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東京地方裁判所 平成12年(行ウ)243号 判決 2002年4月18日

原告

A株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

北武雄

野本俊輔

吉葉一浩

被告

神田税務署長

澤内弘道

同指定代理人

武笠圭志

川上昌

冨田光博

引地俊二

富山吉徳

補助参加人

株式会社B

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

山崎郁雄

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が、原告に対し、平成11年2月26日付けでした、平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成7年課税期間」という。)及び平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成8年課税期間」という。)の消費税の各更正処分並びに各過少申告加算税賦課決定処分(平成7年課税期間に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分については、平成11年7月8日付け異議決定による一部取消し後のもの)、平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成9年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分(いずれも平成11年7月8日付け異議決定による一部取消し後のもの)、平成11年7月30日付けでした、平成10年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成10年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分(以上平成12年(行ウ)第243号事件)、平成12年7月31日付けでした、平成11年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成11年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分(以上平成13年(行ウ)第383号事件)をいずれも取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、原告の平成7年課税期間ないし平成11年課税期間の各消費税(平成9年課税期間以降のものについては地方消費税を含む。以下単に「消費税」ということがある。)について被告がした各更正処分(ただし、平成7年課税期間及び平成9年課税期間については異議決定による一部取消し後のものをいい、以下併せて「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成7年課税期間及び平成9年課税期間については異議決定による一部取消し後のものをいい、以下併せて「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)は、原告が消費者に消費税相当額を転嫁し得なかった取引についても消費税を課税したものであること、また、被告が、従前、そのような取引について消費税を計上しなかった原告の確定申告を被告が是認し、原告に対し還付金を支払っていたことに照らせば、違法な処分であり、また、仮に、本件各更正処分が適法であるとしても、原告には国税通則法(以下「通則法」という。)65条4項にいう正当な理由があるから、本件各賦課決定処分は違法である旨主張し、これら処分の取消しを求めるものである。

2  判断の前提となる事実(証拠を掲記しない事実については当事者間に争いがない。)

(1)  原告

原告は、株式会社の各義書換、決算、増資等の法定公告の掲載をCへ取り次ぐ広告代理業務を主たる業務とする株式会社である。(甲7)

(2)  本件訴訟に至る経緯

本件各処分につき、本件訴訟に至るまでの確定申告、本件各処分、異議申立て、審査請求等の経緯は、別表1(平成7年課税期間)、同3(平成8年課税期間)、同5(平成9年課税期間)、同7(平成10年課税期間)及び同9(平成11年課税期間)記載のとおりである。

課税根拠に関する被告の主張は、要するに、原告が取引先に消費税を転嫁できなかったとする取引について、すべて内税方式の取引があったものとみなしたと同様のものであって、原告が提出した、各課税期間に対応する事業年度における法人税の確定申告書添付の損益計算書の売上高と仮受消費税額の合計額をもって消費税法2条1項9号に規定する課税資産の譲渡等の対価の額とし、これをもとに法所定の税率によって課税標準額及びこれに対する消費税額を算出し、これから課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を控除して納付すべき消費税額及び地方消費税の譲渡割額(ただし、後者については、平成9年課税期間以降のみ)を算出し、これらの額と原告のした申告額とを比較して、過少と認められる額につき、通則法65条1、2項及び118条3項に基づき過少申告加算税を算出したというものである。

なお、原告は、仮に消費税を転嫁できなかった取引を内税方式の取引とみなすとの被告の主張を前提とすると、被告がした本件各処分に計数上誤りはないとしている。

3  原告の主張

(1)  消費者に転嫁し得ない消費税についての納税義務の不存在

消費税法は、事業者が消費者との間でした外税方式の取引において、事業者が消費者から消費税の仮払を受けていない場合について、当該取引に係る消費税の納付義務を規定していない。また、消費税が導入された税制の抜本的な改革の際に制定された税制改革法は、その10条2項において、「事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税し、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方式によるものとし、(中略)、その仕組みについては、我が国における取引慣行及び納税者の事務負担に極力配慮したものとする。」とし、11条1項において「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。」と規定しているのであるから、消費税法は、事業者が消費者に消費税を転嫁できることを大前提としているのである。そして、税制改革法11条2項は、「国は消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与するため、前項の規定を踏まえ、消費税の仕組み等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものとする。」と規定しており、事業者に消費税を必ず支払うようにするために必要な施策を国が講じていないことから生じた本件のような事態につき、事業者に犠牲を強いることは予定されていない。

原告は、消費税の導入以来、社団法人Dの「消費税への対応に関する協会指針」(甲1)により、取引先に対し一貫して外税方式によって代金を請求しており、消費税分を値引きした事実は全くない。しかし、現実の経済取引においては、取引先が「消費税など納める必要はない」と主張し、事業者の力関係で消費税を転嫁できない場合がある。にもかかわらず、このような場合に、原告が広告主から仮払を受けられなかった消費税について、課税を行うことは現実の経済取引の実態を全く無視するものであって、認められないというべきであり、仮払を受けられなかった取引について内税方式で広告代金を受領したものと擬制し、売上高の103分の3(平成9年3月31日までの3パーセントの税率(以下「旧税率」という。)の場合)又は105分の4(平成9年4月1日以降の4パーセントの税率(以下「新税率」という。)の場合)を消費税とみなしてされた被告の処分は、租税法律主義、適正手続の保障に反し違法である。

被告の主張するように、原告が広告主から仮払を受けられない取引についても消費税を納税するとすると、広告主は、原告に消費税相当額を支払わないのみならず、自らが直接負担する消費税計算の際、原告に消費税を支払ったことにして、仕入税額の控除を受けるという二重の利得を得ることとなり、原告と広告主との間に著しい不公平が生ずることとなる。

確かに、消費者から消費税の仮払を受けられなかった際に、非課税又は免税とする旨の明文の規定はないが、そもそも、消費税法4条及び28条は、事業者が消費者に消費税を転嫁できることを前提にした規定であるから、明文の規定がなくとも課税の対象外とされるものであるし、消費税法5条1項、通則法15条2項及び消費税法2条1項9号は、いずれも、単に納税者の納税義務がいつ発生するかを規定したものにすぎない。また、税制改革法は、17条において、国及び行政当局が、適切な施策実行のためになすべき義務を具体的に定めているところであり、同法が単なる努力目標を掲げたものでないことは明らかである。

(2)  被告の従前の対応

被告は、平成元年に消費税が導入されて以来、原告に対し、原告が広告主から消費税相当額の仮受をしない取引について、徴税をしないという運用を続け、被告は、毎年、原告の申告を受け、過納消費税として還付してきたものである。具体的には、被告は平成8年3月末日、平成7年12月期の消費税について過納消費税195万8498円を還付し、平成9年3月末日には、平成8年12月期の消費税について過納消費税179万2889円を還付している。ところが平成10年に至り、そのような運用を変更し、仮受をしない取引についても、消費税を徴収することとしたが、そうするのであれば、被告は、原告に対し、十分な告知と聴聞の機会を与え、納得のいく説明と予告期間をおいて将来的にそのような取扱をすべきであり、そのような指導・予告のないまま過去数年分にわたって遡って、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことは、適正手続の保障に反し違法である。

(3)  通則法65条4項の「正当な理由」の存在

また、仮に、被告の本件各更正処分が違法でないとしても、前記(2)記載のとおり平成7年12月期、平成8年12月期、平成9年12月期につき、過納消費税の還付をし、一度は原告の申告及び還付の請求の正当性を認めておきながら、後の更正処分に伴い過少申告加算税を課することは許されるべきではなく、更正処分がされる前に、修正申告に関する要請や更正処分に対する告知も全くされていないこと等にかんがみれば、「制裁」としての過少申告加算税の賦課決定処分は認められず、原告には通則法65条4項の「正当な理由」が存在するから、本件各賦課決定処分は違法である。

4  被告の反論

(1)  消費税法4条は「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。」と定めており、原則的に事業者が行った資産の譲渡等をすべて課税の対象としている。そして、非課税、免税、納税義務の免除が認められているのは、同法6条ないし9条等一定の要件に該当した場合に限られており、その中には、売上先に消費税を転嫁できなかった場合などは規定されていない。

また、通則法15条2項は、「納税義務は、次の各号に掲げる国税(第1号から第12号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定めるとき(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定めるとき)に成立する。」とした上で、消費税については、消費税法2条1項9号に規定する課税資産の譲渡等をしたとき(同項7号)に納税義務が発生すると定め、売上先に消費税を転嫁できなかった場合を除外するとの定めはされていない。

そして、消費税法28条1項は、「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とする」と規定し、当該「対価の額」とは、対価として収受し、又は、収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものと規定している。これは、課税事業者が課税資産の譲渡等をした場合に相手から受領する対価の中に、消費税を転嫁する意思の有無にかかわらず、消費税に相当する額が含まれているとみなした上、課税標準を計算する際に、これを控除することを規定しているものと解される。

これを本件についてみると、原告は、課税事業者であるところ、原告が消費税を請求できないとする取引先との間でした取引は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に該当し、かつ、消費税法6条ないし9条に規定する非課税や免税等に当たらないのであるから、同法28条に規定する課税標準に該当する取引と認められる。

そうすると、原告が消費税を請求できないとする得意先との間でした取引は、消費税相当額を商品代金等に加味できなかったにすぎないと解すべきであって、これを消費税込みの課税資産の譲渡等の対価として課税標準額を計算し、これに基づいて消費税額を算定した本件各更正処分は適法である。

原告は、消費税法は、事業者が消費者に消費税を転嫁できない場合について何らの規定を設けておらず、このような場合、消費税法28条は適用されないと主張するが、消費税法28条及び通則法15条2項が事業者が消費者に消費税を転嫁できない場合についても消費税の納税義務が発生すると定めていることは、その文言から明らかであって、上記主張は原告独自の見解に立って、事業者が取引の相手方から消費税の支払を受けることができないことを消費税法28条の適用排除事由とするものであって、到底採用することができない。

(2)  税制改革法は、昭和63年6月15日に行われた税制調査会の抜本的な改革の趣旨、基本理念及び方針を明らかにし、かつ、簡潔にその全体像を示すことにより同税制改革についての国民の理解を深めるとともに、同税制改革が整合性をもって、包括的かつ一体的に行われることに資するほか、同税制改革が我が国の経済社会に及ぼす影響にかんがみ、国等の配慮すべき事項を定めることをその目的としており(1条)、国税及び地方税並びに国と地方公共団体との間の財源の配分について、別に所得税法等の一部を改正する法律その他法律で定めるところにより、第2章に定める措置を中心とする改革を行うものとするとされていることから、消費税の具体的な制度については、消費税法をはじめとする個別税法に規定されており、税制改革法は、抽象的に税制改革の基本理念ないし方針を定め、個別の法律の解釈の方針を示したにすぎないものである。そして、同法の条文においても、すべての財貨・役務の国内における販売・提供等を課税の対象とし、事業者が取引価格への転嫁を図ることができない場合に納税義務を免れるという例外を一切認めていないし、事業者が消費税相当額を取引の相手方に請求できるかどうかといったことは、事業者の納税義務の成否に何ら影響を及ぼすものとはされていない。

(3)  被告所部係官らは、原告代表者に対して、何とか消費税法の制度について理解を得ようと誠実に対応していたものであって、被告が、原告の平成7年ないし同9年課税期間の各確定申告並びに平成10年課税期間の確定申告について、原告の申告を是認する公的見解を示した事実や誤指導の事実などはない。また、原告は、平成7年課税期間ないし同9年課税期間の各確定申告について、更正処分を行うとの告知を平成11年2月10日に受けていたにもかかわらず、平成10年課税期間の確定申告書を従前通りの会計処理のまま平成11年2月23日に提出したものである。

したがって、平成10年課税期間の確定申告について、原告の申告を是認する公的見解を示した事実や誤指導の事実などはなく、通則法65条4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しない。

被告所部係官は、平成9年課税期間の還付申告に基づき、本件調査続行中ではあったが、それはそれとして平成10年5月27日に消費税の還付手続を先行して行った上、平成10年4月8日の本件調査時から、消費税を請求できないとする得意先に対する売上を課税標準に算入しない会計処理の是正を求めていたものである。したがって、確定申告に誤りがない旨を伝えた事実は存在しないし、消費税の還付が原告の上記確定申告書の申告内容を認めたことにはならず、税法上、国税の還付金につき、遅滞なく、還付加算金を付して還付しなければならないとされていることに従って、還付金支払という納税者に対するサービスを優先して行ったにすぎない。その上、本件においては、平成10年4月21日に原告事務所に臨場した際、修正申告に応じないのであれば更正処理するしかない旨伝えたところ、原告代表者は「勝手にしろ」と発言したことをはじめとして、平成7年課税期間ないし同9年課税期間に係る消費税の各更正処分の直前まで、被告所部係官が原告に臨場あるいは電話により、代表者に対して繰り返し消費税に係る処理の是正、すなわち修正申告書の提出を求め、これに応じない場合は更正処分を行う旨を伝え続けてきたものである。したがって、還付処理が行われていたからといって、被告が原告の確定申告書の申告内容を認めたなどと原告が理解する余地がなかったし、被告が、平成7年課税期間ないし同9年課税期間の各確定申告について、原告の申告を是認する公的見解を示した事実や誤指導の事実などはなく、通則法65条4項に規定する正当な理由があると認められる場合には該当しない。

5  補助参加人の主張

補助参加人が、原告に対して消費税仮払を停止した事実はなく、補助参加人担当者が、原告と同様の公告取次業者に対し、値引きの可否を尋ねたところ、これに応じたため、原告の担当者に示したところ値引きに応じたにすぎず、支払義務のある消費税相当額について支払を拒否した事実はない。原告から補助参加人に送付された請求書には消費税の金額が明示されておらず、これは、内税方式での請求がされたもので、広告料についてはすべて支払済みである。

6  争点

よって、本件の争点は、①事業者がいわゆる外税方式で取引を行ったのに消費者から消費税相当額の仮払を受けられなかったと主張する場合の消費税の課税関係、②更正処分を行う前に過納金の還付を行ったこと等が更正処分の適法性に影響を及ぼすか否か、③通則法65条4項の「正当な理由」の存否である。

第3争点に対する判断

1  争点1

(1)  消費税法の規定

消費税法は、「国内において事業者が行った資産の譲渡等」(国内取引、同法4条1項)及び「保税地域から引き取られる外国貨物」(輸入取引、同法4条2項)を課税対象としており、「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。」とする(同法2条1項8号)。国内において行われる資産の譲渡のうち、同法別表第1に掲げるもの(同法6条1項)及び保税地域から引き取られる外国貨物のうち、同法別表第2に掲げるものは非課税とされ(同法6条2項)、前記「資産の譲渡等」から同法6条1項の非課税取引を除いたものを「課税資産の譲渡等」という(同法2条1項9号)。

そして、国内において課税資産の譲渡等を行った事業者(個人事業者及び法人をいう(同法2条1項4号)。)は、課税資産の譲渡等につき消費税の納税義務を負い、外国貨物を保税地域から引き取るものは課税貨物につき消費税の納税義務を負う(同法5条)。

課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する対価を含まないものとする。)とされ(同法28条1項)、法人税法に規定する事業年度を課税期間とし(消費税法19条1項2号)、平成9年3月31日までは3パーセントの税率(旧税率)で、平成9年4月1日以降は4パーセントの税率(新税率)が適用され、税額の計算がされる。

ただし、課税期間中の課税資産の譲渡等の対価の額の合計額(課税標準額、45条1項1号、消費税の会計処理につき税込経理(消費税額及び地方消費税額を売上高及び仕入高に含めて経理する方法)をしている場合には、課税資産の譲渡等の対価の額(税込価額)の合計額に105分の100(新税率の場合)又は103分の100(旧税率の場合)を乗じた金額となり、税抜経理(消費税の額を売上高及び仕入高に含めないで区分して経理する方法)をしている場合には、課税資産の譲渡等の対価の額(本体価格)と仮受消費税等の合計額に105分の100又は103分の100を乗じた金額となる。)に税率を乗じて算出した売上税額から、仕入に含まれていた税額(仕入税額、課税仕入れに係る消費税額及び保税地域から引き取った課税貨物に係る消費税額の合計)を控除し、消費税の納付税額が算出される(同法30条)。

そして、平成9年4月1日以降は、消費税の付加税として、消費税同様国内取引及び輸入取引を課税対象とした地方消費税が課されることとなっており、消費税額を課税標準とし、25パーセントの税率(課税資産の譲渡等の対価の合計額の1パーセントとなる。)が適用されている。

(2)  以上の規定によれば、消費税法は、事業として対価を得て行われる資産の譲渡等について、6条に定める非課税取引又は7条に定める輸出免税等に該当するものを除き、課税対象とする旨を定めているのであるから、課税対象となる取引については、個々の取引において事業者と消費者との間で消費税相当額の負担についていかなる合意があったか、また、その合意に基づく金額が現に支払われたか否かにかかわらず、事業者においては消費税の納税義務を免れることはできない。また、課税標準額の算定に当たっても、消費税法は、課税標準額を「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭」等と定めているところであるから、対価として現実に収受していなければ、消費税の課税標準額たり得ないものではなく、むしろ、実際には収受していない対価であっても、収受すべき金銭等については課税標準額に含めるものと解すべきであって、事業者が消費者から本来収受すべき消費税相当額の支払を受けていない場合に当該消費税を事業者にも課税することは適法であると解すべきである。

(3)  消費税法は、平成元年に施行されたものであり、資産の譲渡等については上記のように原則として消費税が課されることは世間に周知されているのであるから、その取引を行う事業者と消費者は、契約締結に当たって明示的又は黙示的に契約自体の対価とこれに対する消費税相当額を定め、消費者はその合計額を事業者に支払う義務を負うこととなるのである。いわゆる内税方式と外税方式は、この合意内容の表示方式の差違であって、外税方式での合意が成立した場合には、消費者は本来の対価に加えて、それに対する法所定の税率による消費税相当額を事業者に支払うべき債務を負うことになるのである。

原告は、すべて外税方式によって取引を行っていると主張する一方、消費税を消費者に転嫁できないものがあると主張するが、この主張は、互いに矛盾するものというほかない。すなわち、外税方式によって取引が成立しているならば、原告は、消費者に対して消費税相当額の請求権を有しているのであり、それが現に支払われていない場合には、帳簿上は未収金として計上すべきものであるし、契約で定めた対価以外に消費税相当額を請求し得ないとすると、それは、外税方式ではなく、内税方式で契約が成立したものというほかないのである。結局、原告の主張は、外税方式での取引を希望したにもかかわらず、消費者である広告主がこれに応じてくれなかったというにすぎず、そのような場合原告としては、取引を拒絶するか、広告主の要求に応じて内税方式の取引を行うかの二者択一を迫られるのであって、現に、取引を行い、相手方の支払う対価以外には消費税相当額の支払請求を断念していることからすると、黙示的にせよ内税方式の取引を行ったものとみるほかないのである。このように、原告の主張は、現に内税方式で取引を行い、消費税を含めて対価を受け取っているにもかかわらず、その事実を認めず、当初の自己の希望どおり外税方式をもって取引を行い消費税相当額を収受していないものと強弁しているにすぎず、その主張の前提に誤りがあるといわざるを得ない。

なお、原告の主張は、外税方式で取引を成立させた上、広告主の要求に応じて消費税相当額の支払を免除したとの趣旨と理解できないでもないが、仮に当事者間においてそのような意思の合致があったとすると、当該取引の課税標準の額は、消費税法28条1項の文言に照らし当該免除の有無にかかわらず、本体価格相当額となり、内税方式による場合よりも多額の消費税を納付すべきこととなるのであるから、被告が現に行った課税はむしろ原告に有利なものとなっていることになり、課税の違法を基礎付ける主張とはいい難いし、このような原告にとって一方的に不利益な内容の取引が成立したと認め得るのは当事者間において明示的な合意があった場合など特殊な事情のある場合に限られると考えられるところ、本件においては、そのような特殊な事情は認め難いから、結局、原告は上記のように内税方式での取引を行ったものとみるほかない。

他方、これらの取引について内税方式を前提として被告が消費税を課したことは、その余の点を判断するまでもなく正当というべきである。

2  争点2

消費税法52条1項の記載によれば、同法45条1項又は同法46条1項の規定による確定申告書の提出があった場合、これらの申告書に同法45条1項5号に掲げる不足額の記載があるときは、税務署長は、これらの申告書を提出した者に対し、当該不足額に相当する消費税を還付するものとされ、還付請求権は、確定申告書の提出と同時に成立し、納税者からの還付請求書の提出や、税務署長の処分等を何ら要せずに、申告のみによって当然に還付請求権が発生することとなる。そして、通則法56条1項によれば、国税局長、税務署長又は税関長は、還付金又は国税に係る過誤納金があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならないとされ、同法58条においては、国税局長、税務署長又は税関長は、還付金等を還付し、又は充当する場合には、還付金の金額に年7.3パーセントの割合を乗じて計算した金額(還付加算金)をその還付すべき金額に加算しなければならず、その期間の始期は、消費税法52条2項により、期限内にされた申告書については、当該申告書の提出期限の翌日からとされている。すなわち、還付請求権は、確定申告という当事者の一方的行為のみにより、税務署長の調査や処分等を経ずに発生するものであり、いったん発生すると、税務署長は、遅滞なく金銭で返還する義務を負うばかりか、還付加算金を還付すべき金額に加算しなければならないとされているのである。

他方、課税標準等の計算については、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、更正するものとされ(通則法24条)、その期間は、当該申告書の提出期限から3年を経過した日以降においてはすることができないと定められている(通則法70条)。

これらを総合して考慮するに、法は、還付を求める確定申告書が提出された場合、速やかに還付を行った上で、所定の期間内に調査等を行い、必要に応じて更正を行うことを当然に予定しているものと解すべきであって、被告が原告に対し、いったん還付金を支払ったとしても、それは被告に課せられた義務を履行したにすぎず、そのことが原告の確定申告書の内容を是認したり、正当であると認めたことになるとはいえず、そのことが後の被告の本件各更正処分を違法ならしめることはあり得ない。

また、原告は、従前、原告が広告主から消費税相当額の仮払を受けられなかった取引について、消費税を徴収しないとの運用がされていたことを主張するが、原告の問い合わせに対し、本件において原告が問題と主張する運用の内容は、被告の積極的かつ明確な意思表示を伴うものではなく、原告がした誤った申告を被告が更正しなかったこと、被告が原告に対してした説明の内容、修正申告の慫慂をしなかったことにすぎず、仮に、そのような事実があったとしても、そのことが、後の課税処分そのものの効力に影響することはない。

3  争点3

通則法65条4項の「正当な理由」とは、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかないで過少申告となり、申告した税額に不足が生じたというように、当該申告が真にやむを得ない理由により過少申告となった場合であって、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。

そして、本件において過少申告が生じているのは、前記のとおり、原告が自己の意に反した内容の取引を行わざるを得なかったのに、その事実を認めず、自己の希望したとおりの取引が成立したものと強弁していることによるものであって、これが前記「正当な理由」に該当しないことは明らかである。

なお、原告が「正当な理由」の基礎となる事実として主張するところは、被告がいったん本件各年度の還付金を原告に還付したこと、十分な告知と聴聞の機会を与えず、事前に納得がいく説明や予告期間を設けず、いきなり更正処分を行ったことであるが、前記2のとおり、法が申告に関する調査や更正処分の前に還付を行うことを建前としているのであるから、還付がされたことが、被告として原告の申告内容を是認したり、何らかの解釈を示すこととはならないといえるし、また、更正処分に当たって、事前に修正申告の慫慂をしたり、納税者に対して説明を行うことは法的には必ずしも義務付けられておらず、これをせずにした過少申告加算税の賦課決定処分が違法となるものではない。原告のいうように、将来に向かってのみ是正を行うべきとすると、法が認めた更正処分を行い得る場合は極めて限定されることとなり、更正の制度を認めている法の趣旨にも合致しないこととなるし、本来受けるべき更正処分を受けなかった者が、そのことにより優遇されるという結論は、納税者の公平の見地からも問題があるといえる。

以上によれば、原告が主張する各事実は、通則法65条4項にいう「正当な理由」を基礎付けるものとはなり得ない。

なお、原告、被告はいずれも本件更正処分に至るまでの経緯について詳細な主張をし、その内容には相違がみられ、証拠上必ずしもその実態は明らかとはいえないが、被告が主張した事実を前提にすれば、原告に通則法65条4項にいう「正当な理由」を基礎付ける事実は存しないこととなるし、仮に、原告が主張し、原告代表者が陳述書で述べる事実を前提にしたとしても、原告が問題とするところは要するに、還付金が支払われたことと説明や修正申告の慫慂がされていない点であり、他に、被告の所部職員が原告の申告の内容を積極的かつ明確に是認した事実は認められないのであるから、いずれにしても、本件において原告に「正当な理由」があるとは認め難い。

4  結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、66条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 廣澤諭)

裁判官 村田斉志は転官のため署名押印できない。 裁判長裁判官 藤山雅行

別表1

平成7年1月1日から平成7年12月31日までの課税期間の消費税の更正処分等の経緯

file_2.jpg«8 8 | ema werr<eeam | momen ee Fmew2Az0 8 | 205, 498, 00 721, 958,498] A, 968,498 2 [Re Ei 2AZ6H | 909, 512, 000] 1,222,900[ 8,181, 3 E164 25 | 203, 408, 000] ‘a1, 958, 498] 1, 958,498] a waite 309,542, 000 1114,700[ 8,073,100 5 Fai 48 8 68 203, 98, 00 ‘a1, 958,498] A, 968,493] ri emIgneALAA(注) 「納付すべき税額」欄及び「差引納付すべき税額」欄の▲印は還付すべき税額を示す。

別表2

過少申告加算税額の計算

file_3.jpgBOPEMERO] BoneMMR @) OEE 170,000 10057010 10059 5 oh

別表3

平成8年1月1日から平成8年12月31日までの課税期間の消費税の更正処分等の経緯

file_4.jpgwe | To a Eee ee ed we a a[eRONZADER 5174] ai, 702, 880] al, 792, 889] s.i74[_1,125,100[ 2,917, 900] 5,174] ai,792, 880 1,792, 889] 2 [RE Be[eauwenzH @ [amexc|saiiwenzen « [pmee[eRiyi aoe 5 [eaeme[eaiiwsnee (2, ra] al, 792, 880] 1,792, 889] 6 [ea mn|emievenie =(注) 「納付すべき税額」欄及び「差引納付すべき税額」欄の▲印は還付すべき税額を示す。

別表4

過少申告加算税額の計算

file_5.jpg(Cty + FA) ne aammesom ©) | OMe (2) @x@) 2,910,000[ — 100%010 291, 000 2,410,000] 100390 5 129, 500 & EI 411, 500)

別表5

平成9年1月1日から平成9年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分等の経緯

file_6.jpgmelee] 4 Sel beer ed ee 7 198,125,000] 7,421,900] 9,796,707 a 1,212,210) 0,706,707 x 7 72,200] 9,706 2 4 1,212,210) 10,005, a 193,125,000] 7.421, 900[ 9,796,707 eS(注) 「納付すべき税額」欄、「差引納付すべき税額」欄、「譲渡割額」欄及び「差引納付すべき譲渡割額」欄の▲印は還付すべき税額を、「地方消費税の課税標準となる消費税額」欄の▲印は還付対象の課税標準となる消費税額を示す

別表6

過少申告加算税額の計算

file_7.jpg(iiir + FA) : BOE MER O agaRREOR Boho DRE ( ar 4,320, 000) 3,820,000 10057010 100590 5 482, 000 191, 000 623, 000)

別表7

平成10年1月1日から平成10年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分等の経緯

file_8.jpgof ew | emma | BPO |r] mies<ee eemermer | wees eee a |FanaaATa| wow on| econ] ameter] amar reer Eee Fass A208 | 55000] 0.300] arr] oo 0 05 00] 18.70 amas |FaiweAs0n| cocoon] ecoxow] —aeearer| ane mt emer] ate a am aelrauenane = ‘ exnx leavin) ieee] selon] anew] acmim| anmcm| anew] ames] ames waaalranvense = a(注) 「納付すべき税額」欄、「差引納付すべき税額」欄、「譲渡割額」欄及び「差引納付すべき譲渡割額」欄の▲印は還付すべき税額を、「地方消費税の課税標準となる消費税額」欄の▲印は還付対象の課税標準となる消費税額を示す。

別表8

過少申告加算税額の計算

file_9.jpg(Giiutir = FB) mn SOP RMR RO) BORER | aOR HHHKEOR O) Owe () @x@) 4,370, 000, 10059010 487, 000 3,870, 000 10053 5 198, 500 E Ea 620, 500

別表9

平成11年1月1日から平成11年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分等の経緯

file_10.jpgz = aaa | eo | meme [RTS peeve aver ete] name ame | SARI | ees S Fmizwz zen i74,se6,000] 6,088,440 aso7i,s6| _acori,m] _as.ori.soo] aor, oc] Bmw TAS Alemo,c8 000 10,818, 10,19, c00[ 668, 300 3, Ta, 100 26,500] 166,70] s[pmeac[rmizaonzen|i74,c00,00] oes.) 10,005.270| asories| aaon,me| aso a7, 90 a [Rm & e[emienaAaeR * EI 5 [ee m R| miami azen|i,c66 000] 60m, 0] 10,055,276] ado7i,m6] _AaOTL S06] _AnO7L,<06] aor 900] _ATO7, 000 - clea anlemavonnn = EI(注) 「納付すべき税額」欄、「差引納付すべき税額」欄、「譲渡割額」欄及び「差引納付すべき譲渡割額」欄の▲印は還付すべき税額を、「地方消費税の課税標準となる消費税額」欄の▲印は還付対象の課税標準となる消費税額を示す。

別表10

過少申告加算税額の計算

file_11.jpg+f) Et BOE MRRO HeNRBEOM (O) Spee, De (D) ocr | @x@) 4,670,000, 4,170, 000 10054010 Loos 467, 000 208, 5

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