東京地方裁判所 平成12年(行ウ)170号 判決 2002年10月11日
原告
井上義一(X1)
同
村岡章(X2)
原告ら訴訟代理人弁護士
市村大三
(ほか11名)
被告
(元文京区長) 遠藤正則(Y1)
被告遠藤訴訟代理人弁護士
山下一雄
被告
文京つつじの会(Y2)
代表者会長
馬道ミヨ
被告
馬道ミヨ(Y3)
被告馬道及びつつじの会訴訟代理人弁護士
長谷川健
(ほか2名)
被告
社会福祉法人文京槐の会(Y4)
代表者理事
相川金次郎
被告
槐の会訴訟代理人弁護士
板澤幸雄
(ほか2名)
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 被告馬道及び被告つつじの会の本案前の主張について
被告馬道及び被告つつじの会は、本案前の主張として、被告馬道が、遅くとも平成10年9月28日までには、動坂福祉会館からの退去を完了させ、また、被告つつじの会が、遅くとも同月30日までには、文京区からの受託業務以外での同会館の利用を中止したことから、原告らの主張する公の施設の違法な管理は、遅くともこれらの日までに終了したものであるところ、本件監査請求は、1年以上を経過した平成12年3月28日に行われたものであるから、監査請求期間を徒渦した不適法なものであり、原告らの被告馬道及び被告つつじの会に対する訴えは、適法な監査請求を経ていないものとして却下されるべきであると主張する。
しかしながら、〔証拠略〕によれば、原告らは、被告馬道及び被告つつじの会に対しては、動坂福祉会館の不法占拠による損害賠償請求を文京区長に勧告することを求めて、本件監査請求を行ったことが認められ、本件監査請求は、被告馬道及び被告つつじの会との関係においては、文京区長が動坂福祉会館の不法占拠を理由とする損害賠償請求権の行使を怠る事実が、地方自治法242条1項の「財産の管理を怠る事実」に該当するものとして、当該損害賠償請求権の行使を求めたものと解することができる。
そして、原告らは、本件訴えにおいて、被告馬道及び被告つつじの会に対する損害賠償請求権及び住民監査請求の観点からこれと実質的同一性を有すると認められる不当利得返還請求権について、文京区の職員による動坂福祉会館の違法な管理という財務会計上の行為又は同会館の管理を怠る事実に基づいて発生したものと主張するのではなく、被告馬道及び被告つつじの会による所有権の事実的侵害に基づいて発生したものと主張して、その代位行使を求めているものである。
そうすると、原告らは、財務会計上の行為の違法等に基づいて発生した実体法上の請求権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」とするものでなく、当該地方公共団体の職員以外の第三者による財産権侵害による不法行為及び不当利得に基づく実体法上の請求権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」とするものであって、このような請求権の行使を怠ることを主張して行う監査請求については、地方自治法242条2項に規定する監査請求期間の制限を受けないものというべきである。
したがって、被告馬道及び被告つつじの会の本案前の主張は、理由がない。
(2) 被告遠藤の本案前の主張について
ア 被告遠藤は、本件監査請求が、公の施設の管理の違法という、非財務会計行為の違法に基づいて発生する実体法上の請求権の不行使を対象とするものであるとした上で、このような監査請求は、地方自治法242条1項の趣旨を没却するものとして許されないものであるから、本件訴えは適法な監査請求を経ない訴えとして却下されるべきであると主張する。
しかしながら、地方公共団体が有する実体法上の金銭請求権が、非財務会計行為の違法に基づいて発生したものであったとしても、これを行使しないことが、地方自治法242条1項の「財産の管理を怠る事実」に該当し、住艮監査請求の対象となることは明らかであるから、このような事実に関する監査請求が許されないとする被告遠藤の見解は、採用することができない。
のみならず、〔証拠略〕によれば、本件監査請求は、被告遠藤との関係では、同被告が被告馬道及び被告つつじの会による動坂福祉会館の不法占拠を放置したことをもって、文京区の財産の管理を怠るものとし、これによって生じた損害の賠償を求めたものであることが認められるところ、同区の公有財産である同会館の不法占拠を放置することは、単に同会館の運営における行政上の管理を怠るにとどまらず、当該財産の財産的価値の維持、保存を怠るものというべきであって、このことは、東京都文京区公有財産管理規則41条6号において、財産保管責任者及び財産管理事務に従事する職員が特に注意しなければならない事項として、「財産は、不法占拠され、又は滅失若しくは損傷のおそれがないかどうか。」を挙げていることからも明らかというべきであるから、かかる不法占拠の放置は、地方自治法242条1項の「財産の管理を怠る事実」に該当するというべきである。
したがって、被告遠藤の上記主張は、理由がないといわざるを得ない。
イ また、被告遠藤は、前記「原告らの主張」(6)イaの請求(動坂福祉会館の管理を怠る事実に関する地方自治法242条の2第1項4号前段に基づく請求)について、行政財産である動坂福祉会館の管理行為又は管理を怠る事実に係る違法が、非財務会計行為の違法にすぎず、住民訴訟の対象とはなり得ないとして、上記請求に係る訴えが不適法であると主張するほか、前記「原告らの主張」(6)イcの請求(共同不法行為に関する地方自治法242条の2第1項4号後段に基づく請求)も、被告遠藤に対し、同会館の管理行為の違法という、非財務会計行為の違法を主張するにすぎず、財務会計上の行為の違法を主張するものでないから、上記請求に係る訴えも不適法であると主張する。
しかしながら、これらの主張は、いずれも被告遠藤による動坂福祉会館の管理又は管理の懈怠が、財務会計上の行為に当たらないことを前提とするものと解されるところ、文京区の公有財産である同会館の不法占拠を放置することは、単に同会館の運営における行政上の管理を怠るにとどまらず、当該財産の財産的価値の維持、保存を怠るものであって、地方自治法242条1項の「財産の管理を怠る事実」に該当することは前記のとおりであるから、被告遠藤の上記主張は、その前提を欠くものであって、理由がないというべきである。
ウ さらに、被告遠藤は、本件監査請求が、公の施設の管理が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって文京区に損害を与えた行為とするものであるとした上で、財務会計上の行為の違法等に基づく実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求は、当該行為の日又は終わった日を基準として、地方自治法242条2項の監査請求期間の制限を受けるとして、本件監査請求が行われた日の1年前である平成11年3月28日以前に発生した請求に係る訴えは、却下されるべきであると主張する。
しかし、本件訴えにおいて、原告らは、被告馬道、被告つつじの会及び被告槐の会に対する損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」に該当すると主張しているところ、これらの実体法上の請求権は、公の施設の管理行為が違法であることに基づいて発生したものとして主張されているのではなく、被告馬道及び被告つつじの会による不法行為及び不当利得、並びに、被告槐の会の債務不履行により発生したものとして主張されているのであって、これらの実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求については、監査請求期間の制限を受けないものというべきである。
したがって、被告遠藤の上記主張は、理由がないというべきである。
2 争点2について
(1) 前記「前提となる事実上〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。
ア 動坂福祉会館について
動坂福祉会館は、本件条例2条に基づき設立された文京区立福祉会館であり、文京区民の福祉の増進を図るとともに、心身障害者等の自立更生を援助するために設置されたものである。動坂福祉会館は、心身障害者等の短期保護及び生活訓練保護に関する事業や、文京区民の施設利用に関する事業を行うものとされ、これらの事業を行うため、同会館内には、保護室、訓練室及び集会室が設けられている。なお、本件条例8条により、動坂福祉会館の施設の使用料は、無料とされている。
そして、文京区立福祉会館条例施行規則(以下「本件規則」という。)2条、3条の別表第1・2によれば、心身障害者等の短期保護室、生活訓練保護室は、個人利用であり、その開館時間は終日とされており、集会室は、団体利用であり、その開館時間は、平日は午後6時から午後9時まで、日曜日は午前10時から午後9時までとされている。
イ 本件保護事業について
a 文京区心身障害者(児)短期保護事業実施要綱によれば、同事業は、日常、心身障害者等の介護を行うことが困難なとき、家族に代わって当該心身障害者等を保護し(これを「短期保護」という。)、もってその家族の生活の安定を図ることを目的とするものであり、短期保護は、介護者又は家族(以下「介護者等」という。)が疾病、冠婚葬祭又は事故のため介護できないとき、介護者等が出産のため介護できないとき、介護者等が休養等のため介護できないとき及びその他文京区長が特に必要と認めたときに行うものとされている。
b また、文京区心身障害者(児)の生活訓練保護(親なき後)事業実施要綱によれば、同事業は、心身障害者等を保護し、日常生活における援護及び指導を行うことにより、その自立を促すことを目的とし、この事業を行う施設は、心身障害者等に対し、生活の場を提供するとともに、食事の提供、健康管理、金銭管理等、日常生活に必要な事項について、援護及び指導を行うものとされ、同施設の利用期間は、原則として6か月を単位とし、利用期間中は、原則として、同施設内に宿泊するものとされている。
c そして、文京区長は、心身障害者等の短期保護事業及び生活訓練保護(親なき後)事業の効率的運営を図るため、上記各要綱に基づき、被告槐の会との間で、本件保護事業の業務委託契約を締結して、本件保護事業の運営を同被告に委託している。上記契約によれば、本件保護事業の場所は、身体障害者(児)については、「文京藤の木荘(動坂福祉会館の2階及び3階における宿泊、保護施設を指す。)」、知的障害者等については動坂福祉会館とされ、短期保護事業については、両施設で対応することとされている。
ウ 被告つつじの会の活動について
被告つつじの会は、昭和52年6月ころ、文京区在住の知的障害者等の保護者により、知的障害者等の福祉の向上を目的として結成された法人格なき社団であり、昭和49年から文身連の会長を務めていた被告馬道が、設立当初から代表者会長を務めてきた。
被告つつじの会は、昭和52年に、東京都から知的障害者等の通所訓練施設の運営に対して補助金の交付が開始されたことから、この補助金を受けて、動坂福祉会館の2階を借りて、知的障害者等の通所訓練事業を開始し、2ないし3年後には、文京区から委託を受ける形で、通所訓練事業を行うようになった。
昭和58年ころ、被告つつじの会の通所訓練の一つとして、都立駒込病院から、使用済みガーゼの再生の内職を委託されるようになり、障害者の仕事の確保と、将来における知的障害者等の親なき後の施設建設の基金とすることを目的として、障害者の親によるガーゼ再生の内職作業が開始された。この内職作業は、動坂福祉会館2階の訓練室が知的障害者等の通所訓練のため空いている時間を利用して、同所において行われた。
そして、平成3年3月29日、被告槐の会が設立されたことから、被告つつじの会が行ってきた知的障害者の通所訓練事業は、被告槐の会の「文京つつじの園」に引き継がれることとなった。
他方、被告つつじの会は、昭和60年度から平成11年度までの間、文京区との間で、動坂福祉会館の集会室の団体使用に係る受付業務並びに集会室を含む同会館の1階及び1階から3階に至る階段部分に係る管理維持業務について、管理受付業務委託契約を締結し、上記受付及び管理業務に従事していた。
エ 被告槐の会における本件保護事業の実情及び被告馬道の活動
被告槐の会は、平成3年3月29日の設立以来、文京区の委託を受けて、動坂福祉会館において、本件保護事業を行ってきた。
また、被告馬道は、被告槐の会の設立に伴い、同被告の理事に就任したほか、同年7月ころからは、同被告が運営する保護施設である「文京藤の木荘」の園長として、知的障害者等の保護に従事するようになった。
ところで、本件保護事業は、動坂福祉会館における心身障害者等の宿泊を伴うものであったことから、被告槐の会は、毎日職員2名を宿泊させて、夜間における心身障害者等への対応に当たらせることとしており、被告馬道をはじめ各職員は、宿泊した日から中2日を空けて3日目に再度宿泊するという態勢を採っていた。しかし、被告槐の会の職員が次々と辞職したことなどから、宿泊する職員が不足するようになり、被告馬道は、動坂福祉会館にほとんど毎晩宿泊するようになった。
なお、被告槐の会は、平成10年9月ころ以降は、職員1名と、派遣に係る宿泊専門要員1名とを動坂福祉会館に宿泊させて、心身障害者等への対応に当たらせている。
オ 被告馬道及び被告つつじの会による動坂福祉会館の利用状況
被告馬道は、平成10年9月ころまで、動坂福祉会館内に私物を置いて宿泊していたところ、同時期までの被告馬道及び被告つつじの会による同会館の利用状況は、次のとおりであった。
a 動坂福祉会館1階について
1階の集会室には、被告馬道が毎晩就寝しており、集会室の流し台には、同被告の歯磨き具が置かれていた。
1階玄関については、集会室の利用者のない平日には、玄関を施錠していたことがあった。
1階の集会室では、被告つつじの会が、集会室の利用時間外の時間に、総会を開催することがあったが、その際、目的外使用許可を取得していなかった。また、平成5年ないし6年ころ、被告つつじの会の会員が、1か月に1、2回程度、集会室においてカラオケの練習をしたことがあった。
b 動坂福祉会館2階について
2階の狭い方の訓練室においては、被告つつじの会の会員が、平日の午前8時30分ころから午後3時30分ころまで、都立駒込病院から受け取ったガーゼを干して折り畳む内職作業をしていた。この作業は、動坂福祉会館に宿泊している心身障害者等が、日中「文京つつじの園」において通所訓練をしている間も上記訓練室が空いている時間帯を利用して行われた。
c 動坂福祉会館3階について
3階の狭い方の和室には、被告馬道が持ち込んだ、高さ約160センチメートルの桐の和タンスが置かれ、同被告は、着物を収納するためにこれを利用していた。また、この和室に入る手前の床の部分には、被告馬道が持ち込んだ、高さ約1メートルないし1.3メートル、幅約50センチメートルの姿見が置かれていた。さらに、3階には、この他にも、被告馬道の私物が置かれていた。
また、被告馬道は、個人的な接客のために訓練室を利用することがあった。
d 動坂福祉会館地下1階について
地下1階の広い方の倉庫には、被告つつじの会が、古着などのバザーのための商品を保管しており、これらは段ボールやビニール袋に入れられて山積みにされ、上記倉庫にはほとんど空きスペースがない状況であった。これらの商品は、年2、3回程度開かれるバザーの際に出品されていたが、バザーの前後で保管状況に大きな変化はなかった。バザーの売上げは、被告つつじの会による親なき後施設の建設基金の積立てに充てられた。
(2) 以上の事実に基づいて、争点2について判断する。
ア 被告馬道の不法行為責任及び不当利得返還義務の有無について
a 原告らは、動坂福祉会館の全部又は一部を不法に占有していたと主張する。
しかし、本件に顕れた証拠から認められる被告馬道による動坂福祉会館の利用状況は、上記(1)エ及びオのとおりであり、同被告による上記の利用によって、同会館の所有者である文京区並びに同区からの委託により同会館の一部を使用していた被告つつじの会及び被告槐の会による同会館の占有ないし利用が排除されたり、1階集会室における一般の利用が排除されたりした事実が認められないことに照らしても、被告馬道の同会館の利用状況に関する上記認定事実をもって、同被告が、同会館の全部又は一部について、他者の占有を排除して、自己の排他的な支配を確立したものと認めることはできない。
また、他に、被告馬道が、他者の占有を排除して、自己の排他的な支配を確立したものと認めるに足りる証拠はない。
そうであるとすれば、被告馬道が、同会館の全部又は一部を、不法に占有したということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
b また、原告らは、被告馬道が文京区の行政財産である動坂福祉会館を不法に利用して文京区の所有権を侵害したと主張する。
そして、被告馬道は、被告槐の会の職員としての宿泊当番に加え、宿泊する職員が不足したこと等から、同会館にほとんど毎晩宿泊する状況であったことは、前記(1)エのとおりである。
しかし、仮に原告らが主張するように、常時複数の職員が同会館に宿泊することが具体的に必要不可欠であったとまではいえず、また、被告馬道が実際には1階集会室で就寝していたとしても、同会館に宿泊していた心身障害者等への対応のために、少なくとも複数の職員が同会館に宿泊して待機することが望ましいことが認められる(〔証拠略〕)ことからすれば、同被告による同会館への宿泊が、少なくとも被告槐の会の業務の遂行と合理的な関連を有するものであることは否定できないから、被告馬道の上記のような同会館の利用状況をもって、同会館を不法に利用して文京区の所有権を侵害したということはできない。
さらに、動坂福祉会館3階には、被告馬道が持ち込んだ和タンスや姿見が置かれていたことは、前記(1)オcのとおりである。
しかし、被告馬道は、職員用のロッカーが不足したために、自分の着替えや着物を収納する目的で、上記和タンスを自費で購入して持ち込んだ旨供述しており、同被告による同会館への宿泊が、被告槐の会の業務の遂行に合理的な関連を有することにも照らせば、被告馬道が上記和タンス及び姿見を同会館に搬入して利用したことも、これに随伴するものとして社会通念上許容される限度を逸脱して同会館の所有権を侵害するものとまではいうことはできず、このことをもって、同被告が同会館を不法に利用、占拠したと評価するのは相当でない。
そして、前記(1)オで認定したその他の事実をもっても、被告馬道による動坂福祉会館の利用が、社会通念上許容される限度を逸脱して、同会館の所有権を侵害したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
c したがって、被告馬道が動坂福祉会館を不法に利用、占拠した事実が認められない以上、同被告の文京区に対する不法行為責任を認めることはできない。また、被告馬道が、同会館を法律上の原因なく利用、占拠した事実が認められない以上、同被告の文京区に対する不当利得返還義務を認めることもできない。
イ 被告つつじの会の不法行為責任及び不当利得返還義務の有無について
a 被告つつじの会は、前記(1)オのとおり、動坂福祉会館2階の訓練室において、午前8時半ころから午後3時半ころまで、使用済みガーゼを再生する作業を行っていたものである。
しかしながら、被告つつじの会は、通所訓練中のため上記訓練室が使用されていない時間帯を利用して上記作業を行っていたものであり、同被告が、被告槐の会の設立以前から、通所訓練と共に上記作業を行っており、同被告の設立に伴い、通所訓練を同被告に引き継いだものであること、上記作業が、知的障害者等の親なき後の施設の建設をも目的とするものであって、同被告の本件保護事業を補完する性格を有する面も否定できないことに照らせば、被告つつじの会による上記作業のための上記訓練室の使用は、文京区ないしは同区から同室の使用を認められた被告槐の会による同室の占有を排除して、自己の排他的な支配を確立したものとは認められないから、これをもって、被告つつじの会による上記管理室の不法占有を認めることはできない。
また、被告つつじの会の上記作業により、被告槐の会による本件保護事業その他動坂福祉会館の利用に支障が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、上記作業は、その経緯、目的等にかんがみ、被告槐の会が上記訓練室において実施する本件保護事業を補完する性格を有することも否定できないことに照らせば、被告つつじの会が上記作業のために上記訓練室を利用するに当たり、使用許可を受けていなかったとしても、このことをもって、同被告による上記訓練室の利用が違法であるとまではいうことができない。
b また、被告つつじの会は、動坂福祉会館地下1階の倉庫に、バザーに出品するための物品を保管していたものであるが、上記倉庫は、本来、同会館の備品等の保管を目的として設置されているものの、その使用に関しては、本件条例及び本件規則に特段の規定がないことに照らせば、同会館を利用する権原を有する者において、その利用に随伴して上記倉庫に物の保管を行うことは許容されるものと解されるところ、同被告は、バザーの売上げを親なき後施設の建設基金の積立てに充てており、かかる活動は、動坂福祉会館の設立目的である心身障害者等の自立更生の援助に資するものであり、被告槐の会が同会館において実施する本件保護事業を補完する面を有すること、被告つつじの会による上記倉庫の使用によって、同会館の利用に支障が生じたことを認めるに足りる証拠がないことに照らせば、同被告が上記倉庫にバザーに出品するための物品を保管していたことをもって、上記倉庫を不法に利用、占拠したということはできない。
c さらに、被告つつじの会は、動坂福祉会館1階の集会室において、目的外使用許可を取得せずに、総会を開催していたものであるが、被告馬道は、本人尋問において、総会の開催について文京区の職員に直接報告しており、同区の了解を得ているものと理解している旨の供述をしていることに照らせば、目的外使用許可を取得せずに総会を開催した事をもって、被告つつじの会が文京区の動坂福祉会館に対する所有権を侵害したものということはできない。
この他、被告つつじの会が、上記集会室においてカラオケの練習をした事実が存したとしても、そのことをもって、直ちに動坂福祉会館の所有権を侵害したものとまではいうことができず、他に上記事実が文京区に対する不法行為を構成することを認めるに足りる証拠はない。
そして、前記(1)オで認定したその他の事実をもっても、被告つつじの会による動坂福祉会館の利用が、社会通念上許容される限度を逸脱して、同会館の所有権を侵害することを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
d したがって、被告つつじの会が動坂福祉会館を不法に利用、占拠した事実が認められない以上、同被告の文京区に対する不法行為責任を認めることはできない。また、被告つつじの会が、同会館を法律上の原因なく利用、占拠した事実が認められない以上、同被告の文京区に対する不当利得返還義務を認めることもできない。
3 争点3及び4について
(1) 争点3について
前記のとおり、被告馬道及び被告つつじの会が動坂福祉会館を不法に利用、占拠した事実が認められないことからすれば、被告槐の会が同会館について管理権限を有するか否かにかかわらず、同被告について、文京区に対する債務不履行の事実を認めることはできない。
(2)争点4について
前記のとおり、被告馬道及び被告つつじの会が動坂福祉会館を不法に利用、占拠した事実が認められないことからすれば、文京区長であった被告遠藤において、同会館の管理を怠ったことにより、文京区に損害を与えたということはできない。
また、前記のとおり、文京区の被告馬道及び被告つつじの会に対する損害賠償請求権及び不当利得返還請求権並びに被告槐の会に対する損害賠償請求権が認められない以上、文京区長であらた被告遠藤がこれらの債権の行使を怠ったということもできない。
さらに、被告馬道及び被告つつじの会が動坂福祉会館を不法に利用、占拠した事実が認められないことからすれば、被告遠藤による共同不法行為を認めることもできない。
第4 結論
よって、原告らの請求は、いずれも理由がないというべきであるから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 馬渡香津子)