納に充てようとする財産を本件土地の持分2分の1とした相続税物納申請書を、原告岡本美子は、物納を求める税額を3139万9200円、物納に充てようとする財産を本件土地の持分2分の1とした相続税物納申請書を、それぞれ被告に提出した。(当事者間に争いがない事実)
(3) これに対し、被告は、本件物納申請財産が、法42条2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産に該当すると認め、平成10年11月25日付けの相続税物納財産変更要求通知書により、原告ら各自に対し、相続税物納財産の変更要求を行った(以下「本件変更要求」という。)。(当事者間に争いがない事実)
(4) 原告らは、平成10年12月9日、本件変更要求を不服として異議申立てをしたが、被告は、平成11年3月2日付けで、これを棄却する旨の決定をした。
さらに、原告らは、これを不服として、同月29日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は平成12年2月29日付けで、これを棄却する旨の裁決を行い、同年3月2日、裁決書の謄本が原告に送達された。(裁決の日付につき<証拠略>。その余の事実は当事者間に争いがない。)
3 当事者双方の主張
(被告の主張)
(1) 租税は、金銭又はこれに準ずる有価証券によって納付することが原則であるが(国税通則法34条1項)、相続税については、相続を原因として発生する財産の取得に対して課される租税という特殊性から、納税義務者が相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、納税義務者の申請により、税務署長がその納付を困難とする金額を限度として、法41条2項に掲げる財産に限り、例外的に物納が認められている(法41条)ものであって、無条件に認められるものではなく、納税者の申請に基づき一定の要件に合致した場合に例外的に認められる、金銭納付に代わる相続税納付の手段である。
(2) また、前記のとおり、当該申請に係る財産が法41条2項に掲げる財産であっても、当該財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、税務署長は、当該申請者に対し、変更要求通知をするとされているが、このように、申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合において物納が認められないのは、物納財産による納付が金銭納付に代わる相続税納付の手段であって、物納申請財産を国に帰属させることが目的ではなく、納付される財産の金銭的価値に着目して、国が物納財産を最終的に処分して国家の収入に充てることが真の目的である以上、国が物納された財産の管理又は処分を通じて、金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を将来確実に確保し得るものでなければならないことによるものである。
そして、物納された財産は、国が国有財産のうちの普通財産として取得した上、管理処分することになるため、適正な対価なくしてこれを譲渡し又は貸し付けてはならず、また、常に良好な状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も効率的に、これを運用しなければならない(財政法9条)。
したがって、物納申請財産が仮に処分可能なものであったとしても、当該財産を処分するまで良好な状態で管理するに当たり、費用を支出しなければならない場合には、金銭納付と同等の経済的利益が得られるとは認められないから、物納財産としては不適当である。また、仮に管理に費用の支出を要しないとしても、処分が容易でない場合は、やはり金銭納付と同等の経済的利益が得られるとは認められないから、物納財産としては不適当である。
(3) 以上のような物納制度の位置付けや目的にかんがみれば、法42条2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当であると認める」財産とは、国が適法に取得し、国が管理するのに適当であり、かつ、容易に処分できる財産で、さらに、当該財産の交換価値を国が把握することができる財産以外の財産をいうと解すべきであり、また、物納申請財産の管理又は処分の適否は、国が当該財産の管理又は処分により、金銭による税納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるかどうかという観点から判断されるべきである。
そして、売却できる見込みのない不動産、例えば、崖地や地形狭長な土地等で、単独には通常の用途に供することのできない土地は、管理又は処分に不適当であって、相続税法基本通達(以下「通達」という。)42―2(3)は、この理を明らかにしたものである。
(4) 本件土地は、間口約68メートル、奥行き約12メートルないし25メートルの細長い不整形地で、高低差約12メートル、傾斜角約24度から45度までの平坦部のない急峻ながけ地である。その上、本件土地には、雑木雑草が繁茂しており、接面する道路面から急激に傾斜が始まっており、土留も施されていない。
そうすると、本件土地については、雑木雑草の管理や接面する道路への土砂の流出を防止するための費用も必要であるのみならず、現況では通常の費用で建物を建築することもできず、これを単独で通常の用途に供することはできない。
このように、本件土地は、財産的な価値があるとしても、良好な状態で管理するために費用を支出しなければならない上、処分が容易であるとは認められないから、金銭納付と同等の経済的利益を将来確実に確保し得るということはできない。
したがって、本件土地が、法42条2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産であることは明らかである。
(5) なお、原告らは、被告が本件土地を単独で時価のある財産であると認定し、その時価を住宅地と同様に評価して高い相続税を課税しておきながら、本件土地が管理又は処分をするのに不適当であるとして本件変更要求をしたことは不当であると主張する。
しかし、法42条2項ただし書は、物納申請財産に財産的価値があるとしても、管理又は処分をするのに不適当である場合には、物納が認められないことを規定しているのであるから、原告らの主張は失当である。
また、原告らは、本件土地の一部を建築場所として、建築確認を受けていることを理由に、本件変更要求が違法であると主張するが、当該土地が法42条2項ただし書にいう「管理又は処分をするのに不適当」な財産か否かは、建築確認とは別の観点から判断されるものであるから、原告らの主張は失当である。
(原告らの主張)
(1) 相続税の物納に関する法42条2項ただし書の解釈について
税金は、金銭納付を原則としているが、相続税は財産課税である特殊な性格から、税務署長の許可を受けて相続財産をもって物納することができることとされている。税務署長による物納許可は、税務署長の裁量処分や納税者に対する恩恵ではなく、金銭による納付を困難とする場合など、一定の要件を充足するときは必ずしなければならない覊束処分である。
被告は、法42条2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産とは、国が適法に取得し、国が管理するのに適当であって、かつ、容易に処分でき、その交換価値を国が把握することができる財産以外の財産をいうと主張する。しかし、この主張は、明らかに法の定めた要件を限定して、物納申請が認められる場合を狭くしており、このような租税法規の限定解釈は、租税法律主義に照らして許されない。
また、被告は、「管理又は処分をするのに不適当」な財産について、通達42―2(3)を引用して例示している。しかしながら、通達の当該箇所は明らかに法42条2項ただし書を狭く解釈しており、違法な通達であるのみならず、通達にいう「単独には通常の用途に供することができない土地」の基準はあいまいであり、課税要件明確主義に照らして許されない。
(2) 本件土地が、「管理又は処分をするのに不適当」な財産に該当しないことについて
ア 被告は、本件土地を単独で時価(取引価格)のある財産であると認定し、その時価を総額8780万6846円と評価した上で、高額の相続税を課税をしているのであるから、原告らの物納申請に対する取扱いも、これと首尾一貫していなければならない。
にもかかわらず、被告が原告らの物納申請に当たり、本件土地を「管理又は処分をするのに不適当」な財産と認定して、その物納を許可しないことは、明らかに矛盾しており、許されない。
イ 原告らは、本件土地の隣接地であり、本件土地と全く同じ形状の傾斜地である千葉県流山市平和台1640番40号の土地を、平成6年3月15日に遠藤裕に売却し、同地上には住居が建築されている。また、原告らも、本件土地の一部を建築場所として建築確認申請を行い、平成10年4月20日付けで千葉県建築主事から建築確認を受けている。加えて、最近では、横浜市や伊豆地方等をはじめ、日本全国の多くの場所で傾斜地を利用して建築される建物が増えており、傾斜地を利用して、駐車場を確保し景観のよい住宅を建築する趣向が強くなってきている。
これらのことからしても、本件土地は、単独で住宅地としての用途に供する土地ではないとは到底いえず、したがって、「管理又は処分をするのに不適当」であるということもできない。
ウ なお、被告は、本件土地に十分な土留がされていないと主張するが、原告らは、本件土地の土砂の流出を防止するために、多額の費用を支出して、高さ40センチメートル程度の鉄筋入りのコンクリート製万年塀のパネルを使った土留工事をしている。
4 争点
以上によれば、本件の争点は、本件土地が法42条2項ただし書にいう「管理又は処分するのに不適当」な財産に該当するか否かである。
第3争点に対する判断
1 変更要求通知の処分性及び訴えの利益
(1) 前記のとおり、物納の許可を申請しようとする者は、その物納を求めようとする相続税の納期限又は納付すべき日までに、政令の定めるところにより、金銭で納付することを困難とする金額及びその困難とする事由、物納を求めようとする税額、物納に充てようとする財産の種類及び価額その他必要な事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならないものとされ(法42条1項)、また、税務署長は、物納申請書の提出があった場合、調査の上、当該申請に係る税額の全部又は一部について当該申請を許可し、又は当該申請を却下する旨の判断を行うものとされている(法42条2項本文)。
ところで、変更要求通知は、税務署長が当該申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合において、これに代わる他の財産による申請を求めるものであり、当該物納申請に対する許否の判断は、当該申請者が法42条4項の規定による申請書を提出するのをまってすることが予定されている(法42条2項ただし書)ことから、変更要求通知にいわゆる処分性が認められるかどうかについては疑問の余地がなくはない。
しかし、税務署長による変更要求通知がされた場合、物納財産の変更を求められた者が、変更要求通知を受けた日から20日以内に、上記の要求に応じて、他の財産をもってその物納に充てることとし、その財産の種類及び価額その他政令で定める事項を記載した申請書を提出したときには、新たに申請された物納財産を前提として当該申請者の物納申請に対する許否の判断がされるのに対し、前記の期間内に上記申請書の提出をしなかったときは、当該申請者の物納申請は、取り下げたものとみなされ、税務署長の許否の判断は示されないこととなる(法42条4項)。
したがって、当該申請者が、物納申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であるとした税務署長の判断に不服がある場合、変更要求通知を争うことのほかには、適当な方法が存在しないというべきである。
(2) もっとも、前記のとおり、法42条4項は、税務署長による変更要求通知がされた場合、物納財産の変更を求められた者が、変更要求通知を受けた日から20日以内に、他の財産をもってその物納に充てることとし、その財産の種類及び価額その他政令で定める事項を記載した申請書を提出しなかったときは、物納申請は取り下げたものとみなされる旨規定しているところ、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない(国税通則法105条1項本文)から、前記法42条4項を字義どおりに解した場合には、物納申請者が変更要求通知を不服として異議申立てを行ったとしても、変更要求通知を受けた日から20日を経過した後は、当該物納申請が取り下げられたものとみなされ、不服申立ての利益が存しないこととなる。
他方、不服申立ては、処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して2月以内にしなければならないものとされていること(国税通則法77条1項)、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、原則として、不服申立てを前置しなければならないこととされていること(同法115条1項)にかんがみれば、変更要求通知に対する不服申立てにについての最終的な決定等が変更要求通知を受けた日から20日以内に行われることが事実上困難であることは明らかである。
そうであるとすれば、物納申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であるとした変更要求通知について、これに対する不服申立てを当該申請者に認めるべき必要がある以上、当該申請者が適法な不服申立てを行った場合には、法42条4項の規定にかかわらず、変更要求通知を受けた日から20日を経過したとしても、それによってみなし取下げの効果は生じないものと解さざるを得ないというべきである。
ちなみに、実務上も、「法第42条第4項の物納申請のみなす取下げに関する規定は、同条第2項ただし書に規定する物納財産の変更要求に対して適法な不服申立て(訴えの提起を含む。)があった場合には適用がないのであるから留意する。」旨の通達42―5に基づいて、同様の取扱いがされている。
(3) そこで、本件においては、変更要求通知の処分性及びその取消しを求める訴えの利益のいずれの点も肯認できるものとして、以下、本件変更要求の適法性を巡る実体的な主張について検討することとする。
2 物納申請に関する法令の定めは、前記第2の1に記載のとおりであり、これらによれば、相続税の物納は、当該物納申請財産を国に帰属させ、これを使用収益することを目的とするものではなく、当該物納申請財産の金銭的価値に着目して、国がこれを最終的に処分して国家の収入に充てることにより、金銭の納付に代わる経済的利益を得ることを目的とするものと解されるから、物納財産は、その管理又は処分を通じて、金銭により相続税が納付された場合と同等の経済的利益を、将来現実に確保し得るものでなければならないというべきである。
したがって、法42条2項ただし書にいう「管理又は処分するのに不適当」な財産に該当するか否かは、国が当該財産の管理又は処分を通じて、金銭により相続税が納付された場合と同等の経済的利益を、将来現実に確保することができるかどうかという観点から判断されるべきである。
3 そこで、上記2の前提に立って、本件土地が法42条2項ただし書に規定する「管理又は処分するのに不適当」な財産に該当するか否かについて検討する。
(1) 証拠<略>によれば、本件土地は、千葉県流山市平和台4丁目に所在し、地目は山林であるが、周辺は住宅街となっていること、本件土地は、間口約67メートル、奥行き約12メートルないし25メートルの細長い不整形地であり、また、高低差約12メートル、傾斜角度約24度ないし45度で、北側に接面する道路面から南側に向けて急激な上り傾斜となっている平坦部のない急峻ながけ地であること、本件土地には、雑木及び雑草が一面に繁茂していることが認められる。
(2) (1)の事実によれば、本件土地は、不整形地であるのみならず、雑木及び雑草に覆われた急峻ながけ地であって、これを宅地として利用するには、雑木及び雑草の伐採や、土砂の流出を防止するための工事に多額の費用を要することは明らかであって、現況では通常の費用により建物を建築することは困難といわなければならない。
したがって、本件土地は、その管理を行い処分を可能にするために、特段の費用を要するというべきであって、国としては、その管理又は処分を通じて、金銭による相続税が納付された場合と同等の経済的利益を、将来現実に確保することができるとはいえないから、本件土地は「管理又は処分をするのに不適当」な財産であると認めるのが相当である。
4(1) これに対し、原告らは、被告が本件土地を単独で時価のある財産と認定した上で、高額の相続税を課税をしているにもかかわらず、本件土地が「管理又は処分をするのに不適当」な財産であるとして物納を許可しないことは矛盾していると主張する。
しかしながら、前記1のとおり、相続税の物納は、当該物納申請財産の金銭的価値に着目して、国がこれを最終的に処分して国家の収入に充てることにより、金銭の納付に代わる経済的利益を得ることを目的とするものであるから、法42条2項に規定する「管理又は処分するのに不適当」な財産に該当するか否かは、国が当該財産の管理又は処分を通じて、金銭により相続税が納付された場合と同等の経済的利益を、将来現実に確保することができるかどうかという観点から判断されるべきである。
そうすると、本件土地について、相続に係る課税価格の評価が、時価に基づいて行われ、全体では相当高額の評価がされているとしても、そのことと、本件土地が物納財産として管理又は処分に適するかどうかということは、別個の問題というべきであって、このような評価がされていることをもって直ちに管理又は処分に適するということにはならないというべきである。
したがって、この点に関する原告らの主張は、理由がない。
(2) また、原告らは、本件土地の土砂の流出を防止するために、高さ40センチメートル程度の鉄筋入りのコンクリート製万年塀のパネルを使った土留工事をした旨主張する。
しかしながら、証拠(<略>)によれば、本件土地の北側下端部には、高さ約40センチメートルのコンクリート製のパネルを使った土留工事が施されている事実が認められるものの、前記(1)で認定した本件土地の現況に照らせば、このような土留工事が施されたことをもって、土砂の流出を防止するための工事に多額の費用を要するとの前記認定を覆すに足りるとはいえない。
したがって、上記の土留工事が施されている事実をもって、本件土地が「管理又は処分をするのに不適当」な財産であるとした前記認定を覆すに足りるということはできない。
(3) さらに、原告らは、本件土地に隣接する同様の傾斜地が売却され、同地上に住居が建築されていることや、原告らが本件土地の一部を建築場所とした建築確認申請に対し、千葉県建築主事から建築確認を受けていること、全国各地で傾斜地を利用して建築される建物が増加していることなどを指摘した上で、本件土地が「管理又は処分をするのに不適当」であるとはいえないと主張する。
しかしながら、前記のとおり、「管理又は処分をするのに不適当」な財産か否かは、国が当該財産の管理又は処分により、金銭により相続税が納付された場合と同等の経済的利益を、将来現実に確保することができるかどうかという観点から判断されるべきであって、現実に宅地としての売却事例が存することをもって、直ちに「管理又は処分をするのに不適当」な財産に当たらないということはできない。
また、建築確認は、一定の建築物を建築しようとする場合に、その計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法規に適合するものであることについて、建築主事の確認を受けるものであって(建築基準法6条)、その存否は、当該土地が「管理又は処分をするのに不適当」か否かの判断を左右するものとは解されない。
さらに、傾斜地を利用して建築される建物が増加している傾向にあるとしても、それゆえに本件土地の管理又は処分により、金銭納付と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるとはいえないから、原告らのこの点に関する主張は理由がない。
(4) そして、他に、本件土地が「管理又は処分をするのに不適当」な財産であるとする前記認定を覆すに足りる主張、立証はない。
第4結論
以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 市村陽典 森英明 馬渡香津子)
物件目録<省略>